(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20220107BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220107BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/36
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2016127844
(22)【出願日】2016-06-28
【審査請求日】2019-04-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山城 裕平
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-138086(JP,A)
【文献】特開2016-065160(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009775(WO,A1)
【文献】特開2011-213988(JP,A)
【文献】特開2011-246640(JP,A)
【文献】米国特許第07671132(US,B1)
【文献】特開平11-209518(JP,A)
【文献】特開2015-124310(JP,A)
【文献】特開2012-102238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20~90質量%のゴム成分Aおよび10~80質量%のゴム成分Bを含むゴム成分を含有するゴム組成物であり、
ゴム成分AのSP値が18.09(J/cm
3)
1/2
~18.6(J/cm
3
)
1/2
であり、
ゴム成分BのSP値がゴム成分AのSP値より0.6(J/cm
3)
1/2以上低く、
ゴム成分Aがスチレンブタジエンゴムを含み、スチレンブタジエンゴムのビニル結合量が40モル%以下であり、
ゴム成分Aの重量平均分子量が
47万以下である
トレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分がゴム成分Aおよびゴム成分Bからなり、ゴム成分Bがブタジエンゴムである請求項
1記載のゴム組成物。
【請求項3】
スチレンブタジエンゴムが変性スチレンブタジエンゴムである請求項
1記載のゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分Aの含有量が50~90質量%であり、
ゴム成分Bの含有量が10~50質量%である請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量部に対し、10~200質量部のシリカを含有する請求項1~
4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
変性スチレンブタジエンゴムが変性溶液重合スチレンブタジエンゴム
であって、そのガラス転移温度が-45℃~-29℃である請求項
3記載のゴム組成物。
【請求項7】
変性スチレンブタジエンゴムが末端変性スチレンブタジエンゴムである請求項
3記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化の要請に伴い、タイヤの転がり抵抗を低減し、発熱を抑えたタイヤの開発が進められており、特にタイヤにおける占有比率の高いトレッドに対して、優れた低燃費性が要求されている。タイヤ用ゴム組成物の低燃費性の改善方法として、従来から補強用充填剤として使用されているカーボンブラックをシリカに置換することや、補強用充填剤を減量すること、粒径の大きい補強用充填剤を用いることなどが知られているが、これらの方法では耐摩耗性が大きく低下する問題があり、補強用充填剤を減量すると更にウェットグリップ性能も低下するため、低燃費性、耐摩耗性およびウェットグリップ性能を両立させることは一般的に背反性能となり、困難である。
【0003】
また、特許文献1には、カーボンブラックの分散性を考慮しSP値が相違するジエン系ゴムを含有するゴム組成物の混練方法が記載されているが、低燃費性と、耐摩耗性と、ウェットグリップ性能との両立については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加工性および低燃費性を低下させずに、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れたゴム組成物、および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、20~90質量%のゴム成分Aおよび10~80質量%のゴム成分Bを含むゴム成分を含有するゴム組成物であり、ゴム成分AのSP値が17.8(J/cm3)1/2以上であり、ゴム成分BのSP値がゴム成分AのSP値より0.6(J/cm3)1/2以上低いゴム組成物に関する。
【0007】
ゴム成分Aがスチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0008】
ゴム成分Aが変性スチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0009】
ゴム成分Aの含有量が50~90質量%であり、ゴム成分Bの含有量が10~50質量%であることが好ましい。
【0010】
ゴム成分100質量部に対し、10~200質量部のシリカを含有することが好ましい。
【0011】
ゴム成分Aの重量平均分子量が80万以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は前記のゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、加工性および低燃費性を維持しつつ、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態は、20~90質量%のゴム成分Aおよび10~80質量%のゴム成分Bを含むゴム成分を含有するゴム組成物であり、ゴム成分AのSP値が17.8(J/cm3)1/2以上であり、ゴム成分BのSP値がゴム成分AのSP値より0.6(J/cm3)1/2以上低いゴム組成物である。
【0015】
本明細書におけるSP値とは、溶解度パラメーターであり、Rubber Chemistry and Technology 69(1996)769に従って算出される値である。またKGK 58(2005)1から実験結果に基づいた各ゴムのSP値を確認でき、天然ゴムのSP値は16.7であり、ブタジエンゴムのSP値は17.17であり、スチレンブタジエンゴムのSP値は下記式により算出することができる。
式:17.17+0.0272×(スチレン含有量(質量%))-0.0069×(ビニル結合量(モル%))
【0016】
前記ゴム成分はSP値が17.8(J/cm3)1/2以上であるゴム成分Aおよびゴム成分AよりSP値が0.6(J/cm3)1/2以上低いゴム成分Bを含む。ゴム成分Aおよびゴム成分Bは非相溶構造を形成するため、ゴム成分Aによる特性とゴム成分Bによる特性を発揮でき、充分な加工性および低燃費性を維持しつつ、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れたゴム組成物となる。
【0017】
ゴム成分AのSP値は17.8(J/cm3)1/2以上であり、18.0(J/cm3)1/2以上が好ましい。SP値が17.8未満の場合は、ゴムBとの相溶性が高く、ゴムAとゴムBのそれぞれの特徴を機能的に発現させることが困難となる恐れがある。ゴム成分AのSP値の上限は特に限定されないが、加工性の悪化やスチレンブロックによる低燃費性能の悪化という観点から、18.6(J/cm3)1/2以下が好ましい。
【0018】
ゴム成分Aとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)やスチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより発揮できるという理由からSBRが好ましい。
【0019】
SBRとしては前記SP値を満たす限り、特に限定されず、未変性の溶液重合SBR(S-SBR)、未変性の乳化重合SBR(E-SBR)、およびこれらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)などが挙げられる。これらのSBRのなかでも、低燃費性能とウェットグリップ性能とのバランスの観点から、S-SBR、変性S-SBRが好ましく、低燃費性能に優れるという理由から変性S-SBRが好ましい。
【0020】
変性SBRとしては、それぞれ、タイヤ工業において一般的に使用されるSBRを変性剤で処理したものを使用することができる。前記変性剤としては、例えば、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルエチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0021】
前記変性剤によるSBRの変性方法としては、特公平6-53768号公報、特公平6-57767号公報、特表2003-514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を用いることができる。例えば、SBRと変性剤とを接触させればよく、アニオン重合によりSBRを合成した後、該重合体ゴム溶液中に変性剤を所定量添加し、SBRの重合末端(活性末端)と変性剤とを反応させる方法、SBR溶液中に変性剤を添加して反応させる方法などが挙げられる。
【0022】
SBRのスチレン含有量は、充分なSP値を有するSBRが得られるという観点から、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。また、SBRのスチレン含有量は、加工性の観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、本明細書におけるSBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0023】
SBRのビニル結合量は、スチレン連鎖を防ぐという理由から、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。また、SBRのビニル結合量は、充分なSP値を有するSBRが得られるという観点から、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。なお、本明細書におけるSBRのビニル結合量とは、ブタジエン部のビニル結合量のことを示し、1H-NMR測定により算出される値である。
【0024】
ゴム成分Aのガラス転移温度(Tg)が-45℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがより好ましい。該Tgは、10℃以下であることが好ましく、温帯冬期での脆化クラック防止の観点から5℃以下であることがより好ましい。なお、本明細書中の、ゴム成分のガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)を行って測定される値である。
【0025】
ゴム成分Aの重量平均分子量(Mw)は、グリップ性能や耐摩耗性の観点から、20万以上が好ましく、30万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、加工性の観点から、重量平均分子量は140万以下が好ましく、120万以下がより好ましい。また、ゴム成分AのMwは、低燃費性の観点からは、変性末端を多く使用でき、より低燃費性が向上するという点から、80万以下が好ましい。なお、本明細書において、SBRの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0026】
ゴム成分Aのゴム成分中の含有量は、20質量%以上であり、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。ゴム成分Aの含有量が20質量%未満の場合は、低燃費性およびウェットグリップ性能が不充分となる恐れがある。また、ゴム成分Aの含有量は、90質量%以下であり、85質量%以下が好ましい。ゴム成分Aの含有量が90質量%未満の場合は、加工性が不充分となる恐れがある。なお、所定のSP値を有し、ゴム成分Aに該当するゴム成分を2種以上含有する場合は、それらの合計含有量をゴム成分Aの含有量とする。
【0027】
ゴム成分BはSP値がゴム成分Aより0.6(J/cm3)1/2以上低いゴム成分であり、ゴム成分Aと非相溶性のゴム成分である。
【0028】
ゴム成分Aとゴム成分BとのSP値の差は、0.6(J/cm3)1/2以上である。この差が0.6(J/cm3)1/2未満の場合は、ゴム成分Aとゴム成分Bとの非相溶性が不充分であり、本発明の効果が得られない恐れがある。また、ゴム成分Aとゴム成分BとのSP値の差の上限は特に限定されないが、ゴム成分Aとゴム成分Bの相溶性が極端に低いと、界面での破壊起点となる恐れがあるため19.0(J/cm3)1/2以下が好ましい。
【0029】
所定のSP値を有し、ゴム成分Aに該当するゴム成分を2種以上含有する場合は、各ゴム成分のSP値と含有量との積を合算し、ゴム成分Aの合計含有量で除することで算出された値をゴム成分AのSP値として比較する。
【0030】
ゴム成分BのSP値は、ゴムAとの非相溶度を一定以上に保ち、ゴムA、ゴムBのそれぞれの特性を発現させるという観点から、17.4(J/cm3)1/2以下が好ましく、17.2(J/cm3)1/2以下がより好ましい。また、ゴム成分BのSP値の下限は特に限定されないが、ゴムAとのSP値が極端に離れると、ゴムAとゴムBの界面が破壊起点となってしまうという理由から、16.0(J/cm3)1/2以上が好ましい。
【0031】
ゴム成分Bとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)およびイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、加工性および耐摩耗性のバランスに優れるという理由からは、BRおよびNRが好ましい。
【0032】
前記BRとしては、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。
【0033】
前記ハイシスBRとは、シス1,4結合含有率が90重量%以上のブタジエンゴムである。このようなハイシスBRとして、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどが挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0034】
前記SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617などが挙げられる。
【0035】
前記変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)などが挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)などが挙げられる。
【0036】
これらの各種BRの中でも、低温特性に優れ、耐摩耗性が良好という理由からハイシスBRが好ましい。
【0037】
ゴム成分Bの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性の観点から、20万以上が好ましく、30万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、加工性の観点から、重量平均分子量は120万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0038】
ゴム成分Bのゴム成分中の含有量は、10質量%以上であり、15質量%以上が好ましい。ゴム成分Bの含有量が10質量%未満の場合は、加工性が不充分となる恐れがある。また、ゴム成分Bの含有量は、80質量%以下であり、70量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。ゴム成分Bの含有量が80質量%を超える場合は、低燃費性およびウェットグリップ性能が不充分となる恐れがある。
【0039】
所定のSP値を有し、ゴム成分Bに該当するゴム成分を2種以上含有する場合は、ゴム成分Aと同様に、各ゴム成分のSP値と含有量との積を合算し、ゴム成分Bの合計含有量で除することで算出された値をゴム成分BのSP値として比較する。
【0040】
ゴム成分はゴム成分Aおよびゴム成分B以外のゴム成分Cを含有してもよい。ゴム成分Cは、ゴム成分Aまたはゴム成分Bに該当しない限り特に限定されず、天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、前記のゴム成分に対し、従来からタイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、補強用充填剤、カップリング剤、酸化亜鉛、各種オイル、軟化剤、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0042】
前記補強用充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどが挙げられ、これらの無機充填剤を単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。耐摩耗性、耐久性、ウェットグリップ性能および低燃費性に優れるという理由からシリカが好ましい。
【0043】
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。シリカは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、20m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、N2SAの上限は400m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、280m2/g以下がさらに好ましい。N2SAが上記範囲内のシリカを用いることにより、低燃費性および加工性がバランス良く得られる。なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0045】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、シリカの分散性、加工性、低燃費性能の観点から、シリカの含有量は、200質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、120質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低燃費特性に優れるという点から好ましい。また、メルカプト系を使用すると、低燃費特性および耐摩耗性を好適に向上できるという点からも好ましい。
【0047】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なフィラー分散性の改善効果や、粘度低減等の効果が得られるという理由から、4.0質量部以上が好ましく、6.0質量部以上であることがより好ましい。また、十分なカップリング効果、シリカ分散効果が得られず、補強性が低下するという理由から、シランカップリング剤の含有量は、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
前記カーボンブラックとしては、特に限定されず、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。なかでも、耐摩耗性能に優れるという理由から、ファーネスブラックが好ましい。
【0049】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAとは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0050】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。3質量部未満の場合は、十分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が最も好ましい。200質量部を超える場合は、加工性が悪化する傾向、発熱しやすくなる傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0051】
本実施形態に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0052】
前記ゴム組成物は、ゴム成分Aとゴム成分Bとが相溶せずに非相溶構造を形成しているため、ゴム成分Aおよびゴム成分Bのそれぞれが有する特徴が発揮されるため、加工性および低燃費性を維持しつつ、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れるゴム組成物である。
【0053】
本発明の他の実施形態は前記ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤである。当該タイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、前記の各成分を混練して得られた未加硫ゴム組成物をタイヤトレッドの形状にあわせて押出し加工した部材をタイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例】
【0054】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
以下、実施例、参考例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR1:日本ゼオン(株)製のNipol NS616(変性S-SBR、スチレン含有量:20質量%、ビニル結合量:67モル%、SP値:17.25、Tg:-25℃、Mw:51万、非油展)
SBR2:後述のSBR2の製造方法により調製(未変性S-SBR、スチレン含有量:30質量%、ビニル結合量:46モル%、SP値:17.67、Tg:-28℃、Mw:48万、非油展)
SBR3:後述のSBR3の製造方法により調製(未変性S-SBR、スチレン含有量:35質量%、ビニル結合量:55モル%、SP値:17.74、Tg:-20℃、Mw:45万、非油展)
SBR4:Styron社製のSLR6430(未変性S-SBR、スチレン含有量:40質量%、ビニル結合量:24モル%、Mw:104万、Tg:-31℃、ゴム固形分100質量部に対しオイルを37.5質量部含む油展品)
SBR5:後述のSBR5の製造方法により調製(未変性S-SBR、スチレン含有量:40質量%、ビニル結合量:25モル%、SP値:18.09、Tg:-29℃、Mw:47万、非油展)
SBR6:後述のSBR6の製造方法により調製(未変性S-SBR、スチレン含有量:35質量%、ビニル結合量:30モル%、SP値:17.92、Tg:-33℃、Mw:46万、非油展)
SBR7:後述のSBR7の製造方法により調製(未変性S-SBR、スチレン含有量:30質量%、ビニル結合量:25モル%、SP値:17.81、Tg:-40℃、Mw:46万、非油展)
SBR8:後述のSBR8の製造方法により調製(変性S-SBR、スチレン含有量:40質量%、ビニル結合量:24モル%、SP値:18.09、Tg:-29℃、Mw:47万、非油展)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス-1,4結合含量:96%、SP値:17.17(J/cm3)1/2)
NR:TSR20(SP値:16.70(J/cm3)1/2)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL VN3(N2SA:175m2/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック(N339、N2SA:96m2/g、DBP吸油量:124ml/100g)
シランカップリング剤:デグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマオイル)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸 椿
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DM:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)
【0056】
SBR2の製造方法
充分に窒素置換した30L耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン600g、ブタジエン1400g、THF15.1ml、n-ブチルリチウム4.6mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、スチームストリッピング処理によって重合体溶液から凝集体を回収し、得られた凝集体を24時間減圧乾燥させSBR2を得た。得られたSBR2は重量平均分子量(Mw)48万、スチレン含有量30質量%であった。
【0057】
SBR3の製造方法
充分に窒素置換した30L耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン700g、ブタジエン1300g、THF3.6ml、n-ブチルリチウム4.9mmolを加えて、30℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりSBR3を得た。得られたSBR3は重量平均分子量(Mw)45万、スチレン含有量35質量%であった。
【0058】
SBR5の製造方法
充分に窒素置換した30L耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン800g、ブタジエン1200g、THF1.7ml、n-ブチルリチウム4.8mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりSBR5を得た。得られたSBR5は重量平均分子量(Mw)46万、スチレン含有量40質量%であった。
【0059】
SBR6の製造方法
充分に窒素置換した耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン700g、ブタジエン1300g、THF3.2ml、n-ブチルリチウム4.8mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりSBR6を得た。得られたSBR6は重量平均分子量(Mw)46万、スチレン含有量35質量%であった。
【0060】
SBR7の製造方法
充分に窒素置換した耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン600g、ブタジエン1400g、THF1.8ml、n-ブチルリチウム4.9mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりSBR7を得た。得られたSBR7は重量平均分子量(Mw)46万、スチレン含有量30質量%であった。
【0061】
SBR8の製造方法
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに和光純薬工業(株)製ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシランを7.0g入れ、さらに無水ヘキサンを加え全量を100mlにして作成した。
充分に窒素置換した耐熱反応容器にn-ヘキサン18L、スチレン800g、ブタジエン1200g、THF1.7ml、n-ブチルリチウム4.2mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、次に、前記変性剤を10ml追加し30分間撹拌を行い、その後、エタノールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりSBR8を得た。得られたSBR8は重量平均分子量(Mw)47万、スチレン含有量40質量%であった。
【0062】
実施例、参考例および比較例
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃に達するまで5分間混練りし、混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃で12分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0063】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0064】
加工性指数
JIS K6300-1に基づいて、未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を130℃で測定した。結果は比較例1を100とする指数で表し、指数が大きいほど加工性に優れることを示す。なお、加工性指数は90以上を性能目標指数とする。
【0065】
低燃費性指数
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪10%および動歪2%の条件下で、各加硫ゴム組成物の損失正接(高温tanδ)を測定した。結果は比較例1を100とする指数で表し、指数が大きいほど低燃費性能に優れることを示す。なお、低燃費性指数は95以上を性能目標値とする。
【0066】
ウェットグリップ指数
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数で表し、数値が大きいほどウェットスキッド性能(ウェットグリップ性能)が良好である。指数は次の式で求めた。なお、ウェットグリップ指数は102以上を性能目標値とする。
(ウェットグリップ指数)=(基準比較例の制動距離)/(各配合の制動距離)×100
【0067】
耐摩耗性指数
LAT試験機(Laboratory Abrasion and Skid Tester)を用い、荷重50N、速度20km/h、スリップアングル5°の条件にて、各加硫ゴム組成物の容積損失量を測定した。結果は比較例1を100とする指数で表し、指数が大きいほど耐摩耗性能に優れることを示す。なお、耐摩耗性指数は102以上を性能目標値とする。
【0068】
【0069】
表1の結果より、本発明のゴム組成物および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、加工性および低燃費性を維持しつつ、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れることがわかる。