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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/128 20060101AFI20220107BHJP
   B60T 13/18 20060101ALI20220107BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20220107BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60T13/128
B60T13/18
B60T13/68
B60T8/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017186866
(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019059409
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小林 達史
(72)【発明者】
【氏名】▲葛▼谷 賢
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226918(JP,A)
【文献】特開昭61-241252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ内を摺動するピストンの駆動量を調整する調整機構を有し前記ピストンを駆動してホイールシリンダにブレーキ液を供給するピストン駆動部と、ブレーキ操作部材の操作量が大きくなるほど前記ピストンの駆動量が大きくなるように前記調整機構を制御するピストン制御部と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に配置され、前記ホイールシリンダ内の前記ブレーキ液を前記ホイールシリンダ外に吐出し、モータによって駆動されるポンプと、を備え、前記ピストン駆動部の作動とは別に前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた操作力によって前記ピストンが駆動されるように構成された車両用制動装置であって、
前記マスタシリンダの出力液圧の最大値を決定する最大出力決定部と、
前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が行われている状況下で前記ブレーキ操作部材の操作量が所定値以上となった場合、前記最大出力決定部によって決定された前記出力液圧の最大値に基づき前記ピストンの駆動量を規定値以下に制限するピストン駆動制限部と、
を備える車両用制動装置。
【請求項2】
前記ピストン駆動制限部は、前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が行われている状況下における前記ブレーキ操作部材の操作量が大きいほど、前記規定値を小さくする請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記ピストン駆動制限部は、前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が行われている状況下で前記ブレーキ操作部材の操作量が所定値以上となり、且つ、前記モータの温度が所定温度以上である場合、前記最大出力決定部によって決定された前記出力液圧の最大値に基づき前記ピストンの駆動量を前記規定値以下に制限する請求項1または2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記ピストン駆動制限部は、前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が行われている状況下で前記ブレーキ操作部材の操作量が所定値以上となり、且つ、前記ポンプが所定時間以上駆動している場合、前記最大出力決定部によって決定された前記出力液圧の最大値に基づき前記ピストンの駆動量を前記規定値以下に制限する請求項1~3の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記ピストン駆動制限部は、前記ピストンの駆動量を前記規定値以下に制限した後、前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が規定時間以上継続する蓋然性が高い場合、前記ブレーキ操作部材の操作量によらず前記制限を継続する請求項1~4の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
前記ピストン駆動部は、前記ピストンに対して液圧による駆動力を発生させる高圧源と、前記高圧源から供給された液圧を調整する前記調整機構と、を備え、
前記最大出力決定部は、前記高圧源の液圧を所定の上限値から下限値の間に維持し、
前記ピストン駆動制限部は、前記最大出力決定部で設定された前記上限値を低下させて、前記ピストンの駆動量を前記規定値以下に制限する請求項1~5の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制動装置において、例えばABS(アンチロックブレーキシステム)や横滑り防止装置を構成するアクチュエータには、ホイールシリンダからマスタシリンダにブレーキ液を吐出する(戻す)ためのポンプが設置されている。例えば特開平7-223525号公報には、アンチスキッド制御のためのABS制御用油圧ポンプと、ブレーキトラクション制御のためのTCS制御用油圧ポンプと、それらを駆動させるモータと、を備える車両のスリップ制御装置が記載されている。この装置によれば、アンチスキッド制御の実行状況によりブレーキトラクション制御を禁止することでモータの負荷の増大が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-223525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなポンプを備える車両用制動装置において、マスタシリンダからホイールシリンダにブレーキ液が供給される際、構成上、ポンプには当該ブレーキ液の液圧が加わり、ポンプ自体に負荷がかかる。ポンプ動作中に高圧のブレーキ液がポンプに加えられると、その負荷によりモータがロックするおそれがある。そこで、油圧式ブースタや電動ブースタ(例えば電動シリンダ)などの上流側の倍力装置において、その力の調整機構(例えば油圧式ブースタであれば増圧弁及び減圧弁、電動ブースタであればモータ)を制御することで、ポンプに加わる液圧を制限することが考えられる。
【0005】
このような車両用制動装置では、倍力装置の調整機構に電気失陥等の故障が生じた場合でも、ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンが駆動するように構成されている。しかし、調整機構に故障が生じると、機械的に(制御なしに)ブレーキ操作に応じた液圧が発生し、ポンプに加わる液圧を確実に制限することが困難となる。したがって、上記故障が生じた場合、モータのロックを回避するためには、ポンプの駆動を禁止しなければならない。上記のような故障状態においても、モータのロックを回避しつつ、ポンプを用いたアンチスキッド制御等を実行できることが望まれる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、ピストンの駆動量の調整機構に故障が生じたとしても、モータのロックを回避しつつポンプを作動させることができる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制動装置は、マスタシリンダ内を摺動するピストンの駆動量を調整する調整機構を有し前記ピストンを駆動してホイールシリンダにブレーキ液を供給するピストン駆動部と、ブレーキ操作部材の操作量が大きくなるほど前記ピストンの駆動量が大きくなるように前記調整機構を制御するピストン制御部と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に配置され、前記ホイールシリンダ内の前記ブレーキ液を前記ホイールシリンダ外に吐出し、モータによって駆動されるポンプと、を備え、前記ピストン駆動部の作動とは別に前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた操作力によって前記ピストンが駆動されるように構成された車両用制動装置であって、前記マスタシリンダの出力液圧の最大値を決定する最大出力決定部と、前記ポンプによる前記ブレーキ液の吐出が行われている状況下で前記ブレーキ操作部材の操作量が所定値以上となった場合、前記最大出力決定部によって決定された前記出力液圧の最大値に基づき前記ピストンの駆動量を規定値以下に制限するピストン駆動制限部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えばピストン駆動部の調整機構が故障した場合でも、ポンプ作動中にブレーキ操作部材の操作量が大きくなれば、ピストン駆動制限部が最大出力決定部を調整することで、ピストンの駆動量は制限される。つまり、高圧が発生する状況で、調整機構への制御とは別に、マスタシリンダからの出力液圧の最大値を制限することで、たとえ調整機構に故障が生じても、ポンプ作動時にポンプに高圧が加わることを抑制することができる。本発明によれば、調整機構に故障が生じたとしても、モータのロックを回避しつつポンプを作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図2】本実施形態のレギュレータの構成図である。
図3】本実施形態のアクチュエータの構成図である。
図4】本実施形態のオフ圧の変化を示す説明図である。
図5】本実施形態の駆動量制限制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。車両用制動装置BFは、図1に示すように、マスタシリンダ1と、反力発生装置2と、第1制御弁22と、第2制御弁23と、サーボ圧発生装置(「ピストン駆動部」に相当する)4と、アクチュエータ5と、ホイールシリンダ541~544と、各種センサ71~77と、上流側ECU6と、下流側ECU8と、を備えている。
【0011】
マスタシリンダ1は、ブレーキペダル(「ブレーキ操作部材」に相当する)10の操作量に応じて作動液をアクチュエータ5に供給する部位であり、メインシリンダ11、カバーシリンダ12、入力ピストン13、第1マスタピストン14、および第2マスタピストン15を備えている。ブレーキペダル10は、ドライバがブレーキ操作可能なブレーキ操作手段であれば良い。
【0012】
メインシリンダ11は、前方が閉塞されて後方に開口する有底略円筒状のハウジングである。メインシリンダ11の内周側の後方寄りに、内向きフランジ状に突出する内壁部111が設けられている。内壁部111の中央は、前後方向に貫通する貫通孔111aとされている。また、メインシリンダ11の内部の内壁部111よりも前方に、内径がわずかに小さくなっている小径部位112(後方)、113(前方)が設けられている。つまり、小径部位112、113は、メインシリンダ11の内周面から内向き環状に突出している。メインシリンダ11の内部には、小径部位112に摺接して軸方向に移動可能に第1マスタピストン14が配設されている。同様に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に第2マスタピストン15が配設されている。
【0013】
カバーシリンダ12は、略円筒状のシリンダ部121、蛇腹筒状のブーツ122、およびカップ状の圧縮スプリング123で構成されている。シリンダ部121は、メインシリンダ11の後端側に配置され、メインシリンダ11の後側の開口に同軸的に嵌合されている。シリンダ部121の前方部位121aの内径は、内壁部111の貫通孔111aの内径よりも大きい。また、シリンダ部121の後方部位121bの内径は、前方部位121aの内径よりも小さい。
【0014】
防塵用のブーツ122は蛇腹筒状で前後方向に伸縮可能であり、その前側でシリンダ部121の後端側開口に接するように組み付けられている。ブーツ122の後方の中央には貫通孔122aが形成されている。圧縮スプリング123は、ブーツ122の周りに配置されるコイル状の付勢部材であり、その前側がメインシリンダ11の後端に当接し、後側はブーツ122の貫通孔122aに近接するように縮径されている。ブーツ122の後端および圧縮スプリング123の後端は、操作ロッド10aに結合されている。圧縮スプリング123は、操作ロッド10aを後方に付勢している。
【0015】
入力ピストン13は、ブレーキペダル10の操作に応じてカバーシリンダ12内を摺動するピストンである。入力ピストン13は、前方に底面を有し後方に開口を有する有底略円筒状のピストンである。入力ピストン13の底面を構成する底壁131は、入力ピストン13の他の部位よりも径が大きくなっている。入力ピストン13は、シリンダ部121の後方部位121bに軸方向に摺動可能かつ液密的に配置され、底壁131がシリンダ部121の前方部位121aの内周側に入り込んでいる。
【0016】
入力ピストン13の内部には、ブレーキペダル10に連動する操作ロッド10aが配設されている。操作ロッド10aの先端のピボット10bは、入力ピストン13を前側に押動できるようになっている。操作ロッド10aの後端は、入力ピストン13の後側の開口およびブーツ122の貫通孔122aを通って外部に突出し、ブレーキペダル10に接続されている。ブレーキペダル10が踏み込み操作されたときに、操作ロッド10aは、ブーツ122および圧縮スプリング123を軸方向に押動しながら前進する。操作ロッド10aの前進に伴い、入力ピストン13も連動して前進する。
【0017】
第1マスタピストン14は、メインシリンダ11の内壁部111に軸方向に摺動可能に配設されている。第1マスタピストン14は、前方側から順番に加圧筒部141、フランジ部142、および突出部143が一体となって形成されている。加圧筒部141は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、メインシリンダ11の内周面との間に間隙を有し、小径部位112に摺接している。加圧筒部141の内部空間には、第2マスタピストン15との間にコイルばね状の付勢部材144が配設されている。付勢部材144により、第1マスタピストン14は後方に付勢されている。換言すると、第1マスタピストン14は、設定された初期位置に向けて付勢部材144により付勢されている。
【0018】
フランジ部142は、加圧筒部141よりも大径で、メインシリンダ11の内周面に摺接している。突出部143は、フランジ部142よりも小径で、内壁部111の貫通孔111aに液密に摺動するように配置されている。突出部143の後端は、貫通孔111aを通り抜けてシリンダ部121の内部空間に突出し、シリンダ部121の内周面から離間している。突出部143の後端面は、入力ピストン13の底壁131から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
【0019】
ここで、メインシリンダ11の内周面、第1マスタピストン14の加圧筒部141の前側、および第2マスタピストン15の後側により、「第1マスタ室1D」が区画されている。また、メインシリンダ11の内周面(内周部)と小径部位112と内壁部111の前面、および第1マスタピストン14の外周面により、第1マスタ室1Dよりも後方の後方室が区画されている。第1マスタピストン14のフランジ部142の前端部および後端部は後方室を前後に区分しており、前側に「第2液圧室1C」が区画され、後側に「サーボ室1A」が区画されている。第2液圧室1Cは、第1マスタピストン14の前進により容積が減少し第1マスタピストン14の後退により容積が増加する。また、メインシリンダ11の内周部、内壁部111の後面、シリンダ部121の前方部位121aの内周面(内周部)、第1マスタピストン14の突出部143(後端部)、および入力ピストン13の前端部により「第1液圧室1B」が区画されている。
【0020】
第2マスタピストン15は、メインシリンダ11内の第1マスタピストン14の前方側に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に配置されている。第2マスタピストン15は、前方に開口を有する筒状の加圧筒部151、および加圧筒部151の後側を閉塞する底壁152が一体となって形成されている。底壁152は、第1マスタピストン14との間に付勢部材144を支承している。加圧筒部151の内部空間には、メインシリンダ11の閉塞された内底面111dとの間に、コイルばね状の付勢部材153が配設されている。付勢部材153により、第2マスタピストン15は後方に付勢されている。換言すると、第2マスタピストン15は、設定された初期位置に向けて付勢部材153により付勢されている。メインシリンダ11の内周面、内底面111d、および第2マスタピストン15により、「第2マスタ室1E」が区画されている。
【0021】
マスタシリンダ1には、内部と外部を連通させるポート11a~11iが形成されている。ポート11aは、メインシリンダ11のうち内壁部111よりも後方に形成されている。ポート11bは、ポート11aと軸方向の同様の位置に、ポート11aに対向して形成されている。ポート11aとポート11bは、メインシリンダ11の内周面とシリンダ部121の外周面との間の環状空間を介して連通している。ポート11aおよびポート11bは、配管161に接続され、かつリザーバ171(低圧源)に接続されている。
【0022】
また、ポート11bは、シリンダ部121および入力ピストン13に形成された通路18により第1液圧室1Bに連通している。通路18は入力ピストン13が前進すると遮断され、これによって第1液圧室1Bとリザーバ171とが遮断される。ポート11cは、内壁部111より後方かつポート11aよりも前方に形成され、第1液圧室1Bと配管162とを連通させている。ポート11dは、ポート11cよりも前方に形成され、サーボ室1Aと配管163とを連通させている。ポート11eは、ポート11dよりも前方に形成され、第2液圧室1Cと配管164とを連通させている。
【0023】
ポート11fは、小径部位112の両シール部材G1、G2の間に形成され、リザーバ172とメインシリンダ11の内部とを連通している。ポート11fは、第1マスタピストン14に形成された通路145を介して第1マスタ室1Dに連通している。通路145は、第1マスタピストン14が前進するとポート11fと第1マスタ室1Dが遮断される位置に形成されている。ポート11gは、ポート11fよりも前方に形成され、第1マスタ室1Dと管路31とを連通させている。
【0024】
ポート11hは、小径部位113の両シール部材G3、G4の間に形成され、リザーバ173とメインシリンダ11の内部とを連通させている。ポート11hは、第2マスタピストン15の加圧筒部151に形成された通路154を介して第2マスタ室1Eに連通している。通路154は、第2マスタピストン15が前進するとポート11hと第2マスタ室1Eが遮断される位置に形成されている。ポート11iは、ポート11hよりも前方に形成され、第2マスタ室1Eと管路32とを連通させている。
【0025】
また、マスタシリンダ1内には、適宜、Oリング等のシール部材が配置されている。シール部材G1、G2は、小径部位112に配置され、第1マスタピストン14の外周面に液密的に当接している。同様に、シール部材G3、G4は、小径部位113に配置され、第2マスタピストン15の外周面に液密的に当接している。また、入力ピストン13とシリンダ部121との間にもシール部材G5、G6が配置されている。
【0026】
ストロークセンサ71は、ドライバによりブレーキペダル10が操作された操作量(ストローク)を検出するセンサであり、検出信号を上流側ECU6及び下流側ECU8に送信する。ブレーキストップスイッチ72は、ドライバによるブレーキペダル10の操作の有無を2値信号で検出するスイッチであり、検出信号を上流側ECU6に送信する。
【0027】
反力発生装置2は、ブレーキペダル10が操作されたとき操作力に対抗する反力を発生する装置であり、ストロークシミュレータ21を主にして構成されている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10の操作に応じて第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cに反力液圧を発生させる。ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合されて構成されている。ピストン212は圧縮スプリング213によって後方に付勢されており、ピストン212の後面側に反力液圧室214が形成される。反力液圧室214は、配管164およびポート11eを介して第2液圧室1Cに接続され、さらに、反力液圧室214は、配管164を介して第1制御弁22および第2制御弁23に接続されている。
【0028】
第1制御弁22は、非通電状態で閉じる構造の電磁弁であり、上流側ECU6により開閉が制御される。第1制御弁22は、配管164と配管162との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管162はポート11cを介して第1液圧室1Bに連通している。また、第1制御弁22が開くと第1液圧室1Bが開放状態になり、第1制御弁22が閉じると第1液圧室1Bが密閉状態になる。したがって、配管164および配管162は、第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとを連通するように設けられている。
【0029】
第1制御弁22は通電されていない非通電状態で閉じており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが遮断される。これにより、第1液圧室1Bが密閉状態になって作動液の行き場がなくなり、入力ピストン13と第1マスタピストン14とが一定の離間距離を保って連動する。また、第1制御弁22は通電された通電状態では開いており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが連通される。これにより、第1マスタピストン14の進退に伴う第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cの容積変化が、作動液の移動により吸収される。
【0030】
圧力センサ73は、第2液圧室1Cおよび第1液圧室1Bの反力液圧を検出するセンサであり、配管164に接続されている。圧力センサ73は、第1制御弁22が閉状態の場合には第2液圧室1Cの圧力を検出し、第1制御弁22が開状態の場合には連通された第1液圧室1Bの圧力も検出することになる。圧力センサ73は、検出信号を上流側ECU6に送信する。
【0031】
第2制御弁23は、非通電状態で開く構造の電磁弁であり、上流側ECU6により開閉が制御される。第2制御弁23は、配管164と配管161との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管161はポート11aを介してリザーバ171に連通している。したがって、第2制御弁23は、第2液圧室1Cとリザーバ171との間を非通電状態で連通して反力液圧を発生させず、通電状態で遮断して反力液圧を発生させる。
【0032】
サーボ圧発生装置4は、いわゆる油圧式ブースタ(倍力装置)であって、減圧弁41、増圧弁42、圧力供給部43、およびレギュレータ44を備えている。減圧弁41は、非通電状態で開く常開型の電磁弁(常開弁)であり、上流側ECU6により流量(又は圧力)が制御される。減圧弁41の一方は配管411を介して配管161に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。つまり、減圧弁41の一方は、配管411、161、およびポート11a、11bを介してリザーバ171に連通している。減圧弁41は、閉弁することで、後述する第1パイロット室4Dから作動液が流出することを阻止する。なお、リザーバ171とリザーバ434とは、図示していないが連通している。リザーバ171とリザーバ434が同一のリザーバであっても良い。
【0033】
増圧弁42は、非通電状態で閉じる常閉型の電磁弁(常閉弁)であり、上流側ECU6により流量(又は圧力)が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。圧力供給部43は、レギュレータ44に主に高圧の作動液を供給する部位である。圧力供給部43は、アキュムレータ(「高圧源」に相当する)431、液圧ポンプ432、モータ433、およびリザーバ434を備えている。
【0034】
アキュムレータ431は、高圧の作動液を蓄積するタンクである。アキュムレータ431は、配管431aによりレギュレータ44および液圧ポンプ432に接続されている。液圧ポンプ432は、モータ433によって駆動され、リザーバ434に貯留された作動液を、アキュムレータ431に圧送する。配管431aに設けられた圧力センサ75は、アキュムレータ431のアキュムレータ液圧を検出し、検出信号を上流側ECU6に送信する。アキュムレータ液圧は、アキュムレータ431に蓄積された作動液の蓄積量に相関する。
【0035】
アキュムレータ液圧が所定のオン圧以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、上流側ECU6からの指令に基づいてモータ433が駆動される。これにより、液圧ポンプ432は、アキュムレータ431に作動液を圧送して、アキュムレータ液圧を所定値以上に回復する。また、アキュムレータ液圧が所定のオフ圧以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、上流側ECU6からの指令に基づいてモータ433が停止する。つまり、上流側ECU6には、モータ433(アキュムレータ431)のオン圧とオフ圧が設定されており、上流側ECU6が圧力センサ75の検出値に基づいてアキュムレータ液圧を制御している。
【0036】
レギュレータ44は、図2に示すように、シリンダ441、ボール弁442、付勢部443、弁座部444、制御ピストン445、およびサブピストン446を備えている。シリンダ441は、一方(図面右側)に底面をもつ略有底円筒状のシリンダケース441aと、シリンダケース441aの開口(図面左側)を塞ぐ蓋部材441bと、で構成されている。シリンダケース441aには、内部と外部を連通させる複数のポート4a~4hが形成されている。蓋部材441bも、略有底円筒状に形成されており、筒状部の複数のポート4a~4hに対向する各部位に各ポートが形成されている。
【0037】
ポート4aは、配管431aに接続されている。ポート4bは、配管422に接続されている。ポート4cは、配管163に接続されている。配管163は、サーボ室1Aとポート4cとを接続している。ポート4dは、配管414を介してリザーバ434に接続されている。ポート4eは、配管424に接続され、さらにリリーフバルブ423を経由して配管422に接続されている。ポート4fは、配管413に接続されている。ポート4gは、配管421に接続されている。ポート4hは、管路31から分岐した管路311に接続されている。
【0038】
ボール弁442は、ボール型の弁であり、シリンダ441内部のシリンダケース441aの底面側(以下、シリンダ底面側とも称する)に配置されている。付勢部443は、ボール弁442をシリンダケース441aの開口側(以下、シリンダ開口側とも称する)に付勢するバネ部材であって、シリンダケース441aの底面に設置されている。弁座部444は、シリンダケース441aの内周面に設けられた壁部材であり、シリンダ開口側とシリンダ底面側を区画している。弁座部444の中央には、区画したシリンダ開口側とシリンダ底面側を連通させる貫通路444aが形成されている。弁座部444は、付勢されたボール弁442が貫通路444aを塞ぐ形で、ボール弁442をシリンダ開口側から保持している。貫通路444aのシリンダ底面側の開口部には、ボール弁442が離脱可能に着座(当接)する弁座面444bが形成されている。
【0039】
ボール弁442、付勢部443、弁座部444、およびシリンダ底面側のシリンダケース441aの内周面で区画された空間を「第1室4A」とする。第1室4Aは、作動液で満たされており、ポート4aを介して配管431aに接続され、ポート4bを介して配管422に接続されている。
【0040】
制御ピストン445は、略円柱状の本体部445aと、本体部445aよりも径が小さい略円柱状の突出部445bとからなっている。本体部445aは、シリンダ441内において、弁座部444のシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に、軸方向に摺動可能に配置されている。本体部445aは、図示しない付勢部材によりシリンダ開口側に付勢されている。本体部445aのシリンダ軸方向略中央には、両端が本体部445a周面に開口した径方向(図面上下方向)に延びる通路445cが形成されている。通路445cの開口位置に対応したシリンダ441の一部の内周面は、ポート4dが形成されているとともに、凹状に窪んでいる。この窪んだ空間を「第3室4C」とする。
【0041】
突出部445bは、本体部445aのシリンダ底面側端面の中央からシリンダ底面側に突出している。突出部445bの径は、弁座部444の貫通路444aよりも小さい。突出部445bは、貫通路444aと同軸上に配置されている。突出部445bの先端は、ボール弁442からシリンダ開口側に所定間隔離れている。突出部445bには、突出部445bのシリンダ底面側端面中央に開口したシリンダ軸方向に延びる通路445dが形成されている。通路445dは、本体部445a内にまで延伸し、通路445cに接続している。
【0042】
本体部445aのシリンダ底面側端面、突出部445bの外周面、シリンダ441の内周面、弁座部444、およびボール弁442によって区画された空間を「第2室4B」とする。第2室4Bは、突出部445bとボール弁442とが当接していない状態で、通路445d、445c、および第3室4Cを介してポート4d、4eに連通している。
【0043】
サブピストン446は、サブ本体部446aと、第1突出部446bと、第2突出部446cとからなっている。サブ本体部446aは、略円柱状に形成されている。サブ本体部446aは、シリンダ441内において、本体部445aのシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的、軸方向に摺動可能に配置されている。また、サブピストン446のシリンダ底面側の端部には、ダンパ機構が設けられても良い。
【0044】
第1突出部446bは、サブ本体部446aより小径の略円柱状であり、サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面中央から突出している。第1突出部446bは、本体部445aのシリンダ開口側端面に当接している。第2突出部446cは、第1突出部446bと同形状であり、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面中央から突出している。第2突出部446cは、蓋部材441bと当接している。
【0045】
サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面、第1突出部446bの外周面、制御ピストン445のシリンダ開口側の端面、およびシリンダ441の内周面で区画された空間を「第1パイロット室4D」とする。第1パイロット室4Dは、ポート4fおよび配管413を介して減圧弁41に連通し、ポート4gおよび配管421を介して増圧弁42に連通している。
【0046】
一方、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面、第2突出部446cの外周面、蓋部材441b、およびシリンダ441の内周面で区画された空間を「第2パイロット室4E」とする。第2パイロット室4Eは、ポート4hおよび管路311、31を介してポート11gに連通している。各室4A~4Eは、作動液で満たされている。圧力センサ74は、サーボ室1Aに供給されるサーボ圧を検出するセンサであり、配管163に接続されている。圧力センサ74は、検出信号を上流側ECU6に送信する。
【0047】
このように、レギュレータ44は、第1パイロット室4Dの圧力(「パイロット圧」とも称する)に対応する力とサーボ圧に対応する力との差によって駆動される制御ピストン445を有し、制御ピストン445の移動に伴って第1パイロット室4Dの容積が変化し、第1パイロット室4Dに流入出する液体の流量が増大すると、パイロット圧に対応する力とサーボ圧に対応する力とが釣り合っている平衡状態における制御ピストン445の位置を基準とする同制御ピストン445の移動量が増大して、サーボ室1Aに流入出する液体の流量が増大するように構成されている。すなわち、レギュレータ44は、パイロット圧とサーボ圧との差圧に応じた流量の液体がサーボ室1Aに流入出するように構成されている。
【0048】
このように、減圧弁41及び増圧弁42は、サーボ圧を調整する機構、すなわちマスタピストン14、15の駆動量を調整する調整機構40を構成している。増圧弁42は、マスタピストン14、15の駆動量の増大量を調整する機構(増圧側の調整機構40)ともいえる。減圧弁41は、マスタピストン14、15の駆動量の減少量を調整する機構(減圧側の調整機構40)ともいえる。アキュムレータ431は、調整機構40に供給する液圧、すなわちマスタピストン14、15の駆動力を発生させる(溜める)装置である。まとめると、サーボ圧発生装置4は、マスタシリンダ1内を摺動するマスタピストン14、15の駆動量を調整する調整機構40、及びマスタピストン14、15の駆動力を発生させるアキュムレータ431を有し、マスタピストン14、15を駆動してホイールシリンダ541~544にブレーキ液を供給する装置である。
【0049】
アクチュエータ5は、マスタシリンダ圧(以下、マスタ圧という)が発生する第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eと、ホイールシリンダ541~544の間に配置されている。アクチュエータ5と第1マスタ室1Dとは管路31により接続され、アクチュエータ5と第2マスタ室1Eは管路32により接続されている。アクチュエータ5は、下流側ECU8の指示に応じて、ホイールシリンダ541~544の液圧(ホイール圧)を調整する装置である。アクチュエータ5は、下流側ECU8の指令に応じて、ブレーキ液をマスタ圧からさらに加圧する加圧制御、減圧制御、及び保持制御を実行する。アクチュエータ5は、下流側ECU8の指令に基づき、これら制御を組み合わせて、アンチスキッド制御(ABS制御)、又は横滑り防止制御(ESC制御)等を実行する。
【0050】
具体的に、アクチュエータ5は、図3に示すように、油圧回路5Aと、モータ90と、を備えている。油圧回路5Aは、第1配管系統50aと、第2配管系統50bと、を備えている。第1配管系統50aは、後輪Wrl、Wrrに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。第2配管系統50bは、前輪Wfl、Wfrに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。また、各車輪Wに対して、車輪速度センサ76が設置されている。本実施形態では前後配管が採用されている。
【0051】
第1配管系統50aは、主管路Aと、差圧制御弁51と、増圧弁52、53と、減圧管路Bと、減圧弁54、55と、調圧リザーバ56と、還流管路Cと、ポンプ57と、補助管路Dと、オリフィス部58と、ダンパ部59と、を備えている。説明において、「管路」の用語は、例えば液圧路、流路、油路、通路、又は配管等に置換可能である。
【0052】
主管路Aは、管路32とホイールシリンダ541、542とを接続する管路である。差圧制御弁51は、主管路Aに設けられ、主管路Aを連通状態と差圧状態に制御する電磁弁である。差圧状態は、弁により流路が制限された状態であり、絞り状態ともいえる。差圧制御弁51は、下流側ECU8の指示に基づく制御電流に応じて、自身を中心としたマスタシリンダ1側の液圧とホイールシリンダ541、542側の液圧との差圧(以下、「第一差圧」とも称する)を制御する。換言すると、差圧制御弁51は、主管路Aのマスタシリンダ1側の部分の液圧と主管路Aのホイールシリンダ541、542側の部分の液圧との差圧を制御可能に構成されている。
【0053】
差圧制御弁51は、非通電状態で連通状態となるノーマルオープンタイプである。差圧制御弁51に印加される制御電流が大きいほど、第一差圧は大きくなる。差圧制御弁51が差圧状態に制御されてポンプ57が駆動している場合、制御電流に応じて、マスタシリンダ1側の液圧よりもホイールシリンダ541、542側の液圧のほうが大きくなる。差圧制御弁51に対しては、逆止弁51aが設置されている。主管路Aは、ホイールシリンダ541、542に対応するように、差圧制御弁51の下流側の分岐点Xで2つの管路A1、A2に分岐している。
【0054】
増圧弁52、53は、下流側ECU8の指示により開閉する電磁弁であって、非通電状態で開状態(連通状態)となるノーマルオープンタイプの電磁弁である。増圧弁52は管路A1に配置され、増圧弁53は管路A2に配置されている。増圧弁52、53は、増圧制御時に非通電状態で開状態となってホイールシリンダ541~544と分岐点Xと連通させ、保持制御及び減圧制御時に通電されて閉状態となりホイールシリンダ541~544と分岐点Xとを遮断する。
【0055】
減圧管路Bは、管路A1における増圧弁52とホイールシリンダ541、542との間と調圧リザーバ56とを接続し、管路A2における増圧弁53とホイールシリンダ541、542との間と調圧リザーバ56とを接続する管路である。減圧弁54、55は、下流側ECU8の指示により開閉する電磁弁であって、非通電状態で閉状態(遮断状態)となるノーマルクローズタイプの電磁弁である。減圧弁54は、ホイールシリンダ541、542側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁55は、ホイールシリンダ541、542側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁54、55は、主に減圧制御時に通電されて開状態となり、減圧管路Bを介してホイールシリンダ541、542と調圧リザーバ56とを連通させる。調圧リザーバ56は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を有するリザーバである。
【0056】
還流管路Cは、減圧管路B(又は調圧リザーバ56)と、主管路Aにおける差圧制御弁51と増圧弁52、53の間(ここでは分岐点X)とを接続する管路である。ポンプ57は、吐出ポートが分岐点X側で吸入ポートが調圧リザーバ56側に配置されるように、還流管路Cに設けられている。ポンプ57は、モータ90によって駆動されるギア式の電動ポンプ(ギアポンプ)である。ポンプ57は、還流管路Cを介して、調圧リザーバ56からマスタシリンダ1側又はホイールシリンダ541、542側にブレーキ液を流動させる。また、ポンプ57は、例えばアンチスキッド制御の際、開状態の減圧弁54、55を介して、ホイールシリンダ541、542内のブレーキ液をマスタシリンダ1に汲み戻す。このように、ポンプ57は、マスタシリンダ1とホイールシリンダ541、542との間に配置され、ホイールシリンダ541、542内のブレーキ液をホイールシリンダ541、542外に吐出することができる。
【0057】
ポンプ57は、ブレーキ液を吐出する吐出過程と、ブレーキ液を吸入する吸入過程と、を繰り返すように構成されている。つまり、ポンプ57は、モータ90により駆動されると、吐出過程と吸入過程とを交互に繰り返して実行する。吐出過程では、吸入過程で調圧リザーバ56から吸入したブレーキ液が、分岐点Xに供給される。モータ90は、下流側ECU8の指示により、リレー(図示せず)を介して通電され、駆動する。ポンプ57とモータ90は、併せて電動ポンプともいえる。
【0058】
オリフィス部58は、還流管路Cのポンプ57と分岐点Xとの間の部分に設けられた、絞り形状部位(いわゆるオリフィス)である。ダンパ部59は、還流管路Cのポンプ57とオリフィス部58との間の部分に接続されたダンパ(ダンパ機構)である。ダンパ部59は、還流管路Cのブレーキ液の脈動に応じて、当該ブレーキ液を吸収・吐出する。オリフィス部58及びダンパ部59は、脈動を低減(減衰、吸収)する脈動低減機構といえる。
【0059】
補助管路Dは、調圧リザーバ56の調圧孔56aと、主管路Aにおける差圧制御弁51よりも上流側(又はマスタシリンダ1)とを接続する管路である。調圧リザーバ56は、ストローク増加による調圧孔56aへのブレーキ液の流入量増加に伴い、弁孔56bが閉塞されるように構成されている。弁孔56bの管路B、C側にはリザーバ室56cが形成される。
【0060】
ポンプ57の駆動により、調圧リザーバ56又はマスタシリンダ1内のブレーキ液が、還流管路Cを介して主管路Aにおける差圧制御弁51と増圧弁52、53の間の部分(分岐点X)に吐出される。そして、差圧制御弁51及び増圧弁52、53の制御状態に応じて、ホイール圧が加圧される。このようにアクチュエータ5では、ポンプ57の駆動と各種弁の制御により加圧制御が実行される。つまり、アクチュエータ5は、ホイール圧を加圧可能に構成されている。なお、主管路Aの差圧制御弁51とマスタシリンダ1の間の部分には、当該部分の液圧(マスタ圧)を検出する圧力センサYが設置されている。圧力センサYは、検出結果を上流側ECU6及び下流側ECU8に送信する。
【0061】
第2配管系統50bは、第1配管系統50aと同様の構成であって、前輪Wfl、Wfrのホイールシリンダ543、544の液圧を調整する系統である。第2配管系統50bは、主管路Aに相当し管路31とホイールシリンダ543、544とを接続する主管路Abと、差圧制御弁51に相当する差圧制御弁91と、増圧弁52、53に相当する増圧弁92、93と、減圧管路Bに相当する減圧管路Bbと、減圧弁54、55に相当する減圧弁94、95と、調圧リザーバ56に相当する調圧リザーバ96と、還流管路Cに相当する還流管路Cbと、ポンプ57に相当するポンプ97と、補助管路Dに相当する補助管路Dbと、オリフィス部58に相当するオリフィス部58aと、ダンパ部59に相当するダンパ部59aと、を備えている。第2配管系統50bの詳細構成については、第1配管系統50aの説明を参照できるため、説明を省略する。
【0062】
アクチュエータ5によるホイール圧の調圧は、マスタ圧をそのままホイールシリンダ541~544に提供する増圧制御、ホイールシリンダ541~544を密閉する保持制御、ホイールシリンダ541~544内のフルードを調圧リザーバ56に流出させる減圧制御、又は差圧制御弁51による絞りとポンプ57の駆動によりホイール圧を加圧する加圧制御を実行することで為されている。
【0063】
上流側ECU6及び下流側ECU8は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)である。上流側ECU6は、ホイール圧の目標値である目標ホイール圧(又は目標減速度)に基づいて、サーボ圧発生装置4に対する制御を実行するECUである。上流側ECU6は、目標ホイール圧に基づいて、サーボ圧発生装置4に対して、加圧制御、減圧制御、又は保持制御を実行する。加圧制御では、増圧弁42が開状態となり、減圧弁41が閉状態となる。減圧制御では、増圧弁42が閉状態となり、減圧弁41が開状態となる。保持制御では、増圧弁42及び減圧弁41が閉状態となる。
【0064】
上流側ECU6には、ストロークセンサ71、圧力センサY、25b、26a、15b5、及び車輪速度センサ76等の各種センサが接続されている。上流側ECU6は、これらセンサから、ストローク情報、マスタ圧情報、反力液圧情報、サーボ圧情報、及び車輪速度情報等を取得する。上記センサと上流側ECU6とは、図示しない通信線(CAN)により接続されている。また、上流側ECU6は、下流側ECU8からアクチュエータ5の制御状況に関する情報(アンチスキッド制御中等)を取得する。
【0065】
下流側ECU8は、ホイール圧の目標値である目標ホイール圧(又は目標減速度)に基づいて、アクチュエータ5に対する制御を実行するECUである。下流側ECU8は、目標ホイール圧に基づいて、アクチュエータ5に対して、上記のように、増圧制御、減圧制御、保持制御、又は加圧制御を実行する。
【0066】
ここで、ホイールシリンダ541に対する制御を例に下流側ECU8による各制御状態について簡単に説明すると、増圧制御では、差圧制御弁51及び増圧弁52が開状態となり、減圧弁54が閉状態となる。減圧制御では、増圧弁52が閉状態となり、減圧弁54が開状態となる。保持制御では、増圧弁52及び減圧弁54が閉状態となる。加圧制御では、差圧制御弁51が差圧状態(絞り状態)となり、増圧弁52が開状態となり、減圧弁54が閉状態となり、ポンプ57が駆動する。
【0067】
下流側ECU8には、ストロークセンサ71、圧力センサY、25b、及び車輪速度センサ76等の各種センサが接続されている。下流側ECU8は、これらセンサから、ストローク情報、マスタ圧情報、反力液圧情報、及び車輪速度情報等を取得する。各種センサと下流側ECU8とは、図示しない通信線により接続されている。下流側ECU8は、状況や要求に応じて、アクチュエータ5に対し、横滑り防止制御やアンチスキッド制御を実行する。本実施形態において、ストロークセンサ71と上流側ECU6とは通信線Z1で接続され、ストロークセンサ71と下流側ECU8とは通信線Z2で接続され、下流側ECU8と上流側ECU6とは通信線Z3で接続されている。その他の通信線については、図での表示を省略する。
【0068】
協調制御について簡単に説明すると、上流側ECU6は、ストローク情報に基づいて目標減速度を設定し、通信線Z3を介して目標減速度情報(「制御情報」に相当する)を下流側ECU8に伝達する。目標マスタ圧及び目標ホイール圧は、目標減速度に基づいて決定される。上流側ECU6と下流側ECU8は、協調制御により、ホイール圧を目標ホイール圧に(減速度を目標減速度に)近づけるようにブレーキ液の液圧を制御する。上流側ECU6ではストロークに基づき目標減速度を演算して目標マスタ圧を演算し、下流側ECU8では目標減速度に基づき目標ホイール圧を演算し、検出されたマスタ圧と目標ホイール圧とに基づき加圧量(制御量)を設定する。下流側ECU8は、制御状況(アンチスキッド制御中等)を上流側ECU6に送信する。なお、アクチュエータ5の作動は特定の状況(例えばアンチスキッド制御時や横滑り防止制御時)に限定し、通常は、上流側ECU6によるマスタ圧の制御によって、ホイール圧を制御しても良い。
【0069】
ここで、マスタシリンダ1及びサーボ圧発生装置4を含む上流側加圧機構BF1の加圧モードについて説明する。上流側加圧機構BF1には複数の(ここでは3つの)加圧モードが設定されている。上流側加圧機構BF1には、構成上、加圧モードとして、リニアモード、レギュレータモード、及び静圧モード(アキュムレータ431失陥時のモード)が設定されている。リニアモードは、正常時のモードであって、例えば加圧制御時において、上記のとおり増圧弁42が開弁してレギュレータ44を介してサーボ圧が加圧され、マスタ圧が加圧される。
【0070】
レギュレータモードは、主に電気系統失陥時に実行されるモードであって、非通電状態により第1制御弁22が閉弁して第1液圧室1Bが密閉されるとともに、第2制御弁23が開弁して第2液圧室1Cがリザーバ171と連通するモードである。これにより、無効ストロークが消えるとともに、反力液圧が大気圧となり、ドライバによるブレーキペダル10の操作がマスタピストン14、15に伝わりやすくなる。つまり、ブレーキ操作にマスタ圧を連動させやすくなる。また、レギュレータモードでは、ブレーキ操作に応じて、管路31、311及びポート4hを介して、ブレーキ液が第2マスタ室1Eからレギュレータ44の第2パイロット室4Eに流入する。これにより、サブピストン446が押圧されて制御ピストン445を押圧し、ボール弁442を離座させて、アキュムレータ431の高圧のブレーキ液がサーボ室1Aに提供され、ドライバの操作が助勢されてマスタ圧が加圧される。
【0071】
具体的に、レギュレータモードは、増圧弁42が故障し(例えば弁自体の故障や電力系統の故障等)、上流側ECU6の開弁指示にもかかわらず閉弁状態が維持されている状態で、且つアキュムレータ431は正常である状態の際に実行されるモードといえる。上流側ECU6は、(例えば目標サーボ圧と実サーボ圧との差に基づいて)増圧弁42の故障を検知すると、加圧モードをリニアモードからレギュレータモードに切り替える。
【0072】
静圧モードは、例えばアキュムレータ431が失陥したなど助勢が不可能なときのモードであって、単純にドライバの操作によってのみマスタ圧が加圧されるモードである。静圧モードは、アキュムレータ431が作動していないレギュレータモードともいえる。上流側加圧機構BF1の加圧モードは、正常時のリニアモードと、レギュレータモード及び静圧モードを併せた失陥モードと、の2つであるともいえる。加圧モードは、上流側ECU6により切り替え可能であり、上流側ECU6自体が故障した場合も各電磁弁のタイプにより上流側加圧機構BF1の状態に応じて機械的に(自動的に)切り替えられる。このように車両用制動装置BFは、サーボ圧発生装置4が作動しなくてもブレーキペダル10のストロークに応じてマスタピストン14、15が駆動されるように構成されている。換言すると、車両用制動装置BFは、サーボ圧発生装置4の作動とは別にブレーキペダル10のストロークに応じた操作力によってマスタピストン14、15が駆動されるように構成されている。
【0073】
(駆動量制限制御)
ここで、特定の状況においてマスタピストン14、15の駆動量を制限する駆動量制限制御について説明する。上流側ECU6は、主な機能として、ピストン制御部61と、最大出力決定部62と、ピストン駆動制限部63と、を備えている。ピストン制御部61は、ブレーキペダル10のストローク(例えばストロークセンサ71の検出値)が大きくなるほどマスタピストン14、15の駆動量が大きくなるように調整機構40を制御するように構成されている。つまり、ピストン制御部61は、リニアモードにおいて、ストロークに応じて減圧弁41及び増圧弁42を制御し、サーボ圧(マスタ圧)に対して、増圧制御、保持制御、又は減圧制御を実行する部分である。
【0074】
最大出力決定部62は、マスタシリンダ1の出力液圧の最大値(すなわちマスタ圧の最大値)を決定する部分である。最大出力決定部62は、調整機構40に対する制御なしに、発生可能なマスタシリンダ1の出力液圧の最大値を所定範囲内に維持するように構成されている。マスタ圧の最大値(上限)は、サーボ圧発生装置4の出力可能な駆動力の最大値、すなわちアキュムレータ液圧の上限値に相当する。つまり、本実施形態の最大出力決定部62は、アキュムレータ431の液圧を所定範囲内(下限値~上限値)に維持する。具体的に、最大出力決定部62は、モータ433のオフ圧(上限値)とオン圧(下限値)を記憶し、アキュムレータ液圧(圧力センサ75の検出値)がオフ圧を超えるとモータ433を停止させ、アキュムレータ液圧がオン圧を下回るとモータ433を駆動させる。オフ圧はモータ433をオフするアキュムレータ液圧の値であり、オン圧はモータ433をオンするアキュムレータ液圧の値である。
【0075】
ピストン駆動制限部63は、ポンプ57、97によるブレーキ液のホイールシリンダ541~544からの吐出(以下「減圧吐出」ともいう)が行われている状況下でブレーキペダル10のストローク(操作量)が所定値以上となった場合、最大出力決定部62によって決定されるマスタ圧の最大値に基づきマスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限するように構成されている。ピストン駆動制限部63は、最大出力決定部62(ここではマスタ圧の最大値)の調整により駆動量を制限する。より具体的に、図4に示すように、ピストン駆動制限部63は、ポンプ57、97の減圧吐出時にストロークが所定値以上になると(図4のt1の時点)、最大出力決定部62で設定されたオフ圧を所定圧だけ低下させる駆動量制限制御を実行し、マスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限する。また、ピストン駆動制限部63は、駆動量制限制御を実行した後、ストロークが所定値未満になった場合(図4のt2の時点)、駆動量制限制御を解除、すなわちモータ433のオフ圧を元の値(初期値)に戻す。ポンプ57、97の減圧吐出は、例えばアンチスキッド制御(ABS制御)又は横滑り防止制御(ESC制御)等の際に実行され得る。
【0076】
ピストン駆動制限部63は、ブレーキペダル10のストロークが所定値以上であるか否かを、例えばストロークセンサ71及び/又は圧力センサ74の検出値に基づいて判定することができる。本実施形態のピストン駆動制限部63は、圧力センサ74の検出値(実サーボ圧)に基づいて、ストロークが所定値以上であるか否かを判定する。つまり、ピストン駆動制限部63は、ストロークが所定値以上であるか否かを、サーボ圧を判定要素として、サーボ圧が所定の閾値以上であるか否かで判定する。ピストン駆動制限部63は、サーボ圧が閾値以上であれば、ストロークが所定値以上であると判定する。なお、ストロークの所定値は、例えば、レギュレータモードにおいて制御ピストン445が押されることでアキュムレータ431とサーボ室1Aとが連通する際のストローク値に基づいて設定することもできる。
【0077】
本実施形態のピストン駆動制限部63は、加圧モードがレギュレータモードである際にのみ、上記駆動量制限制御を実行するように設定されている。例えば増圧弁42の故障が検出された際、加圧モードがリニアモードからレギュレータモードに切り替えられ、駆動量制限制御が実行可能な状況となる。つまり、本実施形態のピストン駆動制限部63は、増圧側の調整機構40が故障している場合(レギュレータモードの場合)であって、ポンプ57、97(少なくとも一方)で減圧吐出が行われ且つストロークが所定値以上となった場合に、駆動量制限制御を実行する。
【0078】
本実施形態の駆動量制限制御の流れについて図5を参照して説明する。上流側ECU6は、ストロークセンサ71の検出値に基づいて現状が制動中(ブレーキ操作中)であるか否かを判定する(S101)。現状が制動中である場合(S101:Yes)、上流側ECU6は、例えば現在の加圧モードの設定又は各電磁弁の状態等から、加圧モードがレギュレータモードであるか否かを判定する(S102)。加圧モードがレギュレータモードである場合(S102:Yes)、上流側ECU6は、サーボ圧が閾値以上であるか否かを判定することで、ストロークが所定値以上であるか否かを判定する(S103)。サーボ圧が閾値以上、すなわちストロークが所定値以上である場合(S103:Yes)、上流側ECU6は、駆動量制限制御を実行し、モータ433のオフ圧を所定圧だけ下げる(S104)。
【0079】
一方、現状が制動中でない場合(S101:No)、加圧モードがレギュレータモードでない場合(S102:No)、又はサーボ圧が閾値未満である場合(S103:No)、上流側ECU6は、モータ433のオフ圧を初期値(元の値)とする(S105)。ステップS105において、上流側ECU6は、駆動量制限制御実行中であれば駆動量制限制御を停止しオフ圧を初期値に戻し、駆動量制限制御を実行していない場合はオフ圧を初期値のまま維持する。なお、ステップS101~S103については、1つのステップでAND条件として記載することができる。また、上流側ECU6は、加圧モードがレギュレータモードであることを認識している時点で、予め駆動量制限制御の実行許可フラグを立てても良い。
【0080】
まとめると、サーボ圧発生装置4は、マスタピストン14、15に対して液圧による駆動力を発生させるアキュムレータ431と、アキュムレータ431から供給された液圧を調整する調整機構40と、を備え、最大出力決定部62は、アキュムレータ431の液圧を所定の上限値から下限値の間(所定範囲内)に維持し、ピストン駆動制限部63は、所定条件が満たされると、最大出力決定部62で設定された上限圧を低下させて、マスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限する。
【0081】
本実施形態によれば、例えば増圧弁42が故障した場合でも、ポンプ57、97作動中にブレーキペダル10のストロークが大きくなれば、ピストン駆動制限部63が最大出力決定部62に設定されたオフ圧を調整することで、マスタピストン14、15の駆動量は制限される。つまり、高圧が発生する状況で、増圧弁42への制御とは別に、マスタシリンダ1からの出力液圧の最大値を制限することで、たとえ調整機構40に故障が生じても、ポンプ57、97作動時にポンプ57、97に高圧が加わることを抑制することができる。本実施形態によれば、調整機構40に故障が生じたとしても、モータ90のロックを回避しつつポンプ57、97を作動させることができる。
【0082】
レギュレータモード時に、ドライバが所定値以上のブレーキ操作を実行すると、機械的にアキュムレータ431とサーボ室1Aとが連通し、ブレーキ操作が助勢される。このブレーキ操作が継続されると、サーボ圧は、上昇し、最大値として、アキュムレータ431が蓄圧している液圧に相当する液圧(高圧)となる。つまり、マスタピストン14、15の駆動量は大きくなり、マスタ圧はサーボ圧と同等の液圧(高圧)となる。この状態で、アンチスキッド制御等によりポンプ57、97が減圧吐出を実行すると、ポンプ57、97に高負荷が加わる。本実施形態によれば、このような状況において、アキュムレータ液圧の最大値を下げることで、調整機構40によらずサーボ圧(マスタピストン14、15の駆動量に相当する)及びマスタ圧を低下させる。これにより、ポンプ57、97への負荷を軽減させ、モータ90のロックを抑制することができる。したがって、レギュレータモードにおいても、アンチスキッド制御や横滑り防止制御を実行することができる。
【0083】
(変形態様)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、ピストン駆動制限部63は、ポンプ57、97によるブレーキ液の吐出が行われている状況下におけるブレーキペダル10のストロークが大きいほど、規定値(マスタピストン14、15の駆動量の制限値)を小さくするように構成されても良い。ピストン駆動制限部63は、ストロークが大きいほどモータ433のオフ圧を小さく設定しても良い。ピストン駆動制限部63によるオフ圧の調整は、階段状(ステップ的)でもリニアでも良いが、迅速な対応の観点から本実施形態のような階段状にすることが好ましい。
【0084】
また、駆動量制限制御の実行条件(AND条件)としては、上記実施形態に対して、さらに「ポンプ57、97を駆動するモータ90の温度が所定温度以上であること」及び「ポンプ57、97が所定時間以上駆動していること」の少なくとも一方が加えられても良い。つまり、ピストン駆動制限部63は、ポンプ57、97によるブレーキ液の吐出が行われている状況下でストロークが所定値以上となり、且つ、ポンプ57、97を駆動するモータ90の温度が所定温度以上である場合、マスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限するように構成されても良い。また、ピストン駆動制限部63は、ポンプ57、97によるブレーキ液の吐出が行われている状況下でストロークが所定値以上となり、且つ、ポンプ57、97を駆動するモータ90の温度が所定温度以上である場合、マスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限するように構成されても良い。このような構成により、ポンプ57、97にマスタ圧とは別の負荷がかかっている状況、すなわちモータ90がよりロックしやすい状況に限り、駆動量制限制御が実行されるようになり、より効率的な制御が可能となる。ポンプ57、97(モータ90)の温度は、例えば温度センサによる検出又は駆動状況から推定することができる。ポンプ57、97の駆動時間も時間カウントにより把握できる。
【0085】
また、ピストン駆動制限部63は、マスタピストン14、15の駆動量を規定値以下に制限した後(オフ圧を下げた後)、ポンプ57、97によるブレーキ液の吐出が規定時間以上継続する蓋然性が高い場合、ブレーキペダル10のストロークによらず当該制限(変更後のオフ圧)を継続するように構成されても良い。ポンプ57、97の減圧吐出が規定時間以上継続される蓋然性が高いか否かは、例えば推定された路面摩擦係数(以下、路面μという)に基づいて判定することができる。路面μが低い場合、アンチスキッド制御が実行される可能性が高く、ポンプ57、97が規定時間以上作動する可能性が高い。したがって、ピストン駆動制限部63は、路面μを推定し、当該推定結果に基づいて上記蓋然性が高いか否かを判定しても良い。路面μは、公知の方法で推定することができ、例えば車両前後方向の加速度を検出する加速度センサや車輪速度センサ76の検出値等を用いて差出(推定)することができる。
【0086】
また、ピストン駆動制限部63は、モータ433の回転数を下げることで駆動量制限制御を実行しても良い。モータ433の回転数を下げることで、アキュムレータ液圧を低下(実質的に上限値を低下)させることができる。ピストン駆動制限部63は、例えばモータ433の回転数を規定値に応じた所定回転数まで下げるように設定されても良い。また、駆動量制限制御の実行条件(AND条件)として、さらに「ポンプ57、97にキックバックが発生していること」を追加しても良い。キックバックの有無は、例えばサーボ圧の変動により判定することができる。
【0087】
また、駆動量制限制御は、リニアモードで実行されても良い。つまり、駆動量制限制御の実行条件から「加圧モードがレギュレータモードであること」が削除されても良く、又は「加圧モードがレギュレータモード又はリニアモードであること」に変更されても良い。リニアモードにおいても、調整機構40によらずにポンプ57、97の負荷を低減させることができる。
【0088】
また、本発明は、電動ブースタに適用しても良い。この場合、例えば、電動シリンダがサーボ圧発生装置(4)に相当し、電動シリンダを駆動するモータが調整機構(40)に相当する。最大出力決定部(62)及びピストン駆動制限部(63)としては、例えば、新たにマスタシリンダの出口付近にブレーキ液を逃がすための流路及び電磁弁を設け、当該電磁弁を制御する制御部(ECU)を配置することでも構成することができる。例えば、制御部(最大出力決定部)には、電磁弁を開弁する上限圧が設定されており、制御部(ピストン駆動制限部)は、駆動量制限制御の実行にあたり当該上限圧を下げるように構成されても良い。
【0089】
また、ポンプ57、97は、例えばピストンポンプ等、ギアポンプ以外の電動ポンプであっても良い。また、上流側ECU6と下流側ECU8は、1つのECUで構成されても良い。また、アクチュエータ5は、電磁弁(保持弁)51、91等を備えないことにより差圧制御によるホイール圧の加圧を実行できないもの(例えば横滑り防止制御を実行できないもの)であって、アンチスキッド制御を実行可能なアクチュエータであっても良い。つまり、アクチュエータ5は、いわゆるABSアクチュエータであっても良い。また、ブレーキペダル10の操作量の検出に、踏力センサ等を用いても良い。
【符号の説明】
【0090】
1…マスタシリンダ、10…ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、14、15…マスタピストン(ピストン)、4…サーボ圧発生装置(ピストン駆動部)、40…調整機構、431…アキュムレータ(高圧源)、541~544…ホイールシリンダ、57、97…ポンプ、6…上流側ECU、61…ピストン制御部、62…最大出力決定部、63…ピストン駆動制限部、BF…車両用制動装置。
図1
図2
図3
図4
図5