(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】排気浄化システムの劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20220107BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220107BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220107BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F01N3/18 C ZAB
F01N3/08 B
B01D53/94 222
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2018056008
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 直
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021514(JP,A)
【文献】特開2011-247134(JP,A)
【文献】特開2012-237291(JP,A)
【文献】特開2000-064826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08~ 3/38
F01N 11/00
B01D 53/94
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排気管に排出された排気ガスを浄化する排気浄化システムの劣化診断装置であって、
前記排気ガスの温度と、排気管内に噴射される還元剤の噴射量とに基づいて、前記排気浄化システムにおける構成部品の腐食による劣化度を推定する劣化度推定部と、
前記劣化度推定部により推定された前記劣化度が予め定められた閾値を超えるかどうかを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果を出力する出力部と、
を備える、排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項2】
前記劣化度推定部は、前記排気ガスの温度と前記還元剤の単位時間当たりの噴射量とに基づいて、単位時間当たりの劣化度を推定する、
請求項1に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項3】
前記劣化度推定部は、前記排気ガスの温度と前記還元剤の単位時間当たりの噴射量とで参照される単位時間当たりの前記劣化度を示すマップを参照して、前記単位時間当たりの劣化度を推定する、
請求項2に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項4】
前記劣化度推定部は、前記排気管の壁面温度に基づいて、前記排気ガスの温度を推定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項5】
前記劣化度推定部は、前記排気管内を流れる前記排気ガスの流量に基づいて、前記劣化度を補正する、
請求項2から4のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項6】
前記劣化度推定部は、前記還元剤の温度に基づいて、前記劣化度を補正する、
請求項2から5のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記判断結果を、前記排気浄化システムを搭載した車両の運転者に報知する報知部に出力する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項8】
前記出力部は、前記判断結果を、遠隔地に設置された監視センターに通信網を介して通報する通信部に出力する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項9】
前記構成部品の腐食による劣化度は、前記排気管の腐食量である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【請求項10】
前記構成部品の腐食による劣化度は、前記排気管内に噴射された尿素水と排気管内に流れる排気ガスとの混合を促進するためのミキサーを前記排気管に支持する支持部の腐食量である、
請求項1から9のいずれか一項に記載の排気浄化システムの劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気浄化システムの劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気中には窒素酸化物(NOx)が含まれている。NOxを浄化するために、排気管内に還元剤として尿素水を噴射するインジェクタと、排気管内のインジェクタよりも下流側に設けられ、排気中のNOxを尿素水の加水分解により発生したアンモニアと反応させて浄化する還元触媒とを備える排気浄化システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
排気浄化システムの中には、排気管内のインジェクタよりも下流側であって還元触媒よりも上流側に、排気管内に噴射された尿素水と排気管内に流れる排気ガスとの混合を促進するためのミキサーが配置されているものがある。
【0004】
排気管内に噴射された尿素水が加水分解されると、強腐食性物質であるカルバミン酸アンモニウムが生成される。例えば、生成された強腐食性物質が排気管の内壁や、ミキサーを排気管に支持する支持部などに付着し続けた場合、排気管の内壁やミキサーの支持部などが腐食して、劣化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、排気管の内壁やミキサーの支持部に生じた腐食の状況など排気浄化システムにおける構成部品の腐食による劣化度を、目視等により正確に診断することは困難である。
【0007】
これにより、排気浄化システムにおける構成部品の劣化を早期に発見することは困難を伴う。
【0008】
本開示の目的は、排気浄化システムにおける構成部品の劣化を早期に発見することが可能な排気浄化システムの劣化診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る排気浄化システムの劣化診断装置は、
内燃機関から排気管に排出された排気ガスを浄化する排気浄化システムの劣化診断装置であって、
前記排気ガスの温度と、排気管内に噴射される還元剤の噴射量とに基づいて、前記排気浄化システムにおける構成部品の腐食による劣化度を推定する劣化度推定部と、
前記劣化度推定部により推定された前記劣化度が予め定められた閾値を超えるかどうかを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果を出力する出力部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、排気浄化システムにおける構成部品の劣化を早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る排気浄化システムの構成の一例を示すブロック図
【
図2】排気ガスの温度、尿素水の噴射量および接続配管の腐食量の相互の関係の一例を示す3次元マップ
【
図3】時間経過に応じて変化する排気ガスの温度、尿素水の噴射量および接続配管の腐食量の各数値の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態は、自動車に搭載されたディーゼルエンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。以下、ディーゼルエンジンを、単にエンジンという場合がある。
【0013】
図1を参照して、エンジン10から排気管2に排出される排気ガスを浄化する排気浄化システム1の概略構造の一例について説明する。
【0014】
図1に示すように、エンジン10には、エンジン10からの排気ガスを排出するための排気管2が設けられている。排気管2には、排気ガスを浄化するための排気浄化システム1が設けられている。
【0015】
排気浄化システム1は、DPF3(ディーゼルパティキュレートフィルタ)と、尿素SCR触媒(以下、SCRという)4と、尿素水噴射装置5と、ミキサー6と、制御装置7とを備えている。DPF3は、排気ガスに含まれる粒子状物質(以下、PMという)を除去する。SCR4は、排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元するための選択還元触媒である。
【0016】
DPF3は、例えば連続再生式DPFである。DPF3は、PMを捕集するためのフィルタ本体と、フィルタ本体に対し排気ガスの流れの上流側(以下、単に上流側という)に配置された酸化触媒と、を有している。フィルタ本体および酸化触媒は、ケーシング内に収容されている。排気管2には、DPF3に対し排気ガス流れの下流側(以下、単に下流側という)にSCR4が設けられている。
【0017】
SCR4は、アンモニアを還元剤として用いて窒素酸化物を還元する。SCR4は、触媒成分(例えばゼオライトなど)を担体(例えばハニカム構造担体など)に担持させたものである。
【0018】
DPF3とSCR4とは、排気管2に排気ガスの流れに沿って直列に並べられて設けられている。DPF3は、SCR4に対し上流側(エンジン10側)に配置されている。DPF3の下流側開口部とSCR4の上流側開口部とを接続する排気管2を、特に、接続配管2aという場合がある。
【0019】
尿素水噴射装置5は、尿素水を貯留する尿素水タンク5aと、尿素水タンク5aから尿素水をくみ上げる尿素水ポンプ5bと、接続配管2a内に尿素水を噴射する尿素水インジェクタ5cとを備えている。尿素水インジェクタ5cから接続配管2a内に噴射された尿素水が排気熱により加水分解される。これにより、アンモニア(NH3)が生成され、下流側のSCR4に供給される。
【0020】
ミキサー6は、尿素水噴射装置5に対し下流側かつSCR4に対し上流側の接続配管2a内に配置されている。ミキサー6は、排気ガスと還元剤との混合を均一化する。
【0021】
制御装置7は、排気浄化システム1の動作を総合的に制御する。制御装置7は、各種の制御処理を実行するCPUと、CPUの動作に必要な各種情報やプログラム等を記憶する記憶部としてのROM、RAM、ハードディスク等を有するコンピューターを備えている。制御装置7は、尿素水インジェクタ5cの尿素水の噴射量や噴射時間を制御する。
【0022】
前述したように、接続配管2a内に噴射された尿素水が加水分解されると、強腐食性物質が生成され、強腐食性物質が接続配管2aの内壁に付着し続けた場合、接続配管2aが腐食して、劣化するおそれがある。また、強腐食性物質がミキサー6に付着することで、ミキサー6を接続配管2aに支持する支持部が腐食して、劣化するおそれがある。以上のように、接続配管2a内に噴射された尿素水は、排気浄化システム1における構成部品を劣化させる要因となる。ところが、排気浄化システム1における構成部品の腐食による劣化度を、目視等よって正確に診断することは困難である。また、目視確認するためには車両が停止した状態で排気系統を分解する必要があるため、目視確認を行うこと自体がそもそも手間である。そこで、本実施の形態においては、排気浄化システム1における劣化診断装置100を備える。
【0023】
以下、排気浄化システム1における構成部品の腐食による劣化度の一例として、接続配管2aの腐食量を挙げて説明する。劣化診断装置100は、腐食量推定部101(本発明の「劣化度推定部」に対応)、判断部102および出力部103を備えている。
【0024】
温度センサー8は、排気ガスの温度(接続配管2a内の温度)を検出する。
【0025】
腐食量推定部101は、温度センサー8により検出された排気ガスの温度と、接続配管2a内に噴射される尿素水の単位時間当たりの噴射量(以下、単に「噴射量」という)とに基づいて、排気管2の総腐食量を推定する。なお、以下の説明において、単位時間当たりの腐食量を、単に「腐食量」という。
【0026】
判断部102は、推定した総腐食量が予め定められた閾値を超えるどうかを判断し、判断した結果を出力する。
【0027】
図2は、排気ガスの温度T[degC]、尿素水の噴射量Q[mg/s]および腐食量A[mm/s]の相互の関係の一例を示す3次元マップである。
図2に、排気ガスの温度Ti、尿素水の噴射量Qiおよび腐食量Aiを示す。このような3次元マップは、例えば実験により予め定められる。マップは、制御装置7の記憶部(図示略)に記憶されている。
【0028】
本実施の形態においては、腐食量推定部101は、
図2に示す3次元マップを参照して、排気ガスの温度Tiと尿素水の噴射量Qiとに基づいて、腐食量Aiを推定する。なお、排気ガスの温度Tiおよび尿素水の噴射量Qiの関係式が予め設けられている場合は、その関係式に、排気ガスの温度Tiおよび尿素水の噴射量Qiを代入することにより腐食量Aiを求めてもよい。
【0029】
以下、上述する腐食量Aを用いて総腐食量ΣAを求める方法について説明する。
【0030】
図3は、時系列に変化する排気ガスの温度T[degC]、尿素水の噴射量Q[mg/s]および腐食量A[mm/s]を示す図である。
図4に示す横軸は時刻tを表し、縦軸は排気ガスの温度T、尿素水の噴射量Q、腐食量Aの各数値を表す。例えば、噴射時刻tkにおける各数値は、排気ガスの温度Tk、尿素水の噴射量Qk、腐食量Akである。
【0031】
腐食量推定部101は、腐食量A[mm/s]を時間で積分することにより、総腐食量ΣA[mm]を算出する。例えば、腐食量推定部101は、腐食量Aを時刻tmからtnまで積分することにより、時刻tmからtnまでに進行する分の総腐食量ΣAmnを算出する。
【0032】
以上のようにして、判断部102は、総腐食量ΣAが、予め定められた閾値を超えるかどうかを判断する。出力部103は、判断部102の判断結果を出力する。判断結果を運転者等に報知するためには、種々の手段がある。例えば、判断結果を、車載モニターにメッセージとして表示してもよく、ブザーが警報音を鳴らしてもよい。また、車両に搭載された通信部(図示略)が監視センター(遠隔地)に通信網を介して通報してもよい。
【0033】
上記実施の形態に係る排気浄化システム1における劣化診断装置100によれば、エンジン10から排出される排気ガスの温度と、接続配管2a内に噴射される尿素水の噴射量とに基づいて、接続配管2aの総腐食量を推定し、推定した総腐食量が予め定められた閾値を超えるかどうかを判断し、判断結果を出力する。これにより、接続配管2aの総腐食量を診断する精度を上げることができる。その結果、接続配管2aの腐食を早期に発見することが可能となる。また、車両が走行していても、排気管2が高温の状態であっても、また、排気系統の分解作業を行わなくても、腐食による劣化度を診断することが可能となる。
【0034】
また、総腐食量が予め定められた閾値を超えるかどうかの判断結果を運転者等に報知することにより、接続配管2aの早期の交換や、メンテナンスを促すことができる。また、仮に、予想される最悪の条件で使用された場合の排気管やミキサーの支持部(以下、排気管等)を想定して、排気管等の品質を設定するときは、排気管等が過剰な品質になり、また、例えば、排気管等の使われ方が想定外の場合、排気管等の機能が失陥するおそれがあった。しかし、本実施の形態に係る劣化診断装置100によれば、排気管等の腐食の早期発見ができるため、部品の交換を前提として部品の品質を設定することが可能となる。部品の交換を前提とした場合、部品を製造する際に、安価で成形性の良い材料を用いることができるため、過剰な品質を抑えることができる。また、例えば、部品の交換やメンテナンスを行うことにより、耐久性を確保することができる。
【0035】
なお、上記実施の形態においては、腐食量推定部101による接続配管2aの総腐食量の推定を、尿素水(還元剤)の噴射量に基づいて行うが、本発明はこれに限らず、例えば、尿素水の噴射時間に基づいて行ってもよい。
【0036】
また、上記実施の形態においては、排気浄化システム1における構成部品の腐食による劣化度を、接続配管2aの腐食量としたが、本発明はこれに限らず、排気管2内に噴射される尿素水によって劣化する、例えば、ミキサー6などの構成部品であればよい。その場合には、排気ガスの温度と尿素水の噴射量とで参照される構成部品の腐食による劣化度のマップが作成される。腐食量推定部101は、そのマップを参照して当該構成部品の腐食量を推定する。
【0037】
また、上記実施の形態においては、排気ガスの温度を温度センサー8により検出したが、本発明はこれに限らず、排気ガスの温度を接続配管2aの壁面の温度に基づいて推定してもよい。
【0038】
また、上記実施の形態においては、排気ガスの温度と還元剤の噴射量とに基づいて接続配管2aの腐食量を推定したが、推定した腐食量を、接続配管2aに流れる排気ガスの流量に基づいて、補正してもよい。また、推定した腐食量を、還元剤の温度に基づいて、補正してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示の排気浄化システム1における劣化診断装置は、排気浄化システム1の構成部品の劣化を早期に発見することが要求される内燃機関を搭載した車両用として有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 排気浄化システム
2 排気管
2a 接続配管
3 DPF
4 尿素SCR触媒(SCR)
5 尿素水噴射装置
5a 尿素水タンク
5b 尿素水ポンプ
5c 尿素水インジェクタ
6 ミキサー
7 制御装置
8 温度センサー
10 エンジン
100 劣化診断装置
101 腐食量推定部
102 判断部
103 出力部