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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ドラム式洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 37/22 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
D06F37/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018031505
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019146618
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井村 真
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真理
(72)【発明者】
【氏名】山口 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】立山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】和田 努
【審査官】山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-319172(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0023554(US,A1)
【文献】特開平05-084388(JP,A)
【文献】特開2017-144008(JP,A)
【文献】特開2012-170698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0041563(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布類を収めた状態で回転するドラムと,前記ドラムを回転自在に内包する外槽と,前記ドラムと前記外槽とを含む洗濯槽の下部に設けられた複数のダンパーと,前記洗濯槽と複数のダンパーを内包した筺体およびベースと,を備え、
前記外槽は、槽カバーと水槽で構成され、前記槽カバーと前記水槽は分割面で分割可能であって、
前記分割面は、前記外槽の前後方向の中心よりも前面側に設けられており、
前記複数のダンパーは,前記分割面より後方に設置された一対のダンパーと,前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーと、を有し,
前記一対のダンパーいずれの減衰性能よりも,前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーの減衰性能が大きいことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
運転時のドラムの中の布類の偏りが判別可能なセンサーを備え、
前記センサーが前記外槽の下部の前記分割面より前面側に設置されていることを特徴とするドラム式洗濯機。

【請求項3】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
前記分割面より後方に設置された一対のダンパーはほぼ直立した状態で設置され,
前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーは前記分割面より後方に設置された一対のダンパーよりも傾いた状態で設置されていることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項4】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
前記分割面より後方に設置された一対のダンパーはばねとともに設置されていることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項5】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
前記分割面より後方に設置された一対のダンパーに減衰性能を切り替える機能を有するダンパーを用いたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項6】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーは直線的に伸縮することで減衰性能を発揮するダンパーを用いたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項7】
請求項1に記載のドラム式洗濯機において,
その複数のダンパーのうち,前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーは回転角により減衰性能を発揮するダンパーを用いたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では,毛布を例とする比較的大物の布類を洗濯したいというニーズも高まっている。このため,洗濯機の大容量化が進んでいる。その大容量化に向けて,ひとつの技術課題になるのが,運転時の振動の抑制である。
【0003】
ドラム式洗濯機は,例えば,特許文献1のような構造である。洗濯槽の下部に複数のダンパーを有し,その減衰性能はもちろん,配置を適切にすることで,振動を抑制している。布類を収めて回転するドラムは,洗濯槽の中に回転自在なように配置される。洗濯槽の外面の背面側には,ドラムを回転させる駆動モーターが取り付けられている。洗濯槽は,複数のばねやダンパーを介して,筺体の中およびベースの上に接続される。その姿勢を保持しつつ,運転時の自身の振動が筺体やベースに伝達しづらいようになっている。その前面には,布類を出し入れするための開口部が設けられている。その開口部の周辺では,筐体と洗濯槽がゴムベローズを介して接続されており,筐体に開閉可能なドアが設けられている。洗濯槽には,運転中の振動を計測するセンサーが設置されている。このセンサーで検知した振動データをもとに,ドラムの中の布類の偏り量や偏り方が判別される。振動が過剰に大きい場合,ドラムの回転速度を降下させる。その後,ふたたび回転速度を上げ下げして偏り量や偏り方を調整し,振動を抑制する制御を行う。
【0004】
このように,構造と制御の技術を組み合わせて,振動を抑制させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6111426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洗濯機の大容量化の課題のひとつとして,振動抑制を挙げた。大容量化にともない,布類の偏り量も大きくなるが,偏り方の違いによる影響も顕著になる。大物布類など布量が多い場合,ドラムの前面側あるいは中央付近に布類の偏りが形成される。これに対し,例として足拭きマットなどの一枚物,布量が少ない場合は,ドラムの背面側に偏る。
【0007】
運転時に,ドラムの前面側あるいは中央付近に偏りが形成される場合,洗濯槽は前面側の振動が背面側よりも大きくなる。背面側を起点に首振り運動し,つまり,回転運動のように揺れる。一方で,背面側に偏りがある場合,洗濯槽は背面側の振動が大きくなりやすい。しかし,前面側にあるゴムベローズによる減衰効果もあって,首振りのような回転運動とは異なり,洗濯槽全体が並進運動のように揺れる。
【0008】
運転時,上記の並進運動のような揺れ方をする共振点や回転運動のような揺れ方をする共振点を必ず通過する。特に,布類の脱水をする場合には,これらの共振点を通過した後の十分高い回転速度にて,一定時間動作し,布類が含んだ水分を取り除く。
【0009】
それらの共振点は,洗濯槽とこれを支える複数のばねとダンパーからなる振動系の固有振動数に相当する。運転時の回転速度,つまり,回転周波数とその固有振動数がおおむね一致すると,共振状態が発生する。特に,固有振動の揺れ方と偏り方が一致したときに,共振が顕著になる。
【0010】
並進運動のような揺れ方をする共振点を通過する際に,ドラムの背面側に布類が偏っていれば,共振に近い状態になり,振動が顕著に大きくなる。前面側あるいは中央付近に布類が偏っていれば,振動はそれほど大きくならない。一方で,回転運動のような揺れ方をする共振点を通過する際には,ドラムの前面側あるいは中央付近に布類が偏っていれば,振動が顕著に大きくなる。背面側に偏っていれば,振動はそれほど大きくならない。
【0011】
並進運動のような単純な揺れ方をする共振点は,回転運動のような複雑な揺れ方をする共振点よりも低くなる。つまり,回転運動のような複雑な揺れ方をする共振点の方が,回転速度が速い分,加振力である遠心力も相対的に大きくなる。
【0012】
特許文献1では,洗濯機の大容量化も狙って,布量が多い場合や大物布類を洗濯する場合に特化したと思われる振動抑制の手段を示している。
【0013】
洗濯機の側面視にて,前面側に配置したダンパーの減衰性能を,背面側に配置したダンパーの減衰性能よりも大きくする手段をとっている。ここで,前面側に配置したダンパーは,前面側の振動を減衰させるのに有効であり,これに対して,背面側に配置したダンパーは,背面側の振動を減衰させるのに有効になる。この手段は,相対的に,加振力が大きく,前面側が大きく揺れる,回転運動のような揺れ方をする共振点を通過するときの振動を抑制できる。
【0014】
しかし,これでは,布量の少ない場合,並進運動のような揺れ方をする共振点を通過するときの振動が相対的に顕著になる傾向になる。この対策として,背面側のダンパーの減衰も大きくするということも考えられる。
【0015】
ところで,洗濯機の振動を考える上で,洗濯槽の振動の他に,その振動の伝達によって生じる床の振動も考慮する必要がある。洗濯槽に起因する共振点を通過した後,十分高い回転速度にて,定常回転する。このような,共振点通過時と定常回転時では,床への振動伝達という点で,ダンパーは相反する作用をする。つまり,ダンパーの減衰性能が大きいほど,共振点通過時の床への振動伝達は小さくなるが,一方で,定常回転時の床への振動伝達は大きくなってしまう。
【0016】
よって,前面側と背面側に配置したダンパーの減衰性能をいずれも一律大きくすると,いずれの共振点通過時も振動を抑制できるが,その後の定常回転時の床の振動が大きくなる,という相反する課題が生じてしまう。
【0017】
本発明はこのような従来の課題を解決する。まず,前面側と背面側に配置したダンパーとで,上記した共振点に対する振動減衰効果が異なることに着目した。また,ドラムの前面側あるいは中央付近に偏りができる布量の多い場合は,布量の少ない場合に比べて,偏り方を調整しやすいという性質がある。さらに,回転速度が上昇するにつれて,布類の水分は掃けていき,偏り量も減っていく。運転中に,それらの点を洗濯槽に設置したセンサーで検知できることにも着目した。
【0018】
これらのことを考慮し,複数のダンパーを適切に配置し,それらの減衰性能を適切に設定することにより,容量や布類の偏り方によらずに,低振動なドラム式洗濯機を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のドラム式洗濯機は、布類を収めた状態で回転するドラムと,前記ドラムを回転自在に内包する外槽と,前記ドラムと前記外槽とを含む洗濯槽の下部に設けられた複数のダンパーと,前記洗濯槽と複数のダンパーを内包した筺体およびベースと,を備え、前記外槽は、槽カバーと水槽で構成され、前記槽カバーと前記水槽は分割面で分割可能であって、前記分割面は、前記外槽の前後方向の中心よりも前面側に設けられており、前記複数のダンパーは,前記分割面より後方に設置された一対のダンパーと,前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーと、を有し, 前記一対のダンパーいずれの減衰性能よりも,前記一対のダンパーの後方に設置されたダンパーの減衰性能が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,複数のダンパーの減衰性能をすべて大きくすることなく,回転運動のような揺れ方の共振点と並進運動のような揺れ方の共振点,いずれも振動を抑制できる。これに加えて,共振点通過時の振動抑制とその後の定常回転時の床の振動抑制を両立する効果がある。洗濯機の大容量化を図る場合に,布類の偏り量や偏り方によらず,低振動性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態例の洗濯機の右側面の断面図である。
図2】本発明の実施形態例の洗濯機の外観斜視図である。
図3】本発明の実施形態例の洗濯機の正面の内視図である。
図4】本発明の実施形態例の洗濯機の布量の違いによる偏り方の違いを説明する図である。
図5】本発明の実施形態例の洗濯機のダンパーの減衰性能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本発明の実施例について図面を用いながら説明する。
【0023】
<構成>
まず,その構成を説明する。
【0024】
図1は本実施例の洗濯機の右側面の断面図を示す。図2は本発明の洗濯機の外観斜視図である。ベース1の上部には,鋼板と樹脂成形品を組み合わせ,外殻を構成する筐体2が載せられている。筐体2は,前面側パネルと背面側パネル,左右の側面パネル,上面パネルで構成されている。筐体2の前面側には,洗濯する布類を出し入れするドア3が設けられている。
【0025】
筐体2の上部の前面側には,操作パネル4が設けられている。操作パネル4には,電源,スタートまたは一時停止,コース選択などの操作ボタンや,時間や運転条件を表示する画面がある。ベース1の下部の側面には,排水ホース9が設けられている。洗濯槽の下部に排水口7と排水弁8があり,これらを経由して排水ホース9に繋がっている。
【0026】
洗濯槽は外槽10とこれに内包されているドラム20で構成される。外槽10は前面と背面を有する略円筒に形成されている。外槽は開口部10aのある槽カバー10bと水槽10cとで構成されている。槽カバー10bと水槽10cは分割面10dで分解できるようになっている。外槽10は前面の開口部10aが環状のパッキンのような役割を果たすゴムベローズ11を介して,筺体2の前面側と接続されている。ドア3を閉めることで水封できるようになっている。
【0027】
外槽10の上部には,外槽10の姿勢を保持するための前吊りばね13と後吊りばね14が設けられている。外槽10の下部には,外槽10を下から支えるため,また,多方向に加振力を分散するため,前面側に配置されたダンパー41と背面側に配置されたダンパー42が設けられている。前面側のダンパー41は一対になっており,それらは側面視で,前後位置における同じ位置に配置され,外槽10とベース1に接続されている。外槽10の分割面10dは前後方向の中心よりも前面側に設けられており,複数のダンパーが水槽10cに取り付けられた状態で槽カバー10bの取り外しが可能となっている。
【0028】
外槽10の下部の前面側には,外槽10の上下,左右,前後方向の振動を検知できるセンサー10eが設けられている。運転時に,外槽10の振動をそのセンサーで計測し,設定された所定値以上となった場合には,ドラム20の回転をやめ,再度,回転速度を上げるようになっている。
【0029】
ドラム20は回転自在なように外槽10の内側に配置されている。ドラム20の内側には洗濯物を掻き揚げる複数個のリフター20eが設けられている。ドラム20の背面側には,ドラム20の補強部材にもなるドラム底板20bが設けられている。ドラム20の前面側の端部には,流体バランサー20dが設けられている。布類の偏りを相殺する効果を有し,運転時の外槽10の振動を抑制させている。
【0030】
ドラム20はドラム底板20bに固定されたシャフト31を介し,ドラム20の駆動用モーター32と直結されている。この駆動用モーター32は外槽10の背面に固定されている。ドラム20はそのドラム胴板20aに遠心脱水および通風用の脱水孔20cが設けられている。外槽10の下部に排水口7が設けられ,排水弁8を介して排水ホース9に接続されている。
【0031】
筐体2の上部には,給水ホースを接続する給水ユニット15が設けられている。給水ユニット15と洗剤ケース16は配管17を介して接続されている。洗剤ケース16から配管18を介して外槽10の後方に接続されている。給水ユニット15に流入した水は洗剤ケース16を経由して外槽10に流入する構造となっている。
【0032】
<動作>
続いて,その動作を説明する。
【0033】
ドア3を開いてドラム20内に洗濯物を投入し,洗剤ケース16内に所定量の洗剤を投入した後,運転させると,まず,洗い工程が実行される。洗い工程では,給水ユニット15内に設けられた給水弁が開き給水された水は,洗剤ケース16を経由して,洗剤と共に外槽10内に入る。この動作を所定時間,実行した後,ドラム20が正転,停止,逆転,停止を繰り返す攪拌動作が所定時間実行される。このとき,ドラム20の中にある布類は,ドラム20内に複数設けられたリフター20eによって回転方向に持ち上げられる。持ち上げられた高さから落下する攪拌動作が繰り返されるため,布類にはたたき洗いの作用が働くことで洗われる。この動作を所定時間行った後,洗い工程を終了する。
【0034】
続いて,脱水工程が実行される。脱水工程では,排水弁8が開き,外槽10内の水が排水ホース9を経由して洗濯機の外に排水される。ドラム20を所定時間高速で一定回転させることで,布類の水分も脱水させる。この動作を所定時間行った後,脱水工程を終了する。
【0035】
脱水工程の後,すすぎ工程が実行される。給水弁を開いて給水し,その水は給水ユニット15と外槽10を接続する配管19を経由して,外槽10内に注水される。すすぎ工程では,洗い工程と同様に,正転,停止,反転,停止の動作を繰り返す攪拌動作が所定時間実行される。このとき,洗濯物がドラム20のリフター20eによって回転方向に持ち上げられ,持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返される。このため,布類に含まれる洗剤が希釈され,すすがれる。
【0036】
すすぎ工程を行った後,再度,脱水工程を行い,運転を終了する。なお,乾燥機能を備えたドラム式洗濯機の場合,この後,乾燥工程が実行されることになる。
【0037】
<実施例>
図3は,本実施例の洗濯機の正面の内視図である。図4は,本実施例の洗濯機の布量の違いによる偏り方の違いを説明する図である。図5は,本実施例の洗濯機のダンパーの減衰性能を説明する図である。
【0038】
図3に示すように,筐体2の上部から順に,前吊りばね13と後吊りばね14,水槽10c,複数本のダンパー,これらが筐体2およびベース1に接続されている。ベース1は複数のゴムブッシュ43を介して床と接続している。複数本のダンパーは,洗濯機の側面視にて,前面側に設けられた一対のダンパー41と背面側に設けられたダンパー42とに分かれて配置されている。
【0039】
運転時には,図4に示すように,布量の違いにより偏り方が異なる。布量が多い場合,ドラム20の前面側あるいは中央付近に布類50の偏り51が形成される。これに対し,布量が少ない場合には,ドラム20の背面側に偏ることになる。
【0040】
ドラム20の前面側あるいは中央付近に偏り51が形成される場合,洗濯槽は前面側の振動が背面側よりも大きくなる。背面側を起点に首振り運動し,つまり,回転運動のように揺れる。一方で,背面側に偏りがある場合には,洗濯槽は背面側の振動が大きくなりやすい。しかし,前面に接続されるゴムベローズ11による減衰効果があって,首振りのような回転運動とは異なり,洗濯槽全体が並進運動のように揺れる。
【0041】
運転時には,上記の並進運動のような揺れ方をする共振点や回転運動のような揺れ方をする共振点を必ず通過する。それらの共振点は,洗濯槽とこれを支える複数のばねとダンパーからなる振動系の固有振動数に相当する。運転時の回転速度,つまり,回転周波数とその固有振動数がおおむね一致すると,共振状態が発生する。特に,固有振動の揺れ方と偏り方が一致したときに,共振が顕著になる。
【0042】
並進運動のような揺れ方をする共振点を通過する際に,ドラム20の背面側に布類50が偏っていれば,共振に近い状態になり,振動が顕著に大きくなる。前面側あるいは中央付近に布類50が偏っていれば,振動はそれほど大きくならない。一方で,回転運動のような揺れ方をする共振点を通過する際には,ドラム20の前面側あるいは中央付近に布類50が偏っていれば,振動が顕著に大きくなる。背面側に偏っていれば,振動はそれほど大きくならない。
【0043】
並進運動のような単純な揺れ方をする共振点は,回転運動のような複雑な揺れ方をする共振点よりも低くなる。つまり,回転運動のような複雑な揺れ方をする共振点の方が,回転速度が速い分,加振力である遠心力も相対的に大きくなる。
【0044】
また,洗濯機の振動を考える上で,洗濯槽自身の振動の他に,その振動の伝達によって生じる床の振動も考慮する必要がある。洗濯槽起因の共振点を通過した後,十分高い回転速度にて,定常回転する。このような,共振点通過時と定常回転時では,床への振動伝達という点で,ダンパーの減衰の大きさは相反する作用をする。つまり,ダンパーの減衰性能が大きいほど,共振点通過時の床への振動伝達は小さくなるが,一方で,定常回転時の床への振動伝達は大きくなる。
【0045】
そこで,本発明の実施例の複数のダンパーは,洗濯槽の前面側に設置された一対のダンパー41と,背面側に設置されたダンパー42とで構成され,前面側のダンパー41いずれよりも,背面側のダンパー42の減衰性能が大きくなるように設定されている。
【0046】
前面側に配置したダンパー41は,前面側の振動を減衰させるのに有効であり,これに対して,背面側に配置したダンパー42は,背面側の振動を減衰させるのに有効になる。前面側と背面側に配置したダンパーとで,上記したような共振点に対する振動減衰効果が異なることに着目している。
【0047】
また,ドラム20の前面側あるいは中央付近に偏りができる布量の多い場合は,布量の少ない場合に比べて,偏り量と偏り方を調整しやすい。布量が少ないと,布の動きが大きいからである。また,回転速度が上昇するにつれて布類の水分が掃けていき,偏り量も減っていく。これらを洗濯槽に設置したセンサー10eで検知できる。このセンサー10eは外槽10の上下,左右,前後方向の振動を検知でき,外槽10の下部の前面側に設けられている。このため,上記のように,ダンパーの配置とその減衰性能を設定することで,いずれの共振点通過時の振動にも対応できる。
【0048】
前面側と背面側に配置したダンパーの減衰性能を一律に大きくせずに済むので,いずれの共振点通過時の振動も抑制でき,その後の定常回転時の床の振動も抑制することができる。
【0049】
なお,ダンパーの減衰性能の大きさは,図5に示すように,ダンパーの伸縮に応じた変位に対して発生する減衰力の軌跡の内側の面積に相当する。この面積は減衰エネルギーとも称される。同じ大きさで変位させるという条件の下,その面積の大きい方が減衰性能は大きいことを意味する。
【0050】
ここで,減衰性能の大小関係の定義を説明する。その大小を比較する際には,その軌跡として,図5(a)から図5(d)に示すようないずれの軌跡であってもよい。図5(a)は楕円のような軌跡である。例えば,オイルダンパーはこのような傾向を示す。図5(b)は矩形のような軌跡である。例えば、摩擦ダンパーはこのような傾向を示す。図5(c)は楕円と矩形の軌跡が組み合わさったような軌跡である。例えば,オイルダンパーや摩擦ダンパーも,微妙な傾きやガタなどの摺動抵抗などにより,このような傾向を示す場合がある。図5(d)は図5(c)のようであって,減衰力が部分的に突出したように大きくなるような軌跡である。例えば,変位の大きさに応じて,段階的に減衰性能が切り替わる機能を持たせたダンパーの場合に,このような軌跡を示す。いずれにしても,軌跡の内側の面積の大きい方が減衰性能は大きいということを意味する。
【0051】
図3は一対の前面側のダンパー41にオイルダンパーを,背面側のダンパー42に摩擦ダンパーを用いた例を示している。しかし,背面側のダンパー42の減衰性能よりも小さいことが重要であって,この範囲であれば,一対の前面側のダンパー41の減衰性能は,互いに同じであっても差があってもよい。ダンパーの種類には,オイルダンパーや摩擦ダンパーなどがある。他に,電磁力を応用して減衰性能を発揮するダンパーもある。しかし,前面側と背面側のダンパーとで減衰性能に大小関係を設けることを意図しているので,ダンパーの種類の組み合わせはいずれであってもよい。
【0052】
一対の前面側のダンパー41の取り付け角度は,互いにほぼ直立し,向かい合うように配置されることが望ましい。前面側のダンパー41にそれぞればねを設けることで,洗濯槽の重さを支持する役割も果たすことができる。一方で,背面側のダンパー42の取り付け角度は,前面側のダンパー41の取り付け角度に対して傾いていることが望ましい。このようにすることで,背面側の上下左右の振動をいずれも抑制する効果を発揮できる。
【0053】
また,このような取り付け角度にすることで,床を上下に揺らす力を発生させやすい前面側のダンパー41の減衰力を低く設定しているので,共振点通過後の定常回転時の床の振動伝達も従来技術に比べて抑制することができる。ここで,その前面側のダンパー41のいずれか,または,両方を,減衰性能を切り替える機能を有するダンパーにしておくことで,床の振動伝達をさらに効果的に低減することもできる。
【0054】
複数のダンパーは,特許文献1にあるように,外槽10あるいはベース1と接続するその両端が回転可動なリンク構造になっていてもよいし,そうでなくてもよい。また,外槽10またはベース1に接続する部分に,ゴムブッシュを介していてもよい。このゴムブッシュは両端に設けてあってもよいし,片側のみであってもよい。特許文献1では,ダンパーの下側にのみゴムブッシュを設けてある構成が示されている。
【0055】
複数のダンパーは,特許文献1にもあるように,変位が伸縮することで減衰力を発揮する,ごく一般的なダンパーでもよいし,変位ではなく回転角に応じて減衰力を発揮させるようなダンパーであってもよい。本発明は減衰性能の大小関係を設けることを意図するもので,そのダンパーの形式によって対象範囲を制限するものではない。
【0056】
以上の実施例により,共振点通過時の振動抑制とその後の定常回転時の床の振動抑制を両立でき,洗濯機の大容量化を図る場合に,布類の量や偏り方によらず,低振動性を実現できる。
【符号の説明】
【0057】
1 ベース
2 筐体
3 ドア
10 外槽
a 開口部
b 槽カバー
c 水槽
d 分割面
e センサー
11 ゴムベローズ
13 前吊りばね
14 後吊りばね
20 ドラム
a 胴板
b 底板
c 脱水孔
d 流体バランサー
e リフター
31 シャフト
32 駆動用モーター
41 前面側ダンパー
42 背面側ダンパー
43 ゴムブッシュ
50 布類
51 偏り
図1
図2
図3
図4
図5