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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】緩み止め機能を有するねじ締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/28 20060101AFI20220107BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16B39/28 Z
A61C8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018162388
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020034122
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391006636
【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 克彦
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-110922(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111312(WO,A1)
【文献】特開平10-037936(JP,A)
【文献】特開平09-236109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00- 43/02
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ねじエレメントと、該第1ねじエレメントに対してねじ締結される第2ねじエレメントとを備え、
第1及び第2ねじエレメントのいずれか一方は、他方側に向けて開口する係合凹部を有し、他方は、締結状態で前記係合凹部に挿入される係合凸部を有し、
前記係合凹部の内周面は、軸方向に沿って真っ直ぐな円筒状に構成され、
前記係合凸部は、軸方向1箇所に最大径部位を有する円柱状若しくは円筒状に構成され、
前記係合凸部の最大径部位並びに前記係合凹部の内周面が、締結状態で周方向一部のみにおいて圧接されるように、相対的に偏心しており、
前記係合凸部の最大径部位は、前記係合凹部の内周面に対して周方向一部のみにおいて圧接した状態で前記係合凹部に対して軸方向に進退可能なように、前記係合凸部の基端部から所定の距離を有して設けられており、
前記係合凸部の最大径部位は、前記係合凸部の先端部近傍に設けられており、
前記係合凸部の外周面は、先端側に至るにしたがって徐々に大径となる逆テーパー面である、緩み止め機能を有するねじ締結構造。
【請求項2】
請求項に記載の緩み止め機能を有するねじ締結構造において、
第1ねじエレメントはボルト部材であり、該ボルト部材は、ネジ軸と、該ネジ軸の先端部から軸方向先端側に向けて突設された前記係合凸部とを備え、
第2ねじエレメントはナット部材であり、該ナット部材は、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、該ネジ穴の奥部に設けられた前記係合凹部とを備える、
緩み止め機能を有するねじ締結構造。
【請求項3】
請求項に記載の緩み止め機能を有するねじ締結構造において、
前記ナット部材は、前記ネジ穴を有するナット本体と、該ナット本体の前記ネジ穴に軸方向一端側から軸方向に進退可能に螺着される調整部材とを備え、該調整部材は、前記ネジ穴に軸方向他端側から螺着される前記ボルト部材のネジ軸先端が当接する位置決め面と、該位置決め面に開口形成された前記係合凹部とを備えている、緩み止め機能を有するねじ締結構造。
【請求項4】
請求項1に記載の緩み止め機能を有するねじ締結構造において、
第2ねじエレメントはボルト部材であり、該ボルト部材は、ネジ軸と、該ネジ軸の先端部から軸方向先端側に向けて突設された前記係合凸部とを備え、
第1ねじエレメントは、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、該ネジ穴の奥部に設けられた前記係合凹部とを備えるベース部材である、
緩み止め機能を有するねじ締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み止め機能を有するねじ締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、緩み止め機能を有する種々のねじ締結構造の開発を行っている。例えば、特許文献1には、所定のプリベリングトルクを維持したままボルトを螺進させることを可能とすることで、緩み止め機能を有しつつも、所定の軸方向位置までボルトを締結可能なねじ締結構造を開示している。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示されたねじ締結構造では、真っ直ぐな円柱状の係合軸部をボルトのネジ軸の先端に設ける一方、ネジ軸が螺合するネジ穴を有するベース部材には、ネジ穴の奥部に上記係合軸部が挿入される係合穴を設けている。係合軸部がネジ軸に対して偏心されている(この場合、係合穴はネジ穴と同心状である。)か、或いは、係合穴がネジ穴に対して偏心されており(この場合、係合軸部はネジ軸と同心状である)、これにより係合軸部の外周面と係合穴の内周面とが周方向一箇所で圧接して、ネジ軸に軸心と直交する方向の押圧力を作用させ、この横方向の押圧力によってプリベリングトルクが生じるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-123778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたねじ締結構造では、ネジ穴に対するネジ軸の嵌め合いスキマや、係合穴に対する係合軸部の偏心量などを適切に調整することにより、一定のプリベリングトルクを維持したままボルトを螺進可能に構成している。
【0006】
しかし、そのような調整作業は必ずしも容易ではない。すなわち、実際の設計時には、上記嵌め合いスキマや偏心量などを微少量ずつ変更しつつ、適度なプリベリングトルクが発生するための許容誤差を探求していくが、係合軸と係合穴との偏心嵌合によりネジ軸が僅かに傾斜するとともに、真っ直ぐな円柱状のネジ軸が最も強く係合穴に圧接される部位がボルトの螺進によって変化していくことなどから、一定のプリベリングトルクを維持したままボルトが螺進するような各部の寸法設計の自由度は極めて低い。また、そのような設計を行ったとしても、僅かな製作誤差によって最終締め付け位置までボルトを螺進させることができなくなる可能性も大きい。
【0007】
そこで、本発明は、設計を比較的容易に行えるものでありながら、一定のプリベリングトルクを維持したまま第1ねじエレメントに対して第2ねじエレメントを螺進させることが可能な新規なねじ締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のねじ締結構造は、第1ねじエレメントと、該第1ねじエレメントに対してねじ締結される第2ねじエレメントとを備える。第1及び第2ねじエレメントのいずれか一方は、他方側に向けて開口する係合凹部を有する。他方は、締結状態で前記係合凹部に挿入される係合凸部を有する。前記係合凹部の内周面は、軸方向に沿って真っ直ぐな円筒状に構成される。前記係合凸部は、軸方向1箇所に最大径部位を有する円柱状若しくは円筒状に構成される。
【0009】
好ましくは、前記係合凸部の最大径部位並びに前記係合凹部の内周面が、締結状態で周方向一部のみにおいて互いに圧接されるように、相対的に偏心している。
【0010】
さらに好ましくは、前記係合凸部の最大径部位は、前記係合凹部の内周面に対して周方向一部のみにおいて圧接した状態で前記係合凹部に対して軸方向に進退可能なように、前記係合凸部の基端部から所定の距離を有して設けられている。
【0011】
本発明のねじ締結構造によれば、第2ねじエレメントを第1ねじエレメントに対して締結していくと、その締結工程の途中段階で係合凸部の最大径部位が係合凹部の端部に係合し、これにより第2ねじエレメントに軸方向と直交する方向の押圧力が生じて、上記偏心量に応じた所定のプリベリングトルクが発生する。かかる状態からさらに第2ねじエレメントを締結していくと、係合凸部が係合凹部に対して軸方向に螺進するが、係合凹部の内周面に対して圧接される係合凸部の軸方向部位は一定、すなわち上記最大径部位が常に係合凹部の内周面に圧接されることとなるため、第1ねじエレメントに対する第2ねじエレメントの傾き量及び/又は偏心量も安定化し、上記した初期プリベリングトルクを維持したまま締結完了位置まで第2ねじエレメントを締め付けていくことができる。
【0012】
上記本発明のねじ締結構造において、前記係合凸部の最大径部位は、前記係合凸部の先端部近傍に設けられていてよい。この場合、前記係合凸部の外周面は、先端側に至るにしたがって徐々に大径となる逆テーパー面であってよい。
【0013】
本発明の一態様において、第1ねじエレメントはボルト部材であってよい。このボルト部材は、ネジ軸と、該ネジ軸の先端部から軸方向先端側に向けて突設された前記係合凸部とを備えることができる。ネジ軸と係合凸部とは一体成形されていることが好ましいが、別部材として成形されたネジ軸構成部品と係合凸部構成部品とを連結することにより構成することもできる。
【0014】
また、第2ねじエレメントはナット部材であってよい。該ナット部材は、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、該ネジ穴の奥部に設けられた前記係合凹部とを備えることができる。係合凹部は貫通孔により構成されていてもよいし、貫通しない穴により構成されていてもよい。
【0015】
さらに、前記ナット部材は、前記ネジ穴を有するナット本体と、該ナット本体の前記ネジ穴に軸方向一端側から軸方向に進退可能に螺着される調整部材とを備えていてよい。該調整部材は、前記ネジ穴に軸方向他端側から螺着される前記ボルト部材のネジ軸先端が当接する位置決め面と、該位置決め面に開口形成された前記係合凹部とを備えていてよい。かかる構成によれば、ナット本体に対する調整部材の軸方向位置を調整することにより、ボルトの締結完了位置を微調整することができる。すなわち、調整部材をナット本体に対して螺進させることによって、調整部材の位置決め面の軸方向位置を調整でき、これにより、ナット部材に対するボルト部材の締結完了時の軸方向位置を精度よく調整できる。さらに、ナット部材のネジ加工部位は、ネジ孔と、調整部材外周の雄ネジの二箇所のみでよく、製造コストを低減できる。加えて、ナット部材に対してボルト部材を締結していくと、係合凸部が係合凹部に挿入され、周方向一部において係合凹部の内周面と係合凸部の外周面とが圧接して径方向の押圧力がネジ軸に作用し、これにより所定の締め付けトルクが生じる。この締め付けトルクによって、ボルトの緩み止めがなされる。しかも、前記係合凹部の内周面に圧接される係合凸部の軸方向部位が一定であるため、ほぼ一定の締め付けトルクが生じた状態が維持されたまま、ネジ軸先端部が位置決め面に当接するまで螺進させていくことが可能であり、緩み止め機能を具備しつつ精度の良い締結完了位置の調整を行うことができる。また、係合凹部が貫通孔により構成されている場合は、ナット部材の軸方向一端側から、係合凹部を点検用開口部として利用して、ネジ軸先端が位置決め面に当接するまで締結されているか否かを点検することができる。
【0016】
なお、前記係合凹部の内周面の軸心は、前記調整部材の外周に形成された雄ネジの軸心に対して偏心されており、前記係合凸部の外周面の軸心は、前記ネジ軸の外周に形成された雄ネジの軸心と同心状であってよい。また、前記係合凹部の内周面の軸心が、前記調整部材の外周に形成された雄ネジの軸心と同心状であり、前記係合凸部の外周面の軸心が、前記ネジ軸の外周に形成された雄ネジの軸心に対して偏心されていてもよい。
【0017】
本発明の別の態様において、第1ねじエレメントはボルト部材であり、該ボルト部材は、ネジ軸と、該ネジ軸の先端部から軸方向先端側に向けて突設された前記係合凸部とを備え、第2ねじエレメントは、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、該ネジ穴の奥部に設けられた前記係合凹部とを備えるベース部材であってもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様において、第1ねじエレメントは、ネジ軸と、該ネジ軸に螺着された第1ナットとを備え、該第1ナットの軸方向一端部に前記係合凸部が突設されており、第2ねじエレメントは第2ナットからなり、該第2ナットには、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、前記係合凹部とが設けられていてもよい。
【0019】
本発明のさらに別の態様において、第1ねじエレメントは、ネジ軸と、該ネジ軸に螺着された第1ナットとを備え、該第1ナットの軸方向一端部に前記係合凹部が設けられており、第2ねじエレメントは第2ナットからなり、該第2ナットには、前記ネジ軸が螺着されるネジ穴と、前記係合凸部とが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のねじ締結構造によれば、設計を比較的容易に行えるものでありながら、一定のプリベリングトルクを維持したまま第1ねじエレメントに対して第2ねじエレメントを螺進させることが可能であるとともに、締結完了位置でも、締結完了位置から若干緩みが生じた状態でも、上記プリベリングトルクによる緩み止め作用を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態に係るねじ締結構造の締結作業途中の断面図である。
図2】同ねじ締結構造の締結完了状態の断面図である。
図3】同ねじ締結構造の第2ねじエレメントとしてのナット部材の斜視図である。
図4】同ネジ締結構造の締結作業工程の締付トルクを示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施形態に係るねじ締結構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係るねじ締結構造を示している。本実施形態のねじ締結構造は、第1ねじエレメントとして機能するボルト部材11と、第2ねじエレメントとして機能するナット部材12とを備えている。
【0024】
ボルト部材11は、ボルト頭111と、該ボルト頭111に一体的に設けられたネジ軸112とを備えている。
【0025】
ナット部材12は、ボルト部材11のネジ軸112に螺着される。ボルト部材11のボルト頭111とナット部材12との間には、これらボルト部材11及びナット部材12により締結される2以上の被締結部材3,4が挟み込まれる。本実施形態に係るねじ締結構造は、被締結部材3,4に大きな圧縮力を作用させることが好ましくない場合、例えば、被締結部材3,4の圧縮強度が小さい場合などに好適に用いることができる。また、本実施形態に係るねじ締結構造は、ネジ軸112に一又は複数の回転部材を取り付けるための枢着構造としても好適に用いることができる。
【0026】
ボルト部材11は、外周に雄ネジが形成されたネジ軸112と、ネジ軸11bの基端部に一体的に設けられた六角柱状のボルト頭111と、ネジ軸112の先端部から軸方向先端側に向けて突設された係合凸部Pとを有する。本実施形態の係合凸部Pは円柱状であって、その外周面は先端側に至るにしたがって徐々に大径となる逆テーパ状に形成されている。したがって、係合凸部Pは、その軸方向先端部近傍に最大径部位を有し、この最大径部位は、ネジ軸111の先端部から距離Sを有して設けられている。
【0027】
係合凸部Pの直径は、ネジ軸111の雄ネジ谷径よりも小径であり、ネジ軸111と係合凸部Pとの間には段部が形成されている。また、図示実施形態では、係合凸部Pの軸心は、ネジ軸111外周の雄ネジの軸心と同心状である。
【0028】
ナット部材12は、図3にも示すように、軸方向に貫通するネジ孔を有するナット本体121と、ナット本体121のネジ孔に軸方向一端側から螺着される円筒状の調整部材122とを備えている。ナット本体121としては、一般的な六角ナットを用いることができるが、適宜の構造のナットであってよい。調整部材122は、ナット本体121の高さ(すなわち軸長)よりも軸方向寸法が小さい。調整部材122の軸方向他端側の端面(図示実施例では下端面)は、ナット本体121のネジ孔に螺着されたボルト部材11のネジ軸111の先端が当接する位置決め面122aとして機能する。この位置決め面122aには、上記係合凸部Pが挿入される係合凹部Rが開口形成されている。この係合凹部Rの直径は、係合凸部Pの直径よりも大きい。係合凹部Rの内周面は、真っ直ぐな円筒状に形成されている。調整部材122の外周には雄ネジが形成されている。また、係合凹部Rの軸心O1は、調整部材122の外周に形成された雄ネジの軸心O2に対して所定量dだけ僅かに偏心されている。
【0029】
なお、図示実施例では係合凹部Rは調整部材122を軸方向に貫通するように形成されているが、貫通していなくともよい。また、調整部材122の軸方向一端側(図示例では上端側)の端面には、回転工具を係合するための工具係合溝122dが設けられている。
【0030】
上記係合凹部Rの偏心量dは、ナット部材12のネジ孔に螺着されたボルト部材11の係合凸部Pが、ネジ孔に螺着された調整部材122の係合凹部Rに挿入されたとき、係合凹部Rの内周面と係合凸部Pの先端部近傍の最大径部位とが周方向一部において圧接されるように設定されている。
【0031】
本実施形態に係るねじ締結構造によれば、調整部材122をナット本体121に対して軸方向に進退させることにより、調整部材122の位置決め面122aのナット本体121に対する軸方向位置を微調整できる。したがって、ボルト部材11のネジ軸112の先端が位置決め面122aに当接するまでボルト部材11を締結したときのナット1とボルト2との軸方向における位置関係を、調整部材122の進退によって微調整できる。
【0032】
また、ボルト部材11の係合凸部Pと調整部材122の係合凹部Rとの偏心嵌合によって、ボルト部材11のネジ軸112に軸方向に直交する大きな力が作用し、いわゆるクサビ作用による緩み止め効果が発揮される。
【0033】
本実施形態の構造では特に、逆テーパ構造の係合凸部Pが真っ直ぐな円筒状内周面を有する係合凹部Rに偏心嵌合するため、図1に示す偏心嵌合初期状態から、図2に示す締結完了状態に至るまで、ボルト11に生じるプリベリングトルクTmが図4に示すようにほぼ一定である。
【0034】
図4は、係合凸部Pの先端部が係合凹部Rの開口端部に当接したときを原点として、原点からのボルトの螺進量を横軸とし、ボルトとナットとの間に生じるプリベリングトルク(締付トルク)を縦軸とするグラフである。A線は本実施形態のねじ締結構造のトルク遷移曲線を示し、B-1線及びB-2線は、係合凸部を真っ直ぐな円柱状に構成した場合のトルク遷移曲線を示している。
【0035】
A線に示すように、本実施形態のねじ締結構造では、係合凸部Pの先端部及び係合凹部Rの開口縁部が面取りされているため、係合凸部Pの最大径部位が係合凹部Rの真っ直ぐな円筒状内周面に係合するまでは、ナット12に対してボルト11を螺進させるにしたがって徐々に締付トルクが大きくなっていく。そして、係合凸部Pの最大径部位が係合凹部Rの円筒状内周面に偏心嵌合した後は、一定の締付トルクTmを維持したまま、ナット12に対してボルト11を螺進させていくことができる。
【0036】
一方、係合凸部Pを真っ直ぐな円柱状に構成した場合でも、ボルトのネジ軸及びナット本体のネジ孔のそれぞれのネジ山のピッチや嵌め合いスキマも適切に微調整すれば、上記特許文献1に開示しているように一定の締め付けトルクでボルトを螺進させていくことも可能な場合もあるが、ネジ軸及びネジ孔として標準的な規格に合致するものを用いた場合、上記偏心量dをどのように調整しても、B-1線に示すようにボルトを螺進させていくにしたがって直線的に締付トルクが増大するか、或いは、B-2線に示すように締結完了直前で締付トルクが急に増大する場合が多い。このように締付トルクが増大しすぎると、実質的にナットに対してボルトをそれ以上締め付けていくことができなくなる。
【0037】
本実施形態のねじ締結構造によれば、偏心嵌合による緩み止め作用が得られるものでありながら、ネジ軸112の先端が位置決め面122aに当接するまでボルト11を螺進させることができる。さらに、本実施形態のねじ締結構造によれば、部品点数が少なく、ネジ加工部位も少ないことから、製造コストを抑えることができ、高機能な調整ナットを低コストで提供できる。
【0038】
図5は、本発明の第2実施形態に係るねじ締結構造を具備するデンタルインプラントを示している。このデンタルインプラントは、歯槽骨内に埋め込まれるフィクスチャー21と、該フィクスチャー21の上端部にアタッチメント22を介して取り付けられるアパットメント23と、フィクスチャー21に対してアタッチメント22を固定するためのアタッチメントスクリュー24と、アタッチメントスクリュー24に対してアパットメント23を取り付けるためのアパットメントスクリュー25とを備え、これら各構成部品は例えばチタン合金製である。
【0039】
フィクスチャー21は、図示例ではパラレル・インプラント(すなわちストレート・インプラント)であって、ボルト頭として機能するプラットフォーム部211が上端に設けられ、プラットフォーム部211の下縁からフィクスチャー21の先端(図示例では下端)まで同径の雄ネジ部212が設けられている。また、フィクスチャー21には、プラットフォーム部211の上面に開口するネジ穴213が軸方向に沿って設けられており、該ネジ穴213の底部には、ネジ穴213の内径(メネジ山径)よりも小径の真っ直ぐな円筒内面を有する係合凹部Rが設けられている。この係合凹部Rは、ネジ穴213と同心状に設けられている。
【0040】
アタッチメント22は、略円錐台形筒状であって、その下端部にはフィクスチャー1のプラットフォーム部11に外嵌する逆円錐台形筒状の嵌合部221が設けられている。この嵌合部221の下面は、フィクスチャー21のプラットフォーム部211の段部上面に上方から当接するとともに、全周に亘って液密状に面接触する。嵌合部221より上部のアタッチメント22の内周には、アタッチメントスクリュー24の嵌合軸部が内嵌する円筒状内周面を有する嵌合孔222が上下方向に貫通して設けられている。
【0041】
アタッチメントスクリュー24は、被取付部材としてのアタッチメント22をベース部材としてのフィクスチャー21に固定するボルト部材であって、頭部241と、頭部241から下方に延設され且つフィクスチャー21のネジ穴213に螺合するネジ軸部242と、該ネジ軸部242の下端面から下方に延設され且つフィクスチャー21の係合凹部Rに挿通されてその内周面に係合する係合凸部Pとを一体に備えている。
【0042】
係合凸部Pは、その外周面が先端側に至るにしたがって徐々に大径となる逆テーパ状に構成され、先端部近傍に最大径部位が設けられている。また、係合凸部Pは、ネジ軸部242に対して僅かに偏心しており、これにより係合凸部Pがフィクスチャー21の係合凹部Rに係合すると、ネジ穴213に対して前記ネジ軸部242が僅かに偏心及び/又は傾斜するように構成されている。したがって、係合凸部Pの最大径部位が係合凹部Rに係合した状態では、プリベリングトルクがほぼ一定に保たれたままスクリュー24を螺進させていくことが可能であり、これにより、所定の締結完了位置までスクリュー24を締結することが可能である。
【0043】
而して、フィクスチャー21が第1ねじエレメントとして機能するとともに、アタッチメントスクリュー24が第2ねじエレメントとして機能する。
【0044】
アタッチメントスクリュー24の頭部241は、アタッチメント22の上端面に液密状に当接・係合するとともに、アタッチメント22の外周面と面一となるテーパー状外周面を有している。
【0045】
また、アタッチメントスクリュー24の頭部241には、上面に開口するネジ穴244が軸方向に沿って設けられており、該ネジ穴244の底部には、ネジ穴244の内径(メネジ山径)よりも小径の真っ直ぐな円筒内面を有する係合凹部Rが設けられている。この係合凹部Rは、ネジ穴244と同心状に設けられている。
【0046】
アパットメント23は、アタッチメント22及びアタッチメントスクリュー24に被冠されるテーパー筒状の部材であり、その下端面はアタッチメント22の嵌合部221の上面に全周にわたって液密状に当接・係合する。アパットメント23の上端部には、アパットメントスクリュー25の頭部251が嵌合する嵌合孔231を内周に有するクラウン取付部232が設けられている。このクラウン取付部232の外周面は略方形状に面取りされている。
【0047】
アパットメントスクリュー25は、被取付部材としてのアパットメント23をベース部材としてのアタッチメントスクリュー24に固定するボルト部材であって、上面にマイナスドライバー等の工具を係合するための工具係合溝を有する円柱状の頭部251と、該頭部251の下面から下方に連設されたネジ軸部252と、該ネジ軸部252の下端面から下方に連設された係合凸部Pとを備えている。
【0048】
アパットメントスクリュー25の係合凸部Pの外周面は、先端側に至るにしたがって徐々に大径となる逆テーパ状に構成され、その先端部近傍に最大径部位が設けられている。また、この係合凸部Pはネジ軸部252に対して僅かに偏心して設けられている。これらの構成により、係合凸部Pがアタッチメントスクリュー24の係合凹部Rに係合すると、ネジ穴244に対してネジ軸部252が僅かに偏心及び/又は傾斜するように構成されている。したがって、係合凸部Pの最大径部位が係合凹部Rに係合した状態では、プリベリングトルクがほぼ一定に保たれたままアパットメントスクリュー25を螺進させていくことが可能であり、これにより、所定の締結完了位置までアパットメントスクリュー25を締結することが可能である。
【0049】
而して、アタッチメントスクリュー24が第1ねじエレメントとして機能するとともに、アパットメントスクリュー25が第2ねじエレメントとして機能する。
【0050】
なお、上記第2実施形態において、スクリュー24,25の係合凸部Pをネジ軸242,252と同心状とし、係合凹部Rをネジ孔213,244に対して偏心させることもできる。
【0051】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、係合凸部の最大径部位は、必ずしも係合凸部の先端部近傍に設けられていなくてもよく、係合凸部の軸方向中途部に設けられていてもよい。また、上記各実施形態では、係合凸部の外周面を逆テーパ状に形成したが、樽形などの適宜の形状であってよい。また、係合凸部の最大径部位は、係合凸部の軸方向所定部位に設けたフランジその他の突起によって構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
P 係合凸部
R 係合凹部
11 ボルト部材(第1ねじエレメント)
112 ねじ軸
12 ナット部材(第2ねじエレメント)
121 ナット本体
122 調整部材
122a 位置決め面
21 ベース部材(第1ねじエレメント)
24 アタッチメントスクリュー(第2ねじエレメント)
図1
図2
図3
図4
図5