(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】試料採取装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20220107BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N1/10 N
G01N1/10 V
G01N33/48 S
(21)【出願番号】P 2020504854
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002865
(87)【国際公開番号】W WO2019171831
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018038159
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一平
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0122846(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0158482(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0172780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料吸引口、及び前記試料吸引口から吸引した試料を保持するための内部流路を備えた試料採取装置であって、
前記内部流路の内面に前記試料の凝固を防止するための抗凝固剤が固定されており、前記内部流路の前記試料吸入口側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度は、前記内部流路の前記試料吸入口とは反対側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度よりも高くなって
おり、
前記内部流路の内面の前記抗凝固剤の密度は、前記抗凝固剤が前記内部流路の流路方向に均一に固定されている場合に比べて前記内部流路内に吸引された前記試料に溶解する前記抗凝固剤の濃度を前記流路方向に均一化させるように、前記内部流路の前記試料吸入口側の端部から前記試料吸入口とは反対側の端部にかけて多段階的に低くなるように分布している、試料採取装置。
【請求項2】
試料吸引口、及び前記試料吸引口から吸引した試料を保持するための内部流路を備えた試料採取装置の前記内部流路内に抗凝固剤を固定する方法であって、
抗凝固剤を含み、互いに抗凝固剤濃度の異なる複数種類の溶液を準備する工程と、
前記複数種類の溶液のそれぞれを、抗凝固剤濃度の低い溶液から順に前記試料吸入口から前記内部流路内に導入する工程と、
前記内部流路内に導入した前記複数種類の溶液を乾燥させ、それによって、前記内部流路内に、前記試料吸入口側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度が前記試料吸入口とは反対側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度よりも高くなるように前記抗凝固剤を固定する工程と、をその順に備えている方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の血液を流路内に採取して遠心分離などの処理を行なうための試料採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微量の試料として採取するための試料採取装置が提案され、実施もなされている(特許文献1参照。)。試料採取装置は、端部に試料を吸引するための試料吸引口をもち、試料吸引口から吸引した試料を保持するための微細な流路が内部に設けられている。流路は、試料に対して毛細管力が作用するような細さで設けられており、試料吸引口を試料に浸すだけで流路内に試料を取り込むことができる。
【0003】
試料採取装置により血液試料を採取する場合には、試料採取装置の流路の表面に抗凝固剤を固定しておくことが好ましい。抗凝固剤が固定された流路内に血液試料を採取することで、試料採取装置によって採取された血液試料に抗凝固剤を溶解させることができ、血液試料の凝固を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料採取装置の流路内に抗凝固剤を固定させる方法としては、抗凝固剤を含んだ溶液で流路内を満たしてその溶液を乾燥させることで、流路表面に抗凝固剤を吸着させる方法が挙げられる。これにより、試料採取装置の流路内には、試料吸引口に通じる一端側から他端側にわたって抗凝固剤が均一に固定される。
【0006】
しかし、流路内に固定された抗凝固剤は、その溶解度によっては、試料吸引口から取り込まれた血液試料に触れると同時に血液中に溶解するため、流路内が血液試料で満たされた後では、抗凝固剤の濃度が流路の一端側から他端側へいくにつれて濃くなるように分布し、試料吸引口に近い流路の一端側では抗凝固剤が不足して血液試料の凝固を抑制できないといった事態も生じ得る。そのような事態が生じないように、流路全体にわたって高濃度の抗凝固剤を固定しておくことも考えられるが、そうすると流路の他端側では抗凝固剤の濃度が高くなりすぎ、血液試料の分析に対して悪影響を与える懸念もある。
【0007】
そこで、本発明は、試料採取装置の流路内に採取される試料の全体に適度の抗凝固剤を溶解させることができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る試料採取装置は、試料吸引口、及び前記試料吸引口から吸引した試料を保持するための内部流路を備えた試料採取装置であって、前記内部流路の内面に前記試料の凝固を防止するための抗凝固剤が固定されており、前記内部流路の前記試料吸入口側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度が、前記内部流路の前記試料吸入口とは反対側の端部の内面の前記抗凝固剤の密度よりも高くなっている。
【0009】
前記内部流路の内面の前記抗凝固剤の密度は、前記内部流路の前記試料吸入口側の端部から前記試料吸入口とは反対側の端部にかけて多段階的に低くなるように分布していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る試料採取装置によれば、内部流路の内面に試料の凝固を防止するための抗凝固剤が固定されており、抗凝固剤の密度が内部流路の他端側部分の内面よりも一端側部分の内面のほうが高くなっているので、内部流路の一端から他端にわたって抗凝固剤が均一に固定されている場合に比べて、内部流路の一端側と他端側で生じる試料中の抗凝固剤濃度の差を小さくすることができる。これにより、内部流路内に採取される試料の全体に適度の抗凝固剤を溶解させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試料採取装置の一実施例を示す平面図である。
【
図3】同試料採取装置の内部流路における抗凝固剤の濃度分布の一例を示す平面図である。
【
図4】EPMAによる内部流路内におけるEDTA分布の解析結果を示すデータである。
【
図5】
図4の検証における試料採取装置の測定箇所を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
試料採取装置の一実施例について図面を用いて説明する。
【0013】
図1及び
図2に示されているように、試料採取装置2は、先端に試料吸引口4を備えているとともに、一端が試料吸引口4に通じている内部流路6を備えている。試料採取装置2は基端部2aと先端部2bを備え、先端部2bの幅寸法は基端部2aの幅寸法よりも小さくなっている。試料採取装置2は下基板16と上基板18が張り合わされて構成されたものであり、下基板16と上基板8の接合面に内部流路6が形成されている。
【0014】
試料採取装置2は、例えば樹脂材料により構成されている。その樹脂材料は特に限定されるものではないが、例えばCOP(シクロオレフィンポリマー)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PP(ポリプロピレン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、PVA(ポリビニルアルコール)などを用いることができる。
【0015】
内部流路6は毛細管現象により試料を吸引できる細さをもっている。内部流路6の一端は吸引流路6aを介して試料吸引部4に通じており、そこから試料採取装置2の基端側へ延び、試料採取装置2の基端部で折り返されて先端側へ延びている。内部流路6の他端には液溜まり空間6bが設けられており、その液溜まり空間6bに、毛細管現象により試料を内部流路6に取り込む際の空気排出口となる空気穴8が設けられている。空気穴8は上基板18を貫通した貫通穴として形成されている。
【0016】
試料採取装置2の先端部2bには切断溝12において切断可能な抽出部14が設けられている。抽出部14は互いに平行な2つの切断溝12により画定されている。切断溝12は内部流路6の長手方向に直交する方向に形成され、先端部2bの全幅に及んでいる。
【0017】
この試料採取装置2は、内部流路6内に血液試料を採取した後、先端側を回転中心側に向けて遠心分離機に設置し、血液試料の遠心分離を行なうことができる。抽出部14が設けられている位置は、内部流路6内に採取した試料に遠心分離処理を施したときに、分離後の血漿成分又は血清成分がくる位置に設定されている。これにより、遠心分離処理後に抽出部14を試料採取装置2から分割するだけで、血漿成分又は血清成分を容易に抽出することができる。
【0018】
液溜まり空間6bは、毛細管現象によって液を吸引しないような大きさの断面積を少なくともその入口部分にもっている。液溜まり空間6bは、吸引流路6aのうち空気穴8よりも先端側にある部分の内部容量以上の内部容量を有する。液溜まり空間6bは毛細管現象によって試料を吸引しないため、試料吸引口4から吸引された試料は、空気穴6の位置まで達することなく、液溜まり空間6bの入口部分で停止する。この状態で遠心分離が施されると、試料が平衡状態となることによって余剰となった試料は液溜まり空間6b内に貯留され、余剰となった試料が内部流路6から溢れ出て空気穴8から飛び出すことが防止される。
【0019】
試料採取装置2の内部流路6内の表面に抗凝固剤が固定されている。抗凝固剤は、内部流路6内に吸引された血液試料に溶解して血液試料の凝固を防止するためのものである。
図3に示されているように、内部流路6内の表面に固定されている抗凝固剤の密度(単位面積当たりの抗凝固剤量)は、試料吸引口4に近い内部流路6の一端側で最も高く、試料吸引口4から遠い内部流路6の他端側で最も低くなるように分布している。
図3では、内部流路6内に3段階の抗凝固剤密度分布が形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、2段階又は4段階以上の密度分布が形成されていてもよい。
【0020】
このように、試料吸引口4に近い内部流路6の一端側で抗凝固剤密度が最も高くなっていることで、内部流路6内に血液試料が採取されたときに、内部流路6の一端側に取り込まれた血液試料に十分な量の抗凝固剤が供給されず、血液試料の凝固を防止する効果が十分に得られないという事態が防止される。また、試料吸引口4から遠い内部流路6の他端側では抗凝固剤密度が最も低くなっているので、内部流路6の他端側に取り込まれた血液試料中の抗凝固剤濃度が高くなりすぎるという事態も防止される。
【0021】
抗凝固剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、ヘパリン、クエン酸ソーダ、二重シュウ酸塩などを検査目的に応じて使用することができる。
【0022】
内部流路6に上記のような抗凝固剤密度の分布を形成する方法としては、抗凝固剤を含む溶液(溶媒は例えば水)であって互いに抗凝固剤濃度の異なる複数種類の溶液を準備し、抗凝固剤濃度の低い溶液から順に、試料採取装置2の試料吸引口4から内部流路6内に導入した後、内部流路6内の溶媒を乾燥させる方法がある。内部流路6内への各溶液の導入の際、マイクロピペットなどの計量器具を用いて試料吸引口4から内部流路6内へ直接的に注入すれば、各溶液の必要量を内部流路6内に精度よく導入することが可能である。
【0023】
図4は、EDTA-2Naの含有濃度の異なる2種類の溶液をEDTA-2Na濃度の高い溶液から順に内部流路6内に導入し、乾燥させた後でEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて実施した内部流路6内のEDTA-2Na濃度分布の検証データである。この検証では、
図5において2点鎖線で示された内部流路6の(A)一端側部分、(B)折返し部分、(C)他端側部分においてNa-Ka線強度の測定を行なった。
【0024】
図4の検証データにおいてNa
+の波長領域である1.19nm-1.195nmをみれば、(C)他端側部分で最も検出強度が高くなっている一方で、(A)一端側部分や(B)折返し部分では検出強度がそれよりも低くなっていることがわかる。これは、内部流路6の一端側と他端側でEDTA-2Naの存在密度が異なっていることを示している。このことから、抗凝固剤濃度の異なる複数種類の溶液を順に内部流路6に導入してそれを乾燥させることによって、内部流路6に抗凝固剤密度の分布を形成することが可能であることが立証された。
【符号の説明】
【0025】
2 試料採取装置
2a 基端部
2b 先端部
4 試料吸引口
6 内部流路
6a 試料吸引流路
6b 液溜まり空間
8 空気穴
12 切断溝
14 抽出部
16 下基板
18 上基板