(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】タイヤの加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/10 20060101AFI20220107BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20220107BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20220107BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B29C33/10
B29C33/02
B60C13/00 H
B29D30/06
(21)【出願番号】P 2017245419
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-318716(JP,A)
【文献】特開平10-297222(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095688(WO,A1)
【文献】特表2006-506266(JP,A)
【文献】特開2008-265453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/10
B29C 33/02
B60C 13/00
B29D 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのサイドウォール部を成形するためのサイドウォール成形面を有するサイドモールドを含むタイヤの加硫金型であって、
前記サイドウォール成形面は、その輪郭形状がタイヤ周方向に変化し、
かつ前記輪郭形状は、タイヤ子午断面における輪郭線のうちで、タイヤ軸方向最外側を通る第1の輪郭線を有する谷部と、タイヤ軸方向最内側を通る第2の輪郭線を有する頂部とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をな
し、
前記タイヤの加硫金型は、前記サイドモールドのタイヤ半径方向内端部に配されるビード形成用のビードリングを具え、
加硫成形時、前記サイドモールドは、前記タイヤとの間で前記谷部を頂点としたスペースが形成され、
前記スペースは、半径方向内外に連続してのび、かつ、前記サイドモールドと前記ビードリングとの突き合わせ部まで延びているタイヤの加硫金型。
【請求項2】
前記
加硫金型は、トレッド形成用のトレッドモールドを含み、
前記スペースは、前記サイドモールドと前記トレッドモールドとの突き合わせ部まで延びている請求項1記載のタイヤの加硫金型。
【請求項3】
タイヤのサイドウォール部を成形するためのサイドウォール成形面を有するサイドモールドを含むタイヤの加硫金型であって、
前記サイドウォール成形面は、その輪郭形状がタイヤ周方向に変化し、
かつ前記輪郭形状は、タイヤ子午断面における輪郭線のうちで、タイヤ軸方向最外側を通る第1の輪郭線を有する谷部と、タイヤ軸方向最内側を通る第2の輪郭線を有する頂部とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をなし、
前記谷部と頂部との間のタイヤ軸心を中心とした角度θは10~45度であるタイヤの加硫金型。
【請求項4】
前記第1の輪郭線と前記第2の輪郭線との間タイヤ軸方向の距離の最大値Dmax は、0.2~2.0mmである請求項1~3の何れかに記載のタイヤの加硫金型。
【請求項5】
前記谷部と頂部とはタイヤ周方向に等間隔で繰り返される請求項1~4の何れかに記載のタイヤの加硫金型。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のタイヤの加硫金型により生タイヤを加硫する加硫工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部におけるベアの発生を抑えるタイヤの加硫金型及びタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを加硫成形する際、加硫金型とタイヤとの間に空気溜まりが発生し、タイヤの外面にベア(凹み部分)が生じることが知られている。特に、タイヤのサイドウォール部は、文字、記号などである標章が凹凸状に形成されているため、空気が溜まりやすくベアが発生しやすい。
【0003】
このようなベアの発生を防ぐため、加硫金型のサイドウォール成形面に多数の排気用のベントホールを設けることが知られている。しかしベントホールを多数配置すると、それに応じてスピューと呼ばれるゴム突起の本数が増大し、タイヤの美観を損ねるという問題がある。
【0004】
近年においては、サイドウォール成形面に半径方向にのびる細溝状のソーカットを設け、これを空気の通路として使用し排気効率を高めることも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかし、ソーカットの場合、その形成位置は、標章の配置や大きさなどのデザイン上の制約を受ける。そのため、ソーカットを半径方向に連続して設けることができなかったり、又ソーカット自体を配置できない場所が生じるなど、設計の自由度を損ねたり、又ベアの発生を十分に抑制できない場合も起こりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、標章等のデザイン上の制約を受けることなくベアの発生を抑制しうるタイヤの加硫金型及びタイヤの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、タイヤのサイドウォール部を成形するためのサイドウォール成形面を有するサイドモールドを含むタイヤの加硫金型であって、
前記サイドウォール成形面は、その輪郭形状がタイヤ周方向に変化し、
かつ前記輪郭形状は、タイヤ子午断面における輪郭線のうちで、タイヤ軸方向最外側を通る第1の輪郭線を有する谷部と、タイヤ軸方向最内側を通る第2の輪郭線を有する頂部とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をなす。
【0009】
本発明に係るタイヤの加硫金型では、前記第1の輪郭線と前記第2の輪郭線との間タイヤ軸方向の距離の最大値Dmax は、0.2~2.0mmであるのが好ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤの加硫金型では、前記谷部と頂部との間のタイヤ軸心を中心とした角度θは10~45度であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤの加硫金型では、前記谷部と頂部とはタイヤ周方向に等間隔で繰り返されるのが好ましい。
【0012】
本願の第2発明は、タイヤの製造方法であって、第1発明のタイヤの加硫金型により生タイヤを加硫する加硫工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、サイドウォール成形面の輪郭形状は、タイヤ子午断面における輪郭線のうちで、タイヤ軸方向最外側を通る第1の輪郭線を有する谷部と、タイヤ軸方向最内側を通る第2の輪郭線を有する頂部とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をなす。
【0014】
そのため、加硫成形時、タイヤとサイドウォール成形面との間には、前記谷部を頂点とした断面略三角形状のスペースが形成される。このスペースは、半径方向内外に連続してのびる。従って、このスペースが排気路として機能し、タイヤとサイドウォール成形面との間の空気を外部に排気することができる。
【0015】
このような輪郭形状は、標章等のデザイン上の制約を受けない、或いは前記デザインに制約を与えない。そのため、設計の自由度を広く確保しながら、ベアの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のタイヤの加硫金型の一実施形態を示す子午断面図である。
【
図3】サイドウォール成形面をタイヤ軸方向内側から見た側面図である。
【
図4】(A)はサイドウォール成形面のタイヤ周方向断面を平面に展開して示す部分展開図、(B)は本発明の作用効果を示す図面である
【
図5】(A)は本発明の加硫金型によって形成されたタイヤの子午断面図、(B)は部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のタイヤの加硫金型1は、タイヤ軸方向両側に配されるサイドウォール形成用の一対のサイドモールド2と、トレッド形成用のトレッドモールド4と、各サイドモールド2のタイヤ半径方向内端部に配されるビード形成用のビードリング5とを具える。便宜上、
図1には、タイヤ赤道面Coのタイヤ軸方向一方側のみが描かれている。
【0018】
加硫金型1は、サイドモールド2の半径方向外端側の突き合わせ面S1と、トレッドモールド4のタイヤ軸方向両側かつ半径方向内端側の突き合わせ面S2とが互いに突き合わされ、かつサイドモールド2の半径方向内端側の突き合わせ面S3と、ビードリング5の半径方向外端側の突き合わせ面S4とが互いに突き合わされる金型閉状態YにてタイヤTの加硫成形が行われる。
【0019】
サイドモールド2は、タイヤTのサイドウォール部を成形するためのサイドウォール成形面2sを具える。トレッドモールド4は、タイヤTのトレッド部を成形するためのトレッド成形面4sを具える。ビードリング5は、タイヤTのビード部を成形するためのビード成形面5sを具える。
【0020】
トレッドモールド4及びビードリング5として従来と同様の構造が採用しうる。又サイドモールド2として、前記サイドウォール成形面2s以外、従来と同様の構造が採用しうる。従って、以下に、サイドウォール成形面2sを中心に説明する。
【0021】
図2に示すように、サイドウォール成形面2sは、その輪郭形状Kがタイヤ周方向に繰り返して変化する。具体的には、輪郭形状Kは、谷部10と、頂部11とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をなす。タイヤ子午断面における輪郭線Jのうち、谷部10は、タイヤ軸方向最外側を通る第1の輪郭線Jaを有する。又頂部11は、輪郭線Jのうち、タイヤ軸方向最内側を通る第2の輪郭線Jbを有する。なお谷部10と頂部11との間では、輪郭線Jは滑らかに変化している。
【0022】
前記「輪郭形状K」には、サイドウォール成形面2sに一般に形成される文字、記号、図形などである標章、及びリッジ等の装飾模様などからなる部分的な微少な凹凸は含まれない。
【0023】
図1に示すように、第1の輪郭線Jaと第2の輪郭線Jbとの間のタイヤ軸方向の距離Dの最大値Dmax は、0.2~2.0mmであるのが好ましい。本例では、前記最大値Dmax は、タイヤ最大巾位置Pmにおける距離Dとして表れる。
【0024】
図3に示すように、谷部10と頂部11との間のタイヤ軸心iを中心とした角度θは10~45度であるのが好ましい。特には、谷部10と頂部11とがタイヤ周方向に等間隔で繰り返されるのが好ましい。なお等間隔でない場合、前記角度θの最大値及び最小値が前記10~45度の範囲に入るのが好ましい。
【0025】
図4(A)は、サイドウォール成形面2sのタイヤ周方向断面を平面に展開して示す部分展開図である。同図に示すように、本例では、谷部10、10間が、サイドウォール成形面2sよりもタイヤ軸方向外側に中心を有しかつ頂部11を通る円弧状曲線15によって形成される。この場合、サイドウォール成形面2sは、谷部10ではエッジ状をなし、頂部11では滑らかな円弧状をなす。なお前記展開図において、サイドウォール成形面2sを、谷部10、10間が波の一周期となる正弦曲線等の波状曲線で形成されても良い。これにより、谷部10及び頂部11を滑らかな曲線とすることができる。
【0026】
このようなサイドモールド2では、
図4(B)に示すように、加硫成形時、タイヤTとサイドウォール成形面2sとの間には、谷部10を頂点とした断面略三角形状のスペースHが形成される。このスペースHは、半径方向内外に連続しのびる。従って、加硫中のゴム流動によりスペースHがゴムGで埋まるまでの間、スペースHが排気路として機能し、タイヤTとサイドウォール成形面2sとの間の空気を、半径方向内外に逃がすことができる。逃げた空気は、本例では、
図1に示すように、サイドモールド2とトレッドモールド4との突き合わせ部20、及びサイドモールド2とビードリング5との突き合わせ部21を通って金型外に排気させることができる。
【0027】
要求により、前記谷部10の位置に、ベントホールを形成することもできる。この場合にも、空気がスペースHに集合するため、ベントホールの形成数を大幅に減じることができる。このような輪郭形状Kを有するサイドウォール成形面2sは、標章等のデザイン上の制約を受けない、或いは前記デザインに制約を与えない。そのため、設計の自由度を広く確保しながら、ベアの発生を抑制することができる。
【0028】
ここで、第1、第2の輪郭線Ja、Jb間のタイヤ軸方向の距離Dの最大値Dmax (
図1に示す)が0.2mmを下回ると、前記スペースHが過小となって排気路として十分に機能しなくなる。逆に最大値Dmax が2.0mmを越えると、サイドウォール部におけるゲージ厚さがタイヤ周方向に不均一化する、その結果、ラテラル・ランアウト(LRO)の悪化を招く。このような観点から最大値Dmax の下限は0.5mm以上が好ましく、上限は1.5mm以下が好ましい。
【0029】
又谷部10と頂部11との間の前記角度θ(
図3に示す)が10度を下回ると、タイヤ周方向に凹凸が頻繁に現れるため、タイヤの外観性能の悪化を招く。逆に角度θが45度を越えると、スペースH(排気路)の間隔が大となり、排気が不充分となってベア発生の抑制効果が低下する。このような観点から角度θの下限は15度以上が好ましく、上限は30度以下が好ましい。
【0030】
図5(A)、(B)に、タイヤの製造方法によって形成された空気入りタイヤTが示される。このタイヤの製造方法は、前記加硫金型1によって生タイヤを加硫する加硫工程を含む。
【0031】
図5(A)、(B)には、空気入りタイヤTの内部構造が省略されて描かれているが、従来と同様のタイヤ内部構造が採用しうる。即ち、例えば、タイヤの骨格をなすカーカス、カーカスの半径方向外側かつトレッド部T1に配されるベルト層、ベルト層の半径方向外側に配されるバンド層、ビード部T2に配されるビードコアなどの周知の構成部材を具えることができる。
【0032】
空気入りタイヤTでは、前記加硫金型1によって加硫成形されることにより、サイドウォール部T3の外面のタイヤ輪郭形状Mは、タイヤ周方向に繰り返して変化する。具体的には、タイヤ輪郭形状Mは、タイヤ子午断面における輪郭線Rがタイヤ軸方向最内側を通る谷部31と、輪郭線Rがタイヤ軸方向最外側を通る頂部32とがタイヤ周方向に交互に繰り返される凹凸面状をなす。谷部31における輪郭線と頂部32における輪郭線との間タイヤ軸方向の距離Lの最大値Lmax は、加硫金型1における前記距離Dの最大値Dmax と等しい。
【0033】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0034】
タイヤサイズ235/55R19の乗用車用タイヤを、表1に記載の仕様を有する加硫金型を用いて加硫成形した。その時の、ベアの発生状況、タイヤのラテラル・ランアウト(LRO)を比較した。
【0035】
比較例では、サイドウォール成形面に、半径方向にのびる細溝状のソーカット(溝巾0.5~1.0mm、溝深さ0.5~1.0mm)をタイヤ周方向に18箇所形成した。ソーカットを等間隔を有して18箇所形成した場合、ソーカットが文字デザイン(標章)と干渉する部分が複数箇所発生する。従って比較例では、干渉する部分において、ソーカットの位置をずらしたり、ソーカットの一部を削除することで、対応している。
【0036】
(1)ベアの発生状況:
1000本のタイヤを製造し、サイドウォール部の外観を目視検査した。そして空気溜まりに原因するベアが発生するタイヤの発生率(%)を、ベア発生率として求めた。数値が小さいほどベアの発生が少なく、外観品質に優れている。
【0037】
(2)ラテラル・ランアウト(LRO):
ユニフォミティ試験機を用い、1000本のタイヤについてラテラル・ランアウト(LRO)を測定するとともに、その平均値を比較した。数値が小さいほどラテラル・ランアウト(LRO)が小さく、ユニフォミティに優れている。
【0038】
【0039】
表に示すように、実施例は、設計の自由度を広く確保しながら、ベアの発生を抑制しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0040】
1 タイヤの加硫金型
2 サイドモールド
2s サイドウォール成形面
10 谷部
11 頂部
i タイヤ軸心
J、Ja、Jb 輪郭線
K 輪郭形状
T タイヤ
T3 サイドウォール部