(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】バルブ装置
(51)【国際特許分類】
G05D 16/20 20060101AFI20220107BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20220107BHJP
F16K 51/02 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G05D16/20 C
F16K37/00 D
F16K51/02 B
(21)【出願番号】P 2017250131
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2016250659
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-225401(JP,A)
【文献】特開2010-282243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/20
F16K 37/00
F16K 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられ、弁体の開度を変化させてバルブコンダクタンスを制御するバルブ装置において、
前記弁体の開度を検出する開度検出部と、
前記真空チャンバの圧力値および圧力目標値が入力され、前記圧力値と前記開度検出部で検出された開度とに基づいて、前記圧力値を前記圧力目標値に近づけるように前記弁体の開度を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記圧力値および前記開度検出部で検出される検出開度に応じて、前記弁体の開度の粗調整を行うオープン制御および前記弁体の開度の微調整を行うクローズ制御の何れかを行い、
前記オープン制御では、予め設定した現在から先の予測対象時間における圧力予測推定値を推定し、
該圧力予測推定値と圧力目標値との大小関係に基づいて前記粗調整を行い、
前記クローズ制御では、前記圧力目標値と前記圧力値とに基づいて前記微調整を行う、バルブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、前記圧力目標値に対応する基準開度と前記検出開度との大小関係、および前記圧力目標値と前記圧力値との大小関係に基づいて、前記オープン制御および前記クローズ制御における開度制御を行う、バルブ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、
開度座標および圧力座標で表される開度・圧力座標平面を、前記基準開度および前記圧力目標値で表される目標座標点を通る圧力座標軸および開度座標軸により第1象限、第2象限、第3象限及び第4象限の4つの領域に区分けし、
前記検出開度および前記圧力値で表される座標点が前記第1象限から前記第4象限までのいずれにあるかに応じて開度制御を異ならせる、バルブ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のバルブ装置において、
前記オープン制御においては、前記座標点の位置に応じた第1の開度制御パターン、第2の開度制御パターンおよび第3の開度制御パターンのいずれかにより開度制御が行われ、
前記第1の開度制御パターンにおいては、前記第1象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加あるいは静止させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少させ、前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、前記第4象限および前記第3象限では前記弁体の開度を減少させ、
前記第2の開度制御パターンにおいては、前記第3象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少あるいは静止させ、前記第4象限では前記弁体の開度を減少させ、前記第1象限および前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、
前記第3の開度制御パターンにおいては、前記第1象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加あるいは静止させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少させ、前記第3象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少あるいは静止させ、前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、前記第4象限では前記弁体の開度を減少させる、バルブ装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、前記目標座標点を含み所定開度閾値および所定圧力閾値によって設定された領域に、前記座標点が含まれるか否かによって前記クローズ制御および前記オープン制御のいずれを行うかを決定する、バルブ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のバルブ装置において、
前記所定圧力閾値によって設定される領域は、前記圧力目標値を中心とする所定圧力偏差の範囲であって、
前記制御部は、前記圧力値が前記所定圧力偏差内か否かにより、前記クローズ制御と前記オープン制御との間の切り替えを行い、
前記オープン制御から前記クローズ制御へ切り替える場合、前記第1象限および前記第3象限における前記所定圧力偏差を、前記第2象限および前記第4象限における前記所定圧力偏差よりも小さくした、バルブ装置。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載のバルブ装置において、
前記基準開度として、前記弁体の開度変化により前記圧力値が前記圧力目標値に達したと仮定したときの目標開度推定値を用いる、バルブ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、
前記検出開度が前記目標開度推定値を中心とする所定開度幅内に含まれるか否かにより、前記オープン制御から前記クローズ制御への切り替えを決定し、
前記目標開度推定値の推定精度が低いほど、前記所定開度幅を大きく設定する、バルブ装置。
【請求項9】
請求項4に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、前記オープン制御により前記弁体の開度を前記基準開度まで変化させた後に前記クローズ制御を行う、バルブ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のバルブ装置において、
前記制御部は、前記クローズ制御による微調整時に前記圧力値と前記圧力目標値との差の大きさが所定圧力閾値より大きくなると、前記クローズ制御から前記オープン制御に切り替える、バルブ装置。
【請求項11】
請求項2乃至10のいずれか一項に記載のバルブ装置において、
前記圧力予測推定値は、前記検出開度から前記基準開度までの開度変化経路の内、前記予測対象時間までを仮設定した経路を表す開度計画値と、排気の式「V×(dP/dt)+S×P=Qin」に従って求められた導入ガス流量推定値、あるいはバルブ装置以外から入力される導入ガス流量情報としての導入ガス流量入力値とを、前記排気の式を満たす一般解を離散化した関係式に適用して演算される、バルブ装置。ただし、Vは前記真空チャンバの容積、Pは前記真空チャンバの圧力、Sは開度に応じた排気速度、Qinは前記真空チャンバに導入されるガスの流量である、バルブ装置。
【請求項12】
請求項11に記載のバルブ装置において、
前記圧力予測推定値は、前記予測対象時間の間、前記検出開度の現在値を固定し、かつ、前記導入ガス流量入力値あるいは前記導入ガス流量推定値の現在における推定値を固定して設定し演算される、バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられ、真空チャンバの圧力調整に用いられるバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング装置等の真空処理装置では、通常、処理プロセスの段階(例えば、プロセス中やプロセス前後)に応じてチャンバ内圧力が異なる。そのため、このような真空処理装置においては、真空チャンバと真空ポンプとの間にコンダクタンス可変なバルブを設けて、圧力の調整を行っている。そのようなバルブの例としては、特許文献1に記載のようなものが知られている。
【0003】
ところで、真空チャンバの目標圧力設定を変更した場合、変更後の目標圧力値へ可能な限り速く到達および安定させることが求められる。そのような方法として特許文献2に記載の方法が知られている。特許文献2に記載の方法では、真空ポンプの下流側にガス導入手段を設けて別途ガスを導入することで、真空ポンプの排気速度を低下させて、目標圧力値を変更した際の圧力のオーバーシュート現象に対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4630994号公報
【文献】米国特許第8070459号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、ガス導入手段を新たに設ける必要があることがデメリットとなる。また、ガス導入の流量および導入する期間を決定するには、既知の繰り返しプロセスであることが前提条件となる。さらに、バルブが搭載されている真空チャンバにて、予め、ガス流量および導入期間の調整や設定が必要なため、非常に煩雑である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい実施形態によるバルブ装置は、真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられ、弁体の開度を変化させてバルブコンダクタンスを制御するバルブ装置において、
前記弁体の開度を検出する開度検出部と、前記真空チャンバの圧力値および圧力目標値が入力され、前記圧力値と前記開度検出部で検出された開度とに基づいて、前記圧力値を前記圧力目標値に近づけるように前記弁体の開度を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記圧力値および前記開度検出部で検出される検出開度に応じて、前記弁体の開度の粗調整を行うオープン制御および前記弁体の開度の微調整を行うクローズ制御の何れかを行い、前記オープン制御では、予め設定した現在から先の予測対象時間における圧力予測推定値を推定し、該圧力予測推定値と圧力目標値とに基づいて前記粗調整を行い、前記クローズ制御では、前記圧力目標値と前記圧力値とに基づいて前記微調整を行う。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、前記圧力目標値に対応する基準開度と前記検出開度との大小関係、および前記圧力目標値と前記圧力値との大小関係に基づいて、前記オープン制御および前記クローズ制御における開度制御を行う。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、開度座標および圧力座標で表される開度・圧力座標平面を、前記基準開度および前記圧力目標値で表される目標座標点を通る圧力座標軸および開度座標軸により第1象限、第2象限、第3象限及び第4象限の4つの領域に区分けし、前記検出開度および前記圧力値で表される座標点が前記第1象限から前記第4象限までのいずれにあるかに応じて開度制御を異ならせる。
さらに好ましい実施形態では、前記オープン制御においては、前記座標点の位置に応じた第1の開度制御パターン、第2の開度制御パターンおよび第3の開度制御パターンのいずれかにより開度制御が行われ、前記第1の開度制御パターンにおいては、前記第1象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加あるいは静止させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少させ、前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、前記第4象限および前記第3象限では前記弁体の開度を減少させ、前記第2の開度制御パターンにおいては、前記第3象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少あるいは静止させ、前記第4象限では前記弁体の開度を減少させ、前記第1象限および前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、前記第3の開度制御パターンにおいては、前記第1象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加あるいは静止させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少させ、前記第3象限では、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値を上回るときには前記弁体の開度を増加させ、前記圧力予測推定値が前記圧力目標値以下のときには前記弁体の開度を減少あるいは静止させ、前記第2象限では前記弁体の開度を増加させ、前記第4象限では前記弁体の開度を減少させる。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、前記目標座標点を含み所定開度閾値および所定圧力閾値によって設定された領域に、前記座標点が含まれるか否かによって前記クローズ制御および前記オープン制御のいずれを行うかを決定する。
さらに好ましい実施形態では、前記所定圧力閾値によって設定される領域は、前記圧力目標値を中心とする所定圧力偏差の範囲であって、前記制御部は、前記検出圧力値が前記所定圧力偏差内か否かにより、前記クローズ制御と前記オープン制御との間の切り替えを行い、前記オープン制御から前記クローズ制御へ切り替える場合、前記第1象限および前記第3象限における前記所定圧力偏差を、前記第2象限および前記第4象限における前記所定圧力偏差よりも小さくした。
さらに好ましい実施形態では、前記基準開度として、前記弁体の開度変化により前記圧力値が前記圧力目標値に達したと仮定したときの目標開度推定値を用いる。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、前記検出開度が前記目標開度推定値を中心とする所定開度幅内に含まれるか否かにより、前記オープン制御から前記クローズ制御への切り替えを決定し、前記目標開度推定値の推定精度が低いほど、前記所定開度幅を大きく設定する。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、前記オープン制御により前記弁体の開度を前記基準開度まで変化させた後に前記クローズ制御を行う。
さらに好ましい実施形態では、前記制御部は、前記クローズ制御による微調整時に前記圧力値と前記圧力目標値との差の大きさが所定圧力閾値より大きくなると、前記クローズ制御から前記オープン制御に切り替える。
さらに好ましい実施形態では、前記圧力予測推定値は、前記検出開度から前記基準開度までの開度変化経路の内、前記予測対象時間までを仮設定した経路を表す開度計画値と、排気の式「V×(dP/dt)+S×P=Qin」に従って求められた導入ガス流量推定値、あるいはバルブ装置以外から入力される導入ガス流量情報としての導入ガス流量入力値とを、前記排気の式を満たす一般解を離散化した関係式に適用して演算される、バルブ装置。ただし、Vは前記真空チャンバの容積、Pは前記真空チャンバの圧力、Sは開度に応じた排気速度、Qinは前記真空チャンバに導入されるガスの流量である。
さらに好ましい実施形態では、前記圧力予測推定値は、前記予測対象時間の間、前記検出開度の現在値を固定し、かつ、前記導入ガス流量入力値あるいは前記導入ガス流量推定値の現在における推定値を固定して設定し演算される。
さらに好ましい実施形態では、前記予測対象時間は、バルブコンダクタンスの最小値と最大値間の弁体開度変化に要する駆動時間を目安に、前記駆動時間の1倍~0.1倍に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガス導入等の新たな手段を講じることなく、真空チャンバの圧力目標値が変更された際に、素早くかつ安定的に圧力調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、バルブ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態における開度調整動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、制御モード判定を説明する図である。
【
図5】
図5は、オープン制御およびクローズ制御における開度調整動作の一例を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態における開度調整の特徴を定性的に説明する図である。
【
図7】
図7は、
図4(b)に示す判定動作を詳細に説明する図である。
【
図8】
図8は、第2の実施の形態における座標点の軌道を示す図である。
【
図9】
図9は、第2の実施の形態における開度調整動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、導入ガス流量の変化による座標点(θr、Pr)の移動を説明する図である。
【
図11】
図11は、変形例における座標点移動時の制御を説明する図である。
【
図12】
図12は、変形例における開度調整動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は本発明に係るバルブ装置の第1の実施の形態を示す図であり、バルブ装置の概略構成を示すブロック図である。バルブ装置は、バルブユニット1とバルブユニット1を制御するバルブコントローラ2とから構成される。
図1に示す例では、バルブユニット1は真空装置の真空チャンバ3に装着され、そのバルブユニット1に真空ポンプ4が固定されている。すなわち、真空チャンバ3は、バルブユニット1を介して真空ポンプ4により排気される。
【0010】
図2は、バルブユニット1を真空チャンバ側から見た平面図である。バルブユニット1のハウジング11内には、モータ13により揺動駆動されるバルブプレート12が設けられている。ハウジング11には真空チャンバ3に固定されるフランジ面110aが形成されている。図示していないが、ハウジング11の反対側(真空ポンプ4が固定される側)には、真空ポンプ4が固定されるフランジ面が形成されている。これら一対のフランジ面に形成された各開口は同芯配置されており、ガス流路であるバルブ開口部111を構成している。
【0011】
バルブプレート12はモータ13により揺動駆動され、バルブ開口部111の全体にバルブプレート12が対向してコンダクタンスが最小となる全遮蔽位置C2と、バルブプレート12がバルブ開口部111に全く対向せずコンダクタンスが最大となる全開放位置C1との間の任意の位置に、バルブプレート12をスライド移動させることができる。バルブプレート12によるバルブ開口部111の遮蔽状態は、開度と呼ばれるパラメータで表される。開度とは、比=(バルブプレートの揺動角):(全遮蔽状態からバルブ開口部111が全て解放されるまでの揺動角)をパーセントで表したものである。
図2の全遮蔽位置C2は開度=0%であり、全開放位置C1は開度=100%である。すなわち、本実施の形態のバルブユニット1は、バルブプレート12の開度を調整することによりコンダクタンスを制御することができる。
【0012】
図1に戻って、モータ13には、バルブプレート12の揺動角度を検出するためのエンコーダ130が設けられている。エンコーダ130の検出信号は、バルブコントローラ2に入力される。真空チャンバ3には、流量コントローラ32を介してプロセスガス等のガスが導入される。流量コントローラ32は、導入されるガスの流量Qinを検出する機能を備えており、流量検出値は真空装置に設けられている主制御部(不図示)に入力される。真空チャンバ3の圧力は、真空計31によって計測される。その圧力計測値(以下では、圧力現在値と呼ぶ場合もある)Prはバルブコントローラ2に入力される。
【0013】
バルブユニット1を制御するバルブコントローラ2は、制御部21、モータドライバ部22および記憶部23を備えている。制御部21には、推定演算部211および調圧制御部212が設けられている。モータドライバ部22によりモータ13の回転を制御することで、バルブプレート12の開度を制御している。
【0014】
エッチングプロセスや成膜プロセスを真空チャンバ内で行う場合、各プロセスに応じた圧力(圧力目標値)で処理が行われる。そして、真空チャンバの圧力目標値の設定を変更した場合、変更後の圧力目標値へ可能な限り速く到達させ、安定させる必要がある。そのような圧力目標値の変更は、真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられたバルブ(コンダクタンス可変型のバルブ)のコンダクタンスを変更することで行われる。もちろん、導入ガスの流量もプロセスに応じたガス流量に変更されるので、バルブのコンダクタンスを制御して所望の圧力目標値に速やかに到達させるのは容易なことではない。本発明では、以下に説明するような制御を行うことによって、圧力目標値への到達時間の短縮化を図るようにした。
【0015】
図1のように、真空ポンプ4と真空チャンバ3との間にバルブユニット1を設けた場合、真空チャンバ3に対する実効排気速度Seと、真空ポンプ4の排気速度Spとバルブユニット1のコンダクタンスCvとの間には次式(1)のような関係が成り立つとされている。
1/Se=1/Sp+1/Cv ・・・(1)
【0016】
そのため、実効排気速度Seは次式(2)のように表される。真空チャンバ3に導入されるガスの流量をQinとすると、圧力が安定した状態における真空チャンバ3内の圧力Pは、次式(3)のように表される。すなわち、バルブユニット1のコンダクタンスCvを大きくすれば圧力Pは低下し、逆に、コンダクタンスCvを小さくすることで圧力Pを上昇させることができる。
Se=Sp/{1+(Sp/Cv)} ・・・(2)
P=Qin/Se=(Qin/Sp)・{1+(Sp/Cv)} ・・・(3)
【0017】
次に、本実施の形態における調圧制御について説明する。詳細は後述するが、本実施の形態の調圧制御の概要を述べると、以下のようになる、
(A)未来(予測対象時間とするt秒後:例えば0.4秒)の圧力予測推定値を逐次演算する(ここでは、逐次演算はサンプリング周期Δt1秒(例えば、10msec)毎に行われるものとする)。
(B)算出された圧力予測推定値と圧力目標値とに基づいて、調圧制御における開度変化方向を決定する。
(C)真空計31により計測される真空チャンバ3の現在の圧力値が圧力目標値から大きく乖離している場合には、オープン制御による粗調整を行って速やかに圧力目標値の近傍まで圧力を変化させる。一方、計測される圧力値が圧力目標値近傍領域となったならば、クローズ制御による微調整を行って現在の圧力値を圧力目標値に近づけて安定させる。
【0018】
図3は、本実施の形態における開度調整動作を説明するフローチャートである。ここでは、
図3を用いて、開度調整動作の一連の流れについて概略を説明し、各ステップにおける処理の詳細については後述する。バルブコントローラ2の電源がオンされると、制御部21は
図3の制御を開始する。ステップS1では、装置側コントローラから設定される圧力目標値Psが入力されたか否かを判定し、圧力目標値Psが入力されるとステップS2へ進む。ステップS2では、エンコーダ130により計測される開度現在値θrから、圧力値が圧力目標値に到達したと仮定したときの推定開度である目標開度推定値θseまでの開度変化経路の内、t秒先までの経路を開度計画値として仮設定し、その開度計画値に基づいて現在を基点とするt秒先の圧力予測推定値Ppを演算する。この圧力予測推定値および目標開度推定値の演算は、
図1の推定演算部211で行われる。圧力予測推定値および目標開度推定値の演算の詳細は後述する。
【0019】
ステップS3では、圧力目標値Ps、真空計31で計測される圧力現在値Pr,エンコーダ130により計測される開度現在値θr,推定演算部211で演算された目標開度推定値θseに基づいて、開度調整の制御モードをオープン制御(O)、クローズ制御(C)および不感帯制御(M)のいずれで行うかを判定する。制御モードの判定方法の詳細については後述する。
【0020】
ステップS3でオープン制御(O)と判定されると、ステップS4ヘ進みオープン制御による開度調整を行い、クローズ制御(C)と判定されるとステップS5へ進みクローズ制御による開度調整を行う。また、ステップS3において不感帯制御(M)と判定されると、開度は維持し、ステップS6へ進む。ステップS6では、ステップS2の圧力予測推定値演算を開始してから所定時間Δt1が経過したか否かを判定し、所定時間Δt1が経過したと判定されるとステップS2へ進む。
【0021】
このように、ステップS2からステップS6までの一連の処理は、サンプリング周期である所定時間Δt1間隔で繰り返し行われる。さらに、圧力現在値Prが圧力目標値Psに到達した後も、ステップS2からステップS6までの処理は繰り返され、真空チャンバ3内の圧力(圧力現在値Pr)が、常に圧力目標値Psに維持されるように制御される。また、圧力目標値が変更された場合、ステップS2の圧力予測推定値演算は変更後の圧力目標値Psに基づいて行われ、速やかに圧力現在値Prが圧力目標値Psとなるように開度調整される。
【0022】
(ステップS2:圧力予測推定値演算)
ステップS2で行われる圧力予測推定値演算の詳細について説明する。圧力予測推定値の算出には、次式(4)で表される排気の式が用いられる。式(4)において、Vは、真空チャンバ3の容積、Pは真空チャンバ3内の圧力、Qinは真空チャンバ3に導入されるガス流量、Sは実効排気速度である。
V×(dP/dt)+S×P=Qin ・・・(4)
【0023】
なお、実効排気速度Sは、上述した実効排気速度Seと同じものである。実効排気速度Seはバルブユニット1の開度θおよび導入ガス流量Qinに依存している。また、真空チャンバ3の容積Vは、予め求められ記憶部23に記憶されている。例えば、真空装置全体を立ち上げた際のバルブユニット1のオートチューニング時に、チャンバ内にガスを導入してビルドアップ法により測定する。式(4)の一般解は、次式(5)のように表される。
【数1】
・・・(5)
【0024】
式(5)により現在を基点としたt秒後の圧力予測推定値Ppを算出する方法として、例えば、下記に示すような離散化関係式(6),(7)を用いる。式(6),(7)を用いて、現在を基点とするt秒先までのΔt刻みの漸化式を求めて、t秒先の圧力予測推定値Ppを求める。ここで、k=1~99とし、t秒先を0.4秒とすると、Δt=4msecとなる。
P(Δt先)=Cp(現在)×P(現在)
+Cq(現在)×{Qine(現在)+A×Δt}・・・(6)
P((k+1)×Δt)=Cp(k)×P(k×Δt)
+Cq(k)×{Qine(現在)+A×k×Δt}・・・(7)
ただし、
Cp(k)=exp{(-S(k×Δt)/V)×Δt}
Cq(k)=(1/V)×{1/(-S(k×Δt)/V)}×(Cp(k)-1)
【0025】
式(6)、(7)を用いてt秒先の圧力予測推定値Ppを算出するためには、現在からt秒後までの流量推定値Qineと、現在からt秒後までの排気速度Sが必要である。例えば、式(7)では{Qine(現在)+A×k×Δt}が現在からk×Δt秒後の流量推定値を表しており、ここでは、流量がA×k×Δtのように変化する場合を仮定した。Aは定数であり、A={Qine(現在)-Qine(過去)}/Δt2で与えられる。ここにΔt2は一定時間である。Δt2,Aについては後述する。なお、式(6)、(7)における排気速度S(k×Δt)は開度の計画値に依存しているので、現在からt秒後までの排気速度Sを得るには現在からt秒後までの開度計画値が必要となる。
【0026】
(流量推定値Qine(現在)の演算)
流量推定値演算では、式(4)を用いて現在の流量推定値Qine(現在)を推定する。上述したように真空チャンバ3に対する排気速度S(実効排気速度)は、バルブユニット1の開度θに依存する。また、真空チャンバ3に流入させるガスの流量Qinにも依存している。記憶部23には、このような流量Qinと開度θと排気速度Sとの関係を示す関数式あるいはそれを離散化したマップ(以下では、排気速度マップS(Qin,θ)と呼ぶことにする)が予め記憶されている。通常、装置コントローラからバルブコントローラ2へは圧力目標値Psとは異なり流量Qinに関する情報が入力されないため、圧力予測推定値の演算に必要な流量Qinに関しては、バルブコントローラ2にて推定演算する必要がある。その場合、排気速度マップS(Qin,θ)を用いて推定することになる。ちなみに、特別に装置コントローラから流量Qinの情報(導入ガス流量入力値)が得られる場合は、得られた導入ガス流量入力値を流量Qinの値としてそのまま使用すればよい。
【0027】
推定演算部211は、入力される現在の開度(開度現在値)θrと流量推定値Qineとから、排気速度マップS(Qin,θ)を参照して現在の排気速度S(現在)を抽出する。ここで、流量推定値Qineには、一回前のサンプリング周期における圧力予測推定値演算の際に用いた流量推定値Qine(過去)が用いられる。なお、サンプリング周期ごとに流量推定演算されるので、初回値は便宜上、Qine=0としてよい。
【0028】
次に、現在の圧力値Pr(現在)と一定時間間隔Δt1だけ前に計測された圧力値Pr(過去)との圧力差分値dP/dt(現在)を次式(8)により算出する。なお、初回の圧力予測推定値演算の場合には、dP/dt(現在)=0とする。そして、この圧力差分値dP/dt(現在)と、抽出された排気速度S(現在)と、圧力値Pr(現在)とを上述した式(4)に代入することにより、次式(9)のように現在の流量推定値Qine(現在)を算出する。
dP/dt(現在)={Pr (現在)-Pr (過去)}/Δt1 ・・・(8)
Qine(現在)=V×(dP/dt(現在))+S(現在) ×Pr(現在) ・・・(9)
【0029】
(t秒先までの流量推定値の演算)
まず、上述した現在の流量推定値Qine(現在)と、一定時間間隔Δt2だけ過去の流量推定値Qine(過去)との差分値を流量変化の傾きとする。流量差分値ΔQine/Δt2は次式(10)で算出される。なお、初回の圧力予測推定値演算の場合には、Qine=0と同様に、ΔQine/Δt2=0とする。
ΔQine/Δt2={Qine(現在)-Qine(過去)}/Δt2 ・・・(10)
【0030】
ここでは、流量推定値Qine(現在)を現在値とし、上記の流量差分値ΔQine/Δt2を傾きとする直線外挿を行うことで、t秒先までの流量推定値をΔt毎に定める。すなわち、Qine(現在)、Qine(現在)+(ΔQine/Δt2) ×Δt、Qine(現在)+(ΔQine/Δt2) ×2Δt、・・・のように設定する。上述した式(6),(7)ではΔQine/Δt2を符号Aで表した。なお、直線外挿になるため、誤差変動を考慮してΔt2としては、サンプリング周期Δt1の数回~数十回程度の比較的長い時間間隔とする。
【0031】
(目標開度推定値θseの演算)
上述したように、式(6),(7)の係数Cp(k),Cq(k)にはΔt毎の排気速度S(k×Δt)が含まれている。排気速度S(k×Δt)は開度θに依存しているので、現在からt秒後までの排気速度S(k×Δt)を求めるためには、現在からt秒後までの開度計画値が必要となる。本実施の形態では、圧力値が圧力目標値Psに到達したときの開度を目標開度推定値θseとして算出する。そして、現在の開度値から目標開度推定値θseまでの開度経路の内、これから仮に設定するt秒先までの開度計画値を、予め把握しているモータ駆動速度に従ってΔt秒ごとに計画する。
【0032】
まず、流量推定値Qine(現在)を圧力目標値Psで除算することにより、圧力目標値Psに到達したときの概略の排気速度としての排気速度推定値Sse(=Qine(現在)/Ps)を算出する。上記では、圧力が圧力目標値に到達した時点でも、流量値は、現在の推定流量値からあまり変化しないものと仮定している。
【0033】
さらに、現在よりも一回前の流量推定値Qine(過去)および排気速度推定値Sseと排気速度マップS(Qin,θ)を参照して開度を抽出し、抽出された開度を目標開度推定値θseとする。なお、Sが関数式で与えられる場合は、Sse=S(Qine(過去)、θ)を逆算出してθ(=θse)を求める。
【0034】
(t秒先の圧力予測推定値Ppの演算)
上述したように、計測される現在開度値θrから目標開度推定値θseまでの開度経路の内、これから仮設定するt秒先までの開度計画値を、予め把握しているモータ駆動速度に従ってΔt秒ごとに計画する。その結果、現在からt秒先までΔt秒刻みで開度計画値が定まる。この開度計画値と前述したt秒先までの流量推定値と排気速度マップS(Qin,θ)とを用いて排気速度を抽出することにより、t秒先までの排気速度S(k×Δt)をΔt秒刻みで求めることができる。Δt秒刻みで求められた流量推定値Qineおよび排気速度S(k×Δt)を式(6),(7)に代入することにより、Δt秒刻みの圧力予測推定値が現在から順に求まり、最終的にはt秒先の圧力予測推定値Ppが得られる。
【0035】
一般に、圧力制御において、圧力値が圧力目標値にほぼ到達できる時間として、弁体が全遮蔽位置から全開放位置まで単純に揺動するに要する駆動時間と同オーダ程度は少なくとも必要になる。一方で、式(5)を離散化した式(6)、(7)は圧力に関して単純な直線外挿でないため、弁体が全遮蔽位置から全開放位置まで揺動するに要する駆動時間と同程度になるような比較的長い時間先の予測が可能である。すなわち、圧力が圧力目標値に到達するまでに要する時間と同程度まで十分に予測可能である。
【0036】
[開度調整ロジックの説明]
次に、
図3の開度調整動作における開度調整ロジックについて詳細に説明する。
(1.制御モード判定)
最初に、
図3のステップS3の判定処理について説明する。ステップS3の判定処理では、圧力現在値Pr,開度現在値θr,圧力目標値Psおよび目標開度推定値θseに基づいて開度調整の制御モードの判定を行う。
【0037】
図4は、制御モード判定を説明する図である。制御モード判定は、
図4に示すような開度値が目標開度推定値θseで、圧力値が圧力目標値Psである点(θse、Ps)を座標原点Oとする(開度、圧力)座標系において、開度現在値θrおよび圧力現在値Prで表される点(θr、Pr)(以下では、座標点と呼ぶ)がどの領域に位置するかによって行われる。
図3の制御を開始してステップS3の処理を初めて実行する場合には、
図4(a)に基づいて制御モード判定が行われる。
【0038】
図4(a)において、圧力範囲が「Ps-ΔP1/2≦P≦Ps+ΔP1/2」である領域R1は不感帯制御領域であり、圧力範囲が「Ps-ΔP1/2>P≧Ps-ΔP2/2、および、圧力範囲が「Ps+ΔP1/2<P≦Ps+ΔP2/2」である領域R2はクローズ制御領域であり、圧力範囲が「P<Ps-ΔP2/2、および、P>Ps+ΔP2/2」である領域R3はオープン制御領域である。
【0039】
座標点(θr、Pr)がオープン制御領域R3に含まれる場合には、後述するようなオープン制御により開度調整が行われる。座標点(θr、Pr)がクローズ制御領域R2に含まれる場合には、後述するようなクローズ制御により開度調整が行われる。また、座標点(θr、Pr)が不感帯制御領域R1に含まれる場合には、開度は変化させずに維持される。不感帯制御領域R1は、圧力現在値Prがほぼ圧力目標値Psであると見なされる圧力領域であって、不感帯制御領域R1の圧力幅ΔP1は例えば圧力目標値Psの百分の1(1%)程度に設定される。また、ΔP2は、不感帯制御領域R1の圧力幅ΔP1の数倍~100倍程度に設定される。
【0040】
図3の制御を開始した後は、ステップS2からステップS6までの処理が繰り返し実行される。そのとき、初回のステップS3の処理においてオープン制御と判定された場合には、2回目のステップS3の処理においては
図4(b)を用いた判定が行われる。一方、初回のステップS3の処理においてクローズ制御または不感帯制御と判定された場合には、2回目のステップS3の処理においては、再び
図4(a)を用いた判定が行われる。そして、2回目のステップS3の処理においてオープン制御と判定されると、3回目のステップS3の処理においては
図4(b)を用いた判定が行われる。以下同様に、クローズ制御または不感帯制御と判定された後の回のステップS3の判定では
図4(a)が用いられ、オープン制御と判定された後の回のステップS3の判定では
図4(b)が用いられる。
【0041】
図4(b)において、領域R11は不感帯制御領域であり、領域R21~R24はクローズ制御領域であり、ハッチングが施されていない領域R31はオープン制御領域である。不感帯制御領域R11の開度範囲は「θse-Δθ/2≦θ≦θse+Δθ/2」である。クローズ制御領域R21,R24の開度範囲は「θse≦θ≦θse+Δθ/2」である。クローズ制御領域R22,R23の開度範囲は「θse-Δθ/2≦θ<θse」である。ここで、Δθはθseの1/10倍程度に設定される。
【0042】
また、クローズ制御領域R21の圧力範囲は「Ps+ΔP1/2<P≦Ps+ΔP3/2」であり、クローズ制御領域R23の圧力範囲は「Ps-ΔP3/2≦P<でPs-ΔP1/2」である。クローズ制御領域R22の圧力範囲は「Ps+ΔP1/2<P≦Ps+ΔP2/2」であり、クローズ制御領域R24の圧力範囲は「Ps-ΔP2/2≦P<でPs-ΔP1/2」である。ここでΔP3は、ΔP2よりも小さくて、不感帯制御領域R1の圧力幅ΔP1の1倍~数倍程度に設定される。
【0043】
上述したように、前回のステップS3の判定でオープン制御と判定された後の回のステップS3の処理では、
図4(b)を用いて判定が行われる。そして、座標点(θr、Pr)がクローズ制御領域R21~R24に含まれる場合には、後述するクローズ制御により開度調整が行われる。また、座標点(θr、Pr)が不感帯制御領域R11に含まれる場合には、開度は変化させず現状状態に維持される。そして、クローズ制御または不感帯制御と判定された場合、次の回のステップS3の判定処理では
図4(a)を用いて判定が行われる。
【0044】
一方、座標点(θr、Pr)がオープン制御領域R31に含まれる場合には、後述するオープン制御により開度調整が行われる。そして、次の回におけるステップS3の判定処理では、再び
図4(b)を用いて判定が行われる。次回以降についても、オープン制御と判定されている間は
図4(b)が用いられ、クローズ制御または不感帯制御と判定されると、その次の回のステップS3では
図4(a)が用いられる。
【0045】
(2.クローズ制御)
図5は、オープン制御およびクローズ制御における開度調整動作の一例を説明する図である。座標点(θr、Pr)が、
図4(a)のクローズ制御領域R2または
図4(b)のクローズ制御領域R21~R24に含まれる場合には、
図5の(close)と表示された破線矩形枠内の矢印で示す方向に開度調整を行う。クローズ制御では、圧力目標値Psに対して圧力現在値Prの方が大きい場合には、開度が大きくなる方向に開度調整が行われる。すなわち、(圧力現在値Pr)>(圧力目標値Ps)であって座標点(θr、Pr)が横軸よりも上側の第1象限および第2象限にある場合には、圧力が減少するように開度調整される。逆に、(圧力現在値Pr)<(圧力目標値Ps)であって座標点(θr、Pr)が横軸よりも下側の第3象限および第4象限にある場合には、圧力が増加するように、開度が小さくなる方向に開度調整が行われる。
【0046】
(3.オープン制御)
上述したクローズ制御の場合、単純に圧力現在値Prが圧力目標値Psよりも大きい場合には開度を大きくし、圧力現在値Prが圧力目標値Psよりも小さい場合には開度を小さくした。一方、オープン制御の場合は、圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとに基づいて開度調整を行う。この場合、第2象限および第4象限についてはクローズ制御の場合と同様であるが、第1象限および第3象限の開度調整がクローズ制御の場合と異なっている。
【0047】
座標点(θr、Pr)が第2象限にある場合、開度が大きくなる方向に開度調整を行う。この場合、開度を開度目標推定値θse方向に大きくすることで、圧力現在値Prが圧力目標値Psの方向へと減少する。また、座標点(θr、Pr)が第4象限にある場合、開度が小さくなる方向に開度調整を行う。この場合、開度を開度目標推定値θse方向に小さくすることで、圧力現在値Prが圧力目標値Psの方向へと増加する。
【0048】
第1象限の場合には、圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとの大小関係に応じて開度調整の方向を設定する。この場合、Pp>Psのように圧力予測推定値Ppが圧力目標値Psよりも大きい方に乖離している場合には、開度を大きくする方向(右向きの矢印で示す方向)に開度調整を行うか、あるいは円50で示すように開度値をそのまま維持する。逆に、Pp≦Psであって圧力予測推定値Ppが圧力目標値Psと同程度または小さい方に乖離している場合には、開度を小さくする方向(左向きの矢印で示す方向)に開度調整を行う。第3象限の場合には、圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとの大小関係に応じて開度調整の方向を設定する。この場合、Pp>Psのように圧力予測推定値Ppが圧力目標値Psよりも大きい方に乖離している場合には、開度を大きくする方向(右向きの矢印で示す方向)に開度調整を行う。逆に、Pp≦Psであって圧力予測推定値Ppが圧力目標値Psと同程度または小さい方に乖離している場合には、開度を小さくする方向(左向きの矢印で示す方向)に開度調整を行うか、あるいは円50で示すように開度値をそのまま維持する。
【0049】
上述のように、本実施の形態では、真空チャンバ3内の圧力値が圧力目標値Psの近傍領域(
図4(a)の領域R2や
図4(b)の領域R21~R24)となるまでは、圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとに基づくオープン制御により開度調整を行い、圧力値が圧力目標値Psの近傍領域内となったならば、従来のようなクローズ制御を行うようにした。その結果、開度調整開始時の圧力値と圧力目標値Psとが大きく乖離していた場合でも、素早く圧力目標値Ps近傍にまでチャンバ内圧力を変化させることができ、圧力目標値Psまでの到達時間を短縮することができる。
【0050】
図6は、本実施の形態における開度調整の特徴を定性的に説明する図である。ここでは、説明を簡単にするために、導入ガス流量を変化させず一定値とし、弁体の開度を調整してチャンバ内圧力をP1からP2に変化させる場合を示した。
図6(a)は開度の変化を示し、
図6(b)は圧力の変化を示す。圧力P1の時の開度はθ1であり、圧力P2のときの開度はθ2である。
【0051】
図6(a)のラインL1は、時刻t=0から時刻t1までの間に開度をθ1からθ2に変化させた場合を示す。
図6(b)のラインL11は、ラインL1のように開度を変化させた場合の圧力変化を示したものである。開度を短時間の内にθ1からθ2に変化させた場合でも、チャンバ内圧力は急激には圧力P1から圧力P2へと変化できず、圧力P2に達するまでにある程度の時間を要する。なお、従来のようにクローズ制御で圧力P1から圧力P2まで変化させる場合には、チャンバ内圧力と目標圧力P2との差分に基づいて開度を調整するので、一点鎖線のラインL2で示すように、ラインL1の場合よりも緩やかに開度が変化する。そのため、圧力のラインL21も、ラインL11に比べて穏やかに上昇する。
【0052】
また、
図6(b)の圧力P3は、開度θ2よりも大きな開度θ3に変化させた場合の圧力である。
図6(a)のラインL3のように、時刻t=0から時刻t1までの間に開度をθ1からθ3に変化させた場合、圧力は
図6(b)のラインL31のように変化する。ここで、時刻t2までの圧力変化を見ると、ラインL11よりもラインL31の方が大きい。そのため、
図6(a)の破線で示すラインL4のように開度を変化させることで、
図6(b)のラインL41のようにチャンバ内圧力をより速く圧力P2へと到達させることができる。ラインL4では、時刻t=0から時刻t1までの間に開度をθ1からθ3まで変化させ、時刻t1から時刻t2まで開度θ3に維持した後、開度をθ2へ減少させた。その結果、チャンバ内圧力は、圧力P4まで急速に上昇した後に、圧力P4から圧力P2まで緩やかに変化する。
【0053】
本実施の形態では、
図4,5に示すようなオープン制御を含む制御ロジックで開度調整を行うことにより、
図6(a)のラインL4に示すような開度調整が行われ、
図6(b)のラインL41のようにチャンバ内圧力を所望の目標圧力P2に速やかに到達させることができる。
【0054】
なお、ここでは、開度計画値として、説明を容易にするため、現在を基点としてt秒後まで現在開度位置にとどまったと仮設定して圧力予測推定値Ppを演算した(演算詳細は省略)。上記のような現在開度位置にとどまる設定は、弁体駆動速度が速いバルブにおいて特に有効である。なぜなら、予測したt時間後に実際に弁体を現在開度位置から目標開度推定値の開度位置まで十分に駆動可能であるからである。
【0055】
一般的に、開度調整開始時の圧力現在値Prは圧力目標値Psと大きく乖離しており、開度に関しても開度現在値θrは開度目標推定値θseから大きく乖離している場合が多い。そのため、開度調整開始時の座標点(θr、Pr)は、
図4(a)の第2象限または第4象限のオープン制御領域R3に含まれる。例えば、
図7に示すように第4象限のクローズ制御領域R24の近くに位置する座標点A(θr、Pr)の場合、
図5に示すようにオープン制御により開度を小さくする方向に開度調整すると、座標点(θr、Pr)の位置はクローズ制御領域R24内へ移動する。その後は、座標点(θr、Pr)がこのクローズ制御領域R24からオープン制御領域R31に移動しない限り、クローズ制御によって圧力は圧力目標値Ps方向へと増加する。
【0056】
また、クローズ制御領域R24から離れている座標点B1(θr、Pr)の場合、オープン制御により開度を小さくする方向に開度調整したときに、第3象限のオープン制御領域R31に移動することになる。例えば、
図5に示すような第4象限のオープン制御によって、座標点B2a(θr、Pr)や座標点B2b(θr、Pr)のような位置へ移動する。
【0057】
座標点B2a(θr、Pr)に移動した場合は、圧力目標値に比較的近く圧力上昇率が大きいためPp>Psであり、次回開度を大きくする方向に開度調整する場合である。そのため、圧力上昇率が減少しながら目標開度推定値θse方向へ移動している。この場合、座標点B3a(θr、Pr)は第4象限のクローズ制御領域R24に含まれ、座標点(θr、Pr)がこのクローズ制御領域R24からオープン制御領域R31に移動しない限り、クローズ制御により圧力が圧力目標値Psへと達する。
【0058】
座標点B2b(θr、Pr)に移動した場合は圧力目標値から遠く離れて圧力上昇率が小さいためPp≦Psであり、次回開度を小さくする方向に調整する。この場合、座標点B3b(θr、Pr)からは、Pp≦Psの関係がPp>Psの関係へ反転するまでさらにオープン制御による開度を小さくする調整を何回か行うことになる。その過程で、開度下限の全遮蔽位置まで達すれば、それ以上開度を小さくすることはできないため、開度0%位置を維持することになる(点B4)。その場合、Pp≦Psが継続する間は開度0%が維持され、徐々に圧力が上昇し、Pp>Psに変化した時点(点B5)で開度を大きくする調整方向となる。オープン制御にて開度を大きくする過程(点B6)で圧力の上昇率が緩和されながら、最終的には第3象限のクローズ制御領域R23に移動する(点B7)。ここから第3象限あるいは第4象限のクローズ制御で圧力目標値Psへ近づく。以上、
図7に示す点B1→B2b→B3b→B4→B5→B6→B7における現在開度値θrおよび圧力現在値Prは各々
図6のL4,L41曲線上の点となる(不図示)。なお、
図7では、点B4として開度下限(開度位置0%)のケースを示したが、
図6のθ3と同様に0%よりも大きい開度値にて維持しても良い。
【0059】
-第2の実施の形態-
図8,9は本発明の第2の実施の形態を説明する図である。上述した第1の実施の形態では、
図4に示すように、点(θse、Ps)を座標原点Oとする(開度、圧力)座標系に不感帯制御領域R1、クローズ制御領域R2およびオープン制御領域R3を設定し、座標点(θr、Pr)がどの領域に含まれるかによって制御モードを選択するようにした。一方、第2の実施の形態では、
図8に示すように(θr、Pr)座標系に上述のような領域R1~R3を設定せず、オープン制御によって開度現在値θrの値が目標開度推定値θseに達したならばクローズ制御に切り替えて調圧を行う。
【0060】
図8において、開度調整開始が第4象限の座標点B1(θr、Pr)であった場合、オープン制御により開度を小さくする方向に開度が調整され、例えば、第3象限の座標点B2a(θr、Pr)へ移動する。座標点B2a(θr、Pr)に移動した場合は、圧力目標値に比較的近く圧力上昇率が大きいため、座標点B2a(θr、Pr)を基点として算出されるt秒後の圧力予測推定値PpはPp>Psとなる。そのため、座標点B2a(θr、Pr)からの開度調整は開度を大きくする方向に行われ、圧力上昇率が減少しながら目標開度推定値θse方向へ移動している。座標点B2a(θr、Pr)からの移動先B3aの開度θrが目標開度推定値θseに達したら、オープン制御を終了しクローズ制御に切り替える。
【0061】
また、オープン制御により座標点B1(θr、Pr)から第3象限の座標点B2b(θr、Pr)へ移動した場合には、
図5において説明したように、算出される圧力予測推定値PpがPp≦Psの間は開度を小さくする方向に開度調整を行うか、あるいは開度値をそのまま維持する。Pp>Psとなったならば、開度を大きくする方向に開度調整を行う。このようなオープン制御により座標点(θr、Pr)はB2b→B3b→B4→B5→B6のように移動し、さらに移動先B8の開度が目標開度推定値θseに達したら、オープン制御を終了しクローズ制御に切り替える。図示は省略したが、調圧開始時(圧力目標値変更時)の座標点(θr、Pr)が第1および第2象限にある場合にも、
図5のロジックに従って基準開度である目標開度推定値θseへ達する軌道をとる。
【0062】
なお、座標点A1のように開度軸により近い位置から開度調整が開始される場合、
図5のロジックに従って座標点A1から開度が減少する方向へ調整を開始するが、圧力予測推定値Ppが既にPp>Psの状態なので、第3象限にも入れず第3象限と第4象限との境界(開度が目標開度推定値θseである圧力軸)の座標点A2まででオープン制御が終了となる。図示は省略するが、第2象限でPp≦Psの状態の場合でも同様に、第1および第2象限の境界まででオープン制御が終了となる。ちなみにオープン制御が終了とは、オープン制御による出力開度が一定に保持された状態でクローズ制御が開始される事を補足しておく。
【0063】
図8のA1→A2のケースは、適切な駆動速度で開度が減少されている場合である。仮に、同ケースにおいて、極端に遅い駆動速度で開度が減少している場合、第4象限は目標開度推定値θseの右側に位置するので、圧力目標値Psへの到達が緩慢になる可能性がある。そのような稀なケースに備え、例えば、圧力予測推定値Ppの信号が圧力目標値Ps以下で、かつ極大値を取る(つまりほぼ圧力上昇が0になるような信号)と判定した場合には、速やかに駆動速度をアップして目標開度推定値(圧力軸)へ到達させることで応答悪化を避けることができる。第2象限における稀なケースでも同様に対処すればよい。すなわち、圧力予測推定値Ppの信号が圧力目標値Ps以上で、かつ極小値を取る(つまりほぼ圧力減少が0になるような信号)と判定した場合には、速やかに駆動速度をアップして目標開度推定値(圧力軸)へ到達させる。
【0064】
第2の実施の形態においては、第1の実施の形態の
図3に示したフローチャートは、例えば
図9のように変更される。
図9において、ステップS1およびステップS2は、
図3のステップS1およびステップS2の処理と同様である。すなわち、ステップS1で圧力目標値Psが入力されたと判定されてステップS2へ進むと、ステップS2において目標開度推定値θseおよび圧力予測推定値Ppが算出される。続くステップS10の処理は
図3のステップ4の処理と同様であって、オープン制御による開度調整が行われる。オープン制御による開度調整は第1の実施の形態の場合と同様で、
図5に基づいて開度調整の方向が決定される。
【0065】
ステップS11では、ステップS2の圧力予測推定値演算を開始してから所定時間Δt1が経過したか否かを判定し、所定時間Δt1が経過したと判定されると次のステップS12へ進む。ステップS12では、移動先の開度(開度現在値θr)が目標開度推定値θseに達し、かつ、圧力予測推定値PpがPp>Psを満足しているか否かを判定する。ステップS12においていずれも満足する(Yes)と判定されるとステップS13へ進み、いずれかが満足されない(No)場合にはステップS2へ戻る。例えば、
図8の点B1から第3象限方向に移動してθr=θseとなった場合にはPp≦Psなので、ステップS12からステップS2へ進む。一方、点P6から点P8へ移動した場合には、θr=θseでかつPp>Psなので、ステップS12からステップS13へ進む。
【0066】
ステップS13の処理は
図3のステップ4の処理と同様であって、クローズ制御による開度調整が行われる。ステップS14では、ステップS14の処理開始(すなわち開度変更開始)から所定時間Δt1が経過したか否かを判定し、所定時間Δt1が経過したと判定されるとステップS15へ進む。ステップS15では、圧力目標値Psが変更されたか否かを判定する。圧力目標値Psが変更された場合にはステップS15からステップS2へ戻り、再びオープン制御による開度調整を行う。一方、圧力目標値Psが変更されない場合には、ステップS13へ戻りクローズ制御を継続する。
【0067】
図8で示した座標点B1から開度調整が開始されると、
図9のステップS2からステップS12までの処理が繰り返されB1→B2b→B3b→B4→B5→B6→B8のように移動する。座標点B8に移動すると
図9のステップS12で開度現在値θrが目標開度推定値θseに達したと判定され、ステップS12からステップS13へ進む。その後、ステップS13→ステップS14→ステップS15→ステップS13・・・のようにクローズ制御による開度調整が繰り返され、座標原点(θse、Ps)に到達する。理想的には圧力軸上を通って目標とする座標原点(θse、Ps)に到達するが、目標開度推定値θseに推定誤差があった場合でも圧力軸近傍を通って座標原点(θse、Ps)に到達する。
【0068】
前述した第1の実施の形態では、例えば
図4(b)のようにオープン制御の領域R31とクローズ制御の領域R21~R24を設定しているので、具体的な閾値を決定しなければならない。一方、第2の実施の形態ではそのような領域を設定せず、オープン制御により開度を基準開度(すなわち目標開度推定値θse)まで変化させたならクローズ制御を行うようにしているので、実用的な汎用性という点で優っている。
【0069】
(変形例)
上述した第2の実施の形態では、θr=θse、Pr=Psに到達した後もクローズ制御によりその状態が維持される。その後、圧力目標値Psが変更されると、
図9のステップS15の処理によりステップS2へ進み、新たな条件(圧力目標値Ps)によるオープン制御が開始される。ところで、圧力目標値Psが変更されない場合においても、ガス導入量やプラズマの点灯・消灯等の環境条件が変化すると現在の状態を示す座標点(θr、Pr)が座標原点からずれることになる。
【0070】
図10は、導入されるガスの流量が変化することによる座標点(θr、Pr)の移動を説明する図である。
図10(a)は導入ガス流量が増加した場合を示す。点線で示す円は流量増加前の座標点(θr、Pr)であり、黒丸は流量増加後の座標点(θr、Pr)である。導入ガス流量が増加すると、計測される圧力現在値Prが増加して圧力目標値Psよりも大きくなる。そのため、座標点(θr、Pr)を示す黒丸は、矢印で示すように開度軸(横軸)から図示上方へ移動する。また、流量Qinの増加は、その流量に基づいて算出される目標開度推定値θseを増加させる。そのため、圧力軸(縦軸)が白抜き矢印で示すように図示右側へ移動する。その結果、座標点(θr、Pr)は第2象限に移動することになる。
【0071】
一方、
図10(b)は導入ガス流量が減少した場合を示す。導入ガス流量が減少すると計測される圧力現在値Prが低下するので、黒丸で表される座標点(θr、Pr)は矢印で示すように開度軸(横軸)から図示下方へ移動する。また、流量Qinが減少すると算出される目標開度推定値θseが低下するので、圧力軸(縦軸)が白抜き矢印で示すように図示左側へ移動する。その結果、現在の状態を表す座標点(θr、Pr)は第4象限に移動することになる。
【0072】
上述した第2の実施の形態の場合、座標点(θr、Pr)が原点(θse、Ps)に達した後は
図9のステップS13からステップS15までの処理が繰り返されるので、
図10のように座標点(θr、Pr)が第2象限または第4象限に移動したときには、クローズ制御によって開度調整が行われる。しかしながら、圧力変動が過大な場合は座標点が開度軸(横軸)から大きく離れるため、クローズ制御では応答性が悪く適切に対応できないおそれがある。
【0073】
変形例では、圧力現在値Prと圧力目標値Psとの差ΔP=|Pr-Ps|の大きさに応じて、開度調整の制御方法を異ならせるようにした。
図11(a)に示すようにガス導入量減少により第4象限に座標点(θr、Pr)が移動したとき、圧力変化である差ΔPが予め設定した閾値ΔP1に対してΔP≦ΔP1である場合にはクローズ制御を継続し、クローズ制御により圧力現在値Prが圧力目標値Psとなるように開度調整を行う。
【0074】
一方、
図11(b)のようにΔP>ΔP1である場合には、オープン制御による開度調整に切り替える。その結果、上述した第2の実施の形態の場合と同様にオープン制御で開度調整を開始し、開度θrが目標開度推定値θseに達し、かつ、圧力予測推定値PpがPp>Psの場合にはクローズ制御に切り替えられ、クローズ制御により圧力目標値Psへと開度調整が行われる。その結果、圧力変動が過大な場合であっても素早く圧力目標値Psへと調圧することができる。なお、閾値ΔP1の目安としては、圧力目標値Psの10%程度である。
【0075】
図12は、変形例の場合の制御フローの一例を示したものである。
図9に示したフローチャートにステップS20を追加している。ステップS20では、ΔP=|Pr-Ps|≦ΔP1の状態から偏差ΔPがΔP1を越えたか、すなわちΔP=|Pr-Ps|>ΔP1になるか否かを判定し、ΔP≦ΔP1のまま、あるいは、ΔP>ΔP1からΔP≦ΔP1への状態変化と判定された場合にはステップS13へ進んでクローズ制御を継続する。一方、ΔP≦ΔP1からΔP>ΔP1へと状態が変化したと判定された場合には、ステップS2へ進みオープン制御に切り替える。
【0076】
第2の実施の形態の場合と同様に、ステップS12でYesと判定されてステップS13へ進むとオープン制御からクローズ制御に切り替わり、ステップS13、ステップS14およびステップS15の処理が順に実行される。圧力目標値Psが変更されなければステップS15からステップS20へ進んで、ステップS20の判定処理が実行される。例えば、ガス流量の増加や減少が無い場合には
図10に示すような座標点の移動は生じないので、ΔP≦ΔP1のままと判定されステップS20からステップS13へ進みクローズ制御が継続される。以上のように、変形例では、クローズ制御継続中に流量変動等によりΔP≦ΔP1からΔP>ΔP1へとなった場合には、ステップS2へ進んでオープン制御に切り替わり、圧力目標値Psが変更された場合にはステップS15からステップS2へ進んでオープン制御に切り替わる。
【0077】
なお、
図11では座標点(θr、Pr)が第4象限に移動した場合について説明したが、
図10(b)のように座標点(θr、Pr)が第2象限に移動した場合にも同様の処理が行われる。
【0078】
(目標開度推定値θseの誤差に関する説明)
図4,5における座標原点O(θse,Ps)の目標開度推定値θseは、前述したように流量推定値Qine(現在) に基づいて算出される。そのため、開度調整動作中の導入ガス流量が変化しない場合には、安定した目標開度推定値θseが算出されるが、実際には真空チャンバ3内に導入されるガスの流量Qinは変化するので、繰り返し演算の度に目標開度推定値θseの演算結果が異なる。すなわち、この演算誤差の範囲内で、
図4,5の縦軸は左右に振れることになる。そのように目標開度推定値θseが変化した場合、座標点(θr、Pr)の位置が第3象限になったり第4象限になったりする。第1象限と第2象限との間でも同様である。そのため、座標原点O(θse,Ps)のθseとして、目標開度推定値θseの平均値(移動平均値)等を用いることで、圧力座標軸(縦軸)の振れを小さくすることができる。
【0079】
また、目標開度推定値θseと圧力目標値Psとに基づく点(θse,Ps)を座標原点Oに用いる代わりに、一定の基準開度θsと圧力目標値Psとに基づく点(θs,Ps)を座標原点Oに用いても良い。例えば、圧力目標値Psではこの程度の開度で使用するということが分かっている場合には、その開度を基準開度θsとして用いても良い。具体的な一例としては、装置コントローラから導入ガス流量値がバルブコントローラへ入力される場合、導入ガス流量は既知量(導入ガス流量入力値)となるため推定が不要となり、θsは、圧力目標値および流量設定が変更されない限り一定値となる。
【0080】
さらにまた、目標開度推定値θseが演算毎に変化して
図4.5の縦軸が左右に大きく振れた場合、圧力現在値Prが圧力目標値Psに収束しないおそれがある。そのため、目標開度推定値θseの振れの大きさに応じて、
図4(b)の閾値Δθを設定するようにしても良い。例えば、逐次算出される目標開度推定値θseの移動平均を求め、それを座標原点O(θse,Ps)の開度θseとして使用し、さらに、目標開度推定値θseの標準偏差を算出する。そして、標準偏差が大きいほど閾値Δθを大きくし、早い段階でオープン制御からクローズ制御へ移行させる。
【0081】
以上説明したように、バルブ装置の制御部を構成するバルブコントローラ2は、バルブプレート12の開度を検出するエンコーダ130と、真空チャンバ3の圧力現在値Prおよび圧力目標値Psが入力され、圧力現在値Prとエンコーダ130で検出された開度現在値θrとに基づいて、圧力現在値Prを圧力目標値Psに近づけるようにバルブプレート12の開度を制御する。バルブコントローラ2は、圧力現在値Prおよびエンコーダ130で検出される開度現在値θrに応じて、バルブプレート12の開度の粗調整を行うオープン制御およびバルブプレート12の開度の微調整を行うクローズ制御の何れかを行う。
【0082】
そして、オープン制御では、予め設定した現在を基点としたt時間先である予測対象時間における圧力予測推定値Ppを推定し、該圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとに基づいて粗調整を行うようにした。このように、推定された圧力予測推定値Ppと圧力目標値Psとに基づいて粗調整を行うことにより、真空チャンバ内の圧力を素早く圧力目標値Psの近傍まで変化させることができる。
【0083】
なお、
図4に示すように、圧力目標値Psに対応する基準開度(
図4では目標開度推定値θse)と開度現在値θrとの大小関係、および圧力目標値Psと圧力現在値Prとの大小関係に基づいて、オープン制御およびクローズ制御における開度制御を行うのが好ましい。このような制御を行うことで、圧力現在値Prが圧力目標値Psに到達する制御を確実に行うことができる。
【0084】
例えば、
図5に示すように、開度座標および圧力座標で表される開度・圧力座標平面を、基準開度および圧力目標値で表される座標点を通る圧力座標軸および開度座標軸により第1象限、第2象限、第3象限及び第4象限の4つの領域に区分けし、開度現在値θrおよび圧力現在値Prで表される点が前記第1~第4象限のいずれにあるかに応じて開度制御を異ならせるようにする。
【0085】
さらに、オープン制御において、座標点(θr、Pr)が第1象限にある場合、圧力予測推定値Ppが圧力目標値Ps以上のときにはバルブプレート12の開度を増加あるいは静止させ、圧力予測推定値Ppが圧力目標値Ps未満のときにはバルブプレート12の開度を減少させ、座標点(θr、Pr)が第3象限にある場合、圧力予測推定値Ppが圧力目標値Ps以上のときにはバルブプレート12のの開度を増加させ、圧力予測推定値Ppが圧力目標値Ps未満のときにはバルブプレート12の開度を減少あるいは静止させ、座標点(θr、Pr)が第2象限にある場合にはバルブプレート12の開度を増加させ、座標点(θr、Pr)が第4象限にある場合にはバルブプレート12の開度を減少させるようにするのが好ましい。このような制御を行うことで、座標点(θr、Pr)が第1象限または第3象限にある場合でも、確実にクローズ制御に移行させて真空チャンバ内圧力を圧力目標値Psへと到達させることができる。
【0086】
各象限においてクローズ制御および前記オープン制御のいずれを行うかについては、基準開度(例えば、目標開度推定値θse)および圧力目標値Psで表される点を含み、所定開度閾値および所定圧力閾値によって設定される領域に、座標点(θr、Pr)が含まれるか否かによって決定されるのが好ましい。
【0087】
例えば、所定圧力閾値によって設定される領域を、圧力目標値Psを中心とする所定圧力偏差の範囲とし、オープン制御から前記クローズ制御へ切り替える場合には、
図4(b)のように第1象限および第3象限における所定圧力偏差(ΔP3)を、第2象限および第4象限における所定圧力偏差(ΔP2)よりも小さくするのが好ましい。このように設定することで、第1象限および第3象限からすみやかに確実に圧力目標値Psへと収束させることができる。
【0088】
また、
図4(b)に示すように、開度現在値θrが目標開度推定値θseを中心とする所定開度幅(±Δθ/2)内に含まれるか否かにより、オープン制御からクローズ制御への切り替えを決定する場合において、目標開度推定値θseの推定精度が高いほど、前記所定開度幅(±Δθ/2)を小さく設定するのが好ましい。目標開度推定値θseの推定誤差が大きい場合には、前記所定開度幅(±Δθ/2)を大きく設定し、より確実に圧力目標値Psに収束するように、早めにクローズ制御が選択されることになる。
【0089】
圧力予測推定値Ppは、前記検出開度から前記目標開度推定値までの開度変化経路の内、前記予測対象時間までを仮設定した経路を表す開度計画値と、排気の式「V×(dP/dt)+S×P=Qin」に従って求められた導入ガス流量推定値とを、排気の式を満たす一般解を離散化した関係式に適用して演算されるのが好ましい。そのような演算を行うことにより、より精度の高い圧力予測推定値Ppを推定することができる。
【0090】
また、開度計画値に関しては設定の自由度が大きいが、もっともシンプルな開度計画値の与え方としては、検出開度の現在値を固定し、かつ、前記導入ガス流量推定値の現在における推定値、あるいは導入ガス流量入力値を固定する場合が考えられる。なお、このように検出開度および導入ガス流量を両者とも現在値に固定する場合は、開度計画の概念は不要で、前記予測対象時間の間、検出開度および導入ガス流量を固定して前記圧力予測推定値を演算すれば良い。
【0091】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。例えば、上述したバルブ装置ではバルブプレート12をスライド移動して開度を変化させたが、開度を変化させてコンダクタンスを制御するタイプのバルブ装置であれば本発明は適用できる。
【0092】
なお、
図5に示した開度制御パターンでは、第1象限および第3象限において圧力予測推定値を用いた特徴的な判定を行うようにしたが、オープン制御における開度制御パターンは、
図5に示す開度制御パターンに限定されない。例えば、
図5の第3象限の開度制御を、第4象限の場合と同様の開度を減少させるような制御に置き換えた開度制御パターンを用いても良いし、
図5の第1象限の開度制御を、第2象限の場合と同様の開度を減少させるような制御に置き換えた開度制御パターンを用いても良い。また、上述した圧力予測推定値を用いた特徴的な判定において、圧力予測推定値の予測対象時間を適宜変更して設定しても良い。
【0093】
また、クローズ制御について圧力現在値と圧力目標値の偏差に対する比例制御(P制御)例を示したが、従来の比例積分制御(PI制御)比例積分微分制御(PID制御)でも良く、さらにクローズ制御として、本発明のオープン制御で使用する圧力予測推定値をクローズ制御の微分制御に代えて適用しても良い。
【符号の説明】
【0094】
1…バルブユニット、2…バルブコントローラ、3真空チャンバ、4…真空ポンプ、12…バルブプレート、13…モータ、21…制御部、22…モータドライバ部、23…記憶部、31…真空計、32…流量コントローラ、211…推定演算部、212…調圧制御部、Pp…圧力予測推定値、Pr…圧力現在値、Ps…圧力目標値、R3,R31…オープン制御領域、R2,R21~R24…クローズ制御領域、R1,R11…不感帯制御領域