(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】修飾CκおよびCH1ドメイン
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20220107BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220107BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220107BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C07K16/00
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
(21)【出願番号】P 2020524871
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(86)【国際出願番号】 CN2019071740
(87)【国際公開番号】W WO2019137552
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/072564
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519441109
【氏名又は名称】アイ-エムエービー バイオファーマ ユーエス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヨンチアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ゼンイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ビンシ
(72)【発明者】
【氏名】ザン、ジンウ
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522644(JP,A)
【文献】国際公開第2017/055537(WO,A1)
【文献】特表2009-541275(JP,A)
【文献】特表2017-521361(JP,A)
【文献】国際公開第2017/162890(WO,A1)
【文献】Molecular Immunology,1986年,Vol.23, No.9,p.951-960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
C12N15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその抗原結合断片であって、
置換体L11Wを含む第1のヒトCH1断片と、
置換体V26Wを含む第1のヒトCκ断片と
置換体L11Wを含まない第2のヒトCH1断片と、
置換体V26Wを含まない第2のヒトCκ断片と
を備え
、
前記抗体またはその抗原結合断片
は、クラスIgGである、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記第1のヒトCH1断片が置換体L11Wおよび置換体K101Eを含み、
前記第1のヒトCκ断片が置換体V26Wおよび置換体D15K/Hを含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記第1のヒトCH1断片が置換体L11Wおよび置換体K96Dを含み、
前記第1のヒトCκ断片が置換体V26Wおよび置換体E16Rを含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記第1のヒトCH1断片が置換体L11Wおよび置換体K96Eを含み、
前記第1のヒトCκ断片が置換体V26Wおよび置換体E16Kを含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記第1のヒトCH1断片が置換体L11Wおよび置換体K96Eを含み、
前記第1のヒトCκ断片が置換体V26Wおよび置換体E16Rを含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記第2のヒトCH1断片および前記第2のヒトCκ断片が野生型である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
重鎖可変領域、軽鎖可変領域、Fc領域、またはそれらの組み合わせをさらに備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
アイソタイプがIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、
請求項
1から7のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
第1のCH1/Cκ対と第2のCH1/Cκ対とを備える二重特異性抗体であって、
前記第1のCH1/Cκ対のCH1断片およびCκ断片は、CH1におけるアミノ酸置換体L11WおよびCκにおけるアミノ酸置換体V26Wを含み、
前記第2のCH1/Cκ対のCH1断片およびCκ断片は、アミノ酸置換体L11Wおよびアミノ酸置換体V26Wを含まない、
二重特異性抗体。
【請求項10】
前記第1のCH1/Cκ対の前記CH1断片およびCκ断片が、
(a)CH1におけるK101EおよびCκにおけるD15K/H、
(b)CH1におけるK96DおよびCκにおけるE16R、ならびに
(c)CH1におけるK96EおよびCκにおけるE16K
からなる群から選択される置換体をさらに含み、
前記第2のCH1/Cκ対の前記CH1断片およびCκ断片は、(a)から(c)の前記置換体を含まない、
請求項
9に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および
医薬上許容し得る担体
を備える、
組成物。
【請求項12】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする1または複数のポリヌクレオチドを備える、
単離された細胞。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
二重特異性モノクローナル抗体(BsMAb、BsAb)は、2つの異なるタイプの抗原または同じ抗原の2つの異なるエピトープに同時に結合できる人工タンパク質である。BsAbはいくつかの構造形式で製造され得、癌免疫療法と薬剤送達において現在の応用が探究されてきた。
【0002】
BsAbには多くの形式がある。IgGのようなBsAbは、2つのFab部位が異なる抗原に結合する以外は、2つのFabアームと1つのFc領域の従来のモノクローナル抗体(mAb)構造を保持する。最も一般的なタイプは、抗体に3つの固有の結合部位:2つのFab領域とFc領域とを有するため、三官能性抗体と称される。重鎖と軽鎖の各対は、固有のmAbからのものである。2つの重鎖からできたFc領域は、第3の結合部位を形成する。これらのBsAbは、多くの場合、クアドローマまたはハイブリッドハイブリドーマ法で製造される。
【0003】
ただし、クアドローマ法は、使用可能なBsAbを形成するのに偶然に依存するため、効率が悪い場合がある。IgGのようなBsAbを製造する別の方法は「knobs into holes」と称され、1つのmAbから重鎖の大きいアミノ酸の変異を導入し、他のmAbの重鎖の小さいアミノ酸の変異を導入することに依存する。これにより、ターゲットの重鎖(およびそれらの対応する軽鎖)がより適切に適合し、BsAb生成の信頼性が向上する。
【0004】
このknob into holes法により、重鎖ホモ二量体化の問題は解決するが、2つの異なる抗体の軽鎖と重鎖との間の誤対合に関する問題の対処にはならなかった。より簡単に調製でき、より優れた臨床的安定性および有効性を有する、より優れたBsAbを提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、CκドメインとCH1ドメインとの対合はまだ可能であるが、非修飾野生型CH1ドメインとCκドメインとの対合が減少した、修飾CκおよびCH1ドメインを持つ抗体および抗原結合断片を提供する。このような修飾は、CκドメインとCH1ドメインとの2つの異なる対を持つ二重特異性抗体の調製に特に有用であり得る。
【0006】
実験例に示すように、重要な界面残基として2つのアミノ酸基が特定された。これらの界面残基は、変更すると、適切な修飾を行ってこのような界面を再建しない限り、CκドメインとCH1ドメインとの対合を減少させ得る、または破壊さえさせ得る。
【0007】
そのような基の1つには、CκドメインのVal26(Kabat番号:Val133)およびPhe11(Kabat番号:Phe118)、ならびにCH1ドメインのLeu11(Kabat番号:Leu124)が含まれる。例えば、これらのアミノ酸の1つがAlaで置換されると、Cκ/CH1対合が破壊され得る。別の例の基には、CκのGln17(Kabat番号:124)とCH1のPhe9(Kabat番号:122)が含まれる。
【0008】
ただし、これらの界面残基での特定の変異により対合が復元され得、これは、例においても示されている。そのような例の1つは、Val26Trp(Cκ)とLeu11Trp(CH1)である。さらなる例を、表1および表2に示す。
【0009】
一実施形態では、L11W置換体を含むヒトCH1断片と、V26W置換体を含むヒトCκ断片とを備える抗体またはその抗原結合断片が提供される。そのような抗体または断片は、野生型パートナへの結合をさらに低減する、および/または置換された断片間の結合を増強する追加の置換体を任意に含み得る。
【0010】
例えば、置換体の追加の対は、CH1のK101EとCκのD15KまたはD15H(D15K/H)であり得る。置換体の別の対は、CH1のK96DとCκのE16Rである。さらに別の対の例は、CH1のK96EとCκのE16Kである。したがって、いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片が提供され、ここで、CH1断片が置換体L11WおよびK101Eを含み、Cκ断片が置換体V26WおよびD15K/Hを含む;CH1断片が置換体L11WおよびK96Dを含み、Cκ断片が置換体V26WおよびE16Rを含む;CH1断片が置換体L11WおよびK96Eを含み、Cκ断片が置換体V26WおよびE16Kを含む;または、CH1断片が置換体L11WおよびK96Eを含み、Cκ断片が置換体V26WおよびE16Rを含む。
【0011】
一実施形態では、Cκ/CH1対を備える抗体またはその抗原結合断片が提供され、CκおよびCH1断片は、(a)Cκの26WとCH1の11Kおよび28N;(b)Cκの11Wおよび26GとCH1の11W;(c)Cκの26WとCH1の11W;(d)Cκの17RとCH1の9D;(e)Cκの17KとCH1の9D;ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸残基を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、第2のCκ/CH1対をさらに備える。第2のCκ/CH1対は、野生型であり得るまたは変異基を有し得る。変異基は、第1のCκ/CH1対と同じであってよいが、対の間で不整合が発生しないように異なっていることが好ましい。
【0013】
本開示の別の実施形態は、V26位および/またはF11位にアミノ酸修飾を含むCκドメインと、Leu11位にアミノ酸修飾を含むCH1ドメインとを備える抗体またはその抗原結合断片を提供するものであり、CκドメインがCH1ドメインと対合すると、修飾アミノ酸が相互作用する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片が提供され、Cκドメインは野生型CH1ドメインと相互作用せず、CH1ドメインは野生型Cκドメインと相互作用しない。いくつかの実施形態では、修飾アミノ酸は表1から選択される。
【0014】
別の実施形態は、Q17位にアミノ酸修飾を含むCκドメインと、F9位にアミノ酸修飾を含むCH1ドメインとを備える抗体またはその抗原結合断片を提供するものであり、CκドメインがCH1ドメインと対合すると、修飾アミノ酸が相互作用する。いくつかの実施形態では、Cκドメインは野生型CH1ドメインと相互作用せず、CH1ドメインは野生型Cκドメインと相互作用しない。いくつかの実施形態では、修飾アミノ酸は、表2から選択される。
【0015】
また、いくつかの実施形態では、第1のCκ/CH1対および第2のCκ/CH1対を備える二重特異性抗体が提供され、第1の対のCκおよびCH1断片は、(a)Cκの26WとCH1の11Kおよび28N;(b)Cκの11Wおよび26GとCH1の11W;(c)Cκの26WとCH1の11W;(d)Cκの17RとCH1の9D;(e)Cκの17KとCH1の9D、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、第2の対のCκおよびCH1断片は野生型であるか、または(a)から(e)から選択されるアミノ酸残基の異なるセットを備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】CκドメインとCH1ドメインとの対(1CZ8から)の結晶構造を示し、それらの相互作用を示す図である(水素結合に関与する残基はピンク色、塩橋は黄色に着色されており、疎水性相互作用残基は青色または緑色に着色された棒状のものである)。
【0017】
【
図2】ドメイン間の相互作用を維持するのに重要であり得るCκおよびCH1ドメイン内のいくつかの残基を示す図である。
【0018】
【
図3】異なる相互作用のアミノ酸対におけるala/trp変異の還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【0019】
【
図4A】実施例3で解析した様々な変異対の還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【
図4B】実施例3で解析した様々な変異対の還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【
図4C】実施例3で解析した様々な変異対の還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【
図4D】実施例3で解析した様々な変異対の還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【0020】
【
図5A】CκドメインとCH1ドメイン間の結合を示す、還元SDS-PAGEを示す写真である。
【
図5B】CκドメインとCH1ドメイン間の結合を示す、非還元SDS-PAGEゲルを示す写真である。
【0021】
【
図6A】一部が変異を含んでいた、抗体の重鎖と軽鎖との間の結合を示すゲル画像である。
【
図6B】一部が変異を含んでいた、抗体の重鎖と軽鎖との間の結合を示すゲル画像である。
【
図6C】一部が変異を含んでいた、抗体の重鎖と軽鎖との間の結合を示すゲル画像である。
【0022】
【
図7A】様々な二重特異性抗体の構造を示す図である。
【
図7B】様々な二重特異性抗体の構造を示す図である。
【
図7C】様々な二重特異性抗体の構造を示す図である。
【
図7D】様々な二重特異性抗体の構造を示す図である。
【0023】
【
図8A】試験された二重特異性抗体の、それぞれの結合標的に対する結合および機能的能力を示すデータを提示する図である。
【
図8B】試験された二重特異性抗体の、それぞれの結合標的に対する結合および機能的能力を示すデータを提示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
「1つの(「a」または「an」)」のエンティティという用語は、そのエンティティの1または複数を指すことに留意されたい。例えば「1つの(「an」)抗体」は、1または複数の抗体を表すと理解される。したがって、1つ(「a」(または「an」))、「1または複数」および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0025】
本明細書で使用する「ポリペプチド」という用語は、単数の「ポリペプチド」および複数の「ポリペプチド」を包含することを意図しており、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直線的に連結されたモノマー(アミノ酸)から構成される分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸のいずれかの1または複数の鎖を指すものであり、生成物の特定の長さを指すのではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の1または複数の鎖を指すのに使用されるその他いずれかの用語は「ポリペプチド」の定義に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらのいずれかの用語の代わりに、またはこれらのいずれかの用語と互換的に使用され得る。用語「ポリペプチド」はまた、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解的切断、または非自然発生アミノ酸による修飾を含む、ポリペプチドの発現後修飾の生成物を指すことを意図している。ポリペプチドは、天然の生物源に由来し得るか、または組換え技術によって生成され得るが、指定された核酸配列から必ずしも翻訳されるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含む任意の方法で生成され得る。
【0026】
細胞、DNAまたはRNAなどの核酸に関して本明細書で使用する「単離された」という用語は、高分子の天然源に存在する、それぞれ他のDNAまたはRNAから分離された分子を指す。本明細書で使用される「単離された」という用語はまた、組換えDNA技術により生成される場合、細胞物質、ウイルス物質、または培地を実質的に含まない核酸またはペプチド、または化学合成される場合、化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない核酸またはペプチドを指す。さらに、「単離された核酸」は、断片として自然発生せず、天然の状態では見られないであろう核酸断片を含むことを意味する。「単離された」という用語はまた、本明細書において、他の細胞タンパク質または組織から単離された細胞またはポリペプチドを指すのに使用される。単離されたポリペプチドは、精製されたポリペプチドと組換えポリペプチドの両方を包含することを意味する。
【0027】
本明細書で使用する場合、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連する「組換え」という用語は、天然には存在しないポリペプチドまたはポリヌクレオチドの形態を意図しており、その非限定的な例は、通常は一緒に発生しないポリヌクレオチドまたはポリペプチドを組み合わせることによって作成され得る。
【0028】
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較のために整列され得る各配列中の位置を比較することによって決定され得る。比較された配列内の位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められている場合、分子はその位置で相同である。配列間の相同性の程度は、配列によって共有される一致する位置または相同の位置の数の関数である。「非関連」または「非相同」配列は、本開示の配列の1つと、40%未満の同一性を共有するが、好ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0029】
ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドまたはポリペプチド領域)が、別の配列に対して一定割合(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)の「配列同一性」を有することは、整列した場合に、2つの配列の比較において塩基(またはアミノ酸)の割合が同じであることを意味する。この整列および割合の相同性または配列同一性は、当技術分野で周知のソフトウェアプログラム、例えば、Ausubel et al. eds. (2007) Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているものを使用して決定され得る。好ましくは、デフォルトのパラメータが整列に使用される。デフォルトのパラメータを使用する1つの整列プログラムはBLASTである。具体的には、プログラムはBLASTNおよびBLASTPであり、以下のデフォルトのパラメータ:遺伝暗号=標準;フィルタ=なし;ストランド=両方;カットオフ=60;期待=10;マトリックス=BLOSUM62;記述=50配列;並べ替え=HIGH SCORE;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIRを使用する。生物学的に同等なポリヌクレオチドは、上記の一定割合の相同性を有し、同じまたは類似の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするものである。
【0030】
「同等の核酸またはポリヌクレオチド」という用語は、核酸またはその補体のヌクレオチド配列とある程度の相同性または配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を指す。二本鎖核酸の相同体は、その補体とまたはその補体とある程度の相同性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むことを意図する。一態様では、核酸の相同体は、核酸またはその補体にハイブリダイズすることができる。同様に、「同等のポリペプチド」は、参照ポリペプチドのアミノ酸配列と、ある程度の相同性または配列同一性を有するポリペプチドを指す。いくつかの態様では、配列同一性は、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%である。いくつかの態様では、同等のポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比較して、1、2、3、4または5つの追加、欠失、置換およびそれらの組み合わせを有する。いくつかの態様では、同等の配列は、参照配列の活性(例えば、エピトープ結合)または構造(例えば、塩橋)を保持する。
【0031】
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシ」の条件下で行われ得る。一般に、低ストリンジェンシのハイブリダイゼーション反応は、約40℃において約10×SSCまたは同等のイオン強度/温度の溶液中で行われる。中程度のストリンジェンシのハイブリダイゼーションは、典型的には約50℃において約6×SSCで行われ、高ストリンジェンシのハイブリダイゼーション反応は、一般に約60℃において約1×SSCで行われる。ハイブリダイゼーション反応はまた、当業者に周知の「生理的条件下」でも行われ得る。生理的条件の非限定的な例は、細胞で通常見られるMg2+の温度、イオン強度、pH、および濃度である。
【0032】
ポリヌクレオチドは、4つのヌクレオチド塩基:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);および、ポリヌクレオチドがRNAの場合、チミンのウラシル(U)の特定の配列で構成されている。したがって、「ポリヌクレオチド配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表記である。このアルファベット表記は、中央処理装置を有するコンピュータのデータベースに入力され、ゲノム機能解析や相同性検索などのバイオインフォマティクスアプリケーションに使用され得る。「多型」という用語は、遺伝子またはその一部の複数の形態の共存を指す。少なくとも2つの異なる形態、すなわち2つの異なるヌクレオチド配列が存在する遺伝子の一部は、「遺伝子の多型領域」と称される。多型領域は単一のヌクレオチドであり得、その同一性は異なる対立遺伝子で異なる。
【0033】
「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドまたはそれらの類似体のいずれかである、任意の長さのヌクレオチドのポリマ形態を指す。ポリヌクレオチドは任意の3次元構造を有し得、既知または未知の任意の機能を実行し得る。ポリヌクレオチドの非限定的な例は以下の通りである:遺伝子または遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマ、ESTまたはSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャRNA(mRNA)、トランスファRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、dsRNA、siRNA、miRNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクタ、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマ。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリヌクレオチドの組み立ての前または後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドはさらに、標識成分を用いた抱合によるなど、重合の後で修飾することができる。この用語はまた、二本鎖および一本鎖分子の両方を指す。特に指定がないまたは必要でない限り、ポリヌクレオチドである本開示の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが既知であるまたは予測される2つの相補的な一本鎖形態の各々との両方を包含する。
【0034】
ポリヌクレオチドに適用される場合の「コードする」という用語は、その本来の状態で、または当業者に周知の方法によって操作された場合に、ポリペプチドを「コードする」と言われるポリヌクレオチドを指し、それを転写および/または翻訳して、ポリペプチドおよび/またはその断片のmRNAを生成することができる。アンチセンス鎖はそのような核酸の相補物であり、コード配列はそこから推定することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「抗体」または「抗原結合ポリペプチド」は、抗原を特異的に認識して結合するポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。抗体は、全抗体および任意の抗原結合断片またはその単鎖であり得る。したがって、「抗体」という用語は、抗原に結合する生物学的活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含む任意のタンパク質またはペプチド含有分子を含む。そのような例には、重鎖または軽鎖またはそのリガンド結合部分の相補性決定領域(CDR)、重鎖または軽鎖可変領域、重鎖または軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、またはその任意の部分、または結合タンパク質の少なくとも一部が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用する「抗体断片」または「抗原結合断片」という用語は、F(ab')2、F(ab)2、Fab'、Fab、Fv、scFvなどの抗体の一部である。構造に関係なく、抗体断片は無傷の抗体によって認識される同じ抗原と結合する。「抗体断片」という用語は、アプタマ、シュピーゲルマ、および二重特異性抗体を含む。「抗体断片」という用語はまた、特定の抗原に結合して複合体を形成することにより抗体のように作用する、任意の合成または遺伝子操作されたタンパク質を含む。
【0037】
「単鎖可変断片」または「scFv」は、免疫グロブリンの重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質を指す。いくつかの態様では、領域は、10から約25アミノ酸の短いリンカーペプチドで接続されている。リンカーは、柔軟性のためにグリシン、溶解性のためにセリンまたはスレオニンを豊富に含むことができ、VHのN末端をVLのC末端に接続することも、その逆も可能である。このタンパク質は、定常領域の除去とリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。ScFv分子は当技術分野で周知であり、例えば米国特許第5,892,019号に記載されている。
【0038】
抗体という用語は、生化学的に区別することができるポリペプチドの様々な広範なクラスを包含する。当業者は、重鎖がガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として分類され、その中にいくつかのサブクラスがある(例えば、γ1からγ4)ことを理解するであろう。この鎖の性質により、抗体の「クラス」はそれぞれIgG、IgM、IgA IgG、またはIgEとして決定される。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgG5などは、十分に特徴付けられており、職能分化をもたらすことが知られている。これらのクラスおよびアイソタイプのそれぞれの修飾バージョンは、本開示を考慮して当業者に容易に識別可能であり、したがって、本開示の範囲内である。すべての免疫グロブリンクラスは明らかに本開示の範囲内にあり、以下の記述は一般に免疫グロブリン分子のIgGクラスを対象とする。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量が約23,000ダルトンの2つの同一の軽鎖ポリペプチド、および分子量が53,000から70,000の2つの同一の重鎖ポリペプチドを含む。4本の鎖は、典型的には、「Y」構成のジスルフィド結合によって接合され、軽鎖は、「Y」の口から始まり、可変領域を通って続く重鎖を囲んでいる。
【0039】
本開示の抗体、抗原結合ポリペプチド、変異体、またはその誘導体には、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト、ヒト化、霊長類化、またはキメラ抗体、単鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab'およびF(ab')2、Fd、Fv、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VKまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリによって生成された断片、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書に開示されるLIGHT抗体に対する抗Id抗体を含む)が含まれるが、これらに限定されない。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)または免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。
【0040】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)のいずれかに分類される。各重鎖クラスは、カッパまたはラムダ軽鎖のいずれかと結合することができる。一般に、軽鎖と重鎖は互いに共有結合し、ハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞によって免疫グロブリンが生成されると、2つの重鎖の「テール」部分が共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合する。重鎖では、アミノ酸配列は、Y構成の分岐した端のN末端から各鎖の最下部のC末端まで続く。
【0041】
軽鎖と重鎖は両方とも、構造的および機能的相同性の領域に分けられる。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。これに関して、軽鎖(VK)および重鎖(VH)部分の両方の可変ドメインが、抗原の認識および特異性を決定することが理解されるだろう。逆に、軽鎖(CK)と重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などの重要な生物学的特性を付与する。従来、定常領域ドメインの番号付けは、それらが抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠位になるにつれて増加する。N末端部分は可変領域、C末端部分は定常領域であり、CH3およびCKドメインは実際にそれぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0042】
上記のように、可変領域により、抗体は抗原上のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合することができる。つまり、抗体のVKドメインとVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットが組み合わさって、3次元の抗原結合部位を画定する可変領域を形成する。この4基からなる抗体構造は、Yの各アームの端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖とVK鎖のそれぞれの3つのCDR(つまり、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3)によって画定される。いくつかの例では、例えばラクダ科の種に由来するか、またはラクダ科の免疫グロブリンに基づいて操作された特定の免疫グロブリン分子では、完全な免疫グロブリン分子は重鎖のみで構成され、軽鎖は含まれない場合がある。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448 (1993)を参照。
【0043】
自然発生の抗体では、抗体が水性環境において三次元形状を呈するため、各抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域」または「CDR」は、抗原結合ドメインを形成するように特異的に配置されたアミノ酸の短い非連続配列である。「フレームワーク」領域と称される、抗原結合ドメイン内の残りのアミノ酸は、分子間変動が少ないことを示す。フレームワーク領域は主にβシート構造を採用し、CDRはループを形成して、βシート構造を接続し、場合によってはその一部を形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間、非共有相互作用により、CDRを正しい方向に配置するための足場を形成するように機能する。配置されたCDRによって形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を画定する。この相補的な表面は、その同族のエピトープへの抗体の非共有結合を促進する。CDRおよびフレームワーク領域をそれぞれ含むアミノ酸は、それらが正確に定義されているので、当業者により、任意の所与の重鎖または軽鎖可変領域について容易に特定することができる("Sequences of Proteins of Immunological Interest," Kabat, E., et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1983); and Chothia and Lesk, J. MoI. Biol., 196:901-917 (1987)を参照)。
【0044】
当該技術分野で使用および/または許容される用語の定義が2つ以上ある場合、本明細書で使用される用語の定義は、そうでないと明確に述べられていない限り、そのような意味をすべて含むものとする。特定の例は、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用であり、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内にある非隣接抗原結合部位を説明する。この特定の領域は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of Proteins of Immunological Interest" (1983) and by Chothia et al., J. MoI. Biol. 196:901-917 (1987)に記載されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。KabatとChothiaによるCDRの定義には、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットが含まれる。それにもかかわらず、抗体またはその変異体のCDRを指すいずれかの定義の適用は、本明細書で定義および使用される用語の範囲内であることが意図されている。上記で引用した参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸残基を、比較として以下の表に示す。特定のCDRを包含する正確な残基数は、CDRの配列とサイズによって異なる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列が与えられれば、どの残基が特定のCDRを含むかを常に決定することができる。
【表1】
【0045】
Kabat等はまた、任意の抗体に適用可能な可変ドメイン配列の番号付けシステムを定義した。当業者は、配列自体を超えるいかなる実験データにも依存することなく、この「Kabat番号付け」のシステムを任意の可変ドメイン配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用する「Kabat番号付け」は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequence of Proteins of Immunological Interest"(1983)に記載される番号付けシステムを指す。
【0046】
上記の表に加えて、Kabat番号付けシステムでは、CDR領域は次のように記載される。CDR-H1は、およそアミノ酸31(すなわち、最初のシステイン残基の後の約9の残基)で開始し、約5から7のアミノ酸を含み、次のトリプトファン残基で終了する。CDR-H2は、CDR-H1の終了後の15番目の残基から開始し、約16から19のアミノ酸を含み、次のアルギニンまたはリジン残基で終了する。CDR-H3は、CDR-H2の終了後の約33番目のアミノ酸残基から開始し、3から25のアミノ酸を含み、配列W-G-X-Gで終了し、ここでXは任意のアミノ酸である。CDR-L1は、およそ残基24(すなわち、システイン残基に続く)から開始し、約10から17の残基を含み、次のトリプトファン残基で終了する。CDR-L2は、CDR-L1の終了後の約16番目の残基から開始し、約7の残基を含む。CDR-L3は、CDR-L2の終了後(すなわち、システイン残基に続く)約33番目の残基から開始し、約7から11の残基を含み、配列FまたはW-G-X-Gで終了し、ここでXは任意のアミノ酸である。
【0047】
他のいくつかの番号付けシステムには、「IMGT番号付け」と「IMGTエクソン番号付け」が含まれる。例えば、定数ドメインCH1とCκの場合、次の表に、IMGTエクソン番号付けシステムとKabat番号付けシステムの相関関係を示す。
CH1のIMGTエクソン番号付けおよびKabat番号付け
【表2】
CκのIMGTエクソン番号付けおよびKabat番号付け
【表3】
【0048】
本明細書に開示の抗体は、鳥および哺乳動物を含む任意の動物起源に由来し得る。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、またはニワトリの抗体である。別の実施形態では、可変領域は、起源が(例えば、サメ由来の)コンドリクトイド(condricthoid)であり得る。
【0049】
本明細書で使用する「重鎖定常領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中間、および/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらの変異体または断片の少なくとも1つを含む。例えば、本開示で使用するための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH2ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、またはCH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含み得る。別の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示で使用するための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインの全部または一部)を欠く場合がある。上記のように、重鎖定常領域は、自然発生の免疫グロブリン分子とはアミノ酸配列が異なるように修飾され得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0050】
本明細書に開示される抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG1分子に由来するCH1ドメインおよびIgG3分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、一部はIgG1分子に由来し、一部はIgG3分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、一部はIgG1分子に由来し、一部はIgG4分子に由来するキメラヒンジを含み得る。
【0051】
本明細書で使用する「軽鎖定常領域」という用語は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。好ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインのうちの少なくとも1つを含む。
【0052】
「軽鎖-重鎖対」は、軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとの間のジスルフィド結合を介して二量体を形成し得る軽鎖および重鎖の集合を指す。
【0053】
前述のように、様々な免疫グロブリンのクラスの定常領域のサブユニット構造と3次元構造が周知である。本明細書中で使用する用語「VHドメイン」は、免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変ドメインを含み、用語「CH1ドメイン」は、免疫グロブリン重鎖の最初の(最もアミノ末端)定常領域ドメインを含む。CH1ドメインはVHドメインに隣接し、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域のアミノ末端である。
【0054】
本明細書で使用する「CH2ドメイン」という用語は、例えば、従来の番号付けスキーム(残基244から360、Kabat番号付けシステム;および残基231から340、EU番号付けシステム)を使用して、抗体の約残基244から残基360まで延びる重鎖分子の一部を含む(Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of Proteins of Immunological Interest" (1983)を参照)。CH2ドメインは、他のドメインと密接に対合されていないという点で独特のものである。どちらかといえば、無傷の天然IgG分子の2つのCH2ドメインの間に2つのN結合分岐炭水化物鎖が挿入されている。また、CH3ドメインがCH2ドメインからIgG分子のC末端まで延びており、約108の残基を含むことも十分に立証されている。
【0055】
本明細書で使用する「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに接合する重鎖分子の一部を含む。このヒンジ領域は約25の残基で構成されており、柔軟性があるため、2つのN末端抗原結合領域は独立して移動可能である。ヒンジ領域は、上部、中間、下部のヒンジドメインの3つの個別のドメインに分割され得る(Roux et al., J. Immunol 161:4083 (1998))。
【0056】
本明細書で使用する「ジスルフィド結合」という用語は、2つの硫黄原子間に形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、第2のチオール基とジスルフィド結合を形成できるかまたは架橋できるチオール基を含む。自然発生のほとんどのIgG分子では、CH1領域とCK領域はジスルフィド結合によって連結され、2つの重鎖は、Kabat番号付けシステム(位置226または229、EU番号付けシステム)を使用して239および242に対応する位置で2つのジスルフィド結合によって連結される。
【0057】
本明細書で使用する「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性領域または部位が第1の種から取得されるまたは由来し、定常領域(本開示に従って無傷、部分的または修飾され得る)が第2の種から取得される任意の抗体を意味すると考えられる。特定の実施形態では、標的結合領域または部位は非ヒト供給源(例えば、マウスまたは霊長類)に由来し、定常領域はヒトである。
【0058】
本明細書で使用する「ヒト化の割合」は、ヒト化ドメインと生殖系列ドメインとの間のフレームワークのアミノ酸の差(すなわち、非CDRの差)の数を決定し、アミノ酸の総数からその数を引いてから、次にそれをアミノ酸の総数で割って、100を掛けることによって計算されたものである。
【0059】
「特異的に結合する」または「特異性を有する」とは一般に、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、および結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間にある程度の相補性を伴うことを意味する。この定義によれば、抗体は、ランダムな無関係のエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープに結合する場合、そのエピトープに「特異的に結合する」と言われる。本明細書で使用する「特異性」という用語は、特定の抗体が特定のエピトープに結合する相対親和性を限定するために使用される。例えば、抗体「A」は、抗体「B」よりも所与のエピトープに対してより高い特異性を有すると見なされ得、または抗体「A」は、関連するエピトープ「D」に対してよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言われ得る。修飾CκおよびCH1ドメイン
【0060】
2つの抗原またはエピトープを標的とする二重特異性抗体(BsAb)は、2つの個別のモノクローナル抗体(mAb)の特異性と特性を単一の分子に組み込む。対合されたVH-Ch1:VL-CL断片が2セット存在する場合、誤対合が発生し得る。2つの個別の抗体に由来するVH-CH1:VL-CL断片の誤対合を回避するために、クロスマブ(Cross-Mab)、一般的な軽鎖、FITIgなどの多くの方法が使用されている。
【0061】
実験例の目的は、誤対合を減らすために、Cκおよび/またはCH1ドメイン、特にヒトのドメインに変異を導入することだった。好ましくは、変異Cκは変異CH1への良好な結合を示し得るが、変異Cκは非変異CH1ドメインに結合しない、または弱い結合を有し、変異CH1は非変異Cκへの弱い結合を示す、または全く示さない。
【0062】
最初に、ヒトのCκとCH1の重要な界面残留物を解析して、5つのホットスポットを発見した。これらの残基の重要性を確認するために、各残基のアラニンまたはトリプトファンへの変異を調製した。CκのGln17(Cκ_Q17)、またはCH1のPhe9(CH1_F9)での変異、およびCκのVal26もしくはPhe11(Cκ_V26_F11)またはCH1のLeu11(CH1_L11)での変異では、軽鎖と重鎖との対合が大幅に減少した。これらの結果により、Cκ_Q17/CH1_F9基(実施例において対1と称される)およびCκ_V26_F11/CH1_L11基(実施例において対2と呼ばれる)がCκとCH1との相互作用に重要であることが確認された。その後、対合を潜在的に復元する可能性のある変異を発現させて解析した。そのような修飾は、CκおよびCH1ドメインの2つの異なる対を有する二重特異性抗体を調製するのに特に有用であり得る。
【0063】
界面残基Cκ_V26_F11/CH1_L11(および任意にL28)の場合、以下の変異がCκドメインとCH1ドメインとの対合を復元できることが示されるか、または考えられる。
[表1]26位および任意に11位におけるCκの変異基、11位および任意に28位におけるCH1の変異基
【表4】
【0064】
同様に、界面残基Cκ_Q17/CH1_F9の場合、以下の変異がCκドメインとCH1ドメインとの対合を復元できることが示される、または考えられる。
[表2]Cκ17/CH1 9の変異基
【表5】
【0065】
実施例7に示すように、野生型CκおよびCH1ドメインの1または複数の既存の塩橋を破壊し、新しいものを再建する追加のアミノ酸置換により、所望の対合特異性をさらに改善することができる。野生型Cκ/CH1対は、CH1_K96とCκ_E16との間、CH1_K101とCκ_D15との間、およびCH1_H51とCκ_D60との間に塩橋を有する。これらの塩橋はそれぞれ、置換に適した部位になり得る。
【0066】
例えば、各塩橋において、正に荷電したアミノ酸(例えば、K、RまたはH)は負に荷電したアミノ酸(例えば、EまたはD)に置換でき、負に荷電したアミノ酸(例えば、EまたはD)は正に帯電したアミノ酸(K、R、またはH)に置換できる。そのような例の1つは、CH1_K101E/Cκ_D15KまたはCκ_D15Hである。別の例はCH1_K96D/Cκ_E16Rである。別の例はCH1_96E/Cκ_E16Kである。別の例は、CH1_H51D/Cκ_D60Kである。これらおよびその他の例を表3に示す。そのような置換された塩橋のそれぞれは、新たなCH1/Cκ対合を調製するために独立して、または本開示に記載されている他の置換体のいずれかに加えて、使用することができる。
[表3]破壊され再建された塩橋
【表6】
【0067】
一実施形態では、開示の抗体またはその抗原結合断片は、置換体L11WおよびK101Eを有するCH1断片ならびに置換体V26WおよびD15K/Hを有するCκ断片を含む。一実施形態では、開示の抗体またはその抗原結合断片は、置換体L11WおよびK96Dを有するCH1断片ならびに置換体V26WおよびE16Rを有するCκ断片を含む。一実施形態では、開示の抗体またはその抗原結合断片は、置換体L11WおよびK96Eを有するCH1断片ならびに置換体V26WおよびE16Kを有するCκ断片を含む。
【0068】
これらの変異基は、相互に結合できる変異CκドメインとCH1ドメインを作製するのに有用であり得る。これらのドメインは、野生型の対応するCH1またはCκドメインに結合できない、または結合が減少している。上記CκおよびCH1ドメインは、抗体または抗原結合断片、特に二重特異性のものに組み込まれ得る。
【0069】
1つのシナリオでは、二重特異性抗体は2つの軽鎖-重鎖対を含む通常のIgG構造を有する。各重鎖はVH、CH1、CH2およびCH3ドメインを含み、各軽鎖はVLおよびCL(例えば、Cκ)ドメインを含む。本開示の一実施形態によれば、Cκ/CH1対のうちの一方は本開示の変異基を含み、他方の対は本開示の変異基を含まない。別の実施形態では、Cκ/CH1対の一方は本開示の変異基を含み、他方の対は異なる変異基を含む。いくつかの実施形態では、対のいずれかまたは両方が2つ以上の変異基(例えば、表1の1つの基および表2の別の基)を含む。
【0070】
別のシナリオでは、二重特異性抗体は、Fc断片のC末端で第2のFab断片のVHのN末端にさらに融合した、通常のIgG構造を有する。上記抗体を、
図7Aに示す。本開示の一実施形態によれば、Fc断片のN末端側のCκ/CH1対またはFc断片のC末端側のCκ/CH1対のいずれかが本開示の変異基を含み、他方の対は本開示の変異基を含まない。さらに、変異基は、Fc断片のNまたはC末端側のCκ/CH1対の両方に含まれ得る。
【0071】
さらに別の実施形態では、二重特異性抗体は、
図7Bに示すような構造を有する。この構造では、重鎖と軽鎖のそれぞれに2セットの連鎖状のCκ/CH1対が含まれる。変異基は、所望の対合が優先される限り、この抗体のどこに配置されてもよい。CH3ドメインに周知のknob-into-holeを有する別の二重特異性抗体を
図7Cに示す。ここで、本開示の変異基は、AおよびBのCκ/CH1対のいずれかまたは両方に挿入され得る。さらに、CH2またはCH3ドメインを有さない他の例を
図7Dに示す。
【0072】
一実施形態では、本開示は、Cκドメインのアミノ酸残基26がTrpであり、CH1ドメインのアミノ酸残基11がTrpである、ヒトCκ/CH1対を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合断片はさらに、第2のCκドメインのアミノ酸残基26がTrpではなく、第2のCH1ドメインのアミノ酸残基11がTrpではない、第2のヒトCκ/CH1対を含む。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合断片はさらに、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、Fc領域、またはそれらの組み合わせを含む。
【0073】
別の実施形態では、本開示は、Val26位および/またはPhe11位にアミノ酸修飾を含むヒトCκドメイン、ならびにLeu11位にアミノ酸修飾を含むヒトCH1ドメインを含む、抗体またはその抗原結合断片を提供し、CκドメインがCH1ドメインと対合すると修飾アミノ酸が相互作用する。いくつかの実施形態では、アミノ修飾は、ヒトIgGのCκおよびCH1ドメインと比較したものである。いくつかの実施形態では、修飾アミノ酸は表1から選択される。
【0074】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片はさらに、第2のCκドメインのアミノ酸残基26がValであり、第2のCH1ドメインのアミノ酸残基11がLeuである、第2のCκ/CH1対を含む。いくつかの態様では、第2のCκドメインのアミノ酸残基11はPheである。
【0075】
別の実施形態において、本開示は、Gln17位にアミノ酸修飾を含むCκドメイン、およびPhe9位にアミノ酸修飾を含むCH1ドメインを含む、抗体またはその抗原結合断片を提供し、CκドメインがCH1ドメインと対合すると修飾アミノ酸が相互作用する。いくつかの実施形態では、アミノ修飾は、ヒトIgGのCκおよびCH1ドメインと比較したものである。いくつかの実施形態では、修飾アミノ酸は、表2から選択される。
【0076】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片はさらに、第2のCκドメインのアミノ酸残基17がGlnであり、第2のCH1ドメインのアミノ酸残基9がPheである、第2のCκ/CH1対を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、本開示は、表1の変異基または表2の変異基を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、表1の変異基および表2の変異基を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片はさらに、表3の変異基を含む。
【0078】
抗体またはその抗原結合断片は、任意の周知のクラスの抗体であり得るが、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含むクラスIgGであることが好ましい。抗体またはその断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体であり得る。二重特異性/二官能性分子
【0079】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体が提供される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、腫瘍抗原または微生物に対して第1の特異性を有する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、免疫細胞に対して第2の特異性を有する。
【0080】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、食細胞、ナチュラルキラー細胞、好酸球、好塩基球、およびマスト細胞からなる群から選択される。標的となり得る免疫細胞上の分子には、例えば、CD3、CD16、CD19、CD28、およびCD64が含まれる。その他の例には、PD-1、CTLA-4、LAG-3(CD223とも称される)、CD28、CD122、4-1BB(CD137とも称される)、TIM3、OX-40またはOX40L、CD40またはCD40L、LIGHT、ICOS/ICOSL、GITR/GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVMまたはBTLA(CD272とも称される)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、およびCD47が含まれる。二重特異性の具体例には、PD-L1/PD-1、PD-L1/LAG3、PD-L1/TIGIT、およびPD-L1/CD47が含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞で産生される抗原性物質であり、すなわち、それは宿主において免疫応答を誘発する。腫瘍抗原は腫瘍細胞の特定に有用であり、癌治療の使用における潜在的な候補である。体内の正常なタンパク質は抗原性ではない。しかし、特定のタンパク質は腫瘍形成中に産生または過剰発現されるため、体からは「外来」のように見なされる。これには、免疫系から隔離された正常なタンパク質、通常は非常に少量で産生されるタンパク質、通常は発生の特定の段階でのみ産生されるタンパク質、または変異により構造が修飾されるタンパク質が含まれ得る。
【0082】
豊富な腫瘍抗原が当技術分野で周知であり、スクリーニングによって新しい腫瘍抗原を容易に特定することができる。腫瘍抗原の非限定的な例には、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAP、およびテネイシンが含まれる。
【0083】
抗体または抗原結合断片だけを含むわけではない二官能性分子も提供される。腫瘍抗原標的分子として、本書に記載したような、PD-L1に特異的な抗体または抗原結合断片は、任意でペプチドリンカを介して免疫サイトカインまたはリガンドと組み合わされ得る。連結された免疫サイトカインまたはリガンドには、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、GM-CSF、TNF-α、CD40L、OX40L、CD27L、CD30L、4-1BBL、LIGHTおよびGITRLが含まれるが、これらに限定されない。このような二官能性分子は、免疫チェックポイントブロッキング効果と腫瘍部位の局所免疫調節を組み合わせることができる。抗体をコードするポリヌクレオチドおよび抗体を調製する方法
【0084】
本開示はまた、本開示の抗体、その変異体または誘導体をコードする単離されたポリヌクレオチドまたは核酸分子を提供する。本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子上または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、その変異体または誘導体の重鎖および軽鎖可変領域の全体をコードし得る。さらに、本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、その変異体または誘導体の重鎖および軽鎖可変領域の一部をコードし得る。
【0085】
抗体を作製する方法は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載されている。特定の実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチドの可変領域と定常領域の両方が完全にヒトのものである。完全なヒト抗体は、当技術分野で記載され、かつ本書に記載されている技法を使用して作製され得る。例えば、特定の抗原に対する完全なヒト抗体は、抗原投与に応答して上記抗体を産生するように修飾されているが、内因性の遺伝子座を欠損しているトランスジェニック動物に抗原を投与することにより調製され得る。上記抗体を作製するのに使用され得る例示的な技法は、その全体が参照により組み込まれる、米国特許第6,150,584号、同第6,458,592号、同第6,420,140号に記載されている。
【0086】
特定の実施形態では、調製された抗体は、治療される動物、例えばヒトにおいて有害な免疫応答を誘発しない。一実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチド、その変異体、または誘導体は、当技術分野で認識されている技法を使用してそれらの免疫原性を低下させるように修飾される。例えば、抗体は、ヒト化、霊長類化、脱免疫化され得るか、またはキメラ抗体が作製され得る。この種の抗体は、親抗体の抗原結合特性を保持または実質的に保持するが、ヒトにおいては免疫原性が低い非ヒト抗体、典型的にはマウスまたは霊長類抗体に由来する。これは、(a)キメラ抗体を生成するために非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域に移植すること、(b)1または複数の非ヒト相補性決定領域(CDR)の少なくとも一部を、重要なフレームワーク残基の保持の有無にかかわらず、ヒトフレームワークおよび定常領域に移植すること、または(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基を置換することにより、ヒト様部分で「クローキング(cloaking)」することを含む、様々な方法によって達成され得る。上記方法は、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 57:6851-6855 (1984); Morrison et al., Adv. Immunol. 44:65-92 (1988); Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988); Padlan, Molec. Immun. 25:489-498 (1991); Padlan, Molec. Immun. 31:169-217 (1994)、ならびに米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、および同第6,190,370号に開示され、これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0087】
抗体の免疫原性を低下させるために、脱免疫化も使用され得る。本明細書中で使用する用語「脱免疫化」は、T細胞エピトープを修飾するための抗体の改変を含む(例えば、国際出願公開第WO/9852976 A1号および同第WO/0034317 A2号参照)。例えば、開始抗体の可変重鎖配列および可変軽鎖配列が解析され、相補性決定領域(CDR)および他の主要な残基に対する配列内でのエピトープの位置を示す各V領域のヒトT細胞エピトープ「マップ」が作成される。T細胞エピトープマップの個々のT細胞エピトープは、最終的な抗体の活性を改変させるリスクが低い代替的なアミノ酸置換を特定するために解析される。アミノ酸置換の組み合わせを含む一連の代替的な可変重配列および可変軽配列が設計され、これらの配列はその後、様々な結合ポリペプチドに組み込まれる。典型的には、12から24の変異抗体が生成され、結合および/または機能について試験される。次に、修飾可変領域およびヒト定常領域を含む完全な重鎖および軽鎖遺伝子が発現ベクタにクローン化され、その後のプラスミドが全抗体の産生のために細胞株に導入される。次に、抗体は適切な生化学的および生物学的アッセイで比較され、最適な変異体が特定される。
【0088】
本開示の抗原結合ポリペプチドの結合特異性は、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのインビトロアッセイによって決定され得る。
【0089】
あるいは、単鎖ユニットの製造について記載された技法(米国特許第4,694,778号; Bird, Science 242:423-442 (1988); Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 55:5879- 5883 (1988); and Ward et al., Nature 334:544-554 (1989))を、本開示の単鎖ユニットを製造するのに適合させることができる。単鎖ユニットは、アミノ酸架橋を介してFv領域の重鎖断片と軽鎖断片と連結することによって形成され、単鎖融合ペプチドが生成される。E. coli (Skerra et al., Science 242: 1038-1041 (1988))の官能Fv断片を組み立てるための技法も使用可能である。
【0090】
単鎖Fv(scFv)および抗体を製造するために使用することができる技法の例には、米国特許第4,946,778号および同第5,258,498号; Huston et al., Methods in Enzymology 203:46-88 (1991); Shu et al., Proc. Natl. Sci. USA 90:1995-1999 (1993); ならびにSkerra et al., Science 240:1038-1040 (1988)に記載されているものが含まれる。ヒトにおける抗体のインビボ使用およびインビトロ検出アッセイを含むいくつかの用途については、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体を使用することが好ましい場合がある。キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体など、抗体の異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体を製造する方法は、当技術分野で周知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Morrison, Science 229:1202 (1985); Oi et al., BioTechniques 4:214 (1986); Gillies et al., J. Immunol. Methods 125:191-202 (1989);米国特許第5,807,715号、同第4,816,567号、および同第4,816,397号を参照。
【0091】
ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1または複数の相補性決定領域(CDR)およびヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する所望の抗原に結合する非ヒト種抗体に由来する抗体分子である。多くの場合、ヒトフレームワーク領域のフレームワーク残基は、CDRドナー抗体の対応する残基で置換されて、抗原結合を改変させ、好ましくは改善する。これらのフレームワーク置換は、当技術分野で周知の方法によって、例えば、抗原結合に重要なフレームワーク残基を特定するためのCDRとフレームワーク残基との相互作用のモデリング、および特定の位置の異常なフレームワーク残基を特定するための配列比較によって特定される。 (例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Queen et al.,米国特許第5,585,089号; Riechmann et al., Nature 332:323 (1988)を参照)。抗体は、例えば、CDR移植 (欧州特許第239,400号;PCT公開第WO 91/09967号;米国特許第5,225,539号、同第5,530,101号、および同第5,585,089号)、練付け(veneering)または表面再生(欧州特許第592,106号;欧州特許第519,596号; Padlan, Molecular Immunology 28(4/5):489-498 (1991); Studnicka et al., Protein Engineering 7(6):805-814 (1994); Roguska. et al., Proc. Natl. Sci. USA 91:969-973 (1994))、および鎖シャッフリング(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,565,332号)を含む、当該分野で公知の種々の技術を使用してヒト化され得る。
【0092】
完全なヒト抗体は、ヒト患者の治療的処置に特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリを使用するファージディスプレイ法を含む、当技術分野で周知の様々な方法によって製造され得る。その全体がそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,444,887号および同第4,716,111号;ならびにPCT公開第WO98/46645号、同第WO98/50433号、同第WO98/24893号、同第WO98/16654号、同第WO96/34096号、同第WO96/33735号、および同第WO91/10741号も参照。
【0093】
ヒト抗体はまた、機能的内因性免疫グロブリンを発現することはできないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを使用しても製造され得る。例えば、ヒト重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体は、ランダムに、または相同組換えによってマウス胚性幹細胞に導入され得る。あるいは、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子に加えて、ヒト可変領域、定常領域、および多様性領域がマウス胚性幹細胞に導入され得る。マウス重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入とは別に、または同時に非機能性にすることができる。特に、JH領域のホモ接合性欠失は、内因性の抗体産生を防ぐ。修飾された胚性幹細胞を増殖させ、胚盤胞にマイクロインジェクトしてキメラマウスが製造される。次に、キメラマウスを飼育して、ヒト抗体を発現するホモ接合型子孫を生じさせる。トランスジェニックマウスは、選択された抗原、例えば、所望の標的ポリペプチドの全部または一部を用いて通常の方法で免疫化される。抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を使用して、免疫化されたトランスジェニックマウスから得ることができる。トランスジェニックマウスに宿るヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化中に再配置され、その後クラススイッチと体細胞変異を経る。したがって、上記技法を使用して、治療的に有用なIgG、IgA、IgMおよびIgE抗体を製造することが可能である。ヒト抗体を製造するためのこの技術の概要については、Lonberg and Huszar Int. Rev. Immunol. 73:65-93 (1995)を参照のこと。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を製造するためのこの技術および上記抗体を製造するためのプロトコルの詳細な説明については、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、PCT公開第WO98/24893号;同第WO96/34096号;同第WO96/33735号;米国特許第5,413,923号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,569,825号;同第5,661,016号;同第5,545,806号;同第5,814,318号;および同第5,939,598号を参照のこと。さらに、Abgenix社(カリフォルニア州フリーモント)やGenPharm社(カリフォルニア州サンホゼ)などの企業が、上記と同様の技術を使用して、選択された抗原に対するヒト抗体を提供することに従事し得る。
【0094】
選択されたエピトープを認識する完全なヒト抗体は、「ガイド選択(guided selection)」と称される技法を使用しても生成され得る。この方法では、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全なヒト抗体の選択を誘導する。(Jespers et al., Bio/Technology 72:899-903 (1988)。また、参照により全体が組み込まれる米国特許第5,565,332号も参照のこと)。
【0095】
別の実施形態において、所望のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離および配列決定され得る。単離およびサブクローニングされたハイブリドーマ細胞は、上記DNAの好ましい供給源として機能する。単離したら、DNAを発現ベクタに配置し、その後、その発現ベクタを、免疫グロブリンを産生しない大腸菌細胞などの原核もしくは真核宿主細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞にトランスフェクトする。より具体的には、単離したDNA(本明細書に記載されるように合成であり得る)を使用して、参照により本明細書に組み込まれる、Newman et al.,米国特許第5,658,570号(1995年1月25日出願)に記載されるように、抗体製造用の定常および可変領域配列をクローン化することができる。基本的に、これには選択した細胞からのRNAの抽出、cDNAへの変換、およびIg特異的プライマを使用したPCRによる増幅が伴う。この目的において適切なプライマはまた、米国特許第5,658,570号にも記載されている。以下により詳細に説明するように、所望の抗体を発現する形質転換細胞は、免疫グロブリンの臨床的および商業的供給を提供するために、比較的大量に増殖され得る。
【0096】
さらに、通常の組換えDNA技法を使用して、本開示の抗原結合ポリペプチドの1または複数のCDRを、フレームワーク領域内、例えば、ヒトフレームワーク領域に挿入して、非ヒト抗体をヒト化することができる。フレームワーク領域は、自然発生またはコンセンサスフレームワーク領域、好ましくはヒトフレームワーク領域であり得る(例えば、ヒトフレームワーク領域のリストについては、Chothia et al., J. Mol. Biol. 278:457-479 (1998)を参照)。好ましくは、フレームワーク領域とCDRの組み合わせによって生成されるポリヌクレオチドは、所望のポリペプチド、例えばLIGHTの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する抗体をコードする。好ましくは、1または複数のアミノ酸置換がフレームワーク領域内で起こり得、好ましくは、アミノ酸置換により、抗体のその抗原への結合が改善される。さらに、上記方法を使用して、鎖内ジスルフィド結合に関与する1または複数の可変領域システイン残基のアミノ酸置換または欠失を起こさせて、1または複数の鎖内ジスルフィド結合を欠く抗体分子を生成することができる。ポリヌクレオチドに対する他の改変は、本開示に包含され、当技術分野の範囲内である。
【0097】
さらに、適切な抗原特異性のマウス抗体分子の遺伝子を、適切な生物活性のヒト抗体分子の遺伝子と共にスプライシングすることによって、「キメラ抗体」の製造のために開発された技法(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA:851-855 (1984); Neuberger et al., Nature 372:604-608 (1984); Takeda et al., Nature 314:452-454 (1985))が使用可能である。本明細書で使用するキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有するものなど、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。
【0098】
組換え抗体を生成するためのさらに別の非常に効率的な手段が、Newman、Biotechnology 10:1455-1460(1992)によって開示されている。具体的には、この技法により、サルの可変ドメインとヒトの定常配列を含む霊長類化抗体が生成される。この参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、この技法はまた、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる、本発明の譲渡人に譲渡された米国特許第5,658,570号、同第5,693,780号および同第5,756,096号にも記載されている。
【0099】
あるいは、抗体産生細胞株は、当業者に周知の技法を使用して選択および培養され得る。上記技法は、様々な実験室マニュアルや主要な公開物に記載されている。これに関し、以下に説明する本開示での使用に適した技法は、補足を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれるCurrent Protocols in Immunology, Coligan et al., Eds., Green Publishing Associates and Wiley-Interscience, John Wiley and Sons, New York (1991)に記載されている。
【0100】
さらに、限定されないが、アミノ酸置換を起こさせる部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発を含む、当業者に周知の標準的な技法を使用して、本開示の抗体をコードするヌクレオチド配列に変異を導入することができる。好ましくは、変異体(誘導体を含む)が、参照可変重鎖領域、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、可変軽鎖領域、CDR-L1、CDR-L2、またはCDR-L3と比較して、50未満のアミノ酸置換、40未満のアミノ酸置換、30未満のアミノ酸置換、25未満のアミノ酸置換、20未満のアミノ酸置換、15未満のアミノ酸置換、10未満のアミノ酸置換、5未満のアミノ酸置換、4未満のアミノ酸置換、3未満のアミノ酸置換、または2未満のアミノ酸置換をコードする。あるいは、飽和突然変異誘発などにより、変異をコード配列の全部または一部に沿ってランダムに導入することができ、得られた変異体を生物活性についてスクリーニングして、活性を保持する変異体を特定することができる。
【0101】
本開示はまた、医薬組成物を提供する。上記組成物は、有効量の抗体、および許容し得る担体を含む。いくつかの実施形態では、組成物はさらに、第2の抗癌剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)を含む。
【0102】
特定の実施形態では、「医薬上許容し得る」という用語は、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されたか、または動物、より具体的にはヒトでの使用のために米国薬局方または他の一般に認められた薬局方に列挙されていることを意味する。さらに、「医薬上許容し得る担体」は、一般に、無毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、封入材料、または任意の種類の製剤補助剤である。
【0103】
「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。上記医薬担体は、水、および落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物または合成起源のものを含む油などの無菌液体であり得る。医薬組成物が静脈内投与される場合、水は好ましい担体である。生理食塩水および水性デキストロースとグリセロール溶液も、特に注射剤のための液体担体として使用することができる。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、または酢酸塩、クエン酸塩もしくはリン酸塩などのpH緩衝剤も含み得る。ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整するための薬剤も想定される。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとり得る。組成物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤および担体を用いて、坐剤として製剤化され得る。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。適切な医薬担体の例は、参照により本明細書に組み込まれる、E.W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。上記組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体と共に、好ましくは精製された形態の治療有効量の抗原結合ポリペプチドを含む。製剤は、投与方法に適合すべきである。親製剤は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入され得る。
【0104】
一実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、通常の手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合に、組成物はまた、可溶化剤および注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬を含み得る。一般に、成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器中の乾燥凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々にまたは混合して単位剤形で供給される。組成物が点滴により投与される場合、無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む点滴ボトルで行われ得る。組成物が注射により投与される場合、投与前に成分が混合され得るように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0105】
本開示の化合物は、中性または塩の形態として製剤化され得る。医薬上許容し得る塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンで形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンで形成されるものが含まれる。実施例実施例1:4つのFab断片のCκ/CH1界面相互作用の解析
【0106】
この実施例では、Cκ/CH1界面相互作用に関していくつかの抗体のFab断片を解析した。構造1:Fab 1F8のCκおよびCH1の界面相互作用の解析
【0107】
1F8は、ヒトCD47に特異的な抗体から調製されたFab分子である。2017年に、抗CD47 Fab 1F8を有するCD47の複合結晶構造を3.1Aの分解能で実施した(軽鎖は219のアミノ酸を有し、Cκは114から219のアミノ酸を含み、重鎖は220のアミノ酸を有し、CHは119から220のアミノ酸を含む)。
【0108】
このFab断片のCκドメインとCH1ドメインとの間の界面には、CHドメインの合計32の残基およびCκドメインの35の残基がある。1F8には、CHドメインのSer14とGly20との間に連続した残基がある。4NYLと比較して、CH断片のLys16主鎖酸素原子とCκ断片の残基Lys100との間に水素結合がもう1つ形成されている(以下の構造4を参照)。疎水性相互作用は、以下に示す他の構造と同様である。
水素結合(カットオフ距離:3.5Å)
【表7】
注:1.Lys30のNZが回転している限り、CH-Lys30とSer24との間のHDは他の3つの構造で形成され得る。2.他の3つのpdbとは配列が異なるため、CH-Lys16/CK-Lys100とCH-Ser102/CK-Glu106との間に余分なHDが形成される。
1F8のCκとCH1との間の塩橋
【表8】
疎水性界面
【表9】
*水素結合と塩結合に伴う疎水性接触もこの表では除外されている。
【0109】
自由エネルギー偏差解析で、1F8 CH1の一部の残基の、Cκ残基との相互作用が強いことが特定された(以下の表の最初の太字の10の残基を参照)。
1F8 CH1の界面残基:
【表10】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。
【0110】
Cκドメインでは、7の残基が相互作用に関与している可能性がある。
1F8 Cκの界面残基:
【表11】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。構造2:1CZ8のCκおよびCH1の界面相互作用の解析
【0111】
1CZ8(PDB ID 1CZ8)は、VEGFに特異的な抗体から調製されたFab分子である。VEGFとFabの複合結晶構造を、2000年に2.4Aの分解能で実施した。
【0112】
アミノ酸残基は、CHドメインにおいて3つの逆平行βシートを形成し、Cκドメインにおいて4つの逆平行βシートを形成した。これらのβシートは、界面において向かい合わせの形態を形成した。このFab断片のCκドメインとCH1ドメインとの間の界面には、CHドメインの合計28の残基、Cκドメインの30の残基がある。CκドメインとCH1ドメインとの間に3つの水素結合がある。例えば、1CZ8では、CHの残基His51と、Pro54およびLeu57の主鎖酸素原子が、Cκの残基のAsn31、Ser55、およびGln53とそれぞれ、これらの3つの水素結合を形成した。これらの水素結合は、界面の片側に位置する。
【0113】
疎水性相互作用は主に、CHの残基Phe9、Leu11、Phe53、Val68とCκの残基Gln17、Phe11、Val26、Phe69、Val28との間の界面の中心と反対側に位置する。CHの残基Lys96およびLys101のC末端とCκの残基Asp15およびGlu16との間に2つの塩橋が形成され、界面の反対側のCHとCκの複合構造が安定化した(
図1、水素結合に関与する残基はピンク色、塩橋は黄色、疎水性相互作用残基は青色または緑色に着色された棒状のものである)。
水素結合(カットオフ距離:3.5Å)
【表12】
CHとCκとの間の塩橋
【表13】
疎水性界面(カットオフ距離:4Å)
【表14】
CκとCH1との相互作用に最も重要な5の界面残基
【表15】
注:塩橋の残基は除外される。
【0114】
自由エネルギー偏差解析で、1cz8 CH1の一部の残基の、Cκの残基との相互作用が強いことが特定された(以下の表の最初の9の残基を参照(太字))。
界面残基:1cz8 CH1
【表16】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。
【0115】
Cκドメインでは、5の残基が相互作用に関与している可能性がある。
界面残基:1cz8 Cκ
【表17】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。構造3:1L7IのCκおよびCH1の界面相互作用の解析
【0116】
1L7Iは、ErbB2を標的とする周知のFab分子(PDB ID:1L7I)である。この抗ErbB2 Fab2C4の結晶構造を、2002年に1.8Aの分解能で実施した。
【0117】
このFab断片(PDB ID 1L7i)のCκドメインとCH1ドメインとの間の界面には、CHドメインの合計33の残基、Cκドメインの35の残基がある。
【0118】
1L7iの水素結合(カットオフ距離:3.5Å)
【表18】
1L7iのCKとCHとの間の塩橋
【表19】
注:CHのC末端残基Cys103とCys107CKは、ジスルフィド架橋を形成し、他の構造で見られたCHの残基Lys101とCkの残基Asp15との間の塩橋を破壊した。
1L7iの疎水性界面
【表20】
【0119】
自由エネルギー偏差解析で、1L7i CH1の一部の残基の、Cκの残基との相互作用が強いことが特定された(以下の表の最初の12の残基を参照(太字))。
界面残基:1L7i CH1
【表21】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。
【0120】
Cκドメインでは、9の残基が相互作用に関与している可能性がある。
界面残基:1L7i Cκ
【表22】
【表61】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。
構造4:4NYLのCκおよびCH1の界面相互作用の解析
【0121】
研究対象の第4の構造は、TNFαを標的とする周知のFab分子(PDB ID:4NYL)である4NYLだった。アダリムマブのFAB断片の結晶構造は、2014年に2.8Aの分解能で実施した(比較的高いRfree(Rfree=35.8%/R=27.5)で解いた。これは、構造が詳細な解析に適していないことを意味する)。アダリムマブは、TNFaに対する抗体であり、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎の患者、および若年性特発性関節炎の小児の治療に使用される。アダリムマブのFab断片(PDB ID 4NYL)のCκドメインとCH1ドメインとの間の界面には、CH1ドメインの合計24の残基とCκドメインの合計28の残基がある。
【0122】
4NYLは1CZ8と同じ水素結合と疎水性相互作用を有する。C末端のCh残基の欠如により、CHの残基Lys96のC末端とCKの残基Glu15との間に塩橋が1つのみ形成された。
4NYLの水素結合(カットオフ距離:3.5Å)
【表23】
注:解像度の限界により、水媒介水素結合は見つからない。
4NYLのCKとCHとの間の塩橋
【表24】
注:4NYLにはC末端の残基が100から103ないため、CH-Lys101とCK-Asp15との間の塩橋がない。
4NYLの疎水性界面
【表25】
【0123】
自由エネルギー偏差解析で、4NYL CH1の一部の残基の、Cκの残基との相互作用が強いことが特定された(以下の表の最初の9の残基を参照(太字))。
界面残基:4NYL CH1
【表26】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。
【0124】
Cκドメインでは、7の残基が相互作用に関与している可能性がある。
界面残基:4NYL Cκ
【表27】
結合:水素結合または塩橋が形成された場合の結合種類、H:水素結合、S:塩橋ASA:アクセス可能な表面積BSA:埋没表面積DeltaG:エネルギーの変化、正の場合はより多くの疎水性相互作用、負の場合はより多くの親水性相互作用を含む。DeltaGのAbs:DeltaGの絶対値。表はこのキーで分類される。DeltaGの変化が0.5を上回る残基(太字)は、タンパク質の安定化により寄与する残基と見なされ得る。1cz8、4nyl、1l7i、hCD47-1_1F8のCH1_Cκの界面解析
【0125】
上記4つの構造の界面解析には、塩橋、水素結合、疎水性相互作用が含まれる。DeltaGをすべて計算し、アミノ酸をDeltaGによってランク付けした。各構造について、さらに解析するために上位10個の対を選択した。解析は、他の相互作用に関係なく、疎水性相互作用に注目した。次に、上位5つの対をリード候補として選択した。
CH1の配列再コード化
【表28】
【表62】
【表63】
Cκの配列再コード化
【表29】
【表64】
【表65】
【表66】
1cz8,4nyl、1l7iおよび1F8の上位の自由エネルギー残基の要約表
【表30】
最も安定化作用のある残基
【表31】
C
κとCH1との相互作用のための5の重要な界面残基(構造と自由エネルギーに基づく)
【表32】
注:塩橋の残基は除外される実施例2:CκとCH1との相互作用のための重要な界面残基の発見
【0126】
CκとCH1の界面分析に基づいて、この実施例では、CκとCH1との相互作用のための最も重要な界面残基をまとめた(
図2と以下の表4を参照)。
[表4]Cκ/CH1相互作用に影響を与える残基対
【表33】
注:塩橋の残基は除外される
【0127】
上記表から、アラニンまたはトリプトファンの単一変異を使用して、各界面残基の試験を行った。VHおよびVLを含まないIgG(-Fv)を構築し、AlaおよびTrpスクリーニング用に発現させた。変異リストを以下に列挙する。
アラニンのスクリーニング
【表34】
【表67】
トリプトファンのスクリーニング
【表35】
【0128】
図3のSDS-PAGE画像に示すように、対2(Cκ_F11_V26とCH1_L11)において、2つの変異体Cκ_F11A/CH1とCκ_V26A/CH1がCκとCH1との相互作用を大幅に中断し、2つの変異体Cκ_V26W/CH1およびCκ/CH1_L11Wも相互作用を破壊した(
図4A、
図4B、
図4C、
図4D)。変異Cκ/CH1_L11AおよびCκ/CH1_F9A(対1から)も相互作用を破壊した。逆に、変異体Cκ_F9A/CH1、Cκ/CH1_A24FおよびCκ/CH1_A24Lは、CκとCH1との相互作用に影響を与えなかった。これは、対3(Cκ_F9とCH1_A24)がCκとCH1の結合に重要ではないことを示唆している。
【表36】
実施例3:Discovery Studioによる対1の変異対の開発
【0129】
CκとCH1との間の相互作用を維持するのに重要な残基対が特定されたところで、この実施例では、新たな相互作用を確立する変異対の試験を行った。この開発の理論的根拠は、変異体Cκが変異体CH1への良好な結合を示し得ることである。しかし、変異体Cκは野生型CH1には結合しない、または弱く結合し、変異体CH1は野生型Cκへの弱い結合を示す、またはまったく結合しない。対1の変異開発
【0130】
対1の残基はCκ_Q17とCH1_F9である(表4)。Cκ/CH1_033から050のこれらの変異は、発明者によって設計され、解析された。Cκ/CH1_051-066変異対は、この部位のランダムな変異を設計するために、ソフトウェアプログラムDiscovery Studio(DS)によって開発された。以下に示すように、Cκ_Q17とCH1_F9の8つの対が生成された。
【表37】
注:変異エネルギー:変異後のエネルギー差。低い値はより安定していることを意味する。VDW:ファンデルワールス
【表38】
【表68】
【0131】
2つの良好な変異対を以下に示す。
【表39】
実施例4:Discovery Studioによる対2の変異対の開発
【0132】
対2において、アラニン/トリプトファンの単一変異の試験を各界面残基について行った。VHおよびVLを含まないIgG(-Fv)を構築し、AlaおよびTrpスクリーニング用に発現させた。この実施例では、Discovery Studioを使用して、この部位のランダムな変異を設計した。
【0133】
3つの良好な変異対は、以下に示すCκ/CH1_072、Cκ/CH1_079、およびCκ/CH1_107である。
【表40】
対2の変異開発
【0134】
対2の重要な残基は、Cκ_F11_V26とCH1_L11_L28である(表4を参照)。このホットスポットの変異開発の戦略は、変異V26WまたはL11Wを修正することである。この実施例では、Cκ_F11_V26およびCH1_L11_L28の飽和点変異の導入の試験も行った。次に、DSを適用してすべての有力な変異を計算した。
【0135】
戦略I:固定変異V26Wを使用して、ランダムな点変異をCH1_L11_L28に導入した。次に、DSソフトウェアを使用して、この部位にいくつかの変異対を生成した。いくつかの好ましい変異対は以下に示す通りである。
【表41】
【表42】
【表43】
【0136】
戦略2:固定変異L11Wを使用して、ランダムな点変異をCκ_F11_V26に導入した。次に、DSソフトウェアを使用して、この部位にいくつかの変異対を生成した。いくつかの好ましい変異対は以下に示す通りである。
【表44】
【表45】
【表46】
【0137】
戦略3:Cκ_F11_V26およびCH1_L11_L28に飽和点変異を導入した。次に、DSを使用してすべての有力な変異を計算した。以下に示す23の好ましい変異対が生成された。
【表47】
【表69】
【0138】
上記の変異対に基づき、対1において、すべての変異対をSDS-PAGEによって解析した(還元および非還元、
図4A、
図4B、
図4C、
図4D)。対2では、自由エネルギーが最も低いいくつかの有力な変異対を解析用に選択した。すべての変異対のうちで、3つの変異対Cκ/CH1_107がより有力である。結果は、公開された変異対に匹敵し得る。VHおよびVLを含まないIgG(-Fv)を構築し、各変異対において発現させた。変異リストは以下に示す通りである。
【0139】
3つの良好な変異対は、以下に示すCκ/CH1_072、Cκ/CH1_079、Cκ/CH1_107である。
【表48】
【0140】
図5A~
図5BのSDS-PAGEゲル写真に示すように、変異対Cκ_V26W/CH1_L11Wにより、CκとCH1との間の結合が再確立された(Cκ_L28Y_S69W/CH1_H51A_F53Gを対照として使用した)。
【表49】
【表70】
【表71】
実施例5:Discovery Studioによる変異対Cκ_V26W/CH1_L11Wの改善
【0141】
戦略4:固定変異Cκ_V26WおよびCH1_L11Wを使用して、飽和点変異をCκ_F11およびCH1_L28に導入した。次に、DSを使用してすべての有力な変異を計算した。以下に示す23の好ましい変異対が生成された。
【表50】
実施例6:変異対の開発
【0142】
対2において、アラニン/トリプトファンの単一変異の試験を、各界面残基について行った。VHおよびVLを含まないIgG(-Fv)を構築し、AlaおよびTrpスクリーニング用に発現させた。変異リストは以下に示す通りである。
【表51】
【表72】
実施例7:塩橋の改変
【0143】
実施例1のCkとCH1の界面相互作用の解析では、1F8、1CZ8、1L7I、および4NYLのCH1とCkとの間の一般的な塩橋が次の通りであることを示す。
【表52】
【0144】
1F8と1CZ8にはもう1つの塩橋がある。
【表53】
【0145】
したがって、この実施例では、2つの塩橋を有する1F8のCH1とCkに焦点を当て、Discovery Studioを使用して、変異したCH1またはCkと、それらのWT相対物との結合を無効にし、変異したCHとCkと新たな塩橋との結合を再建する新たな塩橋対をCH1とCk内に設計した。
【0146】
塩橋CH1_LYS96およびCk_GLU16の設計以下の表に示すように、2つの対は新たな塩橋でCH1
mutとCk
mutを安定化させることを示した。
CH1:LYS96>ASP変異およびCk:GLU16>ARG変異
CH1:LYS96>GLU変異およびCk:GLU16>ARG変異
【表54】
【0147】
Discovery Studioをさらに使用して、新たなCκ_V26WおよびCH1_L11Wと相乗作用を呈し、変異したCH1またはCkとそれらのWT相対物との結合を無効にし、変異したCHとCκとの間の結合を再構築し得る新たな塩橋を発見した。以下の表に示すように、3つの対がCκ_V26WおよびCH1_L11Wと相乗的にCH1
mutおよびCk
mutを安定化させることが示された。CH1:LEU11>TRP;LYS96>GLU変異とCk:GLU16>LYS;VAL26>TRP変異CH1:LEU11>TRP;LYS96>GLU変異とCk:GLU16>ARG;VAL26>TRP変異CH1:LEU11>TRP;LYS101>GLU変異とCk:ASP15>LYS;VAL26>TRP変異
[表5]CH1_K96/Cκ_E16の変異
【表55】
[表6]CH1_K101/Cκ_D15の変異
【表56】
実施例8:改変された塩橋の試験
【0148】
CH1-CH2-CH3またはCκをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドを構築した。以下に示すように、一部のドメインに変異を導入した。
【0149】
プラスミドは、タンパク質発現のために293F細胞に一時的にトランスフェクトした。タンパク質は、タンパク質Aカラムと抗FLAGアフィニティゲルで精製し、精製したタンパク質をSDS-PAGE(レーンあたり5μg)で解析した。タンパク質Aは重鎖のみに結合するため、軽鎖の密度は重鎖と軽鎖との間の結合の強さを示している。
【0150】
最初のバッチにおいて、13の抗体の試験を行った。これらの抗体に含まれる変異を表7に示す。
[表7]変異を含む試験抗体
【表57】
【0151】
結果を
図6Aに示す。Cκ/CH1_001(野生型)とCκ/CH1_107(CH1のL11WおよびCκのV26W)において、良好な結合が観察された。Cκ/CH1_203には、野生型塩橋(K96-E16)を破壊する陽性から陰性および陰性から陽性の変異対が含まれていた。Cκ/CH1_210(CH1のL11WおよびK96D、ならびにCκのV26WおよびE16R)の結合は、K96DとE16Rとの結合よりも著しく強かった。逆に、各変異鎖はより明らかに野生型相対物に結合することができなかった(Cκ/CH1_208およびCκ/CH1_209を参照)。
【0152】
Cκ/CH1_207、L11WとK96Eを有するCH1、およびE16KとV26Wを有するCκの変異鎖も、変異体内でそれらの野生型相対物よりも多くの結合を示した(Cκ/CH1_205およびCκ/CH1_206を参照)。
【0153】
第2のバッチでは、7の抗体の試験を行った。これらの抗体に含まれる変異を、表8に示す。
[表8]変異を有する試験抗体
【表58】
【0154】
結果を
図6Bに示す。Cκ/CH1_213、L11WとK96Eとを有するCH1、およびE16RとV26Wとを有するCκの変異鎖は、変異体内でそれらの野生型相対物よりも多くの結合を示した(Cκ/CH1_205およびCκ/CH1_206を参照)。
【0155】
第3のバッチでは、15の抗体の試験を行った。これらの抗体に含まれる変異を、表9に示す。
[表9]変異を有する試験抗体
【表59】
【0156】
図6Cに示すように、Cκ/CH1_223(K101E-D15K)とCκ/CH1_224(K101E-D15H)において再建された塩橋は、変異した重鎖と軽鎖との間に強い相互作用をもたらし、それらはそれぞれ個別に、Cκ/CH1_107(CH1のL11WおよびCκのV26W)と比較して、明らかに野生型相対物と結合できなかった。図に示すように、変異体間の強い結合は、L11WとV26Wとの間の疎水性相互作用にも基づく。つまり、疎水性相互作用と新たな塩橋との間の相乗作用により、強い結合と高い特異性がもたらされ、これは多重特異性抗体の設計に役立つ。実施例9:二重特異性抗体の構築
【0157】
軽鎖の不一致に対するCH1/Ck変異の影響をさらに評価するために、CH3ドメインにおけるDE/EE変異を使用することにより、IgGのようなヘテロダイマ二重特異性形式を使用した(J. Biol. Chem. (2017) 292(35) 14706-14717)。PDL1/CD73対を使用して、二重特異性抗体を構築した。
【0158】
PDL1/CD73対の設計を、次の表に示す。
【表60】
【0159】
図8Aに示すように、設計されたすべての対はELISAによるPDL1部分の結合に影響を与えなかったが、CD47の結合能力は損なわれた。B5024Cκ/CH1_207変異(CH1:L11W/K96E;Cκ:E16K/V26W)およびB5023Cκ/CH1_210変異(CH1:L11W/K96D;Cκ:E16R/V26W)は、ELISAによってCD73部分の抗原結合を復元できる。さらに、PDL1シグナリングアッセイおよびCD73酵素活性アッセイは、ELISA結合で同様のパターンを示した(
図8B)。これに関して、すべてのPDL1部分は同様のPDL1拮抗作用を示し、B5024およびB5023のみが有力なCD73拮抗作用を示した。この対では、PDL1の軽鎖によりCD73アームの機能が著しく損なわれたが、CD73軽鎖はPDL1アームにほとんど影響しなかった。Cκ/CH1_207とCκ/CH1_210の変異はどちらもCD73の機能を復元することができ、PDL1アームには影響を与えなかった。これは、CH1/Ck変異が、軽鎖の不一致を防ぎ得ることを示唆している。
【0160】
本開示は、本開示の個々の態様の単一の例示として意図される、記載された特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではなく、機能的に同等である任意の組成物または方法は、本開示の範囲内である。本開示の精神または範囲から逸脱することなく、本開示の方法および組成物において様々な修正および変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内に入るという条件で、本開示の修正および変更をカバーすることが意図されている。
【0161】
この明細書で言及されたすべての出版物および特許出願は、個々の出版物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。