(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】直流電源システム及び地絡判定方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/16 20060101AFI20220107BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20220107BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20220107BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20220107BHJP
【FI】
H02H3/16 A
H02J1/00 309D
H02M1/00 H
G01R31/52
(21)【出願番号】P 2017146500
(22)【出願日】2017-07-28
【審査請求日】2020-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599019269
【氏名又は名称】株式会社トヨタエナジーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 由晴
(72)【発明者】
【氏名】綾井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加悦 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】竹下 幸一
(72)【発明者】
【氏名】文野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】水野 朋行
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭司
(72)【発明者】
【氏名】伴 尊行
(72)【発明者】
【氏名】河崎 吉則
(72)【発明者】
【氏名】長崎 智和
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-097914(JP,A)
【文献】特開2004-212376(JP,A)
【文献】特許第3307173(JP,B2)
【文献】特開2005-057961(JP,A)
【文献】特開2011-019312(JP,A)
【文献】特開2010-206859(JP,A)
【文献】特開平07-274303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H3/08-3/253
H02H7/00
H02H7/10-7/20
H02J1/00-1/16
H02M1/00-1/44
B60L1/00-3/12
B60L5/00-5/42
B60L7/00-13/00
B60L15/00-58/40
B60M1/00-7/00
B60R16/00-17/02
G01R31/50-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間に、DCバス電圧が印加されるDCバスと、
直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、
前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、
前記DCバスのP線-N線間を分圧する抵抗の直列体であって、その相互接続点が接地されているもの、及び、N線の対地電圧を検出する電圧センサを有する地絡検出回路と、
前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し
て電圧値を取得し
、前記N線の対地電圧の変
化に基づいて地絡判定を行う判定部と、
を備え、
前記判定部は、地絡の発生が予想される複数個所の各々について、地絡が発生した場合に前記N線に生じると推定される対地電圧の変化量を求め、求めて得た複数の前記変化量の最小値より小さい値を、閾値とし、当該閾値と、前記N線の対地電圧の前回からの変化量とを比較して前記地絡判定を行う、直流電源システム。
【請求項2】
前記判定部は、地絡発生時の前記N線の対地電圧に基づいて地絡箇所を判定する請求項1に記載の直流電源システム。
【請求項3】
前記判定部は、地絡箇所の候補が複数ある場合に、前記直流電源又は直流負荷を1台ごとに解列し、その際の前記N線の対地電圧の変化に基づいて地絡箇所を特定する請求項2に記載の直流電源システム。
【請求項4】
前記判定部は、前記電力変換器の制御部とは別に独立して設けられている請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の直流電源システム。
【請求項5】
直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間にDCバス電圧が印加されるDCバスと、直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、を含む直流電源システムがある場合において、当該直流電源システムにおける制御部が実行する地絡判定方法であって、
前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し
て電圧値を取得し、
前記電圧値に基づいて、地絡が発生し得る複数個所の各々について、地絡が発生した場合に前記N線に生じると推定される対地電圧の変化量を求め、求めて得た複数の前記変化量の最小値より小さい値を、閾値とし、
前記DCバスのN線の対地電圧を検出し、
前記閾値と、前記N線の対地電圧の
前回からの変化量とを比較して地絡判定を行う、
地絡判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源システム及び地絡判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DCバスに複数の蓄電池等がDC/DCコンバータを介して接続された直流電源システムにおける地絡検出回路は、DCバスの2線の線間電圧を2つの抵抗の直列体で分圧し、2つの抵抗の接続点を抵抗接地した回路を有している(例えば、特許文献1、
図2)。地絡発生時には、この抵抗を通して電流が流れる閉回路が構成され、その電流が流れる抵抗の両端電圧に基づいて、地絡発生を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば蓄電池の電圧には変動幅があり、地絡時に流れる電流も変化する。そのため、地絡検出ができなかったり、逆に、誤検出したりする場合がある。すなわち、地絡判定の精度の安定性が乏しい。
かかる課題に鑑み、本発明は、常に安定した精度での地絡判定を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一表現に係る直流電源システムは、直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間に、DCバス電圧が印加されるDCバスと、直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、前記DCバスのP線-N線間を分圧する抵抗の直列体であって、その相互接続点が接地されているもの、及び、N線の対地電圧を検出する電圧センサを有する地絡検出回路と、前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新し、当該閾値と、前記N線の対地電圧の変化とに基づいて地絡判定を行う判定部と、を備えている。
【0006】
また、本発明の一表現に係る地絡判定方法は、直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間にDCバス電圧が印加されるDCバスと、直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、を含む直流電源システムがある場合において、当該直流電源システムにおける制御部が実行する地絡判定方法であって、前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新し、前記DCバスのN線の対地電圧を検出し、前記閾値と、前記N線の対地電圧の変化とに基づいて地絡判定を行う、地絡判定方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、常に安定した精度での地絡判定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る直流電源システムを含む、電源システムの構成の一例を示す回路図である。
【
図3】
図2と同様の図(但し、制御用の接続線は省略している。)に、対地電位を書き込んだ図である。
【
図4】
図3をベースに、地絡予想点を書き込んだ図である。
【
図5】
図4の一部を抜き出した回路図において、A点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。
【
図6】
図4の一部を抜き出した回路図において、B点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。
【
図7】
図4の一部を抜き出した回路図において、C点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。
【
図8】
図4の一部を抜き出した回路図において、D点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。
【
図9】地絡判定の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0010】
(1)この直流電源システムは、直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間に、DCバス電圧が印加されるDCバスと、直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、前記DCバスのP線-N線間を分圧する抵抗の直列体であって、その相互接続点が接地されているもの、及び、N線の対地電圧を検出する電圧センサを有する地絡検出回路と、前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新し、当該閾値と、前記N線の対地電圧の変化とに基づいて地絡判定を行う判定部と、を備えている。
【0011】
このような直流電源システムにおける判定部は、DCバス電圧及び直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新するので、閾値を各電圧に応じて適切に変化させることができる。そして、この閾値及び地絡発生時に起きるN線の対地電圧の変化に基づいて、常に安定した精度での地絡判定を行うことができる。
【0012】
(2)また、(1)の直流電源システムにおいて、前記判定部は、地絡発生時の前記N線の対地電圧に基づいて地絡箇所を判定するようにしてもよい。
地絡発生時のN線の対地電圧は、地絡箇所に依存して異なる値となる場合がある。そこで、判定部は、地絡発生時のN線の対地電圧に基づいて地絡箇所を特定するか又は少なくとも絞り込むことができる。
【0013】
(3)また、(2)の直流電源システムにおいて、前記判定部は、地絡箇所の候補が複数ある場合に、前記直流電源又は直流負荷を1台ごとに解列し、その際の前記N線の対地電圧の変化に基づいて地絡箇所を特定するようにしてもよい。
この場合、解列してみてN線の対地電圧に変化があれば、解列した電路の先に地絡箇所があると判定することができる。
【0014】
(4)また、(1)~(3)の直流電源システムにおいて、前記判定部は、前記電力変換器の制御部とは別に独立して設けられていてもよい。
この場合、例えば直流電源システム全体を管理下に置く制御部に判定部を設けることにより、各電力変換器の制御に影響を与えることなく、地絡の判定を迅速に行うことができる。
【0015】
(5)一方、方法の観点からは、直流2電路をP線、N線とした場合のP線-N線間にDCバス電圧が印加されるDCバスと、直流電源又は直流負荷と接続され、前記DCバスのP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、前記DCバスとN線を共有する直流電路対と、前記直流電路対と前記DCバスとの間に設けられた非絶縁の電力変換器と、を含む直流電源システムがある場合において、当該直流電源システムにおける制御部が実行する地絡判定方法であって、前記DCバス電圧及び前記直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新し、前記DCバスのN線の対地電圧を検出し、前記閾値と、前記N線の対地電圧の変化とに基づいて地絡判定を行う、地絡判定方法である。
【0016】
このような地絡判定方法によれば、DCバス電圧及び直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新するので、閾値を各電圧に応じて適切に変化させることができる。そして、この閾値及び地絡発生時に起きるN線の対地電圧の変化に基づいて、常に安定した精度での地絡判定を行うことができる。
【0017】
[実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る直流電源システム及び地絡検出方法について、図面を参照して説明する。
【0018】
《回路構成例》
図1は、本発明の一実施形態に係る直流電源システム100を含む、電源システム200の構成の一例を示す回路図である。この電源システム200は、商用電力系統と系統連系して蓄電池ユニットに蓄えた電力を、直流負荷に提供するものである。電源システム200中の、直流回路部分を、直流電源システム100と呼ぶものとする。
【0019】
具体的には、一対の蓄電池ユニット1,2とDCバス5との間には、非絶縁のDC/DCコンバータ10が設けられている。本例におけるDC/DCコンバータ10は、一対の蓄電池ユニット1,2に対応して設けられた2系統入力タイプのものである。このような一対の蓄電池ユニット及びDC/DCコンバータの組み合わせは、1組であってもよいが、通常は複数組設けられ、これらが、DCバス5に対して互いに並列に接続されている。
図1では、もう一つの組として、一対の蓄電池ユニット3,4とDCバス5との間にも、非絶縁のDC/DCコンバータ30が設けられている状態を示している。
【0020】
蓄電池ユニット1は、蓄電池1bと、蓄電池1bをDC/DCコンバータ10に接続またはDC/DCコンバータ10から解列するためのリレー1cと、を備えている。なお、正確には、リレー1cとはリレー接点を意味し、図示しないリレーコイルの励磁/非励磁により動作する(以下同様。)。
蓄電池ユニット2も同様に、蓄電池2bと、リレー2cとを備えている。
【0021】
DC/DCコンバータ10は、まず、蓄電池ユニット1に接続される主回路要素として、コンデンサ11、直流リアクトル12、スイッチング素子13,14、コンデンサ15、及び、DC/DCコンバータ10をDCバス5に接続またはDC/DCコンバータ10から解列するためのリレー16とを備えている。蓄電池ユニット2に接続される主回路要素としては、コンデンサ21、直流リアクトル22、及び、スイッチング素子23,24を備えている。
【0022】
また、DC/DCコンバータ10は、計測制御要素として、電圧センサ17,27、電流センサ18,28、電圧センサ19,20、及び、制御部10Cを備えている。電圧センサ17,27は、それぞれ、リレー1c,2cが閉路しているときの蓄電池ユニット1,2の電圧を検出する。電流センサ18,28は、それぞれ、直流リアクトル12,22に流れる電流を検出する。電圧センサ19は、コンデンサ15の両端の電圧を検出する。電圧センサ20は、DCバス5の2線(P線-N線)間の電圧を検出する。各センサ出力は制御部10Cに送られ、これに基づいて、制御部10Cはスイッチング素子13,14及び23,24を制御する。
【0023】
他の蓄電池ユニット3,4及びDC/DCコンバータ30の組についても、内部構成は同様であるので内部の符号の図示や詳細な説明は省略する。また、以下の説明では代表として蓄電池ユニット1,2及びDC/DCコンバータ10についてのみ述べるが、その他の組についても同様である。
【0024】
次に、非絶縁のDC/DCコンバータ50は、主回路要素として、DCバス5との接続またはDCバス5からの解列のためのリレー51、コンデンサ52、直流リアクトル53、スイッチング素子54,55、コンデンサ56、及び、負荷装置9の接続または負荷装置9の切離しのためのリレー57とを備えている。
【0025】
また、DC/DCコンバータ50は、計測制御要素として、電圧センサ58a,58b,58c、電流センサ59、及び、制御部50Cを備えている。電圧センサ58aは、リレー51が閉路しているときDCバス5の2線(P線-N線)間の電圧を検出する。電圧センサ58bは、コンデンサ56の両端の電圧を検出する。電圧センサ58cは、負荷装置9への印加電圧を検出する。電流センサ59は、直流リアクトル53に流れる電流を検出する。各センサ出力は制御部50Cに送られ、これに基づいて、制御部50Cはスイッチング素子54,55を制御する。
【0026】
なお、この例では、負荷装置9及びDC/DCコンバータ50は1組のみであるが、複数組がDCバス5に並列に接続される場合もある。
【0027】
また、AC/DCコンバータ40は、主回路要素として、DCバス5との接続またはDCバス5からの解列のためのリレー41、コンデンサ42、6個のスイッチング素子によって構成されたフルブリッジ回路43、及び、交流リアクトル44を備えている。
【0028】
また、AC/DCコンバータ40は、計測制御要素として、電圧センサ45及び制御部40Cを備えている。電圧センサ45は、リレー41が閉路しているときDCバス5の2線(P線-N線)間の電圧を検出する。電圧センサ45の出力は制御部40Cに送られ、これに基づいて、制御部40Cはフルブリッジ回路43を制御する。AC/DCコンバータ40は、絶縁トランス7を介して、商用電力系統8と接続されている。
【0029】
DCバス5には、地絡検出回路6が設けられている。この地絡検出回路6において、DCバス5のP線-N線間には、抵抗R1,R2の直列体が接続されている。この直列体の相互接続点Pは、接地され、接地電位(0[V])となっている。電圧センサ6vは、接地電位とN線との間にあり、N線の対地電圧を検出する。なお、抵抗R1,R2の抵抗値はそれぞれ、その記号を用いてR1,R2とする。
【0030】
制御部60は、いわば直流電源システム100若しくは電源システム200における「統合指令コントローラ」であり、地絡検出に必要な情報を継続的に取得し続けるとともに、リレー1c,2c,16,41,51,57の開閉を制御することができる。また、制御部60は、地絡検出に関しての判定部61としての機能も有する。
【0031】
なお、リレー16については必要に応じて制御部10Cも、その開閉を制御することができる。リレー41については必要に応じて制御部40Cも、その開閉を制御することができる。さらに、リレー51,57については必要に応じて制御部50Cも、それらの開閉を制御することができる。各リレー1c,2c,16,41,51,57は、通常、閉路されており、解列(断路)が必要な場合に開路される。
【0032】
制御部10C,40C,50C,60は典型的にはコンピュータ(CPU)を含み、ソフトウェア(コンピュータプログラム)をコンピュータが実行することで、必要な制御機能を実現する。ソフトウェアは、各制御部の記憶装置(図示せず。)に格納される。なお、システム全体の統合指令コントローラとしての制御部(判定部61を含む。)60は、各電力変換器(DC/DCコンバータ10等,AC/DCコンバータ40,DC/DCコンバータ50)の制御部とは別に独立して設けられている。このように、直流電源システム全体を管理下に置く制御部60に判定部61を設けることにより、各電力変換器の制御に影響を与えることなく、地絡の判定を迅速に行うことができる。
【0033】
但し、ここでは、統合指令コントローラとしての制御部60を独立して設ける例を示したが、制御部60の機能を、電力変換器の制御部10C等,40C,50Cのいずれかに含めることも可能である。
【0034】
《運転モード》
上記の電源システム200は、例えば以下のような運転モードを有する。
(連系運転モード1)
連系運転モード1では、AC/DCコンバータ40が交流から直流への変換を行い、DCバス5に電力を送り込む。DC/DCコンバータ10は、DCバス電圧を所定の電圧に変換し、蓄電池ユニット1,2の充電を行う。DC/DCコンバータ50は、DCバス電圧を所定の電圧に変換し、負荷装置9に給電する。
【0035】
(連系運転モード2)
連系運転モード2では、AC/DCコンバータ40が交流から直流への変換を行い、DCバス5に電力を送り込む。DC/DCコンバータ10は、DCバス電圧を所定の電圧に変換し、蓄電池ユニット1,2の充電を行う。DC/DCコンバータ50は停止しており、負荷装置9への給電は行われない。
【0036】
(連系運転モード3)
連系運転モード2では、AC/DCコンバータ40が交流から直流への変換を行い、DCバス5に電力を送り込む。DC/DCコンバータ50は、DCバス電圧を所定の電圧に変換し、負荷装置9に給電する。DC/DCコンバータ10その他、蓄電池用のDC/DCコンバータは全て停止している。
【0037】
(自立運転モード)
自立運転モードではAC/DCコンバータ40が停止している。一方、DC/DCコンバータ10他、いずれかの蓄電池用DC/DCコンバータは、蓄電池を放電させ、DCバス5に電力を供給している。DC/DCコンバータ50は、DCバス電圧を所定の電圧に変換し、負荷装置9に給電する。
【0038】
《簡略化した回路構成例》
図2は、
図1を簡略化して示す回路図である。蓄電池ユニット及びDC/DCコンバータは、代表として、蓄電池ユニット1及びDC/DCコンバータ10のみを表している。DCバス5のP線-N線間には、DCバス電圧V
busが印加される。蓄電池ユニット1とDC/DCコンバータ10とを繋ぐ直流電路対5Aは、DCバス5のP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、DCバス5とN線を共有する。直流電路対5Aの線間の電圧はV
batとする。また、DC/DCコンバータ50と負荷装置9とを繋ぐ直流電路対5Bは、DCバス5のP線電位とは異なるP線電位を有し、かつ、DCバス5とN線を共有する。直流電路対5Bの線間の電圧はV
loadとする。
【0039】
上記の電圧Vbatは、代表的な数値を挙げれば220Vであるが、蓄電池の充電状態や使用年数により、例えば170V~270Vの変動幅がある。また、DCバス電圧Vbusは、代表的な数値を挙げれば350Vであるが、蓄電池の能力の影響や需給バランス等により、例えば320V~380Vの変動幅がある。電圧Vloadは、代表的な数値としては120Vであるが、これも、90V~145Vの変動幅がある。
【0040】
《対地電位》
図3は、
図2と同様の図(但し、制御用の接続線は省略している。)に、対地電位を書き込んだ図である。
図3において、地絡検出回路6内の接続点Pの電位は0[V]である。この電位を基準に、DCバス5のP線電位をV
bus_PL、N線電位を-V
bus_NLとする。P線電位V
bus_PLはプラス、N線電位-V
bus_NLはマイナスとなり、仮にR1=R2の場合であって、例えばDCバス電圧V
busが350Vの場合には、P線電位V
bus_PLは+175V、N線電位-V
bus_NLは-175Vとなる。但し、抵抗値R1,R2は同じ値でなくてもよい。
【0041】
N線は、DC/DCコンバータ10,50が非絶縁であるため、リレー1c,2c,16,41,51,57(
図1)が閉じている場合、実質的に、直流電源システム100内で共通の線である。従って、DCバス5のN線のみならず、蓄電池ユニット1の直近でも、また、負荷装置9の直近でも、共に、同じN線電位-V
bus_NLである。
【0042】
蓄電池ユニット1のプラス側の電位は、N線電位-Vbus_NLに電圧Vbatを乗せた値となり、(-Vbus_NL+Vbat)である。一方、負荷装置9のプラス側の電位は、N線電位-Vbus_NLに電圧Vloadを乗せた値となり、(-Vbus_NL+Vload)である。地絡が発生していない通常の状態では、地絡検出回路6内の電圧センサ6vは、N線の対地電圧すなわち、(-Vbus_NL-0)=(-Vbus_NL)を検出している。この対地電圧を、DCバス電圧を用いて表すと、
(-Vbus_NL)=Vbus×{R2/(R1+R2)} ・・・(1)
である。
【0043】
図4は、
図3をベースに、地絡予想点を書き込んだ図である。
図4において、地絡が予想される箇所は、例えば、図中の丸印で囲んだA1点,A2点,A3点,B点,C点,D点である。A1点,A2点,A3点は共通のN線であるため、まとめてA点と考えると、A点,B点,C点,D点の4種類の地絡が考えられる。
【0044】
《A点の地絡》
図5は、
図4の一部を抜き出した回路図において、A点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。A点で地絡すると、太線で示す閉回路が形成される。この場合、N線の対地電圧は0[V]となる。すなわち、電圧センサ6vの検出する電圧が、直前に検出し記憶していた(-V
bus_NL)から0[V]に変化した場合、A点すなわちN線地絡である。
【0045】
《B点の地絡》
図6は、
図4の一部を抜き出した回路図において、B点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。B点で地絡すると、太線で示す閉回路が形成される。この場合、N線の対地電圧は、接地電位から電圧V
batを引いた値となり、-V
batとなる。すなわち、電圧センサ6vの検出する電圧が、直前に検出し記憶していた(-V
bus_NL)から-V
batに変化した場合、B点すなわち、蓄電池ユニット1のプラス側電路の地絡である。
【0046】
《C点の地絡》
図7は、
図4の一部を抜き出した回路図において、C点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。C点で地絡すると、太線で示す閉回路が形成される。この場合、N線の対地電圧は、接地電位からDCバス電圧V
busを引いた値となり、-V
busとなる。すなわち、電圧センサ6vの検出する電圧が、直前に検出し記憶していた(-V
bus_NL)から-V
busに変化した場合、C点すなわち、DCバス5のP線の地絡である。
【0047】
《D点の地絡》
図8は、
図4の一部を抜き出した回路図において、D点地絡が発生した場合の地絡電流の経路を太線で示した図である。D点で地絡すると、太線で示す経路で電流が流れる。この場合、N線の対地電圧は、接地電位から電圧V
loadを引いた値となり、-V
loadとなる。すなわち、電圧センサ6vの検出する電圧が、直前に検出し記憶していた(-V
bus_NL)から-V
loadに変化した場合、D点すなわち、負荷装置9のプラス側電路の地絡である。
【0048】
《地絡判定の流れ》
図9は、地絡判定の流れを示すフローチャートである。このフローチャートの実行主体は、制御部60における判定部61である。図において、判定部61は、ステップS1において、DCバス電圧V
bus、蓄電池ユニットの線間の電圧V
bat、及び、負荷装置9に給電する線間の電圧V
loadの各値を取得する。
【0049】
具体的には、動作している電力変換器(DC/DCコンバータ10他、AC/DCコンバータ40,DC/DCコンバータ50)からDCバス5のP線-N線間の電圧値を複数取得する。そして、取得した数値の平均値を、その時点のDCバス電圧Vbusとする。このDCバス電圧Vbusに基づいて、前述の式(1)によりN線電位(-Vbus_NL)を求める。また、判定部61は、DC/DCコンバータ10他から複数の蓄電池についての電圧Vbatを取得するとともに、DC/DCコンバータ50からは負荷装置9に印加している電圧Vloadを取得する。
【0050】
判定部61は、次に、地絡の有無を検出するための閾値ΔVを決める(ステップS2)。前述のように、地絡が発生すると、N線の対地電圧が変化する。変化量を絶対値で表すと以下のようになる。
図5の場合:変化量ΔV
A=|(-V
bus_NL)|
図6の場合:変化量ΔV
B=|(-V
bus_NL)-(-V
bat)|
図7の場合:変化量ΔV
C=|(-V
bus_NL)-(-V
bus)|
図8の場合:変化量ΔV
D=|(-V
bus_NL)-(-V
load)|
従って、これら4つの値のいずれであっても確実に捉えるには、地絡検出のための閾値ΔV(>0)は、例えば、4つの値のうち最も小さい値より若干小さい値とすればよい。この閾値ΔVは、固定値ではなく、継続的に検出される各部の電圧に基づいて更新される変動値である。
【0051】
次に、判定部61は、地絡発生か否かの判定を行う(ステップS4)。例えば、現時点のN線の対地電圧Vbus_NL(m)がm回目の取得値であるとすると、その直前の(m-1)回目に取得した対地電圧Vbus_NL(m-1)がとの差が、ΔVより大きいか否かの判定を行う。すなわち、下記の式(2)が成り立つか否かの判定を行う。
|Vbus_NL(m)-Vbus_NL(m-1)|>ΔV ・・・(2)
【0052】
式(2)が成り立てば、地絡発生と判定し、成り立たなければ地絡は発生していないと判定する。地絡が発生していないと判定した場合は、処理はステップS1に戻り、以下、同様の処理(S1~S4)が繰り返される。
一方、地絡発生と判定した場合、判定部61は、地絡箇所の特定を行う(ステップS5)。
【0053】
地絡箇所を特定するには、判定部61は、N線の対地電圧が
図5,
図6,
図7,
図8に示す地絡時のどの値に最も近いかを判定する。
(a)N線の対地電圧が0[V]又はそれに最も近い場合は、N線の地絡である。
(b)N線の対地電圧が(-V
bat)又はそれに最も近い場合は、蓄電池ユニットのプラス側の電路の地絡である。
(c)N線の対地電圧が(-V
bus)又はそれに最も近い場合は、DCバスのP線の地絡である。
(d)N線の対地電圧が(-V
load)又はそれに最も近い場合は、負荷装置のプラス側の電路の地絡である。
【0054】
ここで、(c)の場合は、これ以上の判定は不要である。また、(d)の場合も、負荷装置9及びDC/DCコンバータ50が1組のみであれば、これ以上の判定は不要である。
一方、(b)の場合、蓄電池ユニット1,2のそれぞれの電圧Vbatが互いに同様な値であると、どちらの側で地絡が発生しているか不明となる。そこで、このような場合には例えば、次のような地絡箇所特定シーケンスを実行する。
【0055】
すなわち、
図1における蓄電池ユニット1のリレー1cを制御部60(判定部61)の指令により開路し、蓄電池1bを解列する。このとき、N線の対地電圧が正常な値(-V
bus_NL)に戻れば、地絡は蓄電池ユニット1のプラス側電路で起きている。解列してもN線の対地電圧が変わらなければ、地絡は蓄電池ユニット1のプラス側電路で起きているのではない、ということになる。
【0056】
このように、1つの蓄電池を解列してみてN線の対地電圧が正常値に復帰するか否かというチェックを、蓄電池の総数に応じて順番に(総数-1)まで行えば、複数の蓄電池が同等な電圧で存在していても、地絡箇所をつきとめることができる。
【0057】
また、(a)の場合、N線はシステム全体で共通の電路であるため、N線のどの箇所で地絡が発生しているのか不明である。例えば、
図1において、存在する蓄電池ユニットが仮に1,2のみであるとしても、多数の地絡箇所の候補があり得るが、そのうち、以下の4箇所については、つきとめることが可能である。
(a-1)蓄電池ユニット1内の蓄電池1bのN線
(a-2)蓄電池ユニット2内の蓄電池2bのN線
(a-3)DCバス5のN線
(a-4)負荷装置9とDC/DCコンバータ50とを繋ぐN線
このような場合、例えば以下のような地絡箇所特定シーケンスを実行する。
【0058】
すなわち、
図1における蓄電池ユニット1のリレー1cを制御部60(判定部61)の指令により開路し、蓄電池1bを解列する。このとき、N線の対地電圧が正常な値(-V
bus_NL)に戻れば、地絡は上記(a-1)で起きている。解列してもN線の対地電圧が変わらなければ、上記(a-1)で起きているのではない、ということになる。
【0059】
同様に、
図1における蓄電池ユニット2のリレー2cを制御部60(判定部61)の指令により開路し、蓄電池2bを解列する。このとき、N線の対地電圧が正常な値(-V
bus_NL)に戻れば、地絡は上記(a-2)で起きている。解列してもN線の対地電圧が変わらなければ、上記(a-2)で起きているのではない、ということになる。
【0060】
次に、
図1におけるDC/DCコンバータ50内のリレー57を制御部60(判定部61)の指令により開路し、負荷装置9を解列する。このとき、N線の対地電圧が正常な値(-V
bus_NL)に戻れば、地絡は上記(a-4)で起きている。解列してもN線の対地電圧が変わらなければ、上記(a-4)で起きているのではない、ということになる。
【0061】
上記チェックの結果、(a-1)、(a-2)、(a-4)のいずれでもない場合は、地絡は上記(a-3)で起きている、ということになる。
このように、候補となる箇所を解列してみてN線の対地電圧が正常値に復帰するか否かというチェックを、候補の箇所に応じて順番に行えば、複数の候補があっても、地絡箇所をつきとめることができる場合がある。
【0062】
《まとめ》
以上のように、この直流電源システム100は、判定部61において、DCバス電圧(Vbus)及び直流電路対5A,5Bの線間の電圧(Vbat,Vload)を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値(ΔV)を更新し、当該閾値と、N線の対地電圧の変化とに基づいて地絡判定を行う。
【0063】
このような直流電源システム100における判定部61は、DCバス電圧及び直流電路対の線間の電圧を継続的に検出し、検出値に基づいて地絡検出のための閾値を更新するので、閾値を各電圧に応じて適切に変化させることができる。そして、この閾値及び地絡発生時に起きるN線の対地電圧の変化に基づいて、常に安定した精度での地絡判定を行うことができる。
【0064】
また、地絡発生時のN線の対地電圧は、地絡箇所に依存して異なる値となる場合があるので、判定部61は、地絡発生時のN線の対地電圧に基づいて地絡箇所を判定することもできる。これにより、判定部61は、地絡発生時のN線の対地電圧に基づいて地絡箇所を特定するか又は少なくとも絞り込むことができる。
【0065】
さらに、判定部61は、地絡箇所の候補が複数ある場合に、直流電源(蓄電池1,2その他)又は直流負荷(負荷装置9)を1台ごとに解列し、その際のN線の対地電圧の変化に基づいて地絡箇所を特定することもできる。すなわち、解列してみてN線の対地電圧に変化があれば、解列した電路の先に地絡箇所があると判定することができる。
【0066】
《補記》
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 蓄電池ユニット
1b 蓄電池
1c リレー
2 蓄電池ユニット
2b 蓄電池
2c リレー
3,4 蓄電池ユニット
5 DCバス
5A,5B 直流電路対
6 地絡検出回路
6v 電圧センサ
7 絶縁トランス
8 商用電力系統
9 負荷装置
10 DC/DCコンバータ
10C 制御部
11 コンデンサ
12 直流リアクトル
13,14 スイッチング素子
15 コンデンサ
16 リレー
17 電圧センサ
18 電流センサ
19,20 電圧センサ
21 コンデンサ
22 直流リアクトル
23,24 スイッチング素子
27 電圧センサ
28 電流センサ
30 DC/DCコンバータ
40 AC/DCコンバータ
40C 制御部
41 リレー
42 コンデンサ
43 フルブリッジ回路
44 交流リアクトル
45 電圧センサ
50 DC/DCコンバータ
50C 制御部
51 リレー
52 コンデンサ
53 直流リアクトル
54,55 スイッチング素子
56 コンデンサ
57 リレー
58a,58b,58c 電圧センサ
59 電流センサ
60 制御部
61 判定部
100 直流電源システム
200 電源システム
R1,R2 抵抗
P 接続点