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特許6996260有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液
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  • 特許-有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220107BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220107BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H05B33/14 A
H05B33/22 B
H05B33/22 D
H01L31/04 154C
C09D101/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017229836
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019102564
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 美音
(72)【発明者】
【氏名】田畑 顕一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛人
(72)【発明者】
【氏名】田中 達夫
(72)【発明者】
【氏名】北 弘志
(72)【発明者】
【氏名】片倉 利恵
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-086003(JP,A)
【文献】特開2011-064783(JP,A)
【文献】特開平04-002096(JP,A)
【文献】国際公開第2014/133065(WO,A1)
【文献】特開平04-335088(JP,A)
【文献】特開2012-107207(JP,A)
【文献】特開2013-053290(JP,A)
【文献】特開2016-017161(JP,A)
【文献】特開2013-181167(JP,A)
【文献】特開2010-198957(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031601(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168225(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0248121(US,A1)
【文献】Netsu Sokutei,2013年,Vol.40, No.2,pp.78-85,https://www.netsu.org/JSCTANetsuSokutei/pdfs/40/40-2-78.pdf,第79頁右カラム第9行目
【文献】Netsu Sokutei,2013年,Vol.40, No.2,pp.78-85,https://www.netsu.org/JSCTANetsuSokutei/pdfs/40/40-2-78.pdf,第79頁右カラム第9行目
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H01L 51/46
C09D 101/00
C09D 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜であって、
芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、
短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物として、カルバゾール誘導体又は下記化合物Cを含有することを特徴とする有機機能性薄膜。
【化1】
【請求項2】
前記芳香族化合物として、下記化合物A、B、C、D、H1、及びH2のうちいずれかの化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機機能性薄膜。
【化2】
【化3】
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーの膜中濃度が、50質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機機能性薄膜。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の有機機能性薄膜の片面又は両面に隣接して、他の膜が積層されていることを特徴とする有機機能性積層膜。
【請求項5】
有機機能性薄膜を備える光電変換素子であって、
前記有機機能性薄膜が、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物が、カルバゾール誘導体、下記化合物C、又はIrを中心金属に有する有機金属錯体であることを特徴とする光電変換素子。
【化4】
【請求項6】
電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜形成用塗布液であって、
芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、
短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物として、カルバゾール誘導体又は下記化合物Cを含有することを特徴とする有機機能性薄膜形成用塗布液。
【化5】
【請求項7】
有機機能性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機機能性薄膜が、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物が、カルバゾール誘導体又はトリアリールアミン誘導体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記有機機能性薄膜を正孔輸送層として備え
前記芳香族化合物が、下記化合物A、B、C、D、H1、及びH2のうちいずれかの化合物であることを特徴とする請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化6】
【化7】
【請求項9】
前記セルロースナノファイバーの膜中濃度が、50質量%以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値が、10nm以下であることを特徴とする請求項から請求項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液に関する。本発明は、耐リンス性及び電荷輸送機能に優れた有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
1.はじめに
有機エレクトロニクスデバイス(以下、「有機電子デバイス」ともいう。)として知られている、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)、有機薄膜太陽電池及び有機トランジスタ等においては、電荷輸送、発光及び光電変換等の種々の機能を有する有機化合物を含有する有機機能性薄膜が用いられている。このような有機機能性薄膜の作製方法としては、蒸着法や塗布法等が知られているが、当該有機機能性薄膜のより一層の高性能化の要望を考慮した観点からは、いずれも改善すべき問題がある。
以下においては、有機機能性薄膜を備えた有機電子デバイスの典型例として、有機EL素子を例に挙げて説明する。
【0003】
2.有機EL素子
2-1.有機EL素子の構造と発光原理
有機EL素子は、陰極及び陽極の間に、発光性を示す有機化合物を含有した発光層を含む有機機能性薄膜を挟んだ構造をとる発光素子である。有機EL素子は、電圧の印加により陰極及び陽極からそれぞれ注入された電子と正孔(キャリア)が有機機能性薄膜(発光層)中で再結合して生じた励起子が、高エネルギー状態から基底状態に戻る際に発する光を利用している。
【0004】
2-2.有機EL素子中のキャリア伝導機構
一般的に、ほぼ全ての有機化合物は絶縁性を示すが、有機化合物間を電子又は正孔がホッピングで移動するホッピング伝導を利用することで電流が流れるようになる。特に、芳香族性の化合物やπ共役系のポリマーはホッピング伝導しやすいため、これらを用いることによって十分な電荷輸送性を得ることができる。
キャリアのホッピング伝導は以下の式で示され(空間電荷制限電流:SCLC)、低電圧でより大きな電流を流すためには膜厚を薄くする必要がある。
【0005】
【数1】
【0006】
上記式中、J:電流密度(A/cm)、μ:キャリア移動度(cm/V・s)、L:膜厚(m)、ε:誘電率(F/m)、V:印加電圧(V)を示す。
【0007】
また、陽極又は陰極として用いられる金属電極表面には微細な凹凸が存在することが知られており、凸部が電極間に存在する有機薄膜層を突き抜けることによって、陽極と陰極が短絡してしまうことがある。そのため、有機薄膜層はそれをカバーする程度の厚さが必要となる。
以上より、一般的に有機EL素子の有機薄膜層の膜厚は、およそ100~200nmが好ましいとされている。
【0008】
2-3.有機EL素子に求められる設計
有機EL素子の高寿命化及び発光の高効率のためには、注入したキャリアを発光層までバランスよく伝導し、再結合させることが重要となる。
また、電極から隣接する有機薄膜層にキャリアを注入する際に、電極の仕事関数と有機薄膜層のHOMO準位又はLUMO準位に大きなギャップがあると、キャリアが効率的に注入されないという課題がある。
【0009】
そこで、電極から有機薄膜層へのキャリア注入を効率化する目的で、有機薄膜層は発光層のみからなる単層型の他に、電子輸送層と発光層及び正孔輸送層といった複数の層からなる多層積層型とする素子設計がよく知られている。
多層積層型の場合、より低い電圧で駆動させるためには陽極と電極の間に存在する有機薄膜層全体の膜厚を薄くする必要があり、各層の膜厚は単層型よりも更に薄くなるため、より精密な積層技術が求められる。
【0010】
3.有機EL素子の製造方法
3-1.真空蒸着法とその課題
上記のような積層構造を容易に形成する手法として、真空蒸着法が用いられる。
しかし真空蒸着法は材料利用効率が低く、真空環境が必須の高エネルギー消費プロセスであり、大型製品の生産には適さず、また連続での生産は難しい。
一方で近年、ディスプレイの大型化や低コスト化が求められており、真空蒸着以外の手法として、溶液を用いる湿式法(塗布法ともいう。)に注目が集まっている。
【0011】
3-2.湿式法とその課題
機能膜を塗布して順に積層していく湿式法において最も難しいのが、下層を溶解させずに上層を積層することである。
【0012】
3-3.湿式法に求められる設計
上記の課題を解決するため、これまで様々な検討が行われてきており、例えば下層に高分子化合物を用いる手法が知られている。一般的に高分子化合物は低分子化合物よりも溶媒に対する溶解性が低い傾向にある。そこで、高分子化合物と上層を形成する化合物との間の溶媒に対する溶解性の差を利用し、塗布法で積層する方法が知られている。
しかし、高分子化合物は一般的に精製が難しいため、高純度のものが得られにくいのが課題である。
【0013】
また、成膜後にUV照射等の処理を行うことでポリマー化する後架橋型の低分子化合物を下層に用い、下層を不溶化させて上層を積層する手法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
しかし、成膜後の処理において未反応のモノマーが残存し、キャリアの伝導性を阻害する可能性がある。また、低分子化合物に架橋性基を付与することによって、元の低分子化合物の性質そのものを大きく変化させてしまう可能性がある。
また、同一溶媒に対する溶解度の差を利用して、複数の低分子化合物を積層する方法も知られているが、溶媒に対する低分子化合物の溶解度の差を調整するには、緻密な分子設計が求められる。さらに、上層を塗布するために用いることのできる溶媒の種類は非常に限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2008/029729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、耐リンス性及び電荷輸送機能に優れた有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜を、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有するように形成することで、耐リンス性及び電荷輸送機能に優れた有機機能性薄膜を提供できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段により解決される。
【0018】
1.電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜であって、
芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、
短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物として、カルバゾール誘導体又は下記化合物Cを含有することを特徴とする有機機能性薄膜。
【化8】
2.前記芳香族化合物として、下記化合物A、B、C、D、H1、及びH2のうちいずれかの化合物を含有することを特徴とする第1項に記載の有機機能性薄膜。
【化9】
【化10】
.前記セルロースナノファイバーの膜中濃度が、50質量%以下であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機機能性薄膜。
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機機能性薄膜の片面又は両面に隣接して、他の膜が積層されていることを特徴とする有機機能性積層膜。
有機機能性薄膜を備える光電変換素子であって、
前記有機機能性薄膜が、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物が、カルバゾール誘導体、下記化合物C、又はIrを中心金属に有する有機金属錯体であることを特徴とする光電変換素子。
【化11】
.電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜形成用塗布液であって、
芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、
短軸最大径の平均値が10nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物として、カルバゾール誘導体又は下記化合物Cを含有することを特徴とする有機機能性薄膜形成用塗布液。
【化12】
.有機機能性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機機能性薄膜が、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有し、
前記芳香族化合物が、カルバゾール誘導体又はトリアリールアミン誘導体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
.前記有機機能性薄膜を正孔輸送層として備え
前記芳香族化合物が、下記化合物A、B、C、D、H1、及びH2のうちいずれかの化合物であることを特徴とする第項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化13】
【化14】
.前記セルロースナノファイバーの膜中濃度が、50質量%以下であることを特徴とする第7項又は第8項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
10.前記セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値が、10nm以下であることを特徴とする第項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐リンス性及び電荷輸送機能に優れた有機機能性薄膜、有機機能性積層膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及び有機機能性薄膜形成用塗布液を提供することができる。
【0028】
本発明の効果の発現機構又は作用機構は明確になっていないが、以下のように推察している。
芳香族環を少なくとも二つ以上有する芳香族化合物を含有する膜は、当該芳香族化合物におけるホッピング伝導によって良好な電荷輸送性を示しやすい。さらに、平均分子量が2000以下の低分子量の芳香族化合物は、高分子化合物と比較し、様々な精製手法を使用することができるため、高純度化が容易である。
【0029】
また、本発明の有機機能性薄膜は、セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)を含有する。セルロースナノファイバー(CNF)の表面には多数のヒドロキシ基等が存在するため、図1に示すように、芳香族化合物10(芳香族化合物は、図1中に丸印で模式的に示しており、符号10を付している)との間に効果的にファンデルワールス力等が作用し、芳香族化合物10がセルロースナノファイバー(CNF)表面に引き寄せられると推察される。そして、これにより、ホッピング伝導が起こりやすくなり、良好な電荷輸送性を示したものと推察される。
【0030】
また、本発明の有機機能性薄膜に含有する芳香族化合物の平均分子量は2000以下である。このような低分子量の芳香族化合物は、分子サイズが小さいため、セルロースナノファイバー間に入りやすくなる。これにより、セルロースナノファイバーと芳香族化合物との間にファンデルワールス力等といった相互作用がより働きやすくなっているので、リンス溶媒で洗浄しても膜中の芳香族化合物が流されにくく、耐リンス性が向上したものと推察される。
また、セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー同士で水素結合等を介した部分的な結合によってクラスタを形成する。そのため、セルロースナノファイバーを含有する本発明の有機機能性薄膜は、リンス溶媒で洗浄しても膜が破壊されにくく、耐リンス性も向上すると推察される。
さらに、本発明の有機機能性薄膜は、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーを含有している。短軸最大径の平均値の小さいセルロースナノファイバーを用いることで、本発明に係る芳香族化合物の周囲により多くのセルロースナノファイバーが存在しやすくなったと推察される。そして、これにより、セルロースナノファイバーと芳香族化合物との間にファンデルワールス力等といった相互作用がより働きやすくなり、耐リンス性が向上すると推察される。
【0031】
また、本発明の有機機能性薄膜を有機EL素子に用いても、発光寿命、キャリア輸送性といった有機EL素子の各性能に対する阻害は確認されなかった。これは、セルロースナノファイバーが芳香族化合物を近くに引き寄せるだけで反応には直接影響を及ぼさず、かつ、セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値を50nm以下とすることで、膜表面を均一に保ち、機能性の高い膜を形成できるためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】有機機能性薄膜に含有されたセルロースナノファイバーと芳香族化合物とを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の有機機能性薄膜は、電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜であって、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0034】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、有機機能性薄膜が、前記芳香族化合物として、電荷輸送機能を有する有機化合物を含有することが好ましい。
【0035】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、有機機能性薄膜が、前記芳香族化合物として、発光機能を有する有機化合物を含有することが好ましい。
【0036】
本発明の実施態様としては、膜の表面平滑性を保ち、本発明の効果を有効に得る観点から、前記セルロースナノファイバーの膜中濃度が、50質量%以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、有機機能性薄膜が、前記芳香族化合物として、光電変換機能を有する有機化合物を含有することが好ましい。
【0038】
また、本発明の有機機能性薄膜は、耐リンス性が良好であるため、本発明の有機機能性薄膜の片面又は両面に隣接して他の膜を積層させ、有機機能性積層膜として用いることが好ましい。
【0039】
また、本発明の有機機能性薄膜は、有機エレクトロルミネッセンス素子の有機機能性薄膜として好適に用いることができる。
【0040】
また、本発明の有機機能性薄膜は、光電変換素子の有機機能性薄膜として好適に用いることができる。
【0041】
また、本発明の有機機能性薄膜形成用塗布液は、電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜形成用塗布液であって、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有することを特徴とする。
【0042】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0043】
[有機機能性薄膜]
本発明における有機機能性薄膜は、電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜であって、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有することを特徴とする。
本発明において、「電子材料」とは、電子デバイスを構成する材料であって、例えば、有機EL素子の電子輸送層に含有する電子輸送材料、正孔輸送層に含有する正孔輸送材料、発光層に含有する発光ドーパントが挙げられる。また、電子材料は、有機EL素子用の材料に限られず、例えば、光電変換素子のバルクヘテロジャンクション層(光電変換部)に含有するp型半導体材料及びn型半導体材料等も挙げられる。
【0044】
<芳香族化合物>
本発明に係る芳香族化合物は、芳香環を少なくとも二つ以上有するものであり、平均分子量が2000以下である。また、本発明に係る芳香族化合物の平均分子量は、本発明の効果を有効に得る観点からは、1500以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。芳香族化合物の平均分子量が小さいと分子サイズも小さくなる傾向があるので、平均分子量を2000以下の低分子量とすることで、芳香族化合物がセルロースナノファイバー間に入りやすくなり、本発明の効果を有効に得ることができると推察される。また、本発明に係る芳香族化合物の平均分子量の下限は特に限られないが、本発明の効果を有効に得る観点からは、300以上であることが好ましい。これにより、溶媒への溶解性を高くしすぎないようにできる傾向があるので、リンス溶媒で洗浄した際に芳香族化合物が流されにくくなり、耐リンス性が向上しやすくなる。
また、本発明に係る低分子量の芳香族化合物は、高分子化合物と比較し、様々な精製手法を使用することができるため、高純度化が容易である。
本発明の有機機能性薄膜に含有する芳香族化合物は、芳香環を少なくとも二つ以上有するものであり、電子材料として機能する有機化合物である。なお、芳香環とは芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であって、単環でも複素の環が縮合した縮合環であっても良い。
【0045】
芳香族炭化水素環としては、例えばベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o-テルフェニル環、m-テルフェニル環、p-テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。これらの環は、更に置換基を有していても良い。
【0046】
また、芳香族複素環としては、フラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環を示す)等が挙げられる。これらの環は同様に、更に置換基を有していてもよい。
【0047】
また、上記の中でも芳香環として好ましく用いられるのは、カルバゾール環、カルボリン環、ジベンゾフラン環、ベンゼン環であり、特に好ましく用いられるのは、カルバゾール環、カルボリン環、ベンゼン環である。
【0048】
<芳香族化合物のアスペクト比の算出>
アスペクト比とは、ある形状を有する物体の縦横比を示したものである。本発明においては、アスペクト比の小さな芳香族化合物が好ましい。本発明に係る芳香族化合物のアスペクト比は、2.0の範囲内が好ましく、1.5の範囲内がより好ましい。
【0049】
本発明における有機化合物のアスペクト比の算出は、分子軌道計算ソフトウェアによって得られた有機化合物の最適化構造に基づいて、分子モデリング・可視化ソフトウェアを用いることで得ることができる。より詳細には、有機化合物の構造最適化には計算手法として、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G(d)を用いた米国Gaussian社製のGaussian09(RevisionC01,M.J.Frisch et al.,Gaussian,Inc.,2010)で行い、アスペクト比の算出にはWinmostar(X-Ability Co.,Ltd.製)を用いている。
【0050】
<セルロースナノファイバー(CNF)>
セルロースナノファイバーとは、植物細胞壁由来のセルロース繊維をナノレベルにまで解繊した繊維である。
セルロースナノファイバーは、側鎖に有する水素結合によりファイバー同士による三次元のネットワーク構造を構成することから、高い増粘性や乳化安定性、分散安定性を有する。このため、化粧品やボールペンなどの増粘剤等に活用されている。
また、石英ガラスと同程度の低い熱膨張係数を有することや、高い透明性を有すること等から、有機ELディスプレイや有機薄膜太陽電池の基板等への応用も展開されている。
【0051】
原料であるセルロース繊維からセルロースナノファイバーを得るためには、セルロース繊維を機械的解繊又は化学的に処理した後に、機械的解繊を行う手法が一般的に知られている。
機械的解繊法としては、石臼型摩砕機、高圧ホモジナイザー、二軸混練機、水中対向衝突などがある。化学的処理としては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)酸化、カルボキシメチル(CM)化、リン酸エステル化、セルラーゼ前処理、及びカチオン性高分子添加前処理などがある。
これらの中でも、TEMPO酸化は温和な条件(水系、常温、常圧)で反応を進めることが可能であり、機械的解繊のみでは20~200nm程度となるセルロースナノファイバーの径を約10nm以下まで解繊することができる点から好ましい。
【0052】
本発明に係るセルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値は50nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。また、セルロースナノファイバーとしての形態を有していれば、短軸最大径の平均値の下限値は特に限られないが、短軸最大径の平均値は1nm以上であることが好ましい。
セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値が50nmよりも大きいと、膜表面からセルロースナノファイバーが突き出しやすくなり、膜表面が粗くなることで、機能性の高い膜を形成しにくくなると推察される。一方で、セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値を50nm以下とすると、セルロースナノファイバーが膜表面から突き出しにくくなり、膜表面を均一に保つことができると推察される。したがって、短軸最大径の平均値を50nm以下のセルロースナノファイバーを含有させることによって、機能性の高い膜を形成することができると推察される。
【0053】
また、セルロースナノファイバーの長軸最大径を長くしても、膜表面に対する影響がほとんどないため、長軸最大径については、特に制限はない。セルロースナノファイバーの製造効率の観点からは、長軸最大径の平均値が1~2μm程度であることが好ましい。
【0054】
本発明におけるセルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値の測定方法について説明する。まず、セルロースナノファイバーを溶解させたサンプルを希釈乾燥させ、このサンプルについて透過型電子顕微鏡を用いて少なくとも五つの範囲を観察する。次に、それぞれの範囲で、任意に選択した5本以上のセルロースナノファイバーについて、セルロースナノファイバー1本ごとに、最大の短軸径となる箇所を短軸最大径として測定する。そして、それらの計25本以上の短軸最大径の平均値(数平均値)を短軸最大径の平均値としている。
また、セルロースナノファイバーの長軸最大径の平均値(数平均値)については、上記の方法で短軸最大径の代わりに長軸最大径を測定することで、算出することができる。
また、図1の模式図に、セルロースナノファイバーの短軸最大径D1と長軸最大径D2の一例を示している。
【0055】
セルロースナノファイバーの有機機能性薄膜に対する膜中濃度(固形分濃度)は、50質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。50質量%以下とすることにより、膜の表面平滑性を保つことができ、本発明の効果を有効に得ることができる。また、本発明の効果が得られれば、膜中濃度の下限は特に限られないが、本発明の効果発現の観点から0.01質量%以上であることが好ましい。
【0056】
<TEMPO触媒酸化処理>
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)は水に可溶で安定なニトロキシルラジカルであり、多糖の一級水酸基を選択的かつ短時間でカルボキシのナトリウム塩に変換することができる。これをTEMPO触媒酸化という。
TEMPO触媒酸化により、結晶化度が高く強固に結合したセルロース分子の集合体であるセルロースミクロフィブリル表面に荷電反発力と浸透圧効果が付与され、その後機械的解繊処理により水中でナノ分散することが可能となり、径が約10nm以下のセルロースナノファイバーを得ることができる。
セルロースナノファイバーの原材料として、木材以外に麦わら、稲わら、古紙、大根やジャガイモなどの搾りかすといったものを利用することができる。これらの中でも、針葉樹又は広葉樹のチップから大量に製造できる点と、低環境負荷、効率的及び低エネルギーでパルプ化又は漂白が可能である点の観点から、漂白クラフトパルプ等がセルロースナノファイバー製造の原料として好ましい。
本発明では、例えば、以下に示す公知の製造方法(例えば、文献:A. Isogai et al.,Nanoscale,2011,3,71-85)に従って作製したセルロースナノファイバーを用いることができる。
【0057】
<セルロースナノファイバーの製造方法>
高濃度でアルカリ処理(マーセル化処理)された漂白クラフトパルプをセルロースナノファイバーの原料とし、これを1g取り、20mgのTEMPO及び0.48gのNaBrを含む75mLの水中で懸濁させる。懸濁中は、この溶液を27℃において、0.4MのNaOHを添加してpH10に維持する。セルロースが完全に溶解する前に反応混合物の黄色の呈色が消えないようにしながら、濃度11%のNaClOを20mL懸濁液に加える。溶液が透明になったのち、過剰量のメタノールを加え、酸化を停止させる。得られた水分散液に高圧式ホモジナイザーを用いて解繊処理を行うことで、透明で高粘度のゲルを得る。上記のように得たTEMPO酸化したセルロースナノファイバー水分散液について、側鎖のカルボキシ基の対イオンをNaからプロトンに交換することで様々な有機溶剤中でも分散が可能となる。本発明においては、クロロベンゼン中に分散させたものを用いている。
なお本発明では、上記の製造過程において解繊時間を調整することにより、径50nm以上、50nm以下のセルロースナノファイバーと、及びTEMPO触媒酸化後の径10nm以下のセルロースナノファイバーを得ている。
【0058】
<有機機能性薄膜形成用塗布液>
本発明の有機機能性薄膜形成用塗布液は、電子材料として機能する有機化合物を含有する有機機能性薄膜形成用塗布液であって、芳香環を二つ以上有する平均分子量が2000以下の芳香族化合物と、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーとを含有するものである。
本発明の有機機能性薄膜形成用塗布液は、有機溶媒中に、上記芳香族化合物及びセルロースナノファイバーが溶解又は分散されたものである。この有機溶媒とは、本発明における化合物を溶解又は分散しうる液体の媒体を指す。
本発明に係る有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF(N,N-dimethyl formamide)、DMSO(Dimethyl sulfoxide)等を用いることができる。また、乾燥工程の観点より、沸点が50~180℃の範囲の溶媒が好ましい。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の方法により分散することができる。
【0059】
<有機機能性薄膜の用途>
本発明の有機機能性薄膜は、本発明に係る芳香族化合物として、電荷輸送機能を有する有機化合物を含有することで、電荷輸送機能を有する有機機能性薄膜として利用することができる。
電荷輸送機能を有する有機機能性薄膜としては、例えば、有機EL素子を構成する層として用いる場合には、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層等が挙げられる。また、光電変換素子を構成する層として用いる場合には、例えば、正孔輸送層及び電子輸送層等が挙げられる。
【0060】
また、本発明の有機機能性薄膜は、本発明に係る芳香族化合物として、発光機能を有する有機化合物を含有することで、発光機能を有する有機機能性薄膜として利用することができる。発光機能を有する有機機能性薄膜としては、例えば、有機EL素子の発光層が挙げられる。
【0061】
また、本発明の有機機能性薄膜は、本発明に係る芳香族化合物として、光電変換機能を有する有機化合物を含有することで、光電変換機能を有する有機機能性薄膜として利用することができる。光電変換機能を有する有機機能性薄膜としては、光電変換素子のバルクヘテロジャンクション層(光電変換部)が挙げられる。
【0062】
また、本発明の有機機能性薄膜は、耐リンス性が良好であるため、本発明の有機機能性薄膜の片面又は両面に隣接して他の膜を積層させ、有機機能性積層膜として用いることが好ましい。
【0063】
<有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、本発明の有機機能性薄膜を備えるものである。
本発明の有機機能性薄膜は、上述したとおり、有機EL素子を構成する有機層に用いられることが好ましい。
本発明の有機機能性薄膜は、後述する有機層中のいずれにも用いることが可能であるが、中でもキャリア輸送性や発光寿命等に与えない特徴等を有するため、発光層に適応することがより好ましい。
【0064】
一般的な有機EL素子は、基板上に、陰極及び陽極、及びそれらの間に1層以上の有機層を挟持した構造となっており、例えば以下の構成等が挙げられる。
1)陽極/発光層/陰極
2)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
3)陽極/発光層/電子注入層/陰極
4)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
さらに、必要に応じて、電子注入層と陰極間に陰極バッファー層(フッ化リチウム等)や、陽極と正孔注入層間に陽極バッファー層を挿入してもよい。
【0065】
<基板>
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0066】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0067】
また樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10-3mL/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10-5g/(m・24h)以下の高バリアー性フィルムであることが好ましい。
【0068】
バリアー膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリアー膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0069】
<陽極>
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0070】
また、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0071】
<陰極>
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0072】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数100Ω/sq.以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0073】
<有機機能層>
以下、本発明の有機EL素子の各有機機能層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層)について説明する。
本発明の有機層の形成方法は特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、塗布法等による形成方法を用いることができる。
【0074】
塗布法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・to・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度10-6Pa~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、膜厚0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0075】
(正孔注入層)
本発明に係る正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
【0076】
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のように陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432や特開2006-135145等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0077】
(正孔輸送層)
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
また、本発明の正孔輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2~500nmであり、さらに好ましくは5~200nmである。
【0078】
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料という)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0079】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖若しくは側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0080】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号公報、米国特許出願番号13/585981号、国際公開第2008/029729等である。
また、正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0081】
(発光層)
本発明に係る発光層は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の膜厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm~5μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2~500nmの範囲に調整され、更に好ましくは5~200nmの範囲に調整される。
【0082】
また、本発明の個々の発光層の膜厚としては、2nm~1μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2~200nmの範囲に調整され、更に好ましくは3~150nmの範囲に調整される。
本発明の発光層には、(1)発光ドーパント(発光性ドーパント化合物、ドーパント化合物、単にドーパントともいう)と、(2)ホスト化合物(マトリックス材料、発光ホスト化合物、単にホストともいう)とを含有することが好ましい。
【0083】
(1)発光ドーパント
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の膜厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に係る発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
【0084】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0085】
本発明においては、1層又は複数層の発光層が、発光色の異なる複数の発光ドーパントを含有し、白色発光を示すことも好ましい。
白色を示す発光ドーパントの組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組合わせ等が挙げられる。
発光層中に用いられる発光ドーパントは、リン光発光ドーパントと蛍光発光ドーパントに大別される。
【0086】
(蛍光ドーパント)
本発明に係る蛍光ドーパントは、励起一重項からの発光が可能な化合物であり、励起一重項からの発光が観測される限り特に限定されない。
例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、ホウ素錯体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、シアニン誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリウム誘導体、オキソベンツアントラセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ピリリウム誘導体、ペリレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、又は希土類錯体系化合物等が挙げられる。
また、蛍光ドーパントの一例として、青色蛍光発光ドーパントが挙げられる。青色蛍光発光ドーパントとしては、例えば、特開2010-93181号公報に記載の下記化合物を用いることができる。
【0087】
【化1】
【0088】
(リン光ドーパント)
本発明に係るリン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
リン光ドーパントの発光は原理としては二種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
本発明において使用できるリン光ドーパントとして、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0089】
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater. 17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許公開第2006/835469号明細書、米国特許公開第2006/0202194号明細書、米国特許公開第2007/0087321号明細書、米国特許公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許公開第2009/0108737号明細書、米国特許公開第2009/0039776号、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2006/0008670号明細書、米国特許公開第2009/0165846号明細書、米国特許公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許公開第2006/0263635号明細書、米国特許公開第2003/0138657号明細書、米国特許公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許公開第2006/0251923号明細書、米国特許公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許公開第2006/098120号明細書、米国特許公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許公開第2012/228583号明細書、米国特許公開第2012/212126号明細書、特開2012-069737号公報、特開2012-195554号公報、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-302671号公報、特開2002-363552号公報等である。
【0090】
中でも、好ましいリン光ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
ここで、本発明に使用できる公知のリン光ドーパントの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0091】
【化2】
【0092】
【化3】
【0093】
【化4】
【0094】
【化5】
【0095】
【化6】
【0096】
【化7】
【0097】
【化8】
【0098】
(2)ホスト化合物
本発明に係るホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
好ましくは室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物であり、さらに好ましくはリン光量子収率が0.01未満の化合物である。また、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
また、ホスト化合物の励起状態エネルギーは、同一層内に含有される発光ドーパントの励起状態エネルギーよりも高いことが好ましい。
なお、ホスト化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
【0099】
本発明で用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。低分子化合物でも繰り返し単位を有する高分子化合物でもよく、また、ビニル基やエポキシ基のような反応性基を有する化合物でもよい。
【0100】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、さらに、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、90℃以上の高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましく、より好ましくは120℃以上である。
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS-K-7121に準拠した方法により求められる値である。
【0101】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報、米国特許出願公開第2003/0175553号明細書、米国特許出願公開第2006/0280965号明細書、米国特許出願公開第2005/0112407号明細書、米国特許出願公開第2009/0017330号明細書、米国特許出願公開第2009/0030202号明細書、米国特許出願公開第2005/0238919号明細書、国際公開第2001/039234号、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008-074939号公報、特開2007-254297号公報、欧州特許第2034538号明細書等である。
【0102】
<電子輸送層>
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明の電子輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は2nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2~500nmであり、さらに好ましくは5~200nmである。
【0103】
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
【0104】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0105】
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
また、電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0106】
(電子注入層)
本発明に係る電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は必要に応じて設け、上記のように陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層は、ごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1~5nmの範囲が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な膜であってもよい。
【0107】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8-ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0108】
<封止>
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
【0109】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0110】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10-3mL/(m/24h)以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10-3g/(m/24h)以下のものであることが好ましい。
【0111】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(2液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0112】
さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ-イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0113】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0114】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0115】
<有機EL素子の用途>
有機EL素子は、表示装置、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
また、発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられるが、特にカラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0116】
[光電変換素子]
本発明の有機機能性薄膜は、太陽電池などに用いられる光電変換素子を構成する正孔輸送層、電子輸送層又はバルクヘテロジャンクション層(光電変換部)として好適に用いることができる。
【0117】
以下、光電変換素子の例として、バルクヘテロジャンクション型の光電変換素子の例を説明する。バルクヘテロジャンクション型の光電変換素子は、例えば、基板の一方面上に、透明電極(陽極)、正孔輸送層、バルクヘテロジャンクション層(光電変換部)、電子輸送層(又はバッファー層ともいう。)及び対極(陰極)が順次積層されている。
【0118】
基板は、順次積層された透明電極、光電変換部及び対極を保持する部材である。基板側から光電変換される光が入射するので、基板は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。この基板は、必須ではなく、例えば、光電変換部の両面に透明電極及び対極を形成することでバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子が構成されてもよい。
【0119】
光電変換部は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、光電変換素子用材料であるp型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与又は受容するものではなく、光反応によって、電子を供与又は受容するものである。
【0120】
基板を介して透明電極から入射された光は、光電変換部のバルクヘテロジャンクション層における電子受容体又は電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
発生した電荷は、内部電界、例えば、透明電極と対極の仕事関数が異なる場合では透明電極と対極との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ光電流が検出される。例えば、透明電極の仕事関数が対極の仕事関数よりも大きい場合では、電子は透明電極へ、正孔は対極へ輸送される。
なお、仕事関数の大小が逆転すれば、電子と正孔はこれとは逆方向に輸送される。
また、透明電極と対極との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
また、光電変換部で生じた電子及び正孔をそれぞれ効率良く透明電極及び対極に輸送するために、必要に応じて電子輸送層や正孔輸送層を設けることが好ましい。
【0121】
なお、上記で説明した層に加えて、正孔ブロック層、電子ブロック層、電子注入層、正孔注入層、又は平滑化層等の公知の他の層を有していてもよい。
また、さらなる太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成(バルクヘテロジャンクション層を複数有する構成)であってもよい。
【0122】
タンデム型構成の場合、例えば、基板上に、透明電極、第1の光電変換部、電荷再結合層(中間電極)、第2の光電変換部、対極を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。
上記のような層に用いることができる材料については、例えば、特開2015-149483号公報の段落0045~0113に記載のn型半導体材料、及びp型半導体材料が挙げられる。
【0123】
(バルクヘテロジャンクション層の形成方法)
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。このうち、前述の正孔と電子が電荷分離する界面の面積を増大させ、高い光電変換効率を有する素子を作製するためには、塗布法が好ましい。また塗布法は、製造速度にも優れている。
【0124】
塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び半導体材料の結晶化による移動度向上・吸収長波化を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。製造工程中において所定の温度でアニール処理されると、微視的に一部が配列又は結晶化が促進され、バルクヘテロジャンクション層を適切な相分離構造とすることができる。その結果、バルクヘテロジャンクション層のキャリア移動度が向上し、高い効率を得ることができるようになる。
光電変換部(バルクヘテロジャンクション層)は、電子受容体と電子供与体とが均一に混在された単一層で構成してもよいが、電子受容体と電子供与体との混合比を変えた複数層で構成してもよい。
【0125】
次に、有機光電変換素子を構成する電極について説明する。
有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層で生成した正電荷と負電荷とが、それぞれp型半導体材料、及びn型半導体材料を経由して、それぞれ透明電極及び対極から取り出され、電池として機能するものである。それぞれの電極には、電極を通過するキャリアに適した特性が求められる。
【0126】
(対極)
本発明において対極は、光電変換部で発生した電子を取り出す陰極とすることが好ましい。例えば、陰極として用いる場合、導電材単独層であってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
対極材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の陰極の導電材を用いることができる。
【0127】
(透明電極)
本発明において透明電極は、光電変換部で発生した正孔を取り出す機能を有する陽極とすることが好ましい。例えば、陽極として用いる場合、好ましくは波長380~800nmの光を透過する電極である。材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の陽極用の材料を用いることができる。
【0128】
(中間電極)
また、タンデム構成の場合に必要となる中間電極の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましい。材料としては、例えば、特開2014-078742号公報に記載の公知の中間電極用の材料を用いることができる。
次に、電極及びバルクヘテロジャンクション層以外を構成する材料について述べる。
【0129】
(正孔輸送層及び電子ブロック層)
本発明の有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能とするために、バルクヘテロジャンクション層と透明電極との中間には正孔輸送層・電子ブロック層を有していることが好ましい。
正孔輸送層を構成する光電変換素子用材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
【0130】
(電子輸送層、正孔ブロック層)
本発明の有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層と対極との中間には電子輸送層・正孔ブロック層・バッファー層を形成することで、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0131】
また、電子輸送層としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。また、電子輸送層は、バルクヘテロジャンクション層で生成した正孔を対極側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与された正孔ブロック層としてもよい。正孔ブロック層とするための材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
【0132】
(その他の層)
エネルギー変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層等を挙げることができる。
【0133】
(基板)
基板側から光電変換される光が入射する場合、基板はこの光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが望ましい。
本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚さ等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
【0134】
(光学機能層)
有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していてよい。光学機能層としては、例えば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、対極で反射した光を散乱させて再度バルクヘテロジャンクション層に入射させることができるような光拡散層等を設けてもよい。
【0135】
反射防止層、集光層及び光散乱層としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の反射防止層、集光層及び光散乱層をそれぞれ用いることができる。
【0136】
(パターニング)
本発明に係る電極、発電層、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の手法を適宜適用することができる。
【0137】
(封止)
また、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子等で公知の手法によって封止することが好ましい。例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の手法を用いることができる。
【実施例
【0138】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例で使用した化合物を以下に示す。
【0139】
【化9】
【0140】
【化10】
【0141】
化合物Eは国際公開第2010/067746号に記載の手順にて合成を行った。化合物Eの重量平均分子量は8000、分子量分布は2.3であった。
【0142】
[実施例1]
本発明に係る芳香族化合物である化合物A~Fのいずれか一つと、径の異なるセルロースナノファイバーを含有する有機機能性薄膜を形成し、耐リンス性に関する評価を以下の手順で行った。
【0143】
<セルロースナノファイバーの準備>
高濃度でアルカリ処理(マーセル化処理)された漂白クラフトパルプをセルロースナノファイバーの原料とし、これを1gとり、20mgのTEMPO及び0.48gのNaBrを含む75mLの水中で懸濁させた。懸濁中は、この溶液を27℃において、0.4MのNaOHを添加してpH10に維持した。セルロースが完全に溶解する前に反応混合物の黄色の呈色が消えないようにしながら、濃度11%のNaClOを20mL懸濁液に加えた。溶液が透明になったのち、過剰量のメタノールを加え、酸化を停止させた。得られた水分散液に高圧式ホモジナイザーを用いて解繊処理を行うことで、透明で高粘度のゲルを得た。
【0144】
次に、解繊処理後のセルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値を測定した。セルロースナノファイバーを溶解させたサンプルを希釈乾燥させて透過型電子顕微鏡を用いて五つの範囲を観察し、それぞれの範囲において任意に選択した5本のセルロースナノファイバーの短軸最大径を測定し、それらの計25本の短軸最大径を平均化したものを短軸最大径の平均値とした。短軸最大径を平均値は80nmであった。
【0145】
また、上記のセルロースナノファイバーよりも解繊処理の時間を長くした以外は同様の製造方法によって、短軸最大径の平均値が50nmのセルロースナノファイバーと、10nmのセルロースナノファイバーも作製した。
【0146】
<サンプル1-1の作製>
9.0mgの化合物Aと、1.0mgの上記セルロースナノファイバー(短軸最大径の平均値80nm)とを、1.1gのクロロベンゼン中に窒素雰囲気下で溶解させ、有機機能性薄膜形成用塗布液を得た。300mm×300mm×1.1mmのガラス基板にUVオゾン洗浄処理を10分間行った。
調液した有機機能性薄膜形成用塗布液を用いて、窒素雰囲気下で上記基板上に1000rpm、30秒の条件下でスピンコート法にて成膜した。続いて、得た薄膜を130℃で30分加熱乾燥し、膜厚約60nmの有機機能性薄膜を作製した。乾燥後の有機機能性薄膜中のセルロースナノファイバーの膜中濃度は10質量%であった。
【0147】
このとき、有機機能性薄膜の耐溶媒性(耐リンス性)の評価を行うため、一種の塗布液あたり二つずつ薄膜を作製し、以下に記述するリンス処理を行わないものをサンプル1-1a、リンス処理を行うものをサンプル1-1bとした。なお、説明の都合上、リンス処理を行わないサンプル(サンプル1-1a)と、リンス処理を行ったサンプル(サンプル1-1b)との2つのサンプルを合わせて、サンプル1-1とも呼ぶ。なお、サンプル1-2~1-12も同様である。
サンプル1-bに後述するリンス処理を施した。次に、サンプル1-1a及び1-1bとも130℃で30分間加熱乾燥を行い、両サンプルの両薄膜の上部をガラスカバーで覆った。次に、ガラスカバーと成膜されたガラス基板とが接触するガラスカバー側の周囲に、シール材として酸素や水分を吸着する吸湿性化合物を内部に含んだエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を用いて、これを陰極側に重ねて基板と密着させた。その後、基板側から、膜を除く部分にUV光を照射することにより硬化させ、封止を行った。
【0148】
(リンス処理)
サンプル1-1bを再びスピンコート台に設置し、リンス溶媒として約1mLの酢酸ノルマルプロピルを薄膜の上に滴下した後、溶媒を除去するために500rpm、30秒間回転させた。
【0149】
<耐リンス性の評価>
上記のように作製したサンプル1-1a及び1-1bに対して、分光蛍光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、F-7000)を用いて蛍光スペクトルを測定し、発光極大の発光強度を求めた。なお耐リンス性に関しては、下記式によって算出し、20%以上を◎、10%以上を○、10%以下を×として評価した。
耐リンス性={(リンス処理を行ったサンプル(サンプル1-1b)の発光極大強度)/(リンス処理を行わないサンプル(サンプル1-1a)の発光極大強度)}×100(%)
【0150】
<サンプル1-2の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-1の作製において、短軸最大径の平均値が50nmのセルロースナノファイバーを用いて得た有機機能性薄膜形成用塗布液に置き換えた以外は同様にして、サンプル1-2を作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0151】
<サンプル1-3~1-6の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-1の作製において、以下の表I中に示す芳香族化合物と、表I中に示す短軸最大径の平均値のセルロースナノファイバーを用いて得た有機機能性薄膜形成用塗布液とに置き換えた以外は同様にして、サンプル1-3~1-6を作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0152】
<サンプル1-7~1-9の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-1の作製において、化合物Aを化合物Dに置き換え、有機機能性薄膜形成用塗布液を表I中に示す短軸最大径の平均値及び膜中濃度のセルロースナノファイバーを含有する塗布液に置き換えた以外は同様にして、サンプル1-7~1-9を作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0153】
<サンプル1-10の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-1の作製において、化合物Aを化合物Eに置き換え、セルロースナノファイバーを含有していない有機機能性薄膜形成用塗布液とした以外は同様にして、サンプル1-10を作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0154】
<サンプルの1-11の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-11の有機層に用いる芳香族化合物Fは成膜後にUV照射等の処理を行うことでポリマー化する後架橋型の化合物であるため、以下の手順で作製した。なお、表Iには、芳香族化合物Fのポリマー化前の平均分子量を記載している。
サンプル1-1a、1-1bの作製と同様にして、化合物Fをクロロベンゼンに溶解させた塗布液を用いてスピンコートし、基板上にサンプル1-11a、1-11b用の薄膜を成膜したのち、180秒間紫外光を照射し、光重合・架橋を行った。その後、サンプル1-11bに対してのみサンプル1-1bと同様にリンス処理を行った。次に、サンプル1-1と同様に封止を行い、サンプル1-11a,1-11bを作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0155】
<サンプル1-12の作製と耐リンス性評価>
サンプル1-1の作製において、セルロースナノファイバーを添加しなかったこと以外は同様にして、サンプル1-12を作製した。また、サンプル1-1と同様の方法で耐リンス性の評価を行った。
【0156】
【表1】
【0157】
サンプル1-1~サンプル1-12の評価結果の比較により、短軸最大径の平均値が50nm以下のセルロースナノファイバーを添加することにより、耐リンス性の向上がみられることがわかった。これについては、短軸最大径の平均値の小さいセルロースナノファイバーを用いることで、本発明に係る芳香族化合物の周囲により多くのセルロースナノファイバーが存在しやすくなったと推察される。そして、これにより、セルロースナノファイバーと芳香族化合物との間にファンデルワールス力等といった相互作用がより働きやすくなり、耐リンス性が向上すると推察される。
また、本発明の有機機能性薄膜に含有する芳香族化合物の平均分子量は2000以下である。このような低分子量の芳香族化合物は、分子サイズが小さいため、セルロースナノファイバー間に入りやすくなる。これにより、セルロースナノファイバーと芳香族化合物との間にファンデルワールス力等といった相互作用がより働きやすくなっているので、リンス溶媒で洗浄しても膜中の芳香族化合物が流されにくく、耐リンス性が向上したものと推察される。
従来技術では、ポリマーや後架橋型の化合物を用いることで耐リンス性の良好な膜を形成して、当該膜に対して他の膜を積層していた。本発明の有機機能性薄膜では、本発明に係る芳香族化合物とセルロースナノファイバーとを含有する塗布液により耐リンス性の良好な膜を形成できるので、当該膜に対して他の膜を塗布法により形成できることがわかった。
また、サンプル1-9の評価結果より、セルロースナノファイバーの膜中濃度が0.1質量%という低濃度でも本発明の効果を得ることができることがわかった。
【0158】
[実施例2]
有機層として、リン光ドーパントG1、ホスト化合物H1及びセルロースナノファイバーを含有する有機機能性薄膜を作製し、燐光寿命に関する評価を以下の手順で行った。
【0159】
<サンプル2-1の作製>
6.8mgの化合物H1、0.8mgの化合物G1及び0.08mgのセルロースナノファイバー(短軸最大径の平均値80nm)を窒素雰囲気下で1.1gのクロロベンゼン中に溶解させ、有機機能性薄膜形成用塗布液を得た。
UVオゾン洗浄処理を10分間行った300mm×300mm×1.1mmのガラス基板上に、調液した塗布液を1500rpm、30秒の条件下のもとスピンコート法にて成膜後、真空下130℃で加熱乾燥することにより溶媒を完全に除去し、膜厚約50nmの薄膜を作製した。乾燥後の薄膜中のセルロースナノファイバーの膜中濃度は、1.0質量%であった。その後、サンプル1-1と同様にして封止を行った。
【0160】
<サンプル2-2、2-3の作製>
サンプル2-1の作製において、セルロースナノファイバーの短軸最大径の平均値がサンプル2-2は50nm、サンプル2-3は10nmである有機機能性薄膜形成用塗布液に置き換えた以外は同様にしてサンプル2-2、2-3を作製した。
【0161】
<サンプル2-4~2-6の作製>
サンプル2-1の作製において、セルロースナノファイバーの膜中濃度がサンプル2-4は0.1質量%、サンプル2-5は10.0質量%となる有機機能性薄膜形成用塗布液に置き換えた以外は同様にしてサンプル2-4、2-5を作製した。また、サンプル2-1の作製において、セルロースナノファイバーを添加しなかったこと以外は同様にしてサンプル2-6を作製した。
【0162】
<発光寿命測定>
浜松ホトニクス社製の発光寿命測定装置を用いて、室温下で窒素レーザー光をパルス照射し、励起パルス終了後の発光強度の減衰時間を測定した。初期の発光強度をIとしたときのt時間後の発光強度Iは、発光寿命τを用いて以下の式にて定義される。
式:I=Iexp(-t/τ)
上記式に基づいて得られた減衰曲線をフィッティングし、発光寿命(リン光寿命)τを算出して評価を行った。得られた結果に関しては、セルロースナノファイバーを添加していないサンプル2-4を100とし、サンプル2-4に対する相対値で表II中に示した。
【0163】
【表2】
【0164】
表IIの評価結果より、有機機能性薄膜中に短軸最大径の平均値を50nm以下のセルロースナノファイバーを添加した場合には、リン光寿命への影響はほとんどないことが分かった。
また、短軸最大径の平均値を50nm以下のセルロースナノファイバーは、短軸径が小さいので膜表面から突き出しにくく、膜表面を均一に保つことができると推察される。したがって、機能性の高い膜を形成することができると推察される。
【0165】
[実施例3]
正孔輸送層に以下の表IIIに示す芳香族化合物及びセルロースナノファイバーを用いて有機EL素子を作製し、外部取り出し量子効率及び素子の発光寿命を測定した。
【0166】
<有機EL素子3-1の作製>
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を約100nm成膜した基板(AvanStrate株式会社製NA45)にパターニングを行った。
【0167】
このITO透明電極基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後にUVオゾン洗浄を5分間行った。
基板上にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、へレウス社製、商品名:CLEVIOS P VP AI 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚約20nm第1正孔輸送層を設けた。
この基板を窒素雰囲気下に移し、第1正孔輸送層上に、9.0mgの化合物A、1.0mgのセルロースナノファイバー(短軸最大径の平均値50nm)を1.1gのクロロベンゼン中に窒素雰囲気下で溶解させて得た有機機能性薄膜形成用塗布液を1500rpm、30秒の条件下、スピンコート法により成膜した。その後、130℃で30分加熱乾燥を行い、膜厚約20nmの第2正孔輸送層とした。乾燥後の第2正孔輸送層中のセルロースナノファイバーの膜中濃度は10.0質量%であった。
続いて、6.8mgの化合物H1、0.8mgの化合物G1、を窒素雰囲気下で1.1gのクロロベンゼン中に溶解させた塗布液を500rpm、30秒の条件下で先に成膜した第2正孔輸送層上にスピンコート法にて成膜し、これを130℃、30分加熱乾燥させ、膜厚約50nmの発光層とした。
【0168】
これを真空蒸着装置に取付けた後に真空槽を4×10-4Paまで減圧し、芳香族化合物Iを0.1nm/秒で蒸着して、膜厚約35nmの電子輸送層とした。その後、陰極バッファー層としてフッ化リチウム約1.0nm及び陰極としてアルミニウム約110nmを蒸着して陰極を形成し、サンプル1-1と同様の手順で封止することにより、有機EL素子3-1を作製した。
【0169】
<有機EL素子3-2~3-5、3-7の作製>
有機EL素子3-1の作製において、第2正孔輸送層に含有する芳香族化合物を以下の表III中に示したものに置き換えた以外は同様にして、有機EL素子3-2~3-5、3-7を作製した。また、有機EL素子3-5、3-7の作製においては、表IIIに記載のとおり、セルロースナノファイバーは含有させずに、第2正孔輸送層を形成した。
【0170】
<有機EL素子3-6の作製>
有機EL素子3-1の作製における第2正孔輸送層の成膜の際、用いる芳香族化合物を以下の表III中に示したものに置き換え、塗布後に180秒間紫外光を照射して光重合・架橋を行うことで成膜を行った以外は同様にして、有機EL素子3-6を作製した。また、有機EL素子3-6の作製においては、表IIIに記載のとおり、セルロースナノファイバーは含有させずに、第2正孔輸送層を形成した。
【0171】
<外部取り出し量子効率の評価>
作製した各有機EL素子について、23℃、乾燥窒素ガス雰囲気下で2.5mA/cmの定電流を印加した際の外部取り出し量子効率(%)を算出した。なお、測定は製膜直後及び初期輝度の半分まで駆動させた有機EL素子で行った。なお、測定には分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ社製)を用いた。結果については、表III中に、有機EL素子3-6の外部取り出し量子効率(%)を100とした場合の相対値で示した。
【0172】
<発光寿命の評価>
2.5mA/cmの一定電流で駆動したときに、輝度が発光開始直後の輝度(初期輝度)の半分に低下するのに要した時間を測定し、これを半減寿命時間(τ1/2)として発光寿命の指標とした。輝度の測定には、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ社製)を用いた。結果については、表III中に、有機EL素子3-5の発光寿命を100として相対値で示した。
【0173】
【表3】
【0174】
第2正孔輸送層にセルロースナノファイバーを含まない有機EL素子3-7では、上層を塗布できず、正常な有機EL素子を作製することができなかったため、発光寿命及び外部取り出し量子効率の測定は不可能であった。
得られた結果より、正孔輸送層中に本発明に係るセルロースナノファイバーを添加した場合、発光寿命及び外部取り出し量子効率に対して大きな影響を与えないことがわかった。
【0175】
[実施例4]
正孔輸送層に後架橋型の化合物F、発光層に以下の表IVに示す組成の膜を用いて有機EL素子を作製し、[実施例3]と同様にして素子寿命及び外部取り出し量子効率の評価を行った。
【0176】
<有機EL素子4-1の作製>
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を約100nm成膜した基板(AvanStrate株式会社製NA45)にパターニングを行った。
このITO透明電極基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後にUVオゾン洗浄を5分間行った。
【0177】
基板上にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS、へレウス社製、商品名:CLEVIOS P VP AI 4083)を純水で 70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚30nmの第1正孔輸送層を設けた。
第1正孔輸送層上に、9.0mgの化合物Fを1.1gのクロロベンゼンに溶解した塗布液を1500rpm、30秒の条件下、スピンコート法により成膜した。180秒間紫外光を照射し、光重合・架橋を行い、膜厚約20nmの第2正孔輸送層とした。
その後、6.8mgの化合物H2、0.8mgの化合物G2及び0.08mgのセルロースナノファイバー(短軸最大径の平均値50nm)を窒素雰囲気下で1.1gのクロロベンゼン中に溶解させた有機機能性薄膜形成用塗布液を、上記第2正孔輸送層上に1500rpm、30秒の条件下のもとスピンコート法にて成膜後、真空下130℃で加熱乾燥することにより溶媒を完全に除去し、膜厚約50nmの発光層とした。乾燥後の発光層中のセルロースナノファイバーの膜中濃度は0.010質量%であった。
【0178】
続いて、この発光層上に5.0mgの化合物Iを1.0mLの2-プロパノールに溶解させた塗布液を1000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、120℃で30分加熱乾燥し、膜厚約30nmの電子輸送層とした。
これを真空蒸着装置に取付け、次いで、真空槽を4×10-4Paまで減圧し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム約1.0nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、サンプル1-1と同様の手順で封止することにより、有機EL素子4-1を作製した。
【0179】
<有機EL素子4-2、4-3の作製>
有機EL素子4-1の作製において、発光層を形成するための有機機能性薄膜形成用塗布液を下の表IVに記載した組成に置き換えた以外は同様にして、有機EL素子4-2、4-3を作製した。なお、表IVに記載のとおり、有機EL素子4-3では、セルロースナノファイバーを含有しない塗布液を用いている。
【0180】
<有機EL素子の評価>
上記で作製した有機EL素子4-1~4-3について、直流電圧を素子に印加して発光させ、目視で観測した。表IVに記載の通りの結果が得られた。
なお、有機EL素子4-1及び有機EL素子4-2では、発光を確認できたため、表IVでは「○」と示している。また、有機EL素子4-3では、発光層上に電子輸送層を形成するための塗布液を塗布したところ、発光層と混ざって塗布膜を形成できなかったため、「塗布不可」と記載している。
【0181】
【表4】
【0182】
表IVに記載のとおり、セルロースナノファイバーの添加をしなかった有機EL素子4-3では、発光層上に電子輸送層用塗布液を用いて塗布膜を形成することが不可能であった。これに対し、セルロースナノファイバーを添加した有機EL素子4-1及び有機EL素子4-2では、発光層上に電子輸送層を形成することができた。また、有機EL素子4-1及び有機EL素子4-2では、直流電圧を素子に印加した際に、有機EL素子からの十分な発光を確認することができ、セルロースナノファイバーを添加しても発光特性には影響を及ぼさないことを確認できた。
【0183】
[実施例5]
<有機光電変換素子の作製>
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を140nm堆積したものを、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングとを用いて2mm幅にパターニングして、透明電極を形成した。
パターン形成した透明電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。この透明基板上に、導電性高分子であるCLEVIOS P VP AI 4083(へレウス社製)を60nmの厚さでスピンコートした後、140℃で大気中10分間加熱乾燥した。
これ以降は基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。まず、窒素雰囲気下で上記基板を140℃で10分間加熱処理した。
クロロベンゼンにp型半導体材料として、PCPDTBT(重量平均分子量7000~20000、Nature Mat.vol.6(2007)、p497に記載のポリチオフェン共重合体)を1.0質量%、n型半導体材料としてPCBM(重量平均分子量911、フロンティアカーボン製、NANOM SPECTRAE100H)を2.0質量%、セルロースナノファイバー(短軸最大径の平均値50nm)0.01質量%、さらに1,8-オクタンジチオールの2.4質量%を溶解した液を作製し、0.45μmのフィルターでろ過し、これを有機機能性薄膜形成用塗布液とした。そして、この有機機能性薄膜形成用塗布液を用いて、インクジェット法にて厚さ100nmの薄膜を形成し、室温で30分乾燥し、光電変換層を得た。
【0184】
次に、上記光電変換層を成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。2mm幅のシャドーマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、10-3Pa以下にまで真空蒸着機内を減圧した後、フッ化リチウムを0.5nm、Alを80nm蒸着した。最後に120℃で30分間の加熱を行い、有機光電変換素子を得た。なお、蒸着速度はいずれも2nm/秒で蒸着し、2mm角のサイズとした。
得られた有機光電変換素子は、窒素雰囲気下でアルミニウムキャップとUV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570-B1)を用いて封止を行った。これを有機光電変換素子とした。
【0185】
<有機光電変換素子の評価>
上記で作製した有機光電変換素子に、ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射ししたところ、光電変換素子として十分な機能を有していることが分かった。これにより、本発明に係るセルロースナノファイバーを添加した場合にも、光電変換機能には影響を与えないことを確認することができた。
【符号の説明】
【0186】
10 芳香族化合物
CNF セルロースナノファイバー
D1 短軸最大径
D2 長軸最大径
図1