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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】接着用組成物、および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20220107BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20220107BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220107BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220107BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C09J175/06
C09J5/06
B32B27/00 M
B32B27/36
B32B27/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017251178
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116557
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】396009595
【氏名又は名称】東洋モートン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾内 良行
(72)【発明者】
【氏名】土屋 翔吾
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-132902(JP,A)
【文献】特開平05-263060(JP,A)
【文献】国際公開第2006/117886(WO,A1)
【文献】特開2008-223039(JP,A)
【文献】特開昭54-90341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00ー 27/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分酸変性ポリエステル系ポリオールと、ポリイソシアネートとを含有する接着用組成物であって、
前記部分酸変性ポリエステル系ポリオールが、無水トリメリット酸とトリメリット酸エステル無水物とを10~70:90~30(質量比)の割合で含む変性剤と、ポリエステル系ポリオール中の水酸基の一部との反応生成物であり、
前記部分酸変性ポリエステル系ポリオールの質量平均分子量が30000~100000、酸価が18.1~40mgKOH/g、水酸基価が0.2~5mgKOH/gである、接着用組成物。
【請求項2】
トリメリット酸エステル無水物が、下記式(1)で示されるエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートであることを特徴とする請求項1記載の接着用組成物。
【化1】
【請求項3】
請求項1または2記載の接着用組成物の硬化物。
【請求項4】
2つのシート状基材の間に請求項3記載の硬化物が位置する積層体。
【請求項5】
シート状基材1の一方の面に、請求項1または2に記載の接着用組成物を塗工し、乾燥してアンカー層の前駆体を形成した後、該アンカー層の前駆体上に熱可塑性樹脂を溶融押出し、次いでアンカー層の前駆体を硬化することを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項6】
シート状基材1の一方の面に、請求項1または2に記載の接着用組成物を塗工し、乾燥して接着剤層の前駆体を形成した後、該接着剤層の前駆体上にシート状基材2を重ね、前記接着剤層の前駆体を硬化することを特徴とする、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム、金属箔等の積層に用いる接着用組成物、および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療品、化粧品等の包装材料として、アルミニウム箔などの金属箔あるいは金属蒸着フィルムとポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエステル、ナイロンなどのプラスチックフィルムを積層化したものが用いられている。積層化の方法としては、溶融状態の熱可塑性樹脂を積層対象のシート状基材上に押出して、前記熱可塑性樹脂のフィルム化と多層化とを同時に行う溶融押出しラミネート法(特許文献1、2)や、シート状基材上に接着剤溶液を塗工し、乾燥後、他のシート状基材を重ね合せた後、接着剤を硬化するドライラミネート法(特許文献3、4)とがある。
【0003】
特許文献1、2に記載される溶融押出しラミネート法の場合、シート状基材の表面には、溶融状態で押出しラミネートされる熱可塑性樹脂との接着性を向上するためにアンカーコート剤が塗布される。
特許文献1には、分子鎖中にカルボキシル基を有する部分酸変性ポリオールと有機ポリイソシアネート化合物を含有してなる押し出しラミネート用アンカーコート剤が開示されている。[0010]には、酸変性の方法として3つの方法が開示されている。具体的には、ポリエステルポリオールやポリエステルウレタンポリオールやポリエーテルウレタンポリオールを得た後、前記ポリオール中の水酸基にさらに無水マレイン酸や無水フタル酸のような無水物を反応させたり([0022]~[0024]、[0026]~[0027]、[0028]~[0029])、ポリエステルポリオールを得た後、アクリル酸のようなエチレン性不飽和カルボン酸をラジカル発生剤の存在下で反応させたり([0022]、「0025」)、ポリエステルウレタンポリオールやポリエーテルウレタンポリオールを得る際の原料の1つとして、ジメチロールプロピオン酸のように分子中に二つの水酸基と一つのカルボキシル基を有するモノカルボン酸ジオールを使用したりして、部分酸変性ポリオールを得る旨開示されている。
【0004】
特許文献3には、ドライラミネート法用の接着剤組成物として、ポリエステルポリウレタンポリオールと分子末端にカルボキシル基を含有するポリエステル樹脂とリン酸変性エポキシ樹脂とイソシアネート化合物を含有する接着剤組成物が開示され、フィルム同士を重ね合せた後、40℃で4日間かけてエージングし接着剤組成物を硬化させる旨記載されている(請求項1、[0001]、[0041])。
【0005】
特許文献4にも、ドライラミネート法用の接着剤組成物が開示されている。具体的には、食品等の軟包装用の積層体であって、レトルト処理に耐え、十分な接着強度を発現する積層体の形成には、40~60℃で4~5日間程度というエージング期間がそれまでは必要であったが([0001]、[0007])、エージング時間を1日程度にまで短縮しても従来のエージング時間の場合と遜色ない性能を発現できる接着剤が開示されている([0097]、[0106])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平05-263060号公報
【文献】特開2012-136688号公報
【文献】特開平06-116542号公報
【文献】国際公開2006/117886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるような反応型のアンカーコート剤を用いる場合、特許文献1に明記されてはいないが、熱可塑性樹脂を溶融押出しし、フィルム化した後、エージングしてアンカーコート剤を十分硬化する必要がある。特許文献1に記載されるアンカーコート剤のうち、部分酸変性ポリオールとして、ポリオール中の水酸基にさらに無水マレイン酸や無水フタル酸のような無水物を反応させてなるものを用いる場合、エージングには40~50℃で2日程度を要していた。さらに、特許文献1に記載されるアンカーコート剤は、部分酸変性ポリオールとポリイソシアネート化合物と混合すると、アンカーコート剤が配合後数時間で白濁してしまい、性能が不安定になるという問題があった。
【0008】
一方、特許文献4に記載されるように、ドライラミネート法用の接着剤組成物としてはエージング時間を1日程度にまで短縮することができるようにはなった。
生産性の向上の点から、溶融押出しラミネート法用のアンカー剤の場合も、ドライラミネート法用の接着剤の場合も、さらなるエージング時間の短縮が望まれている。
【0009】
本発明は、エージング時間をさらに短縮しても、従来と遜色ない接着性能を発現できる接着用組成物であって、溶融押出しラミネート法用のアンカー剤としてもドライラミネート法用の接着剤としても使用できる接着用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[4]に関する。
[1] 部分酸変性ポリエステル系ポリオールと、ポリイソシアネートとを含有する接着剤であって、前記部分酸変性ポリエステル系ポリオールは、無水トリメリット酸と、トリメリット酸エステル無水物とを10~70:90~30(質量比)の割合で含む変性剤と、ポリエステル系ポリオール中の水酸基の一部との反応生成物であり、前記部分酸変性ポリエステル系ポリオールの質量平均分子量質量平均分子量が30000~100000、酸価が10~40mg/KOH、水酸基価が0.2~5mg/KOHである、接着用組成物。
【0011】
[2] トリメリット酸エステル無水物が、下記式(1)で示されるエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートであることを特徴とする[1]記載の接着用組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
[3] 前記[1]または[2]記載の接着用組成物の硬化物。
【0014】
[4] 2つのシート状基材の間に前記[3]記載の硬化物が位置する積層体。
【0015】
[5] シート状基材1の一方の面に、[1]または[2]に記載の接着用組成物を塗工し、乾燥してアンカー層の前駆体を形成した後、該アンカー層の前駆体上に熱可塑性樹脂を溶融押出し、次いでアンカー層の前駆体を硬化することを特徴とする、積層体の製造方法。
【0016】
[6] シート状基材1の一方の面に、[1]または[2]に記載の接着用組成物を塗工し、乾燥して接着剤層の前駆体を形成した後、該接着剤層の前駆体上にシート状基材2を重ね、前記接着剤層の前駆体を硬化することを特徴とする、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、エージング時間をさらに短縮しても、従来と遜色ない接着性能を発現できる接着用組成物であって、溶融押出しラミネート法用のアンカー剤としてもドライラミネート法用の接着剤としても使用できる接着用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の接着用組成物について説明する。
本発明の接着用組成物に含有される部分酸変性ポリエステル系ポリオールは、ポリエステル系ポリオール中の水酸基の一部に、無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物とを反応させてなる反応生成物である。無水トリメリット酸とトリメリット酸エステル無水物との割合は、無水トリメリット酸:10~70質量%、トリメリット酸エステル無水物:90~30質量%である。
【0019】
変性前のポリエステル系ポリオールとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3′-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリンもしくはそれらの混合物とを反応させて得られるポリエステルポリオール、あるいはポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0020】
変性前のポリエステル系ポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物であるポリエステルポリウレタンポリオールも挙げられる。例えば、質量平均分子量1000~20000のポリエステル系ポリオールとポリイソシアネートとをNCO/OHモル比が1未満、好ましくは0.3~0.98となるように配合し、反応させて得られる。ウレタン結合を導入してなるポリエステル系ポリウレタンポリオールは、凝集力が高く、金属への接着性が優れるため好ましい。
【0021】
上記ポリエステル系ポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナートメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジイソシアネート、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4'-トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物、ω,ω'-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンなどの芳香脂肪族ジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4'4"-トリイソシアネート、1,3,5,-トリイソシナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエンなどの芳香族又は芳香脂肪族の有機トリイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタン-2,2'-5,5'-テトライソシアネートなどの芳香脂肪族テトライソシアネートで代表される有機テトライソシアネートなどのポリイソシアネート単量体などがあげられる。
【0022】
変性前のポリエステル系ポリオールとしては、ウレタン結合を有しないものやウレタン結合を導入したものの他、ポリエステル系アミドポリオールもさらに挙げられる。ポリエステル系アミドポリオールは、二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、グリコール類もしくはそれらの混合物と反応させる際に、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアミノ基を有する成分をあわせて使用することによって得られる。
【0023】
変性前のポリエステル系ポリオールは、その質量平均分子量が5000~30000のものが好ましく、10000~20000のものがより好ましい。質量平均分子量が5000未満のポリエステル系ポリオールを用いた場合には得られる接着剤の凝集力が小さく、接着強度が低くなり、30000を超えるポリエステル系ポリオールを用いた場合には、合成上ポリオール中の水酸基に無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物を反応させることは難しく、著しい増粘やゲル化を引き起こす可能性がある。
【0024】
トリメリット酸エステル無水物は、トリメリット酸の3つのカルボン酸の1つが水酸基を有する化合物とエステル化反応し、残る2つが酸無水物基となったものであり、好ましくは、炭素数2~30のアルキレングリコールまたはアルカントリオールを無水トリメリット酸でエステル化反応させることにより得られるエステル化合物である。中でも、アルキレングリコール鎖が長すぎるとウレタン結合やエステル結合の極性基の密度が下がり接着性低下につながりやすくなり、アルカントリオールを用いると合成時に急激な増粘、ゲル化の危険性が高まるため、下記式(1)で示されるエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートが好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物との配合割合は、無水トリメリット酸が10~70質量%であり、トリメリット酸エステル無水物が90~30質量%であることが重要である。無水トリメリット酸が10質量%以上(トリメリット酸エステル無水物が90質量未満)であることによって、得られる部分酸変性ポリエステル系ポリオールの分子量が大きくなりすぎず、接着用組成物の粘度上昇を抑制でき、良好な外観の積層体を得ることができる。無水トリメリット酸が70質量以下(トリメリット酸エステル無水物が30質量%超え)であることによって、得られる部分酸変性ポリエステル系ポリオールの分子量が低下し過ぎずないので、接着用組成物が水分の影響を受けにくく、安定した接着性能を発現できる。
【0027】
上記ポリエステル系ポリオールと無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物との反応は、無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物の開環によるエステル化反応が主反応となるように、反応温度を200℃以下に制御して行う。また、無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物は、ポリオールが有する水酸基の20~90%が無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物でエステル化されるように、ポリオールと反応させることが好ましい。ここで、〔%〕とは水酸基の個数を基準にしたものである。上記数値が20%未満の場合は、得られる接着剤の耐内容物性の向上が十分でなく、エージング時間の短縮も十分でない。また、90%を越えると、未反応の無水トリメリット酸およびトリメリット酸エステル無水物が残り易く、部分酸変性ポリオール中に懸濁状態で入り、最終的にラミネート基材との接着強度などの物性に悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0028】
本発明における部分酸変性ポリエステル系ポリオールは、無水トリメリット酸と、トリメリット酸エステル無水物のエステル化変性により樹脂末端部、或いは樹脂骨格中にブランチとしてカルボキシル基を含有しているため、従来のウレタン系接着剤と比較し、ポリイソシアネート化合物と混合使用する場合、安定性に優れ、また、その質量平均分子量が30000~100000であることにより、エージング時間の短縮に効果的である。
また、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等の押し出し樹脂や、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックフィルム、アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミ等を蒸着したプラスチックフィルム、ステンレス、鉄、銅、鉛等の金属に極めて優れた接着強度、耐熱水性、耐酸性、耐油性を示し、強い接着強度が長期にわたって持続するという利点がある。
【0029】
本発明の接着用組成物に含有されるポリイソシアネートとしては、ウレタン結合の導入の場合に例示したポリイソシアネート単量体と、水もしくは低分子量ポリオールとを反応させて得られる付加体、ビューレット、アロハネートなどの誘導体および上記ポリイソシアネート単量体から誘導された二量体、三量体などの誘導体、炭酸ガスと上記有機ポリイソシアネート単量体とから得られる2,4,6-オキサジアジントリオン環を有する誘導体またはそれらの混合物などがあげられる。
上記低分子量ポリオールとしては、二官能ポリオール、トリメチロールプロパンのような三官能ポリオール、分子量200~20,000のポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシアルカン、ひまし油、ポリウレタンポリオールなどのものがあげられる。
【0030】
ポリイソシアネート化合物としてはキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体がとりわけ好ましい。特に、イソホロンジイソシアネート誘導体を20質量%以上含有したものを使用すると、耐水性、耐ボイル性等の諸物性、特に、印刷インキに対する諸物性が著しく向上する。
【0031】
部分酸変性ポリエステルオールとポリイソシアネートは、固形分重量比75/25~25/75の範囲で配合されることが好ましい。ポリイソシアネートを25%以上とすることにより、プラスチックフィルム上になされた印刷インキ面に対する接着強度が向上し、さらに、印刷インキの品種による性能のばらつきが効果的に抑制できる。また、ポリイソシアネートを75%以下とすることにより、さまざまな基材への接着性能が向上する。
【0032】
本発明の接着用組成物には、耐熱水性を高めるため、さらに、シランカップリング剤を含有させることができる。シランカップリング剤としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシジル基を有するトリアルコキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は、接着剤の固形分を基準として0.1~5質量%であることが好ましく、0.5~3質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明の接着用組成物には、耐酸性を高めるため、さらに、リンの酸素酸またはその誘導体を含有させることができる。リンの酸素酸またはその誘導体の内、リンの酸素酸としては、遊離の酸素酸を少なくとも1個有しているものであればよく、例えば、次亜リン酸、亜リン酸、オルトリン酸、次リン酸等のリン酸類、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、ウルトラリン酸等の縮合リン酸類が挙げられる。また、リンの酸素酸の誘導体としては、上記のリンの酸素酸を遊離の酸素酸を少なくとも1個残した状態でアルコール類と部分的にエステル化されたもの等が挙げられる。これらのアルコールとしては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等の脂肪族アルコール、フェノール、キシレノール、ハイドロキノン、カテコール、フロログリシノール等の芳香族アルコール等が挙げられる。リンの酸素酸またはその誘導体は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。リンの酸素酸またはその誘導体の添加量は、接着用組成物の固形分を基準として0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の接着用組成物には、さらに、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、可塑剤、顔料、充填剤等の添加剤を必要に応じて含有させることができる。また、硬化反応を調節するため公知の触媒、添加剤等を含有させることができる。
接着用組成物の粘度が上記範囲より高い場合は、有機溶剤で希釈してもよい。有機溶剤としては、例えば酢酸エチル等のエステル系、メチルエチルケント等のケトン系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系等のイソシアネートに対して不活性なものであれば必要に応じいかなるものを使用してもよい。
【0035】
本発明の接着用組成物は、溶融押出しラミネート法用のアンカー剤としても、ドライラミネート法用の接着剤としても使用できる。
アンカー剤として使用する場合、シート状基材1の一方の面に、グラビアコーター等によって接着用組成物を塗工し、乾燥してアンカー層の前駆体を形成した後、該アンカー層の前駆体上に熱可塑性樹脂を溶融押出し、次いでアンカー層の前駆体を常温もしくは加温下で硬化して、積層体を得ることができる。アンカー層は、0.2~1.0g/mであることが好ましい。
ドライラミネート法用の接着剤としても使用する場合、シート状基材1の一方の面に、グラビアコーター等によって接着用組成物を塗工し、乾燥して接着剤層の前駆体を形成した後、該接着剤層の前駆体上にシート状基材2を重ね、前記接着剤層の前駆体を常温もしくは加温下で硬化して、積層体を得ることができる。前記接着剤層の前駆体は、2.0~5.0g/mであることが好ましい。
これら積層体は、包装材の形成に好適に使用される。包装用積層体の厚さは、多くの場合、10μm以上である。
【0036】
溶融押出しラミネート法の場合に用いられるシート状基材1としては、無色または必要に応じて文字や模様等を印刷してなるポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールなどのプラスチックフィルムあるいはこれらプラスッチクフィルムに塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を塗布したフィルム、セロハン、紙、アルミニウム箔等の金属箔などが挙げられる。
【0037】
溶融押出しラミネート法の場合に用いられる押し出し樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン,ポリプロピレン,アイオノマー樹脂,エチレン酢酸ビニル共重合樹脂,エチレン-アクリル酸エチル共重合樹脂等が挙げられるが必ずしもこれらに限定されるものではない。これらのうち、特に繁用されて好ましいのは、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。押し出し樹脂の押し出し温度は、樹脂にもよるが、通常、100~400℃好ましくは240~330℃の範囲である。
【0038】
ドライラミネート法の場合に用いられるシート状基材1としては、無色または必要に応じて文字や模様等を印刷してなるポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールなどのプラスチックフィルムあるいはこれらプラスッチクフィルムに塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を塗布したフィルム、セロハン、紙、アルミニウム箔等の金属箔などが挙げられる。
ドライラミネート法の場合に用いられるシート状基材2としても同様のものを例示できる。シート状基材1とシート状基材2は同種のものでも異種のものでも良い。
【実施例
【0039】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(製造例1)ポリエステルポリウレタンポリオール(a)の製造
イソフタル酸335g、セバシン酸148g、アジピン酸134g、エチレングリコール83g、ネオペンチルグリコール143g、1,6-ヘキサンジオール157gを仕込み、220~260℃でエステル化反応を行た。所定量の水の留出後、徐々に減圧し1mmHg以下で240~260℃で5時間脱グリコール反応を行い、数平均分子量6,000、質量均分子量13,000、水酸基価17mgKOH/g、酸価0.5mgKOH/gのポリエステルポリウレタンポリオールを得た。
さらにこのポリエステルポリオールの全量に対してイソホロンジイソシアネート10gを徐々に添加し、150℃で約2時間反応を行い、数平均分子量8,000、質量均分子量20,000、水酸基価12mgKOH/g、酸価0.5mgKOH/gのポリエステルポリウレタンポリオール(a)を得た。
【0040】
(製造例2)ポリエステルポリウレタンポリオール(b)の製造
イソフタル酸336g、セバシン酸148g、アジピン酸134g、エチレングリコール83g、ネオペンチルグリコール135g、1,6-ヘキサンジオール157g、トリメチロールプロパン7gを仕込み、220~260℃でエステル化反応を行た。所定量の水の留出後、徐々に減圧し1mmHg以下で240~260℃で5時間脱グリコール反応を行い、数平均分子量7,000、質量均分子量18,000、水酸基価25mgKOH/g、酸価0.5mgKOH/gのポリエステルポリウレタンポリオールを得た。
さらにこのポリエステルポリオールの全量に対してイソホロンジイソシアネート10gを徐々に添加し、150℃で約2時間反応を行い、数平均分子量9,000、質量均分子量28,000、水酸基価20mgKOH/g、酸価0.4mgKOH/gのポリエステルポリウレタンポリオール(b)を得た。
【0041】
(製造例3)部分酸変性ポリエステル系ポリオールの製造
ポリエステルポリウレタンポリオール(a)100gに対し、無水トリメリット酸:1g、エチレングリコールアンヒドロトリメリテート:2gを添加し、180℃で約2時間反応させ部分酸変性ポリエステル系ポリオールAを得た。
【0042】
(製造例4~10)部分酸変性ポリエステル系ポリオールの製造
ポリエステルポリウレタンポリオール(a)或いは(b)100gに対し、表1に示す各種酸無水物をそれぞれ表1に示す所定量添加し、製造例3と同様にして反応させ部分酸変性ポリエステル系ポリオール溶液B~Hを得た。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1)
部分酸変性ポリエステル系ポリオールAを酢酸エチルにて不揮発分50質量%に調整した溶液:100g、ポリイソシアネートとしてCAT-RT88(不揮発分70%、商品名、東洋モートン株式会社製):30g、および酢酸エチルを配合し、不揮発分8%、または25%の接着用組成物を得、後述する方法に従い接着用組成物の安定性を評価した。結果を表2に示す。
さらに不揮発分の異なる接着用組成物を用い、後述する方法に従い2種類の積層体1、2を作成し、各種性能を評価した。結果を表3に示す。
【0045】
(実施例2~7)、(比較例1~3)
部分酸変性ポリエステル系ポリオールAの代わりに、部分酸変性ポリエステル系ポリオールB~Hを用い、ポリイソシアネートの量を表2に示す量とした以外は、実施例1と同様にして、不揮発分8%、または25%の接着用組成物を得、同様に評価した。
【0046】
<安定性評価>
接着用組成物100質量部に対し、0.6質量部の水を加え撹拌し、6時間静置後の接着用組成物の状態を確認した。
〇:初期と同様に透明。
△:曇り発生するが、沈降物は無し。
×:白濁し、沈降物有り。
【0047】
【表2】
【0048】
<積層体1> 溶融押出しラミネート法
ナイロン(NY)フィルムのコロナ放電処理面にインキを所望のパターンに印刷した後、インキ層および露出しているNYフィルム上に、不揮発分8%の接着用組成物を塗布し、乾燥炉にて酢酸エチルを蒸発させた後、ここに溶融状態にある低密度ポリエチレン(LDPE)をフィルム状に押し出しつつ重ね合せた。50℃雰囲気下で1時間、又は、40℃雰囲気下で24時間の何れかの条件で保温してアンカー層の前駆体を硬化(エージング)し、[NYフィルム/インキ/アンカー層/LDPEフィルム]の積層体1を得た。なお、アンカー層は硬化後において0.5g/mとなるようにした。
後述する方法に従い、積層体1についてボイル前・後の外観およびラミネート強度を評価した。
【0049】
(ボイル条件)
積層体1を使用し、LDPEフィルムが内側に向かい合うように配して、21cm×30cmの大きさのパウチを作成し、内容物として市販の4.2%食酢、サラダ油、ケチャップを1/1/1(質量比)に混合したモデル食品1kgを充填した。このパウチを90℃、60分煮沸殺菌処理をおこなった後、内容物を空け、評価対象とした。
【0050】
(外観)
ボイル前・後の積層体1の印刷部およびアンカー層をNYフィルム側から観察し、以下の基準で評価した。
○:印刷部にハジキはなく、手もみしてもデラミ等なく良好。
△:印刷部に部分的にハジキ等の不具合があるか、または手もみにて部分的に剥離あり。
×:印刷部の全面にハジキ等の不具合あるか、または手もみにて全面に剥離あり。
【0051】
(ラミネート強度試験)
ボイル前・後の積層体1から15mm幅の試験片を作り、引張り試験機を用い、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、T型剥離により、剥離速度30cm/分で、NYフィルム/LDPEフィルム間の剥離強度(N/15mm)を測定した。表3の数値は、5個の試験片の平均値である。
【0052】
<積層体2> ドライラミネート法
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ12μm)のコロナ放電処理面にインキを所望のパターンに印刷した後、インキ層および露出しているPETフィルム上に、不揮発分25%の接着用組成物を塗布し、乾燥炉にて酢酸エチルを蒸発させた後、アルミニウム(AL)箔(厚さ9μm)を貼り合せた。次いで、AL箔上に不揮発分25%の接着用組成物を塗布し、乾燥炉にて酢酸エチルを蒸発させた後、未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(厚さ70μm)のコロナ放電処理面を貼り合せた。そして、50℃雰囲気下で1時間、又は、40℃雰囲気下で72時間の何れかの条件で保温して接着剤層を硬化(エージング)し、[PETフィルム/インキ/接着剤層/AL箔/接着剤層/CPPフィルム]の積層体2を得た。なお、両接着剤層は乾燥後において4.5g/mとなるようにした。
後述する方法に従い、積層体2についてレトルト前・後の外観およびラミネート強度、並びに耐酸性試験後の外観を評価した。
【0053】
(レトルト条件)
積層体2を使用し、CPPフィルムが内側に向かい合うように配して、21cm×30cmの大きさのパウチを作成し、内容物として市販の3%酢酸、サラダ油、ケチャップを1/1/1(質量比)に混合したモデル食品1kgを充填した。このパウチを10rpm、135℃、30分、3MPaの加圧下で熱水殺菌を行った後、内容物を空け、評価対象とした。
【0054】
(外観)
レトルト前・後の積層体2の印刷部および接着剤層をPETフィルム側、およびCPPフィルム側からそれぞれ観察した。評価基準は積層体1の場合と同様である。
【0055】
(ラミネート強度試験)
積層体1の場合と同様にして、PETフィルム/AL箔間、およびAL箔/CPPフィルム間のラミネート強度(N/15mm)を測定した。
【0056】
(耐酸性試験後の接着状態)
内容物として市販の4.2%食酢を充填し、レトルト時の回転を10rpmから3rpmにした以外は、上記と同様にして熱水殺菌を行った後、さらに60℃で2週間または4週間保存後、AL箔/CPPフィルム間の接着状態を観察した。
○:手もみしてもデラミ等なく良好。
△:手もみにて部分的に剥離あり。
×:発泡形状のデラミ、全面に剥離あり。
【0057】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0058】
溶融押出しラミネート法用のアンカー剤としてもドライラミネート法用の接着剤としても使用できる、本発明の接着用組成物により、エージング時間をさらに短縮しても、エージング時間の長い場合に比して遜色なく、ボイル処理やレトルト処理に十分耐え得る、接着性能を発現できる積層体を効率よく製造することが可能となる。