(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】コイル挿入装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/06 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H02K15/06
(21)【出願番号】P 2019056396
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】丹下 宏司
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-069723(JP,A)
【文献】実開昭53-036006(JP,U)
【文献】特開2005-151619(JP,A)
【文献】特開平4-105537(JP,A)
【文献】特開平10-150748(JP,A)
【文献】特開昭56-019361(JP,A)
【文献】米国特許第3402462(US,A)
【文献】米国特許第05060364(US,A)
【文献】米国特許第03389865(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコア内にコイルを挿入するコイル挿入装置であって、
前記ステータコアに対して、当該ステータコアの軸方向に相対移動する第1部材及び前記第1部材とは別の第2部材と、
前記スロットの前記ステータコアの径方向の開口を閉塞するウェッジを、前記第1部材及び前記第2部材の後に、前記第1部材及び前記第2部材の移動方向に挿入するウェッジ挿入機構と、
を備え、
前記ステータコアの軸方向から見て、
前記第1部材の少なくとも一部が、前記開口に位置し、
前記第2部材の少なくとも一部が、前記ステータコアのティースの径方向先端部から前記ステータコアの周方向に延びるアンブレラ部の前記スロット内の部分に径方向に対向して位置する、
コイル挿入装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル挿入装置において、
前記ステーコアの径方向内側に周方向に並んで位置し且つ前記ステータコアの軸方向に延びる、複数のブレードと、
前記ブレードの周方向の間に位置する前記コイルを、前記スロット内に挿入するコイル挿入部と、
をさらに備え、
前記第2部材が前記スロット内に位置する状態で、前記コイルが前記開口から前記スロット内に挿入される、コイル挿入装置。
【請求項3】
請求項2に記載のコイル挿入装置において、前記第2部材は、前記ブレードの一部であり、前記ブレードから前記ステータコアの径方向外側に延びて前記スロット内に位置する、コイル挿入装置。
【請求項4】
請求項2に記載のコイル挿入装置において、前記第2部材は、前記ブレードと別の部材であり、前記ブレードに取り付けられて前記スロット内に位置する、コイル挿入装置。
【請求項5】
請求項1に記載のコイル挿入装置において、
前記ステーコアの径方向内側に周方向に並んで位置し且つ前記ステータコアの軸方向に延びる、複数のブレードを、さらに備えており、
前記ブレードが前記第1部材及び前記第2部材を備える、コイル挿入装置。
【請求項6】
請求項1に記載のコイル挿入装置において、前記ステータコアの径方向の内側で当該ステータコアに対して前記軸方向に相対移動する支持部材をさらに備えており、前記第1部材及び前記第2部材は前記支持部材に支持される、コイル挿入装置。
【請求項7】
請求項6に記載のコイル挿入装置において、前記支持部材は、前記ステータコアの内径よりも小さな外径のリング形状を有する、コイル挿入装置。
【請求項8】
請求項2~5のいずれか1項に記載のコイル挿入装置において、前記第1部材は、前記ステータコアの軸方向及び径方向に直交する回転軸の周りに回転自在に、前記ブレードに取り付けられるローラーである、コイル挿入装置。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のコイル挿入装置において、前記第1部材は、前記ステータコアの軸方向及び径方向に直交する回転軸の周りに回転自在に、前記支持部材に取り付けられるローラーである、コイル挿入装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のコイル挿入装置において、前記第2部材は、前記ステータコアの軸方向から見て、前記アンブレラ部の前記スロット内の形状に沿う形状を有する、コイル挿入装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のコイル挿入装置において、前記ステータコアの軸方向から見て、前記第1部材における前記スロット内に位置する部位と前記第2部材とを合わせた形状に、前記第1部材と前記第2部材との隙間を加えた形状の輪郭内に、前記ウェッジの前記スロットへの挿入方向端面の形状が含まれる、コイル挿入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル挿入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステータコアのスロットにコイルを挿入する際に、コイルに損傷を与えることなく充分な占積率を得るコイル挿入装置が開示されている。このコイル挿入装置では、ステータコアのスロットにコイルを挿入するストリッパが、ウェッジ挿入空間形成部を備えており、ストリッパによるコイル挿入時に、ウェッジと同形状のウェッジ挿入空間が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のコイル挿入装置は、ストリッパの外歯にウェッジ挿入空間成形部を備える。この構造では、コイルを押圧する部分の強度がストリッパの外歯の素材に依存するため、この外歯が破損すればウェッジ挿入空間成形部の全体の破損になる。
【0005】
本発明の目的は、ウェッジを挿入する箇所を形成する部材の損傷を生じ難くできるコイル挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るコイル挿入装置は、複数のスロットを有するステータコア内にコイルを挿入するコイル挿入装置であって、
前記ステータコアに対して、当該ステータコアの軸方向に相対移動する第1部材及び前記第1部材とは別の第2部材と、
前記スロットの前記ステータコアの径方向の開口を閉塞するウェッジを、前記第1部材及び前記第2部材の後に、前記第1部材及び前記第2部材の移動方向に挿入するウェッジ挿入機構と、
を備え、
前記ステータコアの軸方向から見て、
前記第1部材の少なくとも一部が、前記開口に位置し、
前記第2部材の少なくとも一部が、前記ステータコアのティースの径方向先端部から前記ステータコアの周方向に延びるアンブレラ部の前記スロット内の部分に径方向に対向して位置する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態に係るコイル挿入装置によれば、前記第1部材と前記第2部材が別の部材であるため、前記第1部材及び前記第2部材の各々について素材及び構造の最適化が可能となり、前記第1部材及び前記第2部材の各々において破損を生じ難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態のコイル挿入装置のコイル挿入対象となるステータの一例を示した斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態のコイル挿入装置の概略構成および概略動作を示した側面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態のコイル挿入装置の概略構成および概略動作を示した側面図である。
【
図4A】
図4Aは、一実施形態のコイル挿入装置の一部を示した概略の平面図である。
【
図5】
図5は、コイル挿入工程を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、スロット内に位置する第1部材の一部及び第2部材の一部を合わせた形状の輪郭が、ウェッジのコ字形状の端面に近似することを示した説明図である。
【
図7A】
図7Aは、一実施形態のコイル挿入装置の一部を示した概略の平面図である。
【
図8】
図8は、一実施形態のコイル挿入装置の第1部材及び第2部材を示した概略の斜視図である。
【
図9】
図9は、一実施形態のコイル挿入装置の第1部材、第2部材、ウェッジ挿入機構等を示した概略の斜視図であり、スロット内へのウェッジ挿入前の状態を示している。
【
図10】
図10は、一実施形態のコイル挿入装置の第1部材、第2部材、ウェッジ挿入機構等を示した概略の斜視図であり、スロット内へのウェッジ挿入状態を示している。
【
図12】
図12は、
図10のリング状支持部材に支持された第1部材及び第2部材を示した概略の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
以下の説明においては、特段の記載が無い限り、ステータの中心軸が延びる方向を「軸方向」とする。また、軸方向に沿った一側を上側、他側を下側とする。また、ステータの中心軸に直交する方向は「径方向」とする。径方向に沿った一側を内側、他側を外側とする。さらに、ステータの中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」とする。
【0011】
以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示す場合がある。よって、各構成要素の寸法及び比率は実際のものと必ずしも同じではない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示する場合がある。
【0012】
(実施形態1)
<1.ステータ>
図1を用いて、ステータについて説明する。
図1は、ステータを一部断面視にて斜視図にて模式的に表している。なお、この模式図におけるステータコアのスロット数、ブレード数等は例示であり、また、他の
図4等においても、ステータコアのスロット、ブレード等の数は例示であり、各図において、ステータコアのスロット、ブレード等の数は必ずしも同じではない。
【0013】
ステータは、ステータコア10と、コイルWと、を備える。ステータは、モータの構成部品であって、図示しないロータと相互作用して回転トルクを発生させる。本実施形態のステータは、いくつかのスロット11を跨いでコイルが巻き付けられる分布巻きである。
【0014】
<1-1.ステータコア>
ステータコア10は、中空の円柱形状である。ステータコア10は、厚み方向に重ねられた複数の珪素鋼板を有する。ステータコア10には、複数のティース13が放射状に配置される。隣り合うティース13間には、スロット11が位置する。スロット11は、径方向の内側に開口するスロットオープン(開口)12を有する。
【0015】
<1-2.コイル>
コイルWは、巻かれた1本の導線を有する。本実施形態の導線は、丸線であるが、これに限定されない。コイルWは、ステータコア10の径方向の内側から外側に向かう矢印の向きに、ステータコア10に挿入される。
【0016】
<2.コイル挿入装置>
図2乃至
図4を用いて、コイル挿入装置100について説明する。
なお、
図2及び
図3は、ステータコア10が設置されたコイル挿入装置100の一部を側面視にて模式的に表しており、ステータコア10及びコイルWについては、径方向での縦断面を模式的に表す。
図4Aは、ステータコア10が設置されたコイル挿入装置100の一部を平面視にて模式的に表し、
図4Bは
図4Aの一部を拡大して表す。
【0017】
コイル挿入装置100は、後述するコイル挿入工程S100において、ステータコア10の幾つかのスロット11を跨ぐようにそれぞれのスロットオープン12からコイルWを挿入する。コイル挿入装置100は、
図2及び
図3に示すように、ブレード110と、コイル挿入部としてのストリッパ120と、プッシャ130と、シャフト140と、を備える。
【0018】
また、コイル挿入装置100は、スロット11のスロットオープン12を閉塞するウェッジ20を、スロット11内に挿入するウェッジ挿入機構30を備える。
【0019】
また、コイル挿入装置100は、ステータコア10に対して、当該ステータコア10の軸方向に相対移動する第1部材40及び第2部材50を備える。第1部材40と第2部材50は、別の部材である。本実施形態では、ブレード110が、第1部材40及び第2部材50を備える。また、前記相対移動においては、例えば、ブレード110及びウェッジ挿入機構30側を移動側とし、ステータコア10側を固定側とする。また、この移動は、シリンダー、モータ駆動のアクチュエーター等を用いて行うことができる。そして、ウェッジ挿入機構30は、ウェッジ20を、第1部材40及び第2部材50の後に、第1部材40及び第2部材50の移動方向に挿入する。これについては、後で詳述する。
【0020】
<2-1.ブレード>
ブレード110は、ストリッパ120に引っ掛けられたコイルWを軸方向及び径方向に沿ってスロット11まで導く。
図4A及び
図4Bに示すように、ブレード110は、ステータコア10の径方向内側に周方向に並んで位置し、且つステータコア10の軸方向に延びる。より詳細には、コイル挿入装置100にステータコア10が設置された際には、ステータコア10の径方向の内側に複数のブレード110が配置される。このとき、ステータコア10のティース13とブレード110とが対向する。
【0021】
また、ブレード110は、第1部材40として、ローラー401を備える。ローラー401は、薄肉であり、隣り合うブレード110間に位置し、ローラー401の外周部の一部はスロットオープン12内に位置する。また、ローラー401は、ブレード110内に埋め込まれた軸受け401Aによって回転自在に支持される。1つの軸受け401Aによって1つのローラーが支持される。ローラー401は、例えば、ブレード110の軸方向の下側に取り付けられる。
【0022】
また、ブレード110は、第2部材50として、ブレード110の径方向外側からスロット11内に延びるブレード突出部501を備える。このブレード突出部501は、ステータコア10のティース13の径方向先端部からステータコア10の周方向に延びるアンブレラ部13Aのスロット11内の部分に、径方向に対向する対向部位501Aを有する。
【0023】
また、本実施形態では、ブレード突出部501は、径方向外側に延びて、ティース13に対して周方向に対向する対向部位501Bも有している。この対向部位501Bは、ステータコア10の軸方向から見て、アンブレラ部13Aのスロット11内の形状に沿う形状を有する。
【0024】
さらに、
図6に示すように、ステータコア10の軸方向から見て、第1部材40であるローラー401におけるスロット11内に位置する部位と第2部材50であるブレード突出部501とを合わせた形状に、ローラー401とブレード突出部501との隙間Gを加えたコ字形状の輪郭内に、ウェッジ20のスロットへ11の挿入方向端面のコ字形状が含まれる。なお、以下のようにも言える。すなわち、第1部材40であるローラー401におけるスロット11内に位置する部位と第2部材50であるブレード突出部501とを合わせた形状は、第1部材40であるローラー401におけるスロット11内に位置する部位が無い場合に比べれば、ウェッジ20のスロット11への挿入方向端面のコ字形状に近くなる。
【0025】
1つのスロットオープン12には、隣り合うブレード110の各々の片側のブレード突出部501が入り、各々の片側のブレード突出部501の間にローラー401の一部が位置する。なお、ローラー401は、プッシャ130の下端よりも下側となるブレード110の下部側に設けられており、プッシャ130の動作には干渉しない。
【0026】
コイル挿入装置100にステータコア10が設置された際には、第2部材50であるブレード突出部501がスロット11内に位置し、この状態で、コイルWがスロットオープン12からスロット11内に挿入される。本実施形態では、隣り合うブレード110間でコイルWの導線が1本に揃えられてスロット11内に導かれる。
【0027】
<2-2.ストリッパ>
コイル挿入部としてのストリッパ120は、コイルWの径方向の内側を引っ掛けて、ブレード110の上端部まで引き上げる。ストリッパ120は、コイルWを軸方向に移動させる。ストリッパ120は、例えば、半球状を有する。
【0028】
ストリッパ120は、
図4Aに示すように、径方向の外側に突き出た複数の突起部120Aを備える。複数の突起部120Aは、径方向に沿って放射状に配置されており、隣り合うブレード110間に位置する。突起部120Aの径方向の外端は、ブレード110の径方向の外端よりも径方向の内側に位置する。また、ストリッパ120は、シャフト140の上部側に固定される。
【0029】
<2-3.プッシャ>
コイル挿入部としてのプッシャ130は、径方向に移動し、ブレード110間に差し込まれたコイルWを径方向の外側に向かって押し込むことによって、コイルWをスロット11に挿入する。なお、ストリッパ120の突起部120Aの突出長を長くする場合、プッシャ130を備えないコイル挿入部とすることができる。
【0030】
図2に示すように、複数のプッシャ130は、ストリッパ120の軸方向の下方に位置し、径方向に沿って放射状に配置される。
【0031】
プッシャ130は、内端面130Bと、外端面130Cと、を備える。内端面130Bは、プッシャ130の径方向の内側の端面である。外端面130Cは、プッシャ130の径方向の外側の端面である。また、プッシャ130は、例えば、上部に係合凹部130Aを有する。この係合凹部130Aに、係合部141の係合凸部141Aが、例えば、磁力によって係合する状態で、プッシャ130は、ストリッパ120及びシャフト140とともに軸方向に上下移動する。係合部141は、ストリッパ120とプッシャ130の間の位置で、例えばシャフト140に固定される。
【0032】
プッシャ130の内端面130Bは、径方向の外側に向かって軸方向の下方に傾斜する。
【0033】
このような構成により、シャフト140が軸方向の上向きに移動することで、プッシャ130は、ブレード110間を径方向に移動する。一例として、プッシャ130が径方向に移動する際には、
図2及び
図3に示すように、クランプ131が、プッシャ130の上部側及び下部側を掴んでプッシャ130を保持する。クランプ131は、支持部材に支持されており、この支持部材によってプッシャ130の径方向移動に追従する。また、クランプ131及び前記支持部材自体も、径方向に移動可能に設けられる。
【0034】
<2-4.シャフト>
図2に示すように、シャフト140は、ストリッパ120を軸方向に押し上げる、または、押し下げる。シャフト140は、ストリッパ120の軸方向の下方に配置される。シャフト140は、拡径部140Aを備える。拡径部140Aは、軸方向の下方に向かって拡径する。拡径部140Aは、プッシャ130を押す歯部と歯部の間に、ブレード110が入る凹部を有する。
【0035】
このような構成により、
図3に示すように、シャフト140が軸方向の上向きに移動することで、プッシャ130は、ブレード110間を径方向に移動する。
【0036】
ステータコア10の軸方向の下方には、ウェッジ20がセットされる。所定のスロットに対して、分布巻きによって2束のコイルWが挿入される場合、ウェッジ20のセット個数は4個とされる。ウェッジ20の下端側には、
図3に示すように、ウェッジ挿入機構30のウェッジ接触部材301が配置される。本実施形態では、ウェッジ20の軸方向に直交する面による断面形状は、コ字形状である。また、ウェッジ接触部材301の軸方向に直交する面による断面形状は、ウェッジ20のコ字形状に相当するコ字形状或いはL字状である。なお、ウェッジ挿入機構30の一例を後で詳述する。
【0037】
<3.コイル挿入工程>
図5を用いて、コイル挿入工程S100について説明する。
なお、
図5では、コイル挿入工程S100の流れを図にて表す。
【0038】
コイル挿入工程S100では、コイル挿入装置100を用いて、ステータコア10の幾つかのスロット11を跨ぐようにコイルWを挿入する。より詳細には、コイル挿入工程S100では、ブレード110間のコイルWを径方向の外側に向けて押し込み、ステータコア10のスロットオープン12から幾つかのスロット11を跨ぐようにコイルWを挿入する。
【0039】
なお、以下の説明では、幾つかのスロット11を跨ぐようにコイルWを挿入するものの、1つのスロット11に挿入される作用について説明する。
【0040】
コイル挿入工程S100は、設置工程S110と、コイル引き上げ工程S120と、コイル保持工程S130と、コイル押し込み工程S140と、撤去工程S150と、ウェッジ挿入工程S160と、を含む。
【0041】
<3-1.設置工程>
設置工程S110では、コイル挿入装置100にステータコア10が設置される。このとき、ステータコア10の径方向の内側には、ブレード110が配置される。ここで、コイル挿入装置100にステータコア10が設置された際には、第2部材50であるブレード突出部501がスロット11内に位置する。また、ブレード110の軸方向の下側にコイルWが配置される。さらに、複数のブレード110の径方向の中央であって軸方向の下方には、ストリッパ120、プッシャ130及びシャフト140が配置される。
【0042】
より詳細には、設置工程S110では、コイルWはブレード110間に挟持されるように配置される。コイルWのうち、ブレード110の径方向の内側に配置される部分である環状のコイルWの径方向の内側部分が、ブレード110の内端側に沿って整列された状態で配置される。以下、単に、環状のるコイルWの径方向の内側部分を「コイルWの内側」と定義する。
【0043】
<3-2.コイル引き上げ工程>
コイル引き上げ工程S120では、ストリッパ120が軸方向の上側に向かって上昇する。このとき、コイルWの内側がストリッパ120の突起部120Aに引っ掛けられた状態で軸方向の上方に向かって引き上げられる。
【0044】
より詳細には、コイル引き上げ工程S120では、コイルWがブレード110間の隙間に沿って、例えば、1本ずつ整列された状態で軸方向の上方に向けて引き上げられる。
【0045】
また、コイル引き上げ工程S120では、ストリッパ120の突起部120Aの一部がブレード110間に差し込まれた状態で軸方向の上側に移動する。
【0046】
<3-3.コイル保持工程>
コイル保持工程S130では、コイルWの内側をブレード110の上端部にて径方向に整列させる。
【0047】
より詳細には、コイル引き上げ工程S120からコイル保持工程S130までは、コイルWの内側は、ストリッパ120に引っ掛けられブレード110間の隙間を上昇し、ブレード110の上端部まで導かれる。
【0048】
<3-4.コイル押し込み工程>
コイル押し込み工程S140では、プッシャ130によって、ブレード110に保持されるコイルWをスロット11に押し込む。この際には、拡径部140Aが軸方向の上向きに移動し、プッシャ130がブレード110間を径方向に移動する。
【0049】
プッシャ130がブレード110間を径方向に移動する際には、プッシャ130は、クランプ131によって保持され、プッシャ130の軸方向の移動が制限される。また、このとき、プッシャ130の係合凹部130Aから、係合部141の係合凸部141Aが離脱する。
【0050】
シャフト140が軸方向の上向きにさらに移動すると、シャフト140の拡径部140Aとプッシャ130の内端面130Bとが擦れ合うことによって、プッシャ130が径方向の外側に向かってさらに移動し、ブレード110間に差し込まれたコイルWを径方向の外側に向かって押し込む。
【0051】
コイルWが押し込まれてスロット11に入る際には、第2部材50であるブレード突出部501がスロット11内に位置するので、このブレード突出部501の箇所には、コイルWが存在できず、コイルの無い箇所が形成される。
【0052】
<3-5.撤去工程>
撤去工程S150では、ストリッパ120及びシャフト140が軸方向の下方に向かって移動する。このとき、クランプ131に保持されているプッシャ130が径方向内側に移動する。また、プッシャ130の係合凹部130Aに係合部141の係合凸部141Aが係合した後、クランプ131が径方向外側に移動してプッシャ130から離間する。
【0053】
<3-6.ウェッジ挿入工程>
ウェッジ挿入工程160では、
図3に示すように、ステータコア10とブレード110との相対移動として、例えば、ステータコア10をブレード110に対して軸方向の下方に移動させる。この相対移動により、第2部材50であるブレード突出部501が、スロット11内から軸方向の上方に抜け出ていく。また、第1部材40であるローラー401は、スプリングバックによってスロットオープン12から出るコイルWをスロット11内に押し戻す。
【0054】
ローラー401が通過した後には、
図6に示すように、ブレード突出部501とスロットオープン12内のローラー401の一部とによる、ウェッジ20の断面形状であるのコ字形状に近似する形状の隙間、すなわち、コイルWが存在しないコ字形状の隙間が形成される。そして、ウェッジ20の下端側にウェッジ接触部材301が位置する状態で前記相対移動が行われると、前記隙間内にウェッジ20の軸方向一端側が入り込んでいく。すなわち、ウェッジ挿入機構30は、ウェッジ20を、ブレード突出部501及びローラー401の後に、ブレード突出部501及びローラー401の移動方向に挿入する。
【0055】
コイル挿入装置100によれば、第1部材40であるローラー401と第2部材50であるブレード突出部501が別の部材であるため、ローラー401とブレード突出部501の各々について素材及び構造の最適化が可能となり、ローラー401とブレード突出部501の各々において破損を生じ難くできる。また、本実施形態では、ブレード110が第2部材50を兼ねることができる。
【0056】
また、本実施形態では、複数のブレード110、及びコイルWをスロット11内に挿入するコイル挿入部をさらに備え、第2部材50であるブレード突出部501がスロット11内に位置する状態で、コイルWがスロットオープン12からスロット11内に挿入される。
【0057】
このため、第2部材50の存在箇所にコイルWは位置できず、コイルWが無い箇所が形成される。そして、前記相対移動によって、第1部材40及び第2部材50が移動した箇所に、ウェッジ20が挿入されるので、ウェッジ20を前記スロット11内に円滑に挿入することができる。これにより、スロット11内のコイルの占積率を高めつつ当該スロット11内に挿入されるウェッジ20の座屈を抑制できる。
【0058】
また、スロット11内にコイルWを挿入する際に、第2部材50がスロット11内に存在すると、ティース13におけるアンブレラ部13Aのスロット11内側にコイルWが接触してコイルが傷付くのを抑制できる。
【0059】
第1部材40としてローラー401を備えると、コイルWが押圧される際にコイルWが傷付くのを抑制できる。第1部材40として、板部材を備え、この板部材を滑らしてもよいが、このように板部材を滑らすよりも、ローラー401を転がす方が、コイルWの傷つきを低減できる。
【0060】
第2部材50が、ステータコア10の軸方向から見て、アンブレラ部110Aのスロット11内の形状に沿う形状を有すると、ウェッジ20を挿入する空間が必要以上に大きくならないので、コイルWの占積率を向上できる。
【0061】
また、本実施形態では、ステータコア10の軸方向から見て、第1部材40であるローラー401におけるスロット11内に位置する部位と第2部材50であるブレード突出部501とを合わせた形状に、ローラー401とブレード突出部501との隙間Gを加えた形状の輪郭内に、ウェッジ20のスロットへ11の挿入方向端面の形状が含まれる。これにより、ウェッジ20の挿入が容易になり、ウェッジ20の座屈を抑制できる。
【0062】
(実施形態2)
次に、
図7A及び
図7Bを用いて実施形態2のコイル挿入装置100の構成を説明する。なお、先の実施形態と同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0063】
本実施形態のコイル挿入装置100は、ブレード1110を備える。ブレード1110は、第2部材50としてブレード突出部501を有しない。ブレード1110は、第2部材50として突出部502を備える。この突出部502は、ブレード1110とは別部材であり、ブレード1110に取り付けられることで、スロット11内に位置する。突出部502は、本体部5020と、この本体部5020の軸方向の上部に連結された連結部5021と、この連結部5021をブレード1110の上部に固定するボルト5022とを備える。本体部5020及び連結部5021は、例えば、樹脂により作製することができる。
【0064】
また、本体部5020は、軸方向の下端側が開放されており、ティース13の上側からティース13を跨いで取り付けられる。また、本体部5020は、ティース13の径方向先端部からステータコア10の周方向に延びるアンブレラ部13Aのスロット11内の部分に、径方向に対向する対向部位502Aを有する。さらに、突出部502は、径方向の外側に延びて、ティース13に対して周方向に対向する対向部位502Bも有している。
【0065】
本実施形態のコイル挿入装置100は、以上のように、第2部材50として突出部502を備える。突出部502は、ブレード1110と別の部材であるので、例えば、ブレード1110を金属製、突出部502を樹脂製とすることが可能になる。また、前記ブレード1110を交換せずに突出部502のみを交換できる。
【0066】
(実施形態3)
次に、
図8を用いて実施形態3のコイル挿入装置の構成を説明する。なお、先の実施形態と同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0067】
本実施形態のコイル挿入装置は、ブレード1111を備える。コイル挿入装置100は、ステータコア10の径方向の内側で当該ステータコア10に対して軸方向に相対移動する支持部材60を備えている。第1部材40及び第2部材50は、支持部材60に支持される。支持部材60は、ブレード1111が移動した後にステータコア10の径方向の内側に入る。
【0068】
本実施形態において、第1部材40は、薄肉のローラー403であり、このローラー403が支持部材60によって支持される。また、本実施形態では、第2部材50は、押し部材503である。押し部材503は、スロットオープン12に軸方向から入ることができる。押し部材503は、ティース13の径方向先端部からステータコア10の周方向に延びるアンブレラ部13Aのスロット11内の部分に、径方向に対向する対向部位503Aを有する。さらに、押し部材503は、径方向外側に延びて、ティース13に対して周方向に対向する対向部位503Bも有している。押し部材503は、軸方向に直交する面による断面形状がコ字形状である。
【0069】
押し部材503は、ローラー403よりも軸方向の下方に位置しており、ローラー403の後に続いてスロット11内に入る。ここで、前述の実施形態と異なり、ブレード1111によってはウェッジ20を挿入するための隙間は形成されない。ウェッジ20が挿入される隙間は、押し部材503が、ブレード1111の移動に続いてスロット11内に入り、スロット11内のコイルWを押し分けていくことにより形成される。ウェッジ20は、ステータコア10との相対移動によって、前記隙間に挿入される。
【0070】
本実施形態であれば、第1部材40であるローラー403及び第2部材50である押し部材503が同時に、ステータコア10に対して軸方向に相対移動し、スロット11内のコイルWを押し分けて、ウェッジ20が挿入される隙間を形成するので、ウェッジ20を円滑にスロット11内に挿入することができる。
【0071】
また、コイルWをスロット11内に入れる際には、第2部材50はスロット11内に存在しないので、前述の実施形態1,2に比べて、コイルWの占積率を高くできる。また、第2部材50の長さを、ステータコア10の軸方向の厚みよりも短くすることができる。
【0072】
(実施形態4)
次に、
図9乃至
図12を用いて他の実施形態を説明する。なお、先の実施形態と同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0073】
本実施形態のコイル挿入装置は、
図9に示すように、ステータコア10の径方向の内側で当該ステータコア10に対して軸方向に相対移動するリング状支持部材601を備える。このリング状支持部材601に、第1部材40であるローラー403及び第2部材50である押し部材503が支持される。リング状支持部材601は、ブレードがステータコア10内から移動した後にステータコア10の径方向の内側に入る。
【0074】
本実施形態では、1組となる2個のローラー403を、幾つかのスロット11を跨いで2組備える。各組の2個のローラー403は、例えば、
図12に示すように、リング状支持部材601に支持される。また、前記2組による構成は、例えば、リング状支持部材601の周方向に90度間隔で4組備えられる。各組における内側の2個のローラー403が位置する二つのスロット11には、所定のコイルが挿入され、各組における外側の2個のローラー403が位置する二つのスロット11には、前記所定のコイルよりも大径のコイルが挿入される。また、前記4組の各々に対して、ウェッジ挿入機構30が設けられる。
【0075】
図9に示すように、ステータコア10へのウェッジ20の挿入前においては、リング状支持部材601及びウェッジ挿入機構30は、ステータコア10の軸方向の下側に位置する。
【0076】
ウェッジ挿入機構30は、軸方向に延設される複数の連結棒302を備えており、各連結棒302の先端側にリング状支持部材601の軸方向の下面が連結される。各連結棒302の後端側は、連結板303によって相互に固定される。また、4本のウェッジ接触部材301の後端側も、連結板303によって相互に固定される。各ウェッジ接触部材301の長さ及びウェッジ20の長さは、ステータコア10の軸方向の長さと同程度であり、連結棒302は、ステータコア10の軸方向の長さの2倍以上の長さを有する。なお、ウェッジ接触部材301を、ステータコア10に対して、当該ステータコア10の軸方向に相対移動させる移動機構304として、例えば、連結板303を移動させるシリンダー、モータ駆動のアクチュエーター等を用いることができる。
【0077】
押し部材503は、ローラー403よりも軸方向の下方に位置しており、ローラー403の後に続いてスロット11内に入る。押し部材503は、コイル押し込み工程S140の段階では、スロット11内には位置しない。ウェッジ20が挿入される隙間は、押し部材503が、スロット11内のコイルWを押し分けていくことにより形成される。
【0078】
図10に示すように、ウェッジ20は、ステータコア10とウェッジ挿入機構30との相対移動によって、前記隙間に挿入される。前記相対移動が、ステータコア10の軸方向の長さに相当する距離実行されると、スロット11内へのウェッジ20の挿入が完了し、押し部材503が、スロット11から軸方向の外側に出る。例えば、各連結棒302の先端からリング状支持部材601の連結を外すことにより、リング状支持部材601およびウェッジ挿入機構30をステータコア10から取り外すことができる。
【0079】
ウェッジ挿入機構30は、
図11に示すように、ウェッジ20を、ステータコア10の軸方向の外側で支持するウェッジ支持部305を備える。ウェッジ支持部305は、ウェッジ20をスロット11内のウェッジ20の挿入位置へ案内する。ウェッジ支持部305は、ステータコア10の径方向内側に位置する内側部材305Aと径方向外側に位置する外側部材305Bとを備えている。内側部材305Aと外側部材305Bとが合わさると、ウェッジ20のコ字形状に近似する形状を有するガイド空間が4つ形成される。
【0080】
内側部材305A及び外側部材305Bは、合わせる際の位置決めのためのピン306と孔307を備えており、また、合わせた状態を保持するための保持部308を備える。保持部308、例えば、磁石、面ファスナー等である。
【0081】
ウェッジ支持部305を備える構成であれば、ウェッジ接触部材301に押されるウェッジ20をスロット11のウェッジ20挿入位置に的確に案内することができる。
【0082】
また、リング状支持部材601を備える構成であれば、第1部材40および第2部材50を複数支持することが容易になり、同時に複数のスロット11に対してウェッジ20を挿入する処理が容易になる。
【0083】
<その他の実施形態>
図2及び
図3に示したブレード110は、軸方向の全長に渡って第2部材50を有したが、例えば、ブレード110の軸方向下側にステータコア10の軸方向長さよりも短い長さで、ブレード突出部501と同様の形状を有する第2部材50を備えてもよい。かかる構造の場合は、ウェッジ20が挿入される隙間は、第2部材50が、スロット11内のコイルWを押し分けていくことにより形成される。また、前記短い長さの第2部材50に先行して第1部材40がスロット11内に入る構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、モータを製造する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 :シール部材装着装置
10 :ステータコア
11 :スロット
12 :スロットオープン(開口)
13 :ティース
13A :アンブレラ部
20 :ウェッジ
30 :ウェッジ挿入機構
30A :ウェッジ接触部材
40 :第1部材
50 :第2部材
60 :支持部材
100 :コイル挿入装置
110 :ブレード
110A :アンブレラ部
111 :ブレード
120 :ストリッパ
120A :突起部
130 :プッシャ
130A :係合凹部
130B :内端面
130C :外端面
131 :クランプ
140 :シャフト
140A :拡径部
141 :係合部
141A :係合凸部
160 :ウェッジ挿入工程
301 :ウェッジ接触部材
302 :連結棒
303 :連結板
305 :ウェッジ支持部
305A :内側部材
305B :外側部材
306 :ピン
307 :孔
308 :保持部
401 :ローラー
401A :軸受け
403 :ローラー
501 :ブレード突出部
501A :対向部位
501B :対向部位
502 :突出部
502A :対向部位
502B :対向部位
503 :押し部材
503A :対向部位
503B :対向部位
601 :リング状支持部材(支持部材)
1110 :ブレード
1111 :ブレード
5020 :本体部
5021 :連結部
5022 :ボルト
W :コイル