(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 63/672 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
C08G63/672
(21)【出願番号】P 2018505871
(86)(22)【出願日】2017-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2017009402
(87)【国際公開番号】W WO2017159524
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2016050879
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】広兼 岳志
(72)【発明者】
【氏名】森下 隆実
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太郎
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-512936(JP,A)
【文献】特開2012-116921(JP,A)
【文献】特開2005-330207(JP,A)
【文献】特開2005-187425(JP,A)
【文献】特開2000-034290(JP,A)
【文献】特開2000-007681(JP,A)
【文献】特開2011-074000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール構成単位とジカルボン酸構成単位とを含み、
前記ジオール構成単位が、下記式(1)及び/又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含み、
該環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量が、前記ジオール構成単位の総量に対して、1~80モル%であり、
樹脂鎖中の、ポリエステル樹脂の総量に対する、ジオキサントリオールに由来する構成単位の質量とトリメチロールプロパンに由来する構成単位の質量の和である架橋点量が、1.0wt%以下である、
ポリエステル樹脂。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群より選ばれる有機基を表す。)
【化2】
(式中、R
3及びR
4は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群より選ばれる有機基を表す。)
【請求項2】
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン又は5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサンである、
請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族系飽和ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ともいう。)は機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトルやフィルムなどの用途を中心に大量に用いられている。しかしながらPETには結晶性、耐熱性に関して欠点が存在する。すなわち、PETは結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう。また、耐熱性に関してはPETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等高い耐熱性、透明性が要求される用途には利用できなかった。
【0003】
このような問題点を解決する観点から、耐熱性、透明性、機械的性能に優れたポリエステル樹脂として、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、「スピログリコール」ともいう。)とジカルボン酸成分を共重合したポリエステル樹脂が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、加熱した際に分解しにくいという熱安定性を有するスピログリコールの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-69165号公報
【文献】特開2005-187425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているスピログリコールをジオール構成単位として含むポリエステル樹脂は、他のポリエステル樹脂と比較して非晶性及び耐熱性や、引張強度等の機械物性に優れるものの、50%破壊エネルギーにおいて改善の余地があることが分かった。この点について本発明者らがさらに検討をしたところ、50%破壊エネルギーの低下は、特許文献2に開示されるようなスピログリコールの熱分解によるものではないことが分かってきた。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、50%破壊エネルギーの高いポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した。その結果、50%破壊エネルギーの低下は、ポリエステル樹脂中の架橋点の増加に起因するものであることが分かってきた。そして、ポリエステル樹脂中の架橋点を減少させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
[1]
ジオール構成単位とジカルボン酸構成単位とを含み、
前記ジオール構成単位が、下記式(1)及び/又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含み、
該環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量が、前記ジオール構成単位の総量に対して、1~80モル%であり、
樹脂鎖中の、ポリエステル樹脂の総量に対する、ジオキサントリオールに由来する構成単位の質量とトリメチロールプロパンに由来する構成単位の質量の和である架橋点量が1.0wt%以下である、
ポリエステル樹脂。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基を表す。)
【化2】
(式中、R
3及びR
4は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基を表す。)
[2]
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン又は5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサンである、
[1]に記載のポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、50%破壊エネルギーの高いポリエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0011】
〔ポリエステル樹脂〕
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジオール構成単位とジカルボン酸構成単位とを含み、前記ジオール構成単位が、下記式(1)及び/又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含み、該環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量が、前記ジオール構成単位の総量に対して、1~80モル%であり、樹脂鎖中の架橋点量が、1.0wt%以下である。
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群より選ばれる有機基を表す。)
【化4】
(式中、R
3及びR
4は、各々独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、及び炭素数が6~10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基を表す。)
【0012】
〔ジオール構成単位〕
ジオール構成単位は、式(1)及び/又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含み、必要に応じて、その他のジオールに由来する構成単位を含んでもよい。
【0013】
(環状アセタール骨格を有するジオール)
環状アセタール骨格を有するジオールとしては、式(1)及び/又は式(2)で表される化合物であれば特に限定されないが、このなかでも3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、「スピログリコール」ともいう。)又は5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン(以下、「ジオキサングリコール」ともいう。)が特に好ましい。このような環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含むことにより、50%破壊エネルギーがより向上し、非晶性(透明性)や耐熱性も向上する傾向にある。環状アセタール骨格を有するジオールは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量は、ジオール構成単位の総量に対して、1~80モル%であり、好ましくは3~60モル%であり、より好ましくは5~55モル%であり、さらに好ましくは10~50モル%である。環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量が上記範囲内であることにより、50%破壊エネルギーがより向上し、非晶性(透明性)や耐熱性も向上する傾向にある。
【0015】
(その他のジオール)
その他のジオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(別名ビスフェノールF)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール(別名ビスフェノールZ)、4,4’-スルホニルビスフェノール(別名ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0016】
このなかでも、ポリエステル樹脂の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。その他のジオールは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
その他のジオールに由来する構成単位の含有量は、ジオール構成単位の総量に対して、20~99モル%であり、好ましくは40~97モル%であり、より好ましくは45~95モル%であり、さらに好ましくは50~90モル%である。その他のジオールに由来する構成単位の含有量が上記範囲内であることにより、50%破壊エネルギーがより向上し、非晶性(透明性)や耐熱性も向上する傾向にある。
【0018】
〔ジカルボン酸構成単位〕
ジカルボン酸構成単位としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。このなかでも、ポリエステル樹脂の機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸および2,7-ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。その中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。ジカルボン酸は、は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
〔架橋点量〕
本実施形態のポリエステル樹脂の樹脂鎖中の架橋点量は、1.0wt%以下であり、好ましくは0.7wt%以下であり、より好ましくは0.6wt%以下である。樹脂鎖中の架橋点の下限は、特に限定されないが、0wt%が好ましい。架橋点量が1.0wt%以下であることにより、50%破壊エネルギーがより向上する。
【0020】
本実施形態におけるポリエステル樹脂中の「架橋点量」とは、ポリエステル樹脂の総量に対する、1つのヒドロキシピバルアルデヒド(以下、「HPA」ともいう。)とペンタエリスリトール(以下、「PE」ともいう。)との反応により生成するジオキサントリオール(以下、「DOT」ともいう。)に由来する構成単位の質量とトリメチロールプロパン(以下、「TMP」ともいう。)に由来する構成単位の質量の和をいう。
【0021】
ポリエステル樹脂中のDOT及びTMPに由来する構成単位の質量は、ポリエステル樹脂を解重合又は加水分解した後に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて定量することができる。解重合は、例えばメタノールの様なモノアルコールを用いて行うことができる。GCは、例えばGLサイエンス社製GC353にて、カラムとしてTC17、検出器としてFIDを用いて測定することができる。ポリエステル樹脂中の架橋点量を上記範囲とする方法としては、特に制限はないが、例えば、精製したHPAを用いたり、スピログリコール、ジオキサングリコール合成後の洗浄を強化するなどして、不純物が少ないスピログリコール、ジオキサングリコールを原料として使用する方法が挙げられる。
【0022】
DOT、TMPに由来する構成単位は、直鎖状のポリエステル樹脂に分岐点を導入する原因となり、架橋点を増加させる原因となる。しかしながら、従来の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含むポリエステル樹脂では、原料となる環状アセタール骨格を有するジオールに由来して不可避的にDOT、TMPに由来する構成単位がポリエステル樹脂に含まれることが分かった。この点、本実施形態のポリエステル樹脂は、分子内にDOT、TMPの含有量が一定量以下である環状アセタール骨格を有するジオールを用いることで、50%破壊エネルギーがより向上するものである。以下、この点について説明する。
【0023】
まず、式(1)で表される環状アセタール骨格を有するジオールの代表例として、スピログリコールの場合を例に説明する。スピログリコールは、例えば、HPAとPEとを酸触媒下、水溶液中でアセタール化反応させることにより合成することができる。そして、反応中に析出したスピログリコールの結晶をろ過、水洗、乾燥の工程を経て精製し、スピログリコールを単離することができる。
【0024】
上記反応の際、PEと1つのHPAとの反応により生成するジオキサントリオール(DOT)が比較的生成し易く、スピログリコールに混入し得る。DOTはポリエステル樹脂鎖中で架橋点となりポリエステル樹脂の機械強度、特に50%破壊エネルギー(耐衝撃性)を低下させる要因となる。DOTを効率的に除去するには温水での洗浄が効果的である。
【0025】
次に、式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールの代表例として、ジオキサングリコールの場合を例に説明する。ジオキサングリコールは、例えば、HPAとTMPとを酸触媒下、水溶液中でアセタール化反応させることにより合成することができる。そして、反応中に析出したジオキサングリコールの結晶をろ過、水洗、乾燥の工程を経て精製し、ジオキサングリコールを単離することができる。
【0026】
上記反応の際、反応しなかったTMPがジオキサングリコールに混入し得る。TMPはポリエステル樹脂鎖中で架橋点となりポリエステル樹脂の機械強度、特に50%破壊エネルギー(耐衝撃性)を低下させる要因となる。TMPを効率的に除去するには温水での洗浄が効果的である。
【0027】
以上説明したように、式(1)及び式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールにおいては、DOT、TMPが不可避的に混入し得る。これに対し、本実施形態においては、スピログリコール、ジオキサングリコールを合成、ろ過した後に室温~70℃の水で洗浄する事でDOT、TMPの混入量を小さくする事ができる。なお、水の温度は、好ましくは30~60℃であり、より好ましくは40~55℃である。このような温度とすることにより、不可避的に混入する不純物をより効率的に除去することができる傾向にある。温水洗浄は、SPGやDOGを合成後、ろ過したケーキに温水を流す事であるが、水の温度を上げる事で粘度が低下し、水の流動性が上がる為にケーキ中のDOTやTMP等の不純物を効率的に除去する事ができる。加えてSPGやDOGとDOTやTMPの温水に対する溶解性の差を利用し、DOTやTMP等の不純物の除去を効率的に行うものである。
【0028】
SPGやDOGを洗浄する際の水の量はケーキ中の水分の質量の3~30倍が好ましく、5~20倍がより好ましく、7~15倍が更に好ましい。上記範囲の水で洗浄する事で効率よくDOTやTMPなどの不純物を除去する事ができる。洗浄は1回でも良いし、複数回行っても良い。
【0029】
なお、スピログリコール、ジオキサングリコールの純度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPC測定は、測定装置としてShodex GPC System-21(昭和電工社製)を用い、カラムとしてKF-801を2本、KF-802.5、KF-803Fをそれぞれ1本を直列に繋いだものを用いて行うことができる。また、溶媒としてはTHFを用い、流量は1.0mL/minに設定し、検出器としてはRIを用いる。さらに、試料濃度は2wt%とし、注入量は100μLの条件とする。
【0030】
〔極限粘度〕
本実施形態のポリエステル樹脂の極限粘度は、例えば、フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中において25℃で測定することができる。このようにして測定されたポリエステル樹脂の極限粘度は、好ましくは0.1~1.5dL/gであり、より好ましくは0.3~1.0dL/gであり、さらに好ましくは0.5~0.8dL/gであり、特に好ましくは0.55~0.75dL/gである。
【0031】
〔溶融粘度〕
本実施形態のポリエステル樹脂の溶融粘度は、例えば、測定温度240℃、剪断速度100s-1で測定することができる。このようにして測定されたポリエステル樹脂の溶融粘度は、好ましくは500~3000Pa・sである。溶融粘度が上記範囲にあると、機械的強度、及び成形性がより向上する傾向にある。
【0032】
〔耐衝撃性〕
本実施形態のポリエステル樹脂の耐衝撃性は、例えば、溶融押出し法で得られた350μmtのシートに対してデュポン衝撃試験を行い評価することができる。デュポン衝撃試験により得られる値は、好ましくは0.5J以上であり、より好ましくは0.7J以上であり、さらに好ましくは0.9J以上である。
【0033】
〔ポリエステル樹脂の製造方法〕
ポリエステル樹脂を製造する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、エステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。原料としては、上述したように精製したものを用いることが好ましい。
【0034】
上記各方法においては、公知の触媒を使用することができる。公知の触媒としては、特に限定されないが、例えば、金属マグネシウム、ナトリウム、マグネシウムのアルコキサイド;亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、錫、ゲルマニウム、アンチモン、チタニウムなどの脂肪酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物などが挙げられる。これらの中でも、マンガン、チタン、アンチモン、ゲルマニウムの化合物が好ましく、酢酸マンガン、テトラブトキシチタン、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。これら触媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記各方法においては、必要に応じて、公知の添加剤を使用してもよい。公知の添加剤としては、特に限定されないが、例えば、エーテル化防止剤、熱安定剤及び光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤、塩基性化合物等が挙げられる。
【0036】
エーテル化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物等を挙げることができる。
【0037】
熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、リン化合物が挙げられる。このなかでもリン酸エステルが好ましく、リン酸トリエチルがより好ましい。
【0038】
塩基性化合物としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、塩化物、アルコキシドが挙げられる。このなかでも、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウムが特に好ましい。
【0039】
〔用途〕
本実施形態のポリエステル樹脂は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体、シート、フィルム、パイプ等の押し出し成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。更に詳しく述べるとすれば、シートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向、又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成形されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押出し発泡体でもよい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0041】
〔製造例1: 粗HPA水溶液の調製〕
反応容器に、イソブチルアルデヒド(三菱化学製)1200質量部と、37質量%ホルマリン(三菱ガス化学製)1514質量部と、を仕込み、40℃、窒素気流下で撹拌しながら、トリエチルアミン(和光純薬試薬特級)76質量部を5分間かけて加え、アルドール縮合反応を行った。トリエチルアミン添加終了時、反応液温度は65℃に達した。ここから、反応液温度を徐々に上げ、30分後には反応液温度を90℃とした。反応液温度90℃で50分間反応を継続させた後、外部冷却によって、反応液温度を60℃まで冷却し、反応を停止させた。
【0042】
続いて、70~80℃、圧力40kPaの条件で、この反応液から、未反応のイソブチルアルデヒド、トリエチルアミン、及びメタノール等の低沸留分を除去した。この低沸留分留去後の反応生成液(以下、「粗HPA溶液」ともいう。)の組成を、ガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー社製GC-6890N)を用いて分析した結果を以下に示す。なお、測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
測定試料 :約1質量%のアセトン溶液に調製
使用カラム:DB-1(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件 :injection temp.200℃、
detection temp.250℃
カラム温度:60℃で7分保持→250℃迄6℃/分で昇温→250℃で20分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
(測定結果)
HPA 62.4 質量%
イソブチルアルデヒド 0.26質量%
ホルムアルデヒド 1.04質量%
トリエチルアミン 1.24質量%
ネオペンチルグリコール 0.82質量%
ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステル 1.05質量%
イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル 0.18質量%
水 29.7 質量%
ギ酸 0.40質量%
その他 2.91質量%
【0043】
〔製造例2: 精製HPA水溶液の調製〕
製造例1で得られた粗HPA水溶液2000質量部及び水4000質量部を晶析槽に仕込み、HPAの濃度を20.8質量%とし、60℃に保った。この溶液を攪拌しながら40℃まで自然冷却し、一晩保持し晶析を終了した。この後、HPAの結晶を含むスラリーの全量を遠心分離機にて固液分離し、得られたHPA結晶を水640質量部を使用して洗浄した。洗浄後のHPA結晶を窒素気流下、30℃で乾燥し、HPAの結晶560質量部を得た。粗HPAに対するHPA結晶の回収率は45.0%であり、この結晶を上記ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、HPA純度は99.3%であった。最後に、得られたHPA結晶に水を添加し、60質量%精製HPA水溶液を調製した。
【0044】
〔実施例1〕
〔精製HPA水溶液を用いたスピログリコール合成〕
反応容器に水2912質量部を加えペンタエリスリトール300質量部、35%塩酸(和光純薬製)23.6質量部を添加し、90℃に昇温して、製造例2にて調製した60質量%精製HPA水溶液755.8質量部を4時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃のまま4時間熟成した。熟成終了後、反応液を固液分離し、スピログリコールを含むケーキを得た。得られたケーキを872部の50℃の水にて洗浄し、乾燥させ、591質量部のスピログリコールを得た。なお、ケーキ中の水分は100質量部であり、8.7倍量の温水で洗浄した事となる。
【0045】
〔スピログリコールのGPC測定〕
実施例1で得られたスピログリコールをTHFに濃度2wt%で溶解させて、GPC測定用サンプルを調製した。GPC測定用サンプルを注入量100μLの条件で下記装置を用いて測定した。スピログリコールのr.t.は33.7分であった。GPCチャート面積を100面積%とした場合のGPC測定結果を表1に示す。
(GPC装置構成)
装置 :昭和電工社製システム21
カラム:KF-801×2本、KF-802.5×1本、KF-803F×1本
溶媒 :THF
流量 :1.0mL/min
検出器:RI
【0046】
〔ポリエステル樹脂の製造(30Lスケール)〕
分縮器、全縮器、コールドトラップ、トルク検出機付き攪拌機、加熱装置、及び窒素導入管を備えた30リットルのポリエステル樹脂製造装置にテレフタル酸ジメチル9446g、エチレングリコール6099g、スピログリコール7102g、酢酸マンガン4水和物3.576gを仕込み、225℃まで昇温しつつ常法にてエステル交換反応を行った。エステル交換反応にて生成するメタノールの留出量が理論量の90%(2805g)となった後、三酸化アンチモン0.709g、リン酸トリメチル4.088gを加えた。225℃を維持したまま13.3kPaまで1時間かけて減圧した後、270℃、130Paまで1時間かけて昇温、減圧して重縮合反応を行った。撹拌速度を100rpmから徐々に下げていき、10rpm、トルク200N・mとなったところで反応を終了しポリエステル樹脂約12kgを得た。
【0047】
〔ポリエステル樹脂中の架橋点〕
上記で得られたポリエステル樹脂0.1gに0.5Nピリジン/メタノール溶液5mLを加え密閉後210℃で4時間加熱し、解重合を行った。得られた解重合物にクロロホルム5mLを加えてGC測定用溶液とした。このGC測定用溶液を、下記装置を用いて測定し、DOT量を定量した。ポリエステル樹脂に対するDOT量を樹脂鎖中の架橋点量とした。評価結果を表1に示す。
(GC装置構成)
装置 :GLサイエンス社製GC353
カラム:TC17
検出器:FID
【0048】
〔ポリエステル樹脂の機械物性評価〕
上記で得られたポリエステル樹脂をベント付30mm二軸押出機に供給し、シリンダ温度275℃、スクリュー回転数150rpmの条件で、ベント脱揮を行いながら押出し、Tダイ押出法で単層シート(厚み350μm)を作製した。得られた単層シートの50%破壊エネルギー(J)をマイズ試験機社製のデュポン式落下衝撃試験機を用いて測定した。具体的には、撃芯形状φ1/4インチの条件で単層シートに撃芯を落下させ、JIS K7211-1に従い50%破壊エネルギー(J)を求めた。評価結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
〔比較例1〕
〔粗HPAを用いたスピログリコール合成〕
反応容器にヘプタン(和光純薬製)349.9質量部とペンタエリスリトール75.0質量部を添加し懸濁させ、60℃まで昇温した。そこへ製造例1にて調製した粗HPA水溶液186.3質量部、25%硝酸(和光純薬製)22.7質量部を約2時間かけて添加した。その後、その温度に保ちながら4時間熟成した。熟成終了後、反応液を固液分離し、スピログリコールの結晶を得た。得られたスピログリコールのケーキを、常温の水149.1質量部、ヘプタン155.4質量部にて洗浄し、乾燥させ、113.0質量部のスピログリコールを得た。なお、ケーキ中の水分は71.6質量部であり、2.1倍量の常温の水で洗浄した事になる。
実施例1と同様にスピログリコールのGPC測定、ポリエステル樹脂の製造、評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1および比較例1で合成したスピログリコールを5:5の重量比で混合し、実施例1と同様にスピログリコールのGPC測定、ポリエステル樹脂の製造、評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例2〕
実施例1および比較例1で合成したスピログリコールを2:8の重量比で混合し、実施例1と同様にスピログリコールのGPC測定、ポリエステル樹脂の製造、評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
本出願は、2016年3月15日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2016-050879)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の環状アセタール骨格を有するジオールは、DOT、TMPの含有量が一定量以下であるため、樹脂原料として好適に用いる事ができる。特にこのジオールを共重合したポリエステル樹脂は安定的に機械物性の優れたものとなり、OA機器、情報・通信機器、家庭電化機器などの電気・電子機器、自動車分野、食品分野、建築分野など様々な分野において幅広く利用することができる。