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特許6996914多孔質材料、ハニカム構造体、及び多孔質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】多孔質材料、ハニカム構造体、及び多孔質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20220107BHJP
   C04B 38/06 20060101ALI20220107BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20220107BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20220107BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20220107BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220107BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20220107BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20220107BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B38/06 E
C04B35/577
C04B35/596
B01J35/04 301P
B01D53/94 222
B01D39/20 D
B01D46/00 302
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017172072
(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公開番号】P2018197182
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2016208153
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017110016
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】坪井 美香
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203584(JP,A)
【文献】特開2015-067473(JP,A)
【文献】特開2004-136216(JP,A)
【文献】特表2011-514875(JP,A)
【文献】特表2016-523800(JP,A)
【文献】特開2015-174039(JP,A)
【文献】特開2018-199608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00 - 38/10
C04B 35/577
C04B 35/596
B01J 35/04
B01D 53/94
B01D 39/20
B01D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料であって、
粒子本体の表面に酸化膜が設けられた骨材と、
コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材間を結合する結合材と、
を備え、
前記多孔質材料がCeを含み、
前記結合材が、希土類成分(Ceを除く。)を含み、
前記希土類成分の少なくとも一部が、ASi(A:Y、Yb、ErまたはHo)として存在し、
Ceを除く前記希土類成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1~5.0質量%であり、
前記多孔質材料がアルカリ金属成分を含み、前記多孔質材料に含まれるアルカリ金属成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1質量%未満であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質材料であって、
前記粒子本体が、SiC粒子またはSi粒子であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項3】
請求項に記載の多孔質材料であって、
前記酸化膜が、クリストバライトを含むことを特徴とする多孔質材料。
【請求項4】
請求項に記載の多孔質材料であって、
前記クリストバライトの質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して3.0~25.0質量%であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の多孔質材料であって、
前記多孔質材料が、前記アルカリ金属成分としてNaまたはKを含むことを特徴とする多孔質材料。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の多孔質材料であって、
40℃を基準としたときの200℃における熱膨張係数が、5.5ppm/K以下であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の多孔質材料であって、
前記多孔質材料の断面における前記結合材のエッジにおいて、曲率が局所的に最大となる位置における接線方向に対して、前記結合材のエッジが立ち上がる角度の代表値が、0度よりも大きく、かつ、25度以下であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の多孔質材料により形成され、内部が隔壁により複数のセルに仕切られた筒状部材であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項9】
多孔質材料の製造方法であって、
a)骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物を成形して成形体を得る工程と、
b)不活性雰囲気下において1300~1600℃で前記成形体を焼成することにより、焼成体を得る工程と、
c)前記焼成体に対して酸化性雰囲気下において1150~1350℃で酸化処理を施すことにより、多孔質材料を得る工程と、
を備え、
前記多孔質材料が、
粒子本体の表面に酸化膜が設けられた骨材と、
コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材間を結合する結合材と、
を備え、
前記多孔質材料がCeを含み、
前記結合材が、希土類成分(Ceを除く。)を含み、
前記希土類成分の少なくとも一部が、ASi(A:Y、Yb、ErまたはHo)として存在し、
Ceを除く前記希土類成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1~5.0質量%であり、
前記多孔質材料がアルカリ金属成分を含み、前記多孔質材料に含まれるアルカリ金属成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1質量%未満であることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料、ハニカム構造体、及び多孔質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素粒子(SiC粒子)等の骨材を、コージェライトなどの酸化物相の結合材を用いて結合した複数の細孔を備える多孔質材料は、耐熱衝撃性等の優れた特性を有している。これらの多孔質材料を用い、隔壁によって区画形成された複数のセルを有するハニカム構造体を形成し、当該ハニカム構造体を触媒担体やDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)として、排気ガスの浄化処理等の種々の用途に用いることが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
なお、特許文献3では、骨材と、非晶質の結合材とを含有し、当該結合材が、結合材全体に対して、希土類酸化物を1.5~10.0質量%含有する多孔質材料が開示されている。特許文献4では、骨材と、結晶質のコージェライトを含む結合材とを含有し、当該結合材が、セリウム酸化物を1.5~10.0質量%含有する多孔質材料が開示されている。特許文献5では、炭化珪素粒子が相互に結合することによって形成された多孔体において、触媒が、当該炭化珪素粒子の表面に被覆形成されたクリストバライトからなる結晶質皮膜を介して担持されてなる排ガス浄化用炭化珪素質触媒体が開示されている。また、特許文献6では、触媒用支持体である成形セラミック基材では、ナトリウム含有量を低く維持することが、高い触媒活性を維持するために望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4111439号公報
【文献】特許第4227347号公報
【文献】特許第5926593号公報
【文献】特許第5922629号公報
【文献】特許第4404538号公報
【文献】特表2016-523800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ハニカム構造体にゼオライト等のSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を担持させる場合、触媒を含むスラリーの乾燥工程において、ハニカム構造体が200℃前後に加熱される。したがって、SCR触媒の担持を適切に行うには、ハニカム構造体を形成する多孔質材料において、高い耐熱衝撃性が求められる。また、ハニカム構造体は排気ガスに曝されるため、高い耐酸化性も求められる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、多孔質材料の耐酸化性および耐熱衝撃性を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多孔質材料は、粒子本体の表面に酸化膜が設けられた骨材と、コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材間を結合する結合材とを備え、前記多孔質材料がCeを含み、前記結合材が、希土類成分(Ceを除く。)を含み、前記希土類成分の少なくとも一部が、ASi(A:Y、Yb、ErまたはHo)として存在し、Ceを除く前記希土類成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1~5.0質量%であり、前記多孔質材料がアルカリ金属成分を含み、前記多孔質材料に含まれるアルカリ金属成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1質量%未満である。
【0012】
本発明のの好ましい形態では、前記粒子本体が、SiC粒子またはSi粒子である。
【0013】
この場合に、前記酸化膜が、クリストバライトを含むことが好ましい。
【0014】
より好ましくは、前記クリストバライトの質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して3.0~25.0質量%である。
【0016】
えば、前記多孔質材料が、前記アルカリ金属成分としてNaまたはKを含む。
【0017】
好ましい多孔質材料では、40℃を基準としたときの200℃における熱膨張係数が、5.5ppm/K以下である。前記多孔質材料の断面における前記結合材のエッジにおいて、曲率が局所的に最大となる位置における接線方向に対して、前記結合材のエッジが立ち上がる角度の代表値が、0度よりも大きく、かつ、25度以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るハニカム構造体は、上記多孔質材料により形成され、内部が隔壁により複数のセルに仕切られた筒状部材である。
【0019】
本発明に係る多孔質材料の製造方法は、a)骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物を成形して成形体を得る工程と、b)不活性雰囲気下において1300~1600℃で前記成形体を焼成することにより、焼成体を得る工程と、c)前記焼成体に対して酸化性雰囲気下において1150~1350℃で酸化処理を施すことにより、多孔質材料を得る工程とを備え、前記多孔質材料が、粒子本体の表面に酸化膜が設けられた骨材と、コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材間を結合する結合材とを備え、前記多孔質材料がCeを含み、前記結合材が、希土類成分(Ceを除く。)を含み、前記希土類成分の少なくとも一部が、ASi(A:Y、Yb、ErまたはHo)として存在し、Ceを除く前記希土類成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1~5.0質量%であり、前記多孔質材料がアルカリ金属成分を含み、前記多孔質材料に含まれるアルカリ金属成分の質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1質量%未満である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多孔質材料において、酸化膜により耐酸化性を向上することができる。また、高い機械的強度を確保しつつ熱膨張係数を低くして、耐熱衝撃性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】多孔質材料の構造を示す図である。
図2】多孔質材料の一例を示す写真である。
図3】比較例の多孔質材料の構造を示す図である。
図4】比較例の多孔質材料を示す写真である。
図5】立ち上がり角の測定を説明するための図である。
図6】多孔質材料を製造する処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態の多孔質材料、ハニカム構造体、及び多孔質材料製造方法の実施の形態についてそれぞれ説明する。なお、本発明の多孔質材料、ハニカム構造体、及び多孔質材料の製造方法は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0023】
(1)多孔質材料:
図1は、多孔質材料1の構造を模式的に示す図である。図2は、実際に製造した多孔質材料1の一例を示す図であり、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した写真である。図2では、鏡面研磨した多孔質材料1の断面を示している。
【0024】
本実施形態の多孔質材料1は、粒子本体21の表面に酸化膜22が設けられた骨材2と、細孔4を形成した状態で骨材2間を結合する結合材3とを具備して主に構成されるセラミックス材料である。後述するように、多孔質材料1では、高い機械的強度を確保しつつ熱膨張係数を低くして、耐熱衝撃性を向上することができる。また、酸化膜22により耐酸化性を向上することができる。多孔質材料1は、ハニカム構造体の作製に用いられる。
【0025】
骨材2および結合材3の合計質量に占める骨材2の質量の比率、すなわち、多孔質材料1の全体に対する骨材2の質量の比率は、50質量%以上である。換言すると、結合材3の質量の比率は、多孔質材料1の全体に対して50質量%以下である。好ましくは、結合材3の質量の比率は、多孔質材料1の全体に対して8.0質量%以上である。これにより、多孔質材料1においてある程度の機械的強度(典型的には、曲げ強度であり、以下、単に「強度」ともいう。)が確保される。多孔質材料1の強度をさらに向上するには、多孔質材料1における結合材3の比率が10.0質量%以上であることが好ましく、15.0質量%以上であることがより好ましい。多孔質材料1における結合材3の比率が40.0質量%を超えると、多孔質材料1において高気孔率を実現するための困難性が増大する。多孔質材料1において高気孔率を容易に実現するには、多孔質材料1における結合材3の比率が35.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがより好ましい。なお、多孔質材料1において、骨材2以外の物質は、原則として結合材3に含まれるものとする。
【0026】
多孔質材料1の典型例では、図1に模式的に示される断面微構造のように、骨材2と結合材3と細孔4の交わる三相界面の表面が“滑らかに結合した”状態で形成されている。ここで、三相界面の表面が“滑らかに結合している”とは、骨材2の間を結合する結合材3が、一方の骨材2と結合材3と細孔4の交わる三相界面(例えば、図1中の三相界面A(矢印参照))付近から、滑らかに、或いは、緩やかな曲線状(または曲面状)に変化しながら他方の骨材2の方向に向かって伸びて形成されているものである。図1において、一箇所の三相界面Aを示したが、これに限定されるものではなく、その他の骨材2と結合材3と細孔4の交わる三相界面は、図1においても複数存在している。
【0027】
本実施形態の多孔質材料1において、“三相界面”とは、厳密に言えば、図1に示すように、骨材2aや骨材2bと結合材3と細孔4とが交わる箇所に限定されるものの、本明細書において、骨材2の表面が結合材3によって薄く覆われ、骨材2の表面と細孔4とが近接した状態のものも含むものとする。
【0028】
本実施形態の多孔質材料1の場合、骨材2を固体、高温の焼成時の結合材3の少なくとも一部が液体の状態となると仮定すると、固体の骨材2の表面(固相表面)に対し、液体の結合材3は接触角が小さな状態で付着し、係る状態を保ったままで焼成を完了し、冷却されることで、上記図1に示すような微構造とすることができる。
【0029】
これにより、骨材2の一部(若しくは大部分)が結合材3によって被覆された状態となる。その結果、骨材2の角張ったエッジ部分が当該結合材3に被覆されることで、全体として幾分丸みを帯びた形状となる。更に、これらの骨材2及び結合材3が接する細孔4のエッジ形状も曲線的なものとなる。このように、特に骨材2、結合材3、及び細孔4の交わる三相界面で曲線部分を多く含んだ状態の構造を、本明細書中において、“滑らかに結合”した状態として表現するものとする。
【0030】
図3は、比較例の多孔質材料10の構造を模式的に示す図である。図4は、実際に製造した比較例の多孔質材料10を示す図であり、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した写真である。比較例の多孔質材料10では、結合材12が、後述のイットリウム成分5を含まない点で、図1の多孔質材料1と相違する。
【0031】
比較例の多孔質材料10の断面微構造の場合、直線的な鋭いエッジを有する角張った骨材11がそのまま観察され、更に、骨材11同士を結合する結合材12は、骨材11と結合材12と細孔13の交わる三相界面B付近(図3における矢印参照)において、直線的な形状で他方の骨材11に向かって延びている。したがって、上記に定義したような“滑らかに結合”した状態のものではない。更に、骨材11の表面の大部分(例えば、50%以上)は、細孔13と接しており、本実施形態の多孔質材料1のように、結合材3によって骨材2の表面の大部分(例えば、50%以上)が被覆され、細孔4と結合材3とが接するものでない。
【0032】
すなわち、比較例の多孔質材料10の場合、本実施形態の多孔質材料1と比較して、結合材12が骨材11の界面付近で曲線的な形状を示すものではなく、その骨材11及び細孔13の形状も丸みを帯びたものではなく、角張った部分や直線的に構成されたり、或いはいびつな形状で構成されたりしているものが多い。本実施形態の多孔質材料1は、微構造の点において比較例の多孔質材料10と大きく相違する。
【0033】
本実施形態の多孔質材料1は、骨材2と結合材3と細孔4の交わる三相界面が滑らかに結合し、骨材2及び結合材3の接触面積が大となることが予想される。その結果、骨材2及び結合材3の間の結合力を高くすることができ、多孔質材料1中のそれぞれの骨材2及び結合材3のそれぞれの界面における結合力が増すことで、多孔質材料1の全体としての強度(機械的強度)が高くなる。
【0034】
図1に示すように、“滑らかに結合”した微構造を有する多孔質材料1は、鋭いエッジで構成される微構造の多孔質材料10(図3参照)と比較すると、エッジの部分に掛かる応力集中を曲線的な形状によって緩和することができる。そのため、多孔質材料1の全体としての強度が高くなる。
【0035】
ここで、多孔質材料1の上記微構造の定量化について説明する。多孔質材料1では、鏡面研磨した断面を示す画像において、結合材3と細孔4との境界線(以下、単に「結合材のエッジという。)が丸みを帯びた形状となる。したがって、上記微構造の定量化の一例では、結合材3のエッジの丸みが数値化される。具体的には、まず、樹脂で包含した多孔質材料1を鏡面研磨して得られる断面を、走査型電子顕微鏡により1500倍の倍率で撮像することにより、反射電子像である画像が得られる。画像の倍率は、適宜変更されてよい。図5では、当該画像の一部を示している。
【0036】
続いて、当該画像において、結合材3のエッジ上の測定位置P1が特定される。測定位置P1は、結合材3のエッジにおいて、曲率が局所的に最大となる位置である。多孔質材料1の上記微構造では、2つの骨材2間を結合する結合材3のエッジが、一方の骨材2における三相界面付近と、他方の骨材2における三相界面付近との間で凹状となる。典型的には、これらの三相界面の間では、結合材3のエッジの傾きが連続的に変化し、角張った部分はほとんどない。測定位置P1の一例は、結合材3のエッジにおいて、これらの三相界面の間における最大の曲率の位置である。なお、比較例の多孔質材料10では、結合材12のエッジが丸みを帯びた形状とならないため、結合材12のエッジにおいて、窪んだ部位の頂部が測定位置P1として特定される。
【0037】
続いて、図5に示すように、測定位置P1における結合材3のエッジに対する接線方向を示す直線が、基準線L1として設定される。また、測定位置P1の近傍において、測定位置P1から結合材3のエッジに沿って一方側に向かって立ち上がる直線が、立ち上がり線L2として設定される。立ち上がり線L2は、例えば、結合材3のエッジにおいて、測定位置P1から一方側に所定の微小距離(例えば、1~5μm)だけ離れた位置と、測定位置P1とを結ぶ直線である。そして、基準線L1と立ち上がり線L2とがなす角度が、立ち上がり角θとして取得される。このように、立ち上がり角θは、多孔質材料1の任意の断面における結合材3のエッジにおいて、曲率が局所的に最大となる測定位置P1における接線方向に対して、結合材3のエッジが測定位置P1から立ち上がる角度を示す。
【0038】
例えば、複数の測定位置P1を特定して複数の立ち上がり角θが求められ、これらの平均値が、エッジの立ち上がり角の代表値として求められる。上記微構造を有する多孔質材料1では、典型的には、立ち上がり角の代表値が、0度よりも大きく、かつ、25度以下となる。一方、比較例の多孔質材料10では、結合材12のエッジが丸みを帯びた形状とならず、結合材12のエッジにおいて窪んだ部位の頂部が測定位置P1として特定されるため、立ち上がり角の代表値が、25度よりも大きくなる。立ち上がり角の代表値は、平均値以外に、中央値等であってもよい。また、立ち上がり角の代表値を求める際に、特定される測定位置P1の個数は、好ましくは5個以上である(例えば、100個以下)。
【0039】
本実施形態の多孔質材料1では、骨材2同士を結合するために用いられる結合材3がイットリウム(Y)成分5を含むことにより、上記の微構造が得られている。多孔質材料1において、骨材2と結合材3と細孔4の交わる三相界面の表面が滑らかに結合した状態は、必ずしも明確でなくてもよい。換言すると、多孔質材料1における結合材3の質量比率や、骨材2の粒子径等によっては、上記三相界面の表面が滑らかに結合した状態が不明確となることも想定される。このような場合でも、上記Y成分5を結合材に含む多孔質材料1では、機械的強度を高くすることができる。
【0040】
Y成分5のイットリウム源として、各種酸化物(Y等)や各種イットリウム塩等を用いることができる。複数種類のイットリウム源が用いられてもよい。Y成分5が予め規定された比率で結合材3に含まれることで、典型的には、三相界面の表面が滑らかに結合した状態とすることができる。その結果、上記に示すような、微構造を有する高強度の多孔質材料1を得ることが可能となる。
【0041】
好ましくは、結合材3に含まれるY成分5の質量比率は、多孔質材料1の全体に対し、酸化イットリウム(Y)換算で0.1~15.0質量%(すなわち、0.1質量%以上かつ15.0質量%以下であり、以下同様である。)の範囲に設定される。Y成分5の質量比率がY換算で0.1質量%より低い場合、Y成分5による効果が乏しく、骨材2及び結合材3の三相界面が“滑らかに結合した”状態となりにくくなる。
【0042】
一方、多孔質材料1の全体に対するY成分5の質量比率が、Y換算で15.0質量%より高い場合、焼成時において、液化する結合材3の量が過度に多くなることが予想される。前述したとおり、焼成時に高温の焼成温度に晒される結合材3は、その一部が液化すると想定される。そのため、多くの結合材3が液化することで、その一部が発泡を生じる可能性がある。これにより、結合材3の中に発泡による気泡が生じやすくなり、これが冷えて固まることにより、結合材3の中に複数の空隙(図示しない)が発生する可能性がある。その結果、骨材2及び結合材3の間に生じた空隙によって、骨材2-結合材3の間の結合力が弱くなり、多孔質材料1の強度が低下する可能性がある。したがって、結合材3に含まれるY成分5の質量比率は、上記数値の範囲内に設定されることが好ましい。多孔質材料1の強度をさらに向上するには、Y成分5の質量比率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。同様に、Y成分5の質量比率は、10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。結合材3の質量に占めるY成分5の質量の比率は、例えば1.0~20.0質量%であり、好ましくは3.0~12.0質量%である。
【0043】
多孔質材料1の一例では、結合材3に含まれるY成分5の少なくとも一部が、YSi結晶相として存在する。YSi相は、多孔質材料1の製造における後述の焼成処理および酸化処理で生成される。YSiの質量比率は、多孔質材料1の全体に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。YSiの質量比率は、例えば10.0質量%以下である。結合材3は、必ずしもYSi相を含む必要はなく、Y成分5は、結合材3の他の結晶相に固溶していてもよい。もちろん、Y成分5は、複数種類の結晶相に含まれてもよく、非晶質相に含まれてもよい。
【0044】
好ましい多孔質材料1では、結合材3が、結合材3の全体に対して、コージェライトを50質量%以上含む、すなわち、結合材3が、コージェライトを主成分とする。結合材3の全体に対するコージェライトの質量比率の上限値は、例えば、90質量%である。また、結合材3における非晶質成分は、50質量%未満であることが好ましい。多孔質材料1では、Y成分5、酸化アルミニウム(Al)、二酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)以外の成分が結合材3に含まれていてもよい。
【0045】
本実施形態の多孔質材料1は、上記の通り、Y成分5を結合材3に含むことで、典型的には、骨材2及び結合材3が上記の微構造を備えることとなり、多孔質材料1の全体としての強度が向上する。そして、曲げ強度は、少なくとも5.5MPa以上となる。これにより、多孔質材料1を用いて触媒担体等の他の製品を作製する場合、実用上の十分な強度を有することになる。なお、曲げ強度は、例えば、0.3mm×4mm×20~40mmの試験片をそれぞれ作製し、JIS R1601に準拠した三点曲げ試験等を行うことによって測定し、評価することができる。
【0046】
また、多孔質材料1は、Y成分5を結合材3に含むことにより、熱膨張係数が低下する。好ましい多孔質材料1では、40℃を基準としたときの200℃における熱膨張係数(以下、「40-200℃の熱膨張係数」という。)が、5.5ppm/K(すなわち、5.5×10-6/K)以下となる。より好ましい多孔質材料1では、当該熱膨張係数が、5.0ppm/K以下となる。後述するように、YSiの熱膨張係数は、Yよりも低いため、YSiを含む多孔質材料1では、熱膨張係数が低くなる。当該熱膨張係数は低いほど好ましいが、例えば、当該熱膨張係数の下限値は、1.0ppm/Kである。熱膨張係数は、例えば、ハニカム構造体から縦3セル×横3セル×長さ20mmの試験片を切り出し、JIS R1618に準拠する方法で、40~200℃のA軸方向(ハニカム構造体の流路に対して平行方向)の熱膨張係数を測定した値である。ハニカム構造体にゼオライト等のSCR触媒を担持させる場合、触媒を含むスラリーの乾燥工程において、ハニカム構造体が200℃前後に加熱される。40-200℃の熱膨張係数が低いハニカム構造体(多孔質材料1)では、耐熱衝撃性が高くなり、SCR触媒の担持を適切に行うことが可能となる。
【0047】
本発明の多孔質材料1は、平均細孔径の下限値が10μmであることが好ましく、15μmであることが更に好ましい。また、平均細孔径の上限値は、40μmであることが好ましく、30μmであることが更に好ましい。平均細孔径が10μm未満であると、圧力損失が大きくなることがある。平均細孔径が40μmを超えると、本発明の多孔質材料をDPF等として用いたときに、排ガス中の粒子状物質の一部が捕集されずにDPF等を通過することがある。本明細書において、平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R1655準拠)で測定した値である。
【0048】
本発明の多孔質材料1は、細孔径10μm未満の細孔が細孔全体の20%以下であり、細孔径40μmを超える細孔が細孔全体の10%以下であることが好ましい。細孔径10μm未満の細孔が細孔全体の20%を超えると、細孔径10μm未満の細孔は触媒を担持する際に詰まりやすいため、圧力損失が拡大し易くなることがある。細孔径40μmを超える細孔が細孔全体の10%を超えると、細孔径40μmを超える細孔は粒子状物質が通過し易いため、DPF等のフィルタ機能を十分に発揮し難くなることがある。
【0049】
なお、多孔質材料1を用い、ハニカム形状のハニカム構造体(図示しない)を作製した場合、当該ハニカム構造体の強度(ハニカム曲げ強度)は、少なくとも4.0MPa以上のハニカム曲げ強度で構成することが望ましい。これにより、十分な強度を有するハニカム構造体を用いて触媒担体やDPF等の製品を構築することができ、大きな力学的負荷が加わる等の過酷な使用環境での使用に耐え得ることができる。更に、ハニカム構造体の大型化に対する要求にも応えることができる。
【0050】
既述のように、本実施形態の多孔質材料1の骨材2は、粒子本体21を含む。典型的には、粒子本体21は、一種類の物質から構成される。粒子本体21は、例えば、炭化珪素(SiC)の粒子である。当該粒子本体21を構成する物質は、好ましくは、非酸化物であり、炭化珪素以外に、窒化珪素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)等であってもよい。例えば、骨材2の粒子本体21は、多孔質材料1を構成する物質において、最も量が多い物質の粒子である。
【0051】
骨材2は、粒子本体21の表面(周囲と捉えられてもよい。)に設けられた酸化膜22をさらに含む。好ましくは、各骨材2は、粒子本体21および酸化膜22から構成される。ここで、酸化膜は、非酸化物を粒子本体21に用いた際に、酸化性雰囲気における熱処理を経て形成された、粒子本体21表面の酸化物層を示す。骨材2の粒子本体21をSiC粒子またはSi粒子とした場合、上記酸化膜22は、SiOにより形成される。粒子本体21の表面に酸化膜22が設けられることにより、多孔質材料1の耐酸化性が向上する。例えば、多孔質材料1を自動車排ガス浄化触媒担体として用いた場合、優れた耐酸化性が得られる。
【0052】
酸化膜22はクリストバライト相を含むことが好ましい。クリストバライトの質量の比率は、多孔質材料1の全体に対して例えば3.0~25.0質量%であり、好ましくは5.0~22.0質量%であり、より好ましくは7.0~20.0質量%である。クリストバライトの質量の比率が、多孔質材料1の全体に対して3.0質量%より低い場合には、骨材表面の酸化膜層の厚さが薄くなり、高温下での耐酸化性が劣る。25.0質量%より高い場合、熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性に劣る。骨材2の質量に占めるクリストバライトの質量の比率は、例えば5.0~35.0質量%であり、好ましくは、8.0~30.0質量%である。クリストバライトは、低温相であるα相と、高温相であるβ相とを含む。α相の質量比率をβ相の質量比率で割った値(α相/β相)は、2.0以上であることが好ましい(例えば4.0以下)。または、クリストバライトの全体に対するα相の質量比率が65.0質量%以上であることが好ましい(例えば80.0質量%以下)。クリストバライトのα相からβ相への相転換は150~350℃の温度範囲で生じるため、骨材が酸化膜を有する多孔質材料では、熱膨張係数が高くなりやすい。しかしながら、本実施形態の多孔質材料1では、結合材3がY成分5を含むことにより、低い熱膨張係数が実現される。
【0053】
以下の説明において、本実施形態の多孔質材料1及び当該多孔質材料1を用いて形成されたハニカム構造体(図示しない)は、主としてSiC粒子を骨材2の粒子本体21として使用した例を説明する。骨材2の粒子本体21がSi粒子等で構成されるものであっても、多孔質材料1及びハニカム構造体の各種条件は同一とすることができる。
【0054】
ハニカム構造体に用いられる多孔質材料1では、高い気孔率(ここでは、開気孔率)も求められる。多孔質材料1において高気孔率を容易に実現するには、骨材2の平均粒子径は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。多孔質材料1において過度に大きい細孔4が多く存在することを避けるには、骨材2の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。平均粒子径はレーザー回折法で測定可能である(以下同様)。
【0055】
加えて、本実施形態の多孔質材料は、焼成後の多孔質材料1に含まれるナトリウム(Na)及びカリウム(K)を含むアルカリ金属成分の合計質量の比率が、多孔質材料1全体に対して酸化物換算で0.1質量%未満(0質量%以上)に設定されている。骨材2を形成するための骨材原料及び結合材3を形成するための結合材原料の中には、微量のナトリウムまたはカリウム等のアルカリ金属成分が存在している。
【0056】
ナトリウム等のアルカリ金属成分は、一般に多孔質材料の長期耐久性を低下させる要因となることが知られている。そのため、多孔質材料に含まれるアルカリ金属成分をできるだけ抑えるような試みがなされている。そこで、本実施形態の多孔質材料1においても、焼成後の多孔質材料1に含まれるナトリウム等のアルカリ金属成分の(合計)質量比率を上記範囲に設定している。これにより、多孔質材料1の長期耐久性を向上させることができる。
【0057】
また、多孔質材料1(ハニカム構造体)に、ゼオライト等のSCR触媒を担持させて使用する場合に、多孔質材料がアルカリ金属成分を含むときには、高温でのエージング(熱処理)によりNOx浄化性能が低下することが知られている。アルカリ金属成分の質量比率を0.1質量%未満とすることにより、上記エージングによるNOx浄化性能の低下を抑制することが可能となる。
【0058】
アルカリ金属成分の質量比率を0.1質量%未満とする場合において、仮に、Y成分5を結合材3に含めないときには、既述の比較例の多孔質材料10のように、上記三相界面が滑らかに結合した状態とならず、多孔質材料の強度が低くなる。これに対し、本実施の形態に係る多孔質材料1では、アルカリ金属成分の質量比率を0.1質量%未満としつつ、結合材3にY成分5を含めることにより、高強度を確保することができる。後述するように、結合材3がY成分5以外の希土類成分(Ceを除く。)を含む場合も同様である。
【0059】
既述のように、多孔質材料1の一例では、焼成によりYSiが生成されるが、アルカリ金属成分の質量比率が0.1質量%以上となると、アルカリ金属成分が、Y成分を含む結合材中の成分と非晶質相を形成しやすくなり、当該Y成分も非晶質相に含まれやすくなる。アルカリ金属成分を0.1質量%未満とすることで、非晶質相が形成されにくくなり、結合材中のY成分が非晶質相に含まれることが抑制される。その結果、YSiの結晶相が形成されやすくなる。後述する他の希土類シリケートが生成される場合において同様である。
【0060】
ここで、多孔質材料1の曲げ強度やハニカム構造体のハニカム曲げ強度は、多孔質材料1自体の気孔率(開気孔率)によって影響を受けることが一般的に知られている。そこで、多孔質材料1及び多孔質材料1から形成されるハニカム構造体では、開気孔率の下限値は、40%であることが好適である。当該下限値は、50%であることがより好適であり、55%であることがより一層好適である。一方、開気孔率の上限値は、90%であることが好適であり、更に上限値が70%であることが好適である。ここで、開気孔率が40%未満の場合、圧力損失が大きくなり、DPF等の製品として使用した場合の製品性能に及ぼす影響が大きい。一方、開気孔率が50%以上の場合、DPF等の使用が特に好適な低圧力損失の特性を有する。
【0061】
更に、開気孔率が90%を超える場合、多孔質材料1の強度が低下し、DPF等の製品として使用した場合の実用上の十分な強度を確保することができない。一方、開気孔率が70%以下であれば、DPF等の製品に使用することが特に好適である。なお、開気孔率の算出方法の詳細については後述する。
【0062】
本実施形態の多孔質材料1において、結合材3に含まれるY成分5は、セリウム(Ce)を除く他の希土類成分であってもよい。すなわち、Y成分に代えて、当該他の希土類成分が結合材3に含まれてもよい。この場合も、上記微構造が得られ、多孔質材料1の機械的強度が高くなる。以下の説明では、Ceを除く希土類成分を、単に「希土類成分」という。また、希土類成分は、一成分に限定されるものではなく、二成分以上の複数の成分を所定の混合比率で加えるものであっても構わない。希土類成分は、Ceを除く、少なくとも一種の希土類元素の集合である。希土類成分が一種の希土類元素である場合のみならず、複数種の希土類元素の集合である場合も、希土類成分の質量比率(合計質量の比率)は、多孔質材料1の全体に対し酸化物換算で0.1~15.0質量%であることが好ましい。例えば、希土類成分は、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)およびホルミウム(Ho)からなる群から選択される少なくとも一種を含む。Y、Yb、ErおよびHoの酸化物は、それぞれY、Yb、ErおよびHoである。希土類成分は、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)であってもよく、この場合、これらの酸化物は、それぞれLa、Pr11、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Tm、Luである。上記のY成分5についての記載は、他の希土類成分を採用する場合において同様である。
【0063】
ここで、Yのような希土類酸化物の熱膨張係数は、例えば7~10ppm/Kであるのに対し、YSiのような希土類シリケート(珪酸塩)の熱膨張係数は、例えば3~4ppm/Kであり、上記酸化物よりも低い。したがって、結合材3中の希土類元素とSi成分が反応し、希土類シリケートを形成する場合、多孔質材料1全体の熱膨張係数がさらに低くなる。このような希土類シリケートとして、YSi以外に、YbSi、ErSi、HoSiが例示される。このように、多孔質材料1の熱膨張係数を低くするには、結合材3に含まれる希土類成分の少なくとも一部が、ASi(A:Y、Yb、ErまたはHo)として存在することが好ましい。
【0064】
また、多孔質材料1では、酸化膜22が希土類成分(Ceを除く。)を含む場合もある。この場合も、多孔質材料1の耐酸化性を向上しつつ、熱膨張係数を低くすることが可能となる。具体的には、酸化膜22の一部、例えば、酸化膜22の結晶中に希土類成分が分布する。この場合、典型的には、当該希土類成分が、酸化膜成分であるSiO、および、結合材成分を巻き込んで、非晶質相として酸化膜22中に存在する。換言すると、酸化膜22におけるクリストバライトの一部が、希土類成分を含む非晶質物質に置換される。
【0065】
ここで、クリストバライトでは、150~350℃の温度範囲において相転移に伴う急激な体積変化が生じる。上記のように、酸化膜22におけるクリストバライトの一部を、希土類成分を含む非晶質物質に置換することにより、クリストバライトの上記体積変化に起因して熱膨張係数が高くなることを抑制することが可能となる。すなわち、クリストバライト量の低減により、熱膨張係数を低くして、耐熱衝撃性を向上することができる。また、残りのクリストバライト、および、希土類酸化物を含む上記非晶質物質により、多孔質材料1の耐酸化性も確保される。さらに、多孔質材料1では、希土類成分が、クリストバライトの結晶構造の中に固溶した状態であってもよい。この場合、クリストバライトの結晶構造が安定化し、上記の相転移に伴う体積変化を抑制することが可能となる。その結果、熱膨張係数が高くなることを抑制することができる。以上のように、酸化膜22が希土類成分を含む場合には、上記希土類シリケート(ASi)の存在の有無にかかわらず、熱膨張係数を低くすることが可能である。もちろん、酸化膜22が希土類成分を含む場合に、当該希土類成分が結合材3にも含まれてもよく、希土類シリケートが存在してもよい。
【0066】
酸化膜22が希土類成分(Ceを除く。)を含む場合も、当該希土類成分の質量比率(合計質量の比率)は、多孔質材料1の全体に対し酸化物換算で0.1~15.0質量%であることが好ましい。酸化膜22に含まれる希土類成分は、例えば、ジスプロシウム(Dy)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)およびガドリニウム(Gd)からなる群から選択される少なくとも一種を含む。Dy、La、NdおよびGdの酸化物は、それぞれDy、La、NdおよびGdである。
【0067】
(2)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体(図示しない)は、上述した本実施形態の多孔質材料1を用いて構成される。ハニカム構造体は、「一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル」を区画形成する隔壁を備える。すなわち、ハニカム構造体は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られた筒状部材である。当該セルは流体の流路として機能するものである。ハニカム構造体の構造及び形状等については、既に周知であり、本実施形態の多孔質材料1を用いて任意の構造及びサイズのものを構築することができ、例えば、最外周に外周壁を有する構造であってもよい。また、隔壁の厚さの下限値は、例えば、30μmが好ましく、50μmが更に好ましい。隔壁の厚さの上限値は、1000μmが好ましく、500μmが更に好ましく、350μmが特に好ましい。セル密度の下限値は、10セル/cmが好ましく、20セル/cmが更に好ましく、50セル/cmが特に好ましい。セル密度の上限値は、200セル/cmが好ましく、150セル/cmが更に好ましい。
【0068】
更に、ハニカム構造体の形状としては、特に限定されず、従来から周知の円柱状、底面が多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)の角柱状等を挙げることができる。加えて、ハニカム構造体のセルの形状は、特に限定されない。例えば、セルの延びる方向(軸方向)に直交する断面におけるセル形状としては、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)、円形、またはこれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0069】
加えて、ハニカム構造体の大きさは、用途に合わせて適宜決定することができる。本実施形態のハニカム構造体は、高強度の特性を有する本実施形態の多孔質材料1を用いて構成されるため、特に力学的負荷に対する耐性を備えている。そのため、大型のDPF等を構築するための大型ハニカム構造体を構成することもできる。例えば、ハニカム構造体の体積が10cm~2.0×10cm程度のものを想定することができる。
【0070】
本実施形態のハニカム構造体は、既に示したように、DPFや触媒担体として用いることができる。また、DPFに触媒を担持することも好ましい態様である。本実施形態のハニカム構造体をDPF等として使用する場合には、以下のような構造であることが好ましい。すなわち、一方の端面における所定のセルの開口部及び他方の端面における残余のセルの開口部、に配設された目封止部を備えるものであることが好ましい。両端面において、目封止部を有するセルと目封止部を有さないセルとが交互に配置され、市松模様が形成されていることが好ましい。
【0071】
(3)多孔質材料(ハニカム構造体)の製造方法:
本発明の多孔質材料の製造方法について、以下に説明する。図6は、多孔質材料1を製造する処理の流れを示す図である。なお、以下に説明する多孔質材料の製造方法は、多孔質材料によって構成されるハニカム形状を呈するハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法でもある。
【0072】
始めに、骨材2の原料となる粉末状の炭化珪素と、焼成によって結合材3が生成する粉末状の結合材原料とを混合し、必要に応じて、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する(成形原料調製工程)。好ましくは、不純物としてのアルカリ金属成分が少ない原料が用いられる。このとき、添加する水の中に、予め規定された含有率に調製された粉末状の酸化イットリウム(Y)等を希土類成分(ここでは、Y成分5)の原料として成形原料中に加える(含める)。なお、希土類成分を加える方法は、上記手法に限定されるものではなく、例えば、バインダ等のその他の成分と同様に、粉末の状態で炭化珪素や結合材原料に直接投入するものであってもよい。正確には、希土類成分(の原料)も結合材原料の一部である。希土類成分の添加では、希土類酸化物を添加してもよく、希土類の炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩を添加してもよい。また、希土類シリケートを添加してもよい。
【0073】
結合材原料は、酸化アルミニウム(Al)成分と、二酸化珪素(SiO)成分と、酸化マグネシウム(MgO)成分とを含む。上記した結合材原料を焼成することで、結合材3の主成分となる「コージェライト」が生成する。焼成によりコージェライト結晶が生成するコージェライト化原料としては様々なものが利用可能である。成形原料において、骨材原料および結合材原料の合計質量(すなわち、無機原料の合計質量)を100質量%とした場合、結合材原料の質量比率は、例えば8.0~40.0質量%である。また、当該合計質量における希土類成分の質量比率は、酸化物換算で例えば0.1~15.0質量%である。
【0074】
更に、バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の周知の有機バインダを挙げることができる。特に、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、例えば、成形原料全体に対して2~10質量%であることが好ましい。
【0075】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種類の界面活性剤のみを使用するものであっても、二つ以上の種類の界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して、例えば、2質量%以下であることが好ましい。
【0076】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して、例えば、40質量%以下であることが好ましい。また、造孔材の平均粒子径の下限値は10μmであることが好ましく、特に、造孔材の平均粒子径の上限値は30μmであることが好ましい。ここで、造孔材の平均粒子径が10μmより小さいと、多孔質材料1における気孔(細孔4)を十分形成できないことがある。一方、造孔材の平均粒子径が30μmより大きいと、押出成形を行う口金に成形原料(坏土)が詰まる可能性がある。なお、上記した造孔材の平均粒子径は、レーザー回折方法等で測定することができる。また、造孔材として、吸水性樹脂が使用される場合には、当該平均粒子径は吸水後の吸水性樹脂を測定した値である。
【0077】
成形原料に加えられる水は、押出成形等の成形加工が容易な坏土硬度となるように適宜調整することができる。例えば、成形原料全体に対して、20~80質量%の水を添加することが好適である。
【0078】
次に、各成分を規定量投入することで得られた前述の成形原料を混練し、坏土を形成する。このとき、坏土の形成には、ニーダー、真空土練機等を用いることができる。
【0079】
その後、混練された坏土を押出成形してハニカム成形体を形成する(成形体形成工程)。ここで、坏土を押出成形するためには、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を取付けた押出成形機が主に用いられる。ここで、なお、口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。ハニカム成形体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有する構造である。ハニカム成形体の隔壁厚さ、セル密度、外周壁の厚さ等は、乾燥、焼成における収縮を考慮し、作製しようとするハニカム構造体の構造に合わせて適宜決定することができる。以上のように、骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物を成形することにより、成形体が得られる(ステップS11)。
【0080】
このようにして得られたハニカム成形体を焼成工程の前に乾燥させることが好ましい(乾燥工程)。ここで、乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。更に、電磁波加熱方式及び外部加熱方式を併用するものであってもよい。例えば、ハニカム成形体の全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥するために、始めに電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させる二段階の乾燥を行うものであってもよい。この場合、乾燥の条件として、電磁波加熱方式を用いて、乾燥前の水分量に対して30~99質量%の水分を除去した後、外部加熱方式を用いて、3質量%以下になるまで水分の除去をするものであってもよい。なお、電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好適であり、一方、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好適である。
【0081】
更に、乾燥後のハニカム成形体に対して、ハニカム成形体のセルの延びる方向(軸方向)における長さ(ハニカム長さ)が、所望の長さではない場合は、両端面(両端部)を切断して所望の長さにしてもよい(切断工程)。切断方法は特に限定されないが、周知の丸鋸切断機等を用いる方法を挙げることができる。
【0082】
次に、ハニカム成形体を焼成することにより、焼成体が得られる(ステップS12)。ここでは、焼成の前に、バインダ等を除去するため、仮焼を行うことが好ましい(仮焼成工程)。仮焼は、大気雰囲気において、200~600℃で、0.5~20時間行うことが好ましい(脱脂工程)。焼成は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気(例えば、酸素分圧が10-4気圧以下である非酸化雰囲気下)で行うことが好ましい(本焼成工程)。焼成温度の下限値は1300℃であることが好ましく、1350℃であることがより好ましい。焼成温度の上限値は1600℃であることが好ましく、1500℃であることがより好ましい。焼成時の圧力は常圧であることが好ましい。焼成時間の下限値は、1時間であることが好ましい。焼成時間の上限値は、20時間であることが好ましい。
【0083】
焼成工程の後、焼成体に対して酸化性雰囲気下での熱処理(酸化処理)が施されることにより、ハニカム構造体である多孔質材料が得られる(ステップS13)。酸化性雰囲気は、例えば大気雰囲気(水蒸気を含んでいてもよい。)である。既述のように、本製造例では、骨材原料は、非酸化物であるSiC粒子を含んでおり、酸化処理を行うことにより、細孔に露出したSiC表面に酸化膜が形成される。これにより、多孔質材料を例えばDPF等の自動車排ガス浄化触媒担体に用いた場合、優れた耐酸化性が得られる。酸化膜は、SiC表面において結合材に覆われる部位に形成されることもある。酸化処理の温度の下限値は1150℃であることが好ましく、1200℃であることがより好ましい。酸化処理の温度の上限値は1350℃であることが好ましく、1300℃であることがより好ましい。酸化処理の温度を変更することにより、酸化膜を構成するクリストバライトの質量比率を調整することが可能である。酸化処理の時間の下限値は、1時間であることが好ましい。酸化処理の時間の上限値は、20時間であることが好ましい。なお、仮焼、焼成及び酸化処理は、例えば、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。
【0084】
次に、実施例について述べる。ここでは、実施例1~6、並びに、比較例1~3として、表1中に示す条件にて多孔質材料(ハニカム構造体)を作製した。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例1~6、並びに、比較例1~3)
まず、骨材原料である粉末状の炭化珪素(SiC)と、粉末状の結合材原料とを混合して「ベース粉末」を作製した。ベース粉末における骨材原料の質量比率、および、結合材原料の質量比率は、表1中の「無機原料」に示す通りである。なお、「無機原料」における「SiC」が骨材原料であり、残りが結合材原料である。いずれもベース粉末の全体に対する質量比率を示している。
【0087】
更に、上記調製されたベース粉末に、造孔材として吸水性樹脂およびデンプン、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、さらに、水を添加して「成形原料」とした。なお、ベース粉末を100質量%とした場合に、吸水性樹脂は5.0質量%、デンプンは28質量%、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは7.0質量%添加した。その後、ニーダーを用いて混練し、可塑性の坏土(成形原料)を得た。
【0088】
次に、得られた坏土(成形原料)を真空土練機を用いて円柱状(シリンダー状)に成形加工し、得られた円柱状の坏土を押出成形機に投入し、ハニカム状のハニカム成形体を押出成形によって得た。得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥した後、更に熱風乾燥機を用いて80℃で12時間乾燥する二段階の乾燥を実施することで未焼成のハニカム乾燥体を得た。
【0089】
その後、得られたハニカム乾燥体の両端部を切断し、所定の長さ(ハニカム長さ)に整えた後、始めに大気雰囲気下で450℃の加熱温度で脱脂する脱脂処理を行い(仮焼成工程)、更に、不活性ガス雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)で1400℃~1450℃の焼成温度で焼成し、更に大気中で1230℃~1270℃の温度で酸化処理を行った(表1参照)。これにより、実施例1~6、並びに、比較例1~3のハニカム構造の多孔質材料(ハニカム構造体)を得た。
【0090】
実施例1~3では、セリウム(Ce)を除く希土類成分として酸化イットリウム(Y)を添加するとともに、Yの添加量を変更している。また、二酸化セリウム(CeO)も添加している。実施例4および5では、それぞれ実施例2および3から酸化処理の温度のみを相違させている。実施例6では、CeOを添加することなく、Yのみを添加している。比較例1では、CeOを添加するとともに、ナトリウム(Na)含有率が高い原料を用いている。比較例2では、CeOを添加するとともに、炭酸ストロンチウム(SrCO)をさらに添加している。比較例3では、SrCOのみを添加している。比較例1~3では、Ceを除く希土類成分は添加していない。
【0091】
(多孔質材料の各種測定)
作製した多孔質材料に対して、SiC、SiO、MgO、Al、CeO、Y、SrO、NaOおよびFeの各成分の質量比率を、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法で定量した。実施例1~6、並びに、比較例1~3の多孔質材料に対する定量結果を表2に示す。ここでCのみ、JIS-Z2615(金属材料の炭素定量方法)、2616(金属材料の硫黄定量方法)に基づく、酸素気流中燃焼-赤外線吸収方式を用いて定量した。このCが全て骨材の粒子本体であるSiC由来であるものとしてSiCの質量比率を算出し、ICP発光分光法にて定量したSiからSiCを除いた残りのSi成分をSiO由来であるものとして、多孔質材料全体に含まれるSiOの質量比率を得た。実施例1~6の多孔質材料、並びに、比較例2および3の多孔質材料では、NaOの質量比率、すなわち、NaO換算でのNa成分の質量比率が、0.1質量%未満であった。一方、比較例1の多孔質材料では、NaOの質量比率が0.1質量%以上であった。Na以外のアルカリ金属成分は検出されなかった。
【0092】
【表2】
【0093】
さらに、多孔質材料の構成結晶相の質量比率、熱膨張係数、曲げ強度、気孔率、並びに、熱処理前後のNOx浄化率の変化を測定した。実施例1~6、並びに、比較例1~3の多孔質材料に対する測定結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
多孔質材料の構成結晶相の質量比率は、以下のようにして求めた。X線回折装置を用いて多孔質材料のX線回折パターンを得る。X線回折装置としては、多機能粉末X線回折装置(Bruker社製、D8Advance)を用いる。X線回折測定の条件は、CuKα線源、10kV、20mA、2θ=5~100°とする。そして、解析ソフトTOPAS(BrukerAXS社製)を用いてリートベルト法により、得られたX線回折データを解析して各結晶相を定量する。検出できた全ての結晶相の質量の和を100質量%として、各構成結晶相の質量比率を算出する。
【0096】
ここで、酸化処理を行わない多孔質材料では、クリストバライトが検出されないことが予め確認されており、クリストバライトは、骨材の粒子本体の表面に形成される酸化膜であるといえる。酸化膜の存在により、多孔質材料の耐酸化性が向上する。酸化処理の温度を低くした実施例4および5では、クリストバライトの質量比率が低くなった。なお、実施例1~6では、クリストバライトのα相の質量比率をβ相の質量比率で割った値(α相/β相)が、2.0以上、または、クリストバライトの全体に対するα相の質量比率が65.0質量%以上であった。構成結晶相のうちSiCおよびクリストバライトが骨材であり、残りが結合材である。実施例1~6、並びに、比較例1~3の多孔質材料では、結合材が、結合材の全体に対して、コージェライトを50質量%以上(詳細には、60質量%以上)含んでいた。
【0097】
熱処理前後のNOx浄化率の変化は、以下のようにして求めた。まず、得られた多孔質材料を乳鉢でNo.100の篩(目開き150μm)が通る程度まで粉砕する。粉砕した基材とNOx浄化用ゼオライト触媒とを3:1の重量比率で混合する。混合した粉末を、直径30mmの金型を用いて一軸プレス成形する。成形して得たペレットを2~3ミリメートルの粒状に解砕し、これを評価試料とした。当該試料を10%の水蒸気を含んだ酸化性雰囲気で、900℃、2時間保持し、熱処理したものを熱処理後の評価試料とした。
【0098】
これらの試料について、自動車排ガス分析装置(SIGU1000:堀場製作所社製)を用いて評価を行った。評価条件としては、200~500℃であり、Oを10%、COを8%、HOを5%、NOを150ppm、NHを300ppm含む混合ガスを反応ガスとして導入し、測定試料を経た排出ガスの各成分の濃度を排ガス測定装置(MEXA-6000FT:堀場製作所社製)を用いて分析し、NOガスの減少した比率を評価した。熱処理を施していない試料と、熱処理を施した試料で、同じ試験を行い、各測定温度でのNOx変換率(浄化率)に所定値以上の変化が無いものを○、いずれかの測定温度でのNOx変換率に所定値以上の変化があるものを×とした。アルカリ金属成分の質量比率が0.1質量%以上となる比較例1の多孔質材料においてのみ、NOx変換率に所定値以上の変化が確認された。
【0099】
気孔率(開気孔率)は、多孔質材料から20mm×20mm×0.3mmの大きさに切り出した板片を用いて、純水を媒体としてアルキメデス法により測定した。曲げ強度の測定では、多孔質材料を縦0.3mm×横4mm×長さ40mmに加工し、JIS R1601に準拠した曲げ試験を行った。実施例1~6の多孔質材料では、10.0MPa以上の曲げ強度が得られており、比較例1~3の多孔質材料よりも機械的強度が向上した。機械的強度が高い実施例1~6の多孔質材料は、耐熱衝撃性に優れるといえる。
【0100】
詳細には、実施例2および3(焼成温度が同じである。)、並びに、実施例4および5から、Ceを除く希土類成分の質量比率(Yの酸化物換算での質量の比率)が高いほど(表2参照)、高い曲げ強度が得られるといえる。また、実施例1では、Ceを除く希土類成分の質量比率が0.44質量%であり、この場合においても、十分に高い曲げ強度が得られた。したがって、Ceを除く希土類成分の質量比率が、酸化物換算で0.1質量%以上であれば、多孔質材料の機械的強度を高くすることができると考えられる。当該希土類成分の質量比率が過度に高くなると機械的強度の低下を招く可能性があるため、当該希土類成分の質量比率は、結合材のおよそ半分に相当する15.0質量%以下であることが好ましい。なお、Y成分を含まず、Sr成分を含む、または、Na成分の質量比率が高い比較例1~3においてもある程度高い曲げ強度が得られている。
【0101】
熱膨張係数の測定では、ハニカム構造体から縦3セル×横3セル×長さ20mmの試験片を切り出し、JIS R1618に準拠する方法で、40-200℃および40-800℃のA軸方向(ハニカム構造体の流路に対して平行方向)の平均線熱膨張係数(熱膨張係数)を測定した。
【0102】
希土類成分としてY成分を含む実施例1~6の多孔質材料では(表2参照)、40-200℃の熱膨張係数が5.5ppm/K以下となっており、比較例1~3の多孔質材料よりも熱膨張係数が低減した。機械的強度が高く、かつ、熱膨張係数が低い実施例1~6の多孔質材料は、より耐熱衝撃性に優れるといえる。また、YSiが検出されている実施例3、5および6の多孔質材料では、40-200℃の熱膨張係数が5.0ppm/K以下(実際には、4.5ppm/K以下)となっており、熱膨張係数が大幅に低減した。なお、Yの添加量が少ない実施例1、2および4の多孔質材料では、YSiが確認されていないが、Yの添加量が多くなるに従って40-200℃の熱膨張係数が低くなっていることから、実際には、X線回折(XRD)解析での検出限界以下のレベルで、YSiが形成されていると考えられる。一方、Y成分を含まず、Ceを含む比較例1および2の多孔質材料では、Ce成分がCeO相として存在しており、この場合に、熱膨張係数が、実施例1~6の多孔質材料よりも高くなった。したがって、熱膨張係数を低減するという観点では、多孔質材料の全体に対するCeO相の質量比率が低い(例えば、0.3質量%以下である)ことが好ましいといえる。
【0103】
表3では、実施例1~3、並びに、比較例1の多孔質材料に対する、結合材のエッジの立ち上がり角の代表値も「立ち上がり角」の列に示している。結合材のエッジの立ち上がり角は、図5を参照して説明した手法にて求めた。ここでは、断面研磨面を1500倍の倍率で撮像した画像において、10個の測定位置を特定し、10個の立ち上がり角の平均値を求めた。結合材が希土類成分(Ceを除く。)を含む実施例1~3の多孔質材料では、立ち上がり角の代表値が、25度以下であった。一方、比較例1の多孔質材料では、立ち上がり角の代表値が、25度よりも高くなった。なお、比較例1の多孔質材料では、結合材のエッジが丸みを帯びた形状ではないが、Na成分の質量比率が高いため、ある程度の曲げ強度が得られたと考えられる。
【0104】
(実施例7~16)
次に、実施例7~16として、表4中に示す条件にて多孔質材料(ハニカム構造体)を作製した。多孔質材料の作製手法は、上記実施例1~6と同様である。
【0105】
【表4】
【0106】
実施例7および8では、Ceを除く希土類成分として酸化イッテルビウム(Yb)を添加するとともに、Ybの添加量を変更している。実施例9では、酸化エルビウム(Er)を希土類成分として添加し、実施例10では、酸化ホルミウム(Ho)を希土類成分として添加している。実施例11~13では、酸化ジスプロシウム(Dy)を希土類成分として添加するとともに、Dyの添加量を変更している。実施例14では、酸化ランタン(La)を希土類成分として添加し、実施例15では、酸化ネオジム(Nd)を希土類成分として添加し、実施例16では、酸化ガドリニウム(Gd)を希土類成分として添加している。実施例7~16では、二酸化セリウム(CeO)も添加している。
【0107】
実施例7~16の多孔質材料の各種測定も、上記実施例1~6等と同様にして行った。実施例7~16に対する各種測定結果を表5および表6に示す。なお、表5の「希土類酸化物」の列では、各実施例に対して表4の「希土類酸化物」に示す物質の質量比率を示している。
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
表5のように、実施例7~16の多孔質材料では、Ceを除く希土類成分を、多孔質材料の全体に対して酸化物換算で0.1質量%以上含んでいた。また、NaOの質量比率、すなわち、NaO換算でのNa成分の質量比率が、0.1質量%未満であった。表6のように、いずれの多孔質材料においても、結合材が、結合材の全体に対して、コージェライトを50質量%以上(詳細には、60質量%以上)含んでいた。また、実施例7~16の全ての多孔質材料において、高い曲げ強度(機械的強度)が得られており、これらの多孔質材料が、耐熱衝撃性に優れるといえる。実施例7および8では、Yb成分の質量比率が高いほど、高い曲げ強度が得られるといえる。
【0111】
Ceを除く希土類成分として、Yb成分、Er成分、Ho成分、Dy成分、La成分、Nd成分およびGd成分を含む実施例7~16の多孔質材料では、40-200℃の熱膨張係数が5.5ppm/K以下となっており、比較例1~3の多孔質材料よりも熱膨張係数が低減した。機械的強度が高く、かつ、熱膨張係数が低い実施例7~16の多孔質材料は、より耐熱衝撃性に優れるといえる。
【0112】
詳細には、Ceを除く希土類成分としてYb成分、Er成分およびHo成分をそれぞれ含む実施例8~10では、希土類シリケート(YbSi、ErSi、HoSi)が検出された。熱膨張係数が比較的低い希土類シリケートの存在により、実施例8~10の多孔質材料において熱膨張係数が低減されたと考えられる。なお、Ybの添加量が少ない実施例7の多孔質材料においても、実際には、X線回折(XRD)解析での検出限界以下のレベルで、YbSiが形成されていると考えられる。
【0113】
一方、Ceを除く希土類成分としてDy成分、La成分、Nd成分およびGd成分のいずれかを含む実施例11~16の多孔質材料では、これらの成分を含む結晶相は検出されなかった。これらの多孔質材料では、X線回折データから、非晶質相の存在が確認された。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、骨材の粒子本体の周囲における酸化膜において各希土類成分が検出された。したがって、実施例11~16の多孔質材料では、希土類成分が、酸化膜中に非晶質相として含まれているといえる。酸化膜のクリストバライトの一部が、上記希土類成分を含む非晶質物質に置換されることにより、実施例11~16の多孔質材料において熱膨張係数が低減されたと考えられる。なお、残りのクリストバライト、および、希土類酸化物を含む上記非晶質物質により、多孔質材料の耐酸化性も確保される。
【0114】
上記多孔質材料1、ハニカム構造体および多孔質材料の製造方法では様々な変形が可能である。
【0115】
多孔質材料1は、ハニカム構造体以外の形態に形成されてよく、フィルタ以外の様々な用途に用いられてよい。多孔質材料1の用途によっては、骨材2の粒子本体21は、複数種類の物質の粒子を含んでもよい。
【0116】
多孔質材料1およびハニカム構造体の製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0117】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の多孔質材料は、触媒担体用材料、DPF用材料等として利用することができる。そして、本発明のハニカム構造体は、触媒担体、DPF等として利用することができる。更に、本発明の多孔質材料の製造方法は、上記多孔質材料を製造するために使用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 多孔質材料
2,2a,2b 骨材
3 結合材
4 細孔
5 Y成分
21 粒子本体
22 酸化膜
S11~S13 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6