(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】転がり軸受の状態監視方法および状態監視装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20220127BHJP
F16C 19/52 20060101ALN20220127BHJP
F16N 29/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
G01M13/045
F16C19/52
F16N29/00 D
(21)【出願番号】P 2018154048
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2017166823
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 英之
(72)【発明者】
【氏名】北井 正嗣
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291738(JP,A)
【文献】特表2015-515002(JP,A)
【文献】特許第4605132(JP,B2)
【文献】特開昭54-077189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313228(US,A1)
【文献】特開2018-025450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
F16N 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習によって分類器を作成するステップと、
転がり軸受の状態を監視するステップとを含み、
前記分類器を作成するステップは、
第1油分離率のグリースが封入された前記転がり軸受の第1振動データの特徴量を算出するステップと、
前記第1油分離率より小さい第2油分離率のグリースが封入された前記転がり軸受の第2振動データの特徴量を算出するステップと、
正常なグリースが封入された前記転がり軸受の第3振動データの特徴量を算出するステップと、
前記第1~第3振動データの特徴量を機械学習して前記分類器を作成するステップとを含み、
前記正常なグリースの油分離率が前記第1油分離率となるまでの前記転がり軸受の運転時間は、第1運転時間であり、
前記正常なグリースの油分離率が前記第2油分離率となるまでの前記転がり軸受の運転時間は、前記第1運転時間よりも短い第2運転時間であり、
前記状態を監視するステップは、
監視中に測定された前記転がり軸受の第4振動データの特徴量を算出するステップと、
前記分類器を用いて、前記第4振動データの特徴量と、前記第1~第3振動データの特徴量それぞれとの第1~第3適合率を算出するステップと、
前記第1および第2運転時間と、前記第1~第3適合率とを用いて、前記転がり軸受に封入されたグリースの油分離率が前記第1油分離率となるまでの余寿命を算出するステップとを含む、転がり軸受の状態監視方法。
【請求項2】
前記第1~第3適合率の総和は、1であり、
前記余寿命を算出するステップは、前記第1および第2適合率と前記第1および第2運転時間とをそれぞれ乗じた値の総和を、前記第1運転時間から引いた値を、前記余寿命として算出する、請求項1に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項3】
前記第1油分離率のグリースおよび前記第2油分離率のグリースは、人工的に調整されたグリースである、請求項1または2に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項4】
前記第1油分離率のグリースは、前記正常なグリースが封入された前記転がり軸受を前記第1運転時間だけ運転させることによって得られたグリースであり、
前記第2油分離率のグリースは、前記正常なグリースが封入された前記転がり軸受を前記第2運転時間だけ運転させることによって得られたグリースである、請求項1または2に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項5】
前記第1~第4振動データの特徴量は、前記第1~第4振動データを短時間フーリエ変換したデータをそれぞれ含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項6】
前記第1~第3振動データは、前記転がり軸受の運転が開始されてから慣らし運転期間経過後に測定された振動データである、請求項1~5のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法を用いて、前記転がり軸受の状態を監視する、状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の状態監視方法および状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の状態監視方法が知られている。たとえば特開2004-347401号公報(特許文献1)には、周波数スペクトルにおいて回転速度比例成分等のピークを持たないバックグラウンドノイズ成分を用いることにより、簡素な構成で効率的に精度良く転がり軸受の異常の有無を判断することができる転がり軸受の診断方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2004-347401号公報(特許文献1)には、転がり軸受の振動データの周波数スペクトルが閾値を超えたときに、転がり軸受に封入されたグリースが劣化したと判断する構成が開示されている。
【0005】
グリースの交換時期を適切に判断するためには、劣化度合いに応じたグリースの余寿命を推定する必要がある。しかし、特開2004-347401号公報(特許文献1)においては、劣化度合いに応じたグリースの余寿命の推定については考慮されていない。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、転がり軸受に封入されたグリースの余寿命を推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る転がり軸受の状態監視方法は、機械学習によって分類器を作成するステップと、転がり軸受の状態を監視するステップとを含む。分類器を作成するステップは、第1~第3振動データの特徴量を算出するステップと、第1~第3振動データの特徴量を機械学習して分類器を作成するステップとを含む。第1振動データは、第1油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データである。第2振動データは、第1油分離率より小さい第2油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データである。第3振動データは、正常なグリースが封入された転がり軸受の振動データである。正常なグリースの油分離率が第1油分離率となるまでの転がり軸受の運転時間は、第1運転時間である。正常なグリースの油分離率が第2油分離率となるまでの転がり軸受の運転時間は、第1運転時間よりも短い第2運転時間である。状態を監視するステップは、第4振動データの特徴量を算出するステップと、第1~第3適合率を算出するステップと、転がり軸受に封入されたグリースの余寿命を算出するステップとを含む。第4振動データは、監視中に測定された転がり軸受の振動データである。第1~第3適合率は、分類器によって算出される。第1~第3適合率は、第4振動データの特徴量と、第1~第3振動データの特徴量それぞれとの適合率である。転がり軸受に封入されたグリースの余寿命は、第1および第2運転時間と、第1~第3適合率とを用いて算出される。当該余寿命は、転がり軸受に封入されたグリースの油分離率が第1油分離率となるまでの転がり軸受の運転時間である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る転がり軸受の状態監視方法によれば、振動データの特徴量の機械学習によって作成された分類器を用いることにより、転がり軸受に封入されたグリースの余寿命を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る状態監視装置および状態監視装置によって監視される転がり軸受の断面図を併せて示す図である。
【
図2】
図1の状態監視装置の機能ブロック図である。
【
図3】制御部によって行なわれるグリースの余寿命の推定処理の概要を示すフローチャートである。
【
図4】学習期間に行なわれる処理の流れを具体的に示すフローチャートである。
【
図5】油分離レベル2(油分離率70%)の(a)振動データ(加速度データ)、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
【
図6】油分離レベル1(油分離率30%)の(a)振動データ(加速度データ)のタイムチャート、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
【
図7】正常な(a)振動データ(加速度データ)のタイムチャート、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
【
図8】監視期間に行なわれる処理の流れを具体的に示すフローチャートである。
【
図9】監視中に測定された振動データのSTFT画像と各油分離レベルのSTFT画像との適合率のタイムチャートである。
【
図10】転がり軸受の運転時間と実施の形態に係る状態監視装置によって推定された余寿命との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る状態監視装置1および状態監視装置1によって監視される転がり軸受10の断面図を併せて示す図である。
図1に示されるように、転がり軸受10は、内輪12と、外輪14と、保持器16と、複数の転動体18とを含む。転がり軸受10は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、および玉軸受などを含む。転がり軸受10は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0012】
内輪12は、主軸11にはめ込まれて固定され、主軸11と一体となって矢印Dの方向に回転する回転輪である。外輪14は、内輪12の外周側に配置されている静止輪である。
【0013】
保持器16には、複数の転動体18を保持するための複数のポケットが等間隔に設けられている。保持器16は、複数の転動体18を保持した状態で内輪12の外周面と外輪14の内周面との間に配置される。内輪12の回転に伴って転動体18が外輪14の内周面(軌道面)に沿って回転すると、保持器16は複数の転動体18とともに内輪12の外周面と外輪14の内周面との間を回転する。
【0014】
転がり軸受10の内部には、金属である構成要素(たとえば内輪12、外輪14、保持器16、および転動体18)の周囲に油膜を形成して、金属同士の接触を抑制するために、グリースGrcが封入されている。
【0015】
状態監視装置1は、振動センサによって転がり軸受10の物理量を測定して、転がり軸受の状態を監視する。振動センサによって測定される転がり軸受10の物理量としては、たとえば、加速度、速度、変位、音、AE(Acoustic Emission)、および電力を挙げることができる。
【0016】
転がり軸受10の運転時間の増加に伴い、グリースGrcが劣化してグリースGrcの油分離率が増加する。グリースGrcの油分離率が増加すると、転動体18等の周囲に十分な油膜を形成することが困難になり、転がり軸受10の内部で金属同士の接触が生じ易くなる。金属同士の接触による摩擦熱によって金属同士が溶着すると、転がり軸受10の回転が困難になる。
【0017】
グリースGrcの劣化に伴う転がり軸受10の寿命(潤滑寿命)は、複数の転動体18によって軌道面に形成された損傷(転動疲労)による転がり軸受10の寿命よりも短い。転がり軸受10をできるだけ長期間使用するためには、残されている潤滑寿命(余寿命)がどの程度であるかを推定し、グリースGrcを適切な時期に交換する必要がある。
【0018】
そこで、実施の形態においては、異なる油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データの特徴量を機械学習することにより、或る特徴量と、機械学習した複数の特徴量との適合率をそれぞれ算出する分類器を作成する。当該分類器を用いることにより、転がり軸受に封入されたグリースの余寿命を推定することができる。
【0019】
図2は、
図1の状態監視装置1の機能ブロック図である。
図2に示されるように、状態監視装置1は、振動センサ20と、制御部40と、記憶部50とを含む。振動センサ20は、転がり軸受10の振動データを測定し、制御部40に出力する。
【0020】
制御部40は、学習期間において、異なる油分離率のグリースが封入された転がり軸受10の振動データの特徴量を機械学習し、分類器を作成する。分類器は、或る特徴量と機械学習した各特徴量との適合率を算出する。分類器としては、たとえばサポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ、および決定木を挙げることができる。実施の形態においては分類器としてニューラルネットワークを用いる。制御部40は、監視期間において、サンプリング時刻において測定された振動データの特徴量を算出し、学習期間において作成した分類器を用いてグリースGrcの余寿命を算出する。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)のようなコンピュータを含む。
【0021】
記憶部50には、たとえば、振動データ、当該振動データから算出される特徴量、および機械学習によって作成される分類器が保存される。
【0022】
図3は、制御部40によって行なわれるグリースの余寿命の推定処理の概要を示すフローチャートである。以下ではステップを単にSと記載する。
図3に示されるように、制御部40は、S1において分類器を作成する。S1は、学習期間において行なわれる処理である。制御部40は、S2において分類器を用いてグリースの余寿命を算出する。S2は、監視期間において行なわれる処理である。機械学習によって作成された分類器が監視期間の開始時に作成されていればよく、学習期間と監視期間とは連続していなくてもよい。
【0023】
図4は、学習期間に行なわれる処理(
図3のS1)の流れを具体的に示すフローチャートである。なお、転がり軸受10が運転を開始してからしばらくの間は、転がり軸受10の挙動が安定しない。そのため、学習期間においては、転がり軸受10の運転を開始してから慣らし運転期間(たとえば5日間)を経過し、転がり軸受10の挙動が安定した状態で一定期間(たとえば1ヶ月間)測定された振動データが用いられることが望ましい。
【0024】
図4に示されるように、制御部40は、S11において油分離率が油分離レベル2のグリースが封入された転がり軸受の振動データの短時間フーリエ変換(STFT:Short Time Fourier Transform)画像を、油分離レベル2に対応する特徴量として算出し、処理をS12へ進める。油分離レベル2の油分離率は、潤滑寿命がほとんど尽きており交換の必要性が高いグリースの油分離率として設定される。油分離レベル2の油分離率は、たとえば50%以上80%以下の値であり、実施の形態では70%とする。
【0025】
制御部40は、S12において、油分離率が油分離レベル1であるグリースが封入された転がり軸受の振動データのSTFT画像を、油分離レベル1に対応する徴量として算出し、処理をS13へ進める。油分離レベル1の油分離率は、グリースの劣化は生じているが潤滑寿命がある程度残されているため交換の必要性は低いグリースの油分離率として設定される。油分離レベル2の油分離率に対する油分離レベル1の油分離率の割合はたとえば40%以上60%以下の値である。実施の形態において油分離レベル1の油分離率は、30%である。
【0026】
制御部40は、S13において、油分離レベル0のグリースが封入された転がり軸受の振動データのSTFT画像を、油分離レベル0に対応する特徴量として算出し、処理をS14に進める。油分離レベル0のグリースとは、正常なグリースである。正常なグリースとは、劣化がほとんど生じていないグリースであり、たとえば未使用のグリース、油分離率が基準値以下のグリース、あるいは未使用のグリースが封入された転がり軸受の運転が開始されてから閾値時間以内のグリースである。実施の形態においては、油分離レベル0のグリースを、未使用のグリースが封入された転がり軸受の運転が開始されてから5時間以内のグリースとする。
【0027】
制御部40は、S14において、油分離レベル0~2の各グリースのSTFT画像を機械学習して分類器を作成し、処理をS15に進める。分類器は、或るSTFT画像と、各油分離レベルのSTFT画像との適合率を算出する。
【0028】
制御部40は、S15において、油分離レベル0~2のSTFT画像と運転時間L0~L2とをそれぞれ関連付けて記憶部50に保存し、処理を終了する。油分離レベル0のグリースは正常なグリースであるため、実施の形態においては、運転時間L0を0とする。運転時間L1は、正常なグリースの油分離率が油分離レベル1の油分離率になるまでの転がり軸受の運転時間である。運転時間L2は、正常なグリースの油分離率が油分離レベル2の油分離率になるまでの転がり軸受の運転時間である。運転時間L1は、未使用のグリースの油分離率が油分離レベル1の油分離率になるまで転がり軸受を実際に運転した場合の運転時間でもよいし、運転時間と油分離率との関係式から求められた運転時間でもよい。運転時間L2についても同様である。実施の形態においては、運転時間L1を1000時間とし、運転時間L2を2000時間とする。
【0029】
S11~S13は、S14より前に実行されていればよく、
図4に示される順序で行なわれる必要はない。また、S11~S13は、遂次的ではなく同時並行的に行なわれても良い。
【0030】
図5は、油分離レベル2(油分離率70%)の(a)振動データ(加速度データ)、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
図6は、油分離レベル1(油分離率30%)の(a)振動データ(加速度データ)のタイムチャート、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
図7は、正常な(a)振動データ(加速度データ)のタイムチャート、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
図5~
図7に示される振動データは、回転速度1500min-1で運転しているNTN社製のアンギュラ玉軸受7216の振動加速度がサンプリング速度50kHzで測定されたデータである。
図5~
図7に示される振動データの測定において、ラジアル負荷およびアキシアル負荷は共に1.3kNであり、温度は150℃である。
【0031】
図4のS11においては、
図5(a)から
図5(b)が算出される。
図4のS12においては、
図6(a)から
図6(b)が算出される。
図4のS13においては、
図7(a)から
図7(b)が算出される。
図4のS14においては、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)が機械学習される。
【0032】
油分離レベル1および2の各グリースは、監視対象の転がり軸受を実際に運転することによって得られたグリースでもよいし、人工的に油分離率OSが調整されたグリースでもよい。グリースの油分離率OSを人工的に調整する方法としては、たとえば以下の式(1)を用いて、遠心分離器で分離した油をグリースから除去する方法、あるいは恒温槽などでグリースを加熱して油を蒸発あるいは油を分離させる方法を挙げることができる。式(1)において、T0は未使用グリースの増ちょう剤量(%)であり、T1は調整対象のグリースの増ちょう剤量(%)である。
【0033】
OS=(1-T0/T1)×100 …(1)
増ちょう剤量の測定方法としては、重量を測定したグリースを石油ベンジンで希釈し、それを遠心分離器で分離させ、上澄みの油と石油ベンジンとを除去するという作業を数回繰り返して、残存した増ちょう剤の重量を測定し、増ちょう剤重量のグリース重量に占める割合を求めるという方法を挙げることができる。
【0034】
図4のS11およびS12においては、設定された油分離率で油が分離することによる重量変化を想定した封入量G1のグリースが封入さえた転がり軸受の振動データが参照される。封入量G1は、たとえば以下の式(2)から求めることができる。式(2)において、G0は転がり軸受の運転開始時に封入されるグリースの封入量(初期封入量)である。式(2)における封入量G0およびG1は、グリースが封入される転がり軸受内部の全容積に対する封入されるグリースの容積の比である。実施の形態においては、初期封入量G0を27%とする。
【0035】
G1=G0×(100-OS)/100 …(2)
図8は、監視期間に行なわれる処理(
図3のS2)の流れを具体的に示すフローチャートである。
図8に示される処理は、不図示のメインルーチンによって各サンプリング時刻に実行される。
【0036】
図8に示されるように、制御部40は、S21においてサンプリング時刻に測定された振動データ(測定データ)のSTFT画像を算出し、処理をS22に進める。制御部40は、S22において、学習期間に作成した分類器を用いて、測定データのSTFT画像と、機械学習した3つのSTFT画像それぞれとの適合率P0~P2を算出し、処理をS23へ進める。適合率P0は、測定データのSTFT画像と油分離レベル0のSTFT画像の適合率である。適合率P1は、測定データのSTFT画像と油分離レベル1のSTFT画像の適合率である。適合率P2は、測定データのSTFT画像と油分離レベル2のSTFT画像の適合率である。適合率P0~P2の総和は1である。
【0037】
制御部40は、S23において、以下の式(3)を用いて、グリースの油分離率が油分離レベル2の油分離率となるまでの余寿命ΔLを算出し、処理をメインルーチンに戻す。
【0038】
ΔL=L2-(L0×P0+L1×P1+L2×P2) …(3)
制御部40は、余寿命ΔLが、閾値よりも小さい場合には、たとえばグリースの交換を促すメッセージをユーザに報知する。
【0039】
以下では、実施の形態に係る状態監視装置を用いて、転がり軸受のグリースの余寿命を推定した実験の結果を示す。当該実験においては、NTN社製のアンギュラ玉軸受7216を回転速度1500min-1で運転させ、2時間毎に20秒間、サンプリング速度50kHzでアンギュラ玉軸受7216の振動加速度を測定した。ラジアル負荷およびアキシアル負荷は共に1.3kNとし、温度はヒータ加熱によって150℃とした。アンギュラ玉軸受7216の内部に封入されたグリースの油分離率は、運転時間が2000時間となった時点で70%であった。
【0040】
図9は、監視中に測定された振動データのSTFT画像と各油分離レベルのSTFT画像との適合率のタイムチャートである。
図9において、曲線C0は、監視中に測定された振動データのSTFT画像と油分離レベル0のSTFT画像との適合率P0の時間変化を示す。曲線C1は、監視中に測定された振動データのSTFT画像と油分離レベル1のSTFT画像との適合率P1の時間変化を示す。曲線C2は、監視中に測定された振動データのSTFT画像と油分離レベル2のSTFT画像との適合率P2の時間変化を示す。
【0041】
図9に示されるように、運転時間L10(0<L10<500)は、油分離レベル0に対応付けられた運転時間L0(0)に最も近く、その次に油分離レベル1に対応付けられた運転時間L1(1000)に近い。運転時間L10におけるグリースの実際の状態は、油分離レベル0のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル1のグリースの状態に近い。運転時間L10における適合率P0~P2の値は、それぞれ0.9、0.1、および0である。適合率P0~P2の大小関係P0>P1>P2から、運転時間L10におけるグリースの状態は、油分離レベル0のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル1のグリースの状態に近いと推定することができる。運転時間L10の適合率P0~P2には、運転時間L10における実際のグリースの状態が反映されている。
【0042】
運転時間L20(1000<L20<1500)は、運転時間L1に最も近く、その次に油分離レベル2に対応付けられた運転時間L2(2000)に近い。運転時間L20におけるグリースの実際の状態は、油分離レベル1のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル2のグリースの状態に近い。運転時間L20における適合率P0~P2の値は、それぞれ0、0.9、および0.1である。適合率P0~P2の大小関係P1>P2>P0から、運転時間L20におけるグリースの状態は、油分離レベル1のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル2のグリースの状態に近いと推定することができる。運転時間L20の適合率P0~P2には、運転時間L20における実際のグリースの状態が反映されている。
【0043】
運転時間L30(1500<L30<2000)は、運転時間L2に最も近く、その次に運転時間L1に近い。運転時間L30におけるグリースの実際の状態は、油分離レベル2のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル1のグリースの状態に近い。運転時間L30における適合率P0~P2の値は、それぞれ0、0.1、および0.9である。適合率P0~P2の大小関係P2>P1>P0から、運転時間L30におけるグリースの状態は、油分離レベル2のグリースの状態に最も近く、その次に油分離レベル1のグリースの状態に近いと推定することができる。運転時間L30の適合率P0~P2には、運転時間L30における実際のグリースの状態が反映されている。
【0044】
図10は、転がり軸受の運転時間と実施の形態に係る状態監視装置によって推定された余寿命との関係を示す図である。
図10に示されるように、運転時間の増加に伴って劣化するグリースの状態に対応する余寿命が推定されている。
【0045】
実施の形態においては、内輪が回転輪であり、外輪が静止輪である場合について説明した。実施の形態に係る状態監視装置の監視対象となる転がり軸受は、内輪が静止輪であり、外輪が回転輪であってもよい。
【0046】
実施の形態においては油分離率を3レベルに分けて、学習期間において各レベルのSTFT画像を機械学習する場合について説明した。油分離率は、4レベル以上に分けられてもよい。また、振動データの特徴量は、STFT画像以外でもよく、たとえば、実効値、最大値、波高率、尖度、および歪度であってもよい。
【0047】
以上、実施の形態に係る状態監視装置によれば、振動データの特徴量の機械学習によって作成された分類器を用いることにより、転がり軸受に封入されたグリースの余寿命を推定することができる。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 状態監視装置、10 転がり軸受、11 主軸、12 内輪、14 外輪、16 保持器、18 転動体、20 振動センサ、40 制御部、50 記憶部、Grc グリース。