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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】グロープラグ
(51)【国際特許分類】
   F23Q 7/00 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
F23Q7/00 605B
F23Q7/00 T
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017018307
(22)【出願日】2017-02-03
(65)【公開番号】P2018124030
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2019-11-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】江尻 誠
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特許第5608292(JP,B2)
【文献】特開2016-075468(JP,A)
【文献】特開2004-191040(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00438097(EP,A1)
【文献】特開2007-298265(JP,A)
【文献】特開平07-190361(JP,A)
【文献】特開2008-235034(JP,A)
【文献】特開平08-278027(JP,A)
【文献】特開2006-125776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23Q 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる有底筒状のチューブと、
前記チューブ内に配置された先端コイル及び後端コイルと、
前記後端コイルの後端と接続する中軸と、を備えるグロープラグであって、
前記先端コイルは、前記先端コイルの先端が前記チューブの先端側に接続されると共にWやMoを主成分とし、
前記後端コイルは、前記後端コイルの先端が前記先端コイルの後端に接続されると共に、前記後端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R1が、前記先端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R2よりも小さく、
前記チューブは、前記チューブの先端から前記先端コイルの軸線方向の中央を取り囲む位置までに設けられたチューブ先端部と、
前記後端コイルの前記後端から前記後端コイルの前記先端を取り囲む位置までに設けられたチューブ後端部と、を備え、
前記チューブ先端部の肉厚Aは0.58mm以上0.62mm以下であると共に前記チューブ後端部の肉厚Bは0.3mm以上であり、且つ、前記チューブ後端部の最小の肉厚B1は前記チューブ先端部の肉厚Aよりも小さく、
前記肉厚B1に対する前記肉厚Aの比A/B1は、A/B1≧1.29を満たすグロープラグ。
【請求項2】
前記チューブは、前記チューブの前記先端から、前記後端コイルの前記先端から1巻き目の巻き終わりを取り囲む位置までの肉厚Cが0.5mm以上である請求項1記載のグロープラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロープラグに関し、特に発熱温度を高温化できるグロープラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮着火方式によるディーゼルエンジン等の内燃機関の補助熱源として用いられるグロープラグは、内燃機関の規制が厳格化される中、発熱温度の高温化が求められている。特許文献1には、チューブ内にコイルが配置されたグロープラグにおいて、発熱温度の高温化の要求に応えるため、FeCrAl合金やNiCr合金よりも高融点のWやMoを主成分とする耐熱金属をコイルに用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/206847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、WやMo等の耐熱金属の抵抗比はFeCrAl合金やNiCr合金の抵抗比に比べて大きいので、上記従来の技術では、所定温度(例えば1000℃)まで上昇させるためにコイルに一定電圧を印加すると、コイルの抵抗が急激に増加して電流値が急激に低下する。ここで、抵抗比とは、「コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比」であり、抵抗比の値が大きくなるほど高温での抵抗値が大きくなる。そして、発熱量は電流値の2乗に比例するので、所定温度まで昇温させ難いという問題点がある。
【0005】
これに対し、耐熱金属からなるコイル(先端コイル)の後端側に、耐熱金属の抵抗比よりも小さい抵抗比のFeCrAl合金やNiCr合金からなる後端コイルを接合することが考えられる。これにより、コイルに電圧を印加すると、コイル全体の抵抗値を過度に増加させることなく、先端コイル及びチューブの先端側を所定温度まで上昇させることができる。
【0006】
ところで、所定温度に昇温したコイルは、所定温度付近(例えば1100℃)で飽和させる必要がある。そのためにコイルの印加電圧を下げることが必要であるが、これによりチューブの先端側に比べて温度の低いチューブの後端側へ熱が移動し、チューブの先端側の温度が一時的に大きく低下し易くなる。その結果、エンジンの燃焼が不安定になったり排気ガスのエミッションが増加したりする問題点がある。
【0007】
これに対し、チューブ全体の肉厚を薄くすることで、チューブの熱容量を小さくでき、チューブの先端側から後端側への熱の移動を抑制できる。しかしながら、チューブ全体の肉厚を小さくすると、酸化消耗により、チューブに貫通孔が形成されるまでの耐久時間が短くなったりチューブが変形したりして、耐久性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、耐久性および発熱温度の高温化を確保しつつ、さらに温度を飽和させるために印加電圧を下げたときの温度低下を抑制できるグロープラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明のグロープラグは、軸線方向に延びる有底筒状のチューブと、チューブ内に配置された先端コイル及び後端コイルと、後端コイルの後端と接続する中軸と、を備える。先端コイルは、先端コイルの先端がチューブの先端側に接続されると共にWやMoを主成分とする。先端コイルの後端に自身の先端が接続される後端コイルは、後端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R1が、先端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R2よりも小さい。チューブは、チューブの先端から先端コイルの軸線方向の中央を取り囲む位置までに設けられたチューブ先端部と、後端コイルの後端から後端コイルの先端までを取り囲む位置までに設けられたチューブ後端部と、を備え、チューブ先端部の肉厚Aは0.5mm以上であると共にチューブ後端部の肉厚Bは0.3mm以上であり、且つ、チューブ後端部の最小の肉厚B1はチューブ先端部の肉厚Aよりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のグロープラグによれば、WやMoを主成分とする先端コイルがチューブの先端側に接続され、先端コイルの後端に、先端コイルの抵抗比R2よりも抵抗比R1が小さい後端コイルが接続されている。これにより、一定電圧を印加したとしても、WやMoを主成分とする先端コイル及びチューブの先端側を所定温度まで上昇させることができ、発熱温度の高温化を確保できる。
【0011】
また、チューブ先端部の肉厚Aを0.5mm以上とし、チューブ後端部の肉厚Bを0.3mm以上としている。これにより、チューブ後端部、及び、チューブ後端部に比べて温度が上昇するチューブ先端部のそれぞれに対して、酸化消耗によってチューブに貫通孔が形成されるまでの耐久時間の短縮を抑制したり、チューブの変形を抑制したりできる。よって、耐久性を確保できる。
【0012】
さらに、チューブ後端部の最小の肉厚B1をチューブ先端部の肉厚Aよりも小さくしている。これにより、チューブ後端部(最小の肉厚B1を形成する部位)の単位長さ当たりの熱容量をチューブ先端部の単位長さ当たりの熱容量より小さくできる。その結果、印加電圧を下げたときに、チューブ先端部からチューブ後端部へ移動する熱量を抑制できる。よって、コイルの温度を飽和させるためにコイルの印加電圧を下げたときでも、チューブの先端側の温度低下を抑制できる。
【0013】
なお、「WやMoを主成分」とは、コイル材料の全体含有量に対するW又はMoの合計含有量が50wt%以上であることをいう。
【0014】
また、「チューブ先端部」は、コイルが発熱した際に、他の部位に比べて高温となるチューブの部位を示し、具体的には、「チューブの先端から先端コイルの軸線方向の中央を取り囲む位置までに設けられた部位」を示す。一方、「チューブ後端部」は、チューブ先端部に比べて温度が低く、チューブ先端部から熱が移動し易い部位を示し、具体的には、「後端コイルの後端を取り囲む位置から後端コイルの先端を取り囲む位置までに設けられた部位」を示す。
【0015】
さらに、「チューブ先端部の肉厚A」及び「チューブ後端部の肉厚B」は、それぞれ「チューブ先端部の全部位における肉厚」及び「チューブ後端部の全部位における肉厚」であることを示す。「チューブ後端部の最小の肉厚B1」は、「チューブ後端部の全部位における肉厚(つまりチューブ後端部の肉厚B)のうち最も小さい肉厚」であることを示す。
【0016】
厚Aは0.7mm以下であると共に、肉厚B1に対する肉厚Aの比A/B1はA/B1≧1.11を満たす。肉厚Aが0.7mm以下であることで、チューブ先端部の単位長さ当たりの熱容量が過大になることを防止できる。これにより短時間でチューブ先端部を所定温度まで昇温させる性能(以下「急速昇温性」と称す)を向上できる。
【0017】
また、肉厚B1に対する肉厚Aの比A/B1はA/B1≧1.11を満たす。これにより、コイルの温度を飽和させるためにコイルの印加電圧を下げたときでも、チューブの先端側の温度低下をより抑制できる。
【0018】
厚Aは0.56mm以上であると共に、比A/B1はA/B1≧1.24を満たす。これにより、請求項2の効果に加え、チューブ先端部の酸化消耗によってチューブに貫通孔が形成されるまでの寿命をより長くできると共に、コイルの温度を飽和させるためにコイルの印加電圧を下げたときのチューブ先端側の温度低下をより抑制できる。
【0019】
厚Aは0.58mm以上0.64mm以下であると共に、比A/B1はA/B1≧1.29を満たす。これにより、チューブ先端部の単位長さ当たりの熱容量に対するチューブ後端部の単位長さ当たりの熱容量をより小さくできるので、印加電圧を下げたときの温度低下の抑制効果、耐久性および急速昇温性をさらに向上できる。
【0020】
厚Aは0.62mm以下である。これにより急速昇温性をさらに向上できる。
【0021】
請求項記載のグロープラグによれば、チューブの先端から、後端コイルの先端から1巻き目の巻き終わりを取り囲む位置までのチューブの肉厚Cが0.5mm以上である。先端コイルで発生する熱は、先端コイルを取り囲むチューブの部位だけでなく、後端コイルの1巻き目を取り囲むチューブの部位にも伝わり易い。そのため、チューブの肉厚Cを0.5mm以上にすることで、請求項1の効果に加え、この部位における耐久性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】グロープラグの片側断面図である。
図2】一部を拡大したグロープラグの断面図である。
図3】グロープラグに印加した電圧と発熱温度との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1及び図2を参照して本発明の一実施の形態におけるグロープラグ10について説明する。図1はグロープラグ10の片側断面図であり、図2は一部を拡大したグロープラグ10の断面図である。図1及び図2では、紙面下側をグロープラグ10の先端側、紙面上側をグロープラグ10の後端側という。
【0024】
図1に示すようにグロープラグ10は中軸20、主体金具30、チューブ40及びコイル50を備えている。これらの部材はグロープラグ10の軸線Oに沿って組み付けられている。グロープラグ10は、ディーゼルエンジンを始めとする内燃機関(図示せず)の始動時などに用いられる補助熱源である。
【0025】
中軸20は円柱形状の金属製の導体であり、コイル50に電力を供給するための部材である。中軸20は先端にコイル50が電気的に接続されている。中軸20は、後端が主体金具30から突出した状態で主体金具30に挿入されている。
【0026】
中軸20は、本実施の形態では、後端部に雄ねじからなる接続部21が形成されている。中軸20は、後端部に、先端側から順に絶縁ゴム製のOリング22、合成樹脂製の筒状部材である絶縁体23、金属製の筒状部材であるリング24、金属製のナット25が組み付けられている。接続部21は、バッテリ等の電源から電力を供給するケーブルのコネクタ(図示せず)が接続される部位である。ナット25は、接続されたコネクタ(図示せず)を固定するための部材である。
【0027】
主体金具30は炭素鋼等により形成される略円筒形状の部材である。主体金具30は、軸線Oに沿って軸孔31が貫通し、外周面にねじ部32が形成されている。主体金具30は、ねじ部32より後端側に工具係合部33が形成されている。軸孔31は中軸20が挿入される貫通孔である。軸孔31の内径は中軸20の外径より大きいので、中軸20と軸孔31との間に空隙が形成される。ねじ部32は、内燃機関(図示せず)に嵌まり合う雄ねじである。工具係合部33は、ねじ部32を内燃機関のねじ穴(図示せず)に嵌めたり外したりするときに用いる工具(図示せず)が関わり合う形状(例えば六角形)をなす部位である。
【0028】
主体金具30は、軸孔31の後端側において、Oリング22及び絶縁体23を介して中軸20を保持する。絶縁体23にリング24が接した状態で中軸20にリング24が加締められることで、絶縁体23は軸方向の位置が固定される。絶縁体23によって主体金具30の後端側とリング24とが絶縁される。主体金具30は、軸孔31の先端側にチューブ40が固定されている。
【0029】
チューブ40は先端41が閉じた金属製の筒状体である。チューブ40は軸孔31に圧入されることで、主体金具30に固定される。チューブ40の材料は、例えばニッケル基合金、ステンレス鋼などの耐熱合金が挙げられる。
【0030】
チューブ40は中軸20の先端側が挿入されている。チューブ40の内径は中軸20の外径より大きいので、中軸20とチューブ40との間に空隙が形成される。シール材26は、中軸20の先端側とチューブ40の後端との間に挟まれた円筒形状の絶縁部材である。シール材26は中軸20とチューブ40との間隔を維持し、中軸20とチューブ40との間を密閉する。コイル50は軸線Oに沿ってチューブ40に収容されている。絶縁粉末60はチューブ40に充填されている。
【0031】
図2に示すように、コイル50は螺旋状に形成されており、通電により発熱する。コイル50は、チューブ40の先端41側の部分に接合された先端コイル51と、中軸20の先端に接合された後端コイル52とを備えている。
【0032】
先端コイル51は、溶接によりチューブ40の先端41の部分に、溶融部(図示せず)を介して先端54(先端コイル51と溶融部との境界)が接合されている。先端コイル51の材料としては、W,Moを主成分とする高融点金属からなる。なお、これらの元素の単体、又は、これらの元素のいずれかを主成分とする合金を先端コイル51として用いることができる。先端コイル51は、後端が溶接によって後端コイル52に接合されている。先端コイル51と後端コイル52との間に、溶接で溶けて溶接金属が固まった溶融部53が形成されている。
【0033】
後端コイル52は溶融部53を介して先端コイル51と直列に接続される部材である。後端コイル52は、先端コイル51の抵抗比R1より小さい抵抗比R2をもつ導電材料で形成されている。後端コイル52の材料としては、例えばFeCrAl合金、NiCr合金などが挙げられる。後端コイル52は軸線O(図1参照)に沿ってチューブ40に収容されており、後端55が溶接により中軸20の先端に接合されている。中軸20は後端コイル52及び先端コイル51を介してチューブ40と電気的に接続されている。
【0034】
絶縁粉末60は電気絶縁性を有し、且つ、高温下で熱伝導性を有する粉末である。絶縁粉末60は、コイル50とチューブ40との間、中軸20とチューブ40との間、コイル50の内側に充填される。絶縁粉末60は、コイル50からチューブ40へ熱を移動させる機能、コイル50とチューブ40との短絡を防ぐ機能、コイル50を振動し難くして断線を防ぐ機能がある。絶縁粉末60としては、例えばMgO、Al等の酸化物粉末が挙げられる。MgO、Al等の酸化物粉末に加え、CaO,ZrO及びSiO,Si等の粉末を添加できる。本実施の形態では、絶縁粉末60は絶縁粉末60の全質量に対してMgO粉末を85質量%以上100質量%未満含有し、Si粉末も含有する。
【0035】
チューブ40は、チューブ先端部43とチューブ後端部46とを備えている。チューブ先端部43は、チューブ40の先端41から先端コイル51の軸線O方向(軸方向)の中央56(先端54の位置と溶融部53の位置とを結ぶ線分の中点)を取り囲む位置42までに設けられた部分である。チューブ後端部46は、後端コイル52の後端55を取り囲む位置44から後端コイル52の先端57(溶融部53の位置)を取り囲む位置45までに設けられた部分である。図2には、チューブ先端部43の範囲(チューブ40の先端41から位置42まで)及びチューブ後端部46の範囲(チューブ40の位置44から位置45まで)が、それぞれ図示されている。
【0036】
そして、本実施の形態では、チューブ先端部43の肉厚Aは0.5mm以上であり、チューブ後端部46の肉厚Bは0.3mm以上であり、且つ、チューブ後端部46の最小の肉厚B1をチューブ先端部43の肉厚Aよりも小さくしている。
【0037】
なお、本実施の形態では、チューブ先端部43及びチューブ後端部46は外径が同一であり、チューブ先端部43の内径をチューブ後端部46の後端側の内径よりも小さくすることにより、チューブ後端部46の最小の肉厚B1がチューブ先端部43の肉厚Aよりも小さくされている。また、チューブ40は、チューブ40の先端41から、後端コイル52の先端57(溶融部53)から1巻き目の巻き終わり58を取り囲む位置47までの部分48の肉厚Cが0.5mm以上に設定されている。
【0038】
次に図3を参照して、グロープラグ10に印加した電圧Vとグロープラグ10の発熱温度Tとの関係を説明する。図3は電圧Vとグロープラグ10の発熱温度Tとの関係を示す模式図である。図3は横軸に時間(秒)をとり、実線は発熱温度Tを示し、破線は電圧Vを示す。
【0039】
グロープラグ10の接続部21と主体金具30との間に電圧Vを印加すると、先端コイル51の抵抗値R及び後端コイル52の抵抗値Rの和R+Rで電圧Vを除した電流Iが、コイル50に流れる。単位時間当たりの先端コイル51の発熱量はR・Iであり、単位時間当たりの後端コイル52の発熱量はR・Iである。
【0040】
コイル50は、後端コイル52の20℃における抵抗値Rが、先端コイル51の20℃における抵抗値Rよりも大きい値に設定されている。常温においてコイル50に流れる電流I(突入電流)を確保し、コイル50を発熱させるためである。
【0041】
後端コイル52は先端コイル51の抵抗比R1よりも小さい抵抗比R2をもつので、コイル50の発熱による温度上昇に伴い、先端コイル51の抵抗値Rが後端コイル52の抵抗値Rよりも大きくなる。その結果、先端コイル51の単位時間当たりの発熱量R・Iを、後端コイル52の単位時間当たりの発熱量R・Iより大きくできる。先端コイル51はW,Moを主成分とする高融点金属により形成されているので、発熱温度Tを高温化できる。これにより、所望する温度(例えば1000℃)まで先端コイル51及びチューブ先端部43の発熱温度Tを昇温させることができる。
【0042】
先端コイル51によって加熱されるチューブ先端部43は肉厚Aが0.5mm以上あるので、酸化消耗によってチューブ先端部43に貫通孔が形成されるまでの耐久時間の短縮を抑制できる。チューブ先端部43よりもチューブ40の後端側に位置するチューブ後端部46はチューブ先端部43よりも発熱温度が低いので、チューブ後端部46の肉厚Bを0.3mm以上にすることで、酸化消耗によってチューブ後端部46に貫通孔が形成されるまでの耐久時間の短縮やチューブ後端部46の変形を抑制できる。W,Moを主成分とする高融点金属により形成された先端コイル51は酸化し易いので、チューブ40に貫通孔が形成されると、先端コイル51が酸化して断線する可能性が高い。チューブ後端部46の変形を抑制しつつ、チューブ先端部43及びチューブ後端部46の貫通孔の形成を抑制することにより、先端コイル51の酸化による断線を抑制することができ、耐久性を向上できる。
【0043】
所望する温度(ここでは1000℃)に発熱温度Tが到達した後、発熱温度Tを安定時の飽和温度(例えば1100℃)にするため、グロープラグ10に印加する電圧Vを低下させる。後端コイル52の発熱量は先端コイル51の発熱量より小さいので、電圧Vを低下させる遷移時に、先端コイル51及びチューブ先端部43の熱量が後端コイル52及びチューブ後端部46へ移動する。その結果、先端コイル51の依存度の高い発熱温度Tが、一時的に温度Dだけ低下する。温度Dが大きくなり発熱温度Tが大きく低下すると、エンジンの燃焼が不安定になったり排気ガスのエミッションが増加したりする。
【0044】
これを防ぐため、グロープラグ10は、チューブ先端部43の肉厚Aよりもチューブ後端部46の最小の肉厚B1を小さくする。これにより、チューブ後端部46(最小の肉厚B1を形成する部位)の単位長さ当たりの熱容量をチューブ先端部43の単位長さ当たりの熱容量よりも小さくできる。その結果、チューブ40の発熱温度Tを飽和状態へ遷移させるために電圧Vを下げたときに、チューブ先端部43からチューブ後端部46へ移動する熱量を抑制できる。よって、発熱温度Tを飽和させるために電圧Vを下げたときの遷移時の温度低下(温度D)を抑制できる。その結果、耐久性および発熱温度Tの高温化を確保しつつ、発熱温度Tを飽和させるために電圧Vを下げたときの温度低下を抑制できる。従って、グロープラグ10はエンジンの燃焼を補助し、始動後のエンジンのアイドル運転を安定化できると共に、排気ガスのエミッションを減少できる。
【0045】
さらに、チューブ後端部46の全部位に対して、少なくとも半分以上の部位の肉厚Bをチューブ先端部43の肉厚Aよりも小さくすることが好ましい(図2参照)。これにより、発熱温度Tを飽和させるために電圧Vを下げたときの温度低下をさらに抑制できる。
【0046】
なお、グロープラグ10は、チューブ40の先端41から、後端コイル52の先端(溶融部53)から1巻き目の巻き終わり58を取り囲む位置47までの部分48の肉厚Cが0.5mm以上に設定されているので、先端コイル51で発生する熱がチューブ40の部分48に伝わっても、部分48におけるチューブ40の耐久性を確保できる。
【0047】
絶縁粉末60はSi粉末を含有するので、絶縁粉末60の全てがMgO粉末の場合に比べて、絶縁粉末60の熱伝導性を悪化させることができる。その結果、絶縁粉末60の熱伝導による先端コイル51の熱放散を抑制できるので、チューブ先端部43の発熱により、突入時の急速昇温性の確保と遷移時の温度低下の抑制とを絶縁粉末60が助長する。
【0048】
グロープラグ10は、例えば、次のようにして製造される。まず、所定の組成を有する抵抗発熱線をコイル状に加工し、先端コイル51及び後端コイル52をそれぞれ製造する。次いで、先端コイル51と後端コイル52との端部同士を溶接により接合し、コイル50とする。次いで、コイル50のうち後端コイル52の後端55を中軸20の先端に接合する。
【0049】
一方、所定の組成を有する金属鋼管をチューブ40の最終寸法よりも大径に形成し、かつ、その先端を他の部分よりも減径させて、先端が開口した先窄まり状のチューブ前駆体を製造する。チューブ前駆体の内部に中軸20と一体となったコイル50を挿入し、チューブ前駆体の先窄まり状の開口部に先端コイル51の先端54を配置する。チューブ前駆体の開口部と先端コイル51の先端54とを溶接によって溶融し、チューブ前駆体の先端部分を閉塞し、内部にコイル50が収容されたヒータ前駆体を形成する。
【0050】
次いで、ヒータ前駆体のチューブ40内に絶縁粉末60を充填した後、チューブ40の後端の開口部と中軸20との間にシール材26を挿入して、チューブ40を封止する。次に、チューブ40が所定の外径になるまでチューブ40にスウェージング加工を施す。
【0051】
次に、スウェージング加工後のチューブ40を主体金具30の軸孔31に圧入固定し、中軸20の後端から主体金具30と中軸20との間にOリング22及び絶縁体23を嵌め込む。リング24で中軸20を加締めてグロープラグ10を得る。
【実施例
【0052】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<サンプルの作成>
Wを主成分とする合金で作られた線径Φ0.20mmの線材を用いて先端コイル51を作成した。同様に、NiCr合金で作られた線径Φ0.38mmの線材を用いて後端コイル52を作成した。溶接により後端コイル52を先端コイル51に接合して、後端コイル52及び先端コイル51が直列に接続されたコイル50を作成した。4端子法により測定されるコイル50の20℃における抵抗値は0.33Ωであった。
【0054】
このコイル50を用いて、図1に示すグロープラグ10とほぼ同様の構造を有するグロープラグを前述のとおりに製造し、表1に示すサンプル1~11におけるグロープラグを得た。表1には、チューブ先端部43の肉厚Aの最大値および最小値、チューブ後端部46の肉厚Bの最大値および最小値(つまり最小の肉厚B1)、及び、肉厚B1に対する肉厚Aの比の範囲を示した。
【0055】
なお、サンプル1~11におけるグロープラグは、チューブ先端部43の外径をΦ3.2mm、チューブ後端部46の外径をΦ4.0mmに設定し、チューブ先端部43及びチューブ後端部46に施すスウェージング加工の加工率を調整することにより、チューブ先端部43の肉厚A及びチューブ後端部46の肉厚Bを種々の値に設定した。なお、サンプル1~11におけるグロープラグは、0.2質量%のSi粉末を含有するMgO粉末を絶縁粉末60とした。
【0056】
【表1】
各サンプルのチューブ40の先端41から軸線O方向に2mm離れたチューブ40の表面の位置にPR熱電対を接合し、チューブ40の先端41付近の温度を測定した。なお、PR熱電対の代わりに放射温度計を用いても良い。
【0057】
チューブ先端部43の肉厚A及びチューブ後端部46の肉厚Bは、サンプル1~11と同じ加工率によってスウェージング加工を施した各サンプルについて、チューブ40の軸線Oを含む断面を顕微鏡で観察して測定した。
【0058】
肉厚Aは、チューブ先端部43のうち、先端41及び先端コイル51の軸線方向(軸方向)の中央56を取り囲む位置42を含み、チューブ先端部43の全長に亘って等間隔に設定した5点(先端41及び位置42以外に3点)の肉厚を測定し、最大値および最小値を特定した。
【0059】
肉厚Bは、後端コイル52の先端57を取り囲む位置45及び後端コイル52の後端55を取り囲む位置44を含み、チューブ後端部46の全長に亘って等間隔に設定した10点(位置44,45以外に8点)の肉厚を測定し、最大値および最小値を特定した。
【0060】
<遷移時の温度低下>
電圧を印加してから2秒後のチューブ40の先端41付近の温度が1000℃になるように、各サンプルの接続部21と主体金具30との間に直流電圧を2秒間印加した後、印加電圧を下げた。このときの印加電圧は、チューブ40の先端41付近の温度が1100℃に飽和する定格電圧とした。印加電圧を下げるとチューブ40の温度は一時的に低下し、時間の経過につれて1100℃の飽和温度に向かって上昇した(図3参照)。チューブ40の最高温度と、印加電圧を下げた遷移時のチューブ40の温度と、の温度差(図3に示す温度D)を測定した。
【0061】
評価は、温度差が30℃未満のサンプルは「A:特に優れている」、温度差が30℃以上50℃未満のサンプルは「B:優れている」、温度差が50℃以上80℃未満のサンプルは「C:良い」、温度差が80℃以上のサンプルは「D:劣る」とした。結果は表1の「遷移時の温度低下」の欄に記した。
【0062】
<急速昇温性>
各サンプルの接続部21と主体金具30との間に11Vの直流電圧を印加し、電圧を印加してから2秒後のチューブ40の先端41付近の温度を測定した。評価は、温度が950℃以上のサンプルは「A:特に優れている」、温度が900℃以上950℃未満のサンプルは「B:優れている」、温度が850℃以上900℃未満のサンプルは「C:良い」、温度が850℃未満のサンプルは「D:劣る」とした。結果は表1の「昇温性」の欄に記した。
【0063】
<耐久性>
電圧を印加してから2秒後のチューブ40の先端41付近の温度が1000℃になるように、各サンプルの接続部21と主体金具30との間に直流電圧を2秒間印加した後、印加電圧を定格電圧まで下げ、その定格電圧を180秒間印加した。定格電圧は、チューブ40の先端41付近の温度が1100℃に飽和する電圧である。その後、チューブ40の先端41付近の温度が常温になるまでチューブ40を120秒間空冷した。これを1サイクルとする試験を500時間(約6000サイクル)行い、チューブ40に貫通孔が形成されることによるコイル50の断線およびチューブ40の変形の有無を評価した。
【0064】
試験開始から500時間経過後もコイル50の断線が生じないサンプルは「A:特に優れている」と評価した。試験開始から300時間(約3600サイクル)経過し500時間より前にコイル50の断線が生じたサンプルは「B:優れている」と評価した。試験開始から100時間(約1200サイクル)経過し300時間より前にコイル50の断線が生じたサンプルは「C:良い」と評価した。試験開始から100時間が経過する前にコイル50の断線が生じたサンプル、又は、試験開始から10時間(約120サイクル)が経過する前にチューブ40が変形したサンプルは「D:劣る」と評価した。結果は表1の「耐久性」の欄に記した。
【0065】
<総合評価>
「耐久性」、小さい「遷移時の温度低下」及び高い「急速昇温性」を満足するグロープラグが望ましい。従って「耐久性」の評価、「遷移時の温度低下」の評価、「急速昇温性」の評価のうち、最も低い評価を表1の「総合」の欄に記した。
【0066】
<結果>
表1に示すように、チューブ先端部43の肉厚Aが0.5mm未満のサンプル1、チューブ後端部46の肉厚Bの最小値(B1)が0.3mm未満のサンプル11は、耐久性が劣る結果であった。サンプル1は、チューブ先端部43の肉厚Aが0.5mm未満なので、酸化消耗により早期にチューブ先端部43に貫通孔が形成され、コイル50が断線した。サンプル11は、チューブ後端部46の肉厚Bの最小値(B1)が0.3mm未満なので、チューブ後端部46が早期に変形した。これに対し、肉厚Aが0.5mm以上、且つ、肉厚Bが0.3mm以上のサンプル2~10は、耐久性の評価はA~Cを満足した。よって、チューブ先端部43の肉厚Aを0.5mm以上、チューブ後端部46の肉厚Bを0.3mm以上とすることにより、耐久性を確保できることが明らかになった。
【0067】
また、チューブ先端部43の肉厚Aがチューブ後端部46の肉厚Bの最小値(B1)よりも小さいサンプル1(つまり、A/B1<1)は、遷移時の温度低下が劣る結果であった。これに対し、チューブ後端部46の肉厚Bの最小値(B1)がチューブ先端部43の肉厚Aの最大値および最小値よりも小さいサンプル2~11は、遷移時の温度低下の評価はA~Cを満足した。よって、肉厚Bの最小値(B1)を肉厚A(最大値)よりも小さくすることにより、遷移時の温度低下を小さくできることが明らかになった。
【0068】
チューブ先端部43の肉厚Aが0.7mm以下であるサンプル1~7,9~11は、肉厚Aが0.7mmよりも大きいサンプル8に比べて急速昇温性が優れていた。よって、サンプル2~7,9,10のように、肉厚Aを0.5mm以上0.7mm以下にし、肉厚Bを0.3mm以上にすることにより、耐久性を確保しつつ急速昇温性を向上できることが明らかになった。急速昇温性の向上は、チューブ先端部43の肉厚Aが薄くなったことにより、チューブ先端部43の単位長さ当たりの熱容量が小さくなり、先端コイル51の発熱によってチューブ先端部43が昇温し易くなったことによると推察される。
【0069】
また、遷移時の温度低下の評価がA~Cのサンプル2~7,9,10は、A/B1≧1.1を満たした。よって、0.5mm≦A≦0.7mm,B≧0.3mm且つA/B1≧1.1を満たすことにより、耐久性、遷移時の温度低下および急速昇温性を共に確保できることが明らかになった。
【0070】
サンプル2~7,9,10のうち、チューブ先端部43の肉厚Aが0.56mm以上0.7mm以下であって、A/B1≧1.24を満たすサンプル3~7,9,10は、遷移時の温度低下の評価、耐久性の評価は共にA又はBを満足した。よって、0.56mm≦A≦0.7mm且つA/B1≧1.24を満たすことにより、遷移時の温度低下をより抑制しつつ耐久性を向上できることが明らかになった。
【0071】
サンプル3~7,9,10のうち、チューブ先端部43の肉厚Aが0.58mm以上0.64mm以下であって、A/B1≧1.29を満たすサンプル4~6,9,10は、遷移時の温度低下の評価、耐久性の評価は共にAを満足し、急速昇温性の評価はA又はBを満足した。よって、0.58mm≦A≦0.64mm且つA/B1≧1.29を満たすことにより、遷移時の温度低下をさらに抑制しつつ耐久性を向上し、加えて急速昇温性を向上できることが明らかになった。
【0072】
サンプル4~6,9,10のうち、チューブ先端部43の肉厚Aが0.58mm以上0.62mm以下であって、A/B1≧1.29を満たすサンプル4,5,9,10は、遷移時の温度低下の評価、耐久性の評価、急速昇温性の評価は全てAを満足した。よって、0.58mm≦A≦0.62mm且つA/B1≧1.29を満たすことにより、遷移時の温度低下を抑制しつつ耐久性を向上し、加えて急速昇温性をさらに向上できることが明らかになった。
【0073】
以上、実施の形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、チューブ40の形状は筒状である限り特に限定されず、軸線Oに直交する断面が円形状、楕円形状、多角形状等であってもよい。
【0074】
上記実施の形態では、チューブ先端部43及びチューブ後端部46は外径が同一であり、チューブ先端部43の内径をチューブ後端部46の内径よりも小さくすることにより、チューブ先端部43の肉厚Aがチューブ後端部46の肉厚Bよりも大きくされる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。実施例のようにチューブ先端部43の外径をチューブ後端部46の外径よりも小さくしたり、チューブ先端部43の外径をチューブ後端部46の外径よりも大きくしたりすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 グロープラグ
20 中軸
40 チューブ
41 先端
43 チューブ先端部
46 チューブ後端部
51 先端コイル
52 後端コイル
O 軸線
図1
図2
図3