(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】抗ヒトCD73抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220107BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220107BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220107BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220107BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220107BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220107BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220107BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220107BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220107BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220107BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K47/64
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2018556694
(86)(22)【出願日】2017-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2017044578
(87)【国際公開番号】W WO2018110555
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2016241503
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100158089
【氏名又は名称】寺内 輝和
(74)【代理人】
【識別番号】100158252
【氏名又は名称】飯室 加奈
(74)【代理人】
【識別番号】100172546
【氏名又は名称】影山 路人
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【氏名又は名称】川濱 周弥
(74)【代理人】
【識別番号】100191639
【氏名又は名称】鎌田 啓明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】豊永 英恵
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 史雄
(72)【発明者】
【氏名】江口 朋宏
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/075176(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/055609(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/081748(WO,A2)
【文献】Current Opinion in Immunology, 2016.04.06, Vol.40, pp.96-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から112までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号4のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号89から98までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
下記(a)~(b)からなる群より選択される請求項1又は2に記載の抗ヒトCD73抗体:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体;並びに、
(b)(a)に記載の抗ヒトCD73抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である抗ヒトCD73抗体。
【請求項4】
下記(a)~(b)からなる群より選択される請求項3に記載の抗ヒトCD73抗体:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体;並びに、
(b)配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体。
【請求項5】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、請求項4に記載の抗ヒトCD73抗体。
【請求項6】
配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、請求項4に記載の抗ヒトCD73抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと他のペプチドや蛋白質が融合した融合体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと修飾剤が結合した修飾体。
【請求項9】
下記(a)~(e)からなる群より選択される請求項7に記載の融合体:
(a)配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;並びに、
(e)(a)~(d)に記載の融合体の翻訳後修飾により生じた融合体。
【請求項10】
請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び
、
請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及
び
請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及
び
請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
下記(a)及
び(b)を含む、発現ベクター:
(a)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
下記(a)及
び(b)を含む、請求項13に記載の発現ベクター:
(a)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項15】
下記(a)及
び(b)を含む、請求項14に記載の発現ベクター:
(a)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項16】
下記(a)~
(b)からなる群より選択される、宿主細胞
:
(a)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(b)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項17】
下記(a)~
(b)からなる群より選択される、請求項16に記載の宿主細胞
:
(a)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(b)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項18】
下記(a)~
(b)からなる群より選択される、請求項17に記載の宿主細胞
:
(a)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(b)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項19】
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を生産する方法:
(a)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、請求項2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項20】
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を生産する方法:
(a)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)請求項5に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、請求項5に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項21】
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体の融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体の融合体を生産する方法:
(a)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)請求項9に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、請求項9に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項22】
請求項3に記載の抗ヒトCD73抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項23】
がんの予防又は治療用医薬組成物である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
がんの予防又は治療に使用するための、請求項3に記載の抗ヒトCD73抗体。
【請求項25】
がんの予防又は治療用医薬組成物の製造における、請求項3に記載の抗ヒトCD73抗体の使用。
【請求項26】
請求項9に記載の融合体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項27】
がんの予防又は治療用医薬組成物である、請求項
26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
がんの予防又は治療に使用するための、請求項9に記載の融合体。
【請求項29】
がんの予防又は治療用医薬組成物の製造における、請求項9に記載の融合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物の有効成分として有用な抗ヒトCD73抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
CD73(エクト5’ヌクレオチダーゼ)はAMP(アデノシン一リン酸)をアデノシンに分解する酵素である。CD73はGPIアンカー型蛋白質として細胞膜表面において2量体として存在し、リンパ球細胞、内皮細胞を始め、大腸、脳、腎臓、肝臓、肺、心臓など様々な組織に発現している。またCD73は、リンパ球細胞の細胞膜表面より切断されて可溶型CD73として存在し、可溶型CD73もAMPを分解する酵素活性を持つことが報告されている。AMPの分解によって産生されたアデノシンはT細胞を始めとした免疫系細胞の機能を抑制するため、CD73は免疫応答の調節に重要な役割を果たしている。(Arterioscler Thromb Vasc Biol.、2008、Vol.28、p.18‐26)(Trends Mol Med.、2013、Vol.19、p.355‐367)(Eur J Immunol.、2015、Vol.45、p.562‐573)
【0003】
病態との関連性としては、CD73の発現が大腸癌細胞株で確認されている(Mediators Inflamm.、2014、Article ID 879895)。また大腸癌患者は正常組織よりも癌組織においてCD73発現が上昇しており、CD73発現の高い患者は発現の低い患者よりも全生存率が低いことが報告されている(J Surg Oncol.、2012、Vol.106、p.130‐137)。
【0004】
他の種類のがんに関しては、副腎癌、乳癌、悪性黒色腫、多形性膠芽腫、卵巣癌、髄芽腫、膀胱癌の細胞株においてCD73発現が、乳癌、胃癌、膵癌、慢性骨髄性白血病、皮膚T細胞リンパ腫、膠芽腫においてCD73活性の上昇が認められる(Pharmacol Ther.、2000、Vol.87、p.161‐173)(Biomed Res Int.、2014、 Article ID 460654 )。また頭頸部癌、甲状腺癌におけるCD73発現上昇や、CD73の発現が前立腺癌において癌細胞の増殖を促進することも報告されている(Trends Mol Med.、2013、Vol.19、p.355‐367)。
【0005】
AMPを分解するCD73の酵素活性を阻害することは、抑制されたT細胞など免疫系細胞の機能を回復させ、抗腫瘍免疫の活性化に繋がるため、CD73はがんの治療標的として研究されている。また、そのような酵素阻害活性を有する抗CD73抗体が、動物モデルで抗腫瘍活性を示すことが知られている。(非特許文献1)
【0006】
ヒトCD73酵素活性を阻害する抗体についての複数の研究が行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1)。特許文献1及び非特許文献1で報告されているMEDI9447は可溶型CD73に対してベルシェイプ型の阻害を示すという特徴を有している。MEDI9447は固形癌を適応症とした第一相試験を開始しているが、特許文献2及び特許文献3で報告されている抗体も含め、臨床における治療効果はまだ確認されていない。
【0007】
イムノサイトカインと称される、抗体又はその抗原結合フラグメントとサイトカインとの融合体が知られており、抗腫瘍免疫を活性化させる目的で複数の研究が行われている(Curr Opinion in Immunol.、2016、Vol.40、p.96-102)。
【0008】
抗腫瘍免疫を活性化させる可能性があるサイトカインの例としてはIL-7及びIL-21の研究が行われているが、ヒトへの高用量の投与で毒性を示す可能性が報告されている(Clin Cancer Res.、2010、Vol.16、p.727-735)(Clin Cancer Res.、2007、Vol.13、p.3630-3636)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開番号2016/075176号
【文献】国際公開番号2016/055609号
【文献】国際公開番号2016/081748号
【非特許文献】
【0010】
【文献】「マブス(mAbs)」、(米国)、2016;8(3):454-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、抗ヒトCD73抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、抗ヒトCD73抗体の作製において相当の創意検討を重ねた結果、配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から112までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号4のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号89から98までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗ヒトCD73抗体CDS-1を作製し(実施例1)、当該抗体がヒトCD73に結合し(実施例2)、ヒトCD73の酵素活性を阻害すること(実施例3及び4)、AMP依存的に抑制されたヒトT細胞機能を回復すること(実施例5)を見出した。これらの結果、本発明の抗ヒトCD73抗体を提供し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[31]に関する。
[1]
配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から112までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号4のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号89から98までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
[2]
配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、[1]に記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
[3]
下記(a)~(b)からなる群より選択される[1]又は[2]に記載の抗ヒトCD73抗体:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体;並びに、
(b)(a)に記載の抗ヒトCD73抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である抗ヒトCD73抗体。
[4]
下記(a)~(b)からなる群より選択される[3]に記載の抗ヒトCD73抗体:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体;並びに、
(b)配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体。
[5]
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、[4]に記載の抗ヒトCD73抗体。
[6]
配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、[4]に記載の抗ヒトCD73抗体。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと他のペプチドや蛋白質が融合した融合体。
[8]
[1]~[6]のいずれかに記載の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと修飾剤が結合した修飾体。
[9]
下記(a)~(e)からなる群より選択される[7]に記載の融合体:
(a)配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;並びに、
(e)(a)~(d)に記載の融合体の翻訳後修飾により生じた融合体。
[10]
下記(a)~(b)からなる群より選択される、ポリヌクレオチド:
(a)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[11]
下記(a)~(b)からなる群より選択される、[10]に記載のポリヌクレオチド:
(a)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び
(b)[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[12]
下記(a)~(b)からなる群より選択される、[11]に記載のポリヌクレオチド:
(a)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び
(b)[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[13]
下記(a)及び/又は(b)を含む、発現ベクター:
(a)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[14]
下記(a)及び/又は(b)を含む、[13]に記載の発現ベクター:
(a)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[15]
下記(a)及び/又は(b)を含む、[14]に記載の発現ベクター:
(a)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド;及び、
(b)[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[16]
下記(a)~(d)からなる群より選択される、宿主細胞:
(a)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(d)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[17]
下記(a)~(d)からなる群より選択される、[16]に記載の宿主細胞:
(a)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(d)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[18]
下記(a)~(d)からなる群より選択される、[17]に記載の宿主細胞:
(a)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチド及び[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに、
(d)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[19]
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を生産する方法:
(a)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、[2]に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[20]
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を生産する方法:
(a)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)[5]に記載の抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、[5]に記載の抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[21]
以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体の融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体の融合体を生産する方法:
(a)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)[9]に記載の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、[9]に記載の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[22]
[3]に記載の抗ヒトCD73抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[23]
がんの予防又は治療用医薬組成物である、[22]に記載の医薬組成物。
[24]
[3]に記載の抗ヒトCD73抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、がんを予防又は治療する方法。
[25]
がんの予防又は治療に使用するための、[3]に記載の抗ヒトCD73抗体。
[26]
がんの予防又は治療用医薬組成物の製造における、[3]に記載の抗ヒトCD73抗体の使用。
[27]
[9]に記載の融合体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[28]
がんの予防又は治療用医薬組成物である、[27]に記載の医薬組成物。
[29]
[9]に記載の融合体の治療有効量を投与する工程を包含する、がんを予防又は治療する方法。
[30]
がんの予防又は治療に使用するための、[9]に記載の融合体。
[31]
がんの予防又は治療用医薬組成物の製造における、[9]に記載の融合体の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗ヒトCD73抗体は、ヒトCD73酵素阻害活性を有し、がんの予防又は治療剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、CDS-1、MEDI9447、6E1及びCD73.4IgG2CS-IgG1.1fによる、ヒトCD73酵素阻害活性を示した図である。
【
図2】
図2は、CDS-1、MEDI9447、6E1及びCD73.4IgG2CS-IgG1.1fによる、ヒトT細胞からのIFNγ産生量を指標にしてヒトT細胞機能の回復を示した図である。
【
図3】
図3は、CDS-1、MEDI9447、6E1及びCD73.4IgG2CS-IgG1.1fによる、ヒトT細胞の増殖を指標にしてヒトT細胞機能の回復を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳述する。
【0017】
抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEの5つのクラスが存在する。抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万~7万の重鎖と2万~3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してIgγ、Igμ、Igα、Igδ、Igεとよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のサブクラスが存在し、それぞれに対応する重鎖はIgγ1、Igγ2、Igγ3、Igγ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれIgλ、Igκとよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万~19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0018】
鎖内S-S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100~110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位又はドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにアミノ末端(N末端)に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域(若しくはVH)及び軽鎖可変領域(若しくはVL)とよばれている。可変領域よりカルボキシ末端(C末端)側のアミノ酸配列は、各クラス又は各サブクラスにほぼ一定で定常領域とよばれている。定常領域の各ドメインは、それぞれ、可変領域側から順にCH1、CH2、CH3又はCLと表される。
【0019】
抗体の抗原結合部位はVH及びVLによって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種エフェクター細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgの定常領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR;それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3)と呼んでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。
【0020】
抗体のVH及びVLを含む各種抗原結合フラグメントも抗原結合活性を有し、このような代表的な抗原結合フラグメントとして、一本鎖可変領域フラグメント(scFv)、Fab、Fab’、F(ab’)2が挙げられる。Fabは、軽鎖と、VH、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される、一価の抗体フラグメントである。Fab’は、軽鎖と、VH、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される、一価の抗体フラグメントであり、このヒンジ領域の部分には重鎖間S-S結合を構成していたシステイン残基が含まれる。F(ab’)2フラグメントは、2つのFab’フラグメントがヒンジ領域中の重鎖間S-S結合で結合した二価の抗体フラグメントである。scFvは、リンカーで連結されたVHとVLから構成される、一価の抗体フラグメントである。
【0021】
本明細書中で使用される抗体のアミノ酸残基番号は、Kabatナンバリング又はEUインデックス(Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、Fifth Edition、NIH Publication No.91-3242)を指定することで、それらのナンバリングシステムに従って規定することができる。
【0022】
<本発明の抗ヒトCD73抗体>
本発明の抗ヒトCD73抗体には、以下の特徴を有する抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントが含まれる:
配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から112までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号4のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号89から98までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0023】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体は、以下の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントである:
配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0024】
本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖定常領域としては、Igγ、Igμ、Igα、Igδ又はIgεのいずれの定常領域も選択可能である。Igγとしては、例えば、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4から選択することが可能である。1つの実施形態として、重鎖定常領域はIgγ1定常領域であり、例えば、ヒトIgγ1定常領域である。
【0025】
本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖定常領域は、抗体の抗体依存性細胞傷害活性や補体依存性傷害活性を低下させることを目的とした変異を有していてもよい。L234Aとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸234位のロイシンのアラニンでの置換である。L235Aとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸235位のロイシンのアラニンでの置換である。P331Sとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸331位のプロリンのセリンでの置換である。L234A、L235A及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域としては、例えば、配列番号2のアミノ酸番号124から453までのアミノ酸配列からなるヒトIgγ1定常領域が挙げられる。当該変異は、抗体の抗体依存性細胞傷害活性や補体依存性傷害活性を低下させることが知られている(Mol Immunol.、1992、Vol.29、p.633-639)(J Immunol.、2000、Vol.164、p.4178-4184)。
【0026】
本発明の抗ヒトCD73抗体の軽鎖定常領域としては、Igλ又はIgκのいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態として、軽鎖定常領域はIgκ定常領域であり、例えば、ヒトIgκ定常領域である。ヒトIgκ定常領域の例として、配列番号4のアミノ酸番号110から215までのアミノ酸配列からなるヒトIgκ定常領域が挙げられる。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体は、scFv、Fab、Fab’、又はF(ab’)2である抗原結合フラグメントである。
【0028】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトCD73抗体である。
【0029】
抗体を細胞内で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断、重鎖及び軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾、グリコシル化、酸化、脱アミド化、糖化等が挙げられ、種々の抗体において、このような翻訳後修飾が生じることが知られている(J Pharm Sci.、2008、Vol.97、p.2426-2447)。
【0030】
本発明の抗ヒトCD73抗体には、翻訳後修飾により生じた抗体である抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。翻訳後修飾により生じた抗体とは、翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む抗体が含まれる。翻訳後修飾により生じた抗体である本発明の抗ヒトCD73抗体の例としては、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端のリジン欠失を受けた抗ヒトCD73抗体が挙げられる。このようなN末端のピログルタミル化又はC末端リジン欠失による翻訳後修飾が抗体の活性に影響を及ぼすものではないことは当該分野で知られている(Anal Biochem.、2006、Vol.348、p.24-39)。
【0031】
1つの実施形態において、翻訳後修飾により生じた抗体である本発明の抗ヒトCD73抗体は、以下の抗ヒトCD73抗体である:
配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体。
【0032】
本明細書における「抗ヒトCD73抗体」とは、ヒトCD73に結合する抗体を意味する。ヒトCD73に結合するか否かは、公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。結合活性を測定する方法としては、例えば、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)等の方法が挙げられる。ELISAを用いる場合は、例えば、ヒトCD73蛋白質(例えば、BPS Bioscience社、71184)をELISAプレートに固相化し、これに対して被験抗体を添加して反応させた後、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素で標識した抗IgG抗体等の二次抗体を反応させる。反応後に洗浄操作を行い、その活性を検出する試薬(例えば、HRP標識の場合、TMB+substrate-chromogen(Dako社))等を用いた活性測定により、二次抗体の結合を同定することで、被験抗体がヒトCD73に結合するか否かを確認することができる。具体的な評価方法としては、例えば後記実施例2に記載される方法を用いることができる。
【0033】
本発明の抗ヒトCD73抗体には、ヒトCD73に結合する抗体であれば、ヒトCD73への結合に加え、他の動物由来のCD73(例えば、サルCD73)にも結合する抗体も含まれる。
【0034】
本発明の抗ヒトCD73抗体の活性を評価する方法として、ヒトCD73の酵素阻害活性を評価してもよい。このような活性の評価方法としては、例えば後記実施例3及び4に記載される方法を用いることができる。本発明の抗ヒトCD73抗体には、ヒトCD73に結合し、ヒトCD73の酵素阻害活性を有する抗体が含まれる。
【0035】
また、本発明の抗ヒトCD73抗体の活性を評価する方法として、AMP依存的に抑制されたヒトT細胞の機能を回復させる活性を評価してもよい。このような活性の評価方法としては、後記実施例5に記載されるような方法を用いることができる。本発明の抗ヒトCD73抗体には、ヒトCD73に結合し、AMP依存的に抑制されたヒトT細胞の機能を回復させる活性を有する抗体が含まれる。
【0036】
本発明の抗ヒトCD73抗体は、本明細書に開示される、本発明の抗体のVH及びVLの配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の抗ヒトCD73抗体は、特に限定されるものではないが、例えば、後述の<本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法及び該方法により生産できる抗ヒトCD73抗体又はその融合体>に記載の方法に従い製造することができる。
【0037】
本発明の抗ヒトCD73抗体は、必要によりさらに精製された後、定法に従って製剤化され、がんの予防又は治療に用いることができる。本発明による予防又は治療の対象となるがんは、特に限定されないが、例えば肺癌、大腸癌、副腎皮質癌、乳癌、悪性黒色腫、膠芽腫、卵巣癌、髄芽腫、膀胱癌、胃癌、膵癌、慢性骨髄性白血病、皮膚T細胞リンパ腫、グリア芽腫、頭頸部癌、甲状腺癌、又は前立腺癌等が挙げられる。
【0038】
<本発明の融合体及び修飾体>
当業者であれば、本発明の抗ヒトCD73抗体を利用して、本発明の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと他のペプチドや蛋白質が融合した融合体を作製することや、修飾剤が結合した修飾体を作製することも可能である。本発明の融合体及び修飾体は、ヒトCD73に結合する限り、本発明の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントと他のペプチドや蛋白質が融合した融合体又は修飾剤が結合した修飾体を含む。融合に用いられる他のペプチドや蛋白質は特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種タグペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合蛋白質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、サイトカイン、ケモカイン、その他多量体化を促進しうるペプチド又は蛋白質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。当該融合又は修飾は、直接融合又は修飾してもよく、また、任意のリンカーを介して融合又は修飾してもよい。本発明の融合体は、本発明の抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントにサイトカインが融合した融合体を含む。本発明の融合体に使用されるサイトカインは、天然に存在するサイトカインに限られず、その機能を有する改変体であってもよい。1つの実施形態において、本発明の融合体に含まれるサイトカインは、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-21(IL-21)又はそれらの改変体である。また、本発明の融合体に使用されるサイトカインは、IL-7あるいはIL-21の生理活性を低下させた改変体であってもよい。
【0039】
本発明の融合体において重鎖とは、融合体に含まれる抗体の重鎖及び該重鎖に融合した他のペプチドや蛋白質を含む。本発明の融合体において軽鎖とは、融合体に含まれる抗体の軽鎖及び該軽鎖に融合した他のペプチドや蛋白質を含む。
【0040】
IL-7は、IL-7受容体に対してリガンドとして機能するサイトカインである。IL-7はT細胞やB細胞などの生存、増殖及び分化に寄与することが報告されている(Curr Drug Targets.、2006、Vol.7、p.1571-1582)。本発明において、IL-7には、天然に存在するIL-7及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、IL-7は、ヒトIL-7である。本発明において、ヒトIL-7には、天然に存在するヒトIL-7及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、ヒトIL-7は、以下の(1)~(3)からなる群より選択される:(1)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL-7の機能を有するポリペプチド、(2)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒトIL-7の機能を有するポリペプチド、並びに(3)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL-7の機能を有するポリペプチド。1つの実施形態において、本発明で使用されるヒトIL-7はAccession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。ここで、ヒトIL-7の機能とは、各種ヒト免疫細胞に対しての生存、増殖及び分化作用をいう。
【0041】
IL-21は、IL-21受容体に対してリガンドとして機能するサイトカインである。IL-21はT細胞やB細胞などの生存、増殖及び分化に寄与することが報告されている(Cancer Lett.、2015、Vol.358、p.107-114)。本発明において、IL-21には、天然に存在するIL-21及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、IL-21は、ヒトIL-21である。本発明において、ヒトIL-21には、天然に存在するヒトIL-21及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、ヒトIL-21は、以下の(1)~(3)からなる群より選択される:(1)Accession No.NP_068575.1に示されるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL-21の機能を有するポリペプチド、(2)Accession No.NP_068575.1に示されるアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒトIL-21の機能を有するポリペプチド、並びに(3)Accession No.NP_068575.1に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL-21の機能を有するポリペプチド。1つの実施形態において、本発明で使用されるヒトIL-21はAccession No.NP_068575.1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。ここで、ヒトIL-21の機能とは、各種ヒト免疫細胞に対しての生存、増殖及び分化作用をいう。
【0042】
本発明の融合体には、翻訳後修飾により生じた融合体も含まれる。翻訳後修飾の例としては、<本発明の抗ヒトCD73抗体>において記載した種々の翻訳後修飾が挙げられる。
【0043】
1つの実施形態において、本発明の融合体は、下記(a)~(e)からなる群より選択される融合体である:
(a)配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体;並びに、
(e)(a)~(d)に記載の融合体の翻訳後修飾により生じた融合体。
【0044】
1つの実施形態において、翻訳後修飾により生じた融合体である本発明の融合体は、以下の融合体である:
配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体。
【0045】
1つの実施形態において、翻訳後修飾により生じた融合体である本発明の融合体は、以下の融合体である:
配列番号2のアミノ酸番号1から452までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む融合体。
【0046】
<本発明のポリヌクレオチド>
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、本発明の抗ヒトCD73抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0047】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなるVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0048】
配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなるVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1の塩基配列1から369までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0049】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなるVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0050】
配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなるVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3の塩基配列1から327までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、本発明の抗ヒトCD73抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0052】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0053】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1又は11に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0054】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトCD73抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0055】
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3又は8に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0057】
1つの実施形態において、本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0058】
配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号5又は6に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0059】
1つの実施形態において、本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0060】
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3又は8に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0061】
1つの実施形態において、本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0062】
配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号9又は16に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0063】
1つの実施形態において、本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0064】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1又は11に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0065】
1つの実施形態において、本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0066】
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号12に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0067】
1つの実施形態において、本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0068】
配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号14に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0069】
本発明のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。このような遺伝子合成方法としては、WO90/07861に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0070】
<本発明の発現ベクター>
本発明の発現ベクターには、本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、本発明の抗ヒトCD73抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターが含まれる。
【0071】
本発明の発現ベクターには、本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、本発明の抗ヒトCD73抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターが含まれる。
【0072】
本発明の発現ベクターには、本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターが含まれる。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるために用いる発現ベクターとしては、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/又は原核細胞(例えば、大腸菌)の各種の宿主細胞中で本発明の抗ヒトCD73抗体若しくはその融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び/又は本発明の抗ヒトCD73抗体若しくはその融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、これらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)等が挙げられる。1つの実施形態において、pEE6.4やpEE12.4(Lonza Biologics社)を発現ベクターとして使用することができる。
【0074】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドに動作可能なように連結されたプロモーターを含み得る。動物細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、CMV、RSV、SV40などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。酵母で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0075】
宿主細胞として、動物細胞、昆虫細胞又は酵母を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、エンハンサー配列、本発明の抗体又はその重鎖若しくは軽鎖をコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0076】
<本発明の形質転換された宿主細胞>
本発明の形質転換された宿主細胞には、以下の(a)~(d)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる:
(a)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトCD73抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0077】
本発明の形質転換された宿主細胞には、以下の(a)~(d)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる:
(a)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトCD73抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0078】
本発明の形質転換された宿主細胞には、以下の(a)~(d)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる:
(a)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0079】
本発明の形質転換された宿主細胞の例としては、本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、並びに、本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞が挙げられる。
【0080】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、抗体又は融合体を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換する宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHOK1SV細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられる。1つの実施形態において、CHOK1SV細胞、CHO-DG44細胞、HEK293細胞、NS0細胞等の培養細胞を宿主細胞として使用することができる。
【0081】
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
【0082】
<本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法及び該方法により生産できる抗ヒトCD73抗体又はその融合体>
本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法には、以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を生産する方法が含まれる:
(a)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)本発明の抗ヒトCD73抗体のVHをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗体のVLをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0083】
本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法には、以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体又はその融合体を生産する方法が含まれる:
(a)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)本発明の抗ヒトCD73抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0084】
本発明の融合体を生産する方法には、以下の(a)~(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体の融合体を発現させる工程を包含する、抗ヒトCD73抗体の融合体を生産する方法が含まれる:
(a)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)本発明の融合体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該融合体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0085】
本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を発現させる工程を包含している限り、特に限定されるものではない。該方法で使用される宿主細胞の例としては、前述の本発明の形質転換された宿主細胞が挙げられる。
【0086】
形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。宿主細胞が動物細胞の場合、培地としては、例えば、約5~20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science、1959、Vol.130、p.432-437)、DMEM培地(Virol.、1959、Vol.8、p.396)、RPMI1640培地(J Am Med Assoc.、1967、Vol.199、p.519)、199培地(Exp Biol Med.、1950、Vol.73、p.1-8)等を用いることができる。培地のpHは、例えば、約6~8であり、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約30~40℃で約15~336時間行われる。宿主細胞が昆虫細胞の場合、培地としては、例えば、胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc Natl Acad Sci USA.、1985、Vol.82、p.8404)等を用いることができる。培地のpHは、例えば、約5~8であり、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20~40℃で約15~100時間行われる。宿主細胞が大腸菌又は酵母である場合、培地としては、例えば、栄養源を含有する液体培地が適当である。栄養培地は、例えば、形質転換された宿主細胞の生育に必要な炭素源、無機窒素源、又は有機窒素源を含んでいる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖等が、無機窒素源又は有機窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が挙げられる。所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類)、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン)等を含んでいてもよい。培地のpHは、例えば、約5~8である。宿主細胞が大腸菌の場合、培地としては、例えば、LB培地、M9培地(Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory、Vol.3、A2.2)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約14~43℃で約3~24時間行われる。宿主細胞が酵母の場合、培地としては、例えば、Burkholder最小培地(Proc Natl Acad Sci USA.、1980、Vol.77、p.4505)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20~35℃で約14~144時間行われる。上述のような培養により、本発明の抗ヒトCD73抗体を発現させることができる。
【0087】
本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を発現させる工程に加えて、さらには、該形質転換された宿主細胞から抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体を回収、単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。1つの実施形態において、培養上清中に蓄積された抗体は、各種クロマトグラフィー、例えば、プロテインAカラム又はプロテインGカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0088】
本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体には、本発明の抗ヒトCD73抗体又は本発明の融合体を生産する方法で生産された抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又はそれらのいずれかの融合体も含まれる。
【0089】
<本発明の医薬組成物>
本発明の医薬組成物には、本発明の抗ヒトCD73抗体、その抗原結合フラグメント又は本発明の融合体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、添加剤等を使用することができる。
【0090】
本発明の医薬組成物は、複数種の本発明の抗ヒトCD73抗体を含み得る。例えば、C末端リジンの欠失及びN末端のピログルタミル化を受けていない抗体又はその抗原結合フラグメント、及び/あるいは、C末端リジンの欠失及び/又はN末端のピログルタミル化を受けた抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物も本発明に含まれる。
【0091】
本発明の医薬組成物は、複数種の本発明の融合体を含み得る。例えば、C末端リジンの欠失及びN末端のピログルタミル化を受けていない融合体、及び/あるいは、C末端リジンの欠失及び/又はN末端のピログルタミル化を受けた融合体を含有する医薬組成物も本発明に含まれる。
【0092】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメント、並びに、該抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントの翻訳後修飾により生じた抗ヒトCD73抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する。
【0093】
本発明の医薬組成物には、重鎖C末端リジンの欠失抗体、N末端のピログルタミル化を受けた抗体又はその抗原結合フラグメント、重鎖C末端リジンを欠失しN末端のピログルタミル化を受けた抗体、及び/あるいは重鎖C末端リジンを有しN末端のピログルタミル化を受けていない抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物も含まれる。
【0094】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体、該抗ヒトCD73抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む抗ヒトCD73抗体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0095】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体の融合体、該融合体の翻訳後修飾により生じた融合体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む融合体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0096】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体の融合体、該融合体の翻訳後修飾により生じた融合体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む融合体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0097】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体の融合体、該融合体の翻訳後修飾により生じた融合体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む融合体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0098】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトCD73抗体の融合体、該融合体の翻訳後修飾により生じた融合体のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む融合体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0099】
製剤化における本発明の抗ヒトCD73抗体、融合体及び修飾体の添加量は、患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、あるいは抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.001mg/kg~100mg/kg程度を用いることができる。
【0100】
本発明の医薬組成物は、がんの治療剤として用いることができる。
【0101】
本発明には、本発明の抗ヒトCD73抗体、融合体又は修飾体を含む、がんの予防又は治療用医薬組成物が含まれる。また、本発明には、本発明の抗ヒトCD73抗体、融合体又は修飾体の治療有効量を投与する工程を包含する、がんを治療又は予防する方法が含まれる。また、本発明には、がんの予防又は治療に使用するための、本発明の抗ヒトCD73抗体、融合体及び修飾体が含まれる。また、本発明には、がんの予防又は治療用医薬組成物の製造における、本発明の抗ヒトCD73抗体、融合体及び修飾体の使用が含まれる。本発明による予防又は治療の対象となるがんは、特に限定されないが、例えば肺癌、大腸癌、副腎皮質癌、乳癌、悪性黒色腫、膠芽腫、卵巣癌、髄芽腫、膀胱癌、胃癌、膵癌、慢性骨髄性白血病、皮膚T細胞リンパ腫、グリア芽腫、頭頸部癌、甲状腺癌、又は前立腺癌等が挙げられる。
【0102】
本発明についてさらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0103】
特に断りがない場合は、公知の方法に従って実施可能である。また、市販の試薬やキット等を用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
【0104】
[実施例1:抗ヒトCD73抗体の作製]
ヒトモノクローナル抗体開発技術「ベロシミューン」(VelocImmune antibody technology;Regeneron社(米国特許6596541号))マウスを用いて抗ヒトCD73抗体を作製した。当該技術により取得される抗体は、可変領域がヒト由来、定常領域がマウス由来のキメラ抗体である。ベロシミューンマウスに、免疫反応を惹起するアジュバントと共に、ヒトCD73蛋白質を免疫した。ヒトCD73蛋白質は以下の手法によって調製した。遺伝子工学的手法によってヒトCD73遺伝子(ORIGENE社 RC209568)の塩基番号1から1641までの塩基配列の3’末端に対しHisTag配列(His×6)及び終止コドンをコードする塩基配列を付加し、哺乳類細胞発現用ベクターに挿入したものを発現ベクターとした。発現ベクターをExpi293FTM細胞(Thermo Fisher Scientific社)にトランスフェクションし、回収した上清からヒトCD73及びHisTagの融合蛋白質(ヒトCD73-His蛋白質)を精製した。精製したヒトCD73-His蛋白質をマウスへ数回免疫した後に、定法に従いハイブリドーマを作製した。そしてハイブリドーマ上清より精製した抗体を用いて、ヒトCD73酵素活性を阻害する機能を有する抗体を産生するハイブリドーマクローンを選抜した。その後ハイブリドーマクローンから抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子をクローニングした。遺伝子クローニングは定法に従い、ハイブリドーマの抽出RNAより作製したcDNAの抗体遺伝子配列を解析して配列決定を行った。さらにアミノ酸配列を解析し、Kabatらのデータベース(Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、Fifth Edition、NIH Publication No.91-3242)を参照してCDR配列及びFR配列を決定した。一部のクローンは物性及び安定性向上のため、重鎖及び軽鎖FRをそれぞれ他のヒト抗体重鎖及び軽鎖のFRと置き換えた。置換した抗体配列のVH及びVLをそれぞれPCR法によってヒトIgγ1定常領域(一部のクローンには、L234A、L235A及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域)、ヒトIgκ定常領域と連結し、哺乳類細胞発現用ベクターであるGSベクター(Lonza Biologics社)へ挿入して発現ベクターを構築した。具体的には抗体の重鎖可変領域遺伝子の5’側にシグナル配列(Protein Eng.、1987、Vol.1、p.499-505)をコードする遺伝子を、そして3’側にヒトIgγ1定常領域をコードする遺伝子をそれぞれ繋げ、この重鎖遺伝子をGSベクターpEE6.4に挿入した。また軽鎖可変領域遺伝子の5’側にシグナル配列(Protein Eng.、1987、Vol.1、p.499-505)をコードする遺伝子を、そして3’側にヒトκ鎖の定常領域遺伝子をそれぞれ繋げ、この軽鎖遺伝子をGSベクターpEE12.4に挿入した。
【0105】
これらの抗体重鎖及び抗体軽鎖を含む発現ベクターを用いて一過性発現あるいは安定発現株により精製抗体を取得した。一過性発現に関して具体的にはMaxCyte STX(商品名)(MaxCyte社)を用いて前述の抗体重鎖及び抗体軽鎖の両発現ベクターをCHOK1SV細胞(Lonza Biologics社)にトランスフェクションし、約7日間培養した。一過性発現あるいは安定発現株の培養上清をMabSelect SuRe(GE Healthcare社)、Vivapure(商品名) Q Maxi H(Sartorius社)等を用いて精製し、精製抗体を得た。
【0106】
複数の精製抗体の中からヒトCD73酵素活性を阻害する機能を有するクローンを選抜したところ、CDS-1と命名した抗ヒトCD73抗体が最も強く酵素活性を阻害することが明らかとなった。
【0107】
CDS-1の重鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号1に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に、該抗体の軽鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。
【0108】
CDS-1のVHは、配列番号2のアミノ酸番号1から123までのアミノ酸配列からなり、重鎖のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号2のアミノ酸番号31から35、50から66、99から112までのアミノ酸配列からなる。当該抗体のVLは、配列番号4のアミノ酸番号1から109までのアミノ酸配列からなり、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号4のアミノ酸番号24から34、50から56、89から98までのアミノ酸配列からなる。
【0109】
CDS-1の重鎖のC末端側にヒトIL-7を融合した融合体を取得し、CDS-3と命名した。CDS-3の重鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-7をコードする塩基配列を配列番号5及び6に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号7に、該融合体の軽鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号3及び8に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。CDS-3の重鎖は、配列番号7のアミノ酸番号464から615までのアミノ酸配列からなるヒトIL-7のアミノ酸配列を、該配列番号のアミノ酸番号454から463までのアミノ酸配列からなるリンカーを介してCDS-1の重鎖のC末端側に融合したアミノ酸配列からなる。
【0110】
CDS-1の重鎖のC末端側にヒトIL-7改変体を融合した融合体を取得し、CDS-6と命名した。CDS-6の重鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-7改変体をコードする塩基配列を配列番号9及び16に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号10に、該融合体の軽鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号3及び8に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。CDS-6の重鎖は、配列番号10のアミノ酸番号464から615までのアミノ酸配列からなるヒトIL-7改変体のアミノ酸配列を、該配列番号のアミノ酸番号454から463までのアミノ酸配列からなるリンカーを介してCDS-1の重鎖のC末端側に融合したアミノ酸配列からなる。
【0111】
CDS-1の軽鎖のC末端側にヒトIL-21を融合した融合体を取得し、CDS-7と命名した。CDS-7の重鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号11に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に、該融合体の軽鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-21をコードする塩基配列を配列番号12に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号13にそれぞれ示す。CDS-7の軽鎖は、配列番号13のアミノ酸番号226から358までのアミノ酸配列からなるヒトIL-21のアミノ酸配列を、該配列番号のアミノ酸番号216から225までのアミノ酸配列からなるリンカーを介してCDS-1の軽鎖のC末端側に融合したアミノ酸配列からなる。
【0112】
CDS-1の軽鎖のC末端側にヒトIL-21改変体を融合した融合体を取得し、CDS-8と命名した。CDS-8の重鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列を配列番号11に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に、該融合体の軽鎖の、Kabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-21改変体をコードする塩基配列を配列番号14に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号15にそれぞれ示す。CDS-8の軽鎖は、配列番号15のアミノ酸番号226から358までのアミノ酸配列からなるヒトIL-21改変体のアミノ酸配列を、該配列番号のアミノ酸番号216から225までのアミノ酸配列からなるリンカーを介してCDS-1の軽鎖のC末端側に融合したアミノ酸配列からなる。
【0113】
精製CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8は、前述の方法に従って取得された。
【0114】
特許文献1のFig.1C及びFig.1Dに示される情報を基に、MEDI9447と命名された抗体を発現する発現ベクターを作製した。特許文献2の配列番号21及び配列番号22で示される情報を基に、6E1と命名された抗体を発現する発現ベクターを作製した。特許文献3の配列番号133及び配列番号102で示される情報を基に、CD73.4IgG2CS-IgG1.1fと命名された抗体を発現する発現ベクターを作製した。これらの発現ベクターには、定法に従ってシグナル配列をコードする遺伝子を挿入した。
【0115】
MEDI9447、CD73.4IgG2CS-IgG1.1f及び6E1は、定法に従って精製抗体を取得し、比較対照として用いた。
【0116】
精製したCDS-1、CDS-7及びCDS-8のアミノ酸修飾を分析した結果、精製抗体の大部分において、重鎖C末端のリジンの欠失が生じていた。
【0117】
精製したCDS-3のアミノ酸修飾を分析した結果、重鎖は配列番号7に、軽鎖は配列番号4に相当する配列であった。
【0118】
精製したCDS-6のアミノ酸修飾を分析した結果、軽鎖は配列番号4に相当する配列であった。重鎖は完全に糖鎖切断が出来なかったためアミノ酸修飾の種類は特定できていない。
【0119】
[実施例2:抗ヒトCD73抗体のヒトCD73蛋白質に対する結合活性の評価]
実施例1で取得したCDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8のヒトCD73に対する結合活性を評価するために、ヒトCD73蛋白質を用いてELISAを行った。マキシソープ384ウェルプレートクリアー(Thermo Fisher Scientific社)にPBS(ライフテクノロジーズ社)で4μg/mLの濃度に希釈したヒトCD73蛋白質(BPS Bioscience社、71184)を20μL/ウェル添加し、4℃で一晩固相化した。翌日洗浄液(0.05% Tween-20含有トリス緩衝生理食塩水(TBS))で1回ウェルを洗浄し、Blocking One(ナカライテスク社)を100μL/ウェル添加して室温で30分ブロッキングを行った。再び洗浄液で1回洗浄し、実施例1で作製した精製CDS-1、精製CDS-3、精製CDS-6、精製CDS-7及び精製CDS-8をそれぞれ20μL/ウェル添加した。これらの精製抗体の希釈はPBS及びBlocking Oneを等量混合した反応緩衝液を用いて行い、10μg/mLから56pg/mLまで12段階に希釈した。室温で1時間反応した後に洗浄液で3回洗浄を行った。Human IgG-heavy and light chain cross-adsorbed Antibody(Bethyl Laboratories社、A80-219P)を4000倍に反応緩衝液で希釈したものを20μL/ウェル添加し、室温で1時間反応した。洗浄液で3回洗浄し、TMB+substrate-chromogen(DAKO社、S1599)を20μL/ウェル添加した。5分後に1M硫酸(和光純薬工業社)を20μL/ウェル添加して反応を停止した。Infinite M200 PRO(TECAN社)で吸光度450nm及び540nmを測定し、CDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8のヒトCD73蛋白質に対するEC
50値を算出した。EC
50値算出にあたっては、縦軸を吸光度450nmと540nmの測定値の差、横軸を抗体濃度値とし、グラフ上に描いたシグモイド曲線の形状から、抗体濃度の上昇に伴い測定値が収束値に達したと判断できる測定値を100%、抗体濃度の下降に伴い測定値が収束値に達したと判断できる測定値を0%に設定した。本アッセイは独立して試行を行い、EC
50値を4パラメーターロジスティック曲線回帰により算出した(表1)。
【表1】
【0120】
その結果、CDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8はヒトCD73蛋白質に結合することが明らかとなった。
【0121】
[実施例3:抗ヒトCD73抗体のヒトCD73蛋白質に対する酵素阻害活性の評価]
実施例1で取得したCDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8が、ヒトCD73が持つ酵素活性を阻害することを評価するため、ヒトCD73蛋白質を用いた酵素アッセイを実施した。本実施例では、比較対照としてMEDI9447、CD73.4IgG2CS-IgG1.1f及び6E1を用いた。5mM塩化マグネシウム含有25mMトリス緩衝生理食塩水を塩酸でpH7.5に調製し、アッセイバッファーとした。96ウェルアッセイプレートクリアー(Corning社)にアッセイバッファーで終濃度15ng/mLとなるように調製したヒトCD73蛋白質(R&D systems社、5795-EN)と、アッセイバッファーで希釈した精製CDS-1、精製CDS-3、精製CDS-6、精製CDS-7、精製CDS-8、精製MEDI9447、精製CD73.4IgG2CS-IgG1.1f及び精製6E1をそれぞれ20μL/ウェル添加して室温で30分反応した。これらの精製抗体の希釈はアッセイバッファーを用いて行い、終濃度20μg/mLから0.339ng/mLとなるように11段階に希釈した。アッセイバッファーで希釈したAMP(Sigma-Aldrich社、A1752-1G)を終濃度30μMとなるように20μL/ウェル添加し室温で45分反応した。アセトニトリルを60μL/ウェル添加することで反応を停止し、LC/MS(LC:島津製作所社 SIL-HTcあるいはWaters社 Acquity UPLC I-Class、カラム:Agilent Technologies社、ZORBAX SB-Aq 1.8μm 2.1×30mm、MS:AB Sciex社 API4000)によりアデノシン濃度を測定した。測定したアデノシン濃度を元にCDS-1等のヒトCD73酵素活性に対する阻害を、算出したEC
50値に基づき評価した。EC
50値算出にあたっては、縦軸を測定したアデノシン濃度値、横軸を抗体濃度値とし、グラフ上に描いたシグモイド曲線の形状から、抗体濃度の上昇に伴いアデノシン濃度値が収束値に達したと判断できるアデノシン濃度値を0%、抗体濃度の下降に伴いアデノシン濃度値が収束値に達したと判断できるアデノシン濃度値を100%に設定した。本アッセイは独立して試行を行い、EC
50値を4パラメーターロジスティック曲線回帰により算出した(表2)。非特許文献1で報告されていた通り、MEDI9447はベルシェイプ型の阻害を示すという特徴を有していた(
図1)。また、CDS-1の抗体濃度の上昇に伴うアデノシン濃度値の収束値と比較してCD73.4IgG2CS-IgG1.1fの収束値は高い値を示した。
【表2】
【0122】
その結果、CDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8はヒトCD73蛋白質の酵素活性を阻害することが明らかとなった。
【0123】
[実施例4:抗ヒトCD73抗体のヒトCD73発現細胞における酵素阻害活性の評価]
実施例1で取得したCDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8のヒトCD73が持つ酵素活性を阻害することを評価するため、ヒトCD73を内在的に発現する癌細胞株NCI-H1373(ATCC:CRL-5866)を用いた酵素アッセイを実施した。NCI-H1373細胞をPBS(ライフテクノロジーズ社)で懸濁し、最終的な細胞密度が4×10
4cells/ウェルとなるように96ウェルV底プレート(住友ベークライト社)に30μL/ウェルで播種した。その後すぐに精製CDS-1、精製CDS-3、精製CDS-6、精製CDS-7及び精製CDS-8をそれぞれ10μL/ウェル添加した。これらの精製抗体の希釈はPBSを用いて行い、終濃度50.0μg/mLから0.847ng/mLとなるように11段階に希釈した。室温で30分反応した後に、AMP(Sigma-Aldrich社)を終濃度180μMとなるように10μL/ウェル添加した。室温で30分反応した後に、プレートを4℃、340×gで2分間遠心した。遠心したプレートから新たに用意した96ウェルV底プレート(住友ベークライト社)に上清を15μL/ウェル移し、アセトニトリルを15μL/ウェル添加した。LC/MS(実施例3に記載)によりアデノシン濃度を測定し、CDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8のヒトCD73酵素活性に対する阻害を、算出したEC
50値に基づき評価した。本アッセイは独立して試行を行い、実施例3に記載の算出方法によりEC
50値を算出した(表3)。
【表3】
【0124】
その結果、CDS-1、CDS-3、CDS-6、CDS-7及びCDS-8はNCI-H1373細胞におけるヒトCD73の酵素活性を阻害することが明らかとなった。
【0125】
[実施例5:抗ヒトCD73抗体のAMP依存的に抑制されたヒトT細胞機能回復の評価]
実施例1で取得したCDS-1によるAMP依存的に抑制されたヒトT細胞機能回復を評価するため、ヒトCD73を発現するヒトT細胞を用いたアッセイを実施した。本アッセイは、ヒトT細胞機能の回復を指標として、AMPによって抑制されていた免疫系細胞の機能を回復させることで抗腫瘍免疫を活性化させる抗体の評価が可能である。本実施例では、比較対照としてMEDI9447、6E1及びCD73.4IgG2CS-IgG1.1fを用いた。ヒト末梢血単核細胞(AllCells社、PB003F)からPan T Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec社、130-096-535)を用いてヒトT細胞を単離し、TexMACS
TM培地(Miltenyi Biotec社、130-097-196)で懸濁後、最終的な細胞密度が1×10
5cells/ウェルとなるよう96ウェル平底プレート(AGC TECHNO GLASS社)に50μL/ウェルで播種した。その後すぐに精製CDS-1、精製MEDI9447、精製6E1及び精製CD73.4IgG2CS-IgG1.1fをそれぞれ25μL/ウェル添加した。これら精製抗体の希釈はTexMACS
TM培地を用いて行い、終濃度15μg/mLから0.05ng/mLとなるように12段階に希釈した。さらにAMP(Sigma-Aldrich社)を終濃度250μMとなるように50μL/ウェル添加した。その後すぐにDynabeads Human T‐Activator CD3/CD28(Thermo Fisher Scientific社、11131D)を終濃度1×10
5dynabeads/ウェルとなるように50μL/ウェル添加した。そして各ウェルの反応溶液が200μLとなるようにTexMACS
TM培地を添加し、37℃、5%CO
2インキュベータ内で3日間培養した。3日後の培養上清を100μL回収し、AlphaLISA(商品名) IFNγ Immunoassay kit(PerkinElmer社、AL217C)のプロトコルに基づき、上清中のインターフェロンγ(IFNγ)濃度を測定した。またヒトT細胞の増殖を解析するため、CellTiter-Blue(商品名) Cell Viability Assay(Promega社、G8081)のプロトコルに基づき、上清100μLを除いた前述のプレートにCellTiter-Blue Reagentを20μL/ウェル添加した。EnVision
TM(PerkinElmer社)を用いて4時間後に各ウェルの蛍光を測定した(励起波長560nm/蛍光波長590nm)。AMP依存的に抑制されたヒトT細胞の機能をCDS-1が回復させることを、IFNγの濃度及びヒトT細胞の増殖を指標に算出したEC
50値に基づき評価した。EC
50値算出にあたっては、縦軸を測定値から算出したIFNγ濃度値あるいは蛍光値、横軸を抗体濃度値とし、グラフ上に描いたシグモイド曲線の形状から、抗体濃度の上昇に伴いIFNγ濃度値あるいは蛍光値が収束値に達したと判断できる測定値を100%、抗体濃度の下降に伴いIFNγ濃度値あるいは蛍光値が収束値に達したと判断できる測定値を0%に設定した。IFNγ及びヒトT細胞の増殖を指標に4パラメーターロジスティック曲線回帰によりEC
50値を算出した(表4)。比較対象のうち、CDS-1の抗体濃度の上昇に伴うIFNγ濃度値及びヒトT細胞の増殖値の収束値に対しCD73.4IgG2CS-IgG1.1fの収束値が低かったため、また、MEDI9447はシグモイド曲線を描かなかったため、CD73.4IgG2CS-IgG1.1fとMEDI9447のCDS-1と比較可能なEC
50値は算出できなかった(
図2及び
図3)。
【表4】
【0126】
その結果、CDS-1は比較対照として用いたMEDI9447、6E1及びCD73.4IgG2CS-IgG1.1fのいずれの抗体よりも、AMP依存的に抑制されたヒトT細胞機能を強力に回復させることが示され、抗腫瘍免疫を活性化し得ることが明らかとなった。
【0127】
[実施例6:CDS-3及びCDS-6のIL-7生理活性の評価]
実施例1で取得したCDS-3及びCDS-6によるIL-7生理活性を評価するため、ヒトIL-7添加により用量依存的な細胞増殖活性を示す2E8細胞株(ATCC:TIB-239)を用いたアッセイを実施した。本実施例では、Human IgG1 Isotype Control(Enzo Life Sciences社、ALX-804-133-C100)をネガティブコントロールとして用いた。培地は、L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich社)、2-メルカプトエタノール(Thermo Fisher Scientific社)及び非働化した20%ウシ胎児血清(HyClone社)を含有したIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(Sigma-Aldrich社、I3390)を用いた。精製CDS-3、精製CDS-6及びリコンビナントヒトIL-7(Peprotech社、200-07)を384ウェル平底プレート(Thermo Fisher Scientific社)にそれぞれ10μL/ウェル添加した。精製CDS-3、精製CDS-6及びリコンビナントヒトIL-7の希釈は培地を用いて行い、精製CDS-3及び精製CDS-6の分子量は180000として、終濃度100nMから0.001nMとなるように11段階に希釈した。2E8細胞を培地で懸濁し、最終的な細胞密度が2×104cells/ウェルとなるよう40μL/ウェルで播種した。その後すぐに37℃、5%CO2インキュベータ内で3日間培養した。3日後の細胞増殖を解析するため、CellTiter-Glo(商品名) Luminescent Cell Viability Assay(Promega社、G7573)のプロトコルに基づき、前述のプレートにCellTiter-Glo Reagentを50μL/ウェル添加した後、ARVO-HTS(PerkinElmer社)を用いて各ウェルの発光強度を測定した。測定した発光強度を元に精製CDS-3、精製CDS-6及びリコンビナントヒトIL-7の細胞増殖活性を、算出したEC50値に基づき評価した。EC50値算出にあたっては、縦軸を測定した発光強度、横軸を薬剤濃度値とし、100nM リコンビナントヒトIL-7の発光強度値を100%、ネガティブコントロールの発光強度値を0%に設定してシグモイド曲線を描画した。4パラメーターロジスティック曲線回帰により算出した精製CDS-3、精製CDS-6及びリコンビナントヒトIL-7のEC50値は0.050nM、1.8nM及び0.051nMであった。
【0128】
その結果、CDS-3及びCDS-6はIL-7生理活性を有することが明らかとなった。また、CDS-3と比較してCDS-6のIL-7生理活性が低下していることが明らかになった。
【0129】
[実施例7:CDS-7及びCDS-8のIL-21生理活性の評価]
実施例1で取得したCDS-7及びCDS-8のIL-21生理活性を評価するため、ヒトIL-21濃度依存的にSTAT3リン酸化が誘導されるヒト細胞株Ramos(ATCC:CRL-1596)を用いたアッセイを実施した。RPMI培地(Sigma-Aldrich社、R8758)を用いてRamos細胞をディッシュに播種し、37℃、5%CO2インキュベータ内で16時間培養した。Ramos細胞を回収後、前述の培地で懸濁し、最終的な細胞密度が2×105cells/ウェルとなるよう96ウェルプレート(日本ジェネティクス社、35800)に45μL/ウェルで播種し、精製CDS-7、精製CDS-8又はリコンビナントヒトIL-21(Peprotech社、200-21)をそれぞれ5μL/ウェル添加して反応させた。精製CDS-7、精製CDS-8及びリコンビナントヒトIL-21の希釈はPBS(ライフテクノロジーズ社)を用いて行い、精製CDS-7及び精製CDS-8の分子量は180000として、終濃度1200nMから0.02nMとなるように11段階、又は400nMから0.02nMとなるように10段階に希釈した。37℃で30分間反応させた後、全量を、予めFix Buffer I(BD Biosciences社、557870)を200μL/ウェル添加しておいた96ウェル丸底プレート(Corning社、351177)に移し、37℃で10分間反応させて細胞を固定した。染色バッファーで洗浄後、Perm Buffer III(BD Biosciences社、558050)を200μL/ウェル添加し、氷上で30分間反応させて細胞を透過処理した。染色バッファーとしては、Stain Buffer(FBS)(BD Biosciences社、554656)を用いた。前述の染色バッファーで洗浄し懸濁した後、PE Mouse Anti-Stat3(pY705)(BD Biosciences社、562072)を用いてリン酸化STAT3を染色した後、FACSArrayTM(BD Biosciences社)を用いて細胞の蛍光強度を測定した。蛍光強度としてはGeometric MFI値を用いた。測定した蛍光強度を元に精製CDS-7、精製CDS-8及びリコンビナントヒトIL-21のEC50値を算出し、STAT3リン酸化誘導活性を評価した。EC50値算出にあたっては、縦軸を測定した蛍光強度、横軸を薬剤濃度値とし、グラフ上に描いたシグモイド曲線の形状から、薬剤濃度の上昇に伴い収束値に達したと判断できる蛍光強度値を100%、薬剤濃度の下降に伴い収束値に達したと判断できる蛍光強度値を0%に設定した。4パラメーターロジスティック曲線回帰により算出した精製CDS-7、精製CDS-8及びリコンビナントヒトIL-21のEC50値は1.3nM、28.3nM及び8.0nMであった。
【0130】
その結果、CDS-7及びCDS-8はIL-21生理活性を有することが明らかとなった。また、CDS-7と比較してCDS-8のIL-21生理活性が低下していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の抗ヒトCD73抗体及びその融合体は、がんの予防又は治療に有用であると期待される。また、本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された宿主細胞、及び抗体を生産する方法は、前記抗ヒトCD73抗体及びその融合体を産生するのに有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0132】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号1及び3で示される塩基配列は、それぞれCDS-1の重鎖及び軽鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列であり、配列表の配列番号2及び4で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1及び3によりコードされる重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号5又は6で示される塩基配列は、CDS-3の重鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-7をコードする塩基配列であり、配列表の配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号5又は6によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号8で示される塩基配列は、CDS-3の軽鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列である。配列表の配列番号9又は16で示される塩基配列は、CDS-6の重鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-7改変体をコードする塩基配列であり、配列表の配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号9又は16によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号11で示される塩基配列は、CDS-7の重鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までをコードする塩基配列である。配列表の配列番号12で示される塩基配列は、CDS-7の軽鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-21をコードする塩基配列であり、配列表の配列番号13で示されるアミノ酸配列は、配列番号12によりコードされる軽鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号14で示される塩基配列は、CDS-8の軽鎖のKabatナンバリングに従う可変領域の残基番号1から定常領域のC末端までとリンカーを介したヒトIL-21改変体をコードする塩基配列であり、配列表の配列番号15で示されるアミノ酸配列は、配列番号14によりコードされる軽鎖のアミノ酸配列である。
【配列表】