(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】積層造形物の積層造形計画設計方法、製造方法、及び製造装置、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20220107BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20220107BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20220107BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20220107BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220107BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220107BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20220107BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220107BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20220107BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220107BHJP
B23K 26/348 20140101ALI20220107BHJP
【FI】
B23K9/04 Z
B33Y50/00
B29C64/386
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y30/00
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K26/21 Z
B23K26/34
B23K26/00 M
B23K26/348
(21)【出願番号】P 2018124514
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 50/00
B29C 64/386
B29C 64/106
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B23K 9/032
B23K 26/21
B23K 26/34
B23K 26/00
B23K 26/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画設計方法であって、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する積層方向設定工程と、
前記積層造形物を1つの前記積層方向について2つの領域に分割する分割位置を設定する分割位置設定工程であって、前記分割位置に前記母材を配置して、前記母材の複数の領域に対向する各対向面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成して前記複数の領域を形成する、と仮定したとき、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる
前記母材の位置である中立位置を
前記分割位置に設定する分割位置設定工程と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する母材選択工程と、
を含む、積層造形物の積層造形計画設計方法。
【請求項2】
前記積層方向設定工程において、前記積層方向を複数設定し、
前記分割位置設定工程において、それぞれの前記積層方向に関して前記中立位置を割り出して前記分割位置に設定し、
前記母材選択工程において、複数の前記分割位置の交差部を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する
請求項1に記載の積層造形物の積層造形計画設計方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の積層造形計画設計方法によって決定された積層造形手順に応じて、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記母材選択工程において、板材からなる前記母材を選択し、当該板材からなる前記母材の表裏面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を積層する
請求項
3に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記母材選択工程において、棒材からなる前記母材を選択し、当該棒材からなる前記母材に対して、互いに直交する前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を積層する
請求項
3に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記母材選択工程において、丸棒材からなる前記母材を選択し、当該丸棒材からなる前記母材の周面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を放射状に積層する
請求項
3に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1
または2に記載の積層造形計画設計方法に応じて、積層造形手順を決定する制御部と、
決定された前記積層造形手順に応じて駆動され、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【請求項8】
1つの母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する手順と、
前記積層造形物を1つの前記積層方向について2つの領域に分割する分割位置を求める手順であって、前記分割位置に前記母材を配置して、前記母材の複数の領域に対向する各対向面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成して前記各領域を形成する、と仮定したとき、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる
前記母材の位置である中立位置を
前記分割位置に設定する手順と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の積層造形計画設計方法、製造方法、及び製造装置、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザや電子ビーム、更にはアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで積層造形物を作製する。
また、板状部材同士を溶接する際に、接合に関する所定のパラメータから反り量を予測し、そり量を制御して所望の形状の接合体とする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶融金属を積層させて積層造形物を製造する積層造形方法では、母材に溶着ビードからなる溶着ビード層を積層することで、任意の形状を直接的に造形していく。このとき、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層には、熱収縮を伴う変形が生じて造形精度が低下するおそれがある。このため、この熱収縮に伴う変形を極力抑えて積層造形することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、積層造形時の熱収縮に伴う変形を極力抑えて造形精度を高めることが可能な積層造形物の積層造形計画設計方法、製造方法、及び製造装置、並びにプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記構成からなる。
(1) 1つの母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画設計方法であって、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する積層方向設定工程と、
前記積層造形物を1つの前記積層方向について2つの領域に分割する分割位置を設定する分割位置設定工程であって、前記分割位置に前記母材を配置して、前記母材の複数の領域に対向する各対向面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成して前記複数の領域を形成する、と仮定したとき、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる前記母材の位置である中立位置を前記分割位置に設定する分割位置設定工程と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する母材選択工程と、
を含む、積層造形物の積層造形計画設計方法。
(2) (1)に記載の積層造形計画設計方法によって決定された積層造形手順に応じて、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
(3) (1)に記載の積層造形計画設計方法に応じて、積層造形手順を決定する制御部と、
決定された前記積層造形手順に応じて駆動され、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
(4) 1つの母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する手順と、
前記積層造形物を1つの前記積層方向について2つの領域に分割する分割位置を求める手順であって、前記分割位置に前記母材を配置して、前記母材の複数の領域に対向する各対向面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成して前記各領域を形成する、と仮定したとき、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる前記母材の位置である中立位置を前記分割位置に設定する手順と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、積層造形時の熱収縮に伴う変形を極力抑えて造形精度を高めることが可能な積層造形物の積層造形計画設計方法、製造方法、及び製造装置、並びにプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の積層造形物を製造する製造装置の概略構成図である。
【
図2A】本発明の製造方法によって製造する積層造形物の一例を示す概略側面図である。
【
図2B】積層方向設定工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図2C】分割位置設定工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図2D】母材選択工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図2E】積層造形工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図3A】参考例に係る積層造形物の概略側面図である。
【
図3B】参考例に係る積層造形物の熱収縮による変形状態を示す積層造形物の模式図である。
【
図4】本例の製造方法によって製造した積層造形物の熱収縮による変形状態を示す積層造形物の模式図である。
【
図5】変形例1に係る積層造形物を示す図であって、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は下面図、(d)は側面図である。
【
図6】変形例2に係る積層造形物を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図7】変形例2に係る積層造形物の熱収縮による変形状態を示す図であって、(a)は製造途中の積層造形物の概略正面図、(b)は製造した積層造形物の概略正面図である。
【
図8】変形例2に係る積層造形物の製造手順の一例を示す図であって、(a)~(d)はそれぞれ製造途中の積層造形物の概略正面図である。
【
図9】変形例3に係る積層造形物における中立位置を示す概略側面図である。
【
図10】変形例3に係る積層造形物の積層造形計画を説明する図であって、(a)は分割位置設定工程を説明する積層造形物の模式図、(b)は母材選択工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図11】変形例3に係る積層造形物の他の積層造形計画を説明する図であって、(a)は分割位置設定工程を説明する積層造形物の模式図、(b)は母材選択工程を説明する積層造形物の模式図である。
【
図12】変形例4に係る積層造形物を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図13】変形例4に係る積層造形物の製造手順を示す図であって、(a)及び(b)はそれぞれ製造途中の積層造形物の正面図である。
【
図14】変形例5に係る積層造形物の正面図である。
【
図15】変形例5に係る積層造形物を製造する際の積層方向設定工程、分割位置設定工程及び母材選択工程を説明する積層造形物の概略正面図である。
【
図16】変形例5に係る積層造形物の製造手順の一例を示す図であって、(a)~(f)はそれぞれ製造途中の積層造形物の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物を製造する製造装置の概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造装置100は、積層造型装置である造形部11と、造形部11を統括制御する造形コントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0010】
造形部11は、先端軸にトーチ17が設けられたトーチ移動機構としての溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Fmを供給する溶加材供給部21とを有する。溶接ロボット19は、例えば6軸の自由度を有する多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Fmが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0011】
トーチ17は、溶加材Fmを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Fmの先端からアークを発生する。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるようになっている。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Fmがコンタクトチップに保持される。
【0012】
溶加材Fmは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0013】
溶加材Fmは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、造形コントローラ13からの指令により、溶接ロボット19はトーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Fmを溶融及び凝固させる。これにより、溶加材Fmの溶融凝固体である溶着ビードが形成される。そして、この溶着ビードからなる溶着ビード層を積層させることで積層造形物Wを製造する。
【0014】
溶加材Fmを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単にビードを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0015】
造形コントローラ13は、ビードマップ生成部31と、プログラム生成部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。制御部37には、作製しようとする積層造形物の形状を表す3次元モデルデータ(CADデータ等)や、各種の指示情報が入力部39から入力される。
【0016】
ビードマップ生成部31は、入力された積層造形物の3次元モデルデータを用いて、ビードを形成する位置情報を含むビードマップを生成する。生成されたビードマップは、記憶部35に記憶される。
【0017】
プログラム生成部33は、造形部11を駆動して積層造形物Wの造形手順を設定し、この手順をコンピュータに実行させるプログラムを、上記のビードマップを用いて生成する。生成されたプログラムは、記憶部35に記憶される。
【0018】
記憶部35には、造形部11が有する各種の駆動部や可動範囲等の仕様情報も記憶され、プログラム生成部33でプログラム生成する際や、プログラムを実行する際に適宜情報が参照される。この記憶部35は、メモリやハードディスク等の記憶媒体からなり、各種情報の入出力が可能となっている。
【0019】
制御部37を含む造形コントローラ13は、CPU、メモリ、I/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置であって、記憶部35に記憶されたデータやプログラムを読み込み、データの処理やプログラムを実行する機能、及び造形部11の各部を駆動制御する機能を有する。制御部37は、入力部39からの操作や通信等による指示によって、記憶部35からプログラムを読み込み、実行する。
【0020】
制御部37がプログラムを実行すると、溶接ロボット19や電源装置15等がプログラムされた所定の手順に従って駆動される。溶接ロボット19は、造形コントローラ13からの指令により、プログラムされた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Fmを所定のタイミングでアークにより溶融させて、所望の位置に溶着ビードを形成する。
【0021】
ビードマップ生成部31やプログラム生成部33は、造形コントローラ13に設けられるがこれに限らない。図示はしないが、例えば積層造形物の製造装置100とは別体に、ネットワーク等の通信手段や記憶媒体を介して離間して配置されたサーバや端末等の外部コンピュータに、ビードマップ生成部31やプログラム生成部33が設けられてもよい。外部コンピュータにビードマップ生成部31やプログラム生成部33が接続されることで、積層造形物の製造装置100を要せずにビードマップやプログラムを生成でき、プログラム生成作業が繁雑にならない。また、生成したビードマップやプログラムを、造形コントローラ13の記憶部35に転送することで、造形コントローラ13で生成した場合と同様に動作させることができる。
【0022】
次に、上記の製造装置100によって、積層造形物の積層造形計画を設計して積層造形物を製造する基本的な製造手順を工程毎に説明する。
【0023】
(形状データ入力工程)
まず、入力部39から制御部37に積層造形物Wの形状を表す3次元形状データを入力する。3次元形状データには、積層造形物Wの外表面の座標等の寸法情報の他、必要に応じて参照される材料の種類や最終仕上げ等の情報も含まれる。
【0024】
(積層方向設定工程)
造形する積層造形物Wの3次元形状データを用いて、溶着ビード層の積層方向を設定する。
図2Aは一例に係る積層造形物Wを示している。
図2Aに示すように、一例として示す積層造形物Wは、直方体形状の造形物である。積層方向設定工程では、
図2Aに示す形状の積層造形物Wの3次元形状データが制御部37に入力されることで、この積層造形物Wの3次元形状データを用いて、積層造形物Wを形成する溶着ビード層の積層方向を設定する。ここでは、
図2Bに示すように、積層造形物Wを形成する溶着ビード層Bの積層方向Aを上下方向に設定した場合を例示している。
【0025】
(分割位置設定工程)
積層造形物Wを積層方向Aに関して複数の領域に分割する分割位置を設定する。この分割位置は、母材に積層方向Aに沿って溶着ビード層Bを形成する際に、溶着ビードの熱による積層造形物W全体の熱収縮が最小となる中立位置である。
図2Cに示すように、積層方向Aを上下方向に設定した積層造形物Wでは、母材を配置して、母材の複数の領域に対向する各対向面に、積層方向Aに沿って溶着ビード層Bをそれぞれ形成する際に、溶着ビードの熱による積層造形物W全体の熱収縮が最小となる中立位置Tは、上下方向の中央位置となる。したがって、この積層造形物Wでは、積層方向Aである上下方向の面状の中央位置からなる中立位置Tを分割位置Sに設定する。
【0026】
(母材選択工程)
積層造形物Wにおける分割位置Sを設定したら、この分割位置Sを含む大きさ及び形状の母材を選択する。この母材としては、コストを抑えるべく単純形状のものを選択するのが好ましく、例えば、平板、丸棒材、角棒材、ブロック材などを選択する。
図2Dに示すように、積層造形物Wでは、例えば、面状の中立位置Tからなる分割位置Sを含む平板からなる母材Mを選択する。
【0027】
(積層造形工程)
上記のようにして、積層方向Aの決定、分割位置Sの設定及び母材Mの選択を行ったら、その積層造形計画の手順に応じて、母材Mに溶着ビード層Bを積層して積層造形物Wを造形する。
図2Eに示すように、製造装置100にセットした平板状の母材Mに対して、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、その表裏面に溶着ビードからなる溶着ビード層Bを積層させる。具体的には、母材Mの表裏面に対して、造形部11のトーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Fmを溶融させ、溶融した溶加材Fmを母材Mに供給する。これにより、母材Mの表裏面に対して複数の溶着ビード層Bを積層させる。これにより、
図2Fに示すように、母材Mの表裏面に複数の溶着ビード層Bを積層したブロック部53,55が形成された積層造形物Wを製造する。
【0028】
ここで、参考例について説明する。
図3Aに示すように、参考例では、積層方向Aの一端側に板状の母材Mを設置し、この母材Mの一方の面に溶着ビード層Bを積層して積層造形物Wを製造している。この参考例では、
図3Bに示すように、一方向に連続して溶着ビード層Bを積層していくことで、熱収縮が一方向側に累積し、目標形状(
図3B中点線で示す形状)に対して積層造形物Wが偏って変形して造形精度が低下してしまう。
【0029】
これに対して、本例によれば、
図4に示すように、母材Mに積層方向Aに沿って溶着ビード層Bを形成する際に、溶着ビードの熱による積層造形物W全体の熱収縮が最小となる中立位置Tを割り出し、この中立位置Tを、積層造形物Wを積層方向Aに関して複数の領域に分割する分割位置Sに設定し、この分割位置Sを含む大きさ及び形状の母材Mを選択する。したがって、選択した母材Mに溶着ビード層Bを積層させて積層造形物Wを製造した際に、熱収縮が母材Mの表裏の両側の領域にバランスよく分散されるので、溶着ビードの熱による熱収縮の影響を極力抑えることができる。これにより、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りを抑え、高い造形精度で積層造形物Wを製造することができる。
【0030】
次に、各種の変形例について説明する。
ただし、以下に示す変形例1~3は、本発明とは異なる他の形態を表す参考例である。
(変形例1)
図5の(a)~
図5の(d)に示すように、変形例1に係る積層造形物W1は、板状の母材Mの表裏に、異なる外形の角筒部63,65を有しており、これらの角筒部63,65は、溶着ビード層Bを積層することで造形される。この積層造形物W1では、積層方向をAとすると、角筒部63,65の境界部分が面状の中立位置Tである。したがって、この積層造形物W1を製造する場合は、中立位置Tを積層方向Aに関して二つの領域に分割する分割位置Sに設定する(分割位置設定工程)。そして、面状の中立位置Tからなる分割位置Sを含む平板状の母材Mを選択し(母材選択工程)、この母材Mの表裏面に溶着ビード層Bを積層する。これにより、平板状の母材Mの表裏に、異なる外形の角筒部63,65が形成された積層造形物W1を造形する(積層造形工程)。
【0031】
この変形例1の場合も、選択した母材Mに溶着ビード層Bを積層させて積層造形物W1を製造した際に、熱収縮が母材Mの表裏の両側の領域にバランスよく分散されるので、溶着ビードの熱による熱収縮の影響を極力抑えることができる。
【0032】
(変形例2)
図6の(a)及び
図6の(b)に示すように、変形例2に係る積層造形物W2は、板状の母材Mの表裏面に、異なる外形のブロック部73,75を有しており、これらのブロック部73,75は、溶着ビード層Bを積層することで造形される。この積層造形物W2は、積層方向をAとすると、ブロック部73,75の境界部分が面状の中立位置Tとなる。したがって、この積層造形物W2を製造する場合は、中立位置Tを積層方向Aに関して二つの領域に分割する分割位置Sに設定する(分割位置設定工程)。そして、面状の中立位置Tからなる分割位置Sを含む平板状の母材Mを選択し(母材選択工程)、この母材Mの表裏に溶着ビード層Bを積層する。これにより、平板状の母材Mの表裏面に、異なる外形のブロック部73,75が形成された積層造形物W2を造形する(積層造形工程)。
【0033】
この変形例2に係る積層造形物W2を製造する場合、例えば、
図7の(a)に示すように、母材Mに対して一方の領域側のブロック部73を造形すると、このブロック部73を造形した時点で、ブロック部73の熱収縮の影響で曲げ応力F1が付与される。その後、他方の領域側のブロック部75を造形すると、
図7の(b)に示すように、他方のブロック部75の熱収縮の影響で、ブロック部73の造形時と逆方向の曲げ応力F2が付与される。これにより、積層造形物W2には、各領域毎に大きな熱収縮が偏って付与されることで歪みが生じるおそれがある。
【0034】
このため、積層造形物W2を造形する際には、熱収縮による歪みを抑制すべく、次のように溶着ビード層Bを積層する。
【0035】
母材Mに対して一方の領域に溶着ビード層Bを形成する。すると、
図8の(a)に示すように、形成した溶着ビード層Bの熱収縮の影響により、分割位置Sに対して造形途中の積層造形物の中立位置T0が溶着ビード層Bを形成した一方の領域側に変位する。
【0036】
この状態から、分割位置Sに対して、中立位置T0と反対側の他方の領域に溶着ビード層Bを形成する。すると、
図8の(b)に示すように、形成した溶着ビード層Bの熱収縮の影響により中立位置T0が溶着ビード層Bを形成した他方の領域側に変位する。
【0037】
この状態から、分割位置Sに対して、中立位置T0と反対側の一方の領域に溶着ビード層Bを形成する。すると、
図8の(c)に示すように、形成した溶着ビード層Bの熱収縮の影響により中立位置T0が溶着ビード層Bを形成した一方の領域側に変位する。
【0038】
同様に、分割位置Sに対して、中立位置T0と反対側の他方の領域に溶着ビード層Bを形成する。すると、
図8の(d)に示すように、形成した溶着ビード層Bの熱収縮の影響により中立位置T0が溶着ビード層Bを形成した他方の領域側に変位する。
【0039】
このように、母材Mに溶着ビード層Bを積層する際に、分割位置Sに対して、造形途中の積層造形物の中立位置T0と反対側に溶着ビード層Bを積層させる。これにより、造形途中の積層造形物の中立位置T0を分割位置Sに近付けながら造形することができ、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りを、よりバランスよく抑えることができる。
【0040】
(変形例3)
図9に示すように、変形例3に係る積層造形物W3では、溶着ビード層Bの積層方向Aと直交する特定方向Cに沿って中立位置Tが変化している。このように、中立位置Tが特定方向Cに沿って変化する積層造形物W3において、分割位置Sを設定する場合について説明する。
【0041】
まず、
図10の(a)に示すように、積層造形物W3を、積層方向Aと直交する特定方向Cに関して中立位置Tが連続する領域毎に分割する。次に、分割した複数の分割体W3a,W3b,W3c,W3dから、体積が最大となる分割体を選択する。積層造形物W3では、体積が最大となる分割体はW3bであるので、この分割体W3bを選択する。そして、
図10の(b)に示すように、選択した分割体W3bの中立位置Tを分割位置Sに設定する。その後、この分割位置Sを含む平板状の母材Mを選択し(母材選択工程)、この母材Mの表裏面に溶着ビード層Bを積層して積層造形物W3を造形する(積層造形工程)。
【0042】
次に、溶着ビード層Bの積層方向Aと直交する特定方向Cに沿って中立位置Tが変化する変形例3に係る積層造形物W3の分割位置Sの他の設定の仕方について説明する。
【0043】
まず、
図11の(a)に示すように、積層造形物W3を、積層方向Aに沿って体積が等分となる位置で分割する。そして、
図11の(b)に示すように、体積が等分となる位置で分割した分割体W3e,W3fの分割位置を、母材Mの選択基準とする分割位置Sに設定する。その後、この分割位置Sを含む平板状の母材Mを選択し(母材選択工程)、この母材Mの表裏面に溶着ビード層Bを積層して積層造形物W3を造形する(積層造形工程)。
【0044】
このように、変形例3によれば、積層方向Aと直交する特定方向Cに形状が変化する複雑形状の積層造形物W3を製造する際の熱収縮による変形及び熱収縮の偏りをバランスよく抑えることができる。
【0045】
(変形例4)
図12の(a)及び
図12の(b)に示すように、変形例4に係る積層造形物W4は、異なる外形の4つのブロック部93,95,97,99を有している。ブロック部93,95及びブロック部97,99は、それぞれ互いに対向方向に延在されている。
【0046】
このような積層造形物W4では、例えば、造形する積層造形物W4の3次元形状データを用いて、ブロック部93,95に沿う積層方向A1及びブロック部97,99に沿う積層方向A2を設定する(積層方向設定工程)。
【0047】
次に、積層造形物W4の分割位置を設定する。具体的には、設定した積層方向A1,A2に関して、溶着ビードの熱による積層造形物W4全体の熱収縮が最小となるそれぞれの中立位置Tを割り出す。そして、これらの中立位置Tを分割位置S1,S2に設定する(分割位置設定工程)。
【0048】
積層造形物W4における分割位置S1,S2を設定したら、これらの分割位置S1,S2の交差部S0を含む大きさ及び形状の母材Mを選択する(母材選択工程)。例えば、母材Mとしては、極力コストを抑えることが可能な単純形状の棒材を選択する。ここでは、丸棒材からなる棒材を用いている。なお、母材Mとしては、丸棒材に限らず角棒材であってもよい。
【0049】
積層方向A1,A2の決定、分割位置S1,S2の設定及び母材Mの選択を行ったら、丸棒材からなる母材Mに対して溶着ビード層Bを積層方向A1,A2に積層させ、ブロック部93,95,97,99を造形する(積層造形工程)。このとき、
図13の(a)に示すように、まず、母材Mに対して積層方向A1に沿う互いに対向したブロック部93,95を造形する。そして、ブロック部93,95の造形後、
図13の(b)に示すように、母材Mに対して積層方向A2に沿う互いに対向したブロック部97,99を造形する。
【0050】
このように、変形例4では、複数の積層方向A1,A2を設定することで割り出される複数の中立位置Tからなる分割位置S1,S2を設定し、これらの分割位置S1,S2の交差部S0を含む大きさ及び形状の母材Mを選択する。したがって、棒材からなる母材Mに対して直交する方向に溶着ビード層Bが積層された積層造形物W4を、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りをより細かく抑えつつ高い造形精度で製造することができる。
【0051】
(変形例5)
図14に示すように、変形例5に係る積層造形物W5は、3つのブロック部103,105,107を有している。これらのブロック部103,105,107は、放射状に延在されている。
【0052】
このような積層造形物W5では、
図15に示すように、例えば、造形する積層造形物W5の3次元形状データを用いて、ブロック部103に沿う積層方向A1、ブロック部105に沿う積層方向A2及びブロック部107に沿う積層方向A3を設定する(積層方向設定工程)。
【0053】
次に、積層造形物W5の分割位置を設定する。具体的には、設定した積層方向A1,A2,A3に関して、溶着ビードの熱による積層造形物W5全体の熱収縮が最小となるそれぞれの中立位置Tを割り出し、これらの中立位置Tを分割位置S1,S2,S3に設定する(分割位置設定工程)。
【0054】
積層造形物W5における分割位置S1,S2,S3を設定したら、これらの分割位置S1,S2,S3の交差部S0を含む大きさ及び形状の母材Mを選択する(母材選択工程)。例えば、母材Mとしては、極力コストを抑えることが可能な単純形状の丸棒材を選択する。
【0055】
積層方向A1,A2,A3の決定、分割位置S1,S2,S3の設定及び母材Mの選択を行ったら、丸棒材からなる母材Mに対して溶着ビード層Bを積層方向A1,A2,A3に積層させ、ブロック部103,105,107を造形する(積層造形工程)。母材Mに対して溶着ビード層Bを積層させる場合、熱収縮の付与の偏りを抑えながら積層方向A1,A2,A3へ溶着ビード層Bを積層させる。具体的には、母材Mに溶着ビード層Bを積層する際には、造形途中の積層造形物の各積層方向A1,A2,A3に沿う中立位置の交差部T0が分割位置S1,S2,S3の交差部S0から極力外れないようにする。
【0056】
ここで、
図16は、丸棒材からなる母材Mに対して積層方向A1,A2,A3へ順に溶着ビード層Bを積層させた場合の造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0の変動を示している。
【0057】
図16の(a)に示すように、母材Mに対して積層方向A1へ溶着ビード層Bを形成する。すると、溶着ビード層Bの熱収縮の影響により、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が積層方向A1に沿って溶着ビード層Bを積層した領域側に変位する。
【0058】
この状態から、
図16の(b)に示すように、母材Mに対して積層方向A2へ溶着ビード層Bを形成する。すると、溶着ビード層Bの熱収縮の影響により、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が積層方向A1,A2に沿って溶着ビード層Bを積層した領域側に変位する。
【0059】
さらに、この状態から、
図16の(c)に示すように、母材Mに対して積層方向A3へ溶着ビード層Bを形成する。すると、母材Mに対して溶着ビード層Bの熱収縮が均等に付与されることで、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が、分割位置S1,S2,S3の交差部S0に一致される。
【0060】
この状態から、
図16の(d)に示すように、母材Mに対して積層方向A3へ溶着ビード層Bを形成する。すると、溶着ビード層Bの熱収縮の影響により、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が積層方向A3に沿って溶着ビード層Bを積層した領域側に変位する。
【0061】
この状態から、
図16の(e)に示すように、母材Mに対して積層方向A1へ溶着ビード層Bを形成する。すると、溶着ビード層Bの熱収縮の影響により、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が積層方向A1,A3に沿って溶着ビード層Bを積層した領域側に変位する。
【0062】
さらに、この状態から、
図16の(f)に示すように、母材Mに対して積層方向A2へ溶着ビード層Bを形成する。すると、母材Mに対して溶着ビード層Bの熱収縮が均等に付与されることで、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が、分割位置S1,S2,S3の交差部S0に一致される。
【0063】
このように、母材Mに溶着ビード層Bを積層する際に、造形途中の積層造形物の中立位置の交差部T0が分割位置S1,S2,S3の交差部S0から極力外れないようにすることで、製造した積層造形物W5の全体の歪みを抑制することができる。
【0064】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0065】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画設計方法であって、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する積層方向設定工程と、
前記母材に前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成する際に、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる中立位置を割り出し、この中立位置を、前記積層造形物を前記積層方向に関して複数の領域に分割する分割位置に設定する分割位置設定工程と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する母材選択工程と、
を含む、積層造形物の積層造形計画設計方法。
この積層造形計画設計方法によれば、母材に積層方向に沿って溶着ビード層を形成する際に、溶着ビードの熱による積層造形物全体の熱収縮が最小となる中立位置を割り出し、この中立位置を、積層造形物を積層方向に関して複数の領域に分割する分割位置に設定し、この分割位置を含む大きさ及び形状の母材を選択する。したがって、選択した母材に溶着ビード層を積層させて積層造形物を製造した際に、溶着ビードの熱による熱収縮の影響を極力抑えることができる。これにより、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りを抑え、高い造形精度で積層造形物を製造することができる。
【0066】
(2) 前記積層方向設定工程において、前記積層方向を複数設定し、
前記分割位置設定工程において、それぞれの前記積層方向に関して前記中立位置を割り出して前記分割位置に設定し、
前記母材選択工程において、複数の前記分割位置の交差部を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する(1)に記載の積層造形物の積層造形計画設計方法。
この積層造形計画設計方法によれば、積層方向を複数設定することで割り出される複数の中立位置からなる分割位置を設定し、分割位置の交差部を含む大きさ及び形状の母材を選択する。したがって、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りをより細かく抑えることができ、さらに高い造形精度で積層造形物を製造することができる。
【0067】
(3) 前記分割位置設定工程において、前記積層造形物を、前記積層方向と直交する特定方向に関して前記中立位置が連続する領域毎に分割し、
分割された複数の分割体から、体積が最大となる分割体の前記中立位置を前記分割位置に設定する(1)または(2)に記載の積層造形物の積層造形計画設計方法。
この積層造形計画設計方法によれば、積層方向と直交する特定方向に形状が変化する複雑形状の積層造形物を製造する際の熱収縮による変形及び熱収縮の偏りをバランスよく抑えることができる。
【0068】
(4) 前記分割位置設定工程において、前記積層造形物を、前記積層方向に沿って体積が等分となる位置で分割し、当該分割位置を前記分割位置に設定する(1)または(2)に記載の積層造形物の積層造形計画設計方法。
この積層造形計画設計方法によれば、積層方向と直交する特定方向に形状が変化する複雑形状の積層造形物を製造する際の熱収縮による変形及び熱収縮の偏りをバランスよく抑えることができる。
【0069】
(5) (1)~(4)のいずれか一つに記載の積層造形計画設計方法によって決定された積層造形手順に応じて、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、溶着ビードの熱で生じる熱収縮による変形及び熱収縮の偏りが抑えられた高い造形精度の積層造形物を製造することができる。
【0070】
(6) 前記母材選択工程において、板材からなる前記母材を選択し、当該板材からなる前記母材の表裏面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を積層する(5)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、板材からなる母材の表裏に溶着ビード層が積層された積層造形物を高い造形精度で製造することができる。
【0071】
(7) 前記母材選択工程において、棒材からなる前記母材を選択し、当該棒材からなる前記母材に対して、互いに直交する前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を積層する(5)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、棒材からなる母材に対して直交する方向に溶着ビード層が積層された積層造形物を高い造形精度で製造することができる。
【0072】
(8) 前記母材選択工程において、丸棒材からなる前記母材を選択し、当該丸棒材からなる前記母材の周面に、前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を放射状に積層する(5)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、丸棒材からなる母材の周面に溶着ビード層が放射状に積層された積層造形物を高い造形精度で製造することができる。
【0073】
(9) (1)~(4)のいずれか一つに記載の積層造形計画設計方法に応じて、積層造形手順を決定する制御部と、
決定された前記積層造形手順に応じて駆動され、前記母材に前記溶着ビード層を積層して前記積層造形物を造形する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
この積層造形物の製造装置によれば、溶着ビードの熱で生じる熱収縮による変形及び熱収縮の偏りが抑えられた高い造形精度の積層造形物を製造することができる。
【0074】
(10) 母材に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードからなる溶着ビード層を複数積層して造形する積層造形物の積層造形計画を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
造形する前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記溶着ビード層の積層方向を設定する手順と、
前記母材に前記積層方向に沿って前記溶着ビード層を形成する際に、前記溶着ビードの熱による前記積層造形物全体の熱収縮が最小となる中立位置を割り出し、この中立位置を、前記積層造形物を前記積層方向に関して複数の領域に分割する分割位置に設定する手順と、
前記分割位置を含む大きさ及び形状の前記母材を選択する手順と、
を実行させるプログラム。
このプログラムによれば、選択した母材に溶着ビード層を積層させて積層造形物を製造した際に、溶着ビードの熱による熱収縮の影響が極力抑えられる。これにより、熱収縮による変形及び熱収縮の偏りを抑え、高い造形精度で積層造形物を製造することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 造形部
37 制御部
100 積層造形物の製造装置
A,A1,A2,A3 積層方向
B 溶着ビード層
C 特定方向
Fm 溶加材
M 母材
S 分割位置
T 中立位置
W,W1~W5 積層造形物
W3a~W3f 分割体