(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ部材、ガスセンサ、ガス検知方法、並びに、微量ガス検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
(21)【出願番号】P 2021562817
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018274
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2020121959
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597147980
【氏名又は名称】株式会社寿ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】アフジャ プリティ
(72)【発明者】
【氏名】ウジェイン サンジーブ クマール
(72)【発明者】
【氏名】高城 壽雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 恭
(72)【発明者】
【氏名】村田 克之
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106814110(CN,A)
【文献】特開2010-025728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0084159(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/082920(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108896199(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0350817(US,A1)
【文献】DING, Mengning 外4名,Chemical Sensing with Polyaniline Coated Single-Walled Carbon Nanotubes,ADVANCED MATERIALS,2011年,23,536-540
【文献】CHEN, Xinpeng,Enhanced ammonia sensitive properties and mechanism research of PANI modified with hydroxylated sing,Materials Chemistry and Physics,2019年01月24日,226,376-386
【文献】OLNEY, D., 外2名,A greenhouse gas silicon microchip sensor using a conducting composite with single walled carbon nan,Sensors and Actuators B: Chemical,2014年,191,545-552
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する基材と、
前記基材の表面上に設けられたガス吸着層と、を有し、
前記ガス吸着層は、互いに電気的に接続された複数の単層カーボンナノチューブを含み、
前記単層カーボンナノチューブは表面の少なくとも一部に、導電性高分子を含む有機層を有する、ガスセンサ部材。
【請求項2】
前記有機層が前記単層カーボンナノチューブの外側表面に設けられている、請求項1に記載のガスセンサ部材。
【請求項3】
前記基材は多孔質基材である、請求項1
又は2に記載のガスセンサ部材。
【請求項4】
前記基材の形状は板状である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項5】
前記有機層は単分子層である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項6】
前記導電性高分子はポリアニリンを含有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項7】
前記単層カーボンナノチューブは表面に極性官能基を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項8】
前記単層カーボンナノチューブは開口を有しない、請求項1~
7のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項9】
前記導電性高分子の含有量が、前記単層カーボンナノチューブの全質量を基準として、5質量%以上である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のガスセンサ部材。
【請求項10】
ガスセンサ部材と、前記ガスセンサ部材と電気的に接続されたセンサ電極と、を備え、
前記ガスセンサ部材が請求項1~
9のいずれか一項に記載のガスセンサ部材である、ガスセンサ。
【請求項11】
前記ガスセンサ部材を固定する固定具を更に備え、
前記固定具が前記ガスセンサ部材を変形させる手段を有する、請求項
10に記載のガスセンサ。
【請求項12】
ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程を有し、
前記ガスセンサ部材が、請求項1~
9のいずれか一項に記載のガスセンサ部材である、ガス検知方法。
【請求項13】
二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスを検知するため方法である、請求項
12に記載のガス検知方法。
【請求項14】
ガスセンサ部材を変形させる工程と、
前記ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程と、を有し、
前記ガスセンサ部材が、請求項1~
9のいずれか一項に記載のガスセンサ部材である、微量ガス検知方法。
【請求項15】
二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスを検知するため方法である、請求項
14に記載の微量ガス検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサ部材及びその製造方法、ガスセンサ、ガス検知方法、並びに、微量ガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブはその構成元素であるすべての炭素がチューブの表面に存在しているため、外部の化学的な環境の変化によって、単層カーボンナノチューブ自体の物性が大きく変化することが知られている。例えば、単層カーボンナノチューブの表面に極微量の気体分子が吸着することによって、単層カーボンナノチューブの電気抵抗が増減することが知られている。このような知見を応用して、単層カーボンナノチューブが示す電気的な挙動に基づいて気体分子を検知するガス検知方法の研究、及び単層カーボンナノチューブを用いたガスセンサ部材の研究等がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、単層カーボンナノチューブを感ガス材料とするガスセンサであって、該単層カーボンナノチューブとして、単層カーボンナノチューブを含有するヒドロキシプロピルセルロース薄膜を焼成処理して得られる単層カーボンナノチューブ集合体を用いたことを特徴とするガスセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-185495号公報
【文献】特開2003-227806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単層カーボンナノチューブはセンサ部材として高感度である一方で、周囲の環境変化の影響を強く受けるため、センサの測定結果に多くのノイズが含まれ得る。単層カーボンナノチューブをガスセンサ部材として用い、測定対象となる気体分子の検出能を向上させるためには、例えば、ガスセンサ部材の感度をより向上させる手段、及び測定に伴うノイズを低減して、測定対象の吸着に伴う電気的な変化を検出しやすくする手段等が考えられる。前者の手段としては、カーボンナノチューブに金属等の導電体を内包させることでカーボンナノチューブの導電性を調製し、感度を向上させる方法が考えられる。しかし、導電体を内包させる過程でカーボンナノチューブ自体に欠陥等が生じ得る。また、後者の手段としては、多層カーボンナノチューブを用いる方法が考えられる(例えば、特許文献2等)。しかし、多層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブに比べて結晶性が高く、変形を伴うような部材に使用する場合には部材としての脆さが懸念される。
【0006】
本開示の目的は、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサ部材、及びその製造方法を提供することである。本開示の目的はまた、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサを提供することである。本開示の目的はまた、感度に優れ、ノイズが低減されたガス検知方法、及び微量ガス検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、基材と、上記基材の表面上に設けられたガス吸着層と、を有し、上記ガス吸着層は、互いに電気的に接続された複数の単層カーボンナノチューブを含み、上記単層カーボンナノチューブは表面の少なくとも一部に、導電性高分子を含む有機層を有する、ガスセンサ部材を提供する。
【0008】
上記ガスセンサ部材は、互いに電気的に接続された複数の単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層を有する。当該単層カーボンナノチューブは、表面の少なくとも一部に導電性高分子を含む有機層を有している。当該有機層は外部環境の変化による単層カーボンナノチューブへの影響を低減し、測定の際のノイズの発生を抑制することができる。また、有機層が導電性高分子を含むため、有機層が捉える外部環境の変化(例えば、気体分子の吸着等)を単層カーボンナノチューブへ伝達でき、センサ部材として十分な測定感度も維持することができる。このような作用によって、上記ガスセンサ部材は、感度に優れ、測定の際のノイズの低減も可能となっている。
【0009】
上記有機層が前記単層カーボンナノチューブの外側表面に設けられていてよい。導電性高分子を含む有機層が検知対象となるガスとより接触しやすい単層カーボンナノチューブの外側表面に設けられていることによって、外部環境の変化による単層カーボンナノチューブへの影響をより一層抑制することができ、ガスセンサ部材としての感度とノイズの低減とを高い水準で両立することができる。
【0010】
上記基材は伸縮性を有してよい。基材が伸縮性を有することによって、基材の伸縮が可能となる。例えば、基材を伸張させることで、ガス吸着層内における単層カーボンナノチューブ同士の電気的な接点を減じ、ガスセンサ部材の電気抵抗を上昇させるなどの調整が可能となる。このような調整によって、より微量な電気的な変化を検出可能となることから、上記ガスセンサ部材を微量ガスの検知に使用することができる。
【0011】
上記基材は多孔質基材であってよい。基材が多孔質基材である場合、ガスを通過させることもできるため、上記ガスセンサ部材を測定対象となるガスの流路中に設置することができる。よって、ガスセンサ部材が多孔質基材を備える場合、ガスセンサの設計の幅をより広げることができる。例えば、ガスセンサの小型化等にも有用である。
【0012】
上記基材の形状は板状であってよい。
【0013】
上記有機層は単分子層であってよい。有機層が単分子層であることによって、ガスセンサ部材の感度の低下をより十分に抑制できる。
【0014】
上記導電性高分子はポリアニリンを含有してよい。
【0015】
上記単層カーボンナノチューブは表面に極性官能基を有してよい。単層カーボンナノチューブの表面が極性官能基を有することで、有機層との密着性を向上させることができ、ガスセンサ部材の耐久性を向上できる。
【0016】
上記単層カーボンナノチューブは開口を有しなくてよい。
【0017】
上記導電性高分子の含有量が、上記単層カーボンナノチューブの全質量を基準として、5質量%以上であってよい。導電性高分子の含有量が単層カーボンナノチューブに対して所定量以上であることによって、感度をより向上させることができる。
【0018】
本開示の一側面は、ガスセンサ部材と、上記ガスセンサ部材と電気的に接続されたセンサ電極と、を備え、上記ガスセンサ部材が上述のガスセンサ部材である、ガスセンサを提供する。
【0019】
上記ガスセンサは、上述のガスセンサ部材を備えることから、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能である。
【0020】
上記ガスセンサは上記ガスセンサ部材を固定する固定具を更に備えてよく、上記固定具が上記ガスセンサ部材を変形させる手段を有していてもよい。ガスセンサが上述のような固定具を備えることによって、ガスセンサ部材を変形させることができ、単層カーボンナノチューブ同士の電気的な接点を減じて、ガスセンサ部材の電気抵抗を上昇させるなどの調整が可能である。ガスセンサが上記ガスセンサ部材を変形させる上述のような手段を有することで、検知対象となるガスの種類及び濃度等に合わせて、ガスセンサ部材を変形させ、検知の感度を調整することもできる。
【0021】
本開示の一側面は、単層カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に導電性高分子を含む有機層を形成する第一工程と、有機層が設けられた上記単層カーボンナノチューブを含有する分散液を調製し、上記分散液を基材に接触させることによって、上記基材上に単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層を設ける第二工程と、を有し、上記ガス吸着層における複数の単層カーボンナノチューブは互いに電気的に接続されている、ガスセンサ部材の製造方法を提供する。
【0022】
上記ガスセンサ部材の製造方法は、単層カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に、導電性高分子を含む有機層を形成することを含むことによって、上述のようなガスセンサ部材を製造することができる。
【0023】
上記第一工程が、単層カーボンナノチューブと、アニリンと、酸化剤と、を含有する溶液中で、上記単層カーボンナノチューブの表面上にポリアニリンを重合させることによって、上記有機層を形成する工程であってよい。
【0024】
上記第一工程が、単層カーボンナノチューブと、ポリアニリンと、を含有する溶液中で、上記単層カーボンナノチューブの表面上にポリアニリンを付着させることによって、上記有機層を形成する工程であってよい。
【0025】
本開示の一側面は、ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程を有し、上記ガスセンサ部材が、上述のガスセンサ部材である、ガス検知方法を提供する。
【0026】
上記ガス検知方法は、上述のガスセンサ部材を用いることから、感度に優れ、ノイズが低減されたガス検知を行うことができる。
【0027】
上記ガス検知方法は、二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスを検知するため方法であってよい。
【0028】
本開示の一側面は、ガスセンサ部材を変形させる工程と、上記ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程と、を有し、上記ガスセンサ部材が、上述のガスセンサ部材である、微量ガス検知方法を提供する。
【0029】
上記ガス検知方法は、上述のガスセンサ部材を用いることから、感度に優れ、ノイズが低減されたガス検知を行うことができる。
【0030】
上記微量ガス検知方法は、二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスを検知するため方法であってよい。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサ部材、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサを提供できる。本開示によればまた、感度に優れ、ノイズが低減されたガス検知方法、及び微量ガス検知方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、ガスセンサ部材の一部断面を示す模式図である。
【
図2】
図2は、ガスセンサ部材の一部端面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ガスセンサの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、ガスセンサの一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、ポリアニリンの単分子層が外側表面に形成された単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルである。
【
図6】
図6は、ポリアニリンの単分子層が外側表面に形成された単層カーボンナノチューブの外観の一部を示す電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、ガスセンサ部材のラマンスペクトルである。
【
図8】
図8は、ガスセンサ部材の外観の一部を示す電子顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、ガスセンサ部材の評価装置を示す模式図である。
【
図10】
図10は、ガスセンサ部材のサイクル特性の評価結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ガスセンサ部材のセンサ特性と、検知対象ガスの濃度との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、ガスセンサ部材の変形量と、ガスセンサ特性との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、ガスセンサ部材のセンサ特性と、検知対象ガスの濃度との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、ガスセンサ部材のセンサ特性と、検知対象ガスの濃度との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、ガスセンサ部材のセンサ特性と、検知対象ガスの種類との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0034】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0035】
<ガスセンサ部材>
ガスセンサ部材の一実施形態は、基材と、上記基材の表面上に設けられたガス吸着層と、を有する。上記ガス吸着層は、互いに電気的に接続された複数の単層カーボンナノチューブを含む。上記単層カーボンナノチューブは表面の少なくとも一部に有機層を有しており、当該有機層は導電性高分子を含む。なお、上記ガス吸着層は有機層を有しない単層カーボンナノチューブを含んでいてもよい。
【0036】
図1は、ガスセンサ部材の一部断面を示す模式図である。ガスセンサ部材100は、基材2と、基材2の表面上に設けられたガス吸着層4とを有する。ガス吸着層4は複数の単層カーボンナノチューブ6を含み、単層カーボンナノチューブ6は、互いに電気的に接続されている。単層カーボンナノチューブ6は表面の少なくとも一部に有機層を有している(不図示)。
【0037】
基材2の形状は特に制限されるものではなく、例えば、板状、ブロック状等であってよい。基材2の形状が板状である場合、その厚みによって、シート及びフィルムであってよい。基材2は、例えば、孔を有しない一様な材料であってよく、多孔質体等であってもよい。基材2が多孔質体である(つまり、多孔質基材である)と、ガスセンサ部材100におけるガス吸着層4の表面積をより拡張可能であることから好ましい。
図2は基材2が多孔質体の場合のガスセンサ部材の一部端面を示す模式図である。
図2に示されるようなガスセンサ部材102は、多孔質基材に由来する細孔8を有することから、当該ガスセンサ部材102であれば、ガスセンサ部材102自体をガスが透過できることから、ガスセンサ部材を検知ガスの流路中に設置する等が可能であり、ガスセンサの設計の幅を広げることができる。
図2に示されるガスセンサ部材102は、例えば、ガスセンサの小型化等にも有用である。
【0038】
基材2は、例えば、伸縮性を有する基材であってよい。伸縮性を有するとは、外力が加わらない状態の基材のサイズを基準として、外力を加えることで伸張させることが可能であり、且つ外力を除いた際に基準のサイズ又はそれに近いサイズに収縮することができることをいう。伸縮性を有する基材は、例えば、外力を加えて100%伸張した後、誤差1%程度で初期の形状に収縮できるものであることが好ましい。
【0039】
基材2を構成する材料は、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、及びクロロスルホン化ポリエチレン等であってよい。基材2として伸縮性を有する多孔質基材を使用する場合には、基材2を構成する材料は、例えば、ポリジメチルシロキサンを含んでよく、ポリジメチルシロキサンからなってもよい。
【0040】
ガス吸着層4は単層カーボンナノチューブ6を含むが、例えば、単層カーボンナノチューブ6からなってもよい。ガス吸着層4は互いに電気的に接続された単層カーボンナノチューブ6によって、面内方向に通電可能な層となっている。ガス吸着層4は、例えば、単層カーボンナノチューブ6で構成されるメッシュ形状を有していてもよい。上記メッシュ形状は、例えば、複数の単層カーボンナノチューブ6によって構成される電気的なネットワーク構造ということもできる。
【0041】
単層カーボンナノチューブは表面の少なくとも一部又は全部に有機層を有する。有機層が設けられている単層カーボンナノチューブの表面とは、少なくとも、単層カーボンナノチューブの外側表面を含む表面を意味し、好ましくは、単層カーボンナノチューブの外側表面のみを意味する。上記有機層は、上記単層カーボンナノチューブの外側表面に設けられていてもよく、上記単層カーボンナノチューブの外側表面のみに設けられていてもよい。
【0042】
上記有機層は、例えば、導電性高分子を含む複数の層で構成されてもよく、単分子層であってもよい。当該単分子層は導電性高分子のみで構成される層であってよい。
【0043】
上記有機層に含まれる導電性高分子は、測定対象となる気体分子を吸着可能であり、単層カーボンナノチューブとの間で電子の授受が可能である導電性高分子であってよい。導電性高分子は、例えば、正孔輸送能を有する導電性高分子等であってよい。導電性高分子は、例えば、芳香族系の導電性高分子であってよい。導電性高分子は、測定対象となるガスの種類等に応じて、適宜選択することができる。導電性高分子は、例えば、ポリアニリン、ポリリオフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、及びポリフェニレンスルファド等を含み、好ましくはポリアニリンを含み、より好ましくはポリアニリンである。
【0044】
単層カーボンナノチューブは、例えば、表面に極性官能基を有してよく、外側表面に極性官能基を有していてよい。単層カーボンナノチューブが表面に極性官能基を有することで、有機層との密着性を向上させることができる。有機層と単層カーボンナノチューブの表面との密着性が向上することで、ガスの吸着による有機層の化学環境の変化をより一層確実にカーボンナノチューブへ伝達することが可能であり、感度低下をより抑制することができる。極性官能基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及びカルボキシ基等が挙げられる。
【0045】
単層カーボンナノチューブは欠陥等が少ないものが望ましく、開口を有しなくてよい。
【0046】
上記導電性高分子の含有量の下限値は、上記単層カーボンナノチューブの全質量を基準として、例えば、5質量%以上、10質量%以上、又は30質量%以上であってよい。導電性高分子の含有量が単層カーボンナノチューブに対して所定量以上であることによって、感度をより向上させることができる。上記導電性高分子の含有量の上限値は、上記単層カーボンナノチューブの全質量を基準として、例えば、60質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってよい。導電性高分子の含有量が単層カーボンナノチューブに対して上記範囲内であることによって、感度をより向上させることができる。上記導電性高分子の含有量は上述の範囲内で調整してよく、上記単層カーボンナノチューブの全質量を基準として、例えば、5~60質量%、10~50質量%、又は30~40質量%であってよい。
【0047】
<ガスセンサ部材の製造方法>
上述のようなガスセンサ部材は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。ガスセンサ部材の製造方法の一実施形態は、単層カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に導電性高分子を含む有機層を形成する第一工程(以下、有機層形成工程ともいう)と、有機層が設けられた上記単層カーボンナノチューブを含有する分散液を調製し、上記分散液を基材に接触させることによって、上記基材上に単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層を設ける第二工程(以下、ガス吸着層形成工程ともいう)と、を有する。
【0048】
単層カーボンナノチューブは、市販のものを用いてもよく、別途調製したものを用いてもよい。単層カーボンナノチューブを調製する場合は、例えば、アーク放電法、レーザー蒸着法、及び化学的気相成長法等を用いることができる。
【0049】
ガス吸着層は単層カーボンナノチューブを複数含むことから、個々の単層カーボンナノチューブの性能は多少ばらつきのあるものであっても使用することができる。単層カーボンナノチューブは、ジグザグ型(zigzag型)単層カーボンナノチューブ、カイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブ、及びアームチェア型(arm-chair型)単層カーボンナノチューブのいずれも用いることができるが、好ましくはジグザグ型(zigzag型)単層カーボンナノチューブ、及びカイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブとして、カイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブを用いる場合のカイラル角は特に制限されるものではなく、求める電気的特性に応じて適宜調整してよい。
【0050】
単層カーボンナノチューブの直径は、例えば、0.5~5.0nm、0.5~4.0nm、又は0.4~1.0nmであってよい。単層カーボンナノチューブの長さは、例えば、10~5000000nm、20~2000000nm、又は100~1000000nmであってよい。
【0051】
単層カーボンナノチューブは表面に極性官能基を有するものであってよい。単層カーボンナノチューブの表面が極性官能基を有することで、有機層との密着性を向上させることができ、ガスセンサ部材の耐久性を向上できる。単層カーボンナノチューブに対して酸化処理等によって表面に極性官能基を導入して用いてもよい。極性官能基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及びカルボキシ基等が挙げられる。表面に極性官能基を有する多層カーボンナノチューブを用いる場合、例えば、ガスセンサ部材の製造方法は、第一工程の前に、単層カーボンナノチューブを酸化処理する工程を更に有してもよい。
【0052】
酸化処理工程は、単層カーボンナノチューブの燃焼を抑制し、単層カーボンナノチューブの表面に開口が設けられることを抑制する観点から、酸化処理の条件を選択することができる。酸化処理工程は、酸素を含む雰囲気下で行うことができ、好ましくは空気中で行う。
【0053】
酸化処理工程における熱処理の温度の上限値は、例えば、350℃以下、300℃以下、又は200℃以下であってよい。酸化処理工程における熱処理温度の上限値を上記範囲内とすることによって、単層カーボンナノチューブに開口が設けられることを抑制し、仮に開口が設けられた場合であってもその開口径が広がることを十分に抑制することができる。酸化処理工程における熱処理温度の下限値は、例えば、150℃以上、170℃以上、又は180℃以上であってよい。酸化処理工程における熱処理温度の下限値を上記範囲内とすることで、単層カーボンナノチューブの表面に効率的に極性官能基を導入することができる。酸化処理工程における熱処理の温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、150~350℃、170~300℃、又は180~200℃であってよい。
【0054】
酸化処理工程における熱処理の時間は、例えば、0.1~15時間、0.1~5時間、0.5~5時間、1~5時間、又は1~3時間であってよい。酸化処理工程における熱処理の時間を上記範囲内とすることで、単層カーボンナノチューブに開口が設けられることをより一層確実に抑制することができる。
【0055】
有機層形成工程では、単層カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に、導電性高分子を含む有機層を形成する。有機層を形成する方法としては、例えば、単層カーボンナノチューブの表面上で導電性高分子を与えるモノマーを重合させることによって有機層を形成する方法、及び、予め合成された導電性高分子を単層カーボンナノチューブの表面上に付着させることによって有機層を形成する方法等であってよい。有機層形成工程は、有機層形成の制御がより容易であることから、好ましくは単層カーボンナノチューブの表面上で導電性高分子を与えるモノマーを重合させることによって有機層を形成する方法である。また導電性高分子の分子量等によっては溶解性が低く、溶液及び分散液の調製が困難な場合があり、このような場合には、モノマーを重合させることを含む手段を用いることができる。
【0056】
有機層に含まれる導電性高分子がポリアニリンを含有する場合、有機層形成工程は、例えば、単層カーボンナノチューブと、アニリンと、酸化剤と、を含有する溶液中で、上記単層カーボンナノチューブの表面上にポリアニリンを重合させることによって、上記有機層を形成する工程であってよく、単層カーボンナノチューブと、ポリアニリンと、を含有する溶液中で、上記単層カーボンナノチューブの表面上にポリアニリンを付着させることによって、上記有機層を形成する工程であってよい。
【0057】
単層カーボンナノチューブと、アニリンと、酸化剤と、を含有する溶液、及び、単層カーボンナノチューブと、ポリアニリンと、を含有する溶液は、例えば、分散液であってよい。分散媒としては、例えば、水、並びに、水及び有機溶媒の混合媒等が挙げられる。
【0058】
ポリアニリンを重合するために用いる酸化剤は、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸カリウム等が挙げられる。
【0059】
ガス吸着層形成工程は、有機層が設けられた上記単層カーボンナノチューブを含有する分散液を調製し、上記分散液を基材に接触させることによって、上記基材上に単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層を設ける。分散液を接触させる基材は、上述のガスセンサ部材を構成する基材として例示したものを用いることができる。
【0060】
有機層が設けられた上記単層カーボンナノチューブを含有する分散液を調製する際の分散媒は、水、並びに、水及び有機溶媒の混合媒等が挙げられる。水としては、例えば、イオン交換水等を使用できる。
【0061】
上記分散液を調製する際には、単層カーボンナノチューブを分散させるために、分散剤を使用してもよい。分散剤としては、例えば、Zn-Al分散剤、及びラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。Zn-Al分散剤は、亜鉛(Zn)とアルミニウム(Al)とを基にした錯体である。Zn-Al分散剤は、例えば、亜鉛アセテートとアルミナイトレートとをそれぞれ1gずつ、純水20gに溶解させて調製した溶液を、373Kの温度で、2時間還流させるゾルーゲル合成によって調製することができる。Zn-Al錯体は、単層カーボンナノチューブの表面に付着しないため、単層カーボンナノチューブが良好に分散することを促進しながら、上記有機層の表面に被覆層を形成することが無く、好適に使用できる。分散液の調製は、例えば、単層カーボンナノチューブ、分散剤及び分散媒の混合物を超音波処理することで行ってもよい。超音波処理の時間は、例えば、30分間以上、又は60分間以上であってよい。
【0062】
上記分散液と基材とを接触させる方法は、例えば、基材を分散液に浸漬させる方法、又は基材に分散液を滴下若しくは噴霧する方法であってよい。
【0063】
分散液と基材とを接触させ、基材上に分散液の液膜が形成されたのち、必要に応じて、加熱処理等を行ってもよい。加熱処理によって、液膜中の分散媒濃度を低減してもよい。加熱処理の温度は、例えば、80~120℃、又は90~100℃であってよい。分散媒の低減を容易にする観点から、上記加熱処理は、減圧環境下で行うこともできる。
【0064】
基材上にガス吸着層を形成することで得られたガスセンサ部材には、分散剤が残存し得る。当該分散剤の残存量を低減する観点から、例えば、酸による洗浄を行ってもよい。酸としては、例えば、希硝酸等を用いることができる。
【0065】
<ガスセンサ>
上述のガスセンサ部材は、ガスセンサの構成部材として使用できる。ガスセンサの一実施形態は、ガスセンサ部材と、上記ガスセンサ部材と電気的に接続されたセンサ電極と、を備える。
【0066】
図3はガスセンサの一例を示す模式図である。ガスセンサ200は、支持体40、支持体40上に設けられたガスセンサ部材100、及び、ガスセンサ部材100と電気的に接続されたセンサ電極50を備える。ガスセンサ200は、ガスセンサ部材100における電気抵抗の変化を、センサ電極50を介して検出することによって、ガスセンサ部材100が晒されている環境におけるガスを検知することができる。
【0067】
支持体40は特に制限されるものではなく、例えば、ガラス基材、セラミック基材、及び樹脂基材等であってよい。支持体40として、伸縮性を有する基材を用いてもよい。ガスセンサ部材100としてガスセンサ部材を構成する基材が伸縮性を有する基材を用いる場合、支持体40として伸縮性基材を用いることが好ましい。センサ電極50は、例えば、金、白金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、及びクロム等の金属からなる電極であってよく、好ましくは、金、白金、及び銅からなる電極である。
【0068】
ガスセンサは、ガスセンサ部材を固定する固定具を更に備え、上記固定具が上記ガスセンサ部材を変形させる手段を有していてもよい。上記固定具は、例えば、ガスセンサ部材の端部を固定する支持部材と、ガスセンサ部材に張力を作用させることによってガスセンサ部材を変形可能な押圧部材とを有してよい。上記支持部材及び押圧部材の形状は特に限定されるものではない。
【0069】
図4はガスセンサの一例を示す模式図であり、上述のような固定具の一例を有する例を示した。ガスセンサ202は、シート状のガスセンサ部材102、ガスセンサ部材102と電気的に接続されたセンサ電極50、及びガスセンサ部材102を変形させることが可能な固定具80を備える。固定具80は、測定対象となるガスを通すための貫通孔70Aを有する支持部材60と、上記支持部材60を収容可能な貫通孔60Aを有する押圧部材70とで構成される。
【0070】
支持部材60は筒状の本体部62とフランジ部64とを有する。押圧部材70は筒状の本体部72とフランジ部74とを有する。支持部材60の筒状の本体部62の内径は、押圧部材70の筒状の本体部72の外形よりも大きく、押圧部材70の筒状の本体部72は支持部材60の本体部62に収容することができる。
図4の(b)に示すように、押圧部材70の本体部72が、支持部材60の本体部62に収容されるように、シート状のガスセンサ部材102を押圧することによって、ガスセンサ部材102に張力を作用させ、所望の倍率で伸張させることができる。支持部材60におけるフランジ部64のガスセンサ部材102側の表面は、ガスセンサ部材102の滑りを抑制するような加工が施されていてよい。
【0071】
図4では、支持部材60及び押圧部材70はともにフランジ部を有する例で示したが、フランジ部を有しないでもよい。支持部材60及び押圧部材70がフランジ部を有する場合には、シート状のガスセンサ部材102を押圧し変形させる際の調整がより容易なものとなる。
【0072】
<ガス検知方法及び微量ガス検知方法>
上述のガスセンサ部材は、感度に優れ、測定におけるノイズも低減可能であることから、ガス検知に有用である。ガス検知方法の一実施形態は、ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程を有する。評価対象となるガスとしては、例えば、二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスであってよい。すなわち、ガス検知方法は、二酸化炭素、一酸化窒素、二硫化硫黄、及び三酸化硫黄からなる群より選択される少なくとも一種のガスを検知するため方法であってよい。
【0073】
上述のガスセンサ部材は、変形させることによって、単層カーボンナノチューブ同士の電気的な接点を減じ、ガスセンサ部材の電気抵抗を上昇させるなどの調整が可能であり、これによってより微量のガスの検知にも使用することができる。微量ガスの検知方法の一実施形態は、ガスセンサ部材を変形させる工程と、上記ガスセンサ部材に評価対象となる気体を接触させる工程と、を有する。微量ガスの検知方法においては、検知対象となるガスの濃度等に応じて、ガスセンサ部材を変形させてよい。例えば、測定対象となるガスの濃度が一定以上になると検出できるようにガスセンサ部材を変形させ、抵抗値を調整しておくことによって、対象ガスの漏れを検知するために用いることができる。
【0074】
上述のガス検知方法及び微量ガス検知方法における検出感度は、測定対象の気体分子の濃度が、測定対象となる気体分子を含む混合ガス(例えば、大気)の標準状態における体積を基準として、例えば、10ppm以下であっても検出が可能な感度である。上述のガス検知方法及び微量ガス検知方法における検知感度は、上述のガスセンサ部材を変形することによって調整することができ、測定対象の気体分子の濃度が、測定対象となる気体分子を含む混合ガス(例えば、大気)の標準状態における体積を基準として、例えば、0.1ppm以下、1ppm以下、2ppm以下、又は5ppm以下とすることもできる。
【0075】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
[有機層形成工程]
単層カーボンナノチューブ(株式会社名城カーボン製、商品名:EC1.0)を大気中、250℃の条件下で10分間の酸化処理を行うことで、極性官能基を導入した。上記酸化処理された単層カーボンナノチューブ45mgと、アニリン10mL(10.2mg)と、塩酸(濃度:0.1mol/L)50mLとを容器に測り取り、超音波処理を30分間施すことによって分散液を調製した。上記分散液を撹拌しながら、0~5℃の温度に冷却し、当該温度の分散液に、あらかじめ過硫酸アンモニウム230mgを50mLの純水に溶解させて調製した、20mmol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液の全量を徐々に滴下して加えた。過硫酸アンモニウムの全量を滴下後、0~5℃の温度で4時間分散液を撹拌しながら、アニリンの重合を行った。
【0078】
重合後、分散液中の固形物をろ過によって回収し、イオン交換水を用いて洗浄した。イオン交換水の洗浄後、エタノールによって固形物をさらに洗浄した後、真空乾燥させることで、ポリアニリンの単分子層を外側表面に有する単層カーボンナノチューブを調製した。得られた単層カーボンナノチューブについて、有機層が外側表面に形成されていることをラマンスペクトル及び電子顕微鏡観察によって、確認した。
図5にラマンスペクトルを示し、
図6に電子顕微鏡写真を示す。
【0079】
図5のラマンスペクトルに示されるとおり、酸化処理前の単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル(
図5中、SWCNTで示すスペクトル)を基準として、酸化処理された単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル(
図5中、оx-SWCNTで示すスペクトル)は、単層カーボンナノチューブに由来するRBM(Radial Breathing Mode、100~300cm
-1の波数域に観測される単層カーボンナノチューブに特有のピーク)、Dバンド(1350cm
-1付近の波数域に観測される単層カーボンナノチューブに特有のピーク)及びGバンド(1590cm
-1付近の波数域に観測される単層カーボンナノチューブに特有のピーク)に変化がないことが確認された。さらに、上述の操作によって得られた固形物に対するラマンスペクトル(
図5中、оx-SWCNT-PANI(in-situ)で示すスペクトル)では、単層カーボンナノチューブ及び酸化処理された単層カーボンナノチューブでは観測されなかったピークが1000~1500cm
-1の波数域に観測されており、これはポリアニリン(PANI)のラマンスペクトルに由来するピークに相当することから、上記操作によって、単層カーボンナノチューブの外側表面に有機層が形成されていることが確認できた。
図6の(a)及び(b)は単層カーボンナノチューブの外側表面に有機層が形成された状態(оx-SWCNT-PANI)の外観を示し、
図6の(c)及び(d)は、乾燥させたоx-SWCNT-PANIとZn-Al分散剤とを再びイオン交換水に添加し、分散させて調製した分散液におけるоx-SWCNT-PANIの外観を示す。
図6の(c)及び(d)は分散液を対象とした観察ではあるものの、電子顕微鏡観察のためイオン交換水は除去された状態にある。
【0080】
[基材の調製工程]
ポリジメチルシロキサンからなる多孔質基材を、シュガーテンプレート(sugar templates)法に基づいて調製した。まず、砂糖の粉末を押し固めてブロック状に成形し、鋳型を調製した。この鋳型に、シリコーンエラストマー(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社製、商品名:silpot184)と、硬化剤としてシリコーン樹脂用触媒(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社製、商品名:silpot184cat)とが、質量比で10対1となるように混合した溶液を含浸させた。上記溶液が含浸した状態で、45℃に加熱し、当該温度で5時間処理することによってシリコーンエラストマーを固化させた。その後、砂糖で構成される鋳型ごとイオン交換水の中にいれ、60℃に加熱しながら超音波処理をかける、砂糖を溶解し除去することによって、ポリジメチルシロキサンからなる多孔質基材を調製した。
【0081】
[ガス吸着層形成工程]
上述のようにして調製したポリアニリンの単分子層を外側表面に有する単層カーボンナノチューブ50mgと、Zn-Al分散剤200mgと、イオン交換水20mLとを容器に測り取り、超音波処理を60分間施すことで、分散液を調製した。当該分散液に、上記多孔質基材を浸漬し、分散液を十分に含浸させた。その後、多孔質基材を分散液から取出し、90℃の温度で30分間加熱処理することによって、多孔質基材の表面にガス吸着層を形成し、ガスセンサ部材を得た。なお、ガスセンサ部材の形状は多孔質基材の形状に準じ、縦3cm、横1cm、厚さ0.2cmであった。多孔質基材の表面に上述の単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層が形成されていることをラマンスペクトル及び電子顕微鏡観察によって、確認した。
図7にラマンスペクトルを示し、
図8に電子顕微鏡写真を示す。
【0082】
図7のラマンスペクトルに示されるとおり、多孔質基材のラマンスペクトル(
図7のPorous PDMSで示すスペクトル)に対して、上述の操作で得られた部材のラマンスペクトル(
図7のоx-SWCNT/Porous PDMSで示すスペクトル)では、単層カーボンナノチューブに由来するGバンド、及びポリジメチルシロキサンに由来する2800~3000cm
-1付近の波数域のピークが観測されており、且つポリアニリンに由来する1000~1500cm
-1の波数域のピークが観測されており、所望のガス吸着層が多孔質基材上に形成されてことが確認できた。また、
図8に示すとおり、上述の操作で得られた部材の表面(
図8の(b)で示す写真)には、多孔質基材の表面(
図8の(a)で示す写真)には観測されなかった繊維状物を確認することができ、
図7の測定結果を裏付けている。
【0083】
<ガスセンサ部材の評価:サイクル特性>
上述のようにして得られたガスセンサ部材の性能を評価した。具体的には、
図9に示すようなガスセンサ部材の評価装置(ガスセンサ)を構成し、炭酸ガス(二酸化炭素)に対する応答を評価した。
図9に示すガスセンサ300は、中央に開口部を有する支持部材66及び76によって、ガスセンサ部材104を挟み込み固定した状態で、供給ラインLi(Line in)からガスセンサ部材104にサンプルガスを供給し、排出ラインLo(Line out)からガスセンサ部材104を通過したサンプルガスを排出する。ここで、ガスセンサ部材104と電気的に接続したセンサ電極50を介して、電流計によって、サンプルガス供給時に生じるガスセンサ部材の電気的な状態の変化(抵抗値の変化)を観測した。供給ラインLiから供給されるガスは、空気のボンベ及び炭酸ガスのボンベに接続されており、空気と炭酸ガスとの混合比が調整可能に設定されている。
【0084】
混合ガスの標準状態における体積を基準として、炭酸ガスの濃度が5ppmとなるように調整した混合ガスをガスセンサ部材に供給することで、性能評価を行った。測定は25℃の環境下で行い、抵抗値の測定は、電圧を1Vに設定して行った。比較のために、ポリアニリンの単分子層を形成せずに、極性官能基を導入した単層カーボンナノチューブを含むガス吸着層を多孔質基材上に形成した部材を調製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を
図10に示す。
【0085】
図10中、「Gas in」は空気の供給から混合ガスの供給に変更したことを意味し、「Gas out」は混合ガスの供給を遮断し空気の供給に変更したことを意味する(
図11~
図13、及び
図15においても同様の表記を用いる)。
図10に示すグラフの縦軸のResponseは、検知対象となるガス(例えば、炭酸ガス)を所定濃度で含む混合ガス雰囲気下におけるガスセンサ部材の抵抗値をR
gasとし、空気雰囲気下におけるガスセンサ部材の抵抗値をR
airとした場合の、[(R
air-R
gas)/R
air]×100で与えられる値であり、この値が大きいことは検知対象となるガスに対する感度が高いことを意味する。
【0086】
図10のグラフに示されるとおり、ポリアニリンの単分子層が形成された単層カーボンナノチューブを用いて製造したガスセンサ部材は、ポリアニリンの単分子層を有しない単層カーボンナノチューブを用いて製造したガスセンサ部材と同様に、混合ガスの供給開始によく追従して、縦軸のResponseの値が上昇している。さらにポリアニリンの単分子層が形成された単層カーボンナノチューブを用いて製造したガスセンサ部材の測定結果において縦軸のResponseの最大値が、ポリアニリンの単分子層を有しない単層カーボンナノチューブを用いて製造したガスセンサ部材の測定結果における縦軸のResponseの最大値よりも大きく、およそ2倍の感度を有していることが確認された。また、グラフの形状から、ノイズが抑制されていることも確認できる。
【0087】
図10に示されるとおり、実施例1で調製したガスセンサ部材は、複数回の混合ガスの供給を行っても、1回目の供給と同等に炭酸ガスを検知しており、また、混合ガスの供給を遮断した後に初期化されている。したがって、実施例1のガスセンサ部材は複数回のセンシングにも用いることができる。
【0088】
<ガスセンサ部材の評価:検知対象ガスの濃度依存性>
検知対象となる炭酸ガスの濃度を変更したこと以外は、上述のサイクル特性評価と同様にしてガスセンサ部材の評価を行った。炭酸ガスの濃度を、1ppm、3ppm、5ppm、25ppm及び50ppmに調整して、混合ガスを供給した際の抵抗値の変動を測定した。結果を
図11に示す。
【0089】
図11に示されるとおり、炭酸ガスの濃度が1ppmであっても、炭酸ガスの吸着によって抵抗値の低下を確認できており、検知対象ガスの濃度が比較的低濃度の場合であっても十分検知できることが確認された。
【0090】
<ガスセンサ部材の評価:ガスセンサ部材の変形による影響>
ガスセンサ部材を伸張させることによるガスセンサ特性への影響を評価した。ガスセンサ部材を変形させて用いること以外は、上述のサイクル特性評価と同様にしてガスセンサ部材の評価を行った。ガスセンサ部材の変形は、ガスセンサ部材における歪みが、0面積%、30面積%、及び60面積%となるように調整することで行った。上記歪みとは、ガスセンサ部材の上面視した際の面積をA
1とし、面内方向にガスセンサ部材を伸張した後の上面視した際の面積をA
2とした場合に、(A
2/A
1)×100で与えられる値である。結果を
図12に示す。
【0091】
図12に示すとおり、ガスセンサ部材の変形量が大きくなることによって、Responseが向上していることが確認された。すなわち、ガスセンサ部材を変形させることによって、更に感度を上昇させることができ、例えば、検知対象ガスの濃度が小さい場合などにガスセンサ部材を変形させることで検知可能となり得ることが確認された。
【0092】
<ガスセンサ部材の評価:検知対象ガスの濃度依存性その2>
ガスセンサ部材の伸張に加えて、検知対象ガスの濃度を変更した際のガスセンサ特性を評価した。ガスセンサ部材における歪みが、0面積%、30面積%、及び60面積%である各種ガスセンサ部材を対象として、炭酸ガスの濃度を、1ppm、3ppm、5ppm、25ppm及び50ppmに調整して、混合ガスを供給した際の抵抗値の変動を測定した。結果を
図13及び
図14に示す。
【0093】
図13に示されるとおり、ガスセンサ部材における歪みが増えるにつれて、感度の上昇幅が大きくなっていることが確認できる。また、
図13及び
図14に示されるとおり、その影響は検知対象ガスの濃度が大きいほど、大きくなっている。
【0094】
<ガスセンサ部材の評価:検知対象ガスの違いによる影響>
検知対象ガスを炭酸ガスに代えて酸素を用いたこと以外は、上述のサイクル特性評価と同様にしてガスセンサ部材の評価を行った。結果を
図15に示す。実施例1で調製したガスセンサ部材を用いた場合には、検知対象ガスを酸素にした場合でも抵抗値の変化は観測されたものの、その変化量は炭酸ガスの場合に比べて小さいことが確認された。導電性高分子の種類、ガスセンサ部材の伸張等の調整によって、検出が対象ガスに応じた使用が望ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示によれば、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサ部材、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、感度に優れ、測定の際のノイズの低減が可能なガスセンサを提供できる。本開示によればまた、感度に優れ、ノイズが低減されたガス検知方法、及び微量ガス検知方法を提供できる。
【符号の説明】
【0096】
2…基材、4…ガス吸着層、6…単層カーボンナノチューブ、8…細孔、40…支持体、50…センサ電極、60,66…支持部材、62,72…本体部、64,74…フランジ部、70…押圧部材、80…固定具、100,102,104…ガスセンサ部材、200,202,300…ガスセンサ。
【要約】
本開示の一側面は、基材と、上記基材の表面上に設けられたガス吸着層と、を有し、上記ガス吸着層は、互いに電気的に接続された複数の単層カーボンナノチューブを含み、上記単層カーボンナノチューブは表面の少なくとも一部に、導電性高分子を含む有機層を有する、ガスセンサ部材を提供する。