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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】LGPS系固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20220128BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20220128BHJP
   C01B 33/00 20060101ALI20220128BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20220128BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
C01B33/00
H01M10/0562
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019507623
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2018010373
(87)【国際公開番号】W WO2018173939
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017055754
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017173878
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】香取 亜希
(72)【発明者】
【氏名】川上 功太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 雄希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/007030(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118801(WO,A1)
【文献】特開2013-037897(JP,A)
【文献】特開2015-232965(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109191(WO,A1)
【文献】特開2015-372345(JP,A)
【文献】特開2015-050153(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118722(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/155119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 1/06- 1/12
H01M 10/05-10/0587
C01B 25/14
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiMS結晶(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、
前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有することを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
LiS結晶およびMS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶から前記LiMS結晶を合成する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiS結晶と、MS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、
前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有することを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.60°の位置にピークを有する、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記2θ=29.58°±0.60°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記LiPS結晶がβ-LiPSである、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LGPS系固体電解質の製造方法に関する。なお、LGPS系固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、例えば、Li、M(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)、P及びSを含む固体電解質が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
【0005】
これらの固体電解質の中で、硫化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかく固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。活物質にも安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0006】
硫化物固体電解質の中でも、特定の結晶構造を有するLGPS系固体電解質がある(非特許文献1および特許文献1)。LGPSは硫化物固体電解質の中でも極めてイオン伝導度が高く、-30℃の低温から100℃の高温まで安定に動作することができ、実用化への期待が高い。
【0007】
しかしながら、従来のLGPS系固体電解質の製造法においては、複雑な処理によるアモルファス工程を必要とし、かつ、揮発・分解性の高いPを原料として用いるため、小規模での合成しかできないばかりでなく、安定した性能を示すLGPS系固体電解質が得られにくいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2011-118801
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nature Energy 1, Article number: 16030 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の下、生産性に優れ、副生成物の発生を抑え、安定した性能を示すLGPS系固体電解質の製造法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、LiPS結晶、LiS結晶およびMS結晶(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる)を原料とすることで、アモルファス工程を必要とせずに、安定して不純物の少ないLGPS系固体電解質を製造できるという、予想外の知見を得た。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiMS結晶(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、
前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有することを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法である。
<2> LiS結晶およびMS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶から前記LiMS結晶を合成する工程を含む、上記<1>に記載の製造方法である。
<3> ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiS結晶と、MS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、
前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有することを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法である。
<4> 前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.60°の位置にピークを有する、上記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法である。
<5> 前記2θ=29.58°±0.60°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、上記<4>に記載の製造方法である。
<6> 前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、上記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法である。
<7> 前記LiPS結晶がβ-LiPSである、上記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法である。
<8> 前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、上記<1>から<7>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LGPS系固体電解質の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該LGPS系固体電解質を加熱成形してなる成形体、該LGPS系固体電解質を含む全固体電池を提供することができる。しかも、この製造方法であれば、大量製造にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るLGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。
図3】実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体のイオン電導度測定の結果を示すグラフである。
図5】実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のLGPS系固体電解質の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0016】
<LGPS系固体電解質の製造方法>
本発明の一実施形態のLGPS系固体電解質の製造方法は、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiMS結晶(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有する。
また、本発明の別の一実施形態のLGPS系固体電解質の製造方法は、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するLiPS結晶と、LiS結晶と、MS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶と、を結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、前記前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有する。
前記LGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.60°(より好ましくは29.58°±0.50°)の位置にピークを有することが好ましい。なお、2θ=17.38±0.50°、20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、23.56±0.50°、26.96°±0.50°、29.07±0.50°、29.58°±0.60°(より好ましくは29.58°±0.50°)及び31.71±0.50°の位置にピークを有することがより好ましい。
また、前記LGPS系固体電解質は、前記2θ=29.58°±0.60°(より好ましくは29.58°±0.50°)のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満であることが好ましい。より好ましくは、I/Iの値が0.40未満である。これは、Iに相当するのがLGPS結晶のピークであり、Iはイオン伝導性が低い結晶相のためである。
更に、前記LGPS系固体電解質は、図1に示されるように、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有することが好ましい。
【0017】
従来のLGPS系固体電解質の製造方法として、LiSとPとM(例えばGeS)を原料に用いてイオン伝導体を合成した後、振動ミルや遊星ボールミルによるメカニカルミリング法(特許文献1)やWO2014-196442に記載の溶融急冷法が行われていた。しかし、メカニカルミリング法では工業スケールへの大型化が困難であり、溶融急冷法を大気非暴露で実施するには雰囲気制御の面から大きな制限がかかる。なお、LGPS系固体電解質およびその原料は、大気中の水分や酸素と反応して変質する性質がある。これに対して、本発明による製造方法によれば、アモルファス化工程を必要としない。LiPS結晶と、LiS結晶およびMS結晶(あるいは、市販品のLiMS結晶または、LiS結晶およびMS結晶から得られたLiMS結晶)を原料とし、固相もしくは溶媒存在下で混合することで前駆体を得、その後に加熱処理を行うことで、LGPS系固体電解質を得ることができる。また、LiPS結晶を原料とすることは、加熱処理時の前駆体の揮発・分解を抑えることができるため重要である。前駆体中にPが存在する場合(ラマン測定で判断できる)には、揮発・分解性の高いPの影響により、熱処理工程において副生成物の生成や未反応原料が多くなり、安定した高性能なLGPS系固体電解質が得られにくくなる。
【0018】
<LiMS結晶合成工程>
本発明におけるLiMS結晶は、市販品を用いてもよいが、例えば、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、LiS結晶およびMS(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)で表される硫化物結晶から合成することができる。例えば、LiGeS結晶の製造方法の一例を示すと、LiS:GeS=2:1のモル比になるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合する。次に、得られた混合物をアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で650~750℃、1~12時間の焼成を行うことにより、LiGeS結晶を製造することができる。
【0019】
<前駆体合成工程>
LiPS結晶は、α、β、γのいずれでも使用することができるが、より好ましくはβ-LPSである。この理由は、LGPS合成系において、比較的安定に存在するためである。
LiS結晶は、合成品でも市販品でも使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
MS結晶は、MがGe、Si及びSnからなる群より選ばれる元素であり、通常は元素の価数として4価であることが好ましい。すなわち、GeS、SiSおよびSnSであり、市販品を使用することができる。
なお、上記の原料の一部はアモルファスであっても問題はなく使用することができる。
いずれの原料結晶においても粒子径が小さいことが重要であり、好ましくは粒子の直径として10nm~10μmの範囲であり、より好ましくは10nm~5μm、更に好ましくは100nm~1μmの範囲である。なお、粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。粒子が小さいことで、加熱処理時に反応がしやすくなり、副生成物の生成が抑制できる。
【0020】
前駆体合成工程では、LiPS結晶と、LiS結晶およびMS結晶(あるいは、市販品のLiMS結晶または、LiS結晶およびMS結晶から得られたLiMS結晶)とを結晶を有するまま混合することにより、前駆体が得られる。そのモル比としては上述した結晶構造を構成する元素比となるように調整すればよいが、例えばLi10GeP12であれば、LiPS:LiS:GeS=2:2:1のモル比で混合する。あるいは、LiPS:LiGeS=2:1のモル比で混合する。
混合方法は、固相もしくは溶媒存在下で混合することができる。なお、溶媒を用いた混合方法は、均一に混合できることから大量に合成する場合に適している。溶媒を使用する場合は、原料や得られる前駆体と反応しない溶媒を用いることが好ましい。例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒などが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリルなどが挙げられる。原料組成物が劣化することを防止するため、溶媒中の酸素と水分は除去しておくことが好ましく、特に水分については、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下である。混合は、不活性ガス雰囲気下で合成することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができ、不活性ガス中の酸素および水分も除去することで原料組成物の劣化を抑制できる。不活性ガス中の酸素および水分は、どちらの濃度も1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0021】
混合の際には基質が均一に分散されたスラリー状態であってもよいが、より好ましくは、原料の一部(種類を問わず)が溶けていることである。スラリーの場合は凝集した粒子を砕くことを目的に、撹拌によって解砕させることが好ましい。更には、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いてもよい。
固相で混合する場合は、乳鉢混合、ライカイ機、ボールミル等を使用することができる。これらの方法の場合は、通常は結晶がアモルファス化されることは無い。混合は、真空もしくは不活性ガス雰囲気下で合成することが好ましく、その条件は溶媒を用いた場合と同様である。
混合における温度は、加熱する必要もないが、溶媒を用いた場合は基質の溶解度や溶解速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、溶媒の沸点以下で行うことで十分である。しかし、オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能である。なお、高い温度で混合を行うと、原料がよく混じり合う前に反応が進行し、副生成物が生成しやくなることから、室温付近で行うことが好ましい。
【0022】
混合時間としては、混合物が均一となる時間が確保できれば十分である。その時間は製造規模に左右されることが多いが、例えば0.1~24時間行うことで均一にすることができる。
【0023】
溶媒を用いた場合は、溶媒を除去することによって前駆体を得る。溶媒除去は加熱乾燥や真空乾燥で行い、その最適な温度は溶媒の種類によって違いがある。沸点よりも十分に高い温度をかけることで溶媒除去時間を短くすることが可能である。溶媒を除去する際の温度は、60~280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは100~250℃である。なお、真空乾燥等のように減圧下で溶媒を除去することで、溶媒を除去する際の温度を下げると共に所要時間を短くすることができる。また、十分に水分の少ない窒素やアルゴン等の不活性ガスを流すことでも、溶媒除去に要する時間を短くすることができる。なお、後段の加熱処理工程と溶媒除去を同時に行うことも可能である。
【0024】
<加熱処理工程>
本発明の製造方法においては、前駆体合成工程で得られた前駆体を加熱処理することによって、LGPS系固体電解質を得る。加熱温度は、種類によって異なり、Ge、SiまたはSnを含有するものは、通常300~700℃の範囲であり、より好ましくは350~650℃の範囲であり、特に好ましくは450~600℃の範囲である。上記範囲よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、上記範囲よりも温度が高くても、目的とする以外の結晶が生成する。
【0025】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化される。高い温度で上記範囲を超えて長時間加熱することは、LGPS系固体電解質の変質が懸念されることから、好ましくない。
加熱は、真空もしくは不活性ガス雰囲気下で合成することができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができるが、中でもアルゴンが好ましい。酸素や水分が低いことが好ましく、その条件は前駆体合成工程の混合時と同じである。
【0026】
上記のようにして得られる本発明のLGPS系固体電解質は、各種手段によって所望の成形体とし、以下に記載する全固体電池をはじめとする各種用途に使用することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、後述する全固体電池において述べた全固体電池を構成する各層の成形方法と同様の方法を使用することができる。
【0027】
<全固体電池>
本発明のLGPS系固体電解質は、例えば、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。また、本発明の更なる実施形態によれば、上述した全固体電池用固体電解質を含む全固体電池が提供される。
【0028】
ここで「全固体電池」とは、全固体リチウムイオン二次電池である。図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。全固体電池10は、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。
本発明のLGPS系固体電解質は、正極層1、負極層3および固体電解質層2のいずれか一層以上に、固体電解質として含まれてよい。正極層1または負極層3に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、本発明のLGPS系固体電解質と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層1または負極層3に含まれる本発明のLGPS系固体電解質の量比は、特に制限されない。
固体電解質層2に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、固体電解質層2は、本発明のLGPS系固体電解質単独で構成されてもよいし、必要に応じて、酸化物固体電解質(例えば、LiLaZr12)、硫化物系固体電解質(例えば、LiS-P)やその他の錯体水素化物固体電解質(例えば、LiBH、3LiBH-LiI)などを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0029】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0030】
本発明のLGPS系固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
なお、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形してなる成形体が包含される。該成形体は、全固体電池として好適に用いられる。また、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形する工程を含む、全固体電池の製造方法が包含される。
【実施例
【0031】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<β-LiPSの製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、LiS:P=1.5:1のモル比となるように量り取った。次に、(LiS+P)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、LiS、Pの順に加え、室温下で12時間混合した。混合物は徐々に溶解し、わずかな不溶物を含むほぼ均一な溶液を得た。
得られた溶液に、上記を含めた全原料組成がLiS:P=3:1のモル比となるように、LiSを更に加え、室温下で12時間混合しながら、沈殿を得た。これを濾過して得られた濾さいを150℃、4時間、真空乾燥を行うことにより、β-LiPSを得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
得られたβ-LiPSについて後述するラマン分光測定を行ったところ、PS 3-に相当する420cm-1におけるピークを確認することができた。なお、使用した硫化物原料については、全て結晶であった。
【0032】
<LiGeSの製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびGeS(シグマ・アルドリッチ社製、純度:95%以上)を、LiS:GeS=2:1のモル比になるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。なお、使用した硫化物原料については、全て結晶であった。
次に、得られた混合物をアルゴン雰囲気下で700℃、3時間の焼成を行うことにより、LiGeS結晶を得た。
【0033】
<LGPSの合成>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記のβ-LiPSおよびLiGeSをβ-LiPS:LiGeS=2:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。これをペレット状に成型し、得られたペレットを石英管に入れ真空封入した。真空雰囲気下で550℃、8時間の焼成を行うことにより、Li10GeP12結晶を得た。
【0034】
(実施例2)
LGPS合成において、LiGeSを用いず、β-LiPS:LiS:GeS=2:2:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。これをガラス製反応管に入れて、電気管状炉に設置した。反応管は、サンプルが置かれた部分は電気管状炉の中心で加熱され、もう一端のアルゴン吹込みラインが接続される部分は電気管状炉から飛び出した状態でほぼ室温状態であった。アルゴン雰囲気下で550℃、8時間の焼成を行うことによりLi10GeP12結晶を合成した。電気環状炉から飛び出た反応管に付着した揮発物はわずかであった。
【0035】
(実施例3)
<β-LiPSの製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、LiS:P=1.5:1のモル比となるように量り取った。次に、(LiS+P)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、LiS、Pの順に加え、室温下で12時間混合した。混合物は徐々に溶解し、わずかな不溶物を含むほぼ均一な溶液を得た。
得られた溶液に、上記を含めた全原料組成がLiS:P=3:1のモル比となるように、LiSを更に加え、室温下で12時間混合しながら、沈殿を得た。これを濾過し、濾さい100重量部に対して300重量部のTHFを用いて濾さいを洗浄した後、濾さいをアルミナボートに薄く敷き詰めた。このアルミナボートをステンレス管の中に入れ、アルゴン(G3グレード)を線速8.8cm/分で流しながら、1時間かけて250℃まで昇温し、その後250℃を3時間維持して乾燥を行い、β-LiPSを得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。なお、使用した硫化物原料については、全て結晶であった。
得られたβ-LiPSについて後述するラマン分光測定を行ったところ、PS 3-に相当する420cm-1におけるピークを確認することができた。
<LGPSの合成>
上記で得られたβ-LiPSを用いた以外は、実施例2と同様にLi10GeP12結晶を合成した。電気環状炉から飛び出た反応管に付着した揮発物はわずかであった。
【0036】
(実施例4)
GeSをSnSとした以外は実施例2と同様に行い、Li10SnP12結晶を合成した。使用した硫化物原料については、全て結晶であった。電気環状炉から飛び出た反応管に付着した揮発物はわずかであった。
【0037】
(実施例5)
<SiSの微細化>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、SiS(三津和化学社製)を量り取り、45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、18個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数370rpmで2時間、メカニカルミリングを行い、微細化されたSiSを得た。SEMにより粒子径の測定を行うと、粒子の直径として100nm~5μmの範囲であった。
<Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3の合成>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、実施例1で得られたβ-LiPS、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)、上記で得られた微細化したSiS、及びLiCl(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.99%)を、β-LiPS:LiS:SiS:LiCl=4.8:8.2:5.8:1のモル比となるように量り取った。次に、(β-LiPS+LiS+SiS+LiCl)の濃度が10wt%となるようにアセトニトリル(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して加え、室温下で24時間混合することで、スラリー溶液を得た。
得られたスラリー溶液を、真空下、200℃で2時間乾燥させることで、溶媒を除去した。溶媒除去の際には、溶液を撹拌して均一に熱が伝わるように行った。その後、室温まで冷却して前駆体を得た。
得られた前駆体について、焼成温度を475℃とした以外は実施例2と同様にLi9.54Si1.741.4411.7Cl0.3結晶を合成した。使用した硫化物原料については、全て結晶であった。電気環状炉から飛び出た反応管に付着した揮発物はわずかであった。
【0038】
(比較例1)
LGPS合成において、原料を、LiS:P:GeS=5:1:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。これを焼成の原料とし、焼成時に反応管内を真空とした以外は実施例2と同様にLi10GeP12結晶を合成した。電気環状炉から飛び出た反応管部分に多くの付着物があり、反応後に付着物のXRDを測定したところ、硫黄(S8)とスペクトルパターンが一致した。
【0039】
(比較例2)
LGPS合成において、焼成時に反応管内をアルゴン雰囲気とした以外は比較例1と同様にLi10GeP12結晶を合成した。電気環状炉から飛び出た反応管部分に付着物があったが、比較例1よりは少なかった。反応後に付着物のXRDを測定したところ、硫黄(S8)とスペクトルパターンが一致した。
【0040】
(参考例1)
LGPS合成において、原料を、LiS:P:GeS=5:1:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。次に、得られた混合物を45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、18個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数370rpmで40時間、メカニカルミリングを行い、アモルファス体を得た。これを焼成の原料とした以外は実施例1と同様にLi10GeP12結晶を合成した。
【0041】
<X線回折測定>
実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体の粉末について、Ar雰囲気下、室温(25℃)にて、X線回折測定(PANalytical社製「X’Pert3 Powder」、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
【0042】
実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を図3に示す。
図3に示したとおり、実施例1~2では、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.60°に回折ピークが観測され、このパターンはICSDデータベースのLi10GeP12と一致した。
2θ=29.58°±0.60°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が、実施例1では0.38であり、実施例2では0.40であった。
【0043】
<リチウムイオン伝導度測定>
実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、直径8mmのディスクを得た。室温(25℃)および30℃から100℃と、-20℃までの温度範囲において10℃間隔で、In(インジウム)電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定し、続いて30℃~100℃まで10℃ずつ恒温槽を昇温し、各温度で25分間保持した後にイオン伝導度を測定した。100℃での測定を終えた後は、90℃~30℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。次に、25℃に設定した恒温槽で40分間保持した後のサンプルのリチウムイオン伝導度を測定した。その後、20℃~-20℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。降温時のリチウムイオン伝導度の測定結果を図4に示す。
【0044】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに密着させた後、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間5秒にて測定を行った。
【0045】
実施例1~5、比較例1~2、および参考例1で得られたイオン伝導体のラマン分光測定の結果を図5に示す。実施例1~2および比較例1~2のいずれのサンプルにおいても、PS 3-に相当する420cm-1におけるピークを確認することができた。実施例1~2のLi10GeP12結晶は、参考例1の標準的合成法で得られたLi10GeP12と、ラマンスペクトルは一致した。
【符号の説明】
【0046】
1 正極層
2 固体電解質層
3 負極層
10 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5