(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 201F
H01G4/30 201G
H01G4/30 201P
H01G4/30 513
(21)【出願番号】P 2017214392
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】新井 紀宏
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 剛
(72)【発明者】
【氏名】石井 真澄
(72)【発明者】
【氏名】有我 穰二
(72)【発明者】
【氏名】茂木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 学
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-198253(JP,A)
【文献】特開2006-332236(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132965(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック誘電体層と、鉄族以外の遷移金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に異なる端面に露出するように形成されたセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の前記内部電極層が露出する端面に形成された少なくとも1対の外部電極と、を備え、
前記外部電極は、前記セラミック積層体に接して設けられ鉄族以外の遷移金属もしくは貴金属を主成分とする下地導体層と、前記下地導体層を覆う第1めっき層と、を備え、
前記下地導体層は、前記セラミック積層体と接しない二次相である第1部分と、前記セラミック積層体と接する二次相である第2部分と、を含み、
前記下地導体層において、
前記第1部分は、SiおよびBの少なくとも一方を含み、前記第1部分におけるSiおよびBの合計濃度は、0.3wt%以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記下地導体層の
前記第1部分及び前記第2部分は、前記セラミック誘電体層の主成分と同じセラミックを含むことを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記第1部分及び前記第2部分に含まれる前記セラミックは、CaZrO
3を主成分とすることを特徴とする請求項2記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記セラミック誘電体層は、CaZrO
3を主成分とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記第1めっき層を覆い、前記第1めっき層の主成分の遷移金属とは異なる遷移金属を主成分とする第2めっき層を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記下地導体層および前記第1めっき層は、Cuを主成分とし、
前記第2めっき層は、Snを主成分とすることを特徴とする請求項5記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の多機能化や高周波数化に伴い、積層セラミックコンデンサの高容量化・小型化・高周波領域における等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:ESR)の低減といった各種特性の改良・改善が要求されている。これらの用途に用いられる積層セラミックコンデンサの外部電極としては、積層セラミックコンデンサのセラミック積層体焼成後に焼き付けた後付け外部電極と、積層セラミックコンデンサのセラミック積層体焼成時に同時に焼成する同時焼成外部電極とがある。
【0003】
後付け外部電極における焼結温度の低温化、端子電極の固着力の確保などを目的として、外部電極を形成する導電性ペーストにSiやBを含むガラス成分が添加されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、同時焼成の外部電極においては、焼結温度の遅延化を目的として、素体部の誘電体と同一もしくは類似の誘電体粉末を添加するが(例えば、特許文献2参照)、これらの誘電体成分にはSiやBを含むことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2014/175013号
【文献】特開2000-348964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外部電極中のSiやBを含むガラス成分は、内部電極層と外部電極との界面、素体と外部電極との界面、外部電極表面などに析出しやすくなる。このように析出したガラス成分は、抵抗成分として高周波領域でのESRを悪化(増加)させる、めっき付き性を悪化させる、めっき時に溶け出した空隙にめっき液が侵入してはんだ爆ぜや信頼性の低下を引き起こすなど、外部電極へ悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、外部電極への悪影響を抑制することができる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体層と、鉄族以外の遷移金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に異なる端面に露出するように形成されたセラミック積層体と、前記セラミック積層体の前記内部電極層が露出する端面に形成された少なくとも1対の外部電極と、を備え、前記外部電極は、前記セラミック積層体に接して設けられ鉄族以外の遷移金属もしくは貴金属を主成分とする下地導体層と、前記下地導体層を覆う第1めっき層と、を備え、前記下地導体層は、前記セラミック積層体と接しない二次相である第1部分と、前記セラミック積層体と接する二次相である第2部分と、を含み、前記下地導体層において、前記第1部分は、SiおよびBの少なくとも一方を含み、前記第1部分におけるSiおよびBの合計濃度は、0.3wt%以下であることを特徴とする。
【0008】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記下地導体層の前記第1部分及び前記第2部分は、前記セラミック誘電体層の主成分と同じセラミックを含んでいてもよい。
【0009】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記第1部分及び前記第2部分に含まれる前記セラミックは、CaZrO3を主成分としてもよい。
【0010】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記セラミック誘電体層は、CaZrO3を主成分としてもよい。
【0011】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記第1めっき層を覆い、前記第1めっき層の主成分の遷移金属とは異なる遷移金属を主成分とする第2めっき層を備えていてもよい。
【0012】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記下地導体層および前記第1めっき層は、Cuを主成分とし、前記第2めっき層は、Snを主成分としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部電極への悪影響を抑制することができる積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る積層セラミックコンデンサを例示する図である。
【
図2】(a)~(c)は
図1の点線で囲んだ領域の拡大図である。
【
図3】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図4】(a)は金属相の測定結果を示し、(b)は金属相と二次相との界面の測定結果を示し、(c)は二次相の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0016】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100を例示する図である。なお、
図1で例示する積層セラミックコンデンサ100は、一実施形態であって、
図1に示す形状以外のものにも適用することができる。また、アレイに用いることもできる。
【0017】
図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状のセラミック積層体10と、少なくとも1対の外部電極20a,20bとを備える。セラミック積層体10は、セラミック誘電体層30と内部電極層40とが交互に積層された構造を有する。なお、
図1において、セラミック誘電体層30のハッチを省略している。セラミック積層体10において、積層された複数の内部電極層40は、交互に異なる端面に露出するように積層されている。本実施形態においては、積層された複数の内部電極層40は、対向する2端面に交互に露出するように積層されている。外部電極20aは、当該2端面の一方に設けられている。外部電極20bは、当該2端面の他方に設けられている。
【0018】
セラミック誘電体層30は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、BaTiO3(チタン酸バリウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0019】
内部電極層40は、鉄族(Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル))以外の遷移金属(Cu(銅)等)を主成分とする導電薄膜である。
【0020】
外部電極20a,20bは、セラミック積層体10に接して設けられた下地導体層21と、下地導体層21に接して覆う第1めっき層22と、第1めっき層22に接して覆う第2めっき層23とを備える。下地導体層21は、セラミックを含有し、鉄族以外の遷移金属(Cu等)もしくは貴金属(Ag(銀),Au(金),Pt(白金),Pd(パラジウム)等)を主成分とする。下地導体層21が鉄族以外の遷移金属もしくは貴金属を主成分とすることから、良好な高周波特性を得ることができる。下地導体層21は、例えば、4μm~10μm程度の厚みを有する。
【0021】
下地導体層21は、セラミック積層体10の焼成後にセラミック積層体10に焼き付けるか(以下、後付けと称する。)、セラミック積層体10の焼成時に同時に焼成する(以下、同時焼成と称する。)ことによって形成することができる。
【0022】
後付けの場合には、下地導体層21の焼結温度の制御、下地導体層21の固着力の制御などを目的として、下地導体層21にガラス成分などが添加されることがある。この場合、下地導体層21に二次相が析出する。二次相とは、下地導体層21の主成分金属の結晶と異なる組成を有する相のことである。同時焼成の場合には、下地導体層21の焼結性の制御を目的として、セラミック誘電体層30と同一若しくは類似の成分などの共材や、添加剤が添加されることがある。この場合においても、下地導体層21に二次相が析出する。
【0023】
後付けの場合には、ガラス成分としてSi(ケイ素)やB(ホウ素)を添加することがある。同時焼成の場合には、共材や添加剤にSiやBが含まれることがある。これらのSiやBは、ガラス成分として析出する。したがって、下地導体層21において、ガラス成分が二次相として析出する。ガラス成分は、特に限定されるものではないが、1種以上の網目形成酸化物と1種以上の網目修飾酸化物とを含む非晶質体である。例えば、網目形成酸化物として、B2O3,SiO2などを挙げることができる。網目修飾酸化物として、Al2O3,ZnO,CuO,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,BaO,ZrO2,TiO2等を挙げることができる。
【0024】
ガラス成分が多く添加されると、
図2(a)で例示するように、内部電極層40と下地導体層21との界面、セラミック誘電体層30と下地導体層21との界面、下地導体層21の表面などに、ガラス成分を多く含む二次相24が析出しやすくなる。なお、
図2(a)は、
図1の点線で囲んだ領域の拡大図である。この場合、ガラス成分が、抵抗成分として高周波領域でのESRを悪化(増加)させる、第1めっき層22のめっき付き性を悪化させる、第1めっき層22のめっき処理時に溶け出した空隙にめっき液が侵入してはんだ爆ぜや信頼性の低下を引き起こすなどの悪影響を及ぼす要因となる。
【0025】
一方、ガラス成分量が少ない二次相24は、内部電極層40と下地導体層21との界面、セラミック誘電体層30と下地導体層21との界面、下地導体層21の表面などにおいて析出しにくくなる。その結果、内部電極層40と下地導体層21との界面、セラミック誘電体層30と下地導体層21との界面、下地導体層21の表面などにおけるガラス成分量が少なくなる。そこで、本実施形態においては、下地導体層21に添加するガラス成分量を少なくする、または下地導体層21にガラス成分を添加しない。具体的には、
セラミック誘電体層30に接しない各二次相24におけるSiおよびBの合計濃度を0.3wt%以下とする。この場合、
図2(b)で例示するように、内部電極層40と下地導体層21との界面、セラミック誘電体層30と下地導体層21との界面、下地導体層21の表面などにおける二次相24の析出が抑制される。なお、
図2(b)は、
図1の点線で囲んだ領域の拡大図である。それにより、ガラス成分の悪影響が抑制され、高周波領域でのESRを低下させることができ、第1めっき層22のめっき付き性が良好となり、はんだ爆ぜや第1めっき層22の信頼性低下を抑制することができる。なお、ガラス成分の影響をより抑制するために、
セラミック誘電体層30に接しない各二次相24におけるSiおよびBの合計濃度を0.2wt%以下とすることが好ましい。なお、セラミック誘電体層30からガラス成分が拡散してくる場合もある。この場合、
図2(c)で例示するように、セラミック誘電体層30に接する二次相24が析出する場合がある。この場合においては、セラミック誘電体層30に接する二次相24におけるSiおよびBの合計濃度は、0.3wt%を上回っていてもよい。
【0026】
なお、下地導体層21に対するガラス成分の添加量を少なくする、または下地導体層21にガラス成分を添加しないことで、下地導体層21の広範囲における各二次相24のSiおよびBの合計濃度の平均値は低くなる。そこで、1000倍の倍率のSEM画像で確認できた全ての二次相24のSiおよびBの合計濃度の平均値が0.3wt%以下となっていてもよい。
【0027】
例えば、二次相24は、セラミック誘電体層30の主成分セラミックを主成分とすることが好ましい。例えば、セラミック誘電体層30の主成分セラミックがCaZrO3である場合には、二次相24もCaZrO3を主成分とすることが好ましい。
【0028】
なお、積層セラミックコンデンサ100の実装時に用いる半田との親和性を考慮すると、第1めっき層22の形成にNiめっきを用いることが好ましい。第2めっき層23は、第1めっき層22の主成分の遷移金属とは異なる遷移金属を主成分とすることが好ましい。例えば、積層セラミックコンデンサ100の実装に用いる半田との親和性を考慮して、第2めっき層23は、Sn(錫)等の遷移金属を主成分とすることが好ましい。高周波帯の電気特性を考慮すると、Niなどの比透磁率の高い鉄族遷移金属成分が信号線上に存在することは、高周波領域における表皮効果により抵抗成分が増加する。その結果、誘電損失の増大を招くおそれがある。そこで、第1めっき層22の主成分および第2めっき層23の主成分として鉄族以外の遷移金属(Cu,Sn等)を用いることが好ましい。
【0029】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造工程について説明する。
図3は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0030】
(原料粉末作製工程)
まず、セラミック誘電体層30の主成分であるセラミック材料の粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co,Ni,Li(リチウム),B,Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。例えば、まず、セラミック材料の粉末に添加化合物を含む化合物を混合して仮焼を行う。続いて、得られたセラミック材料の粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料の粉末を調製する。
【0031】
次に、得られたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み5~20μmの帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0032】
(積層工程)
次に、誘電体グリーンシートの表面に、内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層40のパターンを配置する。内部電極層形成用導電ペーストは、内部電極層40の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる。バインダおよび溶剤は、上記したセラミックペーストと同様のものを使用できる。また、内部電極形成用導電ペーストには、共材として、セラミック誘電体層30の主成分であるセラミック材料を分散させてもよい。
【0033】
次に、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層40とセラミック誘電体層30とが互い違いになるように、かつ内部電極層40がセラミック誘電体層30の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば4~50層)だけ積層し、略直方体形状の成型体を得る。なお、積層体の上下にはカバー層となる誘電体グリーンシートが積層されている。
【0034】
(塗布工程)
次に、得られた積層体の内部電極層パターンが露出する2端面に、下地導体層形成用導電ペーストを塗布する。それにより、成型体を得る。下地導体層形成用導電ペーストは、下地導体層21の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる。バインダおよび溶剤は、上記した内部電極層形成用導電ペーストと同様のものを使用できる。また、下地導体層形成用導電ペーストには、共材として、例えば、セラミック誘電体層30の主成分であるセラミック材料を分散させる。ただし、下地導体層形成用導電ペーストには、SiおよびBを含ませないか、ごく少量のSiおよびBだけを含ませる。
【0035】
(焼成工程)
次に、得られた成型体を、例えば、H2が1.5体積%程度の還元雰囲気中において、900℃~1050℃程度の温度で2時間程度焼成する。それにより、セラミック誘電体層30および内部電極層40の焼成と、下地導体層21の焼き付けとを同時に行うことができ、積層セラミックコンデンサ100の半製品を得ることができる。
【0036】
(第1めっき形成工程、第2めっき形成工程)
次に、半製品の下地導体層21上に、電解めっきにより第1めっき層22を形成する。さらに、第1めっき層22上に、電解めっきにより第2めっき層23を形成する。
【0037】
本実施形態に係る製造方法によれば、下地導体層形成用導電ペーストに、ガラス成分を添加しないか、ごく少量のガラス成分を添加することから、ガラス成分量が抑制される。それにより、二次相24におけるSiおよびBの合計濃度を0.3wt%以下とすることができる。この場合、
図2(b)で例示するように、内部電極層40と下地導体層21との界面、セラミック誘電体層30と下地導体層21との界面、下地導体層21の表面などにおけるガラス成分の析出が抑制される。その結果、ガラス成分の悪影響が抑制され、高周波領域でのESRを低下させることができ、第1めっき層22のめっき付き性が良好となり、はんだ爆ぜや第1めっき層22の信頼性低下を抑制することができる。なお、ガラス成分の影響をより抑制するために、二次相24におけるSiおよびBの合計濃度を0.2wt%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0039】
(実施例1~3)
セラミック誘電体層30の主成分のセラミック材料として、CaZrO3を用いた。なお、Zrに対するCaのモル比率(Ca/Zr)を1.05とした。セラミック誘電体層30に、BN(3.5mol%)、SiO2(3.5mol%)、Li2CO3(1.75mol%)、およびMnCO3(3.5mol%)を添加材として添加した。内部電極層40の主成分として、Cuを用いた。外部電極20a,20bの下地導体層21の主成分としてCuを用い、共材としてCaZrO3を6重量部添加した。下地導体層形成用導電ペーストには、SiおよびBのいずれも含ませなかった。同時焼成の条件として、H2が1.5体積%程度の還元雰囲気、980℃の焼成温度とした。第1めっき層22には、Niを用いた。第1めっき層の厚みを5μmとした。第2めっき層23には、Snを用いた。第2めっき層23の厚みを2.5μmとした。実施例1では、積層セラミックコンデンサ100のサイズを、長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mmとした。実施例2では、積層セラミックコンデンサ100のサイズを、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmとした。実施例3では、積層セラミックコンデンサ100のサイズを、長さ2.0mm、幅1.25mm、高さ0.95mmとした。
【0040】
(比較例)
比較例では、積層体の焼成後に下地導体層形成用導電ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で、800℃での焼き付けを行なった。下地導体層形成用導電ペーストに、CaZrO3は添加せず、網目形成酸化物としてSiO2およびB2O3、網目修飾酸化物としてNa2O、Al2O3、TiO2およびZnOを用いたガラス成分を添加剤として6重量部添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0041】
(分析)
下地導体層21においてセラミック誘電体層30と接しない二次相24の各成分をEPMAで測定した。測定箇所は、下地導体層21の金属相(下地導体層21の金属部分を中心とした点)、金属相と二次相との界面(金属相と二次相とが接する部分を中心とした点)、二次相(二次相を中心とした点)とした。なお、EPMAの測定条件は、表1に示す。
【表1】
【0042】
図4(a)は、金属相の測定結果を示す。
図4(b)は、金属相と二次相との界面の測定結果を示す。
図4(c)は、二次相の測定結果を示す。
図4(a)および
図4(b)に示すように、金属相、金属相と二次相との界面においては、実施例1~3のいずれにおいても、SiおよびBの合計濃度が0.3wt%以下であった。一方、比較例においては、金属相、金属相と二次相との界面のいずれにおいても、SiおよびBの合計濃度が0.4wt%以上であった。加えて、
図4(c)で例示するように、二次相においては、実施例1~3ではSiおよびBの合計濃度が0.3wt%以下であったものの、比較例ではSi濃度が7.0wt%、B濃度が15.0wt%となった。これは、添加剤としてガラス成分を添加したからである。なお、実施例1~3のいずれの箇所においても、Bは検出されなかった。
【0043】
次に、内部電極層40と下地導体層21との接続状態を確認したところ、比較例では、内部電極層40と下地導体層21との界面に二次相24が確認され、一部が接続不良の状態であった。これに対して、実施例1~3では、内部電極層40と下地導体層21との界面に二次相24がほとんど確認されず、内部電極層40と下地導体層21との接続状態が良好であった。次に、1GHzのQ値を測定したところ、実施例1~3では良好であったのに対して、比較例では20%程度低下していることが確認された。これは、内部電極層40と下地導体層21との接続状態が、周波数特性に影響したものと考えられる。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 セラミック積層体
20a,20b 外部電極
21 下地導体層
22 第1めっき層
23 第2めっき層
30 セラミック誘電体層
40 内部電極層
100 積層セラミックコンデンサ