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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220107BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20220107BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60T8/17 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021503939
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030886
(87)【国際公開番号】W WO2021033644
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2019151640
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 健
(72)【発明者】
【氏名】水井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】生駒 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 仁一
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-22335(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139375(WO,A1)
【文献】特開2019-88093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪と前記第1車輪より後方の位置にある第2車輪とを有する車両の制御システムであって、
前記第1車輪を駆動するように構成された第1回転電機と、
前記第2車輪を駆動するように構成された第2回転電機と、
前記第1車輪の第1速度を前記第1回転電機のトルク制御用速度とすると共に前記第2車輪の第2速度を前記第2回転電機のトルク制御用速度として用いて、前記第1回転電機および前記第2回転電機のそれぞれの要求トルクを制御するように構成された制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1速度及び前記第2速度に基づいた前記車両の速度が所定速度以下で、かつアクセルオフの場合、
前記第1速度の絶対値、および前記第2速度の絶対値のうちより小さな絶対値の速度を前記第1回転電機および前記第2回転電機の共通のトルク制御用速度としてそれぞれ要求トルクを算出し、
前記要求トルクに基づいて前記第1回転電機および前記第2回転電機を制御して前記車両を停止させる停止制御を行う、車両の制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1回転電機および第2回転電機の力行および回生を繰り返して制御し、前記車両を停止させる、請求項1に記載の車両の制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両の停止が完了した場合、前記停止制御を終了する、請求項1又は2に記載の車両の制御システム。
【請求項4】
前記第1車輪、および前記第2車輪を摩擦によって制動するように構成された制動部をさらに備え、
前記制御部は、前記制動部が作動した場合、前記停止制御を終了する、請求項1又は2に記載の車両の制御システム。
【請求項5】
アクセルペダルの踏み込み位置を検知するように構成されたアクセル位置検知部をさらに備え、
前記制御部は、前記アクセルペダルが踏まれた場合、前記停止制御を終了する、請求項1から4のいずれか1項に記載の車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、第1車輪と第1車輪と異なる位置にある第2車輪とを有する車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、前輪と後輪のそれぞれにモータ(回転電機)を有する車両の制御システムが知られている(例えば、日本国特開2019-88093号公報)。日本国特開2019-88093号の車両の制御システムでは、左右の前輪を駆動するフロントモータと、左右の後輪を駆動するリアモータのそれぞれの平均回転数から、前輪および後輪の速度を算出する。この車両の制御システムでは、算出した前輪および後輪の速度の差分を求め、差分が所定値より大きい場合、速度が小さい方の車輪の速度を用いて、車両の速度を再設定する。その後、再設定した車両の速度に基づいて各輪のいずれかが空転しているかを判断する。日本国特開2019-88093号の車両制御システムは、このような制御によって空転の有無を精度良く判断する。
【0003】
日本国特開2019-88093号の車両の制御システムでは、モータを回生させて車両を停止させる場合については開示されていない。モータを回生させて車両を停止させる場合、車両が完全に停止するまでモータを回生させることが好ましい。
【0004】
しかし、車両が完全に停止するまでの間に、各車輪が接地する路面状況の違いによって、各車輪が受ける入力(外乱)に差が生じる。これにより、各車輪の速度に差が生じる。特に、車両が完全停止する直前の極低車速においては、路面から受ける入力の影響が大きくなる。これにより、各車輪の速度の差が大きくなる場合がある。
【0005】
また、モータを回生させて車両を完全に停止させるためには、車両が完全に停止する直前にモータの力行と回生とを調整する必要がある。このため、各車輪の速度の差が大きい場合、モータに余分な力行を発生させてしまう。これにより、余分なエネルギが消費されるという問題がある。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、回転電機の余分な力行を抑制しながら車両を停止させることができる車両の制御システムを提供する。
【0007】
本開示の一態様によれば、に係る車両の制御システムは、第1車輪と第1車輪より後方の位置にある第2車輪とを有する車両の制御システムである。車両の制御システムは、第1回転電機と、第2回転電機と、制御部と、を備える。第1回転電機は、第1車輪を駆動する。第2回転電機は、第2車輪を駆動する。制御部は、第1車輪の第1速度を第1回転電機のトルク制御用速度をすると共に第2車輪の第2速度を第2回転電機のトルク制御用速度として用いて、第1回転電機および第2回転電機のそれぞれの要求トルクを制御する。制御部は、第1速度及び第2速度に基づいた車両の速度が所定速度以下で、かつアクセルオフの場合、第1速度の絶対値、および第2速度の絶対値のうちより小さな絶対値の速度を第1回転電機および第2回転電機の共通のトルク制御用速度としてそれぞれ要求トルクを算出する。制御部は、算出された要求トルクに基づいて第1回転電機および第2回転電機を制御して車両を停止させる停止制御を行う。
【0008】
本開示の車両の制御システムによれば、制御部は、第1速度の絶対値および第2速度の絶対値のいずれか小さい方の速度を用いて各回転電機に要求すべきトルクを算出する。これにより、制御部は、各回転電機の回転数から算出した速度のうちゼロに近い方の速度を用いて、各回転電機に要求すべきトルクを算出できる。すなわち、車両が停止する間際では、車両の実速度はゼロに近い状態であり、各回転電機の回転数から算出した速度のうちゼロに近い方の速度が外乱の影響が少ない。外乱の影響が少ない速度を用いて、各回転電機に要求すべきトルクを算出すれば、回生に必要なトルクを精度よく算出できる。この結果、回転電機の余分な力行を抑制しながら車両を停止させることができる車両の制御システムを提供できる。
また、制御部は、車両の速度が所定速度以下になる場合、停止制御を行う構成により、例えば、各車輪が外乱の影響を受けやすい車速において、余分な力行を抑制できる。
【0009】
本開示の他の態様によれば、制御部は、第1回転電機および第2回転電機の力行と回生を繰り返して制御し、車両を停止させてもよい。この構成によれば、回転電機のみによって車両を完全停止させることができる。
【0010】
本開示の他の態様によれば、制御部は、車両の停止が完了した場合、停止制御を終了してもよい。この構成によれば、停車中の各車輪に入力される外乱の影響によって、制御部が各回転電機にトルクを付与することを防止できる。すなわち、車両が停止完了した後は、停止制御を終了することで、余分な力行を抑制できる。
【0011】
本開示の他の態様によれば、車両の制御システムは、制動部をさらに備えてもよい。制動部は、第1車輪、および第2車輪を摩擦によって制動する。制御部は、制動部が作動した場合、停止制御を終了してもよい。この構成によれば、制動部によって車輪に制動力が付与され場合、停止制御を終了し、制動部の制動力によって車両が停止する。
【0012】
本開示の他の態様によれば、車両の制御システムは、アクセル位置検知部をさらに備えてもよい。アクセル位置検知部は、アクセルペダルの踏み込み位置を検知してもよい。制御部は、アクセルペダルが踏まれた場合、停止制御を終了してもよい。
【0013】
この構成によれば、制御部は、アクセルペダルの踏み込みの有無によって停止制御を終了する。これにより、アクセルペダルからの指示によって各回転電機の力行が行われる場合、停止制御が行われないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態による車両の制御システムの概略構成を示すブロック図。
図2図2は、本発明の一実施形態による制御部の制御フローを示す図。
図3図3は、本発明の一実施形態による前輪および後輪の車速センサで計測した値を示す図。
図4図4は、本発明の一実施形態による共通のトルク制御用車速を用いた場合のモータの出力(トルク)の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本開示の一実施形態による車両1の制御システム2の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の車両1の制御システム2は、フロントモータ(第1回転電機の一例)4と、リアモータ(第2回転電機の一例)6と、制御部8と、制動装置(制動部の一例)10と、アクセルポジションセンサ(アクセル位置検知部の一例)18aと、を備える。
【0017】
車両1は、前輪12(第1車輪の一例)および後輪(第2車輪の一例)14を含む複数車輪を有する車両1である。本実施形態では、車両1は、左右一対の前輪12と、左右一対の後輪14を有する四輪の車両である。
【0018】
フロントモータ4は、減速機(図示せず)およびフロント・ドライブシャフト12aを介して、前輪12を駆動する。リアモータ6は、減速機(図示せず)およびリア・ドライブシャフト14aを介して、後輪14を駆動する。このように、本実施形態の車両1は、異なる位置にある前輪12と後輪14を、それぞれフロントモータ4と、リアモータ6で駆動する電動四輪駆動車両である。
【0019】
フロントモータ4およびリアモータ6は、PN線(電力線)22を介してフロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aと接続される。また、フロントモータ4およびリアモータ6は、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aを介して、車両1に搭載され駆動用電池16から電力が供給される。フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aはモータドライバを含む。フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aは、駆動用電池16から出力された直流電流を、三相交流電流に変換してフロントモータ4およびリアモータ6に供給することで、フロントモータ4およびリアモータ6を力行する。また、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aは、回生回路を含む。フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aは、フロントモータ4およびリアモータ6に回生させて発電し、発電した電力を直流に変換して駆動用電池に供給する。すなわち、本実施形態では、フロントモータ4およびリアモータ6は、三相交流型のモータ・ジェネレータである。また、本実施形態では駆動用電池16は、リチウムイオン電池等で構成された二次電池である。
【0020】
フロントモータ4は、フロントモータ4の回転数を検知するフロント回転数センサ4c(第1回転数検知部の一例)を有する。同様に、リアモータ6は、リアモータ6の回転数を検知するリア回転数センサ6c(第2回転数検知部の一例)を有する。また、各車輪は、各車輪の回転数を検知する車速センサ20を有する。車速センサ20は、実際にはフロント・ドライブシャフト12aおよびリア・ドライブシャフト14aの回転数を検知する。
【0021】
制御部8は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等を含む。制御部8は、少なくともフロント回転数センサ4c、リア回転数センサ6c、アクセルペダルポジションセンサ18a、および制動装置10からの信号を取得する。アクセルペダルポジションセンサ18aは、アクセルペダル18に設けられ、アクセルペダル18の踏み込み位置を検知する。また、制御部8は、フロントモータ制御部4bおよびリアモータ制御部6bを介して、フロントモータ4およびリアモータ6の力行と回生を繰り返して車両1を停止させる停止制御を行う。制御部8は、これら各装置および各センサと電気的に接続される。さらに、制御部8は、空調装置(図示せず)や車速センサ20など車両1に設けられた各種装置および各種センサと電気的に接続され、各種装置および各種センサからの信号を取得し、車両1が所望の運転状態となるように各種装置を制御する。
【0022】
制動装置10は、左右一対の前輪12および左右一対の後輪14のそれぞれに設けられ、各車輪を摩擦によって各車輪に制動力を付与する。本実施形態では、制動装置10は、ディスク型ブレーキである。制動装置10は、各車輪のホイールに固定され各車輪とともに回転するディスクロータ10aと、シュー(図示せず)と、を有する。制動装置10は、ディスクロータ10aにシューを押し当てて摩擦を発生させ、前輪12および後輪14に制動力を付与する。しかし、制動装置10は、ドラムにシューを押し当てるドラム型ブレーキであってもよい。制動装置10は、ブレーキペダル10b、ブレーキ制御装置10c、ブレーキペダルポジションセンサ10e、およびシューを保持しながら油圧によって押し出すキャリパ(図示せず)、を有する。ブレーキペダルポジションセンサ10eは、ブレーキペダル10bに設けられ、ブレーキペダル10bの踏み込み位置を検知する。ブレーキペダル10b、ブレーキ制御装置10c、およびキャリパ(図示せず)は、倍力装置などが設けられた油圧配管10dによって接続される。ブレーキ制御装置10cは、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等と、油圧制御バルブを含み、記憶装置に含まれるソフトウェアによって、油圧制御バルブを制御することで油圧配管10dの油圧を制御する。また、ブレーキ制御装置10cは、ブレーキペダルポジションセンサ10eおよび制御部8と電気的に接続され、ブレーキペダルポジションセンサ10eおよび制御部8からの信号を取得し、油圧配管10dの油圧を制御することでシューの押し出し量を制御する。
【0023】
次に、図2のフローチャートおよび図3を用いて制御部8による車両1を停止させる手順の一例について説明する。なお、制御部8は、アクセルペダル18がオフ(以下アクセルオフと記す)された場合に処理を開始する。
【0024】
なお、図3は、本開示の一実施形態による車速センサ20で検知した回転数から、制御部8が車両1の速度を算出した値を示した図である。図3の実線は、フロント・ドライブシャフト12aの回転数に基づいて制御部8が算出した車両1の速度である(以下この速度を前輪軸車速Vfと記す)。また、図3の破線は、リア・ドライブシャフト14aの回転数に基づいて制御部8が算出した車両1の速度である(以下この速度を後輪軸車速Vrと記す)。
【0025】
また、図4は、制御部8が要求トルクを算出する際に用いる共通のトルク制御用速度Vtの変化と、共通のトルク制御用速度Vtを用いた場合のフロントモータ4またはリアモータ6の出力変化を示す図である。
【0026】
制御部8は、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrから現在の車速V0を取得し、現在の車速V0が所定速度Vd以下か否か判断する(S1)。制御部8は、現在の車速V0が所定速度Vd以下と判断した場合は(S1 Yes)、S2に処理を進める。一方、制御部8は、現在の車速V0が所定速度Vdより大きいと判断した場合は、処理をS1の前に戻し(S1 No)、所定速度Vd以下となるまで処理を続ける。
なお、現在の車速V0は、以下の数式で表される。
【0027】
【数1】
【0028】
制御部8は、アクセルペダル18がオン(以下アクセルオンと記す)されているか否か判断する(S2)。制御部8は、アクセルオンされていないと判断した場合(S2 No)、すなわちアクセルオフが維持されている場合、S3へ処理を進めて停止制御を行う。なお、以下のS3からS10までの処理が車両1を完全停止させるための停止制御である。一方、制御部8は、アクセルオンされていると判断した場合は(S2 Yes)、車両1が停止しないため処理を終了する。
【0029】
ここで、所定速度Vdは、車両1が停止する間際の極低車速(例えば10km/h以下)である。図3の時刻0から時刻tdまでに示すように、所定速度Vdまでは、前輪軸車速Vfおよび後輪軸車速Vrに差がない。すなわち、路面から各車輪への入力による影響は小さい。このため、制御部8は、所定速度Vdまでは、前輪軸車速Vfおよび後輪軸車速Vrのいずれか一方を用いてフロントモータ4およびリアモータ6の制御を行う。
【0030】
しかし、時刻td以降に示すように、所定速度Vdより低い極低車速の場合は、路面から前輪12への入力量および入力タイミングが、路面から後輪14への入力量および入力タイミングと異なる。すなわち、前輪12と、後輪14とで、外乱の作用するタイミングと量が異なる。これは、車速がゼロの近づくほど、路面から各車輪への入力による影響が大きくなることによる。このような状態では、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrを用いた現在の車速V0は、正確な値ではない。
【0031】
また、車両1が完全停止する直前の極低車速において、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrはゼロに近づく。しかし、実際には、前輪12および後輪14に入力される外乱の入力タイミングが異なることから、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrはそれぞれ異なる値となる。また、車両1の完全停止直前には、前輪軸車速Vfおよび後輪軸車速Vrは、外乱の作用を受けて負の値と正の値を微小に繰り返す。このため、制御部8は、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrが正の値であると判断した場合は、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aに負の値の要求トルクを送信して回生を指示し、車両1を微小減速させる。一方、制御部8は、前輪軸車速Vfまたは後輪軸車速Vrが負の値であると判断した場合は、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aに正の値の要求トルクを送信して力行を指示し、車両1を微小増速させる。このように、制御部8は、回生と力行を繰り返しさせて車両1を完全停止させる。このため、微小増速する場合は、駆動用電池16の電力を消費する。
【0032】
さらに、制御部8は、回生と力行を繰り返すため、要求トルクの算出精度が悪い場合、回生量がオーバーシュートし、このオーバーシュート分を取り戻すための力行が必要となる。これにより、フロントモータ4およびリアモータ6は、さらに駆動用電池16の電力を消費する。このため、制御部8は以下のS3からS10の処理を行う。
【0033】
制御部8は、フロント回転数センサ4cからフロントモータ4の回転数を取得し、取得したフロントモータ4の回転数に基づいて第1速度V1を算出する(S3)。より具体的には、制御部8は、予め記憶されたフロントモータ4とフロント・ドライブシャフト12aまでの減速比、および前輪12の径などから第1速度V1を算出する。すなわち、第1速度V1は、フロントモータ4の回転数に基づいて算出した車両1の速度である。
【0034】
次に制御部8は、リア回転数センサ6cからリアモータ6の回転数を取得し、リアモータ6の回転数に基づいて第2速度V2を算出する(S4)。より具体的には、制御部8は、予め記憶されたリアモータ6とリア・ドライブシャフト14aまでの減速比、および後輪14の径などから第2速度V2を算出する。すなわち、第2速度V2は、リアモータ6の回転数に基づいて算出した車両1の速度である。なお、S3の処理と、S4の処理は、同時に行ってもよい。また、制御部8は、S4の処理をS3の処理よりも先に行ってもよい。
【0035】
次に制御部8は、第1速度V1の絶対値と、第2速度V2の絶対値を比較する(S5)。制御部8は、第1速度V1の絶対値が、第2速度V2の絶対値よりも小さいと判断した場合(S5 Yes)、S6に処理を進める。S6では、制御部8は、フロントモータ4およびリアモータ6に要求すべき要求トルクを算出するための共通のトルク制御用速度Vtとして、第1速度V1を選択する。一方、制御部8は、第1速度V1の絶対値、第2速度V2の絶対値以上であると判断した場合(S5 No)、S10に処理を進める。S10では、制御部8は、フロントモータ4およびリアモータ6に要求トルクを算出するための共通のトルク制御用速度Vtとして、第2速度V2を選択する。
【0036】
より具体的には、例えば、図3の時刻t1から時刻t2では、後輪軸車速Vrが前輪軸車速Vfよりもゼロに近い。このような場合において、制御部8が第1速度V1の絶対値と、第2速度V2の絶対値を比較すると、第2速度V2の絶対値の方がゼロに近い(S5 No)。このため、制御部8は、第2速度V2を共通のトルク制御用速度Vtとして選択する(S10)。
【0037】
一方、図3の時刻t4から時刻t5では、前輪軸車速Vfが後輪軸車速Vrよりもゼロに近い。このような場合において、制御部8が第1速度V1の絶対値と、第2速度V2の絶対値を比較すると、第1速度V1の絶対値の方がゼロに近い(S5 Yes)。このため、制御部8は、第1速度V1を共通のトルク制御用速度Vtとして選択する(S6)。制御部8は、時刻t2からt4の間も同様の処理を行う。
【0038】
なお、制御部8は、第1速度V1の絶対値と第2速度V2の絶対値が同一の場合は、フロントモータ4およびリアモータ6に要求すべき要求トルクを算出するための速度として、第1速度V1および第2速度V2のいずれか一方を選択すればよい。すなわち、制御部8は、第1速度V1の絶対値と、第2速度V2の絶対値を比較することで、ゼロに近い速度を選択する。これにより、制御部8は、外乱の影響を受けていない速度を選択できる。
【0039】
制御部8は、S5で選択した第1速度V1および第2速度V2のいずれか一方の値を共通のトルク制御用速度Vtとして、フロントモータ4およびリアモータ6に要求すべき要求トルクを算出する(S7)。より具体的には、制御部8は、共通のトルク制御用速度Vtを用いて、車両1の車速をゼロにするために必要なフロントモータ4およびリアモータ6のトルクを算出する。制御部8は、要求トルクを算出すると、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aに要求トルクを送信する。なお、フロントモータ4およびリアモータ6のトルクは、例えば、予め適合によって決められたテーブルデータに沿って算出されてもよい。この場合、テーブルデータは、車速V0とアクセル開度を引数とする。
【0040】
次に制御部8は、制動装置10から制動装置10が作動したか否かの信号を受信し(S8)、制動装置10が作動した場合は(S8 Yes)、停止制御を終了する。これにより、制動装置10による車両1の停止が行われる。一方、制動装置10が作動していない場合は(S8 No)、処理をS9に進める。
【0041】
制御部8は、車両1が完全停止したか否かを判断する(S9)。より具体的には、制御部8は、第1速度V1および第2速度V2の両方がゼロとなった場合、車両1が完全停止したと判断する。制御部8は、このように車両1が完全停止した後は(S9 Yes)、停止制御を終了することで、車両1が完全停止中に各車輪になんらかの外乱が作用し、停止制御が再び開始され各車輪に再び回生または力行されることを防止する。一方、制御部8は、車両1が完全停止していない場合は(S9 No)、S1の前に処理を戻して処理を続ける。
【0042】
このように、本実施形態の車両1の制御システム2によれば、制御部8は、第1速度V1の絶対値と、第2速度V2の絶対値を比較することで、ゼロに近い車速を選択し、要求トルクを算出する。図4の共通のトルク制御用速度Vtが示すように、制御部8は、どの時刻においてもゼロに近い共通のトルク制御用速度Vtを用いて、要求トルクを算出する。これにより、制御部8は、要求トルクの算出精度が高くなる。この結果、図4のフロントモータ4またはリアモータ6の出力が示すように、回生と力行のオーバーシュートが小さくなる。このため、制御部8は、余分な力行を抑制することができる。
【0043】
一方、仮に制御部8が、ゼロから遠い速度を選択した場合、回生と力行のオーバーシュートが大きくなる。この結果、制御部8は、余分な力行を行う回数が増える。
【0044】
また、本実施形態の車両1の制御システム2によれば、制御部8は、制動装置10が作動しなければ、フロントモータ制御部4aおよびリアモータ制御部6aに回生と力行を繰り返して指示する。制御部8は、このように回生と力行を繰り返してフロントモータ4とリアモータ6を制御することで、車両1を完全停止させる。これにより、制御部8は、制動装置10を用いることなく、車両1を完全停止させることができる。この結果、本実施形態の車両1の制御システム2は、制動装置10によるエネルギロスを抑制できる。
【0045】
以上説明した通り、本開示は、フロントモータ4およびリアモータ6の余分な力行を抑制しながら車両を停止させることができる車両の制御システムを提供する。
【0046】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0047】
(a)上記実施形態では、電動四輪駆動車を例に用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。車両1は、内燃機関を用いて発電し、発電した電力をフロントモータ4およびリアモータ6に供給するハイブリッド型の電動車両であってもよい。また、車両1は、燃料電池で発電した電力を用いて、フロントモータ4およびリアモータ6に供給する燃料電池車両であってもよい。
【0048】
(b)上記実施形態では、第1車輪としての前輪12(または後輪14)を駆動するフロントモータ4、および第2車輪としての後輪14(または前輪12)を駆動するリアモータ6を例に用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。車両1は、前輪12または後輪14の第1車輪としての左車輪(または右車輪)と、第2車輪としての右車輪(または左車輪)と、をそれぞれ別々のモータで駆動する車両であってもよい。この場合、制御部8は、左右の各車輪を駆動するそれぞれのモータの回転数から第1速度V1および第2速度V2を算出してもよい。すなわち、車両1は、異なる位置にある第1車輪および第2車輪を、それぞれ別々に駆動するモータを備えればよい。
【0049】
(c)上記実施形態では、前輪12と後輪14の4輪駆動の車両の制御システムを開示したが本開示はこれに限定されない。例えば、前輪と複数の後輪とを有する車両の制御システムにも本開示を適用できる。
【0050】
本出願は、2019年8月22日出願の日本特許出願特願2019-151640に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0051】
1:車両
2:制御システム
4:フロントモータ(第1回転電機)
6:リアモータ(第2回転電機)
8:制御部
10:制動装置(制動部)
12:前輪(第1車輪)
14:後輪(第2車輪)
18:アクセルペダル
18a:アクセルペダルポジションセンサ(アクセル位置検知部)
V1:第1速度
V2:第2速度
Vd:所定速度
図1
図2
図3
図4