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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】積層装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/18 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B29C43/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020093041
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187026
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】597175673
【氏名又は名称】ニッコー・マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和敏
(72)【発明者】
【氏名】本間 善明
(72)【発明者】
【氏名】山口 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 太平
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-217799(JP,A)
【文献】特開昭59-215299(JP,A)
【文献】特開昭59-191600(JP,A)
【文献】特開昭62-062740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B30B 1/00-15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材およびフィルムを減圧状態で押圧する真空プレス手段と、上記真空プレス手段により押圧された基材およびフィルムをさらに押圧する押圧手段を備えた積層装置であって、
上記押圧手段が、進退可能の第1のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックに対向して配置される第2のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックの内側に取り付けられる第1のプレス板と、上記第2のプレスブロックの内側に取り付けられる第2のプレス板とを備えており、
上記第1のプレス板と第2のプレス板とが互いに対向しており、
上記第1のプレス板の、上記第2のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第2のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されており、上記周縁部以外の部分は水平面に形成されていることを特徴とする積層装置。
【請求項2】
上記押圧手段において、上記第2のプレス板の、上記第1のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第1のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されており、上記周縁部以外の部分は水平面に形成されている請求項1記載の積層装置。
【請求項3】
上記押圧手段において、上記第1のプレス板のテーパ面のテーパ角度θが、0.01~1.5°に設定されている請求項1または2記載の積層装置。
【請求項4】
上記押圧手段において、上記基材上に凸部が配置され、上記凸部が配置された基材と上記フィルムの間に樹脂層が設けられ、上記凸部が配置された基材と上記樹脂層と上記フィルムとが未押圧の状態で重ねられたワークの、上記フィルムの端縁における上記基材に対して垂直な仮想線をVとし、上記第1のプレス板の水平面を側面方向から見た仮想線をUとし、上記仮想線Vと上記第1のプレス板のテーパ面との交点をSとし、上記仮想線Vと上記仮想線Uの交点Rとしたときに、上記交点Sと上記交点Rの垂直距離Qと上記凸部上の樹脂層の厚みPとが、下記の関係にある請求項1~3のいずれか一項に記載の積層装置。
垂直距離Q=樹脂層の厚みP±0.02mm
【請求項5】
基材およびフィルムを押圧する押圧手段を備えた積層装置であって、
上記押圧手段が、進退可能の第1のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックに対向して配置される第2のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックの内側に取り付けられる第1のプレス板と、上記第2のプレスブロックの内側に取り付けられる第2のプレス板とを備えており、
上記第1のプレス板と第2のプレス板とが互いに対向しており、
上記第1のプレス板の、上記第2のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第2のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されており、上記周縁部以外の部分は水平面に形成されており、
上記第2のプレス板の、上記第1のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第1のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されており、上記周縁部以外の部分は水平面に形成されていることを特徴とする積層装置。
【請求項6】
基材およびフィルムを押圧する押圧手段を備えた積層装置であって、
上記押圧手段が、進退可能の第1のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックに対向して配置される第2のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックの内側に取り付けられる第1のプレス板と、上記第2のプレスブロックの内側に取り付けられる第2のプレス板とを備えており、
上記第1のプレス板と第2のプレス板とが互いに対向しており、
上記第1のプレス板の、上記第2のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第2のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されており、上記周縁部以外の部分は水平面に形成されており、
上記基材上に凸部が配置され、上記凸部が配置された基材と上記フィルムの間に樹脂層が設けられ、上記凸部が配置された基材と上記樹脂層と上記フィルムとが未押圧の状態で重ねられたワークの、上記フィルムの端縁における上記基材に対して垂直な仮想線をVとし、上記第1のプレス板の水平面を側面方向から見た仮想線をUとし、上記仮想線Vと上記第1のプレス板のテーパ面との交点をSとし、上記仮想線Vと上記仮想線Uの交点Rとしたときに、上記交点Sと上記交点Rの垂直距離Qと上記凸部上の樹脂層の厚みPとが、下記の関係にあることを特徴とする積層装置。
垂直距離Q=樹脂層の厚みP±0.02mm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材とフィルムとを積層する積層装置に関するものであり、詳細には、基材(例えば、プリント回路基板やウエハ)と樹脂フィルムを積層してなる積層体を製造するに際し、得られる積層体の厚みをより均一にすることができる積層装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配線等によって表面に凹凸が設けられた基材と樹脂からなるフィルムを積層する装置においては、得られた積層体の厚みにばらつきがあると、これらを多層に重ねた際に品質不良の発生や無駄なスペースが生じて嵩高くなるため、得られる積層体の厚みを均一化する様々な工夫がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような工夫の一つとして、基材とフィルムを積層する工程において、フィルムを加熱したプレス板で押圧する際に、フィルム全面をむらなく押圧するため、通常、上記プレス板全面を上記フィルム全面に均一に押し当てることが行われている。
【0004】
しかし、上記工程において、図15(a)に示すように、基材52と樹脂層55とフィルム51(これらが未押圧の状態で重ねられたものを「ワーク53」とすることがある)とを積層するため、プレスブロック(図示せず)の内側に取り付けられるプレス板50の全面をできるだけ均一に、ワーク53表面に押し当てようと強い力で押圧すると、押圧後に得られる積層体56(図15(b)参照)の端部において、フィルム51の下の樹脂層55が押し出されたり、フィルム51自体が切れたりすることがある。より詳しく説明すると、図15(b)[図15(a)において線で囲んだ部分の拡大図]で示すように、フィルム51の端部からその下の樹脂層55が、意図しない位置にまで押し出されてしまい、得られる積層体56の端部において、樹脂層55の厚みが薄くなったり切れてしまったりして染み出す(樹脂染み出し55a)という問題が生じることがある。樹脂層55の厚みが薄くなったり切れたりした部分は、製品として用いることができなくなり、製品(積層体)の歩留まりの低下を招く。このため、その対策が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/199687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、得られる積層体の厚みの均一性を向上させることにより、製品(積層体)の歩留まりの向上を図る積層装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[4]を要旨とする。
[1]基材およびフィルムを押圧する押圧手段を備えた積層装置であって、上記押圧手段が、進退可能の第1のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックに対向して配置される第2のプレスブロックと、上記第1のプレスブロックの内側に取り付けられる第1のプレス板と、上記第2のプレスブロックの内側に取り付けられる第2のプレス板とを備えており、上記第1のプレス板と第2のプレス板とが互いに対向しており、上記第1のプレス板の、上記第2のプレス板に対向する面が、その周縁部において外側にいくほど上記第2のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されている積層装置。
[2]上記第2のプレス板の、上記第1のプレス板に対向する面が、外側にいくほど上記第1のプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成されている[1]記載の積層装置。
[3]上記押圧手段が、上記第1のプレス板を加熱可能な第1の熱盤を備えている[1]または[2]記載の積層装置。
[4]上記押圧手段が、上記第2のプレス板を加熱可能な第2の熱盤を備えている[1]~[3]のいずれかに記載の積層装置。
【0008】
すなわち、本発明の発明者らは、前記課題を解決するために研究を重ねた。その結果、樹脂等からなるフィルムの厚みを均一にするためには、対向して配置される2枚のプレス板の少なくとも一方の周縁部において、その対向面が外側にいくほど対向するプレス板から遠ざかるようにテーパ面に形成することが有用であることを見い出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層装置によれば、押圧(プレス)時において、フィルムおよびこれに封止された樹脂層の少なくとも一方のはみ出しを効果的に防止することができるため、積層体の厚みの均一性を向上させることができる。その結果、製品(積層体)の歩留まりの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層装置の概略を示す構成図である。
図2】上記積層装置の積層対象であるワークの平面図である。
図3図2のX-X断面図である。
図4】上記積層装置のプレス板とワークとの関係を説明する説明図である。
図5】上記プレス板のテーパ面とワークとの関係を説明する説明図である。
図6】(a),(b)は、いずれもプレス板のテーパ角度と積層体との関係を説明する説明図である。
図7】上記プレス板のテーパ面とワークとの関係を説明する説明図である。
図8】本発明の他の実施の形態に係る積層装置の概略を示す構成図である。
図9】本発明のさらに他の実施の形態に係る積層装置の概略を示す構成図である。
図10】(a)は本発明の実施例によって製造された積層体の厚みの測定方法、(b)は比較例によって製造された積層体の厚みの測定方法、を説明する説明図である。
図11】実施例1の端部からの距離と膜厚の関係を示すグラフ図である。
図12】実施例2の端部からの距離と膜厚の関係を示すグラフ図である。
図13】比較例1の端部からの距離と膜厚の関係を示すグラフ図である。
図14】比較例2の端部からの距離と膜厚の関係を示すグラフ図である。
図15】(a)は従来装置による積層体の状態を説明する説明図であり、(b)はその部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る積層装置Iを示している。この積層装置Iは、ビルドアップ基板用の基材と、上記基材の上に配置された各種素子や配線等を封止する樹脂組成物からなる樹脂層と、ラミネート用のフィルムとを積層するための装置であり、進退可能の第1の(下側の)プレスブロック7と、このプレスブロック7に対向して配置される第2の(上側の)プレスブロック6と、上記第1の(下側の)プレスブロック7の内側に取り付けられる第1の(下側の)プレス板2と、上記第2の(上側の)プレスブロック6の内側に取り付けられる第2の(上側の)プレス板1とを備えている。そして、上記プレス板1とプレス板2とが互いに対向しており、これらのプレス板1およびプレス板2の間に、上記基材、樹脂層およびフィルム(ワーク53)を配置し、第2(上側の)熱盤3により加熱された上記プレス板1および第1の(下側の)熱盤4により加熱された上記プレス板2でワーク53を押圧して、基材と樹脂層とフィルムとが一体化した積層体を得るようにしている。
【0013】
この実施の形態では、プレス台12に立設された複数本(図1では、2本しか図示せず)の支柱10と、これら各支柱10にボルト,ナット等の固定手段で固定される上側のプレスブロック6と、上記各支柱10に上下移動可能(進退可能)に取り付けられる下側のプレスブロック7等を備えている。この下側のプレスブロック7は、ボールねじ11を介してサーボモータ5に連結されており、このサーボモータ5の作動により(ボールねじ11におけるシャフト回転に伴うナットの上昇および下降に伴って)上下移動(進退)が可能になっている。したがって、ワーク53を押圧する際には、下側のプレスブロック7が上方向に移動し、プレスブロック6,7が互いに接近するようになっている。
【0014】
まず、この実施の形態の積層装置が対象とするワーク53について説明する。図2に平面図を示し、図3図2のX-X断面図を示すように、ワーク53は、基材52と、この上に配置される凸部54と、封止用の樹脂組成物からなる樹脂層55と、フィルム51とで形成されており、基材52および凸部54の上に、樹脂層55およびフィルム51が重ねられたものである。なお、ワーク53のうち、Wで示す仮想線より内側(図3における矢印の方向)の部分が製品エリアに設定されており、仮想線Wより外側の部分は、最終的に除去される枠部分である。
【0015】
基材52としては、特に限定されるものではないが、樹脂またはセラミック等の絶縁性の基板を用いることができる。すなわち、凸部54として比較的大きな発光素子(LED)等の各種素子を配置できる基材や、凸部54として比較的小さな銅等のパターンを施すことが可能な基材等を用いることが可能である。
【0016】
上記基材52の上に形成される凸部54は、特に限定されるものではないが、例えば、発光素子(LED)、半導体部品、電子部品、銅等のパターン等があげられる。その高さは、通常、0.01~1mmであり、0.01~0.2mmのものが好ましく用いられる。
【0017】
上記樹脂層55は、上記凸部54を光、熱、湿度等の環境から保護するために用いられたり、絶縁性を付与するために用いられたりするものであり、特に限定されるものではないが、耐湿性、耐熱衝撃性、粘着性、絶縁性、ホットメルト性等に優れる熱硬化性樹脂組成物からなるものを用いることができ、例えば、熱硬化性樹脂に、安定剤、硬化剤、色素、滑剤等を配合したものを用いることができる。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等があげられる。
【0018】
そして、フィルム51は、上記樹脂層55の成型に使用する支持材として用いられるものであり、特に限定されるものではないが、上記樹脂層55の保護や上記樹脂層55の積層装置Iへの付着を防止できるものを用いることができ、このようなフィルムとしては、例えば、PETフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム等があげられ、なかでも、耐熱性、絶縁性と価格とのバランスに優れる点からPETフィルムが好ましく用いられる。
なお、上記樹脂層55およびフィルム51は、通常、上記基材52より小さいサイズに形成されている。
【0019】
つぎに、積層装置Iについて説明する(図1参照)。ここで、上側のプレスブロック6および下側のプレスブロック7は基本的な構成が共通するため、上側のプレスブロック6を代表して以下に説明する。
【0020】
上記上側のプレスブロック6に配置されるプレス板1は、押圧(プレス)時にワーク53に当接するものであり、耐熱性を考慮して、通常、金属からなるものが用いられる。このような金属としては、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、これらの合金等があげられ、耐錆性に優れる点からステンレスが好ましく用いられる。また、後述するように、上記プレス板1は周縁部にテーパ面が形成されるため、より厳密にテーパ角度を調整できる点からフレキシブル性を有しない金属板が好ましく用いられる。
【0021】
上記プレス板1のHV硬度は、通常、150以上であり、好ましくは200~1000であり、より好ましくは350~700である。上記HV硬度はビッカーズ硬さともいい、JIS Z 2244に準じて測定することができる。
【0022】
上記プレス板1の厚みは、通常、0.1~10mmであり、好ましくは1~5mmである。上記プレス板1の厚みが好ましい範囲にあると、プレス板1の耐久性が向上するだけでなく、周縁部に形成するテーパの角度が調整しやすくなるため好ましい。また、上記プレス板1の表面が鏡面に研磨されていると、得られる積層体の厚みをより均一にできるため好ましい。
【0023】
そして、上記プレス板1は、図4(プレス板とワークの関係の説明図)に示すように、その周縁部(仮想線Wに対応する位置より外側、Wについては図3を参照)が、対向するプレス板2(図1参照)から遠ざかるようにテーパ面1aに形成されている。この点が本発明の最大の特徴である。なお、図4においては、ワーク53の樹脂層55の表示を省略している。
【0024】
上記テーパ面1aのテーパ角度θは、図4に示すとおり、プレス板1の基材52に水平な面とテーパ面1aとの間の角度であり、通常、0.01~1.5に設定されるが、0.15~1.5であることが好ましく、0.2~0.8であることが特に好ましい。
【0025】
上記テーパ角度θは、図5に示すように、ワーク53のフィルム51の端縁における基材52に対して垂直な仮想線Vにおいて、テーパ面1aとの交点Sと、プレス板1の基材52に水平な面を側面方向(紙面垂直方向)からみた仮想線Uとの交点Rとの垂直距離Qの長さと、基材52の凸部54上における樹脂層55の厚みPの長さに基づいて決定することができ、なかでも垂直距離Qと厚みPとがほぼ同じ長さになるように設定されることが好ましい。
なお、垂直距離Qと厚みPの長さがほぼ同じとは、両者の差が±0.02mm以内であることを意味し、なかでも両者の差が±0.01mm以内であることがより好ましい。また、樹脂層55の厚みは、上記凸部54上においては、通常、それ以外の部分に比べて薄くなる傾向がみられる。
【0026】
すなわち、テーパ面1aのテーパ角度θが上記範囲内であると、図6(a)に示すように、プレス板1およびプレス板2による押圧の際に、ワーク53の周縁部の押圧力が相対的に弱められ、樹脂層55が外側に押し出されることを効果的に抑制することができる。
これに対し、上記テーパ角度θが上記範囲を上回る(傾斜が大きくなる)と、樹脂層55およびフィルム51の種類にもよるが、図6(b)に示すように、樹脂層55が外側に押し出されることは抑制されるものの、その端部が樹脂溜り55bとなり、かえって厚みの均一化が図れない傾向がみられる。
【0027】
なお、上記好ましいテーパ角度θは、樹脂層55およびフィルム51の種類と、プレス板1の温度(熱盤3による加熱温度)によって変動がみられる。すなわち、プレス板1に対する加熱の程度を高くして、樹脂層55の粘度を低くすると、テーパ角度θを減らすことが好ましくなる傾向がみられる。これに対し、プレス板1に対する加熱の程度を低くし、樹脂層55の粘度を高くすると、テーパ角度θを増やすことが好ましくなる傾向がみられる。上記テーパ角度θの増減の範囲は、通常、上記好ましい範囲の±50%である。
【0028】
上記プレスブロック6に配置されるプレス板1は、図1に示すとおり、熱盤3によって加熱されるようになっており、ワーク53への押圧は、通常、加熱状態で行われる。上記積層装置Iは、上記熱盤3に備えられた各熱源に対する加熱制御を行うよう設定された制御システム(図示せず)を有している。上記熱源としては、例えば、カートリッジヒーター、シートヒーター等を用いることができる。
【0029】
すでに述べたとおり、上記プレスブロック6の反対側(対向する側)の下側のプレスブロック7も同様の構成を有している。そして、これらのプレスブロック6,7の内側に取り付けられるプレス板1,2の間で上記ワーク53を加熱状態で押圧することにより、目的とする積層体57を得ることができる。
【0030】
すなわち、上記構成によると、上記プレス板1のテーパ面1aが形成された箇所でワーク53を押圧する力は、テーパ面1aが形成されていない箇所(水平面)での押圧する力に対して相対的に弱くなる。その結果、ワーク53の周縁部において樹脂層55の動きが鈍くなり、この部分がいわばストッパーとなるため、樹脂層55が予期せぬ位置にまで押し出されることを効果的に抑制することができる。したがって、本発明の積層装置は、得られる積層体の厚みをその周縁まで均一にすることができるため、製品(積層体)として使用できる範囲を広くすることができる。
【0031】
上記プレス板1,2によりワーク53を押圧する押圧工程において、ワーク53を押圧する時間は、対象となるワーク53(基材およびフィルム)の種類にもよるが、通常、0.1秒~60分間であり、好ましくは0.5秒~10分間であり、より好ましくは1秒~1分間である。上記押圧時間が上記時間内であると、得られる積層体57の厚みの均一性と製造効率とのバランスに優れるようになる。
【0032】
また、上記押圧工程における押圧は、対象となるワーク53(基材52、樹脂層55およびフィルム51)の種類にもよるが、通常、製造する積層体57の厚みを決定し、この厚みを、押圧終了時のプレスブロック6およびプレスブロック7の間の距離として設定することによって行われる。すなわち、サーボモータ5の回転動作を、上記プレスブロック6,7間の距離情報がフィードバックされることで制御し、予め設定した値(上記距離)になると上記サーボモータ5の回転動作を遅くする、または、停止するようにしている。
【0033】
なお、この実施の形態では、上記プレス板1のテーパ面1aの傾斜は、図4に示すようにワーク53の仮想線Wに対応する箇所から開始されているが、これに限られるものではない。
しかし、図2に示す仮想線Wより内側の製品エリアが中央になるようにフィルム51、基材52、凸部54の重心が重なるようにこれらを配置した場合において、図7(a)に示すように、側面方向から見た際の、仮想線Wからフィルム51の端部51aまでの距離W1が20mmより短い場合には、仮想線Wからテーパ開始箇所Tまでの距離W2が、仮想線Wから(1/3)W1~(2/3)W1離れた箇所にあることが好ましく、(3/8)W1~(5/8)W1離れた箇所にあることがより好ましく、さらに好ましくは(1/2)W1離れた箇所にあることである。
一方、図7(b)に示すように、側面方向から見た際の、仮想線Wからフィルム51の端部までの距離W1が20mm以上である場合には、仮想線Wからテーパ開始箇所Tまでの距離W2が、仮想線Wから5~15mm離れた箇所にあることが好ましく、7~13mm離れた箇所にあることがより好ましく、さらに好ましくは9~11mm離れた箇所にあることであり、一層好ましくは10mm離れた箇所にあることである。
【0034】
また、この実施の形態では、プレス板1,2の両方に、テーパ面(1a)を形成したが、例えば、基材52の片方の面だけに樹脂層55およびフィルム51を積層する場合には、その面に対応する側(積層する側)のプレス板のみに、テーパ面(1a)を形成すればよい。
【0035】
さらに、この実施の形態では、上側のプレスブロック6および下側のプレスブロック7の両方に、それぞれ熱盤3,4が設けられているが、基材のいずれか一方の面にのみフィルム等を積層する場合等であれば、上側のプレスブロック6および下側のプレスブロック7のいずれか一方にのみ熱盤を設け、上側のプレス板1および下側のプレス板2のいずれか一方のみを加熱するようにしてもよい。また、フィルム等の種類によっては熱盤3,4を設けなくてもよい。しかし、加熱の効率および熱盤の温度制御の点から、上下両方のプレスブロックに熱盤を設けることが好ましい。
【0036】
そして、この実施の形態では、上側のプレス板1および下側のプレス板2の形状を、平面視が矩形になるようにしているが、プレス板1,2の形状はこれに限られるものではなく、ワーク53の形状に応じて、例えば、プレス板1,2の形状を、平面視で円形、楕円形、多角形等の形状に設計することができる。
【0037】
また、上側のプレスブロック6に配置される上記プレス板1と、下側のプレスブロック7に配置されるプレス板2の材料、厚み、研磨の度合いは、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0038】
そして、この実施の形態では、上記プレス板1と上記熱盤3とが直接接するようにしているが、上記プレス板1と上記熱盤3との間に、押圧時にかかる圧力を分散等するため、緩衝材を配置してもよい。しかし、上記プレス板1のテーパ面2aのテーパ角度θの精度の向上を図る観点からは、緩衝材を配置しない方が好ましい。
上記緩衝材を配置する場合には、通常、ゴム、プラスチック、布、紙等からなるものが用いられる。なかでも、押圧して得られる積層体57の厚みをより均一にできる点から、ゴムからなるものが好ましく用いられ、とりわけフッ素系ゴムが好ましく用いられる。なお、上記緩衝材は、耐熱性樹脂、ガラス繊維シート、金属箔シート等を内部に含むものであってもよい。また、これらを内部に含んでいると耐久性が高まるため好ましい。
【0039】
上記緩衝材を配置する場合の厚みは、通常、0.1~20mmであり、0.2~10mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~4mmである。緩衝材の厚みが上記の範囲内であると、弾性強度に優れるだけでなく、端部の変形を防止できるため好ましい。また、上記緩衝材の表面のショアA硬度が60度以上であることが好ましい。上記ショアA硬度とは、JIS Z 2246に準拠して測定されるものである。また、上側のプレスブロック6に配置される緩衝材と、下側のプレスブロック7に配置される緩衝材は、同じ材料からなっていてもよいし、互いに異なる材料からなっていてもよい。したがって、これらの緩衝材の厚み、表面のショアA硬度も、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0040】
さらに、この実施の形態では、プレスブロック7の上下移動(進退)をサーボモータ5の作動により行っているが、プレスブロック7の上下移動(進退)は、サーボモータ5の作動により行うものに限られるものではない。例えば、サーボモータ5に代えて、エアシリンダや油圧シリンダ等を用いても行うことができる。ただし、積層体57の厚みをより厳密に制御できる点において、サーボモータ5を用いることが好ましい。
【0041】
また、この実施の形態では、下側のプレスブロック7を上下移動(進退)させているが、サーボモータ等の位置を変更し、上側のプレスブロック6を上下移動(進退)させるようにしてもよいし、プレスブロック6,7の両方を上下移動(進退)させるようにしてもよい。しかし、積層体57の厚みをより厳密に制御できる点において、いずれか一方のプレスブロックのみを上下移動(進退)させることが好ましい。
【0042】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、押圧手段のみが設けられた積層装置Iを示しているが、本発明の積層装置は、例えば、図8に示すように、ワーク53を押圧手段までフィルム搬送するフィルム搬送手段を設けた積層装置IIとしてもよい。
【0043】
上記フィルム搬送手段は、例えば、積層工程の始点に位置する上下の搬送用フィルム繰り出し機20と、ワーク53を搬入するための搬入用コンベア部21と、積層工程の終点に位置する搬送用フィルム巻取り機22と、ワーク53および積層体57を搬送する搬送用フィルム23等を備えている。
【0044】
上記搬入用コンベア部21から供給されるワーク53は、搬送用フィルム繰り出し機20から繰り出された上下の搬送用フィルム23の間に挟み込まれ、保持される。そして、ワーク53は、搬送用フィルム23の走行と同期した状態で、押圧手段により搬送用フィルム23ごと押圧されて積層体57となり、搬送用フィルム23による保持が解除されて取り出される。なお、図8の符号24は、上記積層体57を冷却するための冷却ファンである。
【0045】
このように、本発明の他の実施の形態である積層装置IIでは、所定の間隔で連続的に押圧手段にワーク53を供給することができるため、効率よく積層体57を製造することができる。
【0046】
[さらに他の実施の形態]
また、本発明の積層装置は、例えば、図9に示すように、押圧手段の上流に、さらに真空プレス手段を設けた積層装置IIIとしてもよい。
【0047】
上記真空プレス手段は、例えば、プレス台25に立設された複数の支柱26と、これらの支柱26に固定された上側のプレスブロック27と、上記支柱26に上下移動可能(進退可能)に取り付けられた下側のプレスブロック28とを備えている。この下側のプレスブロック28は、ボールねじ36を介してサーボモータ35に連結されており、このサーボモータ35の作動により(ボールねじ36におけるシャフト回転に伴うナットの上昇および下降に伴って)上下移動(進退)が可能になっている。
【0048】
そして、上下のプレスブロック27,28の内側(プレス側)には、断熱材(図示せず)を介して、ヒーターを内蔵する熱源29,30が取り付けられており、さらに内側(プレス側)には、耐熱性ゴム等からなる弾性プレス板31,32が取り付けられている。上下のプレスブロック27,28には、これらと一体となることが可能な真空枠33,34が配設されており、下側のプレスブロック28が所定の位置まで上昇すると、これらのプレスブロック27,28の間に密閉空間が形成される。この密閉空間内は減圧可能になっており、この密閉空間内でワーク53を減圧状態で加熱および加圧することができるようになっている。
【0049】
このように、本発明のさらに他の実施の形態である積層装置IIIでは、押圧手段によるワーク53の押圧に先立ち、真空プレス手段によりワーク53を真空プレスするため、基材の凹凸にフィルムをより確実に沿わせることができる。そして、基材の凹凸にフィルムが確実に沿った状態のワーク53を上記押圧手段により押圧するため、ボイドの発生が効果的に防止されるだけでなく、より均一な厚みの積層体57を製造することができる。
【実施例
【0050】
本発明の積層装置を用いた実施例を比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
図1に示す積層装置Iによって、下記のワーク53(基材52と樹脂層55とフィルム51)の積層を行った。上下の両熱盤3,4の温度を140℃に設定し、上下プレス板1,2間の距離を0.506mmに設定してワーク53に対し40秒間押圧(プレス)を行い、目的とする積層体57を得た。
なお、この積層装置Iにおいて、上記上下プレス板1,2の大きさは、厚みが2mm、縦640mm×横720mmであり、図7(a)の仮想線Wからフィルム51の端部51aまでの距離W1が6mmであり、上記上下プレス板1,2のテーパ開始箇所Tは仮想線Wから3mmの位置に設けられている(すなわち、距離W2が3mmである。)
また、上記プレス板1のテーパ面1aのテーパ角度θは0.344°である。上記テーパ角度θは、ワーク53のフィルム51の端縁における基材52に対して垂直な仮想線Vにおいて、垂直距離Qの長さと、凸部54上の樹脂層55の厚みPの長さとがいずれも18μmであることにより決定されたものである(図5参照)。なお、上記プレス板2のテーパ面も、上記テーパ面1aと同様のテーパ角度θに形成されている。
<基材52>
縦510mm、横515mm、厚み400μmの銅張積層板(Copper Clad Laminate)に、高さ18μmの銅でパターンを形成し、凸部54を設けたプリント基板。
<樹脂層55>
縦484mm、横489mm、厚み27.5μmのエポキシ系樹脂組成物からなる封止樹脂。
<フィルム51>
縦484mm、横489mm、厚み38μmのPETからなるフィルム。
【0052】
[実施例2]
上記実施例1のテーパ面1aのテーパ角度θを0.191°とした。このテーパ角度θは、仮想線Vにおいて、上記垂直距離Qの長さと、凸部54上の樹脂層55の厚みPの長さとがいずれも10μmであることにより決定されたものである。
すなわち、基材52において高さ10μmの銅でパターンを形成して凸部54を設け、樹脂層55を厚み22.5μmのものに変更した以外は、実施例1と同様のワーク53を用い、実施例1と同条件にてプレスを行い、目的とする積層体57を得た。
【0053】
[比較例1]
プレス板1,2にテーパ面を形成しなかったものを用いた以外は、実施例1と同様の装置およびワーク53を用い、同条件にてプレスを行って、目的とする積層体56を得た。すなわち、この装置は図15(a),(b)に示す従来例である。
【0054】
[比較例2]
プレス板1,2にテーパ面を形成しなかったものを用いた以外は、実施例2と同様の装置およびワーク53を用い、同条件にてプレスを行って、目的とする積層体56を得た。すなわち、この装置は図15(a),(b)に示す従来例である。
【0055】
上記実施例1,2および比較例1,2で得られた積層体について、実施例1,2については図10(a)に示すように、比較例1,2については図10(b)に示すように、その厚みFを、フィルム51の端部を0として内側(図で矢印で示す方向)に向かって渦電流式膜厚計を用いて測定した。測定した結果を図11(実施例1)、図12(実施例2)、図13(比較例1)および図14(比較例2)に示す。
なお、図10(a)は実施例1,2を模式的に示したものであり、図10(b)は比較例1,2を模式的に示したものである。
【0056】
その結果、実施例1,2の積層体57では、厚み方向の変化がほとんど見られなかったのに対し、比較例1,2の積層体56では、フィルム51の端部(図で端部からの距離が0)であるほど厚みが薄くなり、特に、樹脂層55の厚みが厚いほどその傾向が顕著になることがわかった。したがって、本発明の積層装置は、得られる積層体の厚みをその縁部の間際まで均一にすることができ、製品の歩留まりを高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の積層装置は、得られる積層体の厚みの均一性を向上させることができ、その結果、製品(積層体)の歩留まりの向上を図ることができるため、ビルドアップ基板、LED等の発光素子を実装した基板等の、仕上りの厚みの制御が求められる製品(積層体)の製造に適する。
【符号の説明】
【0058】
1 プレス板
2 プレス板
6 プレスブロック
7 プレスブロック
1a テーパ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15