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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】抗糖尿病用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20220128BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 19/06 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61K36/185
A23L33/10
A61P43/00 111
A61P1/16
A61P3/06
A61P3/10
A61P19/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2015112681
(22)【出願日】2015-06-02
(65)【公開番号】P2016222626
(43)【公開日】2016-12-28
【審査請求日】2018-04-17
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】511175004
【氏名又は名称】大生工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】程 徳林
(72)【発明者】
【氏名】張 振亜
(72)【発明者】
【氏名】胡 選生
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
【審判官】穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】Huang Q et al.,Effect and mechanism of methyl helicterate isolated from Helicteres angustifolia (Sterculiaceae) on hepatic fibrosis induced by carbon tetrachloride in rats,Journal of Ethnopharmacology,2012年,Vol.143,No.3,p.889-895
【文献】Chang YS et al.,Analysis of three lupane type triterpenoids in Helicteres angustifolia by high-performance liquid chromatography,Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,2001年,Vol.26,No.5-6,p.849-855
【文献】Wang GC et al.,Two pregnane derivatives and a quinolone alkaloid from Helicteres angustifolia,Fitoterapia,2012年,Vol.83,No.8,p.1643-1647
【文献】Govindaraj J et al.,Rosmarinic acid modulates the antioxidant status and protects pancreatic tissues from glucolipotoxicity mediated oxidative stress in high-fat diet: streptozotocin-induced diabetic rats,Molecular and Cellular Biochemistry,2015年 3月 4日,Vol.404,No.1-2,p.143-159,doi: 10.1007/s11010-015-2374-6
【文献】Jayanthy G et al.,Rosmarinic acid,a polyphenol,ameliorates hyperglycemia by regulating the key enzymes of carbohydrate metabolism in high fat diet - STZ induced experimental diabetes mellitus,Biomedicine & Preventive Nutrition,2014年,Vol.4,No.3,p.431-437
【文献】鈴木 寿,今泉 茂巳,地域資源を活用した食品加工技術に関する研究 -地域特産品(エゴマ)の有効利用に関する研究(第2報)-,岐阜県産業技術センター研究報告 [online],2013年,No.7,p.27-31,[2019年7月31日検索],インターネット<URL:http://www.iri.rd.pref.gifu.lg.jp/pdf/research/2012/2012_08.pdf>
【文献】荒木 栄一,糖尿病治療の新たな潮流 糖尿病治療薬の作用機序と使い方,日本内科学会雑誌,2013年 3月10日,第102巻,第3号,p.624-6318.溝田 浩二,門外漢のための「学名」のはなし,化学と生物,2004年,第42巻,第2号,p.99-103
【文献】Naimi M et al.,Increased Glucose Uptake in L6 Rat Skeletal Muscle Cells by Rosemary,Canadian Journal of Diabetes,2014年,Vol.38,No.5,p.S68
【文献】「第66回日本生物工学会大会講演要旨集」、2014年8月5日発行、公益社団法人日本生物工学会発行、p.211の項目3P-068(参考URL :https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10535247_po_ART0010439493.pdf?contentNo=1&alternativeNo= )
【文献】「第十三改正日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 1996」、特許庁受入 平成11年2月12日、廣川書店、A-67~A-70の項目4.エキス剤
【文献】「中薬大辞典 第二巻」、1998年5月1日初版第三刷、(株)小学館 p.1929~1930の項目1929サンシマ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00-36/9068,A23L33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤンバルゴマの根の70~80%エタノール抽出物を有効成分として含有することを特徴とするグルコース取り込み促進剤。
【請求項2】
ヤンバルゴマの根の70~80%エタノール抽出物を含有するグルコースの取り込み促進用の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病又は糖尿病合併症に対して有効な組成物及び該組成物を含む食品又は医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病としての糖尿病は、高齢化、肥満、過食、運動不足、ストレス、飲酒などにより世界全体で爆発的に急増している。2030年の全世界の糖尿病人口は3億6,600万人になると予想されている(非特許文献1参照)。糖尿病は、慢性高血糖を主徴とし、脂質代謝異常、糖代謝異常などを伴う慢性内分泌疾患である(非特許文献2参照)。糖尿病の高血糖は、体の肝臓、腎臓などの器官、組織に損傷を与え、様々な合併症を引き起こす。このような合併症としては、例えば、腎症、神経障害、大血管障害、網膜症、足病変などがある。
【0003】
糖尿病は1型糖尿病及び2型糖尿病に分類される。そのうち、2型糖尿病患者が糖尿病患者の90%以上を占めている。インスリン抵抗性は2型糖尿病を発症する要因である。インスリンは体の中で血糖を下げる唯一のホルモンとして、インスリンの標的臓器である肝臓、脂肪組織、骨格筋に作用し、グルコースの取り込みを促進する。
インスリン抵抗性になると、インスリンの標的臓器である肝臓、脂肪組織、骨格筋からグルコースがうまく取り込まれず、肝臓に蓄えたグリコーゲンのグルコースへの分解を抑制できず、血糖値が下がらない状態になる。肝臓、脂肪組織、骨格筋へのグルコース取り込みを促進するのは血糖降下の一つのメカニズムである。
中でも、骨格筋は体重の約半分を占める人体最大の器官であり、体内に吸収されたグルコースの85%以上が取り込まれる(非特許文献3参照)。従って、骨格筋へのグルコース取り込みを促進するのは有効な糖尿病の治療または予防方法である。
【0004】
このように、糖尿病の予防又は治療は重要である。近年、薬用植物を中心とする天然植物から抗糖尿病薬についての研究開発が多数実施されている。例えば月見草(特許文献1参照)、桑葉(特許文献2参照)、零陵香(特許文献3参照)等が糖尿病治療に用いられている。また、近年、天然物からのグルコース取り込み促進剤が多く報告されている。例えば、セリ科植物由来処理物(特許文献4参照)、ケフィア抽出物(特許文献5参照)、茶抽出物(特許文献6参照)、ヨモギ(特許文献7参照)などがある。
【0005】
一方、ヤンバルゴマ(Helicteres angustifolia L.)は中国西南部および東南アジア原産のアオギリ科ヤンバルゴマ属の小低木で、山地に分布している。ヤンバルゴマの抽出物が、抗糖尿病効果を有すること、そして、グルコース取り込み促進作用を有することについては報告例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-256522号公報
【文献】特開2012-207009号公報
【文献】特開2011-507951号公報
【文献】国際公開WO2004/014407号公報
【文献】特開2006-206606号公報
【文献】特開2003-95942号公報
【文献】特開2005-22988号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sarah W.et al., Diabetes Care. 27, p1047-1053, 2004
【文献】Kuzuya T al., Diabetes Res Clin Pract, 55, p65-85, 2002
【文献】DeFronzo R.et al., Diabetes. 30, p1000-1007, 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全かつ有効な、新規の糖尿病の予防又は治療に有効な組成物及び該組成物を含有する食品又は医薬品を提供することを課題とする。本発明はまた、安全かつ有効な、新たなグルコース取り込み促進作用を有する組成物およびその組成物を含む食品又は医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ヤンバルゴマの根の抽出物は、抗糖尿病活性およびグルコース取り込み促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ヤンバルゴマ(Helicteres angustifolia L.)の根の抽出物を有効成分として含有する糖尿病の予防及び/又は治療剤。
(2)前記抽出物が30~90%エタノール抽出物であることを特徴とする(1)に記載の糖尿病の予防及び/又は治療剤。
(3)ヤンバルゴマの根の抽出物を有効成分として含有する脂質異常症の予防及び/又は治療剤。
(4)ヤンバルゴマの根の抽出物を有効成分として含有する高尿酸血症の予防及び/又は治療剤。
(5)ヤンバルゴマの根の抽出物を有効成分として含有する肝機能障害の予防及び/又は治療剤。
(6)ヤンバルゴマの根の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするグルコース取り込み促進剤。
(7)(6)に記載のグルコース取り込み促進剤を含有することを特徴とする高血糖改善剤。
(8)(1)または(2)に記載の糖尿病の予防及び/又は治療剤を含有する機能性食品。
(9)(3)に記載の脂質異常症の予防及び/又は治療剤を含有する機能性食品。
(10)(4)に記載の高尿酸血症の予防及び/又は治療剤を含有する機能性食品。
(11)(5)に記載の肝機能障害の予防及び/又は治療剤を含有する機能性食品。
(12)(6)に記載のグルコースの取り込み促進剤を含有する機能性食品。
(13)(7)に記載の高血糖改善剤を含有する機能性食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヤンバルゴマ由来の抽出物は、血糖値低下作用、および、肝臓、骨格筋、脂肪組織へのグルコースの取り込み促進活性を有するため、抗糖尿病活性を有する。また、本発明のヤンバルゴマ由来の抽出物により、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害を改善できる。さらに、本発明のヤンバルゴマ由来の抽出物は、HDLコレステロールを上昇させるため、糖尿病合併症の心血管疾患を予防できる。従って、本発明のヤンバルゴマ由来の抽出物は食品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品又は医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例3におけるグルコース負荷試験の測定結果を示すグラフ。
図2】実施例4における血糖値の測定結果を示すグラフ。
図3】実施例4における中性脂肪の測定結果を示すグラフ。
図4】実施例4における総コレステロールの測定結果を示すグラフ。
図5】実施例4におけるHDLコレステロールの測定結果を示すグラフ。
図6】実施例4におけるASTの測定結果を示すグラフ。
図7】実施例4におけるALTの測定結果を示すグラフ。
図8】実施例4における尿酸の測定結果を示すグラフ。
図9】実施例4における尿素窒素値の測定結果を示すグラフ。
図10】実施例5における前駆脂肪細胞3T3-L1におけるグルコース取り込み促進作用の測定結果を示すグラフ。
図11】実施例5における筋芽細胞C2C12におけるグルコース取り込み促進作用の測定結果を示すグラフ。
図12】実施例5における肝細胞HepG2におけるグルコース取り込み促進作用の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
(本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤)
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は、ヤンバルゴマの根の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。ヤンバルゴマ(Helicteres angustifolia L.)は中国西南部および東南アジア原産のアオギリ科ヤンバルゴマ属の小低木である。
【0014】
(本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤の製造方法)
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は、ヤンバルゴマの根を、水、エタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ブタノール等の水性溶媒単独で或いはこれらを組み合わせて抽出することにより得ることができる。安全面を考慮して、水または含水エタノールを抽出溶媒として使用することが好ましい。また、ヤンバルゴマは、水または含水エタノールを抽出溶媒として用いると、有効成分が効率よく抽出される。さらに、抽出溶媒として含水エタノールを使用する場合、30~90%エタノールを使用することが好ましい。得られた抽出液を減圧下で溶媒留去することにより、ヤンバルゴマの根の抽出物を得ることができる。
【0015】
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は、上記抽出物をそのまま、あるいは、必要に応じて薬理学的に許容される担体を添加して、本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤とすることができる。薬理学的に許容される担体としては、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤等、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、及び緩衝剤等が挙げられる。
【0016】
(本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤の製剤化)
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤の製剤化には、通常製剤化に用いられる各種の成分が任意に使用されるが、その例としては、例えばデンプン、デキストリン、乳糖、コーンスターチ、無機塩類などが挙げられる。
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は毒性が極めて低く、重大な副作用が報告されていないため、直接摂取することができる。従って、上記糖尿病の予防及び/又は治療剤を、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、散剤等として摂取することができる。
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤の投与方法としては特に制限されないが、経口投与が好ましい。好ましい投与量としては、例えば、患者(体重60kgとして)に対して、乾燥重量で、一日につき100mg~50g、好ましくは500mg~30gである。本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤中の抽出物の濃度としては、例えば、10~500μg/ml、20~150μg/mlが好ましい。
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は、血糖上昇抑制効果を有することに加えて、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の改善効果、およびグルコースの取り込み促進作用を示すため、糖尿病の予防または改善に有効である。
本発明の脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の予防及び/又は治療剤、並びにグルコース取り込み促進剤は、本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤と同様に製造することができる。
【0017】
(本発明の食品)
本発明の食品は、上記糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の予防及び/又は治療剤、あるいはグルコース取り込み促進剤を含むことを特徴とする。
本発明の糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の予防及び/又は治療剤、あるいはグルコース取り込み促進剤は、食品として一般に用いられる原料、例えば、蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミン類などに配合することにより、血糖上昇抑制効果、脂質異常症改善効果、高尿酸血症改善効果、および/または肝機能障害の改善効果を有する、機能性食品、健康食品、健康補助食品、食事用補添物、栄養組成物としても用いることができる。本発明の食品は、上記糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の予防及び/又は治療剤、あるいはグルコース取り込み促進剤を食品原料に配合することにより製造することができる。本発明の食品の好ましい例としては乳製品、調味料、菓子類、麺類、スープ類、飲料等が挙げられ、特に、ティーバッグ、お茶等の飲料が好ましい。
本発明の食品中に含まれる糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害の予防及び/又は治療剤、あるいはグルコース取り込み促進剤の量は、特に限定されず適宜選択すればよいが、例えば、食品1kg当たり100mg~50g、好ましくは500mg~30g、飲料中に10~500μg/ml、好ましくは20~150μg/mlとするのがよい。
また、本発明の食品は、上記のような疾患に対する予防または治療効果を有する健康食品や特定保健用食品、栄養機能食品などとすることもできる。本発明の食品は、例えば「血糖上昇抑制効果を有する食品」、「血糖上昇抑制効果を有する成分を含有する食品」、「脂質異常改善効果を有する食品」、「脂質異常改善効果を有する成分を含有する食品」、「高尿酸血症改善効果を有する食品」、「高尿酸血症改善効果を有する成分を含有する食品」、「肝機能障害改善効果を有する食品」、「肝機能障害改善効果を有する成分を含有する食品」等の表示を付して販売することもできる。また、「糖尿病治療効果を有する食品」、「糖尿病治療効果を有する成分を含有する食品」などの表示を有してもよい。
【実施例
【0018】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
また、各実施例に伴う表中の結果は各群の平均値または平均値±標準誤差で示した。各群間の比較は一元配置分散分析(ANOVA)を行った後にDuncan's multiple range test (DMRT)にて多重比較検定を行った。(*p < 0.05、 **p < 0.01、 ***p < 0.001)。
【0019】
実施例1:ヤンバルゴマ根の抽出物の調製
ヤンバルゴマ乾燥根(ラオスから入手)100gを粉砕し、70%エタノールを加えて室温で3日間抽出を行った。抽出液を合わせて40℃で減圧下、溶媒留去して70%エタノール抽出物(10g)を得た。
【0020】
実施例2:急性経口毒性試験
急性経口毒性試験方法は10週齢の正常ラットを用いて固定用量法(OECD TG420)を参考にして行った。
急性経口毒性試験の結果より、10週齢の正常ラットの実験群(各群3匹)に実施例1で調製した抽出物 5 g/kgの用量を投与しても観察期間中に異常及び死亡例は認められなか
った。半数致死量(LD50)は5 g/kg以上と考えられ、人間(60 kg)に換算すると致死量は300 g以上であった。従って、実施例1で調製した抽出物は急性毒性がないことが分かった。
【0021】
実施例3:グルコース負荷試験
13週齢のSD系ラット(日本エスエルシー)は室温23±1°C、湿度55±8%、12時間明暗周期(7:00-19:00明期)照明下、筑波大学動物資源センターで飼育し、固形飼料(MF.オリエンタル酵母工業)及び水(水道水)を自由摂取とした。ラットを1週間予備飼育した後、実験に使用した。
対照群(6匹)には蒸留水を、投与群(6匹)には実施例1で調製した抽出物(200 mg/kg)経口投与した。投与30分後、各群にグルコース(2 g/kg)を胃ゾンデによって経口投与した(10 mL/kg体重)。グルコースを投与する直前(0分)及びグルコース投与30、60、120分後、尾静脈から採血して血糖値を簡易型血糖値測定器(グルテストNeoaアルファ、三和化学研究所、名古屋)を用いて測定した。
各群にグルコースを投与後120分の血糖値の推移を図1に示した。図1から明らかなように、正常ラットにグルコースを投与した後、コントロールと比較して投与群の血糖値低下傾向が見られた。特に、グルコースを投与した30分後、コントロールと比較して投与群の血糖値は統計学的に有意な低下が見られた(p<0.05)。
以上の結果より、実施例1で調製した抽出物が正常ラットの耐糖能を改善する作用を有し、抗糖尿病効果を有することが示唆された。
【0022】
実施例4:糖尿病に関する指標の測定
ストレプトゾトシン(Enzo Life Sciences)に少量の生理食塩液を加えて混合し、0.05
Mクエン酸溶液(pH4.5)をストレプトゾトシン 100 mg当り50 μl加えて溶解させ、最終的に10 mg/mLの溶液を作製した。この溶液を調製後、5分以内に12時間絶食させた6週齢のSD系雄ラット(SLC)の腹腔内に50 mg/kgの用量で24 G注射針を用いて投与し、糖尿病を誘発した。3日後、空腹時血糖値が200 mg/dL以上を示したラットを、糖尿病モデルラットとして本実験に使用した。
作製した糖尿病ラットを空腹時血糖値が均等となるように四群に分けた。正常ラット(6匹)は対照として使用した。群分けは以下の通りであった。
(1) 糖尿病ラット対照群(6匹):0.5% CMC-Na水溶液
(2) 糖尿病ラット投与群(6匹):実施例1で調製した抽出物 (200 mg/kg)
(3) 糖尿病ラット投与群(6匹):Glibenclamide (1 mg/kg)
実施例1で調製した抽出物及び糖尿病治療薬であるGlibenclamideは投与当日に0.5% CMC-Na溶液に懸濁した。各群は1日1回で4週間連続経口投与した。4週間後、糖尿病と関連する血糖値、脂質代謝と関連する中性脂肪、総コレステロール、HDLコレステロール、肝機能と関連するAST、ALT、腎機能と関連する尿酸、尿素窒素を測定した。
血糖値の測定結果を図2に示した。図2に示すように、4週間連続経口投与した後、実施例1で調製した抽出物投与群は糖尿病ラット対照群と比較して血清中の血糖値が統計学的に有意に低下した(p<0.001)。従って、実施例1で調製した抽出物は抗糖尿病効果を有することが分かった。
中性脂肪、コレステロール及びHDLコレステロールの測定結果をそれぞれ図3図4図5に示した。図3図4から明らかなように、実施例1で調製した抽出物投与群は、糖尿病ラット対照群と比較して、血清中の中性脂肪、コレステロール量が統計学的に有意に低下した(p<0.001)。従って、実施例1で調製した抽出物は、肥満改善効果を有することが分かった。図5に示すように、実施例1で調製した抽出物投与群は糖尿病ラット対照群と比較して、血清中のHDLコレステロールが有意に増加した(p<0.05)。HDLコレステロールが心血管疾患リスクと逆相関することが明らかであり、HDLコレステロールが上昇することにより心血管疾患リスクが低下した。従って、実施例1で調製した抽出物が糖尿病合併症の心血管疾患を予防できることが分かった。
AST、ALTの測定結果をそれぞれ図6図7に示した。図6に示すように、糖尿病ラット対照群と比較して、実施例1で調製した抽出物投与群はASTの低下傾向を示した。図7に示すように、糖尿病ラット対照群と比較して、実施例1で調製した抽出物投与群のALTは統計学的に有意な低下が見られた(p<0.01)。
尿酸及び尿素窒素の測定結果をそれぞれ図8図9に示した。図8に示すように、4週間連続経口投与した後、実施例1で調製した抽出物投与群は、糖尿病ラット対照群と比較して、血清中の尿酸が統計学的に有意に低下した(それぞれp<0.01、p<0.001)。尿酸値が高い状態(高尿酸血症)は痛風の原因である。従って、実施例1で調製した抽出物は抗痛風作用を有することが示唆された。図9に示すように、実施例1で調製した抽出物投与群は、糖尿病ラット対照群と比較して、血清中の尿素窒素の低下傾向を示した。
【0023】
実施例5:グルコース取り込み促進作用
(抽出物の調製)
ヤンバルゴマの根100gに80%エタノール1Lを加え、室温で3日間抽出し、抽出液をエバポレーターにより濃縮した後、凍結乾燥した。
(細胞)
前駆脂肪細胞3T3-L1(JCRB細胞バンクから入手)、筋芽細胞C2C12および肝細胞HepG2 (理研バイオリソースセンターから入手)におけるグルコース取り込み促進作用を検討した。
(前駆脂肪細胞3T3-L1の分化誘導)
前駆脂肪細胞3T3-L1を96穴ウェルプレート中に播種(3×104個/ウェル)して37℃の5%炭酸ガス培養器にて24時間培養した。細胞がコンフルエントになったら、分化誘導培地(10μg/mLインスリン、1μM dexamethazone、0.5mM 3-isobuthyl-1-methylxantineを添加したDMEM培地)に置換し、3日間培養した。
さらに、10μg/mLインスリン、10%FBSを含有するDMEM培地で2日間培養した。その後、10%FBSを含有するDMEM培地で6日間培養した。約90%の細胞が脂肪細胞に分化した後、実験に使用した。
(C2C12骨格筋細胞の分化)
筋芽細胞C2C12を96穴ウェルプレート中に播種(2×104個/ウェル)して37℃の5%炭酸ガス培養器にて2日間培養した。細胞がコンフルエントになった時点で、2%ウマ血清を含有するDMEM培地に置換した。その後、2%ウマ血清を含有するDMEM培地は2日毎に置換し、6日間培養した。顕微鏡下でほぼ全ての細胞が分化しているのを確認した後、実験に使用した。
(グルコース取り込み促進作用)
肝細胞HepG2、分化した前駆脂肪細胞3T3-L1および分化した筋芽細胞C2C12を96穴ウェルプレートで培養した後、0.2%牛血清アルブミン(BSA)を含有するDMEM培地に置換し、血清飢餓処理を行った。さらに37℃の5%炭酸ガス培養器にて12時間培養した。その後、上記調製した抽出物を添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器にて24時間培養した。その後、200μLグルコーステスト試薬を新しい96穴ウェルプレートに添加し、各穴から10μL培地を加えて、37℃15分間加温した後、490nmの吸光度を分光光度計で測定した。
図10-12に示すように、上記調製した抽出物を添加することにより、肝細胞HepG2、分化した前駆脂肪細胞3T3-L1および分化した筋芽細胞C2C12へのグルコース取り込み量が濃度依存的に増加し、抗糖尿病効果が示唆された。
以上の結果より、本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は糖尿病予防及び治療に有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療剤は、食品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品および医薬品などの分野で利用可能である。
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図12