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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 15/08 20060101AFI20220107BHJP
   B41F 15/36 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B41F15/08 303K
B41F15/36
B41F15/36 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018051061
(22)【出願日】2018-03-19
(65)【公開番号】P2019162749
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390001487
【氏名又は名称】サンアロー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】李 聖勲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐一
(72)【発明者】
【氏名】清宮 朝臣
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-298352(JP,A)
【文献】特開2004-207350(JP,A)
【文献】特開2004-268266(JP,A)
【文献】特開平09-142051(JP,A)
【文献】米国特許第03529544(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03235967(DE,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/08
B41F 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側から他端側に向かって陥没した凹部が形成され、且つ前記凹部に連なるとともに前記凹部に対して相対的に突出した凸部を有する樹脂材の、前記凸部の頂面に対してインクを印刷する印刷装置において、
前記樹脂材を保持する台座部と、
前記インクが通過する開口が形成されたスクリーンと、
を備え、
前記インクを前記凸部の頂面に塗布する際、前記スクリーンの、前記開口の縁部が前記凹部側にオフセットされ、
前記開口の縁部に形成されるインク溜まりの高さが、前記凹部の、前記インク溜まりの位置に対応する部位の深さよりも小さいことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置において、前記インクを前記凸部の頂面のみに印刷することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
一端側から他端側に向かって陥没した凹部が形成され、且つ前記凹部に連なるとともに前記凹部に対して相対的に突出した凸部を有する樹脂材の、前記凸部の頂面に対してインクを印刷する印刷方法において、
前記樹脂材を、印刷装置の台座部に保持する工程と、
前記印刷装置のスクリーンに形成された開口を前記凸部の頂面に合わせ、前記インクを前記開口に通過させて前記凸部の頂面に印刷する工程と、
を有し、
前記インクを印刷する工程では、前記開口の縁部を前記凹部側にオフセットするとともに、前記開口の縁部に形成されるインク溜まりの高さを、前記凹部の、前記インク溜まりの位置に対応する部位の深さよりも小さくすることを特徴とする印刷方法。
【請求項4】
請求項3記載の印刷方法において、前記インク溜まりの高さを、前記インクの粘度又は印刷回数の少なくとも一方を調整することで調節することを特徴とする印刷方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の印刷方法において、複数個の前記樹脂材に対する前記インクの印刷を行った後、前記インク溜まりを拭き取って除去することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部が形成されるとともに該凹部に連なり且つ該凹部に対して相対的に突出した凸部にインクを印刷するための印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に設けられた加飾層の一部を外方から視認可能な樹脂成形品は、例えば、いわゆるスマートキーの筐体等に広汎に用いられている。加飾層は、文字や記号、図形等の装飾模様としてユーザに視認され、美観の要素となっている。
【0003】
特許文献1には、この種の加飾層を立体的に視認させるための技術が提案されている。すなわち、該特許文献1記載の技術では、第1樹脂成形品の傾斜面に蒸着膜を形成し、さらに、該蒸着膜の表面に印刷層を形成して加飾層を形成している。次に、加飾層上に液状硬化型樹脂と第2シートが被せられ、その後に液状硬化型樹脂が硬化されることで樹脂成形品(特許文献1においていう「加飾パネル」)が得られる。
【0004】
凹部が形成された樹脂材には、該凹部に連なるとともに該凹部に対して相対的に突出した凸部が存在する。このような樹脂材に対し、凹部に金属層を形成して装飾部とする場合、凹部以外の部位に形成された金属層を視認できなくするための遮蔽層が形成される。遮蔽層は、通常、黒色の印刷層からなり、例えば、スクリーン印刷によって設けられている。
【0005】
特許文献2に記載されるように、スクリーン印刷では、インクが通過する開口が形成されたスクリーンが用いられる。開口が凸部の頂面の位置に合わせられ、この状態でインクが供給されると、該インクが開口を通過して凸部の頂面に印刷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-166248号公報
【文献】特開昭62-222883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにして凸部にインクが印刷されるのに対し、凹部はスクリーンの閉塞部位で覆われていることから、本来、凹部の壁面にインクが印刷されることはない。しかしながら、本発明者の鋭意検討によれば、凹部の壁面にインクが印刷されることがある。この場合、凹部に形成された金属層を視認することができなくなるので、装飾部の立体感が乏しくなり、また、所望の形状を精度よく得ることが容易でなくなる。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、凹部の壁面にインクが印刷される懸念を払拭し得る印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、一端側から他端側に向かって陥没した凹部が形成され、且つ前記凹部に連なるとともに前記凹部に対して相対的に突出した凸部を有する樹脂材の、前記凸部の頂面に対してインクを印刷する印刷装置において、
前記樹脂材を保持する台座部と、
前記インクが通過する開口が形成されたスクリーンと、
を備え、
前記インクを前記凸部の頂面に塗布する際、前記スクリーンの、前記開口の縁部が前記凹部側にオフセットされ、
前記開口の縁部に形成されるインク溜まりの高さが、前記凹部の、前記インク溜まりの位置に対応する部位の深さよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、一端側から他端側に向かって陥没した凹部が形成され、且つ前記凹部に連なるとともに前記凹部に対して相対的に突出した凸部を有する樹脂材の、前記凸部の頂面に対してインクを印刷する印刷方法において、
前記樹脂材を、印刷装置の台座部に保持する工程と、
前記印刷装置のスクリーンに形成された開口を前記凸部の頂面に合わせ、前記インクを前記開口に通過させて前記凸部の頂面に印刷する工程と、
を有し、
前記インクを印刷する工程では、前記開口の縁部を前記凹部側にオフセットするとともに、前記開口の縁部に形成されるインク溜まりの高さを、前記凹部の、前記インク溜まりの位置に対応する部位の深さよりも小さくすることを特徴とする。
【0011】
このように、本発明では、インクが通過する開口の縁部を凹部側にオフセットさせている。開口の縁部にはインク溜まりが形成されるが、このオフセットにより、インク溜まりが凹部の一壁面である側面から離間する。その結果として、インクが凹部の側面に付着することや、該側面を伝って底面に到達することが回避される。
【0012】
すなわち、インクを凸部の頂面のみに選択的に印刷することができる。このため、印刷層が凹部に形成されることが回避される。従って、印刷層に続いて凹部に金属層を形成する場合、該金属層が所望の形状及び寸法として視認される。従って、金属層を、例えば、所望の形状及び寸法である装飾部として認識させることができる。換言すれば、精度に優れた装飾部を得ることができる。
【0013】
なお、インク溜まりの高さは、インクの粘度又は印刷回数の少なくとも一方を適宜調整することで調節することが可能である。すなわち、インクの粘度が小さい(流動性に富む)場合、印刷回数が少なくてもインク溜まりが比較的大きく成長する。換言すれば、高さが大きくなる。一方、インクの粘度が大きい(流動性に乏しい)と、印刷を繰り返し行ってもインク溜まりの成長が比較的遅い。
【0014】
前者の場合、開口の目詰まりが起こり難く印刷が容易であるという利点があり、後者の場合、インク溜まりの高さが許容範囲を超えるまでの印刷回数を多くすることができるという利点がある。インクの粘度や印刷回数は、この点を考慮して適宜設定すればよい。
【0015】
インク溜まりの高さが許容範囲を超えた場合、インク溜まりを拭き取って除去すればよい。ただし、1回の印刷の終了毎に拭き取りを行うと、その間は印刷を行うことができないので、単位時間あたりの印刷回数が少なくなる。これを回避するべく、インク溜まりの拭き取りを、複数回の印刷を行った後、換言すれば、複数個の樹脂材に対する印刷を行った後に行うことが好ましい。なお、上記したように、インクの粘度を調整することにより、拭き取りが必要となるまでの印刷回数を調節することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凸部の頂面に対してインクを印刷する際、スクリーンの、インクが通過する開口の縁部を、凸部に連なる凹部側にオフセットさせるようにしている。このオフセットにより、インクが凹部の側面に付着することや、該側面を伝って底面に到達することが回避される。
【0017】
その結果として、インクを凸部の頂面のみに選択的に印刷することができる。すなわち、印刷層が凹部に形成されることが回避されるので、印刷層に続いて凹部に形成した金属層が、所望の形状及び寸法として視認される。このため、該金属層を、所望の形状及び寸法であるものとして得ることができる。このような金属層は、例えば、装飾部として認識させることができる。この場合、精度に優れた装飾部が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の要部平面図である。
図2図1中のII-II線矢視断面図である。
図3図1の樹脂成形品を湾曲させて物品に貼付する状態を示した要部概略縦断面図である。
図4】金型のキャビティに紫外線硬化性樹脂を充填した状態を示した要部概略縦断面図である。
図5】紫外線硬化性樹脂上に高分子膜を載置し、均し部材であるローラで加圧している状態を示す要部概略縦断面図である。
図6】樹脂基材層とカバー層を有する複合体の要部概略縦断面図である。
図7図6に示す複合体に対し、スクリーン印刷装置によってインクを印刷している状態を示す要部概略縦断面図である。
図8図7の要部拡大図である。
図9】樹脂基材層とカバー層を有し、且つ前記樹脂基材層を構成する凸部の頂面に印刷層が形成された複合体の要部概略縦断面図である。
図10図9に示す複合体に金属層を設けた状態を示す要部概略縦断面図である。
図11図10から、さらに保持層を設けた状態を示す要部概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る樹脂成形品につき、印刷装置及び印刷方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る樹脂成形品10の要部平面図であり、図2は、図1中のII-II線矢視断面図である。この樹脂成形品10は、無地部12に装飾部14が設けられた積層膜からなる。この場合、装飾部14は装飾文字「H」からなり、無地部12に対して立体的に浮かび上がるように視認することが可能である。
【0021】
樹脂成形品10は、樹脂基材層20を有する。以下、樹脂基材層20の図2における下方を下端、上方を上端と表記すると、この中の下端には、図2の紙面手前側から奥側に向かって延在する溝形状の2個の凹部22a、22bが形成される。これら凹部22a、22bは、装飾文字「H」の2本の縦脚部にそれぞれ相当する。また、凹部22a、22bの側方には、凸部24a~24cが相対的に突出する。
【0022】
凹部22a、22bは、上端側(後述するカバー層40側)に向かって陥没している。また、凹部22a、22bは、互いに近接するにつれて深くなっている。すなわち、凹部22a、22bは、互いに対向する位置で最深であり、最も離間する位置で最浅である。なお、装飾文字「H」の横棒部を構成するための凹部(図示せず)の深さは、凹部22a、22bの最深部と略同程度である。
【0023】
凹部22a、22bをはじめとする樹脂基材層20の下端面全体には、加飾層30を構成する金属層32が設けられている。この金属層32のうち、凹部22a、22bに設けられた部分(以下、「凹部対応部分33a」と表記する)が装飾部14として視認される。金属層32は、光沢を示すことで意匠性を一層向上させる。
【0024】
金属層32は、開気孔や閉気孔等の気泡が密集することで形成された極微細な空隙、すなわち、不連続部分34を含むことが好ましい。後述するように、樹脂成形品10を湾曲することが容易となるとともに、金属層32にひび割れ等が発生することが困難となるからである。不連続部分34は、金属層32の表面で開放したもの(開気孔)であってもよいし、閉塞された内部空間(閉気孔)であってもよい。
【0025】
金属層32の、凹部対応部分33a以外の部分(以下、「平坦部対応部分33b」と表記する)は、遮蔽層である印刷層36に覆われている。換言すれば、印刷層36は、金属層32の平坦部対応部分33bと樹脂基材層20の間に介挿されている。このため、樹脂成形品10を使用するユーザからは、平坦部対応部分33bは印刷層36の背後に隠れ、視認し得ない状況となっている。この印刷層36と金属層32により、加飾層30が構成される。
【0026】
印刷層36は、黒色であることが好ましい。この場合、金属層32の光沢とのコントラスト差が大きくなるので、装飾部14の見栄えが向上するからである。
【0027】
樹脂基材層20は、紫外線硬化性樹脂からなる。紫外線硬化性樹脂は比較的柔軟であり、このため、樹脂成形品10を湾曲させる外力が付与されたとき、該樹脂成形品10は容易に湾曲する。このように、紫外線硬化性樹脂からなる樹脂基材層20は、樹脂成形品10に可撓性をもたらす層である。
【0028】
ここで、印刷層36は、樹脂基材層20に比して柔軟である。一層具体的には、印刷層36の伸び率は樹脂基材層20に比して大きく、且つショアD硬度は樹脂基材層20に比して小さい。このため、加飾層30が樹脂基材層20に追従して容易に撓む(湾曲する)。従って、柔軟度の相違に起因して加飾層30が樹脂基材層20から剥離することが回避される。
【0029】
なお、伸び率はJIS K 7161(ASTM D 638に準拠)に規定される、いわゆるB法に則って測定される。樹脂基材層20、印刷層36のそれぞれの伸び率は、例えば、1~100%、1~200%程度である。また、樹脂基材層20、印刷層36のそれぞれのショアD硬度は、例えば、60°~90°、70°~90°程度である。
【0030】
また、金属層32の好適な材質としてはインジウム、スズ、又はこれらの合金等が挙げられる。この場合、不連続部分34を有する金属層32を得ることが容易である。また、これらは電波透過性を示すので、樹脂成形品10をスマートキーの筐体として用いる場合、スマートキーから車体への通信が妨げられることが回避される。一方、印刷層36の好適な材質としては、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0031】
樹脂基材層20の上端は、平坦部26とされている。該平坦部26の上面には、高分子膜40a(図5参照)からなるカバー層40が設けられる。カバー層40をなす高分子の好適な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0032】
樹脂基材層20及びカバー層40は、光を透過可能な程度に薄肉であり且つ透明である。このため、ユーザがカバー層40の外方から樹脂成形品10を俯瞰したとき、装飾部14(金属層32の凹部対応部分33a)を容易に視認することができる。
【0033】
以上の構成において、金属層32の下面には、加飾層30が樹脂基材層20から脱落することを防止するための保持層42が設けられる。保持層42は、例えば、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等から形成され、金属層32の形状に倣った形状をなす。
【0034】
また、樹脂成形品10を物品に貼付することを可能とするための接着テープ44が設けられる。接着テープ44は、保持層42の平坦部分に跨る。
【0035】
次に、この樹脂成形品10の作用効果につき説明する。
【0036】
樹脂成形品10は、図3に示すように、接着テープ44を介して、例えば、スマートキーの筐体等の物品48に貼付される。物品48に曲面がある場合、樹脂成形品10は、物品48の曲面に沿うように湾曲される。ここで、樹脂基材層20は比較的柔軟な紫外線硬化性樹脂からなる。また、加飾層30を構成する印刷層36は、樹脂基材層20に比して柔軟である。このため、印刷層36が樹脂基材層20に追従して容易に撓む(湾曲する)。しかも、金属層32は、不連続部分34を含んでいる場合には剛性が小さく、湾曲することが容易である。以上のような理由から、加飾層30が樹脂基材層20から剥離し難くなるとともに、樹脂成形品10が容易に湾曲する。
【0037】
しかも、不連続部分34では、湾曲されたときに原子同士が容易に離間する。このため、金属層32にひび割れ等が発生し難くなる。従って、装飾部14の外観上の品質を保つことができる。
【0038】
従って、樹脂成形品10を、丸みを帯びた物品48に対して容易に貼付することができるとともに、貼付後の装飾部14の美観を優れたものとすることができる。
【0039】
加えて、ユーザが視認可能であるのは、金属層32の凹部対応部分33aのみである。凹部22a、22bが陥没した立体形状であるので、ユーザは、装飾部14を立体的な装飾として認識する。このように、本実施の形態によれば、立体感に富む装飾部14を設けることが容易である。
【0040】
次に、樹脂成形品10の製造方法につき説明する。
【0041】
先ず、図4に示すように、装飾文字「H」を成形する形状のキャビティ50が設けられた金型52に対して紫外線硬化性樹脂20aを注入する。注入はディスペンサ53によってなされ、キャビティ50から溢れた分が合流して連なる。
【0042】
次に、図5に示すように、紫外線硬化性樹脂20a上に高分子膜40aを載置し、さらに、該高分子膜40a上をローラ54(均し部材)で加圧する。この状態でローラ54を矢印方向に進行させることにより、紫外線硬化性樹脂20aが均されてその厚みが調整される。なお、ローラ54の進行は片道1回で十分であるが、必要に応じて1往復させるようにしてもよい。
【0043】
このようにして紫外線硬化性樹脂20aの厚みを調整した後、該紫外線硬化性樹脂20aに対して紫外線を照射する。これにより紫外線硬化性樹脂20aが硬化して、樹脂基材層20が形成される。また、高分子膜40aがカバー層40となる。すなわち、この時点で、図6に示す樹脂基材層20とカバー層40との複合体56が得られる。樹脂基材層20は、キャビティ50に充填された部分が硬化した凸部24a~24cと、凸部24a~24c間に介在する凹部22a、22bと、キャビティ50から溢れ且つローラ54で加圧された部分が硬化した平坦部26とを有する。
【0044】
次に、この複合体56をスクリーン印刷装置(印刷装置)にセットする。スクリーン印刷装置は、図7に示す台座部60及びスクリーン62を備える。複合体56は、平坦部26を下方とし、この中の台座部60に保持される。さらに、凸部24a~24cの頂面に対し、印刷層36となるインク36aが印刷される。
【0045】
ここで、スクリーン62には、インク36aが通過する通過開口64が形成される。従来技術では、凸部24a~24cの頂面に対してインク36aを印刷する場合、通過開口64は凸部24a~24cの頂面の領域と合致する寸法で形成され、凸部24a~24cの頂面に重ねられる。この場合、インク36aが凹部22a、22bの側面を伝って流動し、該凹部22a、22bの底面に到達する懸念がある。このような事態が生じると、該底面に印刷層36が形成される。
【0046】
これに対し、本実施の形態では、通過開口64は凸部24a~24cの頂面に比して若干幅広に形成され、内縁部が凹部22a、22bに差し掛かる。すなわち、通過開口64の内縁部は、凹部22a、22b側にオフセットされている。この状態で、インク36aが供給される。
【0047】
このとき、通過開口64の内端部のインク36aは、凹部22a、22bに向かって若干垂れ下がり、この状態を保つ。その結果、図8に示すようにインク溜まり66が形成される。インク溜まり66の最大垂下高さHを、凹部22a、22bの、インク溜まり66の位置に対応する部位の深さDよりも小さくなるように設定することにより、インク溜まり66が凹部22a、22bの側面や底面に付着することが回避される。なお、図8から諒解されるように、凹部22a、22bの、インク溜まり66の位置に対応する部位の深さDは、凹部22a、22bの最小深さでもある。換言すれば、最大垂下高さHを、凹部22a、22bの最小深さよりも小さくなるように設定するようにしてもよい。
【0048】
インク溜まり66の最大垂下高さHは、インク36aの粘度や印刷回数を適宜調整することによって調節することが可能である。すなわち、インク36aの粘度が大きい場合、1回の印刷ではインク溜まり66はさほど成長しない。このため、印刷をある程度繰り返すこと、換言すれば、印刷回数をある程度多くすることができる。そして、インク溜まり66の最大垂下高さHが許容範囲を超えた場合、インク溜まり66を拭き取ればよい。
【0049】
このようにして、図9に示すように、凸部24a~24cの頂面のみにインク36aが印刷された、換言すれば、印刷層36が形成された複合体70が得られる。
【0050】
次に、図10に示すように金属層32を形成する。この際には、例えば、金属蒸着を行えばよい。なお、金属としては、上記したようにインジウムやスズ、これらの合金等を選定することが好ましい。これらは不連続な金属であるので、この場合、不連続部分34を有し、且つ電波透過性を示す金属層32を容易に得ることができるからである。
【0051】
必要に応じ、さらに、図11に示すように金属層32上に保持層42を形成する。保持層42は、例えば、塗装機によってウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等を吹き付けることで形成することができる。これにより金属層32の形状に倣った保持層42が得られ、樹脂成形品10が得られるに至る。保持層42を形成したくない部位に対しては、マスキングで予め覆うようにしてもよい。
【0052】
そして、保持層42の平坦部に対して接着テープ44を貼付する(図2参照)。その結果、樹脂成形品10を、接着テープ44を介してスマートキーの筐体等の物品48に貼付することが可能となる。
【0053】
上記したように、本実施の形態によれば、印刷層36が凸部24a~24cの頂面にのみ形成され、凹部22a、22bの側面及び底面に形成されることが回避されているので、ユーザは、凹部22a、22bに設けられた金属層32(凹部対応部分33a)のみを視認することが可能である。このため、金属層32を、立体感に優れるような光沢を示す装飾部14として認識することができる。
【0054】
しかも、凹部対応部分33aを欠損なく視認することができ、且つ平坦部対応部分33bを視認することができないので、装飾部14が、所望の形状及び寸法の装飾文字「H」として認識される。すなわち、装飾部14を所望の形状及び寸法として精度よく得ることができる。
【0055】
次なる樹脂成形品10を得るべく、上記と同様の工程が繰り返される。この繰り返しの仮定で、インク溜まり66(図8参照)が成長する。インク溜まり66の最大垂下高さHが許容範囲を超えたとき、インク溜まり66に対する拭き取り(除去)を行えばよい。拭き取りに至るまでの繰り返し回数が多いほど、単位時間あたりの印刷回数を多くすることができる。
【0056】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、保持層42は必要に応じて形成すればよく、金属層32と樹脂基材層20の接合強度によっては省くことも可能である。
【符号の説明】
【0058】
10…樹脂成形品 12…無地部
14…装飾部 20…樹脂基材層
20a…紫外線硬化性樹脂 22a、22b…凹部
24a~24c…凸部 26…平坦部
30…加飾層 32…金属層
33a…凹部対応部分 33b…平坦部対応部分
34…不連続部分 36…印刷層
36a…インク 40…カバー層
40a…高分子膜 42…保持層
44…接着テープ 48…物品
50…キャビティ 52…金型
54…ローラ 60…台座部
62…スクリーン 64…通過開口
66…インク溜まり
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
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図11