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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20220107BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B62D21/15 B
B62D25/20 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017196502
(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公開番号】P2019069682
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内場 友貴
(72)【発明者】
【氏名】川本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】木戸 啓人
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
(72)【発明者】
【氏名】金丸 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐野 晋
(72)【発明者】
【氏名】向井 北斗
(72)【発明者】
【氏名】神保 泰成
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2014/077227(JP,A1)
【文献】特開昭58-089475(JP,A)
【文献】特開2016-037242(JP,A)
【文献】特開2016-141281(JP,A)
【文献】特開2015-217898(JP,A)
【文献】特開2015-231781(JP,A)
【文献】特開2018-165095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B62D 25/08
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載されたパワートレインの車幅方向外側で車両前後方向に延びかつ略矩形の閉断面状に形成された延長フレームを備えた車体構造であって、
上記延長フレームの車両前側の端部には、該端部を車幅方向外側に拡幅させかつ該延長フレームよりも車幅方向外側で上記車両が前面衝突したときの衝突荷重を受ける荷重受け部が設けられ、
上記延長フレームの車両前側の端面には、平面視で該端面から車両後側に切り欠かれた切欠き部が形成されており、
上記切欠き部には、平面視で略U字状の切欠き構成部が接合され、
上記切欠き構成部は、上記延長フレームの上面よりも上側に延びると共に、その上端に、上記延長フレームの上側に位置するフロントサイドフレームに固定される固定部材が設けられ、
上記切欠き構成部における車幅方向両側の側部同士を接続する接続部材を備えていることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の車体構造において、
上記延長フレームは、上記パワートレインを挟んで該延長フレームとは反対側で車両前後方向に延びる反対側フレームに、車幅方向に延びる連結クロスメンバを介して連結されており、
上記切欠き部の車両前側の開口端が、上記連結クロスメンバよりも車両前側に位置していることを特徴とする車体構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車体構造において、
上記延長フレームは、上記荷重受け部の車両後側で車幅方向内側に突出するように湾曲していることを特徴とする車体構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の車体構造において、
上記延長フレームの車両前側の端面には、クラッシュカンの車両後側の端面に設けられたセットプレートがボルトにより締結されており、
上記接続部材は、上記切欠き部における車幅方向両側の側部に溶接接合されていることを特徴とする車体構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の車体構造において、
上記接続部材は、上記切欠き構成部内における車両前側の開口端の近傍に設けられていることを特徴とする車体構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の車体構造において、
上記固定部材は、上記切欠き部の上側の開口を塞ぐように上記切欠き構成部の上端に接合される板材を有していることを特徴とする車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部に搭載されたパワートレインの車幅方向外側で車両前後方向に延びるフレームを備えた車体構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の前面衝突時に、フレーム(フロントサイドフレームや、サスペンションクロスメンバから車両前側に延びる延長フレーム)の変形により、衝突荷重を吸収するようにすることが知られている。また、車両の前面衝突の一形態として、車両のフロントサイドフレームよりも車幅方向外側で障害物と衝突する場合があり、このような前面衝突は、スモールオーバーラップ衝突と呼ばれる。このスモールオーバーラップ衝突に対処するべく、フロントサイドフレームの前端に車幅方向外側に突出する荷重受け部を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、上記荷重受け部に入力された衝突荷重により、フロントサイドフレームを車幅方向に移動させるとともに、パワーユニット(パワートレイン)を車幅方向に移動させることで、衝突エネルギーを吸収して、車体前部が車室側に後退するのを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5357953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フレームの車両前側の端部に、上記のような荷重受け部を設ける場合、該端部が車幅方向外側に拡幅するために、フレームの重量がアップする。そこで、フレームの軽量化を図るべく、フレームの車両前側の端面に、平面視で該端面から車両後側に切り欠かれた切欠き部を形成することが考えられる。
【0005】
また、車両のスモールオーバーラップ衝突時に、荷重受け部に入力された衝突荷重によりフレームを車幅方向内側に折り曲げてパワートレインに当接させ、該当接により、車両前部を車幅方向の障害物から遠ざかる側に移動させるようにして、衝突荷重が車両の車室内に伝達されるのを抑制することが考えられる。
【0006】
しかし、上記のような切欠き部を形成した場合、荷重受け部に衝突荷重が入力されたときに、切欠き部が車幅方向に開く可能性があり、切欠き部が車幅方向に開くと、荷重受け部に入力された衝突荷重をフレームに効率良く伝達することが困難になる。特に、上記のように、車両のスモールオーバーラップ衝突時に、車両前部を車幅方向の障害物から遠ざかる側に移動させようとする場合において、フレームとパワートレインとの間の車幅方向の隙間が小さい場合には、フレームが十分に折れ曲がらないうちにパワートレインに当接するために、荷重受け部に入力された衝突荷重が、フレームの車両前側の端部における切欠き部よりも車幅方向外側部分を、車幅方向内側部分に対して車幅方向外側かつ車両後側に引き離すように作用して、切欠き部が車幅方向により一層開き易くなる。この結果、荷重受け部に入力された衝突荷重をフレームに伝達することがより一層困難になり、車両前部を車幅方向の障害物から遠ざかる側に移動させることが困難になる。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フレームの車両前側の端面に、平面視で該端面から車両後側に切り欠かれた切欠き部を形成して該フレームの軽量化を図りながら、車両のスモールオーバーラップ衝突時に、切欠き部の車幅方向の開きを抑制して、荷重受け部に入力された衝突荷重を上記フレームに効率良く伝達できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、車両の前部に搭載されたパワートレインの車幅方向外側で車両前後方向に延びかつ略矩形の閉断面状に形成された延長フレームを備えた車体構造を対象として、上記延長フレームの車両前側の端部には、該端部を車幅方向外側に拡幅させかつ該延長フレームよりも車幅方向外側で上記車両が前面衝突したときの衝突荷重を受ける荷重受け部が設けられ、上記延長フレームの車両前側の端面には、平面視で該端面から車両後側に切り欠かれた切欠き部が形成されており、上記切欠き部には、平面視で略U字状の切欠き構成部が接合され、上記切欠き構成部は、上記延長フレームの上面よりも上側に延びると共に、その上端に、上記延長フレームの上側に位置するフロントサイドフレームに固定される固定部材が設けられ、上記切欠き構成部における車幅方向両側の側部同士を接続する接続部材を備えている、という構成とした。
【0009】
上記の構成により、切欠き部により延長フレームの軽量化を図ることができるとともに、切欠き構成部における車幅方向両側の側部同士が接続部材により接続されているので、車両のスモールオーバーラップ衝突時において、荷重受け部に衝突荷重が入力されたときに、切欠き部の車幅方向の開きを抑制することができる。これにより、荷重受け部に入力された衝突荷重をフレームに効率良く伝達できるようになる。
【0010】
上記車体構造の一実施形態において、上記延長フレームは、上記パワートレインを挟んで該延長フレームとは反対側で車両前後方向に延びる反対側フレームに、車幅方向に延びる連結クロスメンバを介して連結されており、上記切欠き部の車両前側の開口端が、上記連結クロスメンバよりも車両前側に位置している。
【0011】
このような構成により、荷重受け部に衝突荷重が入力されたときに、切欠き部が車幅方向により一層開き易くなるが、切欠き部における車幅方向両側の側部同士が接続部材により接続されているので、このように切欠き部が車幅方向に開き易い構成であっても、切欠き部の車幅方向の開きを抑制することができる。
【0012】
上記車体構造の別の実施形態において、上記延長フレームは、上記荷重受け部の車両後側で車幅方向内側に突出するように湾曲している。
【0013】
このことにより、荷重受け部に衝突荷重が入力されたときに、延長フレームが車幅方向内側に折れ曲がり易くなり、この折れ曲がりにより、延長フレームをパワートレインに当接させることができ、該当接により、車両前部を車幅方向の障害物から遠ざかる側に移動させるようすることができる。この結果、車両のスモールオーバーラップ衝突時における衝突荷重が該車両の車室内に伝達されるのを抑制することができる。一方、延長フレームとパワートレインとの間の車幅方向の隙間が小さい場合には、延長フレームが十分に折れ曲がらないうちにパワートレインに当接するために、荷重受け部に入力された衝突荷重が、延長フレームの車両前側の端部における切欠き部よりも車幅方向外側部分を、車幅方向内側部分に対して車幅方向外側かつ車両後側に引き離すように作用して、切欠き部が車幅方向により一層開き易くなる。しかし、切欠き部における車幅方向両側の側部同士が接続部材により接続されているので、延長フレームとパワートレインとの間の車幅方向の隙間が小さくても、切欠き部の車幅方向の開きを抑制することができる。
【0014】
上記車体構造の更に別の実施形態において、上記延長フレームの車両前側の端面には、クラッシュカンの車両後側の端面に設けられたセットプレートがボルトにより締結されており、上記接続部材は、上記切欠き部における車幅方向両側の側部に溶接接合されている。
【0015】
このことにより、接続部材に加えて、セットプレートによっても、車両のスモールオーバーラップ衝突時における切欠き部の車幅方向の開きを抑制することができる。ここでは、セットプレートはボルト締結されるものであるため、補助的なものであり、基本的には、溶接接合された接続部材が切欠き部の車幅方向の開きを抑制することになる。
【0016】
上記車体構造において、上記接続部材は、上記切欠き構成部内における車両前側の開口端の近傍に設けられている、ことが好ましい。
このことで、車両のスモールオーバーラップ衝突時に、切欠き部の車両前後方向の略全体が車幅方向に開くのを抑制することができ、荷重受け部に入力された衝突荷重をフレームにより一層効率良く伝達できるようになる。
【0017】
上記の車体構造において、上記固定部材は、上記切欠き部の上側の開口を塞ぐように上記切欠き構成部の上端に接合される板材を有している、としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の車体構造によると、切欠き部により延長フレームの軽量化を図ることができるとともに、切欠き部における車幅方向両側の側部同士を接続する接続部材によって、車両のスモールオーバーラップ衝突時において、荷重受け部に衝突荷重が入力されたときに、切欠き部の車幅方向の開きを抑制することができ、荷重受け部に入力された衝突荷重をフレームに効率良く伝達できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る車体構造が適用された車両の前部の要部を示す平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】上記車両の前部を下側から見た底面図である。
図4】上記車両のサスペンションクロスメンバの本体部及び左右の前方延設部、左右の延長フレーム、連結クロスメンバ、クラッシュカン並びにスティフナーを示す平面図である。
図5】前端面にクラッシュカンが締結された左側の延長フレームを、固定部材を取り除いて示す平面図である。
図6】上記左側の延長フレームを示す斜視図である。
図7】左側の延長フレームの切欠き部の構成を示す分解斜視図である。
図8】上記車両の前面の左側部分で障害物とのスモールオーバーラップ衝突が発生したときにおける、左側の延長フレームの変形の様子を概略的に示す底面図である。
図9図8から障害物が上記車両に対して更に後退したときにおける図8相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1図3は、本発明の実施形態に係る車体構造が適用された車両1の前部の要部を示す。この車両1の前部におけるエンジンルーム2内には、当該車両1の左右の前輪3を駆動するパワートレイン5が配設されている。このパワートレイン5は、エンジン6と、エンジン6にて生成されたトルク(動力)が入力されるトランスミッション7とで構成されている。以下、車両1についての前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。
【0022】
エンジン6及びトランスミッション7は、後述の左右一対のフロントサイドフレーム11間において車幅方向(左右方向)に並んでいて、本実施形態では、エンジン6は、トランスミッション7に対して右側に位置している。エンジン6の下端部は、オイルパン6a(図3参照)で構成されている。
【0023】
エンジンルーム2の車幅方向両側の端部には、前後方向に延びかつ略矩形の閉断面状に形成された左右一対のフロントサイドフレーム11が配設されている。また、エンジンルーム2の後端部には、エンジンルーム2と車室12とを仕切るダッシュパネル13(図2参照)が設けられている。このダッシュパネル13の上端部に、カウル部材14が接合されている。カウル部材14の車幅方向両側の端部には、前後方向に延びる左右のエプロンレインメンバ19の後端部がそれぞれ連結されている。
【0024】
左右のフロントサイドフレーム11の車幅方向外側には、ホイールハウスパネル17及びサスペンションタワー18がそれぞれ設けられている。各ホイールハウスパネル17は、前輪3の上側を覆うように円弧状に形成されて、その円弧内側にフロントホイールハウスを構成する。左右のサスペンションタワー18の下端部は、左右のフロントサイドフレーム11にそれぞれ固定され、左右のサスペンションタワー18の上端部は、左右のエプロンレインメンバ19にそれぞれ固定されている。
【0025】
パワートレイン5は、その長手方向が車幅方向となるように、該パワートレイン5の両端部で、左側マウント装置21及び右側マウント装置25を介して左右一対のフロントサイドフレーム11に弾性支持されている。左側のマウント装置21は、トランスミッション7の左側端部の上部に連結されるパワートレイン側連結部材22と、左側のフロントサイドフレーム11及び左側のホイールハウスパネル17に連結される車体側連結部材23と、これら両連結部材22,23間に配設されたゴムブッシュ(図示省略)とを有している。この左側のマウント装置21により、トランスミッション7の左側端部の上部が左側のフロントサイドフレーム11に弾性支持されることになる。また、右側のマウント装置25は、エンジン6の右側端部の上部に連結されるパワートレイン側連結部材26と、右側のフロントサイドフレーム11及び右側のホイールハウスパネル17に連結される車体側連結部材27と、これら両連結部材26,27間に配設されたゴムブッシュ(図示省略)とを有している。この右側のマウント装置25により、エンジン6の右側端部の上部が右側のフロントサイドフレーム11に弾性支持されることになる。
【0026】
左右のフロントサイドフレーム11の前端面には、クラッシュカン31がそれぞれ設けられ、これら左右のクラッシュカン31の前端面が、車幅方向に延びるバンパービーム32の左右両端部に固定されている。
【0027】
図3及び図4に示すように、サスペンションタワー18に対して僅かに後側には、左右のフロントサイドフレーム11の下側で車幅方向に延びるサスペンションクロスメンバ34が配設されている。このサスペンションクロスメンバ34は、互いに周縁部で接合された上側部材35と下側部材36とで構成されている。
【0028】
サスペンションクロスメンバ34は、車幅方向に延びる本体部34aと、この本体部34aの左右両端部の前縁から前側に向かって車幅方向外側に傾斜して延びる前方延設部34bとを有している。左右の前方延設部34bは、上側部材35と下側部材36とで、略矩形の閉断面状に形成されている。
【0029】
左右の前輪3は、前輪サスペンションの一部を構成する左右のサスペンションアーム39(ロアアーム)を介して、サスペンションクロスメンバ34の本体部34aに支持されている。左右のサスペンションアーム39の一端部(車幅方向外側の端部)に左右の前輪3がそれぞれ支持され、左右のサスペンションアーム39の他端部(車幅方向内側の端部)が、本体部34aの後側部分の左右両端部において上下方向に延びる軸40(図3参照)によりゴムブッシュを介してそれぞれ支持されている。また、図示は省略するが、サスペンションアーム39の長手方向中間部が、前後方向に延びる軸によりゴムブッシュを介して左右の前方延設部34bにそれぞれ支持されている。
【0030】
左右の前方延設部34bの上面には、上方へ延びる上方延設部(図示省略)がそれぞれ設けられ、これら左右の上方延設部の上端部が、左右のフロントサイドフレーム11の下面にそれぞれ固定される。
【0031】
サスペンションクロスメンバ34の本体部34aにおける車幅方向の中央近傍部には、エンジン6の下面におけるトランスミッション7の近傍部分に設けられたトルクロッド29を、車幅方向に延びる軸回りに回動可能に支持するトルクロッド支持部34cが設けられている。左右のマウント装置21,25によるパワートレイン5の車幅方向両端部における上記弾性支持により、パワートレイン5の全体が車幅方向に延びる軸回りに回動(揺動)することになるが、トルクロッド29は、パワートレイン5の全体が上記軸回りに回動し過ぎるのを規制する。
【0032】
左右の前方延設部34bの前端部には、それぞれ左右のフロントサイドフレーム11の下側の位置で前後方向に延びる、略矩形の閉断面状に形成された延長フレーム41が結合されている。左右の延長フレーム41は、車幅方向外側に位置する外側部材41aと、車幅方向内側に位置する内側部材41bとで構成されている。これら外側部材41a及び内側部材41bは、断面略U字状をなしていて、これらのU字開口が互いに対向した状態で溶接接合されている。左右の延長フレーム41は、車幅方向において左右のフロントサイドフレーム11とそれぞれ略同じ位置に位置する。
【0033】
各延長フレーム41の後端部は、各前方延設部34bの閉断面内に挿入された状態で該前方延設部34b(上側部材35及び下側部材36)に溶接接合されている。すなわち、各延長フレーム41の後端部は、サスペンションクロスメンバ34と前後方向にオーバーラップした状態で溶接接合されていることになる。
【0034】
各延長フレーム41の前端面には、各フロントサイドフレーム11の前端に設けられたクラッシュカン31と同様のクラッシュカン45が設けられている。各クラッシュカン45の後端面には、セットプレート45aが設けられ、このセットプレート45aが、各延長フレーム41の前端面(詳細には、後述の前面部材55の外側部55b及び内側部55c)に複数(本実施形態では、3つ)のボルト60(図5及び図6のみに記載)により締結固定されている。
【0035】
左右のクラッシュカン45の前端面は、バンパービーム32の下側の位置で車幅方向に延びるスティフナー46の左右両端部に固定されている。このスティフナー46は、車両1の前面に衝突した歩行者の脚部の下部に接触して該脚部を払うことで、該歩行者を車両1のボンネット上に転倒させ、これにより歩行者の脚部における骨折等の傷害の発生を可及的に防止するものである。尚、バンパービーム32及びスティフナー46の前側部分は、不図示のフロントバンパーにより覆われている。
【0036】
図3及び図5に示すように、各延長フレーム41の前端面には、平面視で該前端面から後側に矩形状に切り欠かれた切欠き部41cが形成されている。この切欠き部41cは、延長フレーム41の軽量化を図るためのものである。
【0037】
左右の延長フレーム41の前端部同士は、車幅方向に延びる連結クロスメンバ43によって連結されている。サスペンションクロスメンバ34の本体部34a及び左右の前方延設部34b、左右の延長フレーム41並びに連結クロスメンバ43は、平面視で略矩形状をなすペリメータフレームを構成している。
【0038】
各延長フレーム41の前端部には、該前端部を車幅方向外側に拡幅させかつ該延長フレーム41よりも車幅方向外側(つまりフロントサイドフレーム11よりも車幅方向外側)で車両1が前面衝突したときの衝突荷重を受ける荷重受け部53が設けられている。すなわち、車両1の前面(特にフロントバンパー)における延長フレーム41よりも車幅方向外側の部分と障害物71(図8及び図9参照)とが衝突する、いわゆるスモールオーバーラップ衝突が発生したときに、その衝突荷重が荷重受け部53に入力されるようになっている。
【0039】
図3図7に示すように、各延長フレーム41の荷重受け部53は、車幅方向に沿った平面で切断した断面が略U字状をなしかつそのU字開口が車幅方向内側を向くように折り曲げられた板状の本体部材54と、延長フレーム41の前端面を構成する前面部材55の一部(後述の外側部55b)とで構成されている。
【0040】
本体部材54は、延長フレーム41の前端部における上面に溶接接合された上面部54aと、延長フレーム41の前端部における下面に、上面部54aに対向した状態で溶接接合された下面部54b(図3参照)とを有する。上面部54a及び下面部54bは、平面視で同じ大きさの略三角形状をなしていて、車幅方向外側に真っ直ぐに延びる前側縁と、この前側縁の突出先端から後側に向かって車幅方向内側に傾斜して延びる後側縁とを有している。上面部54a及び下面部54bの後側縁同士は、上面部54a及び下面部54bと一体形成された後面部54cにより連結されている。
【0041】
前面部材55は、切欠き部41cにおける車幅方向両側の側部及び後側端部を構成する、平面視で略U字状の切欠き構成部55aと、この切欠き構成部55aにおけるU字両側の端部からそれぞれ車幅方向外側及び内側に延びる外側部55b及び内側部55cとを有する。すなわち、前面部材55は、平面視でハット状をなしている。切欠き部41cの前側の開口端(つまり、切欠き構成部55aのU字開口端)は、連結クロスメンバ43よりも前側に位置している。
【0042】
外側部55bは、荷重受け部53の前面部を構成していて、本体部材54の前側の端面(詳細には、上面部54a及び下面部54bの前側縁)に溶接接合されている。内側部55cは、延長フレーム41の内側部材41bの前端面に溶接接合されている。これら外側部55b及び内側部55cに、クラッシュカン45のセットプレート45aがボルト60により締結される。切欠き構成部55aは、本体部材54及び内側部材41bの両方に溶接接合されている。
【0043】
切欠き構成部55aは、延長フレーム41の外側部材41a及び内側部材41bの上面よりも上側に延びており、その上端に、延長フレーム41の上側に位置するフロントサイドフレーム11に固定するための固定部材51が設けられている。この固定部材51は、切欠き部41cの上側の開口を塞ぐように切欠き構成部55aの上端に溶接接合される板材51aと、この板材51aからフロントサイドフレーム11内に挿入されるように上側に延びて、フロントサイドフレーム11内に設けられた部材に固定されるピン部材51bとを有する。こうして、各延長フレーム41が、前面部材55及び固定部材51を介して各フロントサイドフレーム11に固定されることになる。
【0044】
各延長フレーム41は、荷重受け部53の後側で車幅方向内側に突出するように湾曲している。これは、荷重受け部53に衝突荷重が入力されたときに、延長フレーム41を車幅方向内側に折れ曲がり易くするためである。
【0045】
本実施形態では、左側の延長フレーム41が、本発明のフレームに相当し、右側の延長フレーム41が、パワートレイン5を挟んで左側のフレーム41とは反対側で車両前後方向に延びる反対側フレームに相当する。以下、左側の延長フレーム41の構成、及び、車両1の前面の左側部分でスモールオーバーラップ衝突が発生したときにおける左側の延長フレーム41の変形について説明する。
【0046】
左側の延長フレーム41は、パワートレイン5(トランスミッション7)の車幅方向外側(左側)で前後方向に延びている。トランスミッション7のケース下端部7aが、左側の延長フレーム41と同じ高さ位置に位置する。左側の延長フレーム41とパワートレイン5(ケース下端部7a)との間の車幅方向の隙間は、右側の延長フレーム41とパワートレイン5(右側の延長フレーム41と同じ高さ位置に位置するオイルパン6a)との間の車幅方向の隙間よりも小さい。
【0047】
左側の延長フレーム41の切欠き部41c内における前側の開口端の近傍には、該切欠き部41cにおける車幅方向両側の側部(切欠き構成部55aにおける車幅方向に対向する2つの面)同士を接続する板状の接続部材65が設けられている。この接続部材65における車幅方向両側の端部が、切欠き部41cにおける車幅方向両側の側部にそれぞれ溶接接合されている。この接続部材65は、後述するように、荷重受け部53に衝突荷重が入力されたときに、切欠き部41cが車幅方向に開くのを抑制するための部材である。尚、本実施形態では、右側の延長フレーム41には、このような接続部材65は設けられていない。
【0048】
車両1の前面の左側部分で障害物71とのスモールオーバーラップ衝突が発生したとき、その衝突荷重が左側の延長フレーム41の荷重受け部53に前側から入力される。これにより、左側の延長フレーム41の前端部(荷重受け部53が設けられた部分)には、車幅方向内側へ押圧する押圧力が作用する。この押圧力により、左側の延長フレーム41が、車幅方向内側へ折れ曲がる。
【0049】
左側の延長フレーム41は、右側の延長フレーム41とは異なり、パワートレイン5(トランスミッション7のケース下端部7a)との間の車幅方向の隙間が小さいために、左側の延長フレーム41が十分に折れ曲がらないうちにパワートレイン5(ケース下端部7a)に当接する。このため、図8に示すように、左側の延長フレーム41におけるケース下端部7aの前端部と同じ前後方向の位置に位置する部分がケース下端部7aに当接した状態で、ケース下端部7aよりも前側部分が、上記押圧力によって車幅方向内側に押し込まれる。その押し込みによって、連結クロスメンバ43が或る程度湾曲するものの、この連結クロスメンバ43によって、ケース下端部7aよりも前側部分が車幅方向内側に大きく押し込まれることはない。
【0050】
この状態で、障害物71が車両1に対して更に後退しようとすると、荷重受け部53に入力された衝突荷重によって、左側の延長フレーム41の前端部における切欠き部41cよりも車幅方向外側部分が、左側の延長フレーム41におけるパワートレイン5との当接部分又は連結クロスメンバ43との連結部分を基点に後側に回動しようとする。この回動により、左側の延長フレーム41の前端部における切欠き部41cよりも車幅方向外側部分が、車幅方向内側部分に対して車幅方向外側かつ後側に引き離される(つまり、切欠き部41cが車幅方向に開く)ことになる。
【0051】
このような理由により、仮に左側の延長フレーム41の切欠き部41c内に接続部材65が設けられていないとすると、その切欠き部41cが車幅方向に開いてしまい、荷重受け部53に入力された衝突荷重を左側の延長フレーム41に伝達することが困難になる。
【0052】
これに対し、本実施形態では、左側の延長フレーム41の切欠き部41c内に接続部材65が設けられているので、図9に示すように、障害物71が車両1に対して更に後退しても、切欠き部41cが車幅方向に大きく開くことはない。これにより、荷重受け部53に入力された衝突荷重が、上記押圧力として左側の延長フレーム41に効率良く伝達される。上記押圧力は、パワートレイン5を介して右側の延長フレーム41に伝達される。このようにして、車両前側から荷重受け部53に入力された衝突荷重を、車幅方向の荷重に変換することができる。この結果、車両1の前部が車幅方向の障害物71から遠ざかる側(本実施形態では、右側)に移動するように、車両の向きを変更させることができる。よって、車両1のスモールオーバーラップ衝突時における衝突荷重が、該車両1の車室内に伝達されるのを抑制することができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態では、左側の延長フレーム41を、本発明のフレームとしたが、これに代えて又は加えて、右側の延長フレーム41を本発明のフレームとすることも可能である。
【0055】
また、延長フレーム41に限らず、左右のフロントサイドフレーム11の少なくとも一方を、本発明のフレームとすることも可能である。
【0056】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、車両の前部に搭載されたパワートレインの車幅方向外側で車両前後方向に延びるフレームを備えた車体構造に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 車両
5 パワートレイン
41 延長フレーム
41c 切欠き部
43 連結クロスメンバ
45 クラッシュカン
45a セットプレート
65 接続部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9