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特許6996460腎臓病の進行抑制剤、予防剤、および治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】腎臓病の進行抑制剤、予防剤、および治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20220107BHJP
   A61K 35/748 20150101ALI20220107BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220107BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220107BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220107BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K35/748
A61P13/12
A61P9/12
A61P39/02
A61P39/06
A23L33/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018168395
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020040900
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(73)【特許権者】
【識別番号】598062952
【氏名又は名称】株式会社オジックテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】307033763
【氏名又は名称】グリーンサイエンス・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201536
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】有馬 英俊
(72)【発明者】
【氏名】本山 敬一
(72)【発明者】
【氏名】東 大志
(72)【発明者】
【氏名】安楽 誠
(72)【発明者】
【氏名】平山 文俊
(72)【発明者】
【氏名】庵原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 高幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清明
(72)【発明者】
【氏名】金子 慎一郎
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131770(JP,A)
【文献】特開2009-221136(JP,A)
【文献】特開2014-024817(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076244(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052509(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/00-31/80
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サクランを含有することを特徴とする、腎臓病の進行抑制剤。
【請求項2】
サクランの摂取量が1日あたり、1.0~3.0gであることを特徴とする、請求項1に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【請求項3】
前記腎臓病が、腎不全である、請求項1または2に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【請求項4】
前記腎臓病が、慢性腎臓病である、請求項1または2に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【請求項5】
サクランを含有することを特徴とする、腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤。
【請求項6】
サクランを含有することを特徴とする、腎臓病の予防剤または治療剤。
【請求項7】
サクランを含有することを特徴とする、血中インドキシル硫酸低下剤。
【請求項8】
サクランを含有することを特徴とする、インドール吸着剤。
【請求項9】
サクランを含有することを特徴とする、血中抗酸化剤。
【請求項10】
サクランを含有することを特徴とする、血中リン低下剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の剤を含むことを特徴とする、腎臓病の進行抑制用食品、腎臓病の予防用食品、腎臓病の治療用食品、腎臓病患者用の血圧上昇抑制用食品、血中インドキシル硫酸低下用食品、インドール吸着用食品、血中抗酸化用食品、または血中リン低下用食品。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の剤を含むことを特徴とする、腎臓病の進行抑制用医薬品、腎臓病の予防用医薬品、腎臓病の治療用医薬品、腎臓病患者用の血圧上昇抑制用医薬品、血中インドキシル硫酸低下用医薬品、インドール吸着用医薬品、血中抗酸化用医薬品、または血中リン低下用医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な腎臓病の進行抑制剤、予防剤、治療剤、および腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤に関する。
また、本発明は、新規な血中インドキシル硫酸低下剤、インドール吸着剤、血中抗酸化剤、および血中リン低下剤に関する。
さらに、本発明は、これらの剤のいずれか1つを含む、食品および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、血液をろ過して、老廃物、水分、電解質などを尿として排泄し、体に必要なものを再吸収することによって、血中の電解質のバランスを一定に保っている。これにより、細胞内外の水分を一定に保ち、神経の伝達、筋肉の収縮、止血などの生理機能を維持している。
腎機能が低下すると、本来排泄されるべき物質が排泄されず、代表的な腎機能障害の指標である血中クレアチニン濃度や血中尿素窒素値濃度が高値を示す。また、老廃物が体内に蓄積し、水分が体内に貯留し、電解質のバランスが崩れてしまう。
腎機能障害が進行している状態では、インドキシル硫酸、副甲状腺ホルモン、アルミニウムなどの尿毒症物質が体内に蓄積して、高値を示す。また、血中リン濃度が高値を示す。
腎機能障害が進行している初期の段階では、疲労感などの症状が現れ、これが進行すると、食欲不振、吐き気などの消化器症状、頭痛、注意力散漫などの神経系の症状が現れ、さらに進行すると、けいれんや意識障害などの症状が現れる。
また、尿量の減少により、むくみや血圧上昇の症状が現れる。
さらに、電解質のバランスが保てなくなることにより、血液が酸性に傾くアシドーシスを発症することがある。
【0003】
腎臓病のうち、慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)は、タンパク尿や血尿、画像診断などにより腎障害が存在する状態もしくは腎機能の指標の1つである糸球体濾過速度(GFR)の低下、またはその両方が、3ヶ月以上持続している状態である。
腎不全は、GFRがより低下した状態であり、大きく急性腎不全と慢性腎不全に分類される。
慢性腎不全は、慢性腎臓病が進行した状態であり、腎機能が正常時の30%以下程度に低下した状態である。
慢性腎不全では、ヒトの腎臓の1つあたりに約100万個あり、腎臓の基本単位であるネフロンそのものの機能の変化はほとんど見られないが、その数が減少していくため、腎臓全体のGFRの低下が進行性を示す。この状態では、通常、腎機能が回復することはない。
また、腎機能がある程度低下した状態では、自覚症状は少なく、病状がかなり進行してから慢性腎不全が発覚することも少なくない。
【0004】
慢性腎臓病は、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧などの危険因子が引き金になって発症することがあるが、酸化ストレス疾患でもある。腎障害の進行には、活性酸素種(ROS)の過剰産生に起因した酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。
酸化ストレスは、血管平滑筋細胞の肥大や増殖、細胞間物質の遊走や調節に関わっており、動脈硬化症、血管再狭窄を引き起こす要因の1つと位置付けられている(非特許文献3、非特許文献4)。また、酸化ストレスは、心血管障害を介さずに、血圧を上昇させる要因の1つとなっていることも報告されている(非特許文献5)。
【0005】
尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、腎不全の進行因子として証明されている(非特許文献6)。
慢性腎不全患者の血中インドキシル硫酸濃度は、健常者の血中インドキシル硫酸濃度と比較して、異常に高くなることが知られている。また、透析患者では、血中インドキシル硫酸濃度が正常時の100倍近くまで増加することもある(非特許文献7)。
近年、インドキシル硫酸は血中の酸化ストレスと密接に関連し、生体内酸化促進効果を有することが、明らかになっている。
例えば、インドキシル硫酸が、尿細管上皮細胞やメサンギウム細胞において、活性酸素種(ROS)の産生を誘導することが報告されている(非特許文献8、非特許文献9)。
また、全身循環系においても、血中インドキシル硫酸の蓄積が、好中球活性化や内皮細胞内への取り込みによるNADPHオキシダ-ゼの活性化を介して、酸化ストレスを惹起していることが報告されている(非特許文献10)。
【0006】
慢性腎臓病では、進行度にもよるが、健康管理、生活習慣の改善のほか、食事療法と薬物療法により、その改善が試みられる。
慢性腎不全では、腎臓移植を除いて根治的な治療法がないことから、その進行を遅らせることを目標として、より厳格な食事療法と薬物療法が採用される。
食事療法は、食餌中に含まれる、体内に蓄積して合併症を引きこす物質もしくはその原料となり得る物質の摂取量を減量する観点により行われ、例えば、タンパク質、塩分、カリウム、リンなどの摂取が制限される。
食事療法では、タンパク質制限によって、相対的に摂取カロリーが減少するため、油脂系を主体とした高カロリー食が適用されることもある。
よって、その食事は必ずしも美味しいものとはいえず、食事を取ること自体が苦痛になる場合がある。
また、カリウムやリンが多く含まれている野菜や果実の摂取が制限される場合も多い。
よって、慢性腎不全において食事療法を行う場合、食物繊維の摂取が不足し、慢性的な便秘の症状に悩まされる実態がある。
また、適切な量の水分の摂取は必要であるが、一般的には制限される場合が多い。
【0007】
慢性腎不全における薬物療法は、その進行を遅らせること、合併症を改善する観点により行われる。
薬物療法では、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗血小板薬、抗凝固薬などの腎機能障害の原因を治療する薬、レニンアンジオテンシン系阻害薬などの腎機能を保護する薬、高血圧症治療薬、脂質異常症治療薬、高尿酸血症治療薬などの危険因子に対する薬、エリスロポエチン製剤、カリウム吸着剤、重炭酸ナトリウム、経口吸着炭、活性型ビタミンD、リン吸着薬などの腎臓の働きを補う薬などが用いられる。
【0008】
慢性腎不全の状態が進行し、尿量の減少や尿毒症の症状が現れ、腎機能が極度に低下した末期腎不全の状態になると、それまでの治療では生命の維持が難しくなる。また、腎臓移植以外に根治的な治療法がなく、通常、血液透析や腹膜透析の透析療法を採用しなければならなくなる。
【0009】
現在、日本国内には、約30万人以上の末期腎不全患者が存在しており、その数は増加の一途をたどっている。
末期腎不全に採用される透析療法は、患者に大きな負担がかかる。
また、その医療費も高く、日本国内の医療費全体の約5%を占めている。
よって、腎障害の予防、腎臓に回復能力がある段階で慢性腎臓病を適切に管理して腎不全へ進行を抑制する、または透析療法の導入を抑制もしくは遅延させるような予防的医療が、生活の質(QOL)の向上だけでなく、医療経済的な観点からも重要である。
【0010】
慢性腎不全の進行を抑制する医薬品として、尿毒症物質を経口吸着炭に吸着させて体外に排出する「クレメジン(登録商標)」がある。
この経口吸着炭は、高純度の多孔性球状活性炭からなり、腸管で産生される尿毒症物質および消化管に分泌される尿毒症物質を吸着し、糞便とともに体外に排泄される。この作用により、慢性腎不全における尿毒症の症状を改善し、透析の導入を遅延させることができる。
また、この医薬品は、通常の医薬品と比較すると、その服用量が多いことが知られている。
【0011】
経口吸着炭に対して、代替可能性のある素材として、キトサンが提案されている(特許文献1)。
特許文献1では、腎不全モデルラットを用いた動物試験において、キトサンを投与することにより、腎不全症状の改善が認められたことが記載されている。
また、キトサンは、従来の経口吸着炭と比べると、服用しやすいことが記載されている。
【0012】
経口吸着炭に対して、代替可能性のある別の素材として、ユーグレナ由来のパラミロンが提案されている(特許文献2)。
パラミロンは、ユーグレナの中にパラミロン粒子として存在する、β1,3-グルカンであり、セルロースに類似する直鎖状の多糖である。
特許文献2では、慢性腎不全患者における臨床試験において、パラミロン粒子を投与することにより、腎不全疾患の進行を抑制したことが記載されている。
また、パラミロンは、従来の経口吸着炭と比べると、服用しやすいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2014-24817号公報
【文献】国際公開WO2016/052509号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Mastalerz-Migas et al., J Physiol Pharmacol 57: 199-205 (2006)
【文献】Sasaki et al., J Pharm Pharmacol 58: 1515-25 (2006)
【文献】Weberet al., Circ Res 94: 1219-26 (2004)
【文献】Taniyama et al., Hypertension 42: 1075-81 (2003)
【文献】安東克之ら,日本循環器病予防学会誌39巻3号:164-9(2004)
【文献】丹羽利充,現代医学47巻1号:55-61(1999)
【文献】Niwa et al., J Lab Clin Med 124: 96-104 (1994)
【文献】Gelasco et al., Am J Physiol Renal Physiol 290: 1551-8 (2006)
【文献】Motojima et al., Kidney Int 63: 1671-80 (2003)
【文献】Shimoishi et al., Pharm Res 24:1283-9 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の経口吸着炭を有効成分とする医薬品により、慢性腎臓病の進行を抑制する治療効果が望める。
しかしながら、現在使用されている医薬品は、通常、成人は、1日6g(200mgカプセルとして30カプセル、または2g/包の顆粒製剤として3包)を3回に分割して服用する必要があり、通常の医薬品と比較すると服用量が多く、患者の負担が大きい問題がある。
また、この経口吸着炭は黒色の不溶性物質であり、歯に吸着すると目立ってしまう。
これらは、患者のQOLを低下させる要因になり得る。
【0016】
特許文献1に記載のキトサンが、従来の経口吸着炭の代替物になる可能性がある。
しかしながら、キトサンは不溶性の物質であり、懸濁して飲むとザラツキ感があり、摂取しにくい場合がある。摂取しやすい形状に加工することも提案されているが、加工に伴い、各種の添加物を加えなければならず、全体としての服用量が増えてしまう可能性がある。
また、キトサンは不溶性の物質であるため、製剤の剤形によっては、成形に際して、取り扱い性が良くない場合がある。
【0017】
特許文献2に記載のユーグレナ由来のパラミロンが、従来の経口吸着炭の代替物になる可能性がある。
しかしながら、パラミロン粒子もまた、キトサンと同様に不溶性の物質である。懸濁してのむとザラツキ感があり摂取しにくい可能性がある。種々の形状に加工することが提案されているが、加工に伴い、各種の添加物を加えなければならず、全体としての服用量が増えてしまう可能性がある。
また、パラミロン粒子は不溶性の物質であるため、製剤の剤形によっては、成形に際して、取り扱い性が良くない場合がある。
特許文献2には、パラミロン粒子を化学的もしくは物理的に処理して水溶性パラミロンを調製することが記載されているが、可溶化において、さらなる加工工程が必要となる。
また、特許文献2には、溶解性が全く異なる水溶性のパラミロンの作用についての記載がない。
【0018】
腎臓病の進行により、患者のQOLが低下する。
また、末期腎不全における、透析療法の導入により、患者のQOLは著しく低下する。
さらに、腎臓病における、薬物療法や透析療法には、高額な医療費がかかる。
このような状況に対して、慢性腎臓病患者のみならず、腎機能の低下を予防したい人、腎障害を予防したい人、腎障害が気になる人は、将来的な不安を抱いている。
また、このような人達は、腎障害や腎機能の低下に対して適用可能な、さらなる選択肢を望んでいる。
【0019】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、安全かつ簡便に利用でき、腎臓病の進行抑制、予防、または治療に特に有用な、新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、安全かつ簡便に利用でき、腎臓病の進行抑制、予防、または治療に有用な、新規な技術を提供することを目的として、鋭意検討を行った。
その結果、スイゼンジノリより抽出した水溶性多糖体を経口摂取することにより、腎機能が低下した生体において、腎機能障害の指標となる種々の物質の濃度の改善できることを見出した。
また、この水溶性多糖体が、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールを直接的に吸着することを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下の構成を含む。
【0021】
(構成1)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、腎臓病の進行抑制剤。
【0022】
(構成2)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩の摂取量が1日あたり、1.0~3.0gであることを特徴とする、構成1に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【0023】
(構成3)
上記腎臓病が、腎不全である、構成1または2に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【0024】
(構成4)
上記腎臓病が、慢性腎臓病である、構成1または2に記載の腎臓病の進行抑制剤。
【0025】
(構成5)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤。
【0026】
(構成6)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、腎臓病の予防剤または治療剤。
【0027】
(構成7)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、血中インドキシル硫酸低下剤。
【0028】
(構成8)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、インドール吸着剤。
【0029】
(構成9)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、血中抗酸化剤。
【0030】
(構成10)
スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、血中リン低下剤。
【0031】
(構成11)
構成1~10のいずれか1つに記載の剤を含むことを特徴とする、腎臓病の進行抑制用食品、腎臓病の予防用食品、腎臓病の治療用食品、腎臓病患者用の血圧上昇抑制用食品、血中インドキシル硫酸低下用食品、インドール吸着用食品、血中抗酸化用食品、または血中リン低下用食品。
【0032】
(構成12)
構成1~10のいずれか1つに記載の剤を含むことを特徴とする、腎臓病の進行抑制用医薬品、腎臓病の予防用医薬品、腎臓病の治療用医薬品、腎臓病患者用の血圧上昇抑制用医薬品、血中インドキシル硫酸低下用医薬品、インドール吸着用医薬品、血中抗酸化用医薬品、または血中リン低下用医薬品。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、安全かつ簡便に利用できる、腎臓病の進行抑制、予防、または治療に特に有用な、新規な技術が提供される。
また、新規な血中インドキシル硫酸低下剤、インドール吸着剤、血中抗酸化剤、および血中リン低下剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の血中クレアチニン(Cr)濃度を測定した結果を示すグラフである。
図2】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の血中尿素窒素(BUN)濃度を測定した結果を示すグラフである。
図3】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の血中インドキシル硫酸(IS)濃度を測定した結果を示すグラフである。
図4】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の血中抗酸化能(PAO(potential anti oxidant))を測定した結果を示すグラフである。
図5】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の血中リン(P)濃度を測定した結果を示すグラフである。
図6】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、4週間後の平均血圧(MBP)を測定した結果を示すグラフである。
図7】腎不全モデルラットにスイゼンジノリ由来多糖体を投与し、1/Crの経時変化を表したグラフである。
図8】スイゼンジノリ由来多糖体のインドール吸着率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、例示的に説明する。当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内において、本発明を変形や改良することが可能である。また、本発明の単純な変形または変更は、いずれも本発明の範囲に属するものである。よって、以下に記載する実施形態は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0036】
本明細書で「約」というときは、四捨五入してその数値になる範囲を含む意味である。
また、本明細書で、「A~B」というときは、下限としてAを含み、上限としてBを含む意味である。
【0037】
(スイゼンジノリ由来多糖体)
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体は、日本固有の食用藍藻であるスイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)から抽出できる硫酸化多糖類である。
スイゼンジノリは、多数のマユ型(大きさ:3.5~4.0μm×6~7μm)の単細胞が寒天質の中に埋没する状態で群体を形成する淡水性藍藻類であり、九州地方の熊本県、福岡県にのみ生育が確認されている。
【0038】
1つの実施態様において、スイゼンジノリ由来多糖体は、サクラン(Sacran)である。
サクランは、スイゼンジノリから抽出される超高分子多糖体である。サクランは、多くの硫酸基とカルボキシ基、アミノ基を有する両性電解質である。
サクランの平均分子量は、一般には約2900万と報告されている。
また、サクランは溶液中で濃度に応じて分子構造が変化し、低濃度領域ではナノメートルサイズの粒子状で存在するが、濃度の上昇に伴い、サクラン分子鎖が互いに相互作用し、液晶構造を形成する。
【0039】
サクランは、ヘキソース構造を持つ糖構造体およびペントース構造を持つ糖構造体がα-グリコシド結合またはβ-グリコシド結合により直鎖状または分岐鎖状に連結した糖鎖ユニットの繰り返し構造を持ち、この糖鎖ユニットが糖構造体として硫酸化ムラミン酸を含み、かつ、この糖鎖ユニットにおいては、水酸基100個当たり2.7個以上の水酸基が硫酸化され、あるいは全元素中で硫黄元素が1.5重量%以上を占める糖誘導体を含むことに特徴を有する。
【0040】
サクランは、糖構造体として硫酸化ムラミン酸を含み、かつ、少なくとも下記式:
【0041】
【化1】
(式はヘキソースと、ヘキソースと、N-アセチルムラミン酸との3糖構造であることを示し、R、R’は糖を示し、式中の任意の-OHが-OSOまたはOCHとなっているものを含む。)で示される配列を持つ3糖構造と、下記(1)~(6)に列挙する配列:
(1)ヘキソースと、キシロースまたはアラビノースであるペントースとの2糖構造、
(2)ヘキソースと、フコースまたはラムノースであるデオキシヘキソースとの2糖構造、
(3)ペントースと、ペントースとの2糖構造、
(4)ペントースとデオキシヘキソースとの2糖構造、
(5)ヘキソサミンとヘキソサミンとの2糖構造、
(6)グルクロン酸またはガラクツロン酸であるウロン酸と、デオキシヘキソースとの2糖構造、
を持つ2糖構造の全てを含む糖誘導体である。
【0042】
スイゼンジノリからサクランを抽出する方法の一例は、例えば、国際公開WO2008/062574号に記載されている。
例えば、80℃の0.1N-NaOH水溶液にスイゼンジノリを入れて数時間攪拌することによってスイゼンジノリからサクランを抽出できる。
また、他の一例としては、スイゼンジノリの水分散液をオートクレーブ中において135℃で30分間加熱することによってスイゼンジノリからサクランを抽出できる。
抽出されたサクランは、遠心分離、ろ過、アルコール洗浄などによって精製してもよい。また、スイゼンジノリからサクランを抽出する前に、スイゼンジノリを凍結した後、融解させ、その後に色素を除去する工程を行ってもよい。
このように、サクランは、酸性多糖類であり、アルカリ溶液を用いることでスイゼンジノリから抽出できる。スイゼンジノリから抽出されるサクランは、例えば、グリーンサイエンス・マテリアル(株)から入手することができる。
【0043】
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体は、スイゼンジノリから常法に従って抽出されるものであれば特に制限がなく、後述の低分子化の処理を施さない場合、好ましくは平均分子量が500万以上、より好ましくは平均分子量が1000万以上、さらに好ましくは、サクランのような平均分子量が2000万以上の硫酸化多糖類である。
【0044】
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体として、サクランのような超高分子多糖体を低分子量化したもの(以下、単に「多糖体低分子化物」ということがある)を用いることができる。
本発明に用いる多糖体低分子化物とは、均一な多糖体から構成されてもよく、また種々の多糖体の混合物から構成されてもよいが、通常は、天然のサクランから調製されるので種々の多糖体の混合物からなる。
サクランを低分子量化する方法としては、例えば、酸性条件化で加熱処理することによる酸加水分解等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、サクランの低分子量化物(多糖体低分子化物)は、任意の方法にて、例えばこれに限定されないがゲル濾過クロマトグラフィーを用いて、特定の分子量のものを分画して用いることもできる。
【0045】
本発明に用いる多糖体低分子化物は、スイゼンジノリ由来のサクランなどの超高分子多糖体に低分子化処理をして得ることができる多糖体であって、重量平均分子量が、約1万以上、好ましくは約2万以上、より好ましくは約5万以上の硫酸化糖を含む多糖体、またはそれと同等の構造を持つ多糖体、さらには、多糖体から常法により得られる各種誘導化物(例えば、多糖体の塩誘導体)である。ここでいう重量平均分子量は、常法により測定することができ、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0046】
本発明に用いる多糖体低分子化物の重量平均分子量が、例えば、約1万以上とは、用いる多糖体低分子化物を任意の重量分子量を測定する方法(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)で測定した場合に、その分布から求められる(重量)平均分子量が、約1万以上であるスイゼンジノリ由来の多糖体の混合物であればよく、それら全ての多糖体を含む意味で用いられる。
【0047】
本発明の多糖体低分子化物は、重量平均分子量の他、平均糖数でも表すことができる(かかる場合は、単糖の重量平均分子量を約180と推定することができる)。
すなわち、本発明の多糖体低分子化物は、上記サクランから得ることができる多糖体であって、平均糖数のが、約50以上、好ましくは約100以上、より好ましくは約250以上の硫酸化糖を含む多糖体、またはそれと同等の構造を持つ多糖体、さらには、多糖体から常法により得られる各種誘導化物(例えば、多糖体の塩誘導体)である。
ここでいう平均糖数とは、糖誘導体の大きさを、それを構成する糖の数に換算して表したものである。例えば、平均糖数が10の糖誘導体から構成される、本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体であるサクランから得られる多糖体の誘導物(サクラン誘導物)とは、約10~約10の間の糖数を有する糖誘導体の集合体(10オーダーの糖数(つまり、糖数万~十万)の誘導体を中心にして分布する)からなるサクラン誘導物を意味し、平均糖数が10の糖誘導体から構成されるサクラン誘導物とは、約10~約10の間の糖数を有する糖誘導体の集合体(10オーダーの糖数(つまり、糖数千~万)の誘導体を中心にして分布する)からなるサクラン誘導物を意味し、平均糖数が10の糖誘導体から構成されるサクラン誘導物とは、約10~約10の間の糖数を有する糖誘導体の集合体(10オーダーの糖数(つまり、糖数百~千)の誘導体を中心にして分布する)からなるサクラン誘導物を意味する。
【0048】
上記の同等の糖構造を有する多糖体とは、一例としては、糖構造体として硫酸化ムラミン酸を含み、かつ、少なくとも下記式:
【0049】
【化2】
(ここで、R、R’は糖を示し、式中の任意の-OHは、-OSOまたは-OCHに置換されてもよい。)に示す配列を持つ3糖構造と、下記(1)~(6)で表される2糖構造:
(1)ヘキソースと、キシロースまたはアラビノースであるペントースとの2糖構造、
(2)ヘキソースと、フコースまたはラムノースであるデオキシヘキソースとの2糖構造、
(3)ペントースとペントースとの2糖構造、
(4)ペントースとデオキシヘキソースとの2糖構造、
(5)ヘキソサミンとヘキソサミンとの2糖構造、および
(6)グルクロン酸またはガラクツロン酸であるウロン酸と、デオキシヘキソースとの2糖構造、
の少なくとも1つ以上、または全てを含む糖誘導体である。
【0050】
所望の重量平均分子量を有する多糖体低分子化物は、例えば、サクランから公知の方法を組み合わせて得ることができる。
例えば、酸性条件下で加熱処理して酸加水分解することにより得ることができる。あるいは、公知の糖鎖の切断方法、例えば酵素を用いて糖鎖をランダムに切断し、所望の重量平均分子量を有する糖誘導体の混合物を分子量に基づいて単離できる。
サクランの糖鎖を切断可能な酵素としては、例えば、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、α-ガラクトシダーゼA、β-グルコシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ、α-フコシダーゼ、α-マンノシダーゼ、β-マンノシダーゼ、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、α-ノイラミニダーゼ、α-1,4-グルコシダーゼを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
所望の重量平均分子量を有する多糖体低分子化物を調製するに際し、切断された糖鎖末端は、任意に修飾することも可能である。修飾に用いることができる官能基としては、カルボキシ基、アミノ基、硫酸基、などをあげることができるが、これらに限定されるものではない。これらの切断糖鎖が修飾または置換された誘導物も本発明に用いる多糖体低分子化物に含まれる。
また、所望の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ由来の多糖体低分子化物を調製するに際し、サクランを構成する糖の水酸基または水素基、あるいは糖に結合しているカルボキシ基、アミノ基その他の基を置換または修飾することも可能であり、これらの修飾または置換された誘導物も本発明に用いる多糖体低分子化物に含まれる。
【0052】
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体は、薬理学的に許容できる塩の形で用いることもできる。薬理学的に許容できる塩としては、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択をすることができ、例えば、塩酸塩、硫酸塩などの無機塩、クエン酸などの有機酸塩などを挙げることができる。
【0053】
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体であって、サクランなどの超高分子多糖体は、日本固有の食用藍藻であるスイゼンジノリから抽出されるものであるため、食経験があり、その安全性が高い。
また、水溶性であるため、不溶性物質と比較してその加工性および取り扱い性において優れている。
【0054】
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体であって、上記の多糖体低分子化物はサクラン等から製造されるものであるため、安全性が高い。
また、この多糖体低分子化物は、サクランと同様に熱に対して安定であり、オートクレーブ滅菌処理を行うことも可能であり、加工性および取扱い性において優れている。
後に詳述する通り、スイゼンジノリ由来多糖体の作用の1つは、経口摂取された後に消化・吸収されずに、消化管内に存在する物質と相互作用することによるものであると考えられる。
よって、重量平均分子量が約1万以上である多糖体低分子化物もまた、経口摂取された後に消化・吸収されずに、サクランと同様に作用するため、本発明のスイゼンジノリ由来多糖体として用いることができる。
【0055】
(腎臓病の概要)
慢性腎臓病(CKD)は、尿検査、画像診断、血液検査、病理検査などによる腎障害の存在の有無と、糸球体濾過率(GFR(ml/分/1.73m))を用いて診断されるが、日常的には、血中クレアチニン(Cr)濃度と年齢と性別とから、日本人のGFR推算式を用いて算出した推算GFR(eGFR)を用いて評価されている。
また、腎不全は、腎臓機能が正常時の約30%以下まで低下した状態であって、これには、急激に腎機能が低下した状態の急性腎不全と、長年にわたって徐々に腎機能が低下していく状態の慢性腎不全とがある。
【0056】
現在、CKDは、以下の5つのステージに分類されている。
CKDのステージ1は、腎障害はみられるが、GFR値が正常の状態(GFR≧90)である。このステージでは、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、肥満、喫煙などの危険因子を減らすための健康管理や、エネルギー制限や塩分制限などを行う食事療法が有効な治療法であるとされている。
【0057】
CKDのステージ2は、軽度の腎機能低下がみられるが、自覚症状はほとんどなく、GFR値が軽度に低下している状態(GFR=60~89)である。
このステージでは腎機能の回復が見込めるため、健康管理、タンパク質制限を追加した食事療法を行い、必要に応じて薬物療法を開始することが、有効な治療法であるとされている。
【0058】
CKDのステージ3は、腎機能が正常時の半分近くに低下しており、むくみや疲れやすいなどの自覚症状が現れ始める、GFR値が中等度に低下している状態(GFR=30~59)である。
このステージでは、原因疾患の治療、カリウム制限を追加した食事療法、生活習慣の改善、薬物療法を積極的に行うことが、有効な治療法であるとされている。
【0059】
CKDのステージ4は、腎機能が正常時の約30%以下に低下しており、尿量の減少、高血圧、貧血、尿毒症などの様々な症状が現れる、GFR値が高度に低下している状態(GFR=15~29)であり、慢性腎不全の状態である。
慢性腎不全は、慢性に進行する各種腎疾患によって不可逆的に腎機能が低下していく状態であって、体液の恒常性が維持できなくなり、高血圧、貧血、骨代謝異常などの種々の合併症を発症している状態でもある。
慢性腎不全を引き起こす主な疾患(原因疾患)としては、糖尿病性腎症、慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)、腎硬化症などが挙げられる。
このステージでは、尿毒症の出現や、脳血管疾患、心血管疾患(CVD)の合併症に注意しながら、ステージ3よりも厳格に、食事療法、薬物療法、生活習慣の改善を行うことにより、残存する腎機能を維持し、透析の開始を遅らせることを目標とする。
また、人工透析患者の死亡原因の第1位が心不全、心筋梗塞といった、CVDであることには、腎臓病が酸化ストレス疾患でもあることが関連している。
よって、慢性腎不全患者に対しては、CVDのリスク管理が重要である。具体的には、病状の進行抑制に加えて、特に血管内皮の肥厚などの種々の血管傷害を抑制することに重点が置かれている。
【0060】
CKDのステージ5は、腎機能が著しく低下しており、透析療法を必要とする状態(GFR<15)であり、末期腎不全の状態である。
末期腎不全は、透析療法によって腎機能を代替するか、腎臓移植をしなければ、生命にかかわる危険な状態である。
透析療法の開始時期は、血中クレアチニン濃度、体液貯留などの臨床症状、日常生活が著しく制限されるなどの日常生活障害度から、総合的に判断される。
【0061】
急性腎不全は、急激な腎機能の低下の結果、血中クレアチニン濃度の高値(例えば1日に0.5mg/dL以上の上昇)、体液中の水分、電解質濃度の異常などが起こり、体液のバランスが維持できなくなった状態である。
急性腎不全は、通常、透析療法を必要とし、状態によっては治癒する可能性があるが、重症の場合には腎機能が回復せず、透析療法を継続しなければならなくなる。
【0062】
(腎臓病の進行抑制剤、予防剤、および治療剤)
本発明の腎臓病の進行抑制剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
代表的な腎機能障害の指標として、血中クレアチニン(Cr)濃度と血中尿素窒素(BUN)濃度がある。
Crは、アミノ酸の1種であるクレアチンが筋肉を動かすエネルギーとして使用された後に生じるクレアチンの代謝産物(老廃物)である。Crは、ほとんど再吸収されることなく、腎臓のみから排泄される。よって、Crは、腎機能が低下すると排泄されずに体内に蓄積し、その血中濃度は高値を示す。
BUNは、タンパク質が体内でエネルギーとして使用された後に生じる最終代謝産物(老廃物)であり、尿素のことである。BUNは、腎機能が低下すると排泄されずに体内に蓄積し、その血中濃度は高値を示す。
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、進行性の慢性腎不全モデルラットを用いた実験において、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、摂取しなかった場合と比較して、血中Cr濃度と血中BUN濃度が低値を示すことが明らかになった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎臓病の進行抑制剤として、新規な用途に用いることができる。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎機能の回復が見込める段階において摂取することにより、腎臓病の予防剤または治療剤として、新規な用途に用いることができる。
本発明の効果は、その作用機序の全てが明らかになっているわけではないが、後述するスイゼンジノリ由来多糖体を含有する種々の剤と同様の作用・効果が相まって、相乗的に得られる効果であると考えられる。
【0063】
(腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤)
本発明の腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
腎臓は、塩分と水分の排出をコントロールすることによって、血圧をコントロールしている。よって、腎機能が低下すると、体内の水分を尿として排出できなくなり、血圧が上昇する。
また、腎臓内の血管の狭窄等によって血流量が減少すると、レニンが過剰に分泌され、レニン-アンジオテンシン系を介して、さらに血圧が上昇する。
さらに、腎臓病は酸化ストレス疾患でもあり、酸化ストレスによって、血管傷害のほか、血管の狭窄が引き起こされる。また、心血管障害を介さず、酸化ストレス自体が、血圧を上昇する原因となっている。
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、進行性の慢性腎不全モデルラットを用いた実験において、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、摂取しなかった場合と比較して、血圧の上昇を抑制できることが明らかになった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤として、新規な用途に用いることができる。
本発明の効果は、その作用機序の全てが明らかになっているわけではないが、後述するスイゼンジノリ由来多糖体を含有する種々の剤と同様の作用・効果が相まって、相乗的に得られる効果であると考えられる。
【0064】
(血中インドキシル硫酸低下剤)
1つの実施形態において、本発明は、血中インドキシル硫酸低下剤に関する。
本発明の血中インドキシル硫酸低下剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、食餌中に含まれるタンパク質の代謝産物である。その産生経路は、まずタンパク質の消化によって生じるトリプトファンが、大腸菌等の腸内の有害細菌によって分解されることにより、前駆体であるインドールが産生される。次いで、このインドールが消化管から吸収された後に、肝臓で代謝され、さらに硫酸抱合を受けてインドキシル硫酸が産生され、これが血中へ放出される。
【0065】
インドキシル硫酸は、腎臓に限らず、全身の血液中で酸化ストレスを惹起する。
インドキシル硫酸は、酸化ストレスを亢進することにより、血管平滑筋細胞増殖や大動脈石灰化、血管内皮細胞障害、心筋細胞の肥大化などの心血管疾患(CVD)、さらに骨代謝異常とも関連していることが知られている。
よって、血中内へのインドキシル硫酸の放出を抑制することにより、CVDの発症リスクを低減することができる。
【0066】
インドキシル硫酸は、腎機能が正常であれば、尿中へ排出されるが、腎機能の低下によって、大部分がアルブミンと結合した形で血中に高濃度で蓄積されてゆく。
また、インドキシル硫酸は、活性酸素種(ROS)の誘導、ラジカルスカベンジャーの減少を引き起こし、腎臓組織の線維化、糸球体硬化をもたらし、腎臓細胞の老化を促進し、腎臓細胞の増殖を抑制することにより、腎臓病の進行を促進する。
上記のようにして、インドキシル硫酸は、腎臓に障害を与え、ろ過機能を低下させる。インドキシル硫酸による腎臓のろ過機能の低下により、血中インドキシル硫酸濃度はさらに上昇し、腎機能をさらに低下させるという悪循環に陥る。
【0067】
発生した活性酸素種(ROS)に対して、ビタミンCやビタミンEのような抗酸化剤、グルタチオン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)類似物質を用いる抗酸化治療は、ROSを消去できたとしても、その発生量を減らすことはできないため、必ずしも効率的な治療であるとはいえない。
よって、ROSによりもたらされる疾患の進行抑制、予防、および治療には、ROSの発生原因を除去し、その発生量を減少させることが、より望ましい。
したがって、CVDや腎臓病などに対して、その進行を抑制、予防、および治療するために、血中インドキシル硫酸濃度を低下させることが効果的である。
また、血中インドキシル硫酸濃度は、腎機能の指標である血中クレアチニン濃度および血中尿素窒素濃度と相関することが知られており、血中インドキシル硫酸濃度の低下は、腎障害や腎機能の低下を顕著に改善すると考えられている。
【0068】
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、進行性の慢性腎不全モデルラットを用いた実験において、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、摂取しなかった場合と比較して、血中インドキシル硫酸濃度が低値を示すことが明らかとなった。
また、本発明者らにより、スイゼンジノリ由来多糖体が、消化管内インドキシル硫酸の前駆体であるインドールを吸着して、糞便として排泄されることが明らかとなった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、特定の疾患に限定されずに作用し、血中インドキシル硫酸低下剤として、新規な用途に用いることができる。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は、尿毒症物質であるインドキシル硫酸の血中濃度を低下させるため、慢性腎不全患者において特徴的にみられる合併症の1つである尿毒症の予防または治療剤として、新規な用途に用いることができる。
インドキシル硫酸は、透析療法によっても除去することが困難である。
よって、本発明の血中インドキシル硫酸低下剤は、末期腎不全患者において、特に有用である。
【0069】
腎臓病は、酸化ストレス疾患でもある。
慢性腎臓病患者のみならず、急性腎不全患者において、インドキシル硫酸濃度は急激に上昇することがあり、インドキシル硫酸の血管傷害作用によって、心血管疾患(CVD)が引き起こされ、死亡するケースもみられる。
また、血中インドキシル硫酸濃度は、慢性腎臓病におけるステージ1や腎障害が存在しない健常人においても高値を示すことがある。さらに、スイゼンジノリ由来多糖体は、血中クレアチニン濃度と血中尿素窒素濃度の上昇を抑制する。
よって、本発明の血中インドキシル硫酸低下剤は、腎臓病の進行抑制だけでなく、腎臓病の予防および治療において、特に有用である。
【0070】
血中インドキシル硫酸濃度が低下することにより、活性酸素種(ROS)の発生やラジカルスカベンジャーの減少が抑制されて、全身の血中の酸化ストレスが軽減され、全身の血管傷害も減少する。
よって、本発明の血中インドキシル硫酸低下剤は、CVDの進行抑制、予防、および治療において、有用である。
【0071】
(インドール吸着剤)
1つの実施形態において、本発明は、インドール吸着剤に関する。
本発明のインドール吸着剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、スイゼンジノリ由来多糖体が、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールを直接的に吸着することが明らかとなった。
スイゼンジノリ由来多糖体は、難消化性の高分子多糖体であるため、経口摂取された後、消化管内で、消化・吸収されることなく、インドールを吸着して、そのまま糞便として排泄される。
すなわち、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールの消化管吸収量を減少させることにより、肝臓内でのインドキシル硫酸の産生量が減少し、血中へ放出されるインドキシル硫酸の量も減少させることができる。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、インドール吸着剤として、新規な用途に用いることができる。
また、インドールとインドキシル硫酸はその構造が類似していることから、スイゼンジノリ由来多糖体は、腸肝循環により、消化管内に分泌されるインドキシル硫酸も吸着し、糞便中に排泄する作用も有していると考えられる。
以上のことから、本発明の血中インドキシル硫酸低下剤の作用の1つは、特定の疾患に限定されず、スイゼンジノリ由来多糖体が、消化管内においてインドールを吸着して、体外に排出されることであると考えられる。
よって、本発明のインドール吸着剤は、本発明の血中インドキシル硫酸低下剤の利点を共有し、極めて有用である。
【0072】
(血中抗酸化剤)
1つの実施形態において、本発明は、血中抗酸化剤に関する。
本発明の血中抗酸化剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、摂取しなかった場合と比較して、血中の抗酸化能が高値を示し、血中の酸化ストレスを低減していることが明らかとなった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、血中抗酸化剤として、新規な用途に用いることができる。
また、この効果における作用の1つは、スイゼンジノリ由来多糖体が、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールを直接的に吸着して排出されることにより、血中インドキシル硫酸濃度が低値となることであると考えらえる。
血中インドキシル硫酸濃度の上昇により惹起される酸化ストレスは、血管平滑筋細胞の肥大や増殖、細胞間物質の遊走や調節に関わっており、動脈硬化症、血管再狭窄を引き起こす要因の1つと位置付けられている。
よって、本発明の血中抗酸化剤は、酸化ストレスが原因となって引き起こされる心血管疾患(CVD)などの様々な疾患の予防および治療において、有用である。
【0073】
スイゼンジノリ由来多糖体は、血中クレアチニン濃度と血中尿素窒素濃度の上昇を抑制する。
また、腎臓病は、酸化ストレス疾患でもある。血中の酸化ストレスが増大すると、心血管疾患(CVD)の発症リスクが高まり、腎臓病の進行を促す要因となる。
よって、本発明の血中抗酸化剤は、血中の酸化ストレス状態を軽減でき、腎臓病の進行の抑制、予防、および治療において、特に有用である。
【0074】
(血中リン低下剤)
1つの実施形態において、本発明は、血中リン低下剤に関する。
本発明の血中リン低下剤は、スイゼンジノリ由来多糖体またはその薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
血中リンとは、リン酸塩などの無機塩として血液中に存在する無機リンをいう。
後に詳述する実施例に記載の通り、本発明者らにより、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、摂取しなかった場合と比較して、血中リン濃度が低値を示すことが明らかとなった。また、このとき、スイゼンジノリ由来多糖体の投与前と比較して、血中リン濃度が低下しており、正常値への回復傾向を示していた。このことから、スイゼンジノリ由来多糖体の作用の1つは、消化管における無機リンの吸着であると考えられる。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、特定の疾患に限定されず、血中リン低下剤として、新規な用途に用いることができる。
本発明の血中リン低下剤は、高リン血症を予防および治療するために利用できる。
【0075】
腎機能が低下すると、不要なリンを尿中に排泄できなくなるため、血中のリン濃度が上昇する。血中リン濃度の上昇により、副甲状腺ホルモンの産生・分泌が刺激され、骨からカルシウムが溶け出す。
また、血中のリンとカルシウムとが結合し、血中カルシウム濃度が低下する。
リンとカルシウムが結合すると、血管の内壁などの組織でこれらが結晶を形成して石灰化する。これにより、重度の動脈硬化が発生し、脳卒中、心臓発作、循環障害を引き起こす。また、結晶は皮膚でも形成され、激しいかゆみを生じさせる。
さらに、腎臓は、骨にカルシウムを沈着させるために必要なビタミンDを活性型ビタミンDに変換している。活性型ビタミンDは小腸からのカルシウムの吸収を促進してカルシウムの利用を高めている。
よって、腎機能が低下すると、カルシウムの吸収量が低下し、血中カルシウム濃度が低下する。さらに、血中の不足したカルシウムを補うために、副甲状腺ホルモンが分泌され、骨からカルシウムが溶け出して、骨軟化症や骨粗鬆症を引き起こす。
これらの作用が協調することにより、骨軟化症や骨粗鬆症を引き起こしやすくなる。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は、血中クレアチニン濃度と血中尿素窒素濃度を低値とする作用を有する。
よって、本発明の血中リン低下剤は、腎臓病の進行の抑制、予防、および治療の用途において、特に有用である。
リンは、透析療法によっても除去することが困難である。
よって、本発明の血中リン低下剤は、末期腎不全患者において、特に有用である。
【0076】
上記の通り、本発明は、腎臓病の進行抑制剤、予防剤、および治療剤、腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤、血中インドキシル硫酸低下剤、インドール吸着剤、血中抗酸化剤、ならびに血中リン低下剤(以下、これらの1つ以上、または全てを指して、単に「本発明の剤」ということがある)に関する。
【0077】
本発明の剤は、液状、半固形状、固形状のような任意の形態で、経口摂取用の剤として提供することができる。
また、本発明の剤は、市販のサクランのようにサクランスイゼンジノリ由来多糖体のみで、あるいはスイゼンジノリ由来多糖体と、食品もしくは医薬品などの製品に用いられる他の素材もしくは添加物とを組み合わせた組成物として提供することができる。
【0078】
本発明の剤は、サプリメント、特定の用途に用いられる食品用の添加剤、医薬品もしくはその原材料などとして用いられる。
また、本発明の剤をそのまま、食品用の添加物、医薬品用の添加物などの製品とすることができる。
また、本発明の剤は、本発明の剤の用途が適用され得るヒト以外の動物にも用いることができる。
【0079】
本発明の剤が特徴的に含有するスイゼンジノリ由来多糖体は、日本固有の食用藍藻であるスイゼンジノリから抽出されるものであるため、食経験があり、その安全性が高い。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は水溶性であるため、従来の不溶性物質に比べて、加工性および取り扱い性において、優れている。
さらに、本発明の剤は、様々な作用・効果を有しており、種々の疾患の予防および治療において、特定の用途に用いることができ、特に腎臓病に対して、極めて有用性が高い。
また、本発明の剤は、種々の疾患の進行抑制、予防および治療において、新たな選択肢となるものである。
【0080】
(本発明の剤を含む食品)
本発明の食品は、本発明の剤のいずれか1つを含有することを特徴とし、その剤の用途に用いられる。
また、本発明の食品は、本発明の剤と他の食品素材や添加物などとを組み合わせた食品組成物として、当業者に公知の食品の製造方法により製造することができる。
【0081】
本発明の食品は、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物などの、経口摂取が可能な任意の形態とすることができる。
また、後述の本発明の医薬品と同様にして、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒などの剤形に成形することができる。
本発明の食品は、例えば、茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、栄養ドリンク、濃縮飲料、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープなど)などの飲料、飴、グミ、ガム、チョコレート、クッキー、ビスケットなどの菓子類、アイスクリームなどの冷菓、ヨーグルト、加工乳などの乳製品、シリアル、パン、ケーキミックスなどの小麦粉製品、そばなどの麺類、マヨネーズ、ホイップクリーム、ドレッシングなどの油脂加工品、水産加工品、畜産加工品、農産加工品として製造することができる。これらの食品の製造時に、本発明の剤を添加して含有させることにより、本発明の食品を製造することができる。
本発明の食品には、他の食品素材のほか、必要に応じて、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、ゲル化もしくは糊料、アスコルビン酸等の酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤もしくは防ばい剤、イーストフード、ガムベース、かんすい、苦味料、酵素、光沢剤、香料、酸味料、チューインガム軟化剤、調味料、豆腐用凝固剤、乳化剤、pH調整剤、膨脹剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類などの栄養強化剤、製造用剤などの添加物を添加することができる。
【0082】
本発明の食品において、本発明の剤と、腸内環境を整える乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などとを組み合わせることにより、大腸菌等の腸内の有害細菌の増殖を抑制し、有害細菌によるインドールの産生を抑制することができ、血中インドキシル硫酸濃度をより低下させることができる。
【0083】
また、本発明の食品は、保健機能食品(特定保健機能食品、機能性表示食品、栄養機能食品)、病者用、妊産婦用、授乳婦用、乳児用、えん下困難者用などの特別の用途に用いる特別用途食品、いわゆる健康食品、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食として製造することができる。
【0084】
本発明の食品は、各国の制度の下、本発明の剤の作用、効果、機能、もしくは用途を表示した食品として、提供することができる。
例えば、本発明の剤の作用等に基づいて、特定の機能性や特定の保健の用途として、「腎機能の低下を予防・改善する」、「腎不全を予防・改善する」「腎不全の進行を抑制する」、「むくみを軽減する」、「疲労感を軽減する」、「血圧が高めの方に」「インドキシル硫酸の産生量を低減する」、「体内の尿毒症物質を低減する」、「尿毒症を予防・改善する」、「消化管内で産生されるインドールを体外に排泄する」、「体内の酸化ストレスを低減する」、「高リン血症を予防・改善する」旨や、これに準じた表示をして提供することができる。
【0085】
本発明の食品における、本発明の剤の含有量は、スイゼンジノリ由来多糖体の量を指標として、食品の形態、摂取するヒトの年齢に応じて、適宜設定できる。
本発明の剤の効果を得るために必要な量のスイゼンジノリ由来多糖体を食品に配合することにより、本発明の食品を提供することができる。
【0086】
本発明の食品は、本発明の剤を含有することを特徴としているため、各種の本発明の剤の利点を共有し、極めて有用である。
また、食品であり、特定の疾患に罹患した患者だけでなく、健常人にも、安全かつ簡便に用いられる。
本発明の食品は、例えば、慢性腎臓病患者のみならず、腎機能の低下を予防したい人、腎障害を予防したい人、腎障害が気になる人にとって、将来的な不安を減らすための、新たな選択肢となり得る。
また、本発明の食品は、本発明の剤の用途が適用され得るヒト以外の動物にも用いることができる。
【0087】
(本発明の剤を含む医薬品)
本発明の医薬品は、本発明の剤のいずれか1つを含むことを特徴とし、その剤の用途に用いられる。
また、本発明の医薬品は、経口的に投与される内服薬(経口剤)である。
本発明の医薬品には、各国の制度の下、医薬品に準じた製品も含まれる。これには例えば、日本における医薬部外品が挙げられる。
【0088】
本発明の医薬品は、本発明の剤を有効成分として添加し、錠剤、軟カプセル、硬カプセルなどのカプセル剤、散剤、顆粒剤、ドロップ、丸剤などの固形製剤、ゼリー等の半固形製剤、シロップ剤、懸濁剤、内用液剤などの液状製剤の任意の剤形として製造することができる。
この場合、本発明の医薬品は、本発明の剤と経口剤の製造に通常用いられる他の添加物とを組み合わせた医薬組成物として、当業者に公知の医薬品の製造方法により製剤化することができる。
本発明の医薬品の製造に用いられる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、分散剤、流動化剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤などが挙げられる。
また、薬学的に許容される担体をさらに組み合わせることにより、本発明の剤の作用・効果をさらに高めた、本発明の医薬品を提供することができる。
【0089】
本発明の医薬品が、慢性腎臓病患者に投与される場合、慢性腎臓病の進行抑制、または治療のために用いることができる。
慢性腎臓病患者としては、CKDの1~5のいずれのステージの患者に対しても適用することができる。
例えば、腎機能の回復が見込めるステージの患者に適用することができる。
また、腎機能の回復の見込みがほとんどないステージ4の患者に対して適用することにより、尿毒症などの合併症の症状を改善し、透析導入を遅らせることができる。
透析療法を受けているステージ5の患者に適用することにより、尿毒症などの合併症の症状を改善するほか、透析でも除去できない血中のインドキシル硫酸やリンを低減させることができる。
本発明の医薬品は、慢性腎不全の原因である、糖尿病性腎症、慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)、腎硬化症などの疾患を罹患している患者やその予備軍に対しても適用することができ、慢性腎不全の予防剤として用いることができる。
【0090】
本発明の医薬品の用法・用量は、本発明の剤の有効成分であるスイゼンジノリ由来多糖体の量を指標として、これを適用する者の年齢、体重、性別や、対象疾患の種類に応じて、その疾患を予防、治療、症状を改善、または進行を遅らせる効果が期待できる範囲で、適宜設定できる。
本発明の医薬品を腎不全の治療に用いる場合には、投与対象者の食餌内容、体格、症状などを勘案して有効性を示す適切な量とするが、例えば、1日に摂取する用量を、0.5~5gで、好ましくは、1.0~3.0gで設定することができる。
摂取回数は、任意であり、1日1~数回で、適宜設定することができる。
本発明の医薬品の有効成分であるスイゼンジノリ由来多糖体の効果は、食餌中に含まれる物質、またはその消化後に消化管で産生される物質などと相互作用することにより得られる。
よって、食事の回数にあわせて服用することが好ましい。
また、食事と同時もしくは食直後に服用することにより、効果が減弱する場合には、例えば、食事の前後から30~60分の間隔をとって、あるいは食間に投与することが好ましい。
本発明者らにより、スイゼンジノリ由来多糖体は、インドールを吸着することが明らかになった。
よって、患者が服用している他の医薬品の有効成分を吸着してしまう場合には、その服用時点をずらすことが好ましい。例えば、その吸着してしまう医薬品の服用の前後から30~60分の間隔をとって、服用することが好ましい。
【0091】
従来の腎不全進行抑制剤である経口吸着炭の場合には、通常、1日当たり6g(200mgカプセルとして30カプセル剤、又は2g/包の顆粒製剤として3包)を3回に分割して服用する必要がある。この服用量は、通常の医薬品と比較してかなり多い服用量であり、顆粒製剤であったとしても口腔内でジャリジャリ感があって服用ストレスがかかり、患者の負担が大きかった。
これに対して、本発明の医薬品の有効成分であるスイゼンジノリ由来多糖体は、従来の経口吸着炭よりも低用量の服用で効果が期待できるため、患者のQOLを上昇することができる。
また、本発明の医薬品の有効成分であるスイゼンジノリ由来多糖体は、水溶性であるため、経口吸着炭と比べて服用しやすい液剤とすることが可能である。
さらに、液剤の場合にも懸濁剤やコロイド溶液のような分散液ではなく、溶解液とすることができる。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は、水溶性の高分子多糖体であるため、製剤化における加工性および取り扱い性に優れている。
例えば、不溶性物質を成形する手段の1つであり、服用数量がかさばるカプセル剤を選択する必然性がない。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は、水溶性であるため、スイゼンジノリ由来多糖体の抽出物をそのまま、あるいは賦形剤として少量のデキストリンを添加して、噴霧乾燥することにより散剤とすることができる。スイゼンジノリ由来多糖体の水溶液の濃度を調整し、噴霧乾燥の条件を適宜設定することにより、所望の粒度の散剤を得ることもできる。
さらに、スイゼンジノリ由来多糖体は、水溶性の高分子多糖体であるため、結合性に優れ、結合剤などの添加物の量を減量して、錠剤等の剤形に成形することができる。
また、スイゼンジノリ由来多糖体は水溶性であるため、散剤や顆粒剤に成形した場合にも、口内で溶け、異物感を感じることなく、簡便に服用することができる。
よって、本発明の医薬品は、従来から用いられてきた経口吸着炭と比較して、服用患者の負担が軽減され、長期にわたって摂取しやすいものであり、患者のQOLを上げる新たな選択肢として、極めて有望である。
また、本発明の医薬品は、本発明の剤のいずれか1つを含むことを特徴としているため、その剤の利点を共有し、極めて有用である。
【0092】
本発明者らは、スイゼンジノリ由来多糖体を経口摂取することにより、腎機能が低下した生体において、腎機能障害の指標となる種々の物質の血中濃度を改善できること、およびこの多糖体がインドキシル硫酸の前駆体であるインドールを直接的に吸着することを見出して、本発明を完成させた。
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体は、平均分子量が1万以上であり、難消化性でもあることから、経口摂取された後に、消化・吸収されることはほとんどない。
よって、本発明の効果は、スイゼンジノリ由来多糖体と、食餌中に含まれる物質、消化後に産生される物質、消化後に発生する物質、血中から消化管に分泌される物質との相互作用によるものである。
本発明において有用な相互作用の1つは、本発明に用いる多糖体が、腸内の有害細菌が産生するインドールを吸着して、そのまま糞便として体外に排出されることである。これにより、肝臓内でのインドキシル硫酸の産生量および血中への放出量が低減され、尿毒症症状や血管傷害などを低減することができる。
インドキシル硫酸は、様々な疾患を引き起こす酸化ストレスを惹起する原因となっている。よって、その原因物質の発生を低減することができるスイゼンジノリ由来多糖体を特徴的に含有する本発明の剤、食品、および医薬品は、極めて有用性が高い。
また、腎機能低下時に発症する合併症の症状を改善する本発明の剤、食品、および医薬品は、腎臓病に対して特に有用性が高い。
【実施例
【0093】
<実施例1>
(慢性腎不全モデルラットにおけるスイゼンジノリ由来多糖体の効果)
1.試験動物
日本エスエルシー(株)で作成された7週齢の5/6腎臓摘出ラットを使用した。8日間の馴化期間中、一般状態の観察と体重測定を行い、8週齢で実験に用いた。
試験動物は、温度23±2℃、相対湿度55±10%、換気回数12~18回/時間、照射時間12時間(7:00~19:00)に調整されたゲージ内にて飼育し、飼料は放射滅菌した市販の高タンパク粉末飼料を自由摂取させた。
8週齢で血中クレアチニン濃度が0.6mg/dL以上を示した個体を慢性腎不全のモデルとして実験に用いた。
【0094】
2.試験方法
慢性腎不全モデルラットを、以下の3群に分けて、4週間飼育した。
(1)サクラン(Sacran)投与群
スイゼンジノリ由来多糖体として、市販のサクラン(グリーンサイエンス・マテリアル(株))を用いた。超純水にサクランを加え、24時間加温(80℃)溶解し、2%サクラン水溶液を調製したものを、ゾンデにより1mL/個体で1日1回連日、経口投与した。
なお、飼料は、市販の高タンパク粉末飼料を自由摂取させた。
(2)サクラン(Sacran)非投与群(対照群)
市販の高タンパク粉末飼料を自由摂取させた。
(3)AST-120投与群
経口吸着炭であるAST-120(商品名:クレメジン((株)クレハ))を市販の高タンパク粉末飼料に5%含有させたものを自由摂取させた。
【0095】
3.評価
一般状態および生死の確認を1日1回以上、体重測定を週1回および剖検日に行なった。また、群分け2日前、被験物質の投与開始から2週間後、4週間後の3回、尾静脈より採血し、血中のクレアチニン(Cr)、尿素窒素(BUN)、インドキシル硫酸(IS)、リン(P)濃度、および血中の抗酸化能(PAO)を測定した。また、同じタイミングで、尾(しっぽ)の血圧を測定して平均血圧(MBP)を算出した。
なお、PAOは、抗酸化能測定キット「PAO」(日研ザイル株式会社)を使用して測定した。
また、投与1か月後に全例を剖検し、各器官および組織の肉眼的異常の有無を観察した。
【0096】
4.結果
各測定項目について、サクラン投与群と非投与群(対照群)との間で、スチューデントのt検定(Student’s t-test)により、統計学的処理を行った。
被験物質の投与開始から4週間後の血液検査等の結果を図1図6に示す。
なお、図中のN数は各群における動物の個体数である。
【0097】
血中クレアチニン(Cr)濃度および血中尿素窒素(BUN)濃度の結果を、それぞれ図1および図2に示す。
図1~2に示される通り、対照群と比較して、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranを投与した群では、血中Cr濃度および血中BUN濃度が有意に低値を示した。また、Sacran投与群のこれらの数値は、AST-120投与群よりも低い値であった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎機能障害の指標である血中Cr濃度と血中BUN濃度の上昇を抑制できることから、腎不全の進行抑制剤として有用である。
【0098】
血中インドキシル硫酸(IS)濃度を測定した結果を、図3に示す。
図3に示される通り、対照群と比較して、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranを投与した群では、血中ISの濃度が有意に低値を示した。また、Sacran投与群の数値は、AST-120投与群よりも低い値であった。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、血中Cr濃度と血中BUN濃度の上昇を抑制し、尿毒症物質であり、血中の酸化ストレスを惹起する原因物質でもあるISの血中濃度の上昇を抑制できることから、腎不全の進行抑制剤として極めて有用である。
また、下記の実施例3から理解できるように、スイゼンジノリ由来多糖体は、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールを消化管内で吸着し、糞便として排出される。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、特定の疾患に限定されずに消化管内で作用することから、腎臓病の進行抑制剤、予防剤、もしくは治療剤、血中インドキシル硫酸低下剤、酸化ストレスが原因となって引き起こされる各種疾患の予防剤もしくは治療剤として有用である。
【0099】
血中の抗酸化能(PAO(potential anti oxidant))を測定した結果を、図4に示す。
図4に示される通り、対照群と比較して、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranを投与した群では、血中抗酸化能が有意に高値を示した。なお、Sacran投与群の血中抗酸化能は、AST-120とほぼ同等であった。
血中の酸化ストレス状態を低減できた理由の1つは、スイゼンジノリ由来多糖体が特定の疾患に限定されずに消化管内で作用し、血中で活性酸素種(ROS)を誘導してラジカルスカベンジャーを減少させる原因物質であるインドキシル硫酸の血中濃度を低減したことなどによると考えられた。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、血中の酸化ストレスを低減する、血中抗酸化剤として有用である。
本発明の血中抗酸化剤は、腎臓病、心血管疾患などの酸化ストレスが原因となって引き起こされる各種疾患の進行抑制、予防、および治療のために用いることができる。
【0100】
血中リン(P)濃度を測定した結果を図5に示す。
図5に示される通り、対照群と比較して、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranを投与した群では、血中P濃度が有意に低値を示した。また、Sacran投与群の数値は、AST-120投与群よりも低い値であった。
また、Sacran投与群の血中P濃度は、群分けの2日前には、7mg/dLであったのに対して、4週間後には約6mg/dLになっており、回復傾向を示していた。
本モデルのラットは、腎機能の回復能を有していない。よって、腎臓のリン排泄機能が回復しないことを考慮すると、血中P濃度の回復傾向は、Pの消化管吸収量の低減が関与していると考えられた。すなわち、この効果は、スイゼンジノリ由来多糖体が消化管内で無機リンを吸着していることによると考えられた。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、特定の疾患に限定されずに消化管内で作用し、血中リン低下剤として有用である。
【0101】
平均血圧(MBP)の結果を、図6に示す。
図6に示される通り、対照群と比較して、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranを投与した群では、平均血圧が低かった。
平均血圧の上昇が抑制された理由は、腎不全の進行が抑制されたほか、血中の酸化ストレスが低減されたことによると考えられた。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎臓病患者用の血圧上昇抑制剤として有用である。
【0102】
スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranの投与開始1ヶ月後の剖検により、各器官ならびに組織の肉眼的異常の有無を確認した結果、対照群と比較して、Sacran投与群では、腎臓組織の異常の亢進が有意に抑制されていた。これは、Sacranが血中の酸化ストレスを低減したことによると考えられた。
【0103】
<実施例2>
(腎不全の進行抑制効果)
実施例1と同様にして、8週齢から対照群とスイゼンジノリ由来多糖体であるSacran投与群とを飼育し、Sacran投与開始前、2週後、および4週後に、採血して血中クレアチニン(Cr)濃度を測定し、その逆数(1/Cr)の経時変化により、腎不全の進行状況を評価した。
結果を図7に示す。
【0104】
図7に示される通り、対照群に対して、Sacran投与群では、腎不全の進行の指標である1/Crの傾斜が緩やかであった。
この結果は、スイゼンジノリ由来多糖体により、腎不全の進行が抑制できたことを示す。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎不全の進行抑制剤として、有用であることが再確認された。
【0105】
<実施例3>
(インドール吸着試験)
1.検量線の作成
10mgのインドールを1mLのメタノールに溶解し、超純水で20mLまでメスアップした後に10倍希釈して、インドール液1を調製した。次いで、インドール液1を7段階で2倍希釈した溶液について、以下のHPLC条件で吸光度を測定し、検量線を作成した。
<HPLC条件>
カラム:Hibar RT 250-4.0 LiChrosorb RP-18(7μm)(関東化学)
移動相:HO/CHCN=60/40
流速:1.0mL/min
温度:40℃
測定波長:UV270nm
サンプル注入量:20μL
【0106】
2.吸着試験
1mLのインドール液1を入れたマイクロチューブに、0.005%、0.05%、0.1%、0.5%のサクラン水溶液と、0.5%キトサン(商品名:キトサミン(登録商標))、ならびにAST-120(5mg/mL)をそれぞれ1mL添加し、一度攪拌した後、振とう機(東京理化器社製)を用いて、120rpm、室温で24時間振とうした。続いて、検量線を作成したときと同じ条件により、被験物質に吸着せずに遊離しているインドールの量を測定し、インドール吸着率を算出した。
吸着率の結果を図8に示す。
【0107】
図8に示される通り、in vitroの実験において、スイゼンジノリ由来多糖体であるSacranは、直接的にインドールを吸着していた。また、AST-120の代替物として提案されているキトサンと同じ濃度で比較した場合、Sacranによるインドール吸着率の方が高かった。
この結果は、平均分子量が大きく、難消化性のスイゼンジノリ由来多糖体が、消化管内でインドールを吸着することを示す。
よって、スイゼンジノリ由来多糖体による、血中インドキシル硫酸濃度低下における作用の1つは、特定の疾患に限定されず、スイゼンジノリ由来多糖体が、消化管内でインドキシル硫酸の前駆体であるインドールを吸着して、糞便として排出されることである。
すなわち、スイゼンジノリ由来多糖体は、インドール吸着剤として有用である。
【0108】
以上の結果から、スイゼンジノリ由来多糖体は、経口摂取することにより、種々の効果が得られるため、それぞれの効果に応じて新規な用途に利用することができる。
本発明に用いるスイゼンジノリ由来多糖体は、重量平均分子量が約1万以上であり、難消化性でもあることから、経口摂取された後に、消化・吸収されることはほとんどない。
よって、本発明におけるスイゼンジノリ由来多糖体の作用は、この多糖体が食餌中に含まれる物質、消化後に発生もしくは産生される物質(例えば、食餌の消化物に含まれる物質や腸内細菌を介して産生される物質)、腸肝循環により胆汁中に分泌されて消化管内に存在する物質との相互作用によるものである。
本発明において有用な相互作用の1つは、本発明に用いる多糖体が、腸内の有害細菌が産生するインドールを吸着して、そのまま糞便として体外に排出されることである。これにより、肝臓内でのインドキシル硫酸の産生量および血中への放出量が低減され、尿毒症症状や血管傷害などを引き起こす血中の酸化ストレスを低減することができる。
【0109】
本実施例により、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎機能が低下した場合に特徴的に観察される複数の合併症に対して有用であることが明らかとなった。
よって、本発明の剤、ならびにこれを含む食品および医薬品は、腎臓病の進行抑制、予防、治療、および腎臓病患者用の血圧上昇の抑制の用途において、極めて有用である。
【0110】
本実施例では、腎機能の回復能を有さない腎不全モデルのラットを用いたが、スイゼンジノリ由来多糖体は、腎不全等の特定の疾患に限定されず作用することが明らかであり、様々な病態で観察される血中インドキシル硫酸濃度の上昇、活性酸素種の発生を伴う血中抗酸化能の低下、血中リン濃度の上昇を、予防もしくは改善、またはいずれかの測定項目で異常値が観察される疾患の進行抑制、予防、もしくは治療の用途において、有用である。
よって、本発明の剤、ならびにこれを含有する食品および医薬品は、種々の用途において、有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8