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特許6996902熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法、及び空気入りタイヤの製造方法
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  • 特許-熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法、及び空気入りタイヤの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法、及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20220107BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220107BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20220107BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220107BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20220107BHJP
   C08L 61/14 20060101ALI20220107BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220107BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220107BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08J3/24 Z CEQ
C08L101/00
C08L23/22
C08K3/22
C08L61/06
C08L61/14
C08K5/09
C08L9/00
B60C5/14 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017157586
(22)【出願日】2017-08-17
(65)【公開番号】P2019035034
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 竜也
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/066584(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102532724(CN,A)
【文献】特開2017-114974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08J 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と熱可塑性樹脂とを動的架橋させる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
ブタジエンゴムと架橋剤を含み、ブチルゴムを実質的に含まないゴムペレット(A)を作製する工程と、
ブチルゴムと架橋剤を含み、ブタジエンゴムを実質的に含まないゴムペレット(B)を作製する工程と、
前記ゴムペレット(A)と前記ゴムペレット(B)と前記熱可塑性樹脂とを溶融混練する工程とを含み、
前記ゴムペレット(A)及び前記ゴムペレット(B)に含まれる架橋剤がアルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体又は臭素化アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体である、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ゴムペレット(B)が、さらに亜鉛華を含有する、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ゴムペレット(B)が、さらにステアリン酸を含有する、請求項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、タイヤ用耐空気透過性フィルムを作製する、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の製造方法により得られたタイヤ用耐空気透過性フィルムを用いて、空気入りタイヤを作製する、空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法、及び空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内側面には、タイヤの空気圧を一定に保持するために空気透過抑制層としてインナーライナーが設けられている。インナーライナーは、一般に、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなどの気体が透過しにくいゴム層で構成されているが、タイヤの軽量化のため、薄肉化が可能な樹脂フィルムの使用が検討されている。
【0003】
寒冷地用のタイヤに用いられる樹脂フィルムとしては、耐空気透過性を維持しつつ、低温耐久性を向上させることが求められる。
【0004】
このような耐空気透過性樹脂フィルムとしては、ゴム成分と熱可塑性樹脂とを溶融混練し、動的架橋させることにより得られ、熱可塑性樹脂を連続相(マトリックス相)とし、ゴム成分を分散相(ドメイン相)とした海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物(Thermoplastic Vulcanizates;TPV)が用いられている。
【0005】
例えば、特許文献1に、ハロゲン化ゴムのハロゲン部分の少なくとも5%が、(i)末端にカルボキシル基もしくはアミノ基を有する重量平均分子量が1000以上の鎖状高分子又は(ii)カルボキシル基もしくはアミノ基を有しかつ分子間相互作用を有する非高分子化合物で置換された変性ハロゲン化ゴム(A)を分散相とし、熱可塑性樹脂(B)を連続相とした動的架橋物である熱可塑性エラストマー組成物が開示されている(請求項1,4、段落0020等)。しかしながら、この樹脂フィルムは低温耐久性のさらなる改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献2では、架橋剤の存在下にゴム組成物(B)を120℃以下の温度で混練し、次に成分(A)ポリアミド樹脂及び(C)加工助剤を溶融混練してゴム成分を動的架橋させて得られる、ポリアミド樹脂(A)中にゴム組成物(B)が分散した構造のエラストマー組成物であって、応力が所定の要件を満たす熱可塑性エラストマー組成物の使用が提案されている(請求項1)。しかしこれは、応力-歪曲線の2.5%伸長時の応力が0.1~50MPaであり、-20℃及び200%伸長時の応力(M200)と-20℃及び100%伸長時の応力(M100)との比が1.0<M200/M100<2.0であるという規定範囲内に調整する必要があるため、製造作業が煩雑であり、また、加工助剤を添加しているため、インナーライナーとカーカスなどのゴム層との接着性が低下することにより、耐空気透過性が悪化するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-89702号公報
【文献】特許第4942253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、耐空気透過性が悪いと従来考えられていたブタジエンゴムを熱可塑性エラストマー組成物の分散相として用いることにより、意外にも、耐空気透過性を維持しつつ、低温耐久性を向上でき、特に、分散相として、ブタジエンゴムとブチルゴムとを併用することで、その効果が顕著となることを見出した。
【0009】
しかしながら、ブタジエンゴムとブチルゴムは、それぞれ架橋速度が異なるため、これらを動的架橋させて得られる熱可塑性エラストマー組成物の分散相は、一部が架橋しすぎていたり、一部で架橋が不十分であったりと、架橋の状態にばらつきがあった。この架橋状態のばらつきを抑制することにより、低温耐久性のさらなる改善の余地があった。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、耐空気透過性を少なくとも維持しつつ、低温耐久性が向上した樹脂フィルムが得られる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法、タイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法、及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、ゴム成分と熱可塑性樹脂とを動的架橋させる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、ブタジエンゴムと架橋剤を含み、ブチルゴムを実質的に含まないゴムペレット(A)を作製する工程と、ブチルゴムと架橋剤を含み、ブタジエンゴムを実質的に含まないゴムペレット(B)を作製する工程と、上記ゴムペレット(A)と上記ゴムペレット(B)と上記熱可塑性樹脂とを溶融混練する工程を含み、上記ゴムペレット(A)及び上記ゴムペレット(B)に含まれる架橋剤がアルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体又は臭素化アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体であるものとする。
【0012】
上記ゴムペレット(B)は、さらに亜鉛華を含有するものとすることができる。
【0014】
上記ゴムペレット(B)は、さらにステアリン酸を含有するものとすることができる。
【0015】
本発明のタイヤ用耐空気透過性フィルムの製造方法は、上記製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、タイヤ用耐空気透過性フィルムを作製するものとする。
【0016】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上記製造方法により得られたタイヤ用耐空気透過性フィルムを用いて、空気入りタイヤを作製するものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、耐空気透過性を維持しつつ、低温耐久性が向上した樹脂フィルムが得られる熱可塑性エラストマー組成物、及びこれを用いたタイヤ用耐空気透過性フィルム、並びにこれを用いたタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により得られた空気入りタイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、ゴム成分と熱可塑性樹脂とを動的架橋させる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、ブタジエンゴム(BR)と架橋剤を含み、ブチルゴム(IIR)を実質的に含まないゴムペレット(A)を作製する工程と、ブチルゴム(IIR)と架橋剤を含み、ブタジエンゴム(BR)を実質的に含まないゴムペレット(B)を作製する工程と、上記ゴムペレット(A)と上記ゴムペレット(B)と上記熱可塑性樹脂とを溶融混練する工程を含むものである。ここで、「実質的に含まない」とは、その含有によって有意な作用効果が認められない範囲の含有量であることをいい、通常は、ゴムペレット(A)に含まれるゴム成分中のブチルゴムの含有量が1質量%未満であり、0.1質量%未満であることが好ましく、ゴムペレット(B)に含まれるゴム成分中のブタジエンゴムの含有量が1質量%未満であり、0.1質量%未満であることが好ましい。
【0021】
本実施形態の製造方法により、熱可塑性樹脂を連続相(マトリックス相)とし、ゴム成分を分散相(ドメイン相)とした海島構造を持つ熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0022】
このように、ブタジエンゴムとブチルゴムを、それぞれ別の混合系において混合してマスターバッチ化し、それぞれに適した架橋条件としたゴムペレットを用いて、熱可塑性樹脂と共に溶融混練して動的架橋させることにより、分散相における架橋状態を均質化することができる。混練に使用する混練機としては、特に限定されず、例えば、二軸押出機、スクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。溶融混練条件は、特に限定されないが、例えば、200~250℃において、回転数100~300rpmで、1~3分間混練することができる。熱可塑性エラストマー組成物の分散相の粒子サイズは、特に限定されないが、平均粒子径で0.1~2μmであるのが好ましく、0.1~1μmであるのがより好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポチエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などのポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体などのポリニトリル系樹脂;酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースなどのセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系樹脂;芳香族ポリイミド(PI)などのイミド系樹脂が挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
ゴム成分としては、ブタジエンゴム(BR)及びブチルゴム(IIR)が用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他のゴム成分が含まれていてもよい。このようなゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、水素化スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴム及びその水素添加ゴム;エチレンプロピレンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム、マレイン酸変性エチレンブチレンゴム、アクリルゴム(ACM)などのオレフィン系ゴム;ハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR))、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンなどの含ハロゲンゴム;その他、シリコンゴム、フッ素ゴム、ポリスルフィドゴムなどが挙げられる。
【0025】
ゴム成分における、ブタジエンゴム(BR)及びブチルゴム(IIR)の割合は、合計量で80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0026】
ゴムペレット(A)中のゴム成分における、ブタジエンゴムの割合は、80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0027】
ゴムペレット(B)中のゴム成分における、ブチルゴムの割合は、80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態のゴム成分には、架橋剤、亜鉛華、ステアリン酸、充填剤、軟化剤、老化防止剤など、ゴム組成物に一般に配合される各種配合剤を適宜添加することができる。すなわち、ゴム成分は、ゴムポリマーに各種配合剤を添加したゴム組成物からなるものであってもよい。
【0029】
ゴム成分を動的架橋するための架橋剤としては、硫黄や硫黄含有化合物等などの加硫剤、加硫促進剤の他、フェノール系樹脂などが挙げられる。耐熱性の点からは、フェノール系樹脂を用いることが好ましい。フェノール系樹脂としては、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる樹脂が挙げられ、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体又は臭素化アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体であることがより好ましく、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体であることが特に好ましい。
【0030】
ゴムペレット(A)に配合する架橋剤としては、特に限定されず、上記架橋剤の中からブタジエンゴムに適した架橋剤を選択して用いることができるが、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体であることが好ましい。
【0031】
ゴムペレット(B)に配合する架橋剤としては、特に限定されず、上記架橋剤の中からブチルゴムに適した架橋剤を選択して用いることができるが、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体であることが好ましい。また、ブチルゴムは架橋速度が遅いため、ゴムペレット(B)は、上記架橋剤に加えて亜鉛華を含有しているのが好ましく、より好ましくは、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド縮合体と亜鉛華との併用である。架橋剤と亜鉛華を併用することにより、架橋速度が速くなりすぎる場合には、ステアリン酸をさらに含有することが特に好ましい。
【0032】
ゴムペレット(A)に含まれるブタジエンゴムと、ゴムペレット(B)に含まれるブチルゴムとの配合比(充填剤などの配合剤を除いたポリマー成分としての比率)は、特に限定されないが、質量比(ブタジエンゴム/ブチルゴム)で、10/90~90/10程度が好ましく、より好ましくは20/80~85/15である。
【0033】
ゴムペレット(A)に配合する架橋剤の配合量は、ブタジエンゴムを適切に架橋できれば特に限定されず、その種類によっても異なるが、目安としては、ブタジエンゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0034】
ゴムペレット(B)に配合する架橋剤の配合量は、ブチルゴムを適切に架橋できれば特に限定されず、その種類によっても異なるが、目安としては、ブチルゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0035】
ゴムペレット(B)に亜鉛華を配合する場合、その配合量は、ブチルゴムを適切に架橋できれば特に限定されず、架橋剤の種類によっても異なるが、目安としては、ブチルゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0036】
ゴムペレット(B)にステアリン酸を配合する場合、その配合量は、ブチルゴムを適切に架橋できれば特に限定されず、架橋剤の種類によっても異なるが、目安としては、ブチルゴム100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0037】
なお、架橋剤としての硫黄は必須ではなく、架橋系としては、加硫促進剤やフェノール系樹脂のみを配合してもよい。本実施形態に係る製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物をタイヤ用耐空気透過性フィルムとして用いる場合、被貼り合わせ部材であるゴム部材やゴム層の加硫成形時に共架橋させることが好ましいが、硫黄を配合すると、耐空気透過性フィルムを作製する際の温度によりゴム成分の架橋が進みすぎてしまい、上記のような共架橋が難しくなるためである。
【0038】
なお、上記ゴム成分に任意に添加される各種配合剤は、予めゴム成分に添加していてもよく、あるいはまた、熱可塑性樹脂とゴム成分の溶融混練中に添加してもよい。
【0039】
ゴムペレット(A)及びゴムペレット(B)を作製する際の混練条件は、例えば、60~80℃の温度において、回転数50~100で、1~5分間、乾式混合するものとすることができる。この混練に使用する混練機としては、特に限定されず、例えば、二軸押出機、スクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。
【0040】
上記熱可塑性樹脂とゴム成分との配合比(充填剤などの配合剤を除いたポリマー成分としての比率)は、熱可塑性樹脂の種類によっても変わり、特に限定されないが、質量比(熱可塑性樹脂/ゴム成分)で、通常は60/40~25/75程度が好ましく、より好ましくは50/50~30/70である。
【0041】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂とゴム成分とともに、相溶化剤を混合するものであってもよい。相溶化剤の配合により、熱可塑性樹脂とゴム成分との界面張力を低下させて、海島構造の分散相を細粒化することができる。相溶化剤としては、一実施形態として、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体(即ち、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、及び/又は、エチレン-グリシジルアクリレート共重合体)を用いてもよい。該相溶化剤の配合量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5~10質量部とすることができる。
【0042】
また本実施形態に係る製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物を、タイヤ用耐空気透過性フィルムに適用する場合、接着性向上剤としてレゾルシン系ホルムアルデヒド縮合体を配合してもよい。該接着性向上剤は、タイヤにおいて耐空気透過性フィルムと隣接するゴム部材との接着性を向上させるために配合されるものである。レゾルシン系ホルムアルデヒド縮合体としては、レゾルシンを少なくとも一部に含むフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドとが縮合して得られた化合物が用いられる。好ましくは、レゾルシン-アルキルフェノール-ホルムアルデヒド共縮合体または改質レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂を用いることである。改質レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂としては、骨格をなすフェノール化合物の少なくとも一部に不飽和基含有モノマーが結合して、アリールアルキル基(アラルキル基)の側鎖またはグラフト状のポリマー鎖などを形成したもの、または、不飽和基含有モノマーの重合物もしくはこれとレゾルシンとの共重合物などが混在するものなどが挙げられる。また、部分的にホルムアルデヒド以外のアルデヒド化合物を含むものであってもよい。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、インデン、及びビニルトルエンから選ばれた少なくとも1つ(特に好ましくはスチレン)を、レゾルシン及びホルムアルデヒドと共存させて得られた反応生成物であってもよく、また、ブチルアルデヒドまたはその他のアルデヒドを、少量混合して得られた反応生成物であってもよい。レゾルシン系ホルムアルデヒド縮合体の配合量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂とゴム成分(充填剤などの配合剤を除いたポリマーとしての量)の合計量100質量部に対して1~10質量部とすることができる。
【0043】
一実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法としては、まずブタジエンゴムと架橋剤とを混練機に投入し、混練してゴムマスターバッチのゴムペレット(A)を作製する。また、ブチルゴムと架橋剤とを別の混練機に投入し、混練してゴムマスターバッチのゴムペレット(B)を作製する。得られたゴムペレット(A)及びゴムペレット(B)と、熱可塑性樹脂とを、相溶化剤とともに混練機に投入し、溶融混練して動的架橋することにより熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得ることができる。なお、相溶化剤は、上記のようにゴム成分と熱可塑性樹脂とを溶融混練する際に添加してもよく、予め熱可塑性樹脂と混練しておいてもよい。
【0044】
上記接着性向上剤は、ゴム成分と同時に添加してもよく、動的架橋前でも後でもよいが、架橋剤としてフェノール系樹脂を添加する場合、接着性向上剤は動的架橋後に添加することが好ましい。この場合の溶融混練条件は、特に限定されないが、例えば、200~250℃において、回転数100~300rpmで、1~3分間混練することが好ましい。
【0045】
このようにして得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットをフィルム化することにより、本発明の実施形態に係る耐空気透過性フィルムが得られる。フィルム化する方法は特に限定されず、例えば押し出し成形やカレンダー成形など、通常の熱可塑性樹脂をフィルム化する方法を用いることができる。
【0046】
耐空気透過性フィルムの厚さは、用途によるので特に限定されないが、例えばタイヤ用途の場合、0.02~1.0mmとすることができ、好ましくは0.05~0.5mmであり、より好ましくは0.05~0.3mmである。
【0047】
耐空気透過性フィルムの空気透過性も、用途によるので特に限定されないが、タイヤ用途の場合、JIS K7126-1「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法」に準じて、試験気体:空気、試験温度:80℃にて測定した値が、少なくともブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなどのゴム層で構成されたインナーライナーと同程度の耐空気透過性であることが好ましく、5.0×1013fm/Pa・s以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る製造方法により得られた耐空気透過性フィルムは、例えば、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどの重荷重用タイヤを含む各種の自動車用タイヤ、また自転車を含む二輪車用タイヤなど、各種の空気入りタイヤに適用することができる。
【0049】
図1は、一実施形態に係る製造方法により得られた空気入りタイヤ1の断面図である。図示するように、空気入りタイヤ1は、リム組みされる一対のビード部2と、該ビード部2からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部3と、該一対のサイドウォール部3間に設けられた路面に接地するトレッド部4とから構成される。一対のビード部2には、それぞれリング状のビードコア5が埋設されている。有機繊維コードを用いたカーカスプライ6が、ビードコア5の周りを折り返して係止されるとともに、左右のビード部2間に架け渡して設けられている。また、カーカスプライ6のトレッド部4における外周側には、スチールコードやアラミド繊維などの剛直なタイヤコードを用いた2枚のベルトプライからなるベルト7が設けられている。
【0050】
カーカスプライ6の内側にはタイヤ内面の全体にわたってインナーライナー8が設けられている。本実施形態では、このインナーライナー8として上記耐空気透過性フィルムが用いられている。インナーライナー8は、図1中の拡大図に示すように、タイヤ内面側のゴム層であるカーカスプライ6の内面に貼り合わされており、より詳細には、カーカスプライ6のコードを被覆するトッピングゴム層の内面に貼り合わされている。
【0051】
本実施形態に係る耐空気透過性フィルムを用いた空気入りタイヤの製造方法としては、例えば、耐空気透過性フィルムをインナーライナーとして用いて、成形ドラムの外周にインナーライナーを筒状に装着し、その上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム及びサイドウォールゴムなどの各タイヤ部材を貼り重ね、インフレートすることによりグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が作製され、該グリーンタイヤをモールド内で加硫成形することにより、空気入りタイヤが得られる。
【0052】
なお、図1に示す例では、耐空気透過性フィルムをカーカスプライの内面側に設けたが、タイヤ内部からの空気の透過を防止して、タイヤの空気圧を保持することができる態様、即ち内圧保持のための空気透過抑制層として設けられるものであれば、例えば、カーカスプライの外面側などの種々の位置に設けることができ、特に限定されない。
【実施例
【0053】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
表1に示す配合(質量部)に従い、ゴム成分に対して、架橋剤、亜鉛華、ステアリン酸を70℃以下の温度でニーダーを用いて乾式混合し、ゴムペレット1~10を得た。
【0055】
表2~5に示す配合(質量部)に従い、得られたゴムペレット1~10と、熱可塑性樹脂とを、相溶化剤とともに、220℃の温度で2軸押出機(プラスチック工業研究所)を用いて溶融混練し、動的架橋させ、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られたペレットを、単軸押出機を用いて幅14cm、厚さ0.2mmに成型し、フィルムのサンプルを得た。
【0056】
表1~5中の各成分の詳細は以下の通りである。
・BR:宇部興産(株)製「UBEPOL BR150L」
・IIR:エクソンモービルケミカル社製「IIR268」
・架橋剤:田岡化学工業(株)製「タッキロール250-III」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・ナイロン6/66:DSM社製「Novamid 2020J」
・相溶化剤:住友化学(株)製「ボンドファーストE」
【0057】
得られた熱可塑性エラストマー組成物からなる各サンプルについて、低温耐久性、及び空気透過性を評価した。各評価方法は次の通りである。
【0058】
・低温耐久性:各サンプルを用いて、JIS K6270のダンベル3号形の試験片を作製し、-20℃の雰囲気下で、該ダンベル状の試験片をチャック間3cmにて挟み込み、5Hzの振動数で50%の繰り返し伸張をかけた。試験片の数は10個で10万回伸張後、フィルムの破断が起こったものの数を調べた。破断数が少ないほど、低温耐久性に優れる。
【0059】
・空気透過性:JIS K7126-1「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法」に準じて、試験気体:空気、試験温度:80℃にて測定される値である。この値が小さいほど、耐空気透過性に優れる。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
結果は、表1~5に示す通りであり、各実施例及び比較例の空気透過性の値は、5.0×1013fm/Pa・s以下であり、優れた耐空気透過性を有することが確認された。
【0066】
また、低温耐久性については、実施例1は、ゴム成分としてブチルゴムと架橋剤を含有するゴムペレット2を単独で用いた比較例1や、ブタジエンゴム及びブチルゴムと架橋剤を含有するゴムペレット5を用いた比較例2と比較し、低温耐久性が優れていた。
【0067】
実施例2は、ブタジエンゴム及びブチルゴムと架橋剤を含有するゴムペレット6を用いた比較例3と比較し、低温耐久性が優れていた。
【0068】
実施例3,4は、ブタジエンゴム及びブチルゴムと架橋剤を含有するゴムペレット7を用いた比較例4、ブタジエンゴム及びブチルゴムと、架橋剤及び亜鉛華を含有するゴムペレット9を用いた比較例5、ブタジエンゴム及びブチルゴムと、架橋剤、亜鉛華、及びステアリン酸を含有するゴムペレット10を用いた比較例6と比較し、低温耐久性が優れていた。
【0069】
実施例5は、ブタジエンゴム及びブチルゴムと架橋剤を含有するゴムペレット8を用いた比較例7と比較し、低温耐久性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物は、乗用車、ライトトラック、バス等の各種タイヤのインナーライナーに用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・空気入りタイヤ
2・・・ビード
3・・・サイドウォール
4・・・トレッド
5・・・ビードコア
6・・・カーカスプライ
7・・・ベルト
8・・・インナーライナー
図1