(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】電動車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20220107BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20220107BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20220107BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20220107BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20220107BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60L15/20 K
F16H61/02
F16H61/66
F16H61/662
F16H59/18
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2017226070
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-336618(JP,A)
【文献】特開平05-176419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
F16H 61/02-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機からの入力回転を変速して出力する変速機と、
車両のアクセル操作量及び車速に応じて、前記電動機を制御する電動機制御部及び前記変速機を制御する変速制御部を有する制御手段と、を備え、
前記電動機の最大トルクと前記変速機の最大変速比とから決まる前記変速機の出力トル
クを最大トルクと定義したとき、前記車速が、少なくとも、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域にあるときに、前記変速制御部は、
前記アクセル操作量に関わらず前記変速機の変速比を
前記最大変速比に固定する最大変速比固定制御を実施する
ことを特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項2】
前記変速機は無段変速機である
ことを特徴とする請求項1記載の電動車両の駆動装置。
【請求項3】
前記変速機は油圧式無段変速機である
ことを特徴とする請求項2記載の電動車両の駆動装置。
【請求項4】
前記車速が、少なくとも、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域にあるときに、前記電動機制御部は、前記アクセル操作量に応じて前記電動機の出力トルク及び出力回転数を制御する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置。
【請求項5】
前記車速が、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域でないときに、前記変速制御部は、前記要求駆動トルクと前記車速とから必要出力を算出し、前記必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比を選出し、前記変速機の変速比を当該最高効率変速比に制御する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置。
【請求項6】
前記車速が、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域でないときに、前記電動機制御部は、前記必要出力が得られる前記電動機の出力トルク及び回転数からなる電動機の複数の運転点のうちで最も効率が高い最高効率運転点を選出し、前記最高効率運転点に応じて前記電動機の出力トルクを制御し、前記変速制御部は、前記最高効率運転点を満たす前記変速機の変速比のうちで最も効率が高い最高効率変速比を選出し、前記変速機の変速比を当該最高効率変速比に制御する
ことを特徴とする請求項5記載の電動車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機と変速機とを組み合わせた電動車両の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等の電動車両に用いる駆動装置として、電動機(以下、モータともいう)と無段変速機(以下、CVTともいう)とを組み合わせたものが開発されている。モータは出力トルクが出力回転数に反比例する特性があるため、例えば高トルクで且つ高回転数の状態は定格範囲外となり達成することができない。
【0003】
図8はモータとCVTとを組み合わせた駆動装置の駆動力線図であり、横軸は車速に対応する出力回転数Noutを示し、縦軸は駆動輪に出力される駆動トルクに対応する出力トルクToutを示す。なお、本明細書では、各車速それぞれで取り得る上限のトルクを上限トルク又は上限トルク値、全車速領域を通して絶対値が最も大きいトルクを最大トルクとよぶ。
図8に示すように、モータ特性に応じて駆動トルクの上限は回転数に反比例するように回転数の増加に応じて低下する。ただし、低回転領域ではCVTの変速比に応じた一定の上限トルク値となる。また、回転数には上限がある。
【0004】
図8において、破線Lt1,Lr1はCVTの変速比が最ロー(最大変速比)のときの上限トルク値及び上限回転数を示し、一点鎖線Lt2,Lr2はCVTの変速比が最ハイ(最小変速比)のときの上限トルク値及び上限回転数を示す。駆動トルクは変速比が最ローであり且つ車速が低車速領域にあるときに最大となり、上限回転数は変速比が最ハイのときに最大となる。
したがって、モータのトルクが同じでも変速比をロー側に制御することによって駆動トルクを増大させることができ、モータの回転数が同じでも変速比をハイ側に制御することによって出力回転数(車速)を増大させることができる。
【0005】
これに関連する技術として、特許文献1には、車両駆動に要求される要求トルクに応じて決まる電動機への要求トルクが、モータの定格範囲外のときは無段変速機構の変速比を変更するとともに、電動機を制御して車両駆動の要求トルクを達成するようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジン(内燃機関)とCVTとを組み合わせた駆動装置の場合、走行中にアクセルが踏み込まれた際には、駆動力確保のためにギア比をローに戻す、いわゆるキックダウンと呼ばれる変速を行う。この場合、変速比を増大させることによる駆動トルク増大と、駆動源のエンジンの回転数を上昇させることによるエンジンの出力トルクの増大促進とによって、速やかに駆動トルク増大させて加速を行うことができる。
【0008】
モータとCVTとを組み合わせた駆動装置の場合、走行中にアクセルが踏み込まれた際にキックダウンを行うと、変速比を増大させることによる駆動トルクの増大効果は得られるが、モータの出力特性から回転数を上昇させても駆動源のモータの出力トルクの増大を促進させることはできない。また、モータの出力トルクの増大は速やかに行えるが、モータの応答性に比べCVTの変速比の変更には時間を要する。
【0009】
例えばエネルギー効率(以下、電費という)を優先させると、
図8に示す駆動力線図上の位置P1の変速比が小さいハイギア状態で走行する場合が多いが、この状態からアクセルが踏み込まれた場合、変速比が高められて例えば駆動力線図上の位置P2に変化していくが、モータの出力トルクの増大に対して変速比の増大が遅れるため、モータの出力トルクの増大は変速比に応じた上限トルク値(二点鎖線参照)で頭打ちになって速やかには行えない。この結果、駆動トルクの増大はCVTの変速比の増大に応じた緩やかなものとなり、加速感の不足を招くという課題がある。特許文献1にはかかる課題への着目はない。
【0010】
また、油圧式CVTの場合は、変速差推力分の油圧,流量に加えてアクセル踏み込み分のトルク容量に応じた油圧が必要となるため、油圧を発生するために、大出力,大容量のオイルポンプが必要になり、装置の大型化やコスト増を招くという課題もある。
さらに、このような加速感の改善を行う際に、電動車両の電費の向上も図るようにしたい。
【0011】
本発明はこのような課題に着目して創案されたもので、電動機と変速機とを組み合わせた電動車両の駆動装置において、走行中の加速指示に対して速やかに車両の加速を実施することができるようにすることを第1の目的としている。
また、走行中の加速指示に対して電費の向上を図りつつ速やかに車両の加速を実施することができるようにすることを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の電動車両の駆動装置は、電動機と、前記電動機からの入力回転を変速して出力する変速機と、車両のアクセル操作量及び車速に応じて、前記電動機を制御する電動機制御部及び前記変速機を制御する変速制御部を有する制御手段と、を備え、前記電動機の最大トルクと前記変速機の最大変速比とから決まる前記変速機の出力トルクを最大トルクと定義したとき、前記車速が、少なくとも、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域にあるときに、前記変速制御部は、前記アクセル操作量に関わらず前記変速機の変速比を前記最大変速比に固定する最大変速比固定制御を実施することを特徴としている。
【0013】
(2)前記変速機は無段変速機であることが好ましい。
【0014】
(3)前記変速機は油圧式無段変速機であることが好ましい。
【0015】
(4)前記車速が、少なくとも、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域にあるときに、前記電動機制御部は、前記アクセル操作量に応じて前記電動機の出力トルク及び出力回転数を制御することが好ましい。
【0016】
(5)前記車速が、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域でないときに、前記変速制御部は、前記要求駆動トルクと前記車速とから必要出力を算出し、前記必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比を選出し、前記変速機の変速比を当該最高効率変速比に制御することが好ましい。
【0017】
(6)前記車速が、前記変速機が前記最大トルクを生成可能な車速領域でないときに、前記電動機制御部は、前記必要出力が得られる前記電動機の出力トルク及び回転数からなる電動機の複数の運転点のうちで最も効率が高い最高効率運転点を選出し、前記最高効率運転点に応じて前記電動機の出力トルクを制御し、前記変速制御部は、前記最高効率運転点を満たす前記変速機の変速比のうちで最も効率が高い最高効率変速比を選出し、前記変速機の変速比を当該最高効率変速比に制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電動車両の駆動装置によれば、車速が変速機の最大変速比で且つ電動機の最大トルクで実現可能な車速である場合、変速機の変速比を最大変速比に固定するので、走行中の加速指示に対して、最大変速比で最も駆動トルクを大きくできる状態から電動機の出力増加を行うことができ、速やかに車両の加速を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置を示す模式的な構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明する駆動力線図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するモータ性能図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による効率の算出手法の一例としてモータ効率マップとトランスミッション効率マップを用いる手法を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による効率の算出手法の一例として最高効率変速線マップを用いる手法を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するタイムチャートであり、(a)は比較例を示し、(b)は本実施形態を示す。
【
図8】本発明の背景技術にかかる電動車両の駆動装置の駆動力線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
〔構成〕
図1は本実施形態に係る電動車両の駆動装置を示す模式的な構成図である。
図1に示すように、本駆動装置は、電動機(以下、モータという)1と、モータ1からの入力回転を変速して出力する無段変速機(以下、CVTという)2と、アクセル開度(アクセルペダルの操作量)APOを検出するアクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)3と、車速VSPを検出する車速センサ(車速検出手段)4と、モータ1を制御する電動機制御部(MCU;motor control unit)51及びCVT2を制御する変速制御部(ATCU;automatic transmission control unit)52を有するECU群(制御手段,ECU;electric control unit)5と、を備えている。なお、駆動装置をパワートレイン(略してPT)ともいう。
【0022】
CVT2は、モータ1と駆動連結されたプライマリプーリ21と、駆動輪6と駆動連結されたセカンダリプーリ22と、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との各V溝内に架け回されたベルト又はチェーン等の無端帯状動力伝達体(以下、ベルトという)23とを備え、ベルトのクランプ及びプーリ21,22の溝幅変更による変速操作には油圧を用いた油圧式CVTが適用されている。
また、セカンダリプーリ22と駆動輪6との間には、減速機構7及びディファレンシャル8が設けられている。
【0023】
MCU51は、アクセル開度センサ3で検出されたアクセル開度(検出アクセル開度、以下、単にアクセル開度ともいう)APO,車速センサ4で検出された車速(検出車速、以下、単に車速、もしくは実車速ともいう)VSP及びCVT2の変速比(プーリ比)Rpに基づいて、モータ1と接続されたインバータ10を制御する。つまり、
図2の駆動装置の駆動力線図と略対応したモータ1の駆動力線図があり、駆動力線図で規定される範囲内で、アクセル開度APO,車速VSP及び変速比Rpに応じた出力トルクTm(CVT2への入力トルクTin)及び回転数(回転速度)Nm(CVT2への入力回転数Nin)でモータ1が作動するようにインバータ10を制御する。
【0024】
ATCU52は、アクセル開度APO,車速VSP及びモータ1の出力トルクTmに基づいて、オイルポンプ9に接続された油圧コントロールユニット20を通じてCVT2を制御する。つまり、モータ1の出力トルクTmとCVT2の変速比Rpとから駆動装置の出力トルク(駆動トルク、ここではCVT2の出力トルク)Toutが決まるが、ATCU52は、モータ1の出力トルクTmとCVT2の変速比Rpとによって決まるベルト23のクランプ力を確保できるように両プーリ21,22に油圧を与え、且つ、変速比Rpの変更(すなわち、変速)をすべき場合には、両プーリ21,22間に変速に必要な差圧を与えるように、油圧コントロールユニット20を制御する。
【0025】
このATCU52は、「現在の車速VSPは、駆動装置の出力トルク(即ち、CVT2から出力されるトルク)Toutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速である」という条件(第1条件)が成立すると、変速比Rpを最大変速比に、つまり、最ローに固定して変速比Rpの変更を制限する最大変速比固定制御を実施する。また、このときには、モータ1の回転数Nmを変更することにより車速VSPを変更する。
【0026】
つまり、
図2の駆動装置の駆動力線図に示すように、各車速における駆動装置の出力トルクTout の上限は、
図3に示すモータのトルク特性と同様に、車速VSPの増加に応じて低下する。また、CVT2の出力回転数Noutである車速VSPが、駆動装置の出力トルクTout の上限が低下を開始する第1出力回転数(第1車速)Ns以下の低回転領域(
図2に網掛けで示す)にある場合には、駆動装置の出力トルクToutの上限は、モータ1の最大トルクTm_maxとCVT2の最大変速比Rpとから決まり、この上限が駆動トルクの最大トルクTo_maxに応じた一定の上限トルク値となる。また、CVT2の出力回転数Noutである車速VSPには、モータ1の最高回転数とCVT2の最小変速比Rpとから決まる上限がある。
【0027】
図2に網掛けで示す車速VSPが第1車速Ns以下の低車速領域では、変速比Rpが最ローであれば、駆動装置の出力トルクTout の上限は最大トルクTo_maxになり、第1車速Nsを超えると駆動装置の出力トルクToutの上限は最大トルクTo_maxよりも小さくなる。つまり、第1車速Ns以下の低車速領域では、予め変速比Rpを最ローにしておけば、モータ1のトルクTmのみを最大トルクTm_maxまで増大させるだけで、駆動装置の出力トルクToutを最大トルクTo_maxまで増大させることができる。
【0028】
また、この車速VSPが第1車速Ns以下の低車速領域では、アクセルペダルの再踏み込み(いわゆる、キックダウン)によって加速要求がされる場合が想定され、変速比Rpを最ローに固定しておくことで、いつキックダウンがあっても、モータ1からの入力トルクTmを速やかに増大させるだけで、駆動装置の出力トルクToutを最大トルクTo_maxまで速やかに増大させることができる。
そこで、
図2に網掛けで示す第1車速Ns以下の低車速領域を変速比固定領域として、アクセル開度APOに関係なく、変速比Rpを最ローに固定する。
【0029】
また、ATCU52は、「現在の車速VSPは、駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速でない」という条件(第2条件)が成立すると、つまり、上記の第1条件が成立しないと、アクセル開度APOと車速VSPとから必要出力を算出し、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを算出して、CVT2の変速比Rpを最高効率変速比Rp_heに制御する。
【0030】
ここで、最高効率変速比Rp_heについて説明する。
アクセル開度APOに対応して目標駆動トルク(要求駆動トルク)Tout_tを決めることができる。そして、目標駆動トルクTout_tと現在の車速VSPとから次式(1)により車両の必要出力(目標出力)Pout_tを決めることができる。
Pout_t=Tout_t×VSP ・・・(1)
【0031】
車両の必要出力Pout_tを得るには、モータ1のトルクTm(=Tin)と回転数Nm(=Nin)とで決まるモータ1からの目標入力Pin_tを必要出力Pout_tと一致させればよく、次式(2)が成立すればよい。なお、Tin_tはモータ1の目標入力トルク、Nin_tはモータ1の目標入力回転数である。
Pout_t=Pin_t=Tin_t×Nin_t・・・(2)
【0032】
モータ1からの目標入力Pin_tを達成する入力トルクTin,入力回転数Ninは無数或いは多数あるが、ここでは、目標入力Pin_tを達成する入力トルクTin,入力回転数Ninのうち、モータ1の効率が最も良い入力トルクTin,入力回転数Ninを、目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに設定する。また、車両の駆動系の総合効率の観点から、変速比Rpも、目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tを実現する変速比Rpのうち、最も効率が良いもの、即ち、最高効率変速比Rp_heを選択し、これを目標変速比Rp_tとして変速比Rpを制御する。
【0033】
例えば
図4に示すように、モータトルクTinとモータ回転数Tinとで規定された多数の等出力線上にそれぞれモータ効率を紐付けしたモータ効率マップを用いて、目標入力Pin_tに相当する等出力線を選出し、この選出した等出力線上のモータ効率の最高効率点P3のモータトルクTin,モータ回転数Tinを選出し、これらを目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに設定する。
【0034】
最ローから最ハイまでの各変速比毎に、モータトルクTinとモータ回転数Tinとで規定された多数の等出力線上にそれぞれトランスミッション効率を紐付けしたトランスミッション効率マップを用いて、各変速比Rpにおいてモータ効率マップから選出した目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに相当する点P3´でのトランスミッション効率を読み込んで、トランスミッション効率が最も高い変速比Rpを最高効率変速比Rp_heに設定する。
【0035】
あるいは、例えば
図5に示すように、横軸に車速VSPをとり縦軸にモータ回転数Nmをとり、モータ1の出力毎に最も効率が高い点を集合させた最高効率変速線マップを用意して、車速VSPと必要出力Pout_tとから最高効率変速線マップ上の点を求めれば、この点に応じた変速比が最高効率変速比Rp_heとなる。例えば車速VSPがV1で必要出力Pout_tが20kWであれば、最高効率変速線マップ上の点P4に応じた変速比が最高効率変速比Rp_heとなる。
なお、
図5に示す二点鎖線は、発進時において、目標出力Pout_tが
図2に二点鎖線で示すように変化した場合の車速VSP及びモータ回転数Nmの変遷の一例を示すものである。
【0036】
〔作用及び効果〕
本実施形態に係る電動車両の駆動装置は、上述のように構成されているので、例えば
図6のフローチャートに示すように、変速比(プーリ比)Rpを制御することができる。
【0037】
図6に示すように、まず、現在の車速VSPが、駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速であるか否かを判定する(ステップS10)。これは、例えば、現在の変速比が最ローであれば、現在の車速が第1車速Nsに所定値α
1を減じた車速以下であるか否か、現在の変速比が最ロー以外であれば、現在の車速が第1車速Nsに所定値α
2を加えた車速以下であるか否かを判定する。なお、所定値α
1,α
2は、変速判断から実際の変速を開始するまでの時間に相当する回転数として設定されている。そして、現在の車速VSPが、駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速であるとき(現在の変速比が最ローの場合、VSP≦Ns-α
1であるとき、現在の変速比が最ロー以外の場合、VSP≦Ns+α
2であるとき)には、変速比を最ローに設定して走行する(ステップS20)。
【0038】
一方、現在の車速VSPが、駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速でなければ(現在の変速比が最ローの場合、VSP>Ns-α
1であるとき、現在の変速比が最ロー以外の場合、VSP>Ns+α
2であるとき)、アクセル開度APOを確認してこれに応じた目標駆動トルクTout_tを確認し(ステップS30)、車速VSPを確認して(ステップS40)、例えば
図5に示す最高効率変速線マップを参照して、車速VSPと、目標駆動トルクTout_tから得られる目標出力(必要出力)Pout_tとに対応する最高効率変速線マップ上の点を読み取る(ステップS50)。
【0039】
この読み取り結果から、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを決定する(ステップS60)。そして、この最高効率変速比Rp_heを目標変速比Rp_tとしてCVT2の変速比を制御する(ステップS70)。
【0040】
なお、この例では、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを決定するのに、
図5に示す最高効率変速線マップを用いたが、
図4に示すモータ効率マップ及びトランスミッション効率マップを用いて、最高効率変速比Rp_heを決定してもよい。
最高効率変速線マップを用いる場合も、モータ効率マップ及びトランスミッション効率マップを用いる場合も、確実且つ容易に、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを決定することができる。
【0041】
図7は、第1車速Ns以下の車速領域(正確には第1車速Nsから所定値α
1を減じた車速未満の車速領域)で車両が走行しているときに、アクセルペダルの踏み込みがあった場合のアクセル開度APO、駆動力(前後G)、変速比、オイルポンプ9のポンプ油圧、ポンプ油量を示すタイムチャートであり、(a)は比較例の場合を示し、(b)は本装置の場合を示す。比較例とは、
図8に示す駆動力線図上の位置P1の変速比が小さいハイギア状態での走行中にアクセルペダルの再踏み込みがあった場合を想定したものである。
【0042】
図7(a)に示すように、アクセルペダルの踏み込み開始時(時点t1)に、CVT2の変速比Rpが小さいと、モータ1の出力トルクTm(=Tin)は、時点t2で速やかにそのときの変速比により制限された上限トルクまでは上昇させることができる。油圧で作動するCVT2の変速比Rpは、時点t3までかけて時間を要して最ローまで上昇する。変速比Rpが最ローに近づくのに従ってモータ1の上限トルクも増大するが、変速比Rpの増加とともに緩やかな増加になり、時点t3で駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxに達する。このため、駆動力に応じて発生する車両の前後Gは要求Gに遅れて増加することになり、要求される加速状態を得ることができない。
【0043】
これに対して本装置では、
図7(b)に示すように、アクセルペダルの踏み込み開始時(時点t1)に、CVT2の変速比Rpが最ローに固定されているので、モータ1の出力トルクTm(=Tin)は、時点t2で速やかに最大トルクTm_maxまで上昇し、駆動装置の出力トルクToutも最ロー変速比に応じた最大トルクTo_maxまで上昇させることができる。このため、駆動力に応じて発生する車両の前後Gは要求Gに遅れることなく増加し、要求される加速状態を得ることができる。
【0044】
また、このアクセルペダルの踏み込み時に、CVT2を油圧制御するためのオイルポンプ9の油圧及び油量に着目すると、
図7(a)に示す比較例の場合、出力トルクToutに応じたベルト23のクランプ力を確保するためと、変速比Rpを変更するためとの双方に油圧及び油量を要する。これに対して、
図7(b)に示す本装置の場合、出力トルクToutに応じたベルト23のクランプ力を確保するための油圧及び油量を要するだけなので、変速差推力分の油圧が不要になり、変速分の油量が不要になる。このため、オイルポンプ9の最大容量や吐出圧を低いものにでき、オイルポンプ9の小型化や低コスト化に寄与する。
【0045】
〔その他〕
以上、実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でかかる実施形態を種々変更して実施することができる。
【0046】
例えば、上記実施形態では、変速機にプライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との溝幅変更で変速操作を行うベルト式CVTを適用したが、CVTを採用する場合、ベルト式CVTに限らず種々のCVTを適用できる。
また、上記実施形態では、CVTのベルトクランプや変速操作等に油圧を用いる油圧式CVTを例示したが、CVTを採用する場合、油圧式CVTに限らず電動式等の種々のCVTを適用できる。
さらに、有段変速機への適用も考えられる。
【0047】
また、上記実施形態では、CVT2の変速比を最大変速比に固定する最大変速比固定制御の実施判断条件として、現在の車速VSPが、現在の変速比が最ローのときはVSP≦Ns-α1、現在の変速比が最ロー以外のときはVSP≦Ns+α2を満たすか否かで判断しているが、これに限られない。本発明は、少なくとも、駆動装置の出力トルクToutが最大トルクTo_maxを生成可能な車速領域において、CVT2の変速比を最大変速比に設定すればよく、例えば、上記の実施判断条件として、現在の変速比に関わらず、現在の車速VSPと最大トルクを生成可能な車速の上限である第一車速Nsとを比較して判断してもよいし、あるいは第1車速Nsよりも大きな車速と比較し判断してもよい。
【0048】
さらに、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを、最高効率変速線マップや、モータ効率マップ及びトランスミッション効率マップを用いる場合を例示したが、最高効率変速比Rp_heを決定する手法はこれに限らない。
さらに、上記実施形態の制御のうち、CVT2が最ロー変速比で且つモータ1が出力可能な最大トルク領域の回転数で実現可能な車速であれば、変速比を最ローに固定する点のみを採用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 電動機(モータ)
2 無段変速機(CVT)
3 アクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)
4 車速センサ(車速検出手段)
5 ECU群(制御手段)
6 駆動輪
7 減速機構
8 ディファレンシャル
9 オイルポンプ
10 インバータ
20 油圧コントロールユニット
21 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
23 無端状動力伝達体(ベルト)
51 電動機制御部(MCU)
52 変速制御部(ATCU)