(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】バイトブロック
(51)【国際特許分類】
A61B 1/01 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
A61B1/01 514
(21)【出願番号】P 2018513120
(86)(22)【出願日】2017-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2017014755
(87)【国際公開番号】W WO2017183509
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2016085871
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391040995
【氏名又は名称】ショーダテクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利定
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
(72)【発明者】
【氏名】御室 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲朗
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0104912(US,A1)
【文献】特開2014-014499(JP,A)
【文献】実開平05-068502(JP,U)
【文献】国際公開第2007/063980(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3168827(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
A61C
A61M 16/01、16/06
A61M 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上の前歯と下の前歯との間に配置された状態で装着可能であり、装着時に口内側に位置する後端、装着時に口外側
にて突出した状態で位置する前端、上の前歯を受け止める上歯受け部及び下の前歯を受け止める下歯受け部を有する咬合体と、
前記咬合体における前記後端側にて張り出すように設けられるとともに後方側が凹面となるように湾曲した板状に形成され、装着時に前記前歯から左右の各奥歯にわたりそれらの内側面に沿って対向配置される上下歯間カバー体とを備え、
前記上下歯間カバー体は、弾性部材で構成され、被装着者の前記上歯及び前記下歯の各内面側をそれぞれ押圧するように、左右の前記上下歯間カバー体間の間隔が同上下歯間カバー体が面する左右の歯列の間隔よりも広く形成され、
前記咬合体は、前記上歯受け部及び前記下歯受け部のうちの少なくとも一方に、口内での移動を規制する凹凸状の移動規制構造部を備え
、
前記咬合体は、前記前端側から見たときの左右方向の寸法が上下方向の寸法よりも大きく、かつ中実のブロック状に形成された弾性部材からなり、
前記咬合体の左右方向における中央部には、前記前端側から前記後端側にわたって延びる溝部が形成され、
前記咬合体は、前記溝部の左右両側に配置され、前記溝部の底部を介して連結された一対の棒状把持部を有し、
前記一対の棒状把持部は、前記底部の弾性圧縮変形時に互いに近接しうる
ことを特徴とするバイトブロック。
【請求項2】
請求項
1に記載したバイトブロックにおいて、
前記咬合体は、
前記後端側から前記前端側に向かって上りの傾斜となる傾斜面を含む凸部を前記上歯受け部に有する上歯用の移動規制構造部と、
前記各前歯の先端部が挿し込み可能な溝状の凹部を前記下歯受け部に有する下歯用の移動規制構造部と
を備えていることを特徴とするバイトブロック。
【請求項3】
請求項
2に記載したバイトブロックにおいて、
前記溝状の凹部は、前記咬合体の延びる前後方向に沿って複数形成されていることを特徴とするバイトブロック。
【請求項4】
請求項
1ないし請求項
3のうちのいずれか1つに記載したバイトブロックにおいて
、
前記溝部の底部は、前記咬合体の前記前端側の位置において切り欠かれている
ことを特徴とするバイトブロック。
【請求項5】
請求項
2に記載したバイトブロックにおいて、
前記凸部の有する前記傾斜面は、さらに前記咬合体の中央
部から両側部に向かって上りの傾斜となっている
ことを特徴とするバイトブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口を開けた状態で手術や検査を受ける際に上歯と下歯との間に配置されて咬合による口内の受傷や医療器具の損傷を防止するためのバイトブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、口を開けた状態で手術や検査を受ける際に上歯と下歯との間に配置されて咬合による口内の受傷や医療器具の損傷を防止するために、バイトブロックが用いられている。例えば、下記特許文献1には、従来における経口医療具挿入用案内具(バイトブロック)の一例が開示されている。このバイトブロックでは、上下の前歯によって噛まれる筒状の被挟持部の一方の端部に、フランジ状に張り出す唇当て片が設けられている。また、被挟持部の他方の端部に、唇当て片よりも小さなフランジ状の抜け防止用鍔部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載したバイトブロックにおいては、バイトブロックが喉側に入り込もうとすると、唇当て片が唇に押し付けられて、被装着者に不快感を与えるという問題がある。また、被挟持部の端部に直交する方向に延びる抜け防止用鍔部では、抜け防止用鍔部の左右両端の部分しか歯に掛からず、抜け防止の効果が低いという問題もある。特に、バイトブロックの被装着者に対する治療や手術などの医療行為中においては、被装着者が意識的にまたは無意識的に口を開くことがある。このような場合にバイトブロックの位置または向きがずれることがあるとともに、脱落も生じ易いという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、口内での位置および向きのずれを防止して安定的に装着することができるバイトブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための手段1に記載の発明の特徴は、上の前歯と下の前歯との間に配置された状態で装着可能であり、装着時に口内側に位置する後端、装着時に口外側にて突出した状態で位置する前端、上の前歯を受け止める上歯受け部及び下の前歯を受け止める下歯受け部を有する咬合体と、前記咬合体における前記後端側にて張り出すように設けられるとともに後方側が凹面となるように湾曲した板状に形成され、装着時に前記前歯から左右の各奥歯にわたりそれらの内側面に沿って対向配置される上下歯間カバー体とを備え、前記上下歯間カバー体は、弾性部材で構成され、被装着者の前記上歯及び前記下歯の各内面側をそれぞれ押圧するように、左右の前記上下歯間カバー体間の間隔が同上下歯間カバー体が面する左右の歯列の間隔よりも広く形成され、前記咬合体は、前記上歯受け部及び前記下歯受け部のうちの少なくとも一方に、口内での移動を規制する凹凸状の移動規制構造部を備え、前記咬合体は、前記前端側から見たときの左右方向の寸法が上下方向の寸法よりも大きく、かつ中実のブロック状に形成された弾性部材からなり、前記咬合体の左右方向における中央部には、前記前端側から前記後端側にわたって延びる溝部が形成され、前記咬合体は、前記溝部の左右両側に配置され、前記溝部の底部を介して連結された一対の棒状把持部を有し、 前記一対の棒状把持部は、前記底部の弾性圧縮変形時に互いに近接しうることにある。
このように構成した本発明の特徴によれば、咬合体における後端側にて張り出すように設けられるとともに後方側が凹面となるように湾曲した板状に形成され、装着時に前歯から左右の各奥歯にわたりそれらの内側面に沿って対向配置される上下歯間カバー体によって、バイトブロックの口外側への抜けが防止される。それとともに、前歯が押し付けられる咬合体の上歯受け部、下歯受け部に設けられた凹凸状の移動規制構造部によって、バイトブロックの前歯側(口内側)への入り込みが規制される。また、左右の各上下歯間カバー体は、弾性部材で構成されていることに加え、互いの間隔が被装着者における上下の各歯列の左右の間隔よりも広く形成されている。このため、上下歯間カバー体が被装着者の上歯及び下歯の各内面側に押し付けられて弾性変形する。すると、上下歯間カバー体に作用する弾性変形の反力によって、バイトブロックが上歯及び下歯の各内面側に保持される。以上のことから、口内での位置や向きのずれを防止して、バイトブロックを安定的に装着することができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記移動規制構造部は、口内側に傾斜した傾斜面を含む凸部を有していることにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、移動規制構造部が口内側に傾斜した傾斜面を含む凸部を有しているため、咬合体における口内側から口外側のどの位置で噛んでも、バイトブロックの前歯側(口内側)への移動を規制することができる。よって、バイトブロックの装着安定性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記移動規制構造部は、各前歯の先端部が挿し込み可能な溝状の凹部を有していることにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、移動規制構造部が前歯の先端部が挿し込み可能な幅および深さの溝状の凹部を有しているため、バイトブロックの位置または向きのずれをより確実に防止することができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記咬合体は、口内側に傾斜した傾斜面を含む凸部を上側の前歯を受け止める面に有する上歯用の移動規制構造部と、前記各前歯の先端部が挿し込み可能な溝状の凹部を下側の前歯を受け止める面に有する下歯用の移動規制構造部とを備えていることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、咬合体における上側の前歯を受け止める面に上歯用の移動規制構造部を備えるとともに下側の前歯を受け止める面に下歯用の移動規制構造部を備えている。このため、口の開閉時に固定側となる上顎の前歯には、上歯用の移動規制構造部によって宛がい易さを確保することができる。また、口の開閉時に可動側となる下顎側の前歯については、溝状の凹部を有する下歯用の移動規制構造部によって固定的に保持することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記溝状の凹部は、前記咬合体の延びる前後方向に並ぶように複数形成されていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、溝状の凹部が咬合体の延びる前後方向に並ぶように複数形成されているため、個人差のある上顎の前歯に対する下顎の前歯の位置に応じて、複数あるうちのいずれかの溝状の凹部を選択することができる。よって、バイトブロックの装着安定性を高めることができる。それととともに、下顎の前歯を挿し込む溝状の凹部によって、装着時におけるバイトブロックの前後方向の傾斜角を調整することもできる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記移動規制構造部は、歯列に沿って湾曲した曲線状に形成された凹部を有することにある。
【0017】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、移動規制構造部が歯列に沿って湾曲した曲線状に形成された凹部を有しているため、バイトブロックの装着安定性を高めることができる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、咬合体は、口内側よりも口外側が幅広に形成されていることにある。
【0019】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックは、咬合体が口内側よりも口外側が幅広に形成されているため、上下の前歯の咬合面積を増やすことができ、個々の歯の負担を軽減して咬合し易くすることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記上下歯間カバー体は、前記上歯受け部に接する上側の前部領域と、前記下歯受け部に接する下側の前部領域と、それら領域よりも後方に突出した後部領域とを有し、前記咬合体において、前記前端から前記上側の前部領域までの最短距離が、25mm以上であることにある。咬合体の前後方向の寸法が短いと、口腔内にバイトブロックを留置する際に口唇によりバイトブロックが隠れてしまうため、医療用テープ等で固定したい場合に留め代がなくなってしまう。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、咬合体において前端から上側の前部領域までの最短距離が25mm以上あることから、口腔内留置時において咬合体の先端側を、テープが巻ける程度の長さ分(例えば10mm以上)だけ必ず口唇から露出させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックが透明な材料からなることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックを構成する咬合体及び上下歯間カバー体が透明になることで、口腔内留置時に咬合体及び上下歯間カバー体に接する舌や口腔粘膜の状況などを容易に観察することが可能となる。これにより、うっ血、褥瘡といった術中インシデントの管理を容易に行うことができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記咬合体を前記前端側から見たときの左右方向における中央部には、前記前端側から前記後端側にわたって延びる溝部が形成されていることにある。咬合体が左右方向に幅広になると、口腔開口の殆どが塞がれてしまう結果、唾液吸引パイプ等の医療機器を使用することができない。これに加えて、従来品に比べて大型のバイトブロックは口腔内に挿入しにくいという問題がある。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、咬合体の中央部に前端側から後端側にわたって延びる溝部が形成されていることから、バイトブロックの口腔内留置時においても口腔内に医療機器を挿入することが可能になる。また、咬合体を左右両側から押圧することで圧縮変形させることができるため、バイトブロックの口腔内への挿入を容易に行うことができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記咬合体を前記前端側から見たときの左右方向における中央部には、前記前端側から前記後端側にわたって延びる溝部が形成され、前記溝部の底部は、前記咬合体の前記前端側の位置において切り欠かれていることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、溝部の底部における上記位置に切り欠かれた部分があると、溝部に挿入された医療機器の引き出し位置を上下方向に変更できる程度の自由度を確保することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記凸部の有する前記傾斜面は、さらに前記咬合体の中央側にも傾斜していることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、バイトブロックの前後方向への移動のみならず左右方向への移動についても規制することができる。よって、バイトブロックが前後方向及び左右方向に位置ずれしにくくなり、装着安定性をよりいっそう向上させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記咬合体は、上下方向の寸法よりも左右方向の寸法のほうが大きい断面形状を有しており、前記咬合体の前記前端側は、角が丸くなるように形成されていることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、上下方向の寸法よりも左右方向の寸法のほうが大きい断面形状を有することから、上下の前歯の咬合面積を増やすことができ、個々の歯の負担を軽減して咬合し易くすることができる。また、咬合体の前端側の角が丸くなるように形成されていることから、口腔内留置時においても口唇や口腔内面を刺激したり損傷したりするおそれがなくなる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記咬合体は弾性部材からなり、前記咬合体の上下方向の寸法は、前記溝部に挿入される医療機器の長手方向に直交する断面における最大寸法よりも大きいことにある。従来のバイトブロックは、硬質の樹脂材料からなり、単純で細長いブロック形状をなしていた。このような形状であると、強く咬合した場合に医療機器については保護される一方、強く咬合接触した歯牙が損傷することがあった。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、咬合体が柔軟性のある弾性部材からなるため、強く噛んでも弾性圧縮変形することで、歯牙の損傷を回避することができる。また、咬合体の上下方向の寸法は、医療機器の上記断面における最大寸法よりも大きいことから、咬合時に咬合体が上下方向に圧縮されることがあっても、医療機器が損傷を受けるおそれがなくなる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記上下歯間カバー体は、前記上歯受け部に接する上側の前部領域と、前記下歯受け部に接する下側の前部領域と、それら領域よりも後方に突出した後部領域とを有し、前記後部領域は、上側コーナー部、下側コーナー部及びそれらの間に位置する中央部を有し、前記後部領域の前記中央部には導通切欠部が形成されていることにある。手術時には気管チューブ等の医療機器が口腔内に同時に存在しうる。上下歯間カバー体は口腔歯列の内面を全体にわたって囲うように留置されるので、気管チューブを咽頭から口腔外へ導き出す手段が必要となる。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、上下歯間カバー体の後部領域の中央部に導通切欠部が形成されていることから、その導通切欠部を介して気管チューブを口腔外に導通させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記上下歯間カバー体は、前記上歯受け部に接する上側の前部領域と、前記下歯受け部に接する下側の前部領域と、それら領域よりも後方に突出した後部領域とを有し、前記後部領域は、上側コーナー部及び下側コーナー部を有し、前記上側コーナー部及び前記下側コーナー部は、角が丸くなるように形成されるとともに、前記上下歯間カバー体の周縁部は、丸みを帯びた断面形状となるように形成されていることにある。上下歯間カバー体は口腔粘膜に接触するが、接触部分に角がある形状であると、長時間使用したときの接触による刺激によって褥瘡等が発生するおそれがある。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、上側コーナー部及び下側コーナー部は角が丸くなるように形成されるとともに、上下歯間カバー体の周縁部は丸みを帯びた断面形状となるように形成されているため、口腔粘膜に対する接触刺激が少なく、長時間使用しても褥瘡等の発生を抑えることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記上下歯間カバー体は、前記上歯受け部に接する上側の前部領域と、前記下歯受け部に接する下側の前部領域と、それら領域よりも後方に突出した後部領域とを有し、前記下側の前部領域の中央には、当該下側の前部領域を左右に分断する隙間が形成されていることにある。上下歯間カバー体は、口腔歯列内ないしはその上下歯茎部分にまで及んで接触する。そのため、舌下その他口腔内に存在する唾液腺を不必要に刺激するおそれがあり、術後のアミラーゼ値上昇の原因になりうる可能性がある。アミラーゼは関連する臓器の術後評価のためのモニターとしても使用されるが、バイトブロックの使用によるアミラーゼ値上昇は、術後評価を正確に行ううえで妨げになってしまう。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、上下歯間カバー体における下側の前部領域の中央に隙間があることから、舌下の唾液腺に対する接触、刺激を避けることができ、術中のアミラーゼ値上昇を回避することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記バイトブロックにおいて、前記上下歯間カバー体は、前記上歯受け部に接する上側の前部領域と、前記下歯受け部に接する下側の前部領域と、それら領域よりも後方に突出した後部領域とを有し、前記下側の前部領域の位置が、前記上側の前部領域の位置よりも後端側にずらして配置されていることにある。前記バイトブロックでは、前歯付近で上下歯間カバー体との接触に関しては、上顎の前歯と下顎の前歯との前後方向のずれを考慮したものとはなっておらず、装着時の安定性を十分に向上させることができない。その点、このように構成した本発明の他の特徴によれば、上下歯間カバー体における下側の前部領域の位置が上側の前部領域の位置よりも後端側にずらして配置されているので、装着時の安定性を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバイトブロックの外観構成の概略を示す前方斜視図である。
【
図2】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す後方斜視図である。
【
図3】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を下歯受け部側を上方に向けた姿勢で示す前方斜視図である。
【
図4】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す正面図である。
【
図5】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す平面図である。
【
図6】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す右側面図である。
【
図7】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す背面図である。
【
図8】
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を示す底面図である。
【
図9】
図5の9-9線から見たバイトブロックの断面図である。
【
図10】
図6に示すバイトブロックを被装着者が噛んで装着した状態を示す右側面図である。
【
図11】
図1に示すバイトブロックを被装着者の口内に装着した状態を上歯の上方から見た平面図である。
【
図12】
図1に示すバイトブロックを被装着者の口内に装着した状態を下歯の上方から見た平面図である。
【
図13】
図7に示すバイトブロックにおける咬合体を左右方向から押し潰した弾性変形状態を示した背面図である。
【
図14】本発明の変形例に係るバイトブロックの外観構成の概略を示す前方斜視図である。
【
図15】本発明の変形例に係るバイトブロックの外観構成の概略を
図5の9-9線から見たバイトブロックの断面図である。
【
図16】本発明の変形例に係るバイトブロックの外観構成の概略を示す上面側の前方斜視図である。
【
図17】本発明の変形例に係るバイトブロックの外観構成の概略を下歯受け部側を上方に向けた姿勢で示す前方斜視図である。示す底面側の前方斜視図である。
【
図18】本発明の変形例に係るバイトブロックの外観構成の概略を示す底面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るバイトブロックの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るバイトブロック100の外観構成の概略を示す前方斜視図である。また、
図2は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す後方斜視図である。
図3は、
図1に示すバイトブロックの外観構成の概略を下歯受け部側を上方に向けた姿勢で示す前方斜視図である。また、
図4は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す正面図である。
図5は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す平面図である。また、
図6は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す右側面図である。
図7は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す背面図である。また、
図8は、
図1に示すバイトブロック100の外観構成の概略を示す底面図である。
図9は、
図5の9-9線から見たバイトブロック100の断面図である。また、
図10は、
図6に示すバイトブロック100を被装着者が噛んで装着した状態を示す右側面図である。
【0022】
なお、本明細書において参照する図は、バイトブロック100の丸みのある部分の形状を明確にするために曲面部分を適宜線図で表している。このバイトブロック100は、口を開けた状態で診断、治療または手術(以下、「治療等」という)を行う際に、被装着者(図示せず)の上歯UTと下歯LTとの間に配置される器具である。バイトブロック100は、医療器具の挿入を可能にしながら咬合による口内の受傷や医療器具の損傷を防止する役割を果たす。
【0023】
(バイトブロック100の構成)
バイトブロック100は、咬合体101を備えている。咬合体101は、バイトブロック100を装着する被装着者の口内における上顎の前歯と下顎の前歯との間に配置されて上歯UTと下歯LTとの咬合を受け止める部分であり、口の内外に延びる棒状に形成されている。本実施形態では、咬合体101において装着時に口内側に位置する端部を後端101e、装着時に口外側に位置する端部を前端101dと称するものとする。より具体的には、咬合体101は、被装着者の上下の前歯にそれぞれ対向するように形成された上歯受け部101aと下歯受け部101bとを備える。この咬合体101は、上歯受け部101aと下歯受け部101bが2つの側部101c、前端101dおよび上下歯間カバー体110をそれぞれ介して繋がった中実のブロック状に形成されている。
【0024】
この場合、咬合体101は、被装着者の咬合力によって弾性変形する硬さの無色透明な合成樹脂材料で構成されている。この場合、弾性部材としては、各種エラストマー、例えば、熱硬化性エラストマー(例えば、シリコーン材、ゴム材)や熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩ビ系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂)を単体でまたは適宜組み合わせて用いることができる。なお、被装着者の前歯とは、中切歯、側切歯および犬歯までの歯のうちの少なくとも1種で含んで構成される。ここで、咬合体101は無色透明な合成樹脂材料で構成されることが好ましいが、例えば半透明な合成樹脂材料で構成されてもよい。
【0025】
上歯受け部101aは、被装着者の上顎の前歯を受け止める面状の部分であり、貫通部(溝部102)および上歯用の移動規制構造部103がそれぞれ形成されている。溝部102は、被装着者の治療等を行う際に被装着者の口から体内に挿入される医療器具(例えば、人工呼吸のための気管チューブや内視鏡など)が挿通される部分であるとともに、バイトブロック100を屈曲変形し易くするための部分である。この場合、溝部102は、体内に挿入する医療器具が挿通可能な幅および深さに形成される。
【0026】
この溝部102は、咬合体101を前端101d側から見たときの横幅方向(被装着者の口の左右方向)の中央部に配置されるとともに、咬合体101の前端101d側から後端101e側にわたって(被装着者の口の内外の方向に沿って)直線的に延びるように形成されている。これにより、上歯受け部101aは、溝部102の両側に分断された状態で2列に形成されることになる。また、溝部102の底部は、U字状の曲面に形成されている。
【0027】
上歯用の移動規制構造部103は、上歯受け部101a上から上顎の前歯の位置および向きがずれることを防止する(即ち口内での移動を規制する)ために、凹凸状に形成された部分である。より具体的には、上歯用の移動規制構造部103は、底部(溝状の凹部)103a、前方傾斜部としての凸部103bおよび後方傾斜部としての凸部103cをそれぞれ有して構成されている。
【0028】
底部103aは、上歯用の移動規制構造部103上における最も低い部分であり、上顎の前歯の歯列に沿った平面視で略U字状の凹部として形成されている。この底部103aは、前方傾斜部としての上記凸部103bと、後述する上下歯間カバー体110の前方に形成された後方傾斜部としての上記凸部103cとの間にて線状に形成されていて、各前歯の先端部が挿し込み可能な形状となっている。前方にある凸部103bは、底部103aから上歯受け部101aの先端部に向かう上り傾斜面(即ち口内側に傾斜した傾斜面)を含んで構成されている。本実施形態においては、前方にある凸部103bの傾斜面の傾斜角αは、前記溝部102側で水平方向に対して5°に設定され、側部101c側で水平方向に対して10°に設定されている(
図5参照)。すなわち、前方にある凸部103bの有する傾斜面は、咬合体101の中心部から両側部101c側にも上り傾斜面となっている。換言すると、前方にある凸部103bの有する傾斜面は、咬合体101の中央側にも傾斜している。
【0029】
また、バイトブロック100を右側面から見たときの
図6に示されるように、前方にある凸部103bの底部103aを基準とした水平方向の長さ(以下単に「凸部103bの長さ」という。)は、底部103aを基準とした後方にある凸部103cの水平方向の長さ(以下単に「凸部103cの長さ」という。)よりも長くなっている。この場合、凸部103bの長さは、凸部103cの長さの10倍以上かつ50倍以下の長さであることがよい。後方にある凸部103cは、底部103aから上歯受け部101aの上下歯間カバー体110に向かう上り傾斜面(即ち口外側に傾斜した傾斜面)を含んで構成されている。本実施形態においては、後方にある凸部103cの傾斜角βは、水平方向に対して35°となるように設定されている(
図5参照)。
【0030】
下歯受け部101bは、被装着者の下顎の前歯を受け止める面状の部分であり、下歯用の移動規制構造部104が形成されている。より具体的には、下歯用の移動規制構造部104は、底部(溝状の凹部)104aおよび凸部104bをそれぞれ複数有して構成されている。
【0031】
溝状の凹部104aは、下歯用の移動規制構造部104における最も低い部分であり、
図7に示されるように下顎の前歯の歯列に沿った平面視で放物線状に湾曲した曲線状にて形成されている。この場合、溝状の凹部104aは、下顎の前歯の先端部が挿し込まれる深さおよび幅に形成されている。本実施形態においては、溝状の凹部104aは、凸部104bの上面からの深さが1.5mmに設定され、互いに隣り合う凸部104b間の幅が1.5mmに設定されている。この溝状の凹部104aは、咬合体101の延びる前後方向に沿って等間隔に並ぶように、複数形成されている。なお、複数ある溝状の凹部104aは、咬合体101の前端101d側から後端101e側に向かうに従って、徐々に曲率が大きくなっている。
【0032】
凸部104bは、溝状の凹部104aよりも突出した部分であり、下顎の前歯の歯列に沿った平面視で放物線状に湾曲して形成されている。複数ある凸部104bについても、複数ある溝状の凹部104aと同様に、咬合体101の前端101d側から後端101e側に向かうに従って、徐々に曲率が大きくなっている。また、凸部104bの幅は、本実施形態においては、溝状の凹部104aと同じ幅に形成されている。なお、本実施形態における下歯用の移動規制構造部104は、7つの凸部104bと6つの溝状の凹部104aとにより構成され、これにより凹凸状をなす部分として成立している。なお、複数ある溝状の凹部104aは、放物線状でなくてもよく、例えば円弧状や楕円弧状であってもよい。
【0033】
2つの側部101cは、咬合体101の左右側の各側面をそれぞれ構成する部分であり、垂直方向に延びる平面で構成されている。これらの各側部101cと上歯受け部101aおよび下歯受け部101bとの各境界部分は、角が丸みを帯びた曲面形状に形成されている。この場合、本実施形態においては、各側部101cと上歯受け部101aとの境界部分の曲率よりも各側部101cと下歯受け部101bとの境界部分の曲率を大きくして、被装着者の下唇の当たりをソフトにしている。なお、咬合体101の前端101d側についても、角が丸くなるように形成されている。
【0034】
咬合体101の前端101dは、被装着者の口内にバイトブロック100を装着した際に咬合体101における被装着者の口外から必ず突出する先端部分であり、垂直方向に延びる平面で構成されている。すなわち、咬合体101は、前端101dが被装着者の口外から必ず突出する長さに形成されている。溝部102はこの前端101dを始端とする一方、前端101dと反対側にある後端101eを終端として形成されている。
【0035】
この咬合体101は、被装着者の上下の前歯間に配置された状態で口内から口外に露出する長さに形成されている。また、この咬合体101は、上下の前歯で強く噛まれることによって変形した場合であっても、切断しない程度の厚さに形成されるとともに、溝部102内に配置される医療器具に損傷や機能低下に至る変形を与えない程度の厚さに形成されている。本実施形態において、咬合体101の前端101dから上側の前部領域R1(後述)までの最短距離は25mm以上に設定されており、具体的には約30mmmに設定されている。また、本実施形態において、咬合体101の上下の厚さ(上下方向の寸法)は、挿入される医療機器の長手方向に直交する断面における最大寸法よりも大きく設定され、具体的には約18mmに設定されている。
【0036】
また、本実施形態においては、咬合体101の幅は、被装着者の左右の第1小臼歯に相当する長さに形成されている。この場合、咬合体101の横幅は、本実施形態においては、上下歯間カバー体110側(即ち後端101e側)から前端101d側に行くに従って広くなるように形成されている。具体的には、咬合体101の横幅は、後端101e側が40mmに形成されるとともに前端101d側が45mmに形成されており、上下歯間カバー体110側から前端101d側に向かって連続的に広くなるように形成されている。なお、この咬合体101の各部の寸法は、バイトブロック100の仕様に応じて適宜決定されることは当然である。
【0037】
上下歯間カバー体110は、咬合体101を被装着者の口内に固定するとともに、被装着者の舌が上歯UTと下歯LTとの間に進入することを防止するための部分である。上下歯間カバー体110は、咬合体101の端部における左側部分および右側部分、換言すれば、溝部102の開口部の両側部からそれぞれ広がる板状に形成されている。上下歯間カバー体110は、咬合体101における後端101e側にて張り出すように設けられていると把握することもできる。上下歯間カバー体110は、後方側が凹面となるように湾曲していると把握することもできる。
【0038】
より具体的には、左右一対の上下歯間カバー体110は、
図11および
図12にそれぞれ示すように、咬合体101が被装着者の上下の前歯間に配置された際に被装着者の左右の各奥歯に達する長さで左右の上歯UTおよび下歯LTの各内側面に対して凸状となる曲面形状にそれぞれ形成されている。この場合、左右の各上下歯間カバー体110は、被装着者が咬合体101を噛んだ状態において被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面を覆うことができる形状に形成されている。なお、上下歯間カバー体110は、上歯受け部101aに接する上側の前部領域R1と、下歯受け部101bに接する下側の前部領域R2と、それら領域よりも後方に突出した後部領域R3とを有している。
【0039】
また、上下歯間カバー体110において下側の前部領域R2の位置は、上側の前部領域R1の位置よりも後端101e側(即ち口内側)にずらして配置されている。ずらし量は人にもよるが、3mm~5mm程度(最大で10mm程度)に設定される。なお、
図10~
図12においては、被装着者の上歯UT、下歯LTおよびこれらの各歯茎をそれぞれ二点鎖線で示している。
【0040】
また、左右の各上下歯間カバー体110は、互いの間隔が被装着者における上下の各歯列の左右の間隔よりも広く形成されている。この場合、左右の各上下歯間カバー体110の間隔は、このバイトブロック100を装着する個々の被装着者ごとに設定してもよいが、ヒトの平均的(性別や年齢ごとであってもよい)な歯列の左右の間隔を基準として設定してもよい。また、左右の各上下歯間カバー体110の間隔は、全長に亘って被装着者の歯列の左右の間隔よりも広く形成してもよいし、同全長間において部分的に被装着者の歯列の左右の間隔よりも広く形成するようにしてもよい。本実施形態においては、左右の上下歯間カバー体110は、各先端部が左右の各第2大臼歯に達する長さで形成されるとともに左右の先端部の間隔が左右の各第1大臼歯の間隔と略同じ間隔に設定されている。
【0041】
これらの上下歯間カバー体110は、人間の指で容易に弾性変形させることができる硬さの無色透明な合成樹脂材料(例えば、シリコーン材など)またはゴム材などの材料で構成されている。この場合、上下歯間カバー体110の硬さは、人間の舌の力でも容易に弾性変形可能な硬さで構成することができるが、人間の舌の力では容易に弾性変形させることができない程度の硬さが好適である。また、上下歯間カバー体110の厚さも弾性変形可能な範囲で設定される。本実施形態においては、上下歯間カバー体110は、2mmの均一な厚さで構成されている。
【0042】
上下歯間カバー体110において下側の前部領域R2の中央には、当該下側の前部領域R2を左右に分断する隙間111が切り欠き形成されている。隙間111は、咬合体101および上下歯間カバー体110を曲げ易くするための部分であり、溝部102とは反対側にU字状ないしV字状に形成されている。また、この隙間111があることにより、下側の前部領域R2が舌下の唾液腺に対して接触、刺激することが回避される。上下歯間カバー体110における2つの後部領域R3は、上側コーナー部R31、下側コーナー部R32及びそれらの間に位置する中央部R33をそれぞれ有しており、中央部R33には導通切欠部112が各々形成されている。導通切欠部112は、各後部領域R3を曲げ易くするとともに、被装着者の治療等を行う際に気管チューブ等の医療機器を口腔外に容易に導通できるように、略U字状に形成されている。なお、この導通切欠部112は、2つある後部領域R3のうちの一方にのみ形成してもよいし、必要がない場合(例えば、医療器具の挿入の必要がない場合)には省略することもできる。さらに、上下歯間カバー体110における上側コーナー部R31及び下側コーナー部R32は、口腔粘膜に対する接触刺激を少なくするべく、角が丸くなるように形成されている。また、上下歯間カバー体110の周縁部は、その全周にわたって丸みを帯びた断面形状、つまりエッジがない断面形状となるように形成されている。
【0043】
(バイトブロック100の作動)
次に、上記のように構成したバイトブロック100の作動について説明する。被装着者に対してバイトブロック100を装着する作業者(例えば、医師や医師の作業を補助する者)は、バイトブロック100を用意した後、バイトブロック100を被装着者の口内に装着する。この場合、作業者は、被装着者の口内から体内に医療器具を装着する必要がある場合には、被装着者に医療器具を装着した後にバイトブロック100の装着を行う。
【0044】
具体的には、作業者は、バイトブロック100における咬合体101および上下歯間カバー体110を被装着者の口内に挿入する。この場合、作業者は、
図13の破線矢印に示すように、咬合体101を左右方向から押圧することにより溝部102を両側から押し潰して、左右の上下歯間カバー体110を互いに近接させる。その結果、バイトブロック100が口内に挿入し易くなる。
【0045】
次いで、作業者は、左右の上下歯間カバー体110の各外側面を被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面に接触させる。具体的には、作業者は、バイトブロック100における咬合体101を把持して口の外側に向かって引っ張るようにする。すると、上下歯間カバー体110の各外側面を被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面に接触させることができる(
図11および
図12参照)。
【0046】
また、作業者は、咬合体101における上歯用の移動規制構造部103を被装着者の上顎側の前歯に宛がった後、被装着者の下顎を閉じさせて下顎側の前歯を下歯用の移動規制構造部104の溝状の凹部104aに宛がう。この場合、作業者は、被装着者の上顎の前歯を上歯用の移動規制構造部103のどの位置でも宛がうことができるが、底部103aに宛がうことが望ましい。また、この場合、作業者は、被装着者の下顎側の前歯の位置および装着するバイトブロック100の姿勢に応じて複数の溝状の凹部104aのうちの1つを選択する。
【0047】
これにより、バイトブロック100は、被装着者の上顎の前歯が咬合体101の上歯用の移動規制構造部103における底部103aに位置し、下顎の前歯が咬合体101における下歯用の移動規制構造部104における溝状の凹部104aに位置した状態となる(
図9参照)。このとき、上下歯間カバー体110の各外側面が被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面に押し付けられて、それぞれ内側に弾性変形して上歯UTおよび下歯LTの各内側面に密着する。
【0048】
この場合、上下歯間カバー体110が弾性変形する上歯UTおよび下歯LTの各内側面の内側方向とは、歯列の左右方向から口内中央部に向かう方向、歯列の左右の斜め上方から斜め下方の口内中央部に向かう方向、および歯列の左右の斜め下方から斜め上方の口内中央部に向かう方向がそれぞれある。すなわち、バイトブロック100は、左右の各上下歯間カバー体110が被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面をそれぞれ押圧する押圧力によって被装着者の口内に保持される。
【0049】
なお、この場合、作業者は、上下歯間カバー体110が口内で保持される力を口内の奥行き方向で調整することができる。すなわち、作業者は、上下歯間カバー体110を前歯側に位置させることにより、上下歯間カバー体110の弾性変形量を大きくすることができる。それとともに、上歯UTおよび下歯LTの各内側面への接触面積が大きくなって、上下歯間カバー体110の口内の保持力を大きくすることができる。
【0050】
一方、作業者は、上下歯間カバー体110を奥歯側に位置させることにより、上下歯間カバー体110の弾性変形量を小さくすることができる。それとともに上歯UTおよび下歯LTの各内側面への接触面積を小さくして、上下歯間カバー体110の口内の保持力を小さくすることができる。これらの場合、上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104における上下の各前歯の接触位置は、上歯用の移動規制構造部103上および下歯用の移動規制構造部104上で適宜調整される。
【0051】
次に、作業者は、被装着者の口内に医療器具が挿入されている場合には、この医療器具をバイトブロック100における溝部102を介して口外側に引き出すか、あるいは導通切欠部112を介して口外側に引き出す。この場合、作業者は、被装着者の口から吐出した医療器具をテープまたはゴムバンドなどを用いて咬合体101に固定することもできる。これにより、作業者は、バイトブロック100を被装着者の口内に装着することができる。
【0052】
このように、被装着者の口内に装着されたバイトブロック100は、被装着者の咬合を防止する。具体的には、バイトブロック100は、被装着者の上下の前歯の間に配置された咬合体101が上歯UTと下歯LTの咬合を阻止する。この場合、上歯用の移動規制構造部103における凸部103bに上顎の前歯が接触し、下歯用の移動規制構造部104における凸部104b(前歯に対して前側に位置する凸部104b)に下顎の前歯が接触することで、バイトブロック100の口内側への位置ずれが防止される。
【0053】
また、左右の各上下歯間カバー体110が上歯UTおよび下歯LTの各内側面に接触していることで、バイトブロック100の口外側への位置ずれが防止される。この場合、上歯用の移動規制構造部103における凸部103cに上顎の前歯が接触し、下歯用の移動規制構造部104における凸部104b(前歯に対して後側に位置する凸部104b)に下顎の前歯が接触することで、バイトブロック100の口外側への位置ずれが防止される。
【0054】
さらに、バイトブロック100は、左右の各上下歯間カバー体110が上歯UTおよび下歯LTの各内側面を覆っているため、被装着者の舌が上歯UTと下歯LTとの間に位置することを防止することができる。また、バイトブロック100は、咬合体101が正面視で略方形に形成されているため、口内で回転することを防止して姿勢を維持することができる。
【0055】
次に、バイトブロック100を口内から取り除く場合には、作業者は、被装着者の口を開けた状態でバイトブロック100における咬合体101を把持して口の外側に向かって引っ張り出すことができる。この場合、作業者は、前記挿入時と同様に、咬合体101を左右方向から押圧することにより溝部102を両側から押し潰して、左右の上下歯間カバー体110を互いに近接させるようにする。すると、バイトブロック100が口内から取り出し易くなる(
図13参照)。
【0056】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、被装着者の上下の歯の内側面に奥歯側に沿って板状に延びる上下歯間カバー体110によって、バイトブロック100の口外側への抜けが防止される。それとともに、前歯が押し付けられる咬合体101の上歯受け部101a及び下歯受け部101bに設けられた凹凸状の移動規制構造部103、104によって、バイトブロック100の前歯側(口内側)への入り込みが規制される。また、左右の各上下歯間カバー体110は、弾性部材で構成されていることに加え、互いの間隔が被装着者における上下の各歯列の左右の間隔よりも広く形成されている。このため、上下歯間カバー体110が被装着者の上歯UT及び下歯LTの各内面側に押し付けられて弾性変形する。すると、上下歯間カバー体110に作用する弾性変形の反力によって、バイトブロック100が上歯UT及び下歯LTの各内面側に保持される。以上のことから、口内での位置や向きのずれを防止して安定的に装着することができる。
【0057】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例において、上記実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0058】
例えば、上記実施形態のバイトブロック100では、咬合体101における上歯受け部101aおよび下歯受け部101bに、それぞれ上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104をそれぞれ形成して、上歯UTおよび下歯LTの位置および向きのずれを防止するようにした。しかし、凹凸状の移動規制構造部は、咬合体101における上歯UT側および下歯LT側のうちの少なくとも一方に形成されていればよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、上歯用の移動規制構造部103を2つの凸部103b、103cおよび底部103aで構成するとともに、下歯用の移動規制構造部104を複数の溝状の凹部104aおよび複数の凸部104bで構成した。しかし、上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104は、少なくとも上歯UTまたは下歯LTの位置または向きのずれを防止してバイトブロック100の位置および向きのずれを防止できればよく、必ずしも上記実施形態のような構造に限定されるものではない。
【0060】
したがって、上歯用の移動規制構造部103は、例えば、前方にある凸部103bのみで形成してもよい。この場合、上歯用の移動規制構造部103は、上記実施形態のように前後方向及び横幅方向の2つの方向に傾斜する2つの傾斜面を含んで構成してもよいし、咬合体101の口内側から口外側に向かって上り傾斜となる1つの傾斜面のみを含んで構成してもよい。
【0061】
また、上歯用の移動規制構造部103は、例えば、
図14に示すように、下歯用の移動規制構造部104のように複数の溝状の凹部および複数の凸部からなる構造とすることもできる。この場合、下歯受け部101bには、下歯受け部101bの先端部に向かう下り傾斜面(即ち口内側に傾斜した傾斜面)を有する凸部を形成してもよいし、そのような凸部を形成しなくてもよい。またさらに、上歯用の移動規制構造部103は、例えば、
図15に示すように、咬合体101の前後方向に複数の凸部103bを並べることで構成することができる。なお、これら凸部103bは、いずれも上歯受け部101aの先端部に向かう上り傾斜面(即ち口内側に傾斜した傾斜面)を有するものとなっている。
【0062】
また、下歯用の移動規制構造部104は、例えば、1つの溝状の凹部104aおよび2つの凸部104bでのみで構成してもよいし、上歯用の移動規制構造部103のように傾斜面を有する1つまたは複数の凸部で構成することもできる。また、上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104は、例えば、多数の凹凸からなるディンプル形状に形成することもできる。つまり、上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104は、線状の構造物を含んだものでなくてもよい。また、上歯用の移動規制構造部103および下歯用の移動規制構造部104は、上下の各前歯に沿った放物線などの湾曲した曲線で構成したが、被装着者の左右方向に延びる直線状に形成することもできる。
【0063】
また、上記実施形態においては、咬合体101は、口内側から口外側に向かって連続的に幅が広がる形状に形成した。これにより、バイトブロック100は、咬合体101が口内側よりも口外側が幅広に形成されているため、上下の前歯の接触面積を増やすことができ、個々の歯の負担を軽減して咬合し易くすることができる。しかし、咬合体101は、口内側から口外側に向かって段階的に幅が広がる形状に形成してもよいし、口内側から口外側に向かって一定の幅に形成することもできる。
【0064】
また、上記実施形態においては、左右の上下歯間カバー体110は、上歯UTおよび下歯LTの各内側面を押圧するように、互いの間隔が被装着者における上下の各歯列の左右の間隔よりも広く形成した。しかし、左右の上下歯間カバー体110は、上歯UTおよび下歯LTの各内側面を覆うように形成されていれば必ずしも各内側面を押圧する必要はなく、各内側面に単に接するように形成することもできる。
【0065】
また、上記実施形態においては、上下歯間カバー体110は、被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各内側面を覆う形状に形成した。しかし、上下歯間カバー体110は、被装着者の上歯UTおよび下歯LTの各歯茎の各内側面まで覆う形状に形成することもできる。これによれば、バイトブロック100は、被装着者に対する治療等の医療行為中において被装着者が意識的にまたは無意識的に口を開いた場合においても、バイトブロック100の位置または向きのずれおよび脱落をより効果的に防止することができる。
【0066】
また、上記実施形態においては、左右の上下歯間カバー体110は、各先端部が左右の各第2大臼歯に達する長さで形成されるとともに、左右の先端部の間隔が左右の各第1大臼歯の間隔と略同じ間隔に設定されている。しかし、左右の上下歯間カバー体110は、各先端部が左右の各第2大臼歯に達しない長さ、例えば、第2小臼歯や第1大臼歯までに達する長さに形成することもできる。この場合、左右の上下歯間カバー体110における左右の先端部の間隔は、左右の各第2小臼歯や第1大臼歯の各中央部間の間隔よりも広く形成するとよい。なお、左右の上下歯間カバー体110は、被装着者における左右の第1大臼歯まで達する長さに形成するとより安定的に装着できて望ましい。
【0067】
また、上記実施形態においては、上下歯間カバー体110は、左右の上下歯間カバー体110間の中央部に隙間111を形成して構成した。しかし、上下歯間カバー体110は、弾性部材で構成されているため、隙間111を省略して構成することもできる。
【0068】
また、上記実施形態においては、咬合体101は、上歯受け部101aの中央部に溝部102を形成して構成した。しかし、咬合体101は、上歯受け部101aの中央部以外の部分、例えば、上歯受け部101aにおける左右の一方に寄った位置や下歯受け部101bに溝部102を形成して構成することもできる。また、咬合体101は、溝部102に代えてまたは加えて咬合体101の中央部を貫通する貫通孔を設けて医療器具の通し孔とすることもできる。また、咬合体101は、溝部102が不要な場合には溝部102を省略して構成することもできる。
【0069】
また、上記実施形態においては、咬合体101の前端101dから上側の前部領域R1までの最短距離が30mmとなるように設定した。しかし、咬合体101は、被装着者の口の内外に延びて必ず口外に突出する長さに形成されていればよく、前記最短距離が25mm以上30mm未満の長さ、または30mmを超える長さに設定されていてもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては、咬合体101は、外周部の断面形状を略方形に形成した。しかし、咬合体101は、外周部の断面形状を略方形以外の形状、例えば、円形、楕円形、多角形(五角形や六角形)に形成することもできる。
【0071】
また、上記実施形態においては、バイトブロック100は、各部を無色透明なシリコーン材で一体的に成形した。しかし、バイトブロック100は、咬合体101、上歯用の移動規制構造部103、下歯用の移動規制構造部104および上下歯間カバー体110をそれぞれ各部の仕様に応じて異なる材料で構成することができる。例えば、バイトブロック100は、咬合体101について金属棒の周囲にシリコーン材を配置して構成することができる。これによれば、バイトブロック100は、咬合体101の機械的強度(曲げや座屈)を向上させることができる。
【0072】
また、
図16、
図17、
図18に示すような変形例のバイトブロック101Aのような構成を採用してもよい。このバイトブロック101Aでは、溝部102の底部が咬合体101の前端101d側の位置において切り欠かれている。このような位置に切欠部121があると、溝部102に挿入された医療機器の引き出し位置を上下方向に変更することができる程度の自由度が確保することができる。また、このバイトブロック101Aでは、下歯用の移動規制構造部104の構造が
図1等に示したものとは異なっている。具体的には、この下歯用の移動規制構造部104は、長さがやや短い4つの凸部104bと3つの溝状の凹部104aとによって構成されている。
【符号の説明】
【0073】
UT…上歯
LT…下歯
α…前方傾斜部の水平方向に対する傾斜角度
β…後方傾斜部の水平方向に対する傾斜角度
100、100A…バイトブロック
101…咬合体
101a…上歯受け部
101b…下歯受け部
101c…側部
101d…前端
101e…後端
102…溝部
103…上歯用の移動規制構造部
103a…底部
103b…凸部
103c…凸部
104…下歯用の移動規制構造部
104a…溝状の凹部
104b…凸部
110…上下歯間カバー体
111…切欠部
112…導通切欠部
121…切欠部
L1…最短距離
L2…(咬合体の)上下方向の寸法
L3…(咬合体の)左右方向の寸法
R1…上側の前部領域
R2…下側の前部領域
R3…後部領域