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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】パン様食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/04 20170101AFI20220107BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20220107BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220107BHJP
   A21D 2/34 20060101ALI20220107BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A21D13/04
A21D2/18
A21D2/26
A21D2/34
A21D2/36
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017082568
(22)【出願日】2017-04-19
(65)【公開番号】P2018174860
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】福本 拓三
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-199536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0119652(US,A1)
【文献】Lisa,LOW CARB SOUL BREAD REVIEW’、Low Carb Yum、,Internet Archive,2016年12月08日,https://web.archive.org/web/20161208182459/https://lowcarbyum.com/low-carb-soul-bread-review/
【文献】内田麻理香,なぜメレンゲは泡立つのか?,情報・知識&オピニオン,2021年03月10日,https://imidas.jp/science/?article_id=k-051-015-11-04-g385
【文献】Nir Kampf et al.,Effect of two gums on the development, rheological properties and stability of egg albumen foams,Rheol Acta,2003年,42,p259-268
【文献】"Egg White Foam",A thesis presented in partial fulfilment of the requirements for the degree of Master of Food Technology at Massey University, Auckland, New Zealand ,2013年,p52-54, 58, 62, 88-90,https://mro.massey.ac.nz/bitstream/handle/10179/9994/02_whole.pdf
【文献】Lisa,LOW CARB SOUL BREAD REVIEW’、Low Carb Yum、,Internet Archive,2016年12月08日,https://web.archive.org/web/20161208182459/https://lowcarbyum.com/low-carb-soul-bread-review/
【文献】内田麻理香,なぜメレンゲは泡立つのか?,情報・知識&オピニオン,2021年03月10日,https://imidas.jp/science/?article_id=k-051-015-11-04-g385
【文献】Nir Kampf et al.,Effect of two gums on the development, rheological properties and stability of egg albumen foams,Rheol Acta,2003年,42,p259-268
【文献】"Egg White Foam",A thesis presented in partial fulfilment of the requirements for the degree of Master of Food Technology at Massey University, Auckland, New Zealand ,2013年,p52-54, 58, 62, 88-90,https://mro.massey.ac.nz/bitstream/handle/10179/9994/02_whole.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
41重量部以上の卵白、1-3重量部膨張剤、3-10重量部の植物タンパク質(小麦タンパク質を除く)、ならびに0.05-2重量部のキサンタンガムおよび/またはグアーガムを含有する生地原料と、卵黄および5-20重量部の非熟成チーズまたは発酵乳を含有する生地原料とを混合して生地を調製し、焼成する生地への加水量が5重量%以上である、パン様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン様食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、卵、チーズ、ベーキングパウダーを主要原料とするパン様食品が海外より紹介され、そのふわふわとした食感から「クラウドブレッド」として認知され始めている。クラウドブレッドは、独特の食感に加えて、原料に小麦タンパク質を使用していないことによるグルテンフリーも特徴の一つである。
【0003】
作り方は、例えば、(1)クリームチーズと卵黄を混合し、必要に応じて砂糖を加えて混合する、(2)別途、卵白とベーキングパウダーをしっかり泡立てる(メレンゲの調製)、(3)(1)に(2)を少量添加後混合し、さらに(2)で調製した残りのメレンゲを加え、混合して生地を調製し、該生地を160℃程度で焼成する。これに対して、クラウドブレッドの製造方法は、菜種油やサラダ油は使用しない点でシフォンケーキの作り方と異なる。
【0004】
また、シフォンケーキの完成形はふっくらとしているのに対し、クラウドブレッドは一度膨らんだ状態から萎んだ状態が完成形であって、萎むときに表面に形成される独特の皺がある点でもシフォンケーキとは異なる。
【0005】
しかし、シフォンケーキおよびクラウドブレッドのいずれも、製造中に一度膨らませることが重要で、一連の操作は素早く行うことが重要である点は共通である。生地を焼成する前の工程で必要以上に時間を費やすと、生地の膨らみが悪くなったり、十分に膨らむ前に生地が萎んでしまったりして、ふわふわした食感とならないだけでなく、クラウドブレッドでは皺の形成が不十分となってしまう。
【0006】
シフォンケーキおよびクラウドブレッドの個人的製造や少量の工業的製造では、一連の操作を素早く行うことができるので、このようなリスク発生の可能性は比較的低いが、大量製造においては、製造ライン上の生地の移動等に時間がかかることが多く、リスク発生の可能性が高くなる。
【0007】
シフォンケーキの製造では、ネイティブジェランガムを用いてメレンゲの泡を安定させる方法(特許文献1参照)や、特定の粒度の全脂大豆粉を用いること(特許文献2)でしっとりとした食感とする方法等が知られている。しかし、工業的製造において、クラウドブレッドの独特のふわふわとした食感を阻害せず、かつ特徴的な表面の皺を上手く形成できる方法は知られていない。
【0008】
また、個人的製造や少量の工業的製造では原料に水を用いることはほぼないが、工業的大量製造においては生地の分注作業等における作業効率向上のため、生地に加水して生地粘度を下げることがある。しかし、クラウドブレッドのような原料の稀薄な生地では、含水量が多くなると操作中に離水が生じやすくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-165082
【文献】特開2016-67211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ふわふわした食感を有し、かつ小麦タンパク質を用いないパン様食品を工業的規模で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の(1)~(4)に関する。
(1)卵、非熟成チーズもしくは発酵乳、膨張剤、植物タンパク質(小麦タンパク質を除く)もしくは乳タンパク質、ならびにキサンタンガムおよび/またはグアーガムを含有する生地を焼成する、パン様食品の製造方法。
【0012】
(2)卵白、膨張剤、植物タンパク質(小麦タンパク質を除く)もしくは乳タンパク質、ならびにキサンタンガムおよび/またはグアーガムを含有する生地原料と、卵黄および非熟成チーズまたは発酵乳を含有する生地原料とを混合して生地を調製する、上記(1)のパン様食品の製造方法。
【0013】
(3)焼成する生地への加水量が5重量%以上である、上記(1)または(2)のパン様食品の製造方法。
(4)上記(1)~(3)いずれか1つの方法により得られるパン様食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ふわふわした食感を有し、かつ小麦タンパク質を用いないパン様食品を工業的規模で製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のパン様食品の製造に用いられる生地は、卵、非熟成チーズまたは発酵乳、膨張剤、植物タンパク質(小麦タンパク質を除く)もしくは乳タンパク質、ならびにキサンタンガムおよび/またはグアーガムを含有する組成物(以下、本発明における生地ともいう)である。
【0016】
小規模での製造とは異なり、工業的規模での製造を目的とする本願発明においては、必要に応じて生地調製時に加水してもよい。生地に加水する場合、生地100重量部中5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上であって、上限は25重量部以下、好ましくは20重量部以下となるように加水する。
【0017】
本発明に用いられる非熟成チーズとしては、ミルクにレンネットを加えてもしくは加えないで、酸もしくは酸および熱で凝固させた非熟成チーズ(フレッシュチーズ)であればよく、クリームチーズ、カテージチーズ、クワルク、モッツァレラチーズ、マスカルポーネ、フロマージュフレ、リコッタ等があげられるが、クリームチーズが好ましくあげられる。
【0018】
本発明に用いられる発酵乳としては、牛乳、脱脂乳、バターミルク等を乳酸発酵した、ヨーグルト、ケフィール等の酸乳があげられる。また、乳製品、乳等を原料として乳酸菌で発酵させて得られる発酵風味料を用いてもよい。
【0019】
本発明に用いられる膨張剤としては、パン、菓子等に使用できる膨張剤であればいずれでもよく、例えば炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、酒石酸水素カリウム、アンモニウムミョウバン、酒石酸、澱粉等を含有するベーキングパウダーがあげられる。
【0020】
本発明に用いられる植物タンパク質としては、小麦グルテン等の小麦由来タンパク質以外の植物タンパク質であればいずれでもよく、大豆、エンドウ、落花生、小豆、インゲン豆等の豆類、綿実、ゴマ等の油糧種子(大豆、落花生等、一部豆類含む)、米(玄米)由来のタンパク質の他、小麦以外の穀物、例えばトウモロコシ種子由来のタンパク質があげられる。
【0021】
本発明に用いられる乳タンパク質は、乳由来のタンパク質であれば、いずれのタンパク質であってもよい。
本発明のパン様食品の製造方法におけるタンパク質は、上記タンパク質のいずれを用いてもよいが、用いるタンパク質の種類によって、得られるパン様食品の風味や食感が異なる。使用量にもよるが、例えば、米(玄米)由来のタンパク質を用いると「シュー」的な外観のものが得やすく、大豆由来のタンパク質を用いると歯切れのよいものが得やすく、乳タンパク質を用いるとクセのない風味のものが得やすいといった傾向がある。したがって、目的とする風味や食感により、用いるタンパク質は使い分けることが望ましい。
【0022】
また、本発明のパン様食品の製造方法では、「グルテンフリー」とする目的において小麦タンパク質は原則として使用しないが、必要に応じて小麦タンパク質を併用することを排除しない。
【0023】
本発明においては、増粘多糖類としてキサンタンガムおよび/またはグアーガムが用いられるが、必要に応じて、さらにアラビアガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸ナトリウム、アルビノキシラン、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、サイリウムシードガム、ゼラチン、タマリンドシードガム、タラガム、ネイティブ型ジェランガム、プルラン、ペクチン、ローカストビーンガム、寒天、脱アシル型ジェランガム等の増粘多糖類を用いてもよい。
【0024】
本発明における生地は、用いる原料により配合量は若干異なるが、例えば、30~50重量部、好ましくは35~45重量部の卵白、1~3重量部の膨張剤、3~10重量部、好ましくは5~8重量部の植物タンパク質もしくは乳タンパク質、0.05~2重量部、好ましくは0.1~0.2重量部のキサンタンガムおよび/またはグアーガム(必要に応じて他の増粘剤との併用可)、および0~25重量部の水を含有する生地原料(以下、生地原料1という)と、5~20重量部、好ましくは5~15重量部の非熟成チーズまたは発酵乳、および10~30重量部、好ましくは15~25重量部の卵黄を含有する生地原料(以下、生地原料2という)とを混合して調製することができる。
【0025】
一般的なクラウドブレッドの製造では、卵黄とクリームチーズを用いて調製した生地原料に、卵白と膨張剤を用いて調製した生地原料(シフォンケーキではメレンゲに相当。)を少量加えて混合し、これを卵白と膨張剤を用いて調製した生地原料に戻して混合する等の操作(ここでは、戻し操作という)が行われる。これは、メレンゲの泡を潰さないための工夫として行われる操作であって、個人的製造や小規模の工業的製造では比較的容易に行うことができる操作である。
【0026】
しかし、本発明のパン様食品においては、原料として、一般的なクラウドブレッドの原料に加え、上記のタンパク質とキサンタンガムおよび/またはグアーガムを使用することで、このような戻し操作が不要となる。すなわち、本発明の生地の調製においては、生地原料1に、徐々に生地原料2を加えて混合することで、良好な膨らみの得られる生地を調製することができる。調製時間をより一層短縮する必要である場合は、一度に添加、混合してもよい。したがって、本発明の生地の調製方法は、工業的規模での製造に適しているといえる。
【0027】
本発明における生地は、上記原料の他、パン様食品の風味、食感、外観等を損ねない原料、例えば、日持ち向上剤、香料、風味料、色素等を含有してもよい。
調製した本発明における生地は、150~170℃、好ましくは160℃で10~20分間焼成することで、本発明のパン様食品を製造することができる。
【0028】
本発明のパン様食品の製造方法では、焼成により必要十分な生地の膨らみが得られるだけでなく、冷却後には生地が速やかに萎むので、外観上、クラウドブレッド様の自然な皺が形成される。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0029】
実施例1
以下の工程(1)~(6)により、パン様食品を製造した。
(1)クリームチーズをクリーミングし、発酵風味料(ポルテTZ-10:MCフードスペシャリティーズ社製)を加えて均一に混合した。
(2)上記(1)で得た混合物に卵黄を徐々に加えて混合した。
【0030】
(3)粉末原料[膨張剤(ベーキングパウダー:市販品)、キサンタンガム(オルノーX1:MCフードスペシャリティーズ社製)、グアーガム(オルノーG1:MCフードスペシャリティーズ社製)、大豆タンパク質(ニューフジプロ:不二製油社製)、日持ち向上剤(ハイトライ550:MCフードスペシャリティーズ社製)]を予備混合した。
(4)卵白、水および(3)で予備混合した粉末原料を混合した。
【0031】
(5)上記(4)の混合物に(2)の混合物を加え、混合してパン様食品の生地とした。
(6)(5)で得た生地を30~35gずつ天板型に分注し、直後、または30分間放置した後、160℃で15分間焼成し、パン様食品を得た。
上記工程にて使用した各原材料の配合量は、第1表に示した量とした。また、第1表に、各パン様食品の製造時および製造後の状態を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
第1表に示したとおり、タンパク質および増粘剤を使用することで、加水した生地であっても、クラウドブレッド様のパン様食品を製造することができた(実施例1)。
また、タンパク質および増粘剤を使用したパン様食品では、調製後30分間放置した生地を用いても食感がややぱさついた程度であったが、これ以外の生地(比較例2および3)においては、調製直後に焼成したもの、および30分間放置したもののいずれを用いても、食感が硬くなったり、内相がつまったものとなったりして、クラウドブレッドとの乖離がより大きなものとなった。ちなみに、比較例1の生地では調製直後の生地、および30分間放置後の生地のいずれを用いても評価に値するものが得られなかった。
【0034】
実施例2~5
実施例1における試験において、加水した生地におけるタンパク質および増粘剤の効果が認められたことから、生地への加水量による影響を調べた。実施例1および2~5の試験区では使用した原料および配合量は、実施例1と同様とし、加水量のみ第2表記載の量とした。また、タンパク質および増粘剤を使用しない以外は同様の配合のものを対照(比較例1および4~8)とした。
第2表に、焼成前の生地の分離の有無および焼成後の製品の状態を良好なものから〇、△、×で示した。
○:パン様食品として良好
△:焼成することはできたが、パン様食品としての質はよくない
×:焼成できず
【0035】
【表2】
【0036】
第2表に示すとおり、タンパク質および増粘剤を使用しない試験区(比較例1および4~8)は、加水量の増加に応じて生地物性や製造後のパン様食品の状態に悪影響が認められたが、タンパク質および増粘剤を用いた試験区(実施例1および2~5)では、いずれも良好な生地物性およびパン様食品が得られた。
【0037】
実施例6~9
実施例1のパン様食品の製造におけるタンパク質および配合量を第3表記載のものとする以外は同様の操作を行ってパン様食品を製造した。タンパク質の配合量はタンパク質量が同量となるように調整した。
その結果、玄米タンパクを用いた試験区のパン様食品は食感がややぐちゃついたがパン様食品として許容できるレベルのものであり、他のタンパク質を用いた試験区でも、製品として問題ないレベルのパン様食品を製造することができた。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例10~12
実施例1記載のパン様食品の製造における増粘剤の種類および配合量を第4表記載のものとする以外は同様の操作を行ってパン様食品を製造した。
製造後のパン様食品の状態を第4表に示す。使用した増粘剤による製造後の状態の差が大きいため、状態の詳細も付記した。
【0040】
【表4】
【0041】
第4表に示すとおり、キサンタンガムまたはグアーガムを用いて得られたパン様食品(実施例10~12)は、いずれも、他の増粘剤を用いて得たパン様食品(比較例9および10)と比較して、パン様食品として好ましいものであった。
なお、上記以外の増粘剤として、カードラン、κ-カラギーナンおよびアラビアガムを用いて同様にパン様食品を製造したところ、いずれもメレンゲの比重が低下せず、満足なパン様食品を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、ふわふわした食感を有し、かつ小麦タンパク質を用いないパン様食品を工業的規模で製造できる方法を提供することができる。