(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】酸性乳性飲料用安定化剤及びそれを含む酸性乳性飲料
(51)【国際特許分類】
A23C 9/00 20060101AFI20220107BHJP
A23C 21/06 20060101ALI20220107BHJP
A23C 3/00 20060101ALI20220107BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20220107BHJP
【FI】
A23C9/00
A23C21/06
A23C3/00
A23L2/38 P
(21)【出願番号】P 2018063787
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀二郎
(72)【発明者】
【氏名】土橋 竜也
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-323530(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111357(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/059623(WO,A1)
【文献】特表2017-500019(JP,A)
【文献】特開2016-054651(JP,A)
【文献】特開平11-225669(JP,A)
【文献】特開2009-118742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00
A23C 21/06
A23C 3/00
A23L 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料であって、下記(A)及び(B)を含有する酸性乳性飲料。
(A)大豆多糖類及び/又はCMCが0.05~0.07質量%
(B)D-プシコースが1.0~15.0質量%
【請求項2】
大豆多糖類及び/又はCMCと、D-プシコースを有効成分として含有する、乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料用の安定化剤。
【請求項3】
乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料において、下記(A)及び(B)を含有させる工程を含む、酸性乳性飲料の製造方法。
(A)大豆多糖類及び/又はCMCが0.05~0.07質量%
(B)D-プシコースが1.0~15.0質量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-プシコースを含んでなる酸性乳性飲料用の安定化剤及びその安定化剤を含む酸性乳性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好の多様化によって多くの種類の乳性飲料が市場に流通している。しかし、乳タンパク質成分を一定量含有する酸性乳性飲料では乳タンパク質が凝集して沈殿を生じるため、味質や外観に劣るという問題がある。
【0003】
この酸性乳性飲料の従来の問題を解決するために、ハイメトキシルペクチン(HMペクチン)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、大豆多糖類などの増粘多糖類の添加が一般に行われている。しかし、増粘多糖類を一定量以上添加すると、粘性が生じ糊状感のある食感となるという新たな課題があった。
【0004】
そこで、この課題を解決するため、例えば、特許文献1には、大豆多糖類等の水溶性ヘミセルロースを使用し、均質化処理を特定の段階で行う酸性乳飲料の製造方法が、特許文献2には、増粘多糖類及びセロオリゴ糖を含有する乳安定剤が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1の方法は、発酵乳を均質化処理し、次いで水溶性ヘミセルロースと乳製品との混合物を添加混合し、再度均質化処理を行うといった、製造工程の煩雑さがある。また、特許文献2の乳安定剤では、乳タンパク質を含有する酸性乳飲料において乳安定剤の添加量を低減させた糊状感の低い酸性乳飲料を提供することが可能になったが、さらに糊状感の低い酸性乳飲料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-225669
【文献】特開2009-118742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明の目的は、酸性乳性飲料の風味及び食感に悪影響を与えない安定化剤及びその安定化剤を含む酸性乳性飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討したところ、D-プシコースを、大豆多糖類及び/又はカルボキシメチルセルロース(以下、CMCという。)と組み合わせることにより、酸性乳性飲料における乳タンパク質の沈殿抑制に必要となる大豆多糖類又はCMCの添加量を低減することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(1)~(3)から構成されるものである。
(1)乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料であって、下記(A)及び(B)を含有する酸性乳性飲料。
(A)大豆多糖類及び/又はCMCが0.05~0.07質量%
(B)D-プシコースが1.0~15.0質量%
(2)大豆多糖類及び/又はCMCと、D-プシコースを有効成分として含有する、乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料用安定化剤。
(3)乳タンパク質の量が0.3~1.0質量%、pHが3.0~4.5である酸性乳性飲料において、下記(A)及び(B)を含有させる工程を含む、酸性乳性飲料の製造方法。
(A)大豆多糖類及び/又はCMCが0.05~0.07質量%
(B)D-プシコースが1.0~15.0質量%
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳タンパク質の沈殿抑制に必要となる大豆多糖類及び/又はCMCの添加量を低減させた酸性乳性飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における酸性乳性飲料は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令などにより規定されるものではないが、後述のとおり、一般に、比較的少量の乳タンパク質を含むものであって、pH3.0~4.5程度の飲料をいう。本発明においては、そのpHは3.0~4.5であればよいが、より好ましくは3.0~3.8である。
なお、酸性の乳性飲料に使用される乳化安定剤として一般的な大豆多糖類及びCMCの至適pHは、それぞれ3.3~3.7程度、3.4~4.5程度である。
【0012】
本発明における「大豆多糖類」とは、水溶性ヘミセルロースの一種であり、大豆の不溶性食物繊維(おから等)から製造される水溶性多糖類である。大豆多糖類の化学構造は完全に解明されていないが、ガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸を主たる構成糖とし、さらにラムノース、キシロース、フコース、グルコースを含むといわれ、例えば、「SM-1200」(三栄源エフ・エフ・アイ社製)として入手できる。
一般的に、酸性乳性飲料における大豆多糖類の使用量は、0.1~0.5質量%であるが、本発明における大豆多糖類の使用量は、0.05~0.08質量%であり、好ましくは、0.05~0.07質量%である。
【0013】
本発明における「カルボキシメチルセルロース(CMC)」とは、セルロースの水酸基がモノクロロ酢酸と置換され、D-グルコースがβ―1、4結合した直鎖上の構造を持つものをいい、そのナトリウム塩(CMC-Na)やカルシウム塩(CMC-Ca)などの金属塩を包含する。本発明にいうCMCとしては、例えば、市販品の「F04HC」(日本製紙ケミカル社製、CMC-Na)を使用することもできる。
一般的に、酸性乳性飲料におけるCMCの使用量は、0.1~0.5質量%であるが、本発明におけるCMCの配合量は、0.05~0.08質量%であり、好ましくは、0.05~0.07質量%である。
【0014】
本発明における「D-プシコース」とは、もっとも簡便には、D-フラクトースを原料に酵素(エピメラーゼ)によって生産されるが、酵素的に生産されたものに限らず、化学的に生産されたものでもよい。また、本発明におけるD-プシコースは、混合品、純品のいずれの形態でも使用することができ、混合品としては、例えば、「レアシュガースウィート」(松谷化学工業株式会社製)があり、これを使用することもできる。
【0015】
酸性乳性飲料へのD-プシコースの配合量は、タンパク質の沈殿抑制効果を得る目的から1~15質量%であり、好ましくは3~13質量%であり、より好ましくは6~12質量%である。D-プシコースの配合量が1.0質量%未満では、乳タンパク質の沈殿抑制効果が低いため、1.0質量%以上が望ましい。また、D-プシコースの配合量が15.0質量%を超えると、甘味が過度に強くなり味質が悪くなるため、15.0質量%以下が望ましい。
なお、D-プシコースの甘味度は、砂糖の7割程度であるので、酸性乳性飲料に使用する甘味料の一部又は全部をD-プシコースと置き換えて使用することも可能である。
【0016】
一般に、酸性乳性飲料に含まれる乳タンパク質の量は、0.3~1.0質量%である。一方、本発明の酸性乳性飲料においては、乳タンパク質の量は0.3~1.0質量%でよいが、好ましくは0.3~0.9質量%であり、より好ましくは0.3~0.85質量%である。本発明の酸性乳性飲料において、乳タンパク質の量が0.3質量%より少ないと大豆多糖類又はCMCと、D-プシコースの添加による乳タンパク質の沈殿抑制効果を必要とせず、1.0質量%より多いと乳タンパク質が沈殿し、味質が悪くなるため好ましくない。
【0017】
本発明の安定化剤又は飲料においては、副原料として種々のものを使用することができる。例えば、酸味料として、クエン酸及びその塩、乳酸、リンゴ酸、洒石酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、グルコン酸液などが、甘味料として、単糖類、二糖類やオリゴ糖類、糖アルコール類、水飴、還元水飴、糖含有シロップ、液糖、糖蜜、蜂蜜などが使用できる。なお、本発明において使用できる副原料は、特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の酸性乳性飲料に、乳タンパク質と、大豆多糖類又はCMCと、D-プシコースを含有させる方法としては、最終製品に含まれる形であれば、添加時期や添加方法は特に限定されない。
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
(大豆多糖類の乳タンパク質沈殿抑制効果の確認)
酸性乳性飲料の乳タンパク質の量に対する大豆多糖類の最小の配合量を確認するため、表1の組成に従い、特定量の大豆多糖類及び脱脂粉乳を配合した各酸性乳性飲料を作製し、乳タンパク質の沈殿及び味質について評価した。
まず、常温の異性化糖水溶液に、特定量の大豆多糖類及び脱脂粉乳を加え、よく混合した後、さらにクエン酸及びクエン酸Naを加えてpHを3.0~3.8に調整した。その後、各溶液を水で全量100mlに調整し、ホモミクサー(プライミクス社製、「T.K.ホモミクサーMark2 2.5型」)により5000rpm・5分間撹拌した後、高圧ホモジェナイザ―(GEA.Niro Soavi社製、「NS2002H」)により20MPaの圧力で均質化処理した。均質化処理した各溶液をそれぞれ100mlビンに充填後、85℃の湯煎で10分間殺菌し、1日間冷蔵保存した。これらの酸性乳性飲料を評価に用いた。
各酸性乳性飲料の沈殿の有無はパネラー1名の目視によって確認し、沈殿が生じた場合は「あり」、沈殿がなかった場合は「なし」とした。また味質評価は、パネラー10名で実施した。味質の評価は官能評価によって行い、味質を良いとした人数が9~10名の場合は◎(良好)、6~8名以上の場合は〇(概ね良好)、6名を下回る場合は×(悪い)とした。評価方法は、以下の実施例において全て同様とする。なお、乳タンパク質の量は、脱脂粉乳の34質量%として算出した。
評価の結果、大豆多糖類の量が0.05~0.06質量%に対して、乳タンパク質の量が0.34~0.85質量%のときは、乳タンパク質の沈殿が生じた(比較例1~3)。
【0021】
【0022】
(D-プシコース併用による乳タンパク質沈殿抑制効果の評価)
次に、上述の結果より特定の量の脱脂粉乳及び大豆多糖類において乳タンパク質の沈殿が生じることを確認したことから、表2の組成に従ってD-プシコースと共に特定の量の脱脂粉乳及び大豆多糖類を酸性乳性飲料へ配合し、上述と同様の方法で各酸性乳性飲料の評価を行った。
評価の結果、乳タンパク質が0.68質量%の酸性乳性飲料においては、大豆多糖類が0.05~0.06質量%、かつ、D-プシコースが1~15質量%のときに、乳タンパク質の沈殿が生じなかった(実施例1~3)。また、D-プシコース10質量%の酸性乳性飲料では、味質が特に良好であった(実施例2)。一方、D-プシコースを18質量%添加した酸性乳性飲料では、乳タンパク質の沈殿は生じなかったが、甘味が強く味質が好ましくなかった(比較例7)。
以上のことから、D-プシコースを1~15質量%添加した酸性乳性飲料では、乳タンパク質の沈殿は抑制されることが示唆された。
【0023】
【0024】
(D-プシコースによる沈殿抑制効果がみられる乳タンパク質の量の検討)
さらに、上述の結果から確認できたD-プシコースの乳タンパク質沈殿抑制効果を、酸性乳性飲料の一般的な乳タンパク質の量において詳細に検討するため、酸性乳性飲料の一般的な乳タンパク質の量と、特定量のD-プシコース及び大豆多糖類とを各酸性乳性飲料へ配合し、上述と同様の方法で評価した。なお、乳タンパク質の量は、脱脂粉乳を用いて調整した。
評価の結果、0.34~0.85質量%の乳タンパク質を含む酸性乳性飲料に対して、大豆多糖類0.06質量%及びD-プシコース10質量%を添加すると、乳タンパク質の沈殿は生じなかった(実施例4~5)。また、これらの酸性乳性飲料の味質は特に良好であった(実施例4~5)。
以上の結果から、酸性乳性飲料に一般的な乳タンパク質の量である0.34~0.85質量%の乳タンパク質を含む酸性乳性飲料では、大豆多糖類0.06質量%及びD-プシコース10質量%を添加することにより、乳タンパク質の沈殿が抑制されることが示唆された。
【0025】
【0026】
(大豆多糖類配合量の低減の検討)
表4の組成に従い、大豆多糖類の配合量を調整し、上述と同様の方法で各酸性乳性飲料を作製し、評価した。
評価の結果、乳タンパク質を0.68質量%含む各酸性乳性飲料において、大豆多糖類0.05~0.07質量%に対しD-プシコース10質量%を併用したときに、乳タンパク質の沈殿は生じなかった(実施例2及び6)。
以上の結果から、酸性乳性飲料に一般的な乳タンパク質の量である0.68質量%の酸性乳性飲料において、D-プシコース10質量%を添加すれば、大豆多糖類を0.05~0.07質量%まで低減しても、乳タンパク質の沈殿は抑制されることが示唆された。
【0027】
【0028】
(CMC-Na配合量の低減の検討)
表5の組成に従い、CMC-Naの配合量を調整し、上述と同様の方法で各酸性乳飲料を作製し、評価した。
評価の結果、乳タンパク質を0.68質量%含む各酸性乳性飲料において、CMC-Na0.05~0.07質量%に対し、D-プシコース10質量%を添加したときに、乳タンパク質の沈殿は生じなかった(実施例7~8)。また、CMC-Na0.05質量%を添加した酸性乳性飲料の味質は特に良好であった(実施例7)。
以上の結果から、酸性乳性飲料に一般的な乳タンパク質の量である0.68質量%の酸性乳性飲料において、D-プシコース10質量%を添加すれば、CMC-Naを0.05~0.07質量%まで低減しても、乳タンパク質の沈殿は抑制されることが示唆された。
【0029】
【0030】
以上の結果から、大豆多糖類及び/又はCMCとともにD-プシコースを酸性乳性飲料に配合すると乳タンパク質沈殿の抑制効果が増強され、大豆多糖類又はCMCの配合量を低減することが可能となる。