(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】被覆部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/503 20060101AFI20220107BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20220107BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20220107BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C23C16/503
C23C16/26
C01B32/205
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2019039889
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 和之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 康弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴規
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-207718(JP,A)
【文献】特開平11-012735(JP,A)
【文献】特開2010-126734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/503
C23C 16/26
C01B 32/205
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面が導電性炭素膜で被覆された被覆部材の製造方法であって、
誘電体バリア放電で生じたプラズマを用いた化学蒸着により該導電性炭素膜を成膜する成膜工程を備え、
該誘電体バリア放電は、誘電体表面から部材表面までの距離である放電距離(d/mm)と放電雰囲気のガス圧(P/kPa)とで、電極への印加電圧のピーク値(Vp/kV)を除して求まる放電指標値(Vp/P・d)が0.04(V/Pa・mm)以上となる条件下でなされ、
該化学蒸着は、少なくとも窒素ガスと炭化水素ガスを含む原料ガスを供給しつつ、該部材を400℃以上に加熱してなされる被覆部材の製造方法。
【請求項2】
前記印加電圧は、周波数が1k~20kHzである交流電圧またはパルス電圧である請求項1に記載の被覆部材の製造方法。
【請求項3】
前記ピーク値は、2k~30kVである請求項1または2に記載の被覆部材の製造方法。
【請求項4】
前記ガス圧は、1k~110kPaである請求項1~3のいずれかに記載の被覆部材の製造方法。
【請求項5】
前記放電距離は、1~10mmである請求項1~4のいずれかに記載の被覆部材の製造方法。
【請求項6】
前記炭化水素ガスは、メタン、エタン、プロパン、エチレンまたはアセチレンの一種以上を含む請求項1~5のいずれかに記載の被覆部材の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスは、さらに、希ガスを含む請求項1~6のいずれかに記載の被覆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性炭素膜で被覆された被覆部材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
各特性の向上や新機能の付与等を目的として、部材表面に被膜が設けられる。例えば、摺動特性(耐摩耗性、低摩擦化等)や耐食性等の向上を目的として、金属部材の表面に非晶質炭素膜(いわゆる「DLC(Diamond-like Carbon)膜」)が成膜される。また、光電変換素子等の電子デバイスには、導電性を付与するために、酸化亜鉛からなる透明導電膜が被覆される。これらに関連する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5217243号公報
【文献】特開2012-62548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、燃料電池用セパレータ等を想定して、耐食性および導電性を有する非晶質炭素膜で部材表面を被覆することを提案している。特許文献1では、真空雰囲気(約450Pa程度)の下で行う低圧プラズマCVD法により、非晶質炭素膜を成膜している。このような高真空雰囲気下の成膜は、設備コストの増大を招いたり、部材の真空炉への搬出入工程を必要とするため、低コストが要求される量産には向かない。
【0005】
特許文献2は、量産に適した大気圧プラズマCVD法により、透明導電膜を成膜することを提案している。もっとも、特許文献2は、電子デバイス等に用いられる酸化亜鉛からなる酸化物透明導電膜の成膜だけを対象としている。また、特許文献2は、その成膜条件として、実質的に一条件を示しているだけである。当然、そのような条件は、導電性炭素膜の成膜に適用できるものではない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、導電性炭素膜で被覆された被覆部材の新たな製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、誘電体バリヤ放電(DBD:Dielectric barrier discharge)と化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)を用いて導電性炭素膜を成膜することを着想した。これを実現すべく、低抵抗率な導電性炭素膜が得られる特定の条件を新たに見出した。これらの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《被覆部材の製造方法》
本発明は、部材の表面が導電性炭素膜で被覆された被覆部材の製造方法であって、誘電体バリア放電で生じたプラズマを用いた化学蒸着により該導電性炭素膜を成膜する成膜工程を備え、該誘電体バリア放電は、誘電体表面から部材表面までの距離である放電距離(d/mm)と放電雰囲気のガス圧(P/kPa)とで、電極への印加電圧のピーク値(Vp/kV)を除して求まる放電指標値(Vp/P・d)が0.04(V/Pa・mm)以上となる条件下でなされ、該化学蒸着は、少なくとも窒素ガスと炭化水素ガスを含む原料ガスを供給しつつ、該部材を400℃以上に加熱してなされる被覆部材の製造方法である。
【0009】
本発明の製造方法によれば、高真空な雰囲気等を用意するまでもなく、導電性炭素膜(単に「炭素膜」ともいう。)で被覆された被覆部材を効率的に得られる。このような炭素膜が得られる機序は必ずしも定かではないが、現状、次のように推察される。放電指標値が所定値以上になると、原料ガス中の炭化水素ガスと窒素ガスをプラズマ中で分解するために必要な高エネルギー電子が得られる。プラズマ中で分解された炭化水素活性種は、所定温度以上に加熱された部材表面で結合する。このとき、隣接するC-H結合同士のクロスリンク反応により、水素が脱離し、炭素間結合網が発達する。こうして、水素が少なく緻密で、sp2混成軌道を有する炭素(Csp2)により高導電性が付与された炭素膜が得られるようになったと考えられる。
【0010】
《被覆部材》
本発明は、上述した製造方法により得られた被覆部材としても把握できる。本発明の被覆部材によれば、部材を構成する基材自体が高抵抗でも、優れた導電性を確保できる。また、表面が炭素膜で被覆された被覆部材は、通常、耐食性や摺動性等にも優れると考えられる。
【0011】
《成膜装置》
本発明は、誘電体バリア放電で生じたプラズマを用いた化学蒸着により導電性炭素膜を、部材の表面に成膜する成膜装置としても把握できる。この成膜装置は、上述した条件下で運転(稼働)されると好ましい。
【0012】
《その他》
(1)本明細書でいう「導電性」は、導電性炭素膜で被覆された部材の抵抗率が、その部材を構成する基材自体(炭素膜がない状態)の抵抗率よりも低ければ足る。敢えていうと導電性は、接触抵抗率により指標され、500mΩ/cm2以下、100mΩ/cm2以下さらには50mΩ/cm2以下であるとよい。なお、接触抵抗率の算出方法については後述する。
【0013】
本明細書でいう準大気圧(P)は、大気圧(P0)未満で、大気圧の1/100(0.01P0)以上の圧力(P0>P≧0.01P0)、さらには大気圧の1/10(0.1P0)以上の圧力(P0>P≧0.1P0)である。例えば、大気圧が標準気圧(P0=1.01325×105Pa≒1×105Pa)なら、準大気圧(P)は概ね、1×105Pa>P≧1×103Pa、さらには1×105Pa>P≧1×104Paの範囲と考えればよい。
【0014】
(2)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~ykHz」は、特に断らない限り、xkHz~ykHzを意味する。他の単位系(kPa、kV、mm、sccm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】各試料に係る放電指標値(Vp/P・d)と接触抵抗率の関係を示すグラフである。
【
図3】試料5と試料C1に係る炭素膜のラマンスペクトルである。
【
図4】接触抵抗の測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法(製造方法、成膜方法等)としてのみならず、物(被覆部材、成膜装置等)にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《誘電体バリア放電》
(1)誘電体バリア放電は、電極間に誘電体(誘電層を含む。)を介装し、少なくとも一方の電極へ交流電圧またはパルス電圧を印加してなされる。部材(ワーク)または部材を載置するステージを電極としてもよい。いずれにしても、対面する誘電体表面と部材の成膜面の間が、放電を生じる放電空間となる。なお、部材やステージは、例えば、接地されているとよい。
【0018】
ちなみに、誘電体バリア放電は、通常、パルス的な放電であり、電極等のジュール加熱を抑制しつつ、非熱平衡プラズマを安定的に実現し得る。その放電自体は、ストリーマ(微細な放電柱)の集合体からなるマイクロ放電(状)でも、グロー放電(状)でもよい。グロー放電であると、成膜に必要となるプラズマが均一的または安定的に生成されて好ましい。
【0019】
(2)誘電体バリア放電は、放電指標値(Vp/P・d)が0.04(V/Pa・mm)以上、0.05(V/Pa・mm)以上さらには0.07(V/Pa・mm)以上でなされるとよい。放電指標値が過小では、プラズマの発生(プラズマ密度、放電電流)が不十分となり、炭素膜の抵抗率が上昇する。放電指標値は大きくてもよいが、その実現には高電圧や高真空が必要となる。そこで放電指標値は0.2(V/Pa・mm)以下さらには0.15(V/Pa・mm)以下であるとよい。
【0020】
(3)電極へ印加する電圧のピーク値(Vp)は、上述した放電指標値が得られる範囲内で適宜調整される。ピーク値は、例えば、2~30kV、3~20kV、5~15kVである。ここでピーク値は、最大電圧値と最小電圧値の電圧差(ピーク・ピーク値)である。印加電圧は交流電圧またはパルス電圧であるとよい。その周波数は、例えば、1~20kHzさらには5~15kHzである。なお、交流電圧の中央の電圧値(変動幅の1/2の電圧)またはパルス電圧の最小電圧値は0Vでなくてもよい。
【0021】
(4)放電雰囲気のガス圧(P)も、上述した放電指標値が得られる範囲内で適宜調整される。ガス圧は、例えば、1~110kPa、10~100kPaさらには15~75kPaである。ガス圧が過小では、高真空が必要となり、発生するプラズマ密度も低下し得る。ガス圧は大きくてもよいが、高電圧が必要となる。ガス圧は、大気圧から準大気圧の範囲であれば十分である。なお、ガス圧は、チャンバー等の収容体内の気圧により特定されるとよい。放電空間(誘電体表面と部材の成膜面の間の空間)のガス圧を直接的に測定したり制御することは容易ではない。
【0022】
(5)誘電体表面から部材表面(成膜面)までの放電距離(d)も、上述した放電指標値が得られる範囲内で適宜調整される。放電距離は、例えば、1~10mm、2~8mmさらには3~6mmである。放電距離は、対面する誘電体表面と成膜面の最短距離とする。なお、誘電体表面や成膜面は、平面に限らず、曲面や凹凸面でもよい。例えば、部材が円柱状(円筒状)で、その外周面が成膜面なら、誘電体はそれを囲繞する円筒状(つまり誘電体表面は円筒状内周面)とすればよい。なお、放電距離は、対面する誘電体表面と成膜面の位置により変化しても良いが、略一定であると、成膜に必要となるプラズマが均一的または安定的に生成されて好ましい。
【0023】
《化学蒸着》
(1)化学蒸着は、上述した誘電体バリア放電で発生したプラズマを利用してなされるプラズマCVD(単に「PCVD」という。)である。但し、従来の低圧PCVDのように、必ずしも低圧な雰囲気(1kPa未満の真空雰囲気)を必要としない。その雰囲気は、大気圧から準大気圧でもよい。
【0024】
(2)PCVDにより炭素膜を成膜するために、先ず、部材を400℃以上、425℃以上さらには450℃以上に加熱するとよい。成膜対象である部材温度(特に成膜面の温度)が過小では、Hの少ない緻密な炭素膜が形成され難くなる。部材の温度が過大になると、基材の変質、炭素膜と基材との反応等を生じ得る。敢えていうと、部材の加熱温度は800℃以下さらには600℃以下とすればよい。
【0025】
(3)PCVDによる成膜には、放電空間への原料ガスの供給が必要である。原料ガスは、炭素源である炭化水素ガスに加えて窒素ガスを含むとよい。炭化水素ガスは、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレンまたはアセチレンの一種以上を含むとよい。なお、原料ガスは、炭化水素以外の炭素源ガス等を含んでもよい。
【0026】
原料ガス中に窒素ガスが含まれる場合、低抵抗な炭素膜が得られ易い。この理由は、窒素は放電開始電圧が高く、印加電圧(Vp)の高い放電が維持でき、炭化水素の分解が進むと考えられる。
【0027】
原料ガスは、さらに、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe等)を含んでもよい。希ガスは、グロー放電(状)を維持しやすく、プラズマの均一安定化ひいては低抵抗な炭素膜の形成に寄与し得る。
【0028】
放電空間に供給される各ガスの流量は適宜調整される。炭化水素ガス等の炭素源ガスなら、例えば、合計で100~2000sccm(標準条件:1気圧×0℃/以下同様)、さらには250~750sccmとするとよい。窒素ガスなら、例えば、500~4000sccm、さらには1000~3000sccmとするとよい。希ガスを含む場合、その流量は、例えば、100~4000sccm、さらには1000~3000sccmとするとよい。炭素源ガスが過少では、成膜性が低下する。各ガスは多くてもよいが、余剰なガスが増加する。なお、原料ガス中には、少量の不純物(酸素等)が含まれてもよい。
【0029】
《装置》
炭素膜の成膜(被覆部材の製造)を行う成膜装置は、例えば、誘電体を有する電極と、部材を誘電体に対面させて載置できるステージと、放電に必要な電圧を電極へ印加する電源と、少なくとも電極とステージを囲う収容体(チャンバー等)と、放電空間(または収容体内)の気圧を制御する気圧調整手段(排気ポンプ、圧力制御バルブ等)と、放電空間(または収容体内)へ原料ガスを供給するガス供給手段(ガスボンベ、流量制御バルブ等)とを備える。なお、収容体は、必ずしも密閉空間でなくてもよい。また、気圧調整手段は、放電空間(または収容体内)内を準大気圧から大気圧とするものでもよい。また、部材(ワーク)が載置されるステージは、少なくとも部材を加熱するヒーター等の加熱手段を備えるとよい。さらにステージは、部材を移動させる移動手段を備えるとよい。例えば、部材を成膜面に沿った方向へ移動させられると、広範囲に成膜したり、成膜範囲(位置)の調整が可能となる。また、部材を上下方向に移動させられると、放電距離の調整が容易となる。
【0030】
《被覆部材》
被覆部材は、電気・電子分野に限らず、機械分野、化学分野等で用いられる。被覆部材の基材は問わない。基材は、例えば、金属、樹脂等である。被覆部材の一例として、燃料電池用セパレータ等がある。
【実施例】
【0031】
誘電体バリア放電を用いたPCVDにより炭素膜を成膜した試料(被覆部材)を製造した。多数の試料に基づいて、PCVDの条件と炭素膜の接触抵抗率との関係等を評価した。このような具体例を示しつつ、以下に、本発明より具体的に説明する。
【0032】
《成膜装置》
本発明の一実施例である成膜装置M(単に「装置M」という。)の概要を
図1に示した。装置Mは、電極1と、接地されたステージ2と、それらを収容するチャンバー3(収容体)、電源4とを備える。なお、説明の便宜上、上下方向また左右方向は、図中に示した矢印方向とする。
【0033】
電極1は、ステンレス鋼からなる円柱状のベース電極11と、その下面側を覆うアルミナ(Al2O3)からなる誘電体12とからなる。誘電体12は、ベース電極11を内側に収容する円環121と、その下面側を覆う円板122とからなる。このため、円板122の下面である誘電体12の表面12aは円形平面となっている。
【0034】
ステージ2は、ワークw(試料)を載置する基台21と、そのワークwを所望温度に加熱するヒータ22と、基台21を上下方向へ移動させて、後述する放電距離(d)を調整できる昇降機23とを備える。基台21はステンレス鋼製であり、接地されている。ワークw温度は、基台21に内蔵した熱電対(図略)により測定される。その測定温度に基づいて、ヒータ22の加熱量が制御装置(図略)により調整される。
【0035】
チャンバー3は、ステンレス鋼製であり、原料ガスをチャンバー3内へ導入する導入口3aと、チャンバー3内からガスを排出する排気口3bを備える。チャンバー3も接地されている。チャンバー3の内圧(ガス圧:P)は、排気口3bに連なる排気ポンプ(図略)と調圧バルブ(図略)により、準大気圧の範囲内(10~100kPa)に調整される。
【0036】
ステージ2の基台21上に載置されたワークwの表面(成膜面)と誘電体の表面12aとの間に、放電空間sが形成される。放電空間sの間隔である放電距離(d)が昇降機23により調整される。原料ガスは、チャンバー3の導入口3aから、放電空間sに向けて供給される。電源4から相応な交流電圧(ピーク値:Vp)がベース電極11へ印加されると、放電空間sで誘電体バリア放電が発生し、放電空間s内にプラズマが生成される。これにより、放電空間sに接するワークwの表面に、PCVDによる成膜が可能となる。
【0037】
《成膜工程》
上述した装置Mを用いて、表1に示す種々の条件下で成膜を行った。ここで、装置Mの誘電体12は、厚さ:6mm(円環121の厚さ:4mm、円板122の厚さ:2mm)、表面12a:φ115mmとした。ワークwには、ステンレス鋼板(JIS SUS316L/50×80×1tmm)を用いた。原料ガスには、メタンガス(炭化水素ガス)と、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスとの混合ガスを用いた。ガス圧(P)は、チャンバー3の排気側3b付近の気圧をキャパシタンスマノメータ(インフィコン株式会社製 CDG025-X3)により測定した。ベース電極11に印加した交流電圧は、周波数が15kHzの正弦波とした。交流電圧のピーク値(Vp)は電源(玉置電子工業株式会社製 TE-HFVE5V1520K)の出力表示値として求めた。参考までに、放電電流のピーク値(Ap)も、電流プローブの出力をオシロスコープで測定し、それを表1に併せて示した。なお、ここでいうVp、Apは、Peak to Peak 値である。
【0038】
成膜時間(電源4の通電開始から通電終了までの時間)は5分間とした。こうして炭素膜で片面が被覆された種々の試料(被覆部材)を得た。なお、破断面をSEM観察により測定したところ、各炭素膜の膜厚は10~80nmであった。
【0039】
《測定》
(1)接触抵抗率
各試料の接触抵抗率を次のようにして求めた。
図4に示すように、試料(被覆部材)の上面側(炭素膜側)にカーボンペーパーを載置する。それらを2枚の銅板で挟持する。銅板間は、1.47MPaで垂直方向に加圧した。また、試料およびカーボンペーパーと接触する銅板の表面には金めっきを施しておいた。
【0040】
直流電源から1Aの定電流(I)を銅板間に供給した。銅板間の加圧開始から60秒後に、試料(基材)とカーボンペーパーの間の電位差(V)を測定した。電位差(V)を、試料とカーボンペーパーの接触面積(4cm2:2cm×2cm)に流れる電流密度(A/cm2)で除して、接触抵抗率を求めた。なお、成膜前の基材のみ(ワークw)の接触抵抗率は1170mΩ・cm2であった。
【0041】
(2)膜構造
試料5と試料C1の炭素膜について、ラマン分光装置(日本分光株式会社製NRS-3200)を用いて、ラマン分光法による構造解析を行った。得られたラマンスペクトルを
図3に並べて示した。
【0042】
《評価》
(1)接触抵抗率
表1に基づいて、放電指標値(Vp/P・d)と接触抵抗率の関係を
図2に示した。表1および
図2から明らかなように、放電指標値が0.04(V/Pa・mm)以上になると、接触抵抗率が30mΩ・cm
2以下という優れた導電性を有する炭素膜が成膜されることがわかった。
【0043】
表1から明らかなように、窒素ガスを含まない原料ガスを用いて成膜した試料C1と、ワークw(部材/基材)を加熱しないで成膜した試料C2とは、接触抵抗率が極端に高くなった。
【0044】
(2)膜構造
図3から明らかなように、接触抵抗率が小さい試料5は、グラファイト構造(SP
2混成軌道をもつ炭素:Csp
2)を示すGバンドのピークが観測された。そのピーク幅が広かったことから、試料5の炭素膜は、結晶性の低いグラファイトが分散した非晶質状と考えられる。
【0045】
一方、接触抵抗率が大きい試料C1では、そのようなピークが観測されず、蛍光のバックグラウンドが大きく全体的にブロードなスペクトルとなった。試料C1の炭素膜は、全体が高抵抗で高水素量な非晶質状と考えられる。
【0046】
以上のことから、誘電体バリア放電を用いたPCVDを、特定の条件下で行うことにより、低抵抗(導電性)の炭素膜で被覆された部材が得られることがわかった。また、その炭素膜は、大気圧~準大気圧の雰囲気(大気圧近傍雰囲気)下でも成膜可能なため、被覆部材の製造コストを大幅に低減できることもわかった。
【0047】
【符号の説明】
【0048】
M プラズマ発生装置
1 電極
12 誘電体
2 ステージ
3 チャンバー
4 電源