(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/227 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
F16D3/227 G
(21)【出願番号】P 2016189106
(22)【出願日】2016-09-28
【審査請求日】2019-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【氏名又は名称】鳥居 和久
(72)【発明者】
【氏名】松尾 茂寛
(72)【発明者】
【氏名】武川 康昭
【合議体】
【審判長】田村 嘉章
【審判官】内田 博之
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115943(JP,A)
【文献】特開2014-20434(JP,A)
【文献】特開2004-84776(JP,A)
【文献】特開2008-20170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達部材に連結される外側継手部材と、シャフトの端部に連結される内側継手部材を有し、前記外側継手部材と内側継手部材との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成された摺動式等速自在継手において、前記外側継手部材内に、前記内側継手部材に連結された前記シャフトの先端と外側継手部材との間で軸方向に伸縮するコイルばねを設け、前記シャフトの先端に前記コイルばねのシャフト側の端部の内径部を支持するシャフト凸部を設け、前記コイルばねの外側継手部材側の端部に、前記コイルばねの内径部に嵌合する凸部と前記コイルばねの端面に当接するフランジ部とからなる受け部材を装着し、前記シャフト凸部及び前記受け部材の凸部は、いずれも、前記コイルばねの内径寸法φd1に対して締代を有するφD1の平滑円筒部と、この平滑円筒部から先端側に向かって先細りの角度を持つテーパ部とからなり、外側継手部材の内面に、
前記受け部材と対向する球状凹面部を有するエンドプレートを圧入嵌合し、前記受け部材のフランジ部の外面に、前記エンドプレートの球状凹面部に対して接触案内される球状凸面部を設け、前記受け部材を外側継手部材の内面のエンドプレートに押圧させたことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
前記受け部材とエンドプレートの材質が、金属又は樹脂である請求項1記載の摺動式等速自在継手。
【請求項3】
前記球状凸面部の曲率半径が前記球状凹面部の曲率半径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
前記受け部材の球状凸面部の中央に平滑端面部を形成したことを特徴とする請求項3記載の摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される摺動式等速自在継手、より詳しくは、連結すべき駆動軸と従動軸とが角度(作動角)をなした状態でも等速度で回転運動を伝えることができ、かつ駆動軸と従動軸との間で相対的に軸方向移動が可能な摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用自動車や農機トラクタ等の車両の動力伝達系は、例えば、
図11に示すように、一方が駆動軸、他方が従動軸となる二つの動力伝達部材102、102が、所定間隔で離間して非同一直線上に配置されている。
【0003】
この二つの動力伝達部材102、102は、その間に配置したシャフト101の両端をそれぞれ等速自在継手103、103を介して首振り自在に連結されている。
【0004】
従来の等速自在継手103として、
図11~
図14に示す構造のものがある(特許文献1)。
【0005】
この従来の等速自在継手103は、
図11に示すように、左右対称となっているので、右側の等速自在継手103の構造について
図12を参照して説明する。
【0006】
図12は、等速自在継手103を動力伝達部材102に対し取り付ける前、あるいは取り外した状態を示しており、等速自在継手103は、外側継手部材としての外輪104と、内側継手部材としての内輪105と、ボール106と、ケージ107を備えている。
【0007】
外輪104は、大径筒部108と小径筒部109とを同軸上に一体成形した部材であり、小径筒部109は、その内周面に連結すべき動力伝達部材102のスプライン軸111をトルク伝達可能に軸線方向から挿入する嵌合部を有する。この嵌合部の内周面には、スプライン軸111の軸方向に設けた雄スプライン112と係合する雌スプライン110が形成されている。
【0008】
また、外輪104の大径筒部108は、内部に内輪105とボール106とケージ107等を収納した収納空間113を有し、その収納空間113を形成する外輪104の内面には、軸方向に延びる複数本のボール溝114が周方向で等間隔に形成してある。
【0009】
内輪105は、シャフト101を挿入して嵌合する挿入孔を有し、この挿入孔の内周面には、シャフト101の端部外周に形成した雄スプライン115と係合する軸方向に延びた雌スプライン116を形成して連結させている。また、内輪105の挿入孔に挿入したシャフト101が後退して抜け出ないようにする止め輪117を、シャフト101の先端近傍の外周に設けた環状の止め輪溝に装着している。
【0010】
内輪105は球状の外周面つまり外球面を有し、その外球面に軸方向に延びる複数本のボール溝118が周方向で等間隔に形成してある。
【0011】
外輪104のボール溝114と内輪105のボール溝118は対をなし、各対のボール溝114、118によって形成されるトラックに1個のトルク伝達要素としてのボール106が組み込んである。そして、各ボール106はケージ107にて保持される。ケージ107は外・内球面を有し、外球面は外輪104の内面に接触し、内球面は内輪105の外球面と球面接触する。
【0012】
即ち、ボール106が外輪104のボール溝114に沿って転動することで、シャフト101は内輪105・ボール106・ケージ107と一体となって、外輪104に対し軸方向に前後移動可能に構成されている。
【0013】
外輪104の収納空間113に、プレート状の受け部材123が内装され、受け部材123は大径筒部108の内面と小径筒部109の内面を連結する段差面に形成した円環状窪部122に嵌め込んでいる。
【0014】
受け部材123とシャフト101の端部との間には、シャフト101を等速自在継手103(外輪104)に対し後退する方向へ弾発付勢する弾発力付与手段としてのコイルばね121が設けられている。言い換えれば、このコイルばね121によって、等速自在継手103を相手側の動力伝達部材102側へ弾発付勢している。また、このコイルばね121の左側の一端は、内輪105の挿入孔から突出したシャフト101の先端に取り付けてあり、コイルばね121の右側の他端には、キャップ状の当接部材124を取り付けている。当接部材124には凸状球面部126が形成されており、受け部材123にはその凸状球面部126が接触する凹状球面部123aを形成している。そして、コイルばね121によって弾発付勢された当接部材124の凸状球面部126が受け部材123の凹状球面部123aに圧接している。
【0015】
また、外輪104には、内輪105が外輪104からの抜け出さないようにコイルばね121の弾発付勢に対抗する抜止部材130を設けている。この抜止部材130は周方向に開口するC字形リングであり、抜止部材130は大径筒部108の(左側)開口部近傍の内面に形成した嵌込溝に装着してある。
【0016】
次に、二つの動力伝達部材102、102とシャフト101と等速自在継手103、103は、次のようにして連結する。
【0017】
まず、
図12に示すようにシャフト101の端部(両端)に等速自在継手103を付設する。
【0018】
次いで、一方の等速自在継手103の小径筒部109の嵌合部に、片側の動力伝達部材102のスプライン軸111をスライドさせてスプライン軸111の先端が受け部材123に当接するまで挿入する(
図13参照)。
【0019】
次に、動力伝達部材102に取り付けていない(未取付の)他方の等速自在継手103側から取付済の一方の等速自在継手103へ軸方向の押圧力を付与し、それぞれの等速自在継手103、103のコイルばね121、121を圧縮する。
【0020】
詳しくは、未取付側の等速自在継手103に、
図14に示す軸方向Aの押圧力を付与すると、その押圧力は未取付側のコイルばね121、シャフト101を介して、反対の等速自在継手103のコイルばね121へと伝わる。そして、取付済側のコイルばね121は、取り付けた動力伝達部材102から軸方向Aと反対向きの反力を受け、その反力はシャフト101を介して未取付側のコイルばね121へと付与される。つまり、上記押圧力と反力による両側からの軸方向の圧縮力をコイルばね121に付与し、両方のコイルばね121、121を圧縮して、一方の等速自在継手103の先端から他方の等速自在継手103の先端までの全長を動力伝達部材102、102の間隔寸法より短くする。
【0021】
このようにすることで、
図14に示す未取付側の等速自在継手103の先端と、それに対向する動力伝達部材102の先端との間には、隙間Sが生じるようになっている。
【0022】
図14の未取付側の等速自在継手103の嵌合部に、対向する動力伝達部材102のスプライン軸111をスライドしてスプライン軸111の先端が受け部材123に当接するまで挿入して、取付が完了する。そして、
図13に示す取付完了状態において、各等速自在継手103、103と動力伝達部材102、102との嵌め合いは、コイルばね121の弾発力により保持され、また、シャフト101は両端のコイルばね121、121の向かい合う弾発力の釣り合った位置で保持される。
【0023】
図11において、二つの動力伝達部材102、102は同一軸心上に配置されていないため、各等速自在継手103、103を動力伝達部材102、102に取り付けた状態では、シャフト101は動力伝達部材102の軸心に対し傾斜して設けられる。この状態でも、シャフト101とコイルばね121とは同一軸心上に配置されている。また、シャフト101が動力伝達部材102に対し首振りしても、当接部材124が受け部材123の凹状球面部123a上をスムーズに移動するので、シャフト101とコイルばね121は同一軸心上に保持され、常にコイルばね121の弾発力が効果的に発揮される状態が維持されることとなる。
【0024】
このように、特許文献1の等速自在継手103は、シャフト101の端部と外輪104内に配設した受け部材123との間に、コイルばね121を内装しており、コイルばね121と受け部材123等を用いることにより、両端の等速自在継手103間の長さを摺動式に伸縮自在に構成して、所定間隔に離間した二つの動力伝達部材102、102に、容易に取り付けることができるようにしたものである。
【0025】
次に、特許文献2には、
図15及び
図16に示すように、摺動式の等速自在継手103におけるシャフト101の端部と外輪104の内部に内装するコイルばね121の他の組み込み例が開示されている。
【0026】
この従来例の摺動式の等速自在継手103においては、外輪104の大径筒部108内周面と小径筒部109の内周面とを繋ぐ段差面に形成した窪部122に、浅皿状のシールプレート223が嵌合し、このシールプレート223にコイルばね121の一端が装着してある。また、コイルばね121の他端には、浅皿状の軸受部材224が装着されている。この軸受部材224は、シールプレート223側に凸球面状に湾曲した形状となっている。このように形成された軸受部材224のシャフト101側の面には、球状凹面部225を有する。前記シールプレート223と軸受部材224は、それぞれ短筒状の縁部223a、224aを有している。この縁部223a、224a内にコイルばね121の各端部を保持することにより、コイルばね121の軸線と直交方向の移動(芯ずれ)を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】特許第4896670号公報
【文献】特許第4920465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
ところで、特許文献1又は特許文献2の従来の摺動式の等速自在継手103は、コイルばね121の端面あるいは外径部を、プレート状の受け部材123、浅皿状のシールプレート223、あるいは浅皿状の軸受部材224を係合させる構造である。
【0029】
このため、コイルばね121の端面あるいは外径部と、プレート状の受け部材123、浅皿状のシールプレート223、あるいは浅皿状の軸受部材224との組み付け状態が外観上わかり難く、コイルばね121が傾いて不安定な状態で装着される可能性がある。
【0030】
コイルばね121が傾いて不安定な状態で装着されると、前後の移動性能に支障が生じたり、あるいは、コイルばね121の座屈・変形が生じやすくなったりして、受け部材123、シールプレート223、あるいは軸受部材224の耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0031】
また、コイルばね121が、受け部材123、シールプレート223、あるいは軸受部材224から脱落すると、両端の摺動式の等速自在継手103の長さを伸縮自在に弾発付勢することができなくなり、外輪104と駆動軸(あるいは従動軸)のスプライン軸111が外れたり、シャフト101の端面と外輪104の底部やエンドプレートあるいはボール106と抜止部材130とが干渉するなど、等速自在継手103としての本質的機能性を損なう可能性もある。
【0032】
そこで、この発明は、コイルばねを所定位置に安定して介装することができ、しかもその組み付け状態が外観上もわかるようにして、圧縮コイルばねの座屈・変形を緩和し、安定した摺動特性を有する摺動式等速自在継手を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前記の課題を解決するために、この発明は、動力伝達部材に連結される外側継手部材と、シャフトの端部に連結される内側継手部材を有し、前記外側継手部材と内側継手部材との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成された摺動式等速自在継手において、前記外側継手部材内に、前記内側継手部材に連結された前記シャフトの先端と外側継手部材との間で軸方向に伸縮するコイルばねを設け、前記シャフトの先端に前記コイルばねのシャフト側の端部の内径部を支持するシャフト凸部を設け、前記コイルばねの外側継手部材側の端部に、前記コイルばね内径部に嵌合する凸部と前記コイルばね
の端面に当接するフランジ部とからなる受け部材を装着し、前記シャフト凸部及び前記受け部材の凸部は、いずれも、前記コイルばねの内径寸法φd1に対して締代を有するφD1の平滑円筒部と、この平滑円筒部から先端側に向かって先細りの角度を持つテーパ部とからなり、外側継手部材の内面に、前記コイルばねの一方の端面と対面する球状凹面部を有するエンドプレートを圧入嵌合し、前記受け部材のフランジ部の外面に、前記エンドプレートの球状凹面部に対して接触案内される球状凸面部を設け、前記受け部材を外側継手部材の内面のエンドプレートに押圧させたことを特徴とする。
【0034】
前記受け部材とエンドプレートの材質は、金属又は樹脂を適用することができる。
【0035】
前記コイルばねの内径部を支持する前記シャフト凸部の外径面と、前記コイルばねの内径部に嵌合する受け部材の外径面が、円筒部とテーパー部の組み合わせにすることにより、コイルばねの内径部への組付性を改善することが可能である。
【0036】
前記受け部材のエンドプレート側の面に球状凸面部を形成し、この受け部材の球状凸面部を接触案内する球状凹面部をエンドプレートに設け、前記球状凸面部の曲率半径が前記球状凹部の曲率半径よりも小さくすることにより、エンドプレートの球状凹面部に対し、受け部材の球状凸面部を円環状に線接触させることができるので、円滑でかつ安定した摺動運動を行わせることができる。
【0037】
前記受け部材の球状凸面部の中央に平滑端面部を形成することにより、受け部材の球状凸面部とエンドプレートの球状凹面部の接触面積を少なくし、円滑な摺動運動を行わせることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、この発明によると、コイルばねの両端をシャフト凸部の外径面と受け部材の凸部の外径面によって支持することにより、コイルばねが所定位置に安定して介装することが可能であり、組付状態が外観上も確認することできるので、コイルばねがシャフト凸部あるいは受け部材から脱落することがなくなり、摺動式等速自在継手の長さを伸縮自在に弾発付勢することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明の摺動式等速自在継手を両端に設けたプロペラシャフトを示す断面図である。
【
図3】
図1の摺動式等速自在継手を分解した組立前の状態を示す断面図である。
【
図4】
図1の摺動式等速自在継手の組立途中の状態を示す断面図である。
【
図5】
図1の摺動式等速自在継手のコイルばねを圧縮させて動力伝達部材を装着する状態を示す断面図である。
【
図6】
図1の摺動式等速自在継手のシャフト端部の拡大図である。
【
図7】
図1の摺動式等速自在継手のコイルばねの拡大図である。
【
図8】
図1の摺動式等速自在継手の受け部材の拡大図である。
【
図9】
図1の摺動式等速自在継手の外輪の窪部に嵌合されるエンドプレートの拡大断面図である。
【
図10】
図1の摺動式等速自在継手の外輪の拡大断面図である。
【
図11】従来の摺動式等速自在継手を両端に設けたプロペラシャフトを示す断面図である。
【
図12】
図11の摺動式等速自在継手に動力伝達部材を取付けていない状態を示す断面図である。
【
図13】
図11の摺動式等速自在継手に動力伝達部材を取付けた状態を示す断面図である。
【
図14】
図11の摺動式等速自在継手のコイルばねを圧縮させて動力伝達部材を装着する状態を示す断面図である。
【
図15】従来の他の摺動式等速自在継手に動力伝達部材を取付けた状態を示す断面図である。
【
図16】
図15の摺動式等速自在継手のコイルばねを圧縮させて動力伝達部材を装着する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0041】
この発明は、
図1に示すように、乗用自動車や農機トラクタ等の車両に使用される動力伝達系、例えばプロペラシャフトに用いられる摺動式等速自在継手3、3に係り、一方が駆動軸、他方が従動軸となる二つの動力伝達部材2、2の間に配置したシャフト1の両端を、動力伝達部材2、2のそれぞれに首振り自在に連結するものである。
【0042】
このシャフト1の両端に連結される一対の摺動式等速自在継手3、3は、互いに同様の構造(対称)となっているので、シャフト1の片端側の摺動式等速自在継手3について説明する。
【0043】
図2に示すように、この発明の摺動式等速自在継手3は、外輪4と、内輪5と、トルク伝達部材としてのボール6と、保持器7を備えている。
【0044】
外側継手部材としての外輪4は、大径筒部8と小径筒部9とを同軸上に一体形成した部材である。小径筒部9の内周面には、軸線方向に延びる雌スプライン溝10が形成され、動力伝達部材2のスプライン軸11の外周面には、この雌スプライン溝10と係合する雄スプライン溝12が形成されている。つまり、動力伝達部材2と外輪4は、軸線方向にスライドして着脱自在に構成されている。
【0045】
外輪4の大径筒部8は、その内部に内輪5とボール6と保持器7等を収納することができる収納空間13を有し、大径筒部8の内周面には、軸線方向に延びる複数本のボール溝14を周方向に等間隔に形成している。また、大径筒部8の開口端とシャフト1の間には、ゴム製等のブーツ20がブーツバンド20a、20bよって装着されている。
【0046】
内側継手部材としての内輪5は、その内周面にシャフト1の端部外周面に形成した雄スプライン溝15と係合する軸線方向に延びた雌スプライン溝16が形成されている。そして、内輪5の内方に挿入したシャフト1の先端近傍には、シャフト1が内輪5から抜け出ないようにするための止め輪17が装着されている。
【0047】
また、内輪5の外周面には、軸線方向に延びる複数本のボール溝18が周方向に等間隔に形成されており、内輪5のボール溝18と前記外輪4のボール溝14は、対向して配置される。この内外輪4、5の対向するボール溝14、18によって形成されたトラックには、それぞれ1個のボール6が転動自在に組み込まれている。
【0048】
保持器7は、周方向に等間隔に複数個のポケット19を有する。保持器7は、外輪4と内輪5との間に介装され、各ポケット19にボール6を1個ずつ収容する。保持器7の内周面と内輪5の外周面は球面接触しており、これにより、シャフト1は作動角をとる(角度変位する)ことができる。また、ボール6が外輪4のボール溝14に沿って転動可能となっていることにより、ボール6・シャフト1・内輪5・保持器7は一体となって、外輪4に対し軸線方向に移動する(軸方向変位する)ことができる。すなわち、摺動式等速自在継手3は、外輪4と内輪5との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成されている。
【0049】
また、外輪4の開口端の内周縁には、サークリップ等の止め輪30を装着し、この止め輪30とボール6とが干渉することにより、内輪5やシャフト1等の外輪4からの脱落を防止している。
【0050】
外輪4の収納空間13内には、軸線方向に伸縮可能なコイルばね21によって構成された弾性部材が内装されている。
【0051】
外輪4の大径筒部8内周面と小径筒部9の内周面とを繋ぐ段差面に形成した窪部22には、浅皿状のエンドプレート23が嵌合されている。
【0052】
エンドプレート23は、
図9、図10に示すように、
前記受け部材と対向する球状凹面部23aと、前記窪部22に嵌合する短筒状の縁部23bとからなる(
図3参照)。短筒状の縁部23bの外径寸法φD5は、窪部22の内径寸法φD6よりも大きく形成されており、エンドプレート23が外輪4の窪部22に対して圧入される(
図9、
図10)。
【0053】
コイルばね21のエンドプレート23側の端部には、コイルばね21の内径部に嵌合する受け部材24を装着している(
図1参照)。
【0054】
受け部材24は、
図8及び
図9を参照して説明すると、コイルばね21の内径部に嵌合する凸部25と、コイルばね21の端面に当接するフランジ部26とからなり、フランジ部26の外面に、エンドプレート23の球状凹面部23aに
対向して接触案内される球状凸面部26aを設けている(
図8)。
【0055】
エンドプレート23の球状凹面部23aの曲率半径は、受け部材24の球状凸面部26aの曲率半径よりも大きくすることにより、両者の摺動抵抗を小さくすることが可能である。
【0056】
また、受け部材24の球状凸面部26aは、中央に平滑端面部26bを形成することにより、受け部材24とエンドプレート23との摺動抵抗をより小さくすることが可能である。
【0057】
シャフト1の先端には、コイルばね21の他方の端部の内径部に挿入支持するシャフト凸部27を設けている(
図6)。
【0058】
コイルばね21は、一端の内径部にシャフト1のシャフト凸部27が差し込まれ、他端の内径部に受け部材24の凸部25が差し込まれている(
図4参照)。
【0059】
受け部材24の凸部25は、
図8に示すように、コイルばね21の内径寸法φd1(
図7参照)に対して締代を有するφD1の平滑円筒部25aと、平滑円筒部25aから先端側に向かってθの角度を持つテーパ部25bとからなる。
【0060】
シャフト凸部27の外径面は、
図6に示すように、コイルばね21の内径寸法φd1(
図7参照)に対して締代を有するφD1の平滑円筒部27aと、平滑円筒部27aから先端側に向かってθの角度を持つテーパ部27bとからなる。また、シャフト1の端面には、外径寸法φd2のコイルばね21の端面を受ける大きさの外径寸法φD2の受け面部28を設けている。
【0061】
シャフト凸部27の平滑円筒部27aの径φD1及び受け部材24の凸部25の平滑円筒部25aの径φD1は、コイルばね21の内径寸法φd1に対して締代、即ちφd1<φD1に設定し、コイルばね21とシャフト凸部27及び受け部材24の凸部25を組付けることにより、シャフト凸部27の平滑円筒部27a及び受け部材24の凸部25の平滑円筒部25aにコイルばね21が所定位置に安定して介装することが可能であり、組付状態が外観上もわかるようになる。
【0062】
また、受け部材24のフランジ部26の外径寸法φD4は、外径寸法φd2のコイルばね21の端面を受ける大きさに形成されている。
【0063】
シャフト凸部27の外径面と受け部材24の凸部25の外径面に、テーパ部25b及びテーパ部27bを設けることにより、コイルばね21の内径部への組付性を改善することが可能である。
【0064】
コイルばね21の両端をシャフト凸部27の外径面と受け部材24の凸部25の外径面によって支持することにより、コイルばね21が所定位置に安定して介装することが可能であり、組付状態が外観上もわかる。したがって、コイルばね21がシャフト凸部27あるいは受け部材24から脱落することがなくなり、摺動式等速自在継手3の長さを伸縮自在に弾発付勢することができる。
【0065】
受け部材24とエンドプレート23の材質は、金属または樹脂である。受け部材24とエンドプレート23の両方を金属または樹脂にしてもよいし、一方を金属にし、他方を樹脂にしてもよい。
【0066】
適用する樹脂材料としては、軽量且つ摺動部材として、耐摩擦性・摺動性・寸法安定性に優れるPOM(ポリアセタール)またはPA(ナイロン)が望ましい。
【0067】
また、外輪4の材質は、機械構造用炭素鋼(S53C等)またはクロムモリブデン鋼材(SCM420等)を適用することができ、熱処理として高周波焼入焼戻または浸炭焼入焼戻処理を施す。
【0068】
図1及び
図2の状態では、コイルばね21の弾発付勢によって、受け部材24の球状凸面部26aとエンドプレート23の球状凹面部23aとは互いに圧接している。また、球状凸面部26aの曲率半径は、球状凹面部23aの曲率半径よりも小さく設定されているため、球状凸面部26aと球状凹面部23aとは、円環状に線接触する。
【0069】
なお、コイルばね21は、圧縮した状態で外輪4に内装されている。即ち、ボール6の軸線方向の移動可能範囲、言い換えれば、摺動式等速自在継手3の摺動ストロークの全範囲において、コイルばね21は軸線方向両側へ弾発力を付与可能な状態にある。
【0070】
二つの動力伝達部材が角度(作動角)をなした状態、つまり、作動角0°の状態から、
図1の作動角θの状態となるとき、コイルばね21の先端に装着した受け部材24の球状凸面部26aが、外輪4のエンドプレート23の球状凹面部23a上を摺動する。球状凹面部23aに対し、受け部材24の球状凸面部26aが円環状に線接触することにより、円滑でかつ安定した摺動運動が行われる。一方、コイルばね21は軸線方向に平行に配置され、安定姿勢に保持される。
【0071】
このように、シャフト1が動力伝達部材2に対し首振りしても、コイルばね21は常に安定姿勢に保持されるので、安定したトルク伝達を実現できる。
【0072】
次に、シャフト1の両端に付設した摺動式等速自在継手3を、所定間隔で離間した二つの動力伝達部材に取り付ける方法について説明する。
【0073】
まず、
図3に示すように、内輪5、ボール6及び保持器7を組立て、シャフト1の先端に内輪5が抜け出ないように止め輪17で止め、外輪4の窪部22にエンドプレート23を嵌合する。
【0074】
そして、
図4に示すように、シャフト1の先端のシャフト凸部27に、コイルばね21の一方の端部の内径部を挿入固定すると共に、コイルばね21の他方の端部の内径部に、受け部材24の凸部25を挿入固定し、外輪4の内部に内輪5を装着して摺動式等速自在継手3を組立てる。
【0075】
この後、一方の摺動式等速自在継手3の小径筒部9を、相手側の動力伝達部材2のスプライン軸11に軸線方向にスライドさせて外嵌する(
図2参照)。この状態では、一方の摺動式等速自在継手3の先端から他方の摺動式等速自在継手3の先端までの軸線方向長さは、動力伝達部材2、2相互間の間隔寸法よりも長い。そこで、
図5に示すように、他方の摺動式等速自在継手3に、軸線方向の押圧力Aを付与し、両方の摺動式等速自在継手3内のコイルばね21を圧縮した状態にする。つまり、押圧力Aを付与してコイルばね21を圧縮することで、摺動式等速自在継手3、3の各先端相互間の軸線方向長さを、動力伝達部材2、2相互間の間隔寸法よりも短くすることができる。そして、他方の摺動式等速自在継手3の小径筒部9を、相手側の動力伝達部材2のスプライン軸11に軸線方向にスライドして外嵌し、取付作業を完了する。
【0076】
取付完了状態では、
図1及び
図2に示すように、コイルばね21の弾発付勢によって、摺動式等速自在継手3の外輪4は相手側の動力伝達部材2へ押し当てられ、摺動式等速自在継手3と動力伝達部材2との嵌め合いを保持する。また、シャフト1は両端のコイルばね21、21の向かい合う弾発力の釣り合った位置で保持される。
【0077】
なお、上述の取付方法に限らず、例えば、両側の摺動式等速自在継手3、3をシャフト1側へ押圧して軸線方向に短くし、その後、各摺動式等速自在継手3、3を動力伝達部材2、2に順次ないし同時に外嵌してもよい。
【0078】
また、取付完了した摺動式等速自在継手3を動力伝達部材2から取り外す方法は、上述した取付時の手順と逆手順で行えばよいので説明を省略する。
【0079】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは勿論である。例えば、この発明の摺動式等速自在継手を、シャフトの両端でなく、片端のみに連結してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 :シャフト
2 :動力伝達部材
3 :摺動式等速自在継手
4 :外輪
5 :内輪
6 :ボール
7 :保持器
8 :大径筒部
9 :小径筒部
10 :雌スプライン溝
11 :スプライン軸
12 :雄スプライン溝
13 :収納空間
14 :ボール溝
15 :雄スプライン溝
16 :雌スプライン溝
17 :止め輪
18 :ボール溝
19 :ポケット
20 :ブーツ
20a、20b :ブーツバンド
21 :コイルばね
22 :窪部
23 :エンドプレート
23a :球状凹面部
23b :縁部
24 :受け部材
25 :凸部
25a :平滑円筒部
25b :テーパ部
26 :フランジ部
26a :球状凸面部
26b :平滑端面部
27 :シャフト凸部
27a :平滑円筒部
27b :テーパ部
28 :受け面部
30 :止め輪