(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】石炭温度監視システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/54 20060101AFI20220107BHJP
G01K 15/00 20060101ALI20220107BHJP
G01K 1/024 20210101ALI20220107BHJP
G01K 13/10 20060101ALI20220107BHJP
G01J 5/10 20060101ALI20220107BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20220107BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N25/54 ZIT
G01K15/00
G01K1/024
G01K13/10
G01J5/10 C
G01J5/48 E
G01J5/00 101Z
(21)【出願番号】P 2017190343
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆政
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭洋
(72)【発明者】
【氏名】大森 大助
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138166(JP,A)
【文献】特開平01-113628(JP,A)
【文献】特開平08-084782(JP,A)
【文献】特開2015-132575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/54
G01K 15/00
G01K 1/024
G01K 13/10
G01J 5/10
G01J 5/48
G01J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭が堆積された貯炭山の表面温度を測定する測定部と、
前記測定部から入力される前記表面温度
の時系列データを境界条件とする前記貯炭山の流体解析および熱解析
を行い、前記貯炭山の
過去および未来の内部温度を推定する温度推定部と、
を備える石炭温度監視システム。
【請求項2】
前記測定部は、サーモビューワを含む請求項1に記載の石炭温度監視システム。
【請求項3】
前記測定部の測定範囲に配された校正用温度計を備え、
前記校正用温度計の出力値、および、前記測定部によって測定された前記校正用温度計の表面温度に基づいて、前記測定部の校正を行う校正部を備える請求項2に記載の石炭温度監視システム。
【請求項4】
前記温度推定部は、前記表面温度に加えて、前記貯炭山の底部に配された底部温度計の出力値に基づいて、前記貯炭山の内部温度を推定する請求項1から3のいずれか1項に記載の石炭温度監視システム。
【請求項5】
推定された前記貯炭山の内部温度に基づいて、前記内部温度が予め設定された管理温度に到達するまでの残存期間を推定する期間推定部と、
前記残存期間に係る情報を出力する出力部と、
を備える請求項1から4のいずれか1項に記載の石炭温度監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貯炭山の温度を測定する石炭温度監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所などの貯炭場には、石炭が堆積された貯炭山が設けられる。貯炭山の石炭は酸化により徐々に昇温することがある。そこで、貯炭山に挿入された熱電対などの温度計の出力値によって、貯炭山の温度を監視する方法が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、赤外線サーモグラフィや赤外線放射温度計など、非接触で温度を検出する非接触温度計により、貯炭山の表面温度を測定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、貯炭山に挿入された温度計によって、貯炭山の内部における部分的な温度が測定される。また、非接触温度計によって、貯炭山の表面温度が測定される。しかし、これらの技術では、貯炭山全体の温度分布を把握することができなかった。
【0006】
本開示の目的は、貯炭山全体の温度分布を把握することが可能な石炭温度監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る石炭温度監視システムは、石炭が堆積された貯炭山の表面温度を測定する測定部と、測定部から入力される表面温度の時系列データを境界条件とする前記貯炭山の流体解析および熱解析を行い、貯炭山の過去および未来の内部温度を推定する温度推定部と、を備える。
【0008】
測定部は、サーモビューワを含んでもよい。
【0009】
測定部の測定範囲に配された校正用温度計を備え、校正用温度計の出力値、および、測定部によって測定された校正用温度計の表面温度に基づいて、測定部の校正を行う校正部を備えてもよい。
【0010】
温度推定部は、表面温度に加えて、貯炭山の底部に配された底部温度計の出力値に基づいて、貯炭山の内部温度を推定してもよい。
【0011】
推定された貯炭山の内部温度に基づいて、内部温度が予め設定された管理温度に到達するまでの残存期間を推定する期間推定部と、残存期間に係る情報を出力する出力部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、貯炭山全体の温度分布を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】表示部の表示内容の一例を示す第1の図である。
【
図5】
図5(a)は、石炭の抵抗係数と石炭の粒子径の関係を示す図である。
図5(b)は、石炭の温度と、石炭の有効熱伝導率の関係を示す図である。
【
図6】表示部の表示内容の一例を示す第2の図である。
【
図7】貯炭山の内部温度の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(石炭温度監視システム100)
図1は、本実施形態にかかる石炭温度監視システム100の概略図である。石炭温度監視システム100は、例えば、火力発電所などの石炭を消費する施設の貯炭場102に設けられる。貯炭場102には、石炭が堆積された貯炭山104が設けられる。
図1では、貯炭山104を1つ図示するが、貯炭山104は、例えば、1つの貯炭場102に複数設けられる。
【0016】
図1に示すように、石炭温度監視システム100は、測定部110と、サーバ120と、携帯端末150とで構成される。測定部110は、例えば、サーモビューワ(Thermo Viewer)で構成される。測定部110は、測定対象から放射される赤外線を分析し、測定対象の表面温度を測定する。ここでは、貯炭山104の表面温度、および、校正用温度計Cにおける検出部Caの表面温度を測定する。
【0017】
校正用温度計Cは、例えば、熱電対で構成され、検出部Caの温度を検出する。検出部Caは、校正用温度計Cのうち、温度を検出する部位である。校正用温度計Cは、例えば、貯炭山104の近傍に設置される。ただし、校正用温度計Cは、測定部110の校正を行うときのみ貯炭山104の近傍に設置され、校正を行わないときは他の場所に収容されていてもよい。
【0018】
測定部110は、例えば、貯炭山104の表面全てを捉えられるように、貯炭山104の周囲に複数設けられる。測定部110は、複数の貯炭山104それぞれに設けられる。ただし、測定部110は、例えば、貯炭山104ごとに1つ、または、複数設けられ、貯炭山104の表面の一部のみを捉えてもよい。
【0019】
貯炭山104の底部には、底部温度計Bが配される。底部温度計Bは、例えば、熱電対で構成される。底部温度計Bは、例えば、貯炭場102の地面の上、または、地面近傍の地中に予め設置される。底部温度計Bは、貯炭山104ごとに1つ、または、複数設けられる。底部温度計Bの上に石炭が堆積されて貯炭山104が形成される。こうして、貯炭山104の底部に底部温度計Bが配される。
【0020】
測定部110、校正用温度計C、底部温度計Bは、いずれも無線通信を行う通信部を備えており、サーバ120との無線通信を確立し、サーバ120に測定データを送信する。
【0021】
サーバ120は、測定部110、校正用温度計C、底部温度計Bと無線通信が可能な場所に設置される。サーバ120は、測定部110、校正用温度計C、底部温度計Bの他、携帯端末150とも無線通信を行う。ここで、サーバ120との通信には、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)など、様々な通信が適用可能である。以下、サーバ120、携帯端末150について詳述する。
【0022】
(サーバ120)
図2は、サーバ120の概略的な構成を示す機能ブロック図である。サーバ120は、サーバ通信部122と、サーバ記憶部124と、サーバ制御部126とを含んで構成される。サーバ通信部122は、測定部110、校正用温度計C、底部温度計B、携帯端末150と無線通信を確立する。サーバ記憶部124は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、サーバ120に用いられるプログラムや各種データを記憶する。
【0023】
サーバ制御部126は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)で構成され、サーバ記憶部124に格納されたプログラムを用い、サーバ120全体を制御する。また、サーバ制御部126は、サーバ通信制御部130、サーバ記憶制御部132、統合部134、校正部136としても機能する。
【0024】
サーバ通信制御部130は、サーバ通信部122を制御し、測定部110、校正用温度計C、底部温度計B、携帯端末150との無線通信を遂行する。サーバ記憶制御部132は、無線通信を介して測定部110、校正用温度計C、底部温度計Bから送信された測定データをサーバ記憶部124に記憶させる。
【0025】
統合部134は、複数の測定部110から送信された測定データを統合する。測定部110の測定データでは、測定箇所の位置と温度が対応付けられている。また、複数の測定部110それぞれについて、貯炭山104のどの範囲を測定するのかが、予めサーバ120(サーバ記憶部124)に登録されている。統合部134は、複数の測定部110の測定データを統合して、1つの貯炭山104における表面温度の温度分布を作成する。ただし、測定部110が貯炭山104の表面の一部を捉えていない場合、測定部110が捉えている範囲で温度分布が作成される。
【0026】
また、統合部134は、底部温度計Bから送信された測定データを、貯炭山104における表面温度の温度分布に統合する。底部温度計Bの位置は、予めサーバ120(サーバ記憶部124)に登録されている。統合部134は、底部温度計Bの位置における貯炭山104の底面の温度を、底部温度計Bの測定データが示す温度として、貯炭山104の温度分布を補完する。
【0027】
測定部110および底部温度計Bの測定データは、継続的にサーバ120に送信される。統合部134は、同時刻における測定データを統合して、貯炭山104の表面温度および底面温度の温度分布を生成する。その結果、貯炭山104の表面温度および底面温度の温度分布の時系列データが生成される。
【0028】
校正部136は、校正用温度計Cの測定データが示す出力値に基づいて、測定部110の校正を行う。具体的に、測定部110は、校正用温度計Cの検出部Caの表面温度を測定する。校正部136は、測定部110の測定データが示す検出部Caの表面温度と、同時刻に測定された校正用温度計Cの測定データが示す出力値とを比較する。校正部136は、校正用温度計Cの測定データが示す出力値と、測定部110の測定データが示す検出部Caの表面温度とが等しくなるように、測定部110を校正する。かかる校正処理は、例えば、ユーザの操作入力に応じて適宜実行される。ここでは、測定部110が校正用温度計Cの検出部Caの表面温度を測定する場合について説明した。測定部110が校正用温度計Cの検出部Caの表面温度を測定することで、測定部110の校正の精度を向上できる。ただし、測定部110は、校正用温度計Cの検出部Ca以外の部位の表面温度を測定してもよい。
【0029】
(携帯端末150)
図3は、携帯端末150の概略的な構成を示す機能ブロック図である。携帯端末150は、端末通信部152と、端末記憶部154と、表示部156(出力部)と、操作部158と、端末制御部160とを含んで構成される。端末通信部152は、サーバ120と無線通信を確立する。
【0030】
端末記憶部154は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、携帯端末150に用いられるプログラムや各種データを記憶する。表示部156は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイで構成される。操作部158は、例えば、抵抗膜方式(感圧式)、静電容量方式、赤外遮光方式などのタッチパネルで構成され、表示部156に対するユーザの操作入力を検知する。
【0031】
端末制御部160は、CPUやDSPで構成され、端末記憶部154に格納されたプログラムを用い、携帯端末150全体を制御する。また、端末制御部160は、端末通信制御部162、端末記憶制御部164、表示制御部166、操作受付部168、温度推定部170、期間推定部172としても機能する。
【0032】
端末通信制御部162は、端末通信部152を制御し、サーバ120が生成した、貯炭山104の表面温度および底面温度の温度分布の時系列データを受信する。端末記憶制御部164は、サーバ120から送信された時系列データを端末記憶部154に記憶させる。表示制御部166は、表示部156に貯炭山104の内部温度に関する情報を表示させる。操作受付部168は、例えば、操作部158を介して、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0033】
温度推定部170は、時系列データが示す表面温度に基づいて、貯炭山104の内部温度を推定する。期間推定部172は、温度推定部170によって推定された貯炭山104の内部温度に基づいて、内部温度が予め設定された管理温度に到達するまでの残存期間を推定する。以下、温度推定部170、期間推定部172の処理、および、表示部156の表示内容について詳述する。
【0034】
図4は、表示部156の表示内容の一例を示す第1の図である。
図4に示すように、表示部156には、貯炭山104のうち、最大温度となる部位を含む断面における温度分布Dが表示される。最大温度は、貯炭山104のうち、最も高温な部位の温度である。ここでは、例えば、10日後の温度分布が表示される。
【0035】
操作受付部168が、例えば、操作部158を介して、日時(例えば、10日後)を指定する操作入力を受け付け、表示部156に表示された実行ボタンEへの操作入力を受け付けたとする。温度推定部170は、貯炭山104の温度分布の時系列データ(表面温度および底面温度)を境界条件とする、貯炭山104の流体解析および熱解析に基づいて、貯炭山104の内部温度を推定し、温度分布Dを生成する。
【0036】
流体解析および熱解析について、簡単に説明する。温度推定部170は、計算領域における貯炭山104を複数の小さな空間(セル)に分割する。温度推定部170は、それぞれのセルについて、下記の数式1~5を満たす温度を数値解析によって近似的に解く。
【0037】
数式1は、連続方程式である。ここでは、計算負荷を低減するため、気体を非圧縮性と仮定する。数式1は、セルに流入する気体の質量と、セルから流出する気体の質量の和が、セルにおける気体の質量の時間変化に等しいことから導出される。以下の数式において、∇は、ラプラス演算子である。v→(本文中においてベトクルを表す場合は→を付して表す。数式で表示する場合はvの上に→を付して表す。)は、気体の速度ベクトルである。
【数1】
…(数式1)
【0038】
数式2は、運動量保存式である。数式2は、セルに流入する気体の持つ運動量と、セルから流出する気体の持つ運動量の和が、セルにおける気体の持つ運動量の時間変化に等しいことから導出される。以下の数式において、ρ
fは、気体の密度である。tは、時間である。pは、気体の圧力である。μは、気体の粘性係数である。αは、石炭層の抵抗係数である。εは、石炭層の空隙率である。S
bは、気体の浮力項である。
【数2】
…(数式2)
【0039】
数式3は、酸素の化学種保存式である。数式3は、セルに流入する酸素の質量と、セルから流出する酸素の質量の和が、セルにおける酸素の質量の時間変化に等しいことから導出される。以下の数式において、Y
O2は、酸素の質量分率である。D
O2,mは、酸素の拡散係数である。S
O2は、酸素のソース項である。
【数3】
…(数式3)
【0040】
数式4は、石炭層内の水の化学種保存式である。数式4は、セルに流入する水の質量と、セルから流出する水の質量の和が、セルにおける水の質量の時間変化に等しいことから導出される。以下の数式において、Y
H2Oは、水の質量分率である。D
H2O,mは、水の拡散係数である。S
H2Oは、水のソース項である。
【数4】
…(数式4)
【0041】
数式5は、エネルギー保存式である。セルにおける気体および石炭の持つ内部エネルギーの変化は、セルに加えられた熱量と、セルがされた仕事の和に等しいことから導出される。ここで、セルに加えられた熱量は、隣接するセルの石炭から熱伝導するものと、セルにおける石炭の酸化に伴う発熱の和から、水の蒸発熱を引いたものである。以下の数式において、ρ
sは、石炭層内の石炭の密度である。C
p,sは、石炭層内の石炭の定圧比熱である。C
p,fは、石炭層内の気体の定圧比熱である。Tは、セルの温度である。K
effは、ポーラス層の有効熱伝導率である。H
rは、石炭の酸化に伴う反応熱である。反応熱H
rは、石炭の反応速度によって導かれる。例えば、石炭の反応速度は、固定値(定数)が設定されてもよい。この場合、計算負荷が軽減される。また、石炭の反応速度は、石炭の種類、粒子径に基づいて定まる変数であってもよい。この場合、解析の精度が向上する。H
evapは、水の蒸発熱である。
【数5】
…(数式5)
【0042】
温度推定部170は、上記の数式1~5を用い、時系列データに基づいて、貯炭山104の過去の内部温度をセルごとに解析して推定する。また、温度推定部170は、時系列データに基づいて、貯炭山104の未来の内部温度をセルごとに解析して推定する。このとき、測定部110が貯炭山104の表面の一部を捉えていない場合、貯炭山104のうち、測定部110が測定していない部分の表面温度も、温度推定部170の解析によって推定される。
【0043】
表示制御部166は、温度推定部170が推定した貯炭山104の温度分布のうち、操作入力で指定された日時(例えば、10日後)において、最大温度となる部位を含む断面の温度分布Dを表示部156に表示させる。温度分布Dでは、例えば、色の違いによって温度の高低が表される。ただし、
図4に示す例では、色の代わりにクロスハッチングの密度で温度の高低が表される。密度が高いほど高温であり、黒の塗りつぶしが最も高温である。
【0044】
また、表示部156には、例えば、貯炭山104のうち、位置a、bの表面温度や外気温度も表記される。ここで、外気温度を測定する専用の温度計(不図示)が設けられてもよいし、外気温度の測定に校正用温度計Cを代用してもよい。
【0045】
このように、石炭温度監視システム100では、貯炭山104の表面温度に加えて、貯炭山104の内部温度も推定されることから、貯炭山104全体の温度分布を把握することができる。
【0046】
図5(a)は、石炭の抵抗係数αと石炭の粒子径dの関係を示す図である。
図5(b)は、石炭の温度と、石炭の有効熱伝導率K
effの関係を示す図である。
図5(a)に示すように、石炭の抵抗係数αは、石炭の粒子径dに対して、大凡負の相関関係にある。すなわち、粒子径dが大きいほど、抵抗係数αが小さく、気体が石炭の粒子間を流通し易い。ここでは、抵抗係数α(粒子径d)を定数とし、抵抗係数αに予め代表的な値が設定される。そのため、計算負荷が低減される。ただし、貯炭山104ごとに石炭の粒子径dを測定してもよい。この場合、測定された粒子径dと、
図5(a)に示される相関関係から導出された抵抗係数αが、上記の解析に用いられる。
【0047】
図5(b)では、品質の異なる4つの石炭の凡例が示される。
図5(b)に示すように、ポーラス層の有効熱伝導率K
effは、石炭の品質の他に、石炭の温度によっても変化する。ここでは、有効熱伝導率K
effを定数とし、有効熱伝導率K
effに予め代表的な値が設定される。そのため、計算負荷が低減される。ただし、貯炭山104ごとに石炭の有効熱伝導率K
effを測定してもよい。この場合、測定された有効熱伝導率K
effが、上記の解析に用いられる。また、有効熱伝導率K
effがセルの温度の関数として設定されてもよい。
【0048】
図6は、表示部156の表示内容の一例を示す第2の図である。表示制御部166は、ユーザの操作入力に応じ、貯炭山104の最大温度の予測図(グラフG)を表示部156に表示させる。
【0049】
貯炭山104の最大温度の予測図を表示する旨の操作入力があると、期間推定部172は、温度推定部170が推定した貯炭山104の温度分布を分析し、貯炭山104の時系列の最大温度を抽出する。期間推定部172は、最大温度が管理温度に到達するまでの残存期間を推定する。ここで、管理温度は、予め設定されており、貯炭山104の温度が到達するまでに、貯炭山104の消費が推奨される温度である。
【0050】
ここでは、期間推定部172は、
図6に示すように、横軸に時間、縦軸に最大温度を取ったグラフGを生成する。表示制御部166は、期間推定部172が生成したグラフGを表示部156に表示させる。ここでは、期間推定部172は、2つの貯炭山104について処理を行ったものとする。グラフGには、2つの貯炭山104それぞれの最大温度の推移が、凡例x、yとして記載されている。
【0051】
また、グラフGには、凡例xが管理温度Taに到達するまでの残存期間tx、凡例yが管理温度Taに到達するまでの残存期間tyがそれぞれ記載されている。このように、表示部156は、残存期間tx、tyを表示する。ユーザは、残存期間の短い貯炭山104から順次、消費することができる。ここでは、残存期間tx、tyが表示部156に表示される場合について説明した。ただし、表示部156には、残存期間tx、tyに係る情報が表示されてもよい。例えば、算出した残存期間tx、tyそのものを表示してもよいし、グラフGそのものを表示してもよい。あるいは、推定点ごとの温度の時間推移の予測を表示してもよい。
【0052】
図7は、貯炭山の内部温度の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
(S200)
温度推定部170は、操作受付部168が解析を指示する操作入力(例えば、実行ボタンEへの操作入力)を受け付けたか否かを判定する。操作入力を受け付けていれば、S202に処理を移す。操作入力を受け付けていなければ、当該推定処理を終了する。
【0054】
(S202)
端末通信制御部162は、端末通信部152を制御し、サーバ120から時系列データを受信(取得)する。
【0055】
(S204)
温度推定部170は、上記の数式1~5を用い、時系列データに基づいて、貯炭山104の過去の内部温度をセルごとに解析して推定する。また、温度推定部170は、例えば、操作入力で指定された日時までの(未来の)内部温度を推定する。
【0056】
(S206)
表示制御部166は、温度推定部170が推定した貯炭山104の温度分布のうち、操作入力で指定された日時(例えば、10日後)において、最大温度となる部位を含む断面の温度分布Dを表示部156に表示させる。
【0057】
(S208)
期間推定部172は、操作受付部168が、貯炭山104の最大温度の予測図(グラフG)を表示する旨の操作入力を受け付けたか否かを判定する。操作入力を受け付けていれば、S210に処理を移す。操作入力を受け付けていなければ、当該推定処理を終了する。
【0058】
(S210)
期間推定部172は、温度推定部170が推定した貯炭山104の温度分布を分析し、貯炭山104の時系列の最大温度を抽出する。期間推定部172は、最大温度が管理温度に到達するまでの残存期間を推定する。期間推定部172は、横軸に時間、縦軸に最大温度を取ったグラフGを生成する。表示制御部166は、期間推定部172が生成したグラフGを表示部156に表示させ、当該推定処理を終了する。
【0059】
なお、ここでは、表示制御部166が、温度分布Dを表示部156に表示させた後、期間推定部172が生成したグラフGを表示部156に表示させる場合について説明した。ただし、温度分布Dの表示が行われることなく、グラフGが表示部156に表示されてもよい。
【0060】
また、温度推定部170は、例えば、操作入力で指定された日時の(未来の)内部温度を推定する場合について説明した。ただし、温度推定部170は、例えば、最大温度が管理温度に到達する時点までの内部温度を推定してもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、温度推定部170は、貯炭山104の表面温度を境界条件とする貯炭山104の流体解析および熱解析に基づいて、貯炭山104の内部温度を推定する場合について説明した。流体解析および熱解析を行うことで、貯炭山104の内部温度の推定精度が向上する。また、貯炭山104の表面温度を境界条件とすることで、貯炭山104の周囲の環境についての解析が不要となり、処理負荷が軽減する。
【0063】
また、上述した実施形態では、測定部110は、サーモビューワである場合について説明した。測定部110がサーモビューワで構成される場合、低コストで広範囲の貯炭山104の表面温度を測定できる。ただし、測定部110は、サーモビューワに限らず、他の温度計であってもよい。複数の測定部110のうち、1または複数がサーモビューワ以外の温度計であってもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、校正部136を備える場合について説明した。校正部136によって、測定部110の測定精度が向上する。ただし、校正部136は、必須の構成ではない。
【0065】
また、上述した実施形態では、温度推定部170は、底部温度計Bの出力値に基づいて、貯炭山104の内部温度を推定する場合について説明した。底部温度計Bの出力値を用いることで、貯炭山104の内部温度の推定精度が向上する。また、底部温度計Bは、貯炭場102に予め設置されている。そのため、貯炭山104が形成された後から貯炭山104に底部温度計Bを設置する場合に比べて、設置作業の負荷が低減する。ただし、底部温度計Bは、必須の構成ではない。貯炭山104の底部の温度は、例えば、地中の温度の推定値から推定されてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、期間推定部172が推定した残存期間を表示部156が表示する場合について説明した。ユーザは、残存期間を把握することで、複数の貯炭山104のうち、優先的に使用すべき貯炭山104を容易に特定できる。ただし、期間推定部172は必須の構成ではない。
【0067】
また、上述した実施形態では、表示部156が出力部として機能し、残存期間を表示する場合について説明した。ただし、表示部156の代わりに、スピーカが残存期間を音声出力してもよい。また、出力部は、残存期間を、例えば表示部を備える他の装置に出力してもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、サーバ120および携帯端末150が設けられる場合について説明した。ただし、サーバ120および携帯端末150の一方のみが設けられてもよい。サーバ120の機能の一部または全部を、携帯端末150に搭載してもよいし、携帯端末150の機能の一部または全部を、サーバ120に搭載してもよい。例えば、上述した実施形態では、携帯端末150の端末制御部160が温度推定部170および期間推定部172として機能する場合について説明した。ただし、サーバ120のサーバ制御部126が、温度推定部170および期間推定部172として機能し、上記の数値解析を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示は、貯炭山の温度を測定する石炭温度監視システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
B 底部温度計
C 校正用温度計
D 温度分布
100 石炭温度監視システム
104 貯炭山
110 測定部
136 校正部
156 表示部(出力部)
170 温度推定部
172 期間推定部