(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】鍛造ロールベースのヒートパイプロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/08 20060101AFI20220107BHJP
B21B 27/00 20060101ALI20220107BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220107BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B21B27/08
B21B27/00 A
B21B27/00 C
C22C38/00 301L
C22C38/00 302E
C22C38/44
(21)【出願番号】P 2020096556
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0085415
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】宋 吉 鎬
(72)【発明者】
【氏名】鄭 昌 規
(72)【発明者】
【氏名】任 時 雨
(72)【発明者】
【氏名】鄭 泰 基
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084671(KR,A)
【文献】特表2016-501133(JP,A)
【文献】特開平02-263507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00,27/06-27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部において軸受に連結されるネック部と、
前記ネック部の間を通過する板材を圧延し、所定の深さに円周方向に沿って複数の挿入孔が形成された圧延部と、
前記圧延部内部の前記挿入孔に挿入され、ロールの軸方向に延長されたヒートパイプと、を含むヒートパイプロールであって、
前記ヒートパイプロールは、重量%で、
C:0.8~1.0%、Si:0.8~1.2%、Mn:0.8~1.2%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Ni:0.6~1.0%、Cr3.0~6.0%、Mo:0.3~0.7%、残部Fe及び不可避不純物を含んで組成される鍛造ロールであり、前記ヒートパイプの表面には、熱伝導性のある導電性材料がコーティングされている、鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項2】
前記ネック部と前記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部をさらに含み、傾斜面の前記ジャーナル部に前記挿入孔が形成され、前記ヒートパイプが内蔵される、請求項1に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項3】
前記ヒートパイプは、ロール軸方向の一側から中央部に延長する複数の第1ヒートパイプと、前記一側の反対方向から中央部に延長する複数の第2ヒートパイプと、を含み、前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプはロールの円周方向に沿って交互に配置される、請求項1又は2に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項4】
前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプはロールの長さ方向中央部において互いに交差する、請求項3に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項5】
前記導電性材料はNiである、請求項1から4のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項6】
前記鍛造ロールは、廃棄径に到達した熱延BUR(Backup Roll)又はWR(Work Roll)をリサイクルしたものである、請求項1から5のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項7】
前記挿入孔の直径と前記ヒートパイプの直径の間の差を100μm以下に管理する、請求項1から6のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項8】
前記鍛造ロールベースのヒートパイプロールの初期クラウン量を
±0.05mm未満
の範囲に管理する、請求項1から7のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロール。
【請求項9】
重量%で、
C:0.8~1.0%、Si:0.8~1.2%、Mn:0.8~1.2%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Ni:0.6~1.0%、Cr3.0~6.0%、Mo:0.3~0.7%、残部がFe及び不可避不純物を含んで組成され、端部において軸受に連結されるネック部、前記ネック部の間を通過する板材を圧延する圧延部、前記ネック部と前記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部を含む鍛造ロールを設ける段階と、
前記ジャーナル部から円周方向に所定の深さの位置に複数の挿入孔を形成する段階と、
表面に導電性材料がコーティングされたヒートパイプを、真空ポンプを用いて前記挿入孔内に挿入する段階と、を含む、鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項10】
前記ヒートパイプは、ロール軸方向の一側から中央部に延長する複数の第1ヒートパイプと、前記一側の反対方向から中央部に延長する複数の第2ヒートパイプと、を含み、前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプは、ロールの円周方向に沿って交互に配置される、請求項
9に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項11】
前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプは、ロールの長さ方向中央部において互いに交差する、請求項
10に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項12】
前記導電性材料はNiである、請求項
9から
11のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項13】
前記鍛造ロールの内部への前記ヒートパイプの挿入後、前記ヒートパイプの膨張のための拡管熱処理を行わない、請求項
9から
12のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項14】
前記挿入孔の直径と前記ヒートパイプの直径の間の差を100μm以下に管理する、請求項
9から
13のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【請求項15】
前記鍛造ロールの初期クラウン量を
±0.05mm未満
の範囲に管理する、請求項
9から
14のいずれか1項に記載の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造ロールベースのヒートパイプロール及びその製造方法に関し、具体的には、熱延スキンパス工程における高強度鋼及びギガスチールの形状矯正能力を向上させるために、ストリップの温度を常温ではなく温間状態(80~200℃)で圧延作業するにあたり、ロールの熱クラウン成長なしに連続作業を可能にする鍛造ロールベースのヒートパイプロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業における環境規制及び衝突特性の向上に対応するために、鋼板は引き続き高強度化する傾向である。そして、鋼板が高強度化するにつれて、熱延板の形状が悪くなり、これを矯正するための熱延SPM(Skin Pass Mill)工程に負荷がかかっている。ところが、かかる高強度鋼には、素材の降伏強度が高く、形状矯正を行うSPM工程を経ても、ほとんど延伸されず形状矯正が円滑に行われないという問題がある。
【0003】
これを克服するための方法として、鋼ストリップの温度を上げてSPM作業をする。ところが、別のロール冷却手段なしに温間作業をすると、ワークロール(work roll)がストリップからの熱を受けて熱クラウンが大きく形成され、逆に板の中央部に制御不可能なウェーブ(wave)を激しく発生させ、製品としての価値が低下する。一方、熱延SPMの過程において板の表面に形成されていたスケールが多く脱落し、周囲に存在するようになる。この際、ロール冷却をするために冷却水を用いると、スケールが飛散し、2次的な表面欠陥を誘発するため、冷却水を用いることは好ましくない。
【0004】
このような環境下での高強度鋼及びギガスチールの形状矯正のために、従来は80℃程度の高強度鋼を4~5コイル圧延した後、ロールを冷却するために、常温で一般の鋼を8~10コイル圧延する過程を繰り返す作業を行っている。しかし、このような方法では、ストリップの温度が比較的低く、形状矯正の限界があるだけでなく、ヤードで待機していたコイルの温度が低下するため、多くのコイルを温間圧延しにくい問題がある。
【0005】
これに対する解決策として、80~200℃の鋼ストリップを圧延枚数に関係なく連続的に圧延してもロールバレル方向における温度分布を均一にし、結果として、ロールの熱クラウンの発生を抑制することができるヒートパイプロールの製造技術が開発されている。現在、熱延訂正SPMにおいて用いられるロールは、遠心鋳造ロール、すなわち、ロールのコア部は、ねずみ鋳鉄又は球状黒鉛鋳鉄であり、シェル(shell)層は、Hi-Crで構成されるロールを用いている。しかし、ヒートパイプ(Heat pipe)ロールの製作のために、ロールに孔(hole)を加工する部位が降伏強度の低いコア部である関係により、ロールの使用による研磨が進行し、ロール表面と孔の距離が小さくなると、圧延における孔に作用する応力が大きくなってクラックが発生するようになる。
【0006】
この問題を改善させるために、遠心鋳造ロールの代わりに、SCM440棒をコア(core)部として使用し、HSS(High Strength Steel)材質のシェル層を鋳造として製造するCPC(Continuous Pouring Process for Cladding)ロールを用いてヒートパイプロールを作製する技術が開発されている。しかし、CPCロールのコア部に該当するSCM440は、遠心鋳造ロールのコア部に該当するねずみ鋳鉄に比べて機械的特性には優れているが、ロールの価格が高価であり、輸入しなければならないという問題があるため、拡大適用には限界があるのが実情である。そこで、より多くのヒートパイプロールを拡大適用して高強度鋼及びギガスチールの形状矯正をするために、CPCロールに対する機械的特性がさらに優れ、安価な鍛造ロールベースのヒートパイプロールを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0080931号公報
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのものであり、熱延訂正2段SPMだけでなく、4段SPM圧延にも適用されて、高強度鋼及びギガスチールの形状矯正能力を最大限にすることで、実収率の向上を図ることができるヒートパイプロール及びその製造方法を提供することである。
【0009】
また、本発明で解決しようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されず、言及していないさらに他の技術的課題は、後述する記載により本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、両端部において軸受に連結されるネック部と、上記ネック部の間を通過する板材を圧延し、所定の深さに円周方向に沿って複数の挿入孔が形成された圧延部と、上記圧延部内部の上記挿入孔に挿入され、ロールの軸方向に延長されたヒートパイプとを含むヒートパイプロールであって、上記ヒートパイプロールは、重量%で、3.0~6.0%Crを含む鍛造ロールであり、上記ヒートパイプの表面には、熱伝導性のある導電性材料がコーティングされている、鍛造ロールベースのヒートパイプロールに関する。
【0011】
上記ネック部と上記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部をさらに含み、傾斜面の上記ジャーナル部に上記挿入孔が形成され、上記ヒートパイプが内蔵されることができる。
【0012】
上記ヒートパイプは、ロール軸方向の一側から中央部に延長する複数の第1ヒートパイプと、上記一側の反対方向から中央部に延長する複数の第2ヒートパイプと、を含み、上記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプはロールの円周方向に沿って交互に配置されることができる。
【0013】
上記第1ヒートパイプ及び上記第2ヒートパイプはロールの長さ方向中央部において互いに交差することができる。
【0014】
上記導電性材料はNiであることができる。
【0015】
また、本発明は、重量%で、3.0~6.0%Crを含んで組成され、端部において軸受に連結されるネック部、上記ネック部の間を通過する板材を圧延する圧延部、及び上記ネック部と上記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部を含む鍛造ロールを設ける段階と、上記ジャーナル部から円周方向に所定の深さの位置に複数の挿入孔を形成する段階と、表面に導電性材料がコーティングされたヒートパイプを真空ポンプを用いて上記挿入孔内に挿入する段階と、を含む鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法に関する。
【0016】
上記ヒートパイプは、ロール軸方向の一側から中央部に延長する複数の第1ヒートパイプと、上記一側の反対方向から中央部に延長する複数の第2ヒートパイプと、を含み、上記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプはロールの円周方向に沿って交互に配置されることができる。
【0017】
上記第1ヒートパイプ及び上記第2ヒートパイプはロールの長さ方向中央部において互いに交差することができる。
【0018】
上記導電性材料はNiであることができる。
【0019】
上記ヒートパイプの挿入後に、ヒートパイプの膨張のための加熱処理を行わなくてもよい。
【発明の効果】
【0020】
上記のような構成の本発明は、熱延訂正2段SPM又は4段SPM工程において、性能をさらに向上させた鍛造ロールベースのヒートパイプロールを用いることにより、高付加価値鋼、すなわち、高炭素鋼、方向性電気鋼板、高強度鋼、及びギガスチールの形状矯正能力を最大限にして形状不良の要因を最小限に抑えることで、高付加価値鋼の実収率を向上させることができる。
【0021】
また、従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロールに比べて寿命を2倍以上増加させることができ、高価なヒートパイプロールの製造コストを半分以下に減少させることができる。
【0022】
さらに、常温ではなく高温におけるSPM処理を可能にすることにより、熱延コイルの冷却のために3~5日程度ヤードで待機する時間を大幅に減らすことで、納期短縮の効果に加え、不足する訂正ヤードスペースの効率的活用が可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のヒートパイプロールを含む高強度鋼形状矯正装置の概略図である。
【
図2】本発明のヒートパイプロールの正面図である。
【
図4】本発明のロールの円周方向に挿入配置されたヒートパイプの配置概念図である。
【
図5】(a)はヒートパイプの縦断面図であり、(b)はヒートパイプの断面図である。
【
図6】従来の遠心鋳造ロールベースのヒートパイプロールの表面に発生したクラックを示す写真である。
【
図7】本発明のヒートパイプロールを製作するために、ロールの内部に挿入孔を加工した状態を示す正面図である。
【
図8】真空ポンプを用いたヒートパイプをロール内部に挿入する過程を示す写真である。
【
図9】本発明のヒートパイプの端部を示す部分斜視図である。
【
図10】本発明の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造条件別のロールバレル方向における温度分布を示すグラフである。
【
図11】本発明の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造条件別のロールの熱クラウン量を示すグラフである。
【
図12】従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロール及び鍛造ロールベースのヒートパイプロールに対して安全性検討を行うための応力解析のためのモデリングを示す図である。
【
図14】
図12の応力解析結果に基づいた安定性評価結果を示す図である。
【
図15】従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロールと鍛造ロールベースの本発明のヒートパイプロールの疲労寿命を比較解析するためのモデリングを示す図である。
【
図16】
図15のワークロールが1回転する際の計算応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0025】
図1はヒートパイプロール100を含む高強度鋼形状矯正装置の概略図である。
【0026】
図1に示すように、熱延工程のコイラー3で巻き取られたコイルは、第1移送段階によって温度調節段階20、すなわち、ヤードに置かれるようになる。温度調節段階20で巻き取られたコイルは、温度が継続的に測定され、所定の温度、例えば、150℃以上の温度を有する状態で形状矯正ラインに第2移送段階によって移送される。
【0027】
形状矯正ラインでは、複数のペイオフリール30a、30bに複数のコイルをかけてコイルを順に解く。ペイオフリール30a、30bを介してコイルから解かれたストリップは、スキンパスミル40によって形状矯正され、その後、コイラー35によって再び巻き取られる。
【0028】
この際、スキンパスミル40は、ヒートパイプロール100を用いてストリップの形状を矯正するようになる。ここで、ヒートパイプロール100を用いることにより、例えば、150℃以上のストリップがヒートパイプロール100に進入しても、熱クラウンが一定に維持されることができ、150℃以上の温度で高強度鋼ストリップが提供されるため、形状矯正も円滑に行われることができる。
【0029】
本発明のヒートパイプロールは、上述した熱延訂正SPMラインに一般的に適用することができる鍛造ロールベースのヒートパイプロール100である。そして、
図2及び
図3に示すように、本発明の鍛造ロールベースのヒートパイプロール100は、両端部において軸受に連結されるネック部103と、上記ネック部の間を通過する板材を圧延し、所定の深さに円周方向に沿って複数の挿入孔が形成された圧延部102と、上記圧延部の内部の上記挿入孔に挿入され、ロールの軸方向に延長されたヒートパイプ110とを含んで構成される。
【0030】
具体的には、本発明のヒートパイプロール100は、一般の形状矯正圧延ロールと類似するが、圧延部102とネック部103の間のジャーナル部104にヒートパイプ110が内蔵される点から互いに異なる。
【0031】
好ましくは、
図4に示すように、上記ヒートパイプ110は、ロール軸方向の一側から中央部に延長する複数の第1ヒートパイプ113と、上記一側の反対方向から中央部に延長する複数の第2ヒートパイプ115と、を含み、上記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプは、ロールの円周方向に沿って交互に配置されるようする。
【0032】
より好ましくは、上記第1ヒートパイプ113及び上記第2ヒートパイプ115はロールの長さ方向中央部において互いに交差するようにする。
【0033】
図5(a)はヒートパイプの縦断面図であり、
図5(b)はヒートパイプの断面図である。
【0034】
本発明において、ヒートパイプロール100は、ワークロールにヒートパイプ110が内蔵されたロールを意味する。
図5(a)及び(b)に示すように、ヒートパイプ110は、内部が真空に形成されたパイプ111に溝112が形成され、上記溝に純水が充填される。ヒートパイプ110は、加熱部で熱を受けると、純水が熱によって蒸発し、中央部113aに水蒸気が充填されるようになる。このように中央部113aに形成された水蒸気により、中央部113aの圧力が高くなり、水蒸気が圧力の低い両側に移動し、側面部113bで冷却されて再び純水に戻るようになる。一方、中央部113aにおいて溝112にあった純水が熱によって蒸発すると、溝112の毛細管現象により側面部113bの純水が再び中央部113aに移動するようになる。
【0035】
このように、中央部113aでは蒸発が起こり、側面113bでは凝縮が起こる。また、中央部113aから側面部113bには水蒸気、側面113bから中央部113aには純水が移動する。これにより、ヒートパイプ110は、内部の循環により、加熱部における熱を均一に分散する役割を果たす。
【0036】
また、本発明のヒートパイプロール100は、鍛造ヒートパイプロールであって、従来のヒートパイプロールの遠心鋳造ロール及びCPCヒートパイプロールとは区別される。
【0037】
本発明のヒートパイプロール100としては、従来の遠心鋳造ロール又はCPCロールの代わりに、3~6%Crを含む鍛造ロールを用いる。好ましくは、上記鍛造ロールは、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.8~1.2%、Mn:0.8~1.2%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Ni:0.6~1.0%、Cr:3.0~6.0%、Mo:0.3~0.7%、残部Fe及び不可避不純物を含んで組成されることができる。
【0038】
【0039】
上記表1に示すように、5%Crの鍛造ロールの場合には、遠心鋳造ロール又はCPCロールに対して降伏強度及び疲労強度が格段に優れ、耐クラック(crack)発生を示し、CPCロールに比べて安価であり、輸入する必要がないという利点を有する。
【0040】
図6は遠心鋳造ロールベースのヒートパイプロールの表面にクラックCが発生した場合を示す写真である。クラックCは、一般的なロール寿命の1/2の使用時点において発生しており、高価なヒートパイプロールを廃棄しているのが実情である。
【0041】
一方、本発明の鍛造ロールの場合には、メーカーから供給を受けたり、又は熱延粗圧延に用いられ、廃棄径に到達して廃棄処分の状態にあるBUR(Backup Roll)又はWR(Work Roll)をリサイクルして用いることができるという利点がある。BUR又はWRをリサイクルするためには、先ず加工しやすい状態にすべくアニール熱処理をして荒削加工を介して熱延粗圧延で用いたロールを熱延訂正SPMロールのサイズに変更する。その後、再び焼入れ焼戻し(Quenching-Tempering)熱処理、中削加工、低周波熱処理、及び精削加工を介して最終の熱延SPM用のWRに完成する。
【0042】
一方、従来の遠心鋳造ロールなどの場合にも、ヒートパイプをロールに加工された挿入孔に挿入すると、一般のヒートパイプとロールに加工された挿入孔の間に隙間が存在するようになる。このように隙間が存在するようになると、ヒートパイプの熱伝達性能が低下するため、この隙間を除去する必要がある。従来は、ロールの温度を高めてヒートパイプを膨張させる方法を用いている。具体的には、従来では、ヒートパイプが挿入されたヒートパイプロールを、最大昇温温度285℃、昇温速度8.5℃/時間を維持し、内蔵されたヒートパイプを膨張させることで、ロールに加工された孔とヒートパイプの間の隙間を除去している。
【0043】
これに対し、本発明の鍛造ロールの場合には、上記のようなヒートパイプロールに対する拡管熱処理を行うことが好ましくない。なぜなら、従来の遠心鋳造ロール及びCPCロールは、ロールの最終製造過程における焼戻し(tempering)熱処理温度が300℃以上であるのに対し、本発明の鍛造ロールの場合には、表面硬度を確保するために、200℃以下で焼戻し熱処理を行うためである。すなわち、本発明の鍛造ロールの場合にも、ヒートパイプロールの製造過程においてロールに加工された孔とヒートパイプの間の間隔をなくすためにヒートパイプロールを285℃まで昇温させると、最終焼戻し熱処理温度が200℃以下であることから、表面硬度が弱くなり、ロール自体が有する機械的特性が低下するためである。
【0044】
そのため、本発明の鍛造ロールの場合には、ヒートパイプを挿入するために、ロールに加工する挿入孔のサイズを従来の遠心鋳造ロールなどに比べて減少させる必要がある。
【0045】
好ましくは、挿入孔の直径とヒートパイプの直径の間の差を100μm以下に管理する。より好ましくは、上記直径間の差を50μm以下、一層好ましくは、5~50μmの範囲に管理する。
【0046】
併せて、本発明のヒートパイプロールに挿入されるヒートパイプの表面には、導電性材料をコーティング(めっき)することが好ましい。この際、形成されためっき層は、上述した挿入孔と挿入されたヒートパイプの間の隙間を調節する役割を果たす。具体的には、その隙間が大きい場合には導電性物質を厚くコーティングし、その間隔が小さい場合には薄くコーティングする。また、熱伝導性に優れるため、ロールに集積された熱をヒートパイプを介して外部に効果的に排出させる役割を果たす。
【0047】
本発明において、上記導電性材料をコーティングする具体的な方法は、特に限定されず、電気めっきなど、様々な方法を用いることができる。
【0048】
また、導電性材料として熱伝導性のある金属材料を用いることができ、例えば、Niを導電性材料として用いることができる。
【0049】
次に、本発明のヒートパイプが内蔵された鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法について説明する。
【0050】
本発明による鍛造ロールベースのヒートパイプロールの製造方法は、重量%で、3.0~6.0%Crを含んで組成され、端部において軸受に連結されるネック部、上記ネック部の間を通過する板材を圧延する圧延部、及び上記ネック部と上記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部を含む鍛造ロールを設ける段階と、上記ジャーナル部から円周方向に所定の深さの位置に複数の挿入孔を形成する段階と、表面に導電性材料がコーティングされたヒートパイプを、真空ポンプを用いて上記挿入孔内に挿入する段階と、を含む。
【0051】
先ず、本発明では、重量%で、3.0~6.0%Crを含む鍛造ロールを製造する。かかる鍛造ロールは、公知となっている鍛造工法を用いて製造されることができ、端部において軸受に連結されるネック部と、上記ネック部の間を通過する板材を圧延する圧延部と、上記ネック部と上記圧延部の間において傾斜面として形成されたジャーナル部と、を含んで構成される。
【0052】
本発明では、このような鍛造ロールを直接製造することもできるが、熱延粗圧延で用いられ、廃棄径に到達して廃棄処分の状態にあるBUR(Backup Roll)又はWR(Work Roll)をリサイクルして用いることができる。
【0053】
次に、本発明では、
図7のように、上記ジャーナル部から円周方向に所定の深さの位置に複数の挿入孔105、106を形成する。本発明では、このような挿入孔を形成する具体的な方法は特に限定されない。
【0054】
かかる挿入孔の加工方法として、第1に、ロールの一方からガンドリルを用いてロールの反対側まで貫通するように加工する方法、第2に、ロールをバレル方向に2等分し、ロールの各側面からそれぞれのロールバレルの1/2ずつを加工する方法、第3に、ロールをバレル方向に2等分し、それぞれの各側面から1/2ずつを加工し、且つ
図4のように、両側から加工した孔の先端が中央部において接するように加工せず、互いに一定量だけ重なるように加工する方法を挙げることができる。ロールは繰り返し荷重を受けると、その部分でクラックが生成され、ロールが破断する可能性があるため、両側から加工した挿入孔の先端が正確にロール中央で接することなく少しずれる第3の方法には、事故を防ぐことができるという利点がある。
【0055】
次に、上記形成された挿入孔105、106の表面に導電性材料がコーティングされたヒートパイプ110a、110bを、真空ポンプを用いて上記挿入孔内に挿入する。
【0056】
上述のように、従来の遠心鋳造ロール及びCPCロールは285℃まで昇温させ、ロール内部に内蔵されたヒートパイプを膨張させて挿入孔とヒートパイプの間の隙間を除去したが、本発明の場合には、鍛造ロールであって、上述した高温熱処理を行うことが好ましくない。すなわち、本発明は、従来技術とは異なり、上記ヒートパイプ110a、110bの挿入後に、ヒートパイプの膨張のための拡管熱処理を行わないことが好ましい。
【0057】
本発明では、ヒートパイプロールとして鍛造ロールを用いることから、上述した挿入孔とヒートパイプの間の隙間を減らすために、挿入孔の直径を減らし、ヒートパイプに導電性材料(Ni)をコーティングする方法を提案する。但し、この方法には、孔とヒートパイプの間の隙間が減り、挿入孔内部の空気抵抗によってヒートパイプを挿入孔に挿入することが難しくなるという問題がある。
【0058】
そのため、これを解決するために、本発明では、
図8に示すように、真空ポンプ16を用いて加工された孔の内部の空気を外部に放出させてヒートパイプを挿入する方法を提供する。すなわち、導電性材料がめっきされたヒートパイプ210と、ヒートパイプロールの挿入孔と接触してヒートパイプ210を案内するように構成されるガイド用の吹口230と、上記ガイド用の吹口230を介して上記ヒートパイプ210を挿入孔に挿入できるように、上記挿入孔内部の空気を放出させる真空ポンプ250と、を含む挿入装置を用いることで、上述した隙間が小さい場合でも、ヒートパイプを挿入孔の内部に効果的に挿入することができる。
図8における図面符号270は、その内部に挿入孔を有する構造を有する収容部材であって、挿入孔をヒートパイプロールを模写して示すものである。
【0059】
そして、ヒートパイプ表面の導電性材料の厚さは、上述した作業を繰り返しながら挿入可能な厚さを最終的に決定したものである。
【0060】
図9に示すように、上記ヒートパイプ110は、ヒートパイプ110の端部を塞ぐように挿入孔105、106に挿入されるストッパー108を含み、挿入孔105、106とヒートパイプ110の隙間の空気を放出できるように、上記ストッパー108には孔109が形成される。
【0061】
一方、上記のように、挿入孔とヒートパイプの間の隙間を減らし、ロール中央部におけるヒートパイプの重なり長さを増加させ、ヒートパイプの表面に導電性材料を一定の厚さにコーティングした後、真空ポンプを用いてヒートパイプを挿入することにより、鍛造ロールベースのヒートパイプロールを製作することができる。その後、ヒートパイプロールの性能を確認するために、オフライン状態でロール中央部を表面基準100℃まで加熱した後、ロールバレル方向の温度分布及び熱クラウン量を測定することができる。
【0062】
上述のように、本発明において、挿入孔とヒートパイプの間の隙間を最小限に抑えたが、ヒートパイプロールを加熱炉で285℃まで昇温した後、拡管熱処理する従来技術に比べて挿入孔とヒートパイプの間には若干の隙間が引き続き残るようになる。
【0063】
したがって、本発明では、従来技術に比べてロールバレル方向の温度差及び熱クラウン量が若干高いため、これに備えて、最終的にロールの初期クラウン量を従来技術に比べて若干小さくすることが好ましい。例えば、従来技術ではヒートパイプロールの初期クラウン量が5/100mmであるのに対し、本発明の鍛造ロールベースのヒートパイプロールの場合には、熱クラウン量がさらに多く形成されることを考慮して初期クラウン量を5/100mm未満に管理することが好ましく、3/100mm以下に低く管理することがより好ましい。この値は、本発明の鍛造ロールベースのヒートパイプロールを対象とするオフラインテストの結果によって得られる熱クラウン量により、最終的に決定されることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
【0065】
(実施例1)
図10及び
図11は、5%Cr材質の鍛造ロールに基づいて製作されたヒートパイプロールの中央部をロール表面基準100℃まで加熱した後、ヒートパイプの挿入がない場合(No HP)、ヒートパイプをNiめっきなしで挿入した場合(bare HP)、ヒートパイプにNiめっきを施した後、挿入した場合(Ni HP)、そして、従来の拡管熱処理したヒートパイプロール(EX HP)とのロールバレル方向の温度分布及び熱クラウン量をそれぞれ測定して示すグラフである。
【0066】
図10及び
図11に示すように、従来の拡管熱処理したヒートパイプロールの場合には、ロールバレル方向の中央部とエッジ部の温度差が1.6℃であるのに対し、ヒートパイプにNiめっきを施した場合には、ロールバレル方向の中央部とエッジ部の温度差が4.7℃を示した。この差異は、孔の直径減少、重なり長さの増加、及びロールの初期クラウン量の減少などを介して、さらに減少させることができると判断される。また、熱クラウン量の場合には、従来の拡管熱処理したヒートパイプロールの場合には2μm程度であるのに対し、ヒートパイプにNiめっきを施した場合には約5μm程度と、これも追加の提案技術の適用時に、その差異を減少させることができると判断される。
【0067】
(実施例2)
従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロール及び鍛造ロールベースのヒートパイプロールを対象に安全性検討を行った。
図12には応力解析のためのモデリング、
図13には応力解析結果、そして、
図14には安定性の評価結果を示した。
【0068】
ロールの直径630mm、孔の直径16.5mm、孔の数42個、ロール表面から孔の中心線までの距離91mmである場合を対象に、圧延荷重1000トン作用の際における孔の周囲の応力を計算し、その応力を材料の降伏強度で割った値(応力比)によって安定性を評価した。応力比が0.3以下の場合には安全、0.3~0.6である場合には条件付き安全、0.6以上である場合には危険を意味する。従来の遠心鋳造ロールの場合には危険レベルを示すのに対し、本発明の鍛造ロールの場合には安全であると評価されることが確認できる。
【0069】
そして、従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロールと鍛造ロールベースの本発明のヒートパイプロールの疲労寿命を比較するための解析を行った。
【0070】
図15は解析のためのモデリングを示し、
図16はワークロールが1回転する際の計算応力を示す。このように計算された応力と孔の加工における表面加工状態を考慮して疲労寿命を計算し、その結果を下記表2に示した。
【0071】
【0072】
上記表2に示すように、従来の遠心鋳造ロールヒートパイプロールの場合には、実際の加工における加工表面の条件を考慮した際に、寿命が急激に減少したのに対し、鍛造ロールベースの本発明のヒートパイプロールの場合には、加工の際の表面条件を考慮しても、無限寿命を示すことが確認できる。一方、上記表2におけるsurf.Factor 1及びsurf.Factor 2はそれぞれ、孔の加工における加工マークに現れる程度と加工面が非常に荒い際の表面粗さの条件を示す。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0074】
30a、30b ペイオフリール
40 スキンパスミル
100 ヒートパイプロール
102 圧延部
103 ネック部
104 ジャーナル部
105、106 挿入孔
108 ストッパー
109 孔
110 ヒートパイプ