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特許6996770炭素繊維およびナノチューブのポリマーマトリックスへのin situ結合
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】炭素繊維およびナノチューブのポリマーマトリックスへのin situ結合
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/10 20060101AFI20220107BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B29B15/10 ZNM
C08J3/22 CFG
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019503313
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 US2017043368
(87)【国際公開番号】W WO2018017999
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-02-27
(31)【優先権主張番号】62/365,652
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510144959
【氏名又は名称】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ノスカー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リンチ,ジェニファー,ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ケアー,バーナード
(72)【発明者】
【氏名】フェイブ,ノフェル
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/018995(WO,A1)
【文献】特表2016-519191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 15/10
C08J 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に炭素繊維を分布させること;
(b)(i)前記溶融ポリマー相が前記炭素繊維を破断するように、溶融ポリマー相に連続的なせん断ひずみ事象を加えること、または(ii)前記溶融ポリマー相の存在下で、前記炭素繊維を機械的に破断または切断することにより、前記溶融熱可塑性ポリマー相の存在下で前記炭素繊維を破断または切断し、これにより、前記1種以上の炭素含有ポリマーと反応および共有結合により架橋する、フリーラジカルを含む繊維上の新たな繊維末端を生成すること;ならびに
(c)前記破断または切断された炭素繊維を前記溶融ポリマー相と十分に混合することを有
前記炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびミクロンサイズの炭素繊維からなる群より選択される、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法。
【請求項2】
前記1種以上の炭素含有ポリマーのうち少なくとも1種は、1つ以上の二重結合または1つ以上の第三級炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融炭素含有ポリマー相がナイロンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ナイロンがナイロン66である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素繊維に加えてグラファイト微粒子を前記溶融ポリマー相に分布させ、機械的に剥離させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(a)請求項1に記載の複合材料を架橋ポリマー粒子に形成すること;および
(b)前記ポリマー粒子を非架橋溶融ホストマトリックスポリマー中に分布させることを有する、高強度炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法に従って調製された、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料であって、
1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に分布した炭素繊維を含み、前記ポリマーは、前記炭素繊維の末端に直接共有結合することにより架橋され、前記複合材料は、それに分布した機械的に剥離されたグラフェンをさらに含んでもよい、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料
【請求項8】
前記ポリマーがナイロン66である、請求項に記載の炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料。
【請求項9】
請求項に記載の方法に従って調製された、高強度炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料であって、
前記架橋ポリマー粒子は、1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に分布した炭素繊維を含み、前記ポリマーは、前記炭素繊維の末端に直接共有結合することにより架橋され、前記複合材料は、それに分布した機械的に剥離されたグラフェンをさらに含んでもよい、高強度炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料
【請求項10】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間の共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示す、請求項1またはに記載の方法。
【請求項11】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間に共有結合を欠く複合材料に対して、改善された衝撃エネルギー吸収を示す、請求項1またはに記載の方法。
【請求項12】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間に共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示す、請求項のいずれか1項に記載の炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料。
【請求項13】
前記複合材料が、炭素繊維とポリマーとの間に共有結合を欠く複合材料に対して改善された衝撃エネルギー吸収を示す、請求項のいずれか1項に記載の炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料。
【請求項14】
断した炭素繊維によって分子間架橋されたポリマー鎖を含む、ポリマー複合材料であって、
前記ポリマーとファイバーとの架橋は、実質的に前記炭素繊維の末端への直接共有結合からなり、前記複合材料は、それに分布した機械的に剥離されたグラフェンをさらに含んでもよい、ポリマー複合材料
【請求項15】
請求項14に記載の複合材料から形成された、自動車、航空機または航空宇宙部品。
【請求項16】
エンジン部品である、請求項15に記載の部品。
【請求項17】
請求項14に記載の複合材料から形成された、炭素繊維架橋ポリマー粒子。
【請求項18】
ホスト熱可塑性ポリマーと、その中に分散された請求項17に記載の炭素繊維架橋ポリマー粒子と、を含む、ポリマー組成物。
【請求項19】
請求項18に記載のポリマー組成物から形成された、自動車、航空機または航空宇宙部品。
【請求項20】
前記炭素繊維の破断が高せん断溶融加工を通じて起こる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を含有するポリマー複合材料を変換するための高効率混合方法に関する。また、本発明は、溶融ポリマー存在下での繊維またはナノチューブのin situでの機械的破断または切断を用いた炭素繊維およびナノチューブを活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー組成物は、金属などの他の材料の使用を従来採用してきた広範囲な分野で、ますます使用されている。ポリマーは、多くの望ましい物理的性質を有し、軽量であり、かつ安価である。さらに、多くのポリマー材料は、多くの様々な形状および形態に形成することができ、それらがとりうる形態において著しい柔軟性を示し、コーティング、分散液、押出しおよび成形用樹脂、ペースト、粉末などとして使用されうる。
【0003】
導電性を有する材料を必要とするポリマー組成物を使用することが望ましいと思われる様々な用途がある。しかしながら、かなりの数のポリマー材料は、これらの用途の多くに対して本質的に十分な導電性または熱伝導性を示さない。
【0004】
ほとんどの複合材料は、繊維とポリマーの間には弱い二次結合のみが存在するであろうとの理解の下で製造されている。これは、合理的な応力伝達を得るために非常に高いアスペクト比を有する繊維を必要とし、さもなければ、繊維は負荷時に滑るであろう。
【0005】
炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料(CF-PMC)のいくつかの商業的用途には、とりわけ、航空機および航空宇宙システム、自動車システムおよび車両、電子機器、政府防衛/セキュリティ、圧力容器、ならびに反応チェンバーが含まれる。
【0006】
炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料(CF-PMC)を効率的に製造するための低コストな方法の開発における進歩は、依然として非常に遅い。現在、現実世界の用途に使用可能なCF-PMCの開発に影響を及ぼすいくつかの課題としては、材料の費用、および現在使用されている大規模商業生産のための化学的および/または機械的操作の非実用性などが挙げられる。したがって、増加した比剛性および強度、向上した電気/熱伝導性、および光透過性の保持など、多くの特性上の利点を提供する大規模商業生産に適したCF-PMCを低コストで製造する方法が望ましいであろう。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、炭素繊維と炭素系ポリマーとの間のより強い一次結合を作り出すことができ、結果として得られる複合材料においてはるかに短い繊維で非常に高い応力伝達を得ることを可能にするという発見に関する。したがって、本開示は、より堅く、より強いポリマー-炭素繊維複合材料およびそれらを形成するための方法を提供する。当該方法においては、単層または多層カーボンナノチューブ(それぞれ、SWCNTおよびMWCNT)、カーボンナノファイバーおよび標準ミクロンサイズの炭素繊維を含む、様々な炭素繊維が有用である。当該方法は、1つ以上の二重結合(炭素-炭素二重結合、炭素-酸素二重結合など)を有する化学基、または1つ以上の第三級炭素を有する化学基、すなわち、
【0008】
【化1】
【0009】
を有する様々なポリマーと共に良好に働く。
【0010】
繊維は、溶融加工中に溶融ポリマーの存在下で破断する。繊維破断は、溶融加工装置内に特別に設計された切削工具を有することによって、または溶融加工中の高せん断によって、またはその2つの組み合わせによって、達成されうる。液体ポリマーに囲まれている間に繊維を破断することによる新しい末端の開放は、上記の特性を有するポリマーによる強い結合のための部位を提示する繊維末端に、ぶら下がった結合(dangling bond)または反応性フリーラジカルを導く。得られた固体複合材料は、最適な繊維長で、冷却時に改善された機械的性質を有し、その結果、複合材料内でのこの結合によってコストが大幅に削減されうる。
【0011】
本発明の一態様は、(a)1種以上の溶融炭素含有ポリマーを含む溶融炭素含有ポリマー相に炭素繊維を分布させること;(b)(i)前記溶融ポリマー相が前記炭素繊維を破断するように、溶融ポリマー相に連続的なせん断ひずみ事象を加えること、または(ii)前記炭素繊維を機械的に破断または切断することにより、前記溶融熱可塑性ポリマー相の存在下で前記炭素繊維を破断または切断し、これにより、前記1種以上の炭素含有ポリマーと反応および架橋する繊維上に反応性端部(reactive edge)を生成すること;ならびに(c)前記破断または切断された炭素繊維を前記溶融ポリマー相と十分に混合することを有する、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法に関する。一実施形態では、前記1種以上の炭素含有ポリマーのうち少なくとも1種は、1つ以上の二重結合または1つ以上の第三級炭素を有する化学基を含有する。別の実施形態では、前記溶融炭素含有ポリマー相は、ナイロン66であってもよいナイロンを含む。当該方法の一実施形態では、前記炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー、およびミクロンサイズの炭素繊維からなる群より選択される。
【0012】
本発明の別の態様は、(a)上記複合材料を架橋ポリマー粒子に形成すること;および(b)前記ポリマー粒子を非架橋溶融ホストマトリックスポリマー中に分布させることを有する、高強度炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料を形成する方法に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、上記の方法に従って調製された炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料に関する。一実施形態では、前記ポリマーはナイロン66である。本発明の別の態様は、上記の方法に従って調製された高強度炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料に関する。
【0014】
いくつかの実施形態では、複合材料は、炭素繊維とポリマーとの間の共有結合を欠く複合材料に対して、改善された剛性および強度を示す。いくつかの実施形態では、複合材料は、炭素繊維とポリマーとの間に共有結合を欠く複合材料に対して、改善された衝撃エネルギー吸収を示す。
【0015】
本発明のさらなる態様は、炭素原子を有する破断した炭素繊維によって分子間架橋されたポリマー鎖を含み、前記繊維の破断した端部上に反応性結合部位を有するポリマー複合材料に関する。一実施形態では、当該複合材料から自動車、航空機または航空宇宙部品が形成される。一実施形態では、前記部品はエンジン部品である。本発明の別の態様は、上記複合材料から形成された炭素繊維架橋ポリマー粒子に関する。別の態様は、ホスト熱可塑性ポリマーと、上記炭素繊維架橋ポリマー粒子と、を含むポリマー組成物に関する。自動車、航空機または航空宇宙部品は、このようなポリマー組成物から形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】低倍率から高倍率まで並べられた一連の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、典型的な合成時の粒子が緩やかに凝集した多層CNT(MWCNT)からなることを示す。
図2】ナイロン66のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示し、267℃の融点、225℃の凝固点および約60℃のガラス転移温度を示している。
図3】ナイロン66の応力掃引曲線を示し、線形粘度領域(LVR)が約0.4%のひずみであることを示している。
図4】0.4%のひずみにおけるナイロン66の周波数掃引曲線を示す。
図5】ナイロン66の周波数掃引曲線を示し、粘度がせん断速度の増加と共に低下することを示している(粘度対せん断速度)。
図6】低倍率から高倍率まで並べた一連のSEM画像を示し、8%CNT強化ナイロン複合材料の低温破断後のCNTの引き抜きの証拠を提供する。
図7】透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図7aは、MWCNTとアモルファスまたは非晶質のナイロン66マトリックスとの間の接着結合の証拠を提供する。すなわち、ナイロン66マトリックス中に切断末端を有さないMWCNTについては、共有結合は観察されない。対照的に、図7bは、MWCNTの破断端部またはその近傍でのより高密度のナイロン66(電子ビームに対する透過性が低い)の結晶化を示す。
図8a】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図8b】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図8c】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図8d】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図8e】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図8f】それぞれ1%~6%のCNTを含有する本発明のナイロン66複合材料のDSC加熱-冷却-加熱曲線を示す。
図9a】結合が促進されている新たな破断端部を有するナイロン66マトリックス中のMWCNTのTEM画像を示す。写真は、CNTの破断端部での高密度のポリマーを示しており、ナノチューブとナイロン66ポリマーとの間の共有結合を示している。
図9b】結合が促進されている新たな破断端部を有するナイロン66マトリックス中のMWCNTのTEM画像を示す。写真は、CNTの破断端部での高密度のポリマーを示しており、ナノチューブとナイロン66ポリマーとの間の共有結合を示している。
図9c】結合が促進されている新たな破断端部を有するナイロン66マトリックス中のMWCNTのTEM画像を示す。写真は、CNTの破断端部での高密度のポリマーを示しており、ナノチューブとナイロン66ポリマーとの間の共有結合を示している。
図10】1mの長さに切断した連続CFおよびPEEKの高せん断溶融加工を使用して調製したPEEK中の30重量%の炭素繊維(CF)のSEM顕微鏡写真を示す。
図11a】1mの長さに切断した連続CFおよびPEEKの高せん断溶融加工を用いて調製された増加するCF濃度の関数としてのCF強化PEEKの機械的性質を以下のように示す:(a)曲げ応力-ひずみ曲線;(b)曲げ弾性率;(c)曲げ強度;および(d)アイゾット衝撃耐性。
図11b】1mの長さに切断した連続CFおよびPEEKの高せん断溶融加工を用いて調製された増加するCF濃度の関数としてのCF強化PEEKの機械的性質を以下のように示す:(a)曲げ応力-ひずみ曲線;(b)曲げ弾性率;(c)曲げ強度;および(d)アイゾット衝撃耐性。
図11c】1mの長さに切断した連続CFおよびPEEKの高せん断溶融加工を用いて調製された増加するCF濃度の関数としてのCF強化PEEKの機械的性質を以下のように示す:(a)曲げ応力-ひずみ曲線;(b)曲げ弾性率;(c)曲げ強度;および(d)アイゾット衝撃耐性。
図11d】1mの長さに切断した連続CFおよびPEEKの高せん断溶融加工を用いて調製された増加するCF濃度の関数としてのCF強化PEEKの機械的性質を以下のように示す:(a)曲げ応力-ひずみ曲線;(b)曲げ弾性率;(c)曲げ強度;および(d)アイゾット衝撃耐性。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、記載されている特定のシステム、方法論またはプロトコルには限定されない。これらは変動する可能性があるためである。この説明で使用される用語は、特定のバージョンまたは実施形態のみを説明することを目的としており、範囲を限定することを意図するものではない。
【0018】
この文書で使用されているように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及をも含む。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。この文書で言及される全ての刊行物は参照により組み込まれる。本明細書に列挙されているすべてのサイズは例示に過ぎず、本発明は以下に列挙される特定のサイズまたは寸法を有する構造に限定されない。本明細書中のいかなるものも、本明細書中に記載されている実施形態が先行発明によってそのような開示に先行する権利を与えられていないという承認として解釈されない。本明細書で使用されるように、用語「含む」は、「含むが、これに限定されない」を意味する。
【0019】
本発明の一態様は、溶融ポリマーでin situ処理された炭素繊維を機械的に官能化して、繊維の末端に反応性結合部位を形成することに関する。反応性部位がポリマーと反応して、炭素繊維をポリマーに化学的に結合させる。
【0020】
これは、単層または多層のカーボンナノチューブおよび標準的なミクロンサイズの炭素繊維を含む様々な炭素繊維を用いて行うことができる。それは、二重結合(炭素-炭素二重結合、炭素-酸素二重結合など)または様々な第三級炭素結合を有する化学基を有する様々なポリマーと共に良好に働く。ポリマーによりin situでグラファイトをグラフェンに機械的に剥離しながら、壊れた共有グラファイトおよびグラフェン結合の部位での良好な結合の同様の観察がなされてきた。
【0021】
溶融加工中に溶融ポリマーの中で繊維が破断または切断されるが、これは溶融加工装置内に特別に設計された切断工具を有することによって、または溶融加工中の高せん断によって、またはその2つの組み合わせによって行うことができる。液体ポリマーに囲まれながら繊維を破断または切断することによって新たな繊維末端を開放することで、繊維末端上に反応部位を提供する非充填価電子(フリーラジカル)を有するぶら下がった結合(dangling bond)が導入され、それは上記特性を有するポリマーによる、共有結合などの強固な結合のための部位を表す。得られた固体複合材料は、冷却時に改善された機械的特性、および最適な繊維長を有し、そして次いで、この結合によってコストが大幅に減少するであろう。
【0022】
以下の用語は、本願の目的のために、以下に記載されるそれぞれの意味を有するものとする。
【0023】
用語「ポリエーテルケトン」(PEK)は、交互のケトン官能基とエーテル官能基とを有する分子主鎖によって特徴付けられるポリマーを意味する。最も一般的なPEKは、官能基の間の1位および4位に結合したアリール基またはフェニル基を含むポリアリール(PAEK)である。非常に硬い主鎖は、そのようなポリマーに、他のプラスチックと比較して非常に高いガラス転移温度および融点を付与する。これらの耐熱性材料のうち最も一般的なものは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。ポリエーテルケトンの他の代表例には、PEKK(ポリ(エーテルケトンケトン))、PEEEK(ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン))、PEEKK(ポリ(エーテルエーテルケトンケトン))およびPEKEKK(ポリ(エーテルケトン-エーテルケトンケトン))が含まれる。
【0024】
一態様において、本発明は、反復的な高せん断ひずみ速度を与えるバッチミキサーまたは押出機内で配合することによって、炭素繊維を含むポリマー複合材料を、反応性末端または端部を有する破断した炭素繊維に変換する、高効率な混合方法を提供する。当該方法は、増加した比剛性および強度、向上した電気/熱伝導性、および光透過性の保持など、多くの特性上の利点を提供するCF-PMCを製造するのに低コストである。さらに、これらの特性は、以下参照のようにプロセスの変更によって調整可能である。場合によっては、処理中に不活性ガスまたは真空を使用することができる。in situ炭素繊維破断の他の利点は、小サイズ化した炭素繊維を取り扱うことが回避され、またポリマーマトリックス相中にこれを均一に分散させる必要性が回避されることにある。優れた混合は、より優れた複合構造および非常に良好な粒子分布を生み出す。
【0025】
本発明の方法において、炭素繊維またはナノチューブに対して不活性であり、そして所望の炭素繊維の破断を達成するのに十分なせん断ひずみを付与できる、実質的にいかなるポリマーも使用されうることが理解されるべきである。そのようなポリマーの例としては、限定されないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、芳香族ポリスルホン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのアクリル類、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/テフロン(登録商標))、ナイロンなどのポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリオキシメチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリールエーテルケトン、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびこれらの混合物などが挙げられる。本発明の方法に従って、高融点の非晶質ポリマーと同様に、炭素繊維表面を湿らせることができるポリマーを使用してもよい。
【0026】
本発明に係る炭素繊維強化ポリマーは、通常、約0.1~約30重量%の炭素繊維またはナノチューブを含有する。より典型的には、ポリマーは、約1.0~約10重量%の炭素繊維またはナノチューブを含む。一実施形態によれば、炭素繊維強化ポリマーマトリックス複合材料は、(全複合材料重量に基づいて)1重量%~10重量%、または2重量%~9重量%、または3重量%~8重量%、または4重量%~7重量%、または5重量%~6重量%の炭素繊維またはナノチューブを含む。ポリマーマスターバッチは、典型的には最大約65重量%の炭素繊維またはナノチューブ、より典型的には約5~約50重量%の炭素繊維またはナノチューブを含む。一実施形態によれば、マスターバッチは、約10~約30重量%の炭素繊維またはナノチューブを含む。
【0027】
ポリマーマトリックス内の炭素繊維の機械的官能化は、反復的な高せん断ひずみ事象を付与してポリマーマトリックス内の炭素繊維を機械的に破断するポリマー処理技術によって達成されてもよい。
【0028】
連続的なせん断ひずみ事象は、せん断ひずみ速度に関連する拍動的な連続のより高いせん断力およびより低いせん断力が溶融ポリマー中の炭素繊維に加えられるように、実質的に同じ時間間隔で交互に連続して高せん断ひずみ速度および低せん断ひずみ速度を溶融ポリマーに加えることとして定義される。高せん断ひずみ速度および低せん断ひずみ速度は、2番目に低いせん断ひずみ速度の少なくとも2倍である1番高いせん断ひずみ速度として定義される。第1のせん断ひずみ速度は、100~10,000sec-1の範囲である。炭素繊維を破断させるために、溶融ポリマーに少なくとも1,000から10,000,000を超える高せん断ひずみパルスおよび低せん断ひずみパルスの交互パルスが加えられる。
【0029】
高せん断混合の後、機械的にサイズが減少した炭素繊維は、溶融ポリマー中に均一に分散し、ランダムに配向し、かつ高いアスペクト比を有する。
【0030】
一実施形態では、グラファイト微粒子も溶融ポリマーに添加され、連続的なせん断ひずみ事象を介して機械的に剥離されてグラフェンとなる。グラファイト微粒子は、一般的に1,000ミクロン以下のサイズであり、グラファイト微粒子の剥離の程度は一般に1~100%であり、結果としてグラフェンおよびグラファイトの重量比は1:99~100:0の範囲である。そのような剥離方法は、米国特許出願公開第2015/0267030号明細書に開示されており、その全ての開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
溶融ポリマーに添加されるグラファイトの量は、添加される炭素繊維およびナノチューブの量以下であってもよいが、炭素繊維、ナノチューブならびに得られるグラフェンまたはグラファイトおよびグラフェンの混合物の合計含有量は65重量%を超えない。典型的には、グラフェンまたはグラファイトおよびグラフェンの混合物と炭素繊維および/またはナノチューブとの重量比は、5:95~50:50、より典型的には25:75~33:67の範囲である。
【0032】
一実施形態では、押出配合要素は、米国特許第6,962,431号明細書に記載のとおりであり、その開示は、軸方向溝付き伸長混合要素(axial fluted extensional mixing elements)または螺旋溝付き伸長混合要素(spiral fluted extensional mixing elements)として知られる配合セクションと共に、参照により本明細書に組み込まれる。配合セクションは、ポリマーおよび炭素繊維の流れを引き伸ばし、続いて材料の折り畳みおよび延伸を繰り返すように作用する。これは優れた分配混合をもたらし、これが次に炭素繊維の漸進的な破断を引き起こす。バッチミキサーも同等の混合要素を備えていてもよい。別の実施形態では、標準型射出成形機は、組成物が射出成形される際に、材料を配合する目的で、標準ネジを配合ネジに置き換えるように改良される。そのような装置は米国特許第2013/0072627号明細書に開示されており、その全ての開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
自動押出システムは、米国特許第6,962,431号明細書に記載されるような混合要素を用いて複合材料を所望の回数だけ通過させることができ、流れを押出機投入口に戻すための再循環流を備えている。炭素繊維強化ポリマーの処理は直接的であり炭素繊維の取扱いが最小限で済むので、製造コストが低い。
【0034】
ポリマー内のせん断ひずみ速度は、ポリマーの種類、およびミキサーの形状、処理温度、および毎分回転数(RPM)を含む処理パラメータによって制御される。
【0035】
特定のポリマーに必要な処理温度および速度(RPM)は、一定温度で、せん断ひずみ速度:
【0036】
【数1】
【0037】
がRPMに線形的に依存すると仮定すると、式1で示されるように、ポリマーレオロジーデータから決定可能である。ミキサーの形状は、ローターの半径r、およびローターとバレルの間の間隔Δrとして表される。
【0038】
【数2】
【0039】
3つの異なる温度で特定のポリマーについて収集されたポリマーレオロジーデータは、対数せん断応力対対数せん断ひずみ速度のグラフを提供する。
【0040】
ホストポリマーの例としては、限定されるものではないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、芳香族ポリスルホン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのアクリル類、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/テフロン(登録商標))、ナイロンなどのポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリオキシメチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリイミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル類、これらの混合物などが挙げられる。ホストポリマーおよび架橋ポリマーが同一のポリマー種である場合、架橋ポリマー粒子は実質的にポリマー配合物に導入されることが望まれる架橋種の程度の濃縮マスターバッチである。
【0041】
[CNT強化ナイロン66複合材料の処理および特性]
ポリマー-カーボンナノチューブ複合材料(PCNC)は、強化用炭素とポリマーマトリックス相との間の界面面積がはるかに大きいという点で、従来の炭素繊維複合材料とは異なる。ポリマーマトリックスにカーボンナノチューブ(CNT)の均一な分布を導入することで、単純な混合則を超える特性向上が得られるはずであることが提案されている。課題は、複合材料に含まれるCNTの優れた特性を最大限に活用することである。
【0042】
カーボンナノチューブは、高アスペクト比、低密度、顕著な機械的特性、および良好な電気/熱伝導性を有することから、ポリマーマトリックスの理想的な強化材料であると考えられている。研究されてきたマトリックスの1つとしては、商業的に重要なナイロン66である。しかしながら、明らかに界面CNT/ポリマー結合の不良および多大なCNTの凝集のために、今日まで特性改良は顕著ではなかった。
【0043】
これらの障害は、ポリマー鎖が結合できる新たな部位をCNT上に作り出すことによって接着結合および共有結合を促進しながら、溶融ポリマー中で高せん断混合してCNTの解凝集および分散を誘導することを含む、新規の処理ルートを利用することで、克服された。強靱なナイロンマトリックス中に均一に分散した高画分の強固なCNT強化ナイロン粒子を含む二相複合材料を形成することで、衝撃エネルギー吸収を増加させる試みもなされている。
【0044】
カーボンナノチューブ(CNT)は、チューブを形成するために巻かれる六角形結合炭素原子のシートからなる。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、この炭素原子の管状構造の単層を含む。しかし、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の構造は、未だ議論の余地がある。あるモデルでは、MWCNTは巻かれてスクロールとなる単一のグラフェンシートであると想像される。別のモデルでは、MWCNTは螺旋状に並んだ炭素六角形の同軸層で作られ、接合線で一致し、入れ子状シェル構造になっていると考えられる。さらに別のモデルでは、スクロール様構造および入れ子シェル構造の組み合わせが提案されている。
【0045】
ナイロン-CNT複合材料の弾性率および強度の増加は、ポリマーマトリックスにCNTを少量添加することでもたらされることが知られている。ファンデルワールス結合がCNTとポリマーとの間の相互作用を支配する一方で、いくつかのCNT複合材料における接着も共有結合を介して起こり、これはCNT複合材料の強化における役割を果たすことが示されている。
【0046】
ポリエチレン-ブテンコポリマーに埋め込まれた個々のMWCNTの一定の長さを除去するのに必要な引き抜き力のAFMによる測定は、MWCNTの外層とポリマーマトリックスとの間の共有結合を実証した。また、界面近傍のポリマーマトリックスは、バルク中のポリマーとは異なる挙動を示し、これはポリマー鎖の回転半径と同じ大きさを有するCNTの外径に起因する。
【0047】
CNTが凝集する傾向、これをマトリックス中で整列させることの困難さ、およびしばしば劣る荷重伝達のために、異なるポリマーマトリックス相を使用して複合材料を製造する多くの試みが報告されている。
【0048】
本発明は、以下に参照されるように、CNT強化ナイロン複合材料の剛性および強度の著しい改善を提供する。当該複合材料は、衝撃エネルギー吸収の増加によって特徴付けられる。本明細書では、優れた機械的特性および性能を達成する処理パラメータが提供される。
【実施例
【0049】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、決してこれらに限定されるものと解釈されるべきではない。
【0050】
改良型Randcastle押出システム小型伸長ミキサー:
既存の小型バッチミキサーの設計は、より高いせん断速度を提供し、さらにポリマーマトリックス内の炭素繊維の優れた機械的破断を提供するように改良されてもよい。せん断速度:
【0051】
【数3】
【0052】
は式1に従って計算され、式中、rは工具半径であり、Δrは配合のためのクリアランスである。機械の改良は、達成可能な最大せん断速度と共に、下表に記載されている。新たに設計されたミキサーは現行ミキサーの22倍の最大せん断速度を有し、これはより短時間でポリマーマトリックス内での炭素繊維の機械的破断を促進するであろう。言い換えれば、結晶サイズDは、より効率的な長さの時間でより小さな寸法まで減少しうる。
【0053】
【表1】
【0054】
改良された一軸スクリュー押出:
Randcastleは、CF-PMCを製造するためにポリマーマトリックス中の炭素繊維の機械的破断をより可能にするであろう改良を押出機スクリューに加えた。
【0055】
<実施例1>
[材料および処理パラメータ]
10~50μmの範囲の粒径を有し、よく特徴づけられているMWCNT粉末は、CNano Technologyから入手した。一連の後方散乱SEM顕微鏡写真である図1は、典型的な粒子が緩やかに凝集した多層CNT(MWCNT)からなり、その大部分が、直径約30~40nmであり、長さが1μmを超えている、すなわち高アスペクト比を有することを示している。いくつかの場合において、CNTは遷移金属触媒粒子である白色対照な先端(white-contrasting tips)を有する。従って、CNTが先端成長粒子成長メカニズムによって製造されることは明らかである。
【0056】
ペレットサイズが1~5mmの範囲のペレット化ナイロン66は、Dupont Inc.から入手した。示差走査熱量測定(DSC)曲線である図2は、融解温度および凝固温度がそれぞれ267℃および225℃であり、ガラス転移温度が約60℃であることを示す。ナイロン66は周囲の空気に曝されるとすぐに水を吸着するため、入手した粉末および処理した粉末は、さらに処理する前に85℃で24時間真空乾燥した。
【0057】
100g容量のラボスケールの高せん断ミキサーを使用して、溶融ナイロン66中にMWCNTを分散させた。約1/3インチのローター/バレルギャップ距離を使用して、バレル内部のローターの回転運動から生まれた高せん断応力を通じて2成分の高効率混合を達成した。処理中の劣化を防ぐために、アルゴンガスを0.244Cft/時の流速で混合室に導入した。
【0058】
ナイロン66の線形粘度領域(LVR)を特定するために、R2000レオメーターを用い、周波数1Hzおよびディケード当たり10ポイント(対数モード)で、277℃で応力掃引試験を実施した。図3は、(LVR)が約0.4%のひずみで生じることを示している。この処理温度におけるポリマーの反応を調べるために、周波数掃引試験を実施した。図4は、角周波数(rad/sec)に対するG’(Pa)、G”(Pa)、Delta(度)の曲線を示している。このデータは、図5において粘度(Pa.s)対せん断速度(1/sec)に変換され、図5はせん断速度が増加するにつれてナイロンの粘度が減少することを示している。
【0059】
これらのデータは、高せん断ミキサー中でCNT強化ナイロン66複合材料を処理するためには、277℃(すなわちナイロン66の融点より10℃高い)の混合温度が適切な粘度およびせん断速度を得るのに必要であることを示している。ポリマーの融点より10℃高い混合温度は、ナイロン66にとって最低であると考えられ、他のポリマーでは異なると予想される。
【0060】
<実施例2>
[複合材料の処理]
緩やかに凝集したMWCNT粉末を、4.5メートルトンの圧力および5分の保持時間を用いて、Carverプレスで冷間圧縮して、圧縮MWCNTを製造した。プレス後、成形物を細かく砕き、真空乾燥した。脱気後、より高密度となったCNT粉末を混合ユニットに導入し、ナイロン66溶融物中に分散させた。
【0061】
混合ユニットの前部および後部がナイロン66の融解温度267℃を10℃超えた温度に達したとき、1)ローター速度を10分間で50rpmまで徐々に上げ、この速度でさらに10分間保持し、2)30gのナイロン66をミキサーに徐々に供給しして溶融させ、3)良好な混合を確保しながら、冷間圧縮したCNT粉末の細片を溶融ポリマーに添加し、および4)所望量のCNT粉末(8g)およびナイロン66(92g)をミキサーに入れた後、混合パラメータを50rpmに固定して粘度を出来るだけ低く維持した。混合パラメータを安定させるために、混合速度を約75rpmに上げ、そこで6分間保持し、混合プロセスを完了した。その後、粘度の急激な増加によりシステムが自動的に停止するまで混合速度を徐々に低下させた。
【0062】
高画分のCNTを含む複合材料を製造するためには、溶融ナイロンへのCNTの逐次添加が必要である。混合パラメータが出来るだけ安定した状態を維持するには約45分かかる。混合中の溶融粘度の急激な増加は、分散したCNTとナイロンポリマーマトリックスとの間の化学結合に起因する。混合工程が完了した後、ゴム状の稠度を有する複合材料を混合温度でバレルから取り出した。大気温度で冷却すると、材料は硬くかつ脆くなった。これは、分散したCNTとナイロン66マトリックスとの間の化学結合のさらなる証拠である。
【0063】
CNT強化ナイロンのより大きなサンプルは、一体型高せん断混合および射出成形装置を使用して調製することができる。ASTM標準試験バーを製造し、機械的特性を評価することができる。小さいサンプルで実施された予備試験は、剛性および強度の大幅な改善を示している。
【0064】
<実施例3>
[複合材料の特性]
図6(a)~(d)は、CNT強化ナイロン複合材料の極低温破断面のSEM画像を示す。低倍率画像は、わずかに異なる高さの交互の領域からなる帯状構造を示している。興味深いことに、低高度領域は複合材料中のCNTの引き抜きの証拠を示しているが、高高度領域はそうではなく、破断経路がCNTを貫通していることを示している。それでも、高せん断混合処理が元のCNT凝集物を効率的に分散させ、ナイロンマトリックス中にCNTの均一な分布を形成したことは明らかである。特に図6(b)を参照してほしい。
【0065】
図7(a)および7(b)は、低温ミルされた粒子の薄いテーパー端部の代表的なTEM画像を示す。電子ビームの透過を可能にするのに十分に薄い端部を有するのはわずかな画分の粒子のみであるため、これらの薄い端部を見つけることは困難である。図7(a)では、単一のMWCNTがナイロン66マトリックスと密接に接触しており、これは良好な接着結合を示しているが、ナイロン66マトリックス中に切断末端を有さないMWCNTでは共有結合は観察されない。対照的に、MWCNTが視野内で終結している場合は常に、暗い対照的な領域が観察される。一例が図7(b)に示されており、これは周囲の非晶質マトリックスよりも高密度である結晶性ナイロン66が存在する証拠であると解釈され、ポリマーの結晶化はMWCNTのポリマーへの共有結合によって誘導される。図9(a)~(c)についても参照してほしい。さらに、TEM観察はCNTの長さの顕著な減少を明らかにした。
【0066】
図8(a)~(f)は、本開示に従って処理することにより調製された、ナイロン66と、1%~6%の異なる割合の長いカーボンナノチューブとの混合物である複合材料のDSC曲線を示す。それらは、下記のように改良された高せん断バッチミキサー中で、通常のナイロン処理温度(約300℃)で20分間調製した。高せん断混合下で、長アスペクト繊維は破断し、ポリマーを繊維の末端に共有結合させる。図は、ナイロン66そのもの(カーボンナノチューブは共有結合していない、図2も参照)の通常の溶融ピークおよび結晶化温度、ならびにCNTに共有結合したポリマーの再結晶温度がより高い第2のピークを示す。後者のピークは、組成物中のCNTの割合が増加するにつれて連続的に増加する。5%CNTおよび6%CNTの間には劇的な違いがある。6%CNTによって、共有結合付加物のより高い溶融温度が引き継がれ、新たな結晶形が示された。カーボンナノチューブの濃度が1%から6%まで変化すると、in situでのカーボンナノチューブの破断と共に、ナイロン66の融点および再結晶点が全体として50℃シフトしている。これは以前には観察も報告もされていない。
【0067】
図9(a)~(c)は、ナイロン66マトリックスとの結合が観察された新たに破断した端部を有するMWCNTのTEM画像を示す。図7(b)も参照してほしい。写真は、CNTの破断した端部に高密度のポリマーを示しており、上記のとおり、ナノチューブとナイロン66ポリマーとの間の共有結合を示している。対照的に、図7(a)は、破断した端部を有さないMWCNTについて、ナイロン66マトリックスとの結合が観察されないことを示すTEM画像を示す。これは、本開示に従って処理した際にナノチューブの破断した端部とナイロン66ポリマーとの間に共有結合が生じたことを示しており、これは以前には観察も報告もされていない。
【0068】
そのような観察は、CNTが破断を受けた際は常に、高せん断混合の間にナイロン66の結晶化が開始し、これにより多くのぶら下がったおよび反応軌道(フリーラジカル)が溶融ポリマーと結合するように露出することを示す。これはナイロン66の融点より高い温度で起こり、これはMWCNTの新たに破断した端部と溶融ナイロン66との間の強固な共有結合の証拠であると考えられる。
【0069】
<実施例4>
連続炭素繊維(CF)を1メートルの長さに切断し、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と共に、PEEK中のCFが0、10、20、および30重量%の濃度で、高均一せん断射出成形機のホッパーに直接供給した。本発明の方法の実施形態に従って溶融PEEK内での高せん断溶融加工中に、CFが破断した。典型的に、CFは溶融加工前に3~10mmの範囲の長さに切断される。本発明の高せん断加工法および連続CFを使用すると、繊維が溶融ポリマーで囲まれながら繊維破断が起こる可能性があり、結果として溶融ポリマーとの共有結合に利用可能な繊維末端上のぶら下がった軌道(dangling orbitals)が生じる。CF末端とポリマーとの間の主要な共有結合は、効率的な荷重伝達、増加した機械的特性および高いエネルギー吸収能力を提供する。複合形態は電界放射型走査電子顕微鏡を用いて提示され、非常に良好な繊維の分散および分布を示している(図10参照)。曲げ特性はASTM D790に従って決定され、曲げ弾性率および強度の顕著な増加を示す。アイゾット衝撃抵抗は、完全破断を有するノッチ付き試験片についてASTM D256に従って決定され、CF濃度の増加と共に衝撃抵抗の顕著な増加を示す(図11(a)~(d)参照)。典型的には、繊維強化熱可塑性複合材料は、ポリマー単独よりも耐衝撃性が低いという欠点がある。例えば、PEEKの製造業者は、チョップドCFを使用してCF30重量%の強化PEEKを製造し、アイゾット衝撃抵抗がPEEKおよびPEEK中の30重量%のチョップドCFそれぞれに対し、91J/mから69J/mに減少すると述べている。
【0070】
前述の実施例および好ましい実施形態の説明は、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものとしてではなく、例示として解釈されるべきである。容易に理解されるように、特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱することなく、上記特徴の多数の改変および組み合わせが利用され得る。そのような改変は、本発明の精神および範囲からの逸脱とみなされるものではなく、全てのそのような改変は以下の特許請求の範囲内に含まれると意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図8f
図9a
図9b
図9c
図10
図11a
図11b
図11c
図11d