(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】転がり軸受の状態監視方法および状態監視装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20220107BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20220107BHJP
F16N 29/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01M13/045
F16C19/52
F16N29/00 D
(21)【出願番号】P 2018157202
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2017166822
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 英之
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-077189(JP,A)
【文献】特許第4605132(JP,B2)
【文献】特開2005-291738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313228(US,A1)
【文献】特開2018-025450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
F16N 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習するステップと、
転がり軸受の状態を監視するステップとを含み、
前記機械学習するステップは、
第1油分離率のグリースが封入された前記転がり軸受の第1振動データの特徴量セットを算出するステップと、
前記第1油分離率より小さい第2油分離率のグリースが封入された前記転がり軸受の第2振動データの特徴量セットを算出するステップと、
正常なグリースが封入された前記転がり軸受の第3振動データの特徴量セットを算出するステップと、
前記第3振動データの特徴量セットを機械学習して、第1分類器を作成するステップと、
前記第1および第2振動データの各特徴量セットを機械学習して、第2分類器を作成するステップと、
前記第1~第3振動データの各特徴量セットを機械学習して、第3分類器を作成するステップとを含み、
前記状態を監視するステップは、
監視中に測定された前記転がり軸受の第4振動データの特徴量セットを算出するステップと、
前記第1分類器を用いて、前記第4振動データの特徴量セットの前記第3振動データの特徴量セットからの第1外れ値を算出するステップと、
前記第2分類器を用いて、前記第4振動データの特徴量セットの前記第1および第2振動データの各特徴量セットからの第2外れ値を算出するステップと、
前記第3分類器を用いて、前記第4振動データの特徴量セットの前記第1~第3振動データの各特徴量セットからの第3外れ値を算出するステップと、
前記第1~第3外れ値を用いて、前記転がり軸受の異常原因を判別するステップとを含む、転がり軸受の状態監視方法。
【請求項2】
前記異常原因を判別するステップは、
前記第1外れ値が第1閾値よりも大きく、かつ、前記第2外れ値が第2閾値よりも小さいという条件が成立する場合に前記異常原因を潤滑不良と判定し、
前記第3外れ値が第3閾値よりも大きい場合、前記異常原因を軸受損傷と判定する、請求項1に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項3】
前記機械学習するステップは、
前記第1振動データの短時間フーリエ変換データを算出するステップと、
前記第1振動データの短時間フーリエ変換データを機械学習して第4分類器を作成するステップをさらに含み、
前記状態を監視するステップは、
前記第4振動データの短時間フーリエ変換データを算出するステップと、
前記第4分類器を用いて、前記第4振動データの短時間フーリエ変換データと前記第1振動データの短時間フーリエ変換との適合率を算出するステップとを含み、
前記異常原因を判別するステップは、前記条件が成立し、かつ前記適合率が基準値よりも大きい場合に、前記異常原因を潤滑不良と判定する、請求項2に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項4】
前記第1油分離率のグリースおよび前記第2油分離率のグリースは、人工的に調整されたグリースである、請求項1~3のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項5】
前記第1油分離率のグリースは、前記正常なグリースが封入された前記転がり軸受を第1運転時間だけ運転させることによって得られたグリースであり、
前記第2油分離率のグリースは、前記正常なグリースが封入された前記転がり軸受を前記第1運転時間より小さい第2運転時間だけ運転させることによって得られたグリースである、請求項1~3のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項6】
前記第1~第4振動データの各特徴量セットは、実効値、最大値、波高率、尖度、および歪度を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項7】
前記第1~第3振動データは、前記転がり軸受の運転が開始されてから慣らし運転期間経過後に測定された振動データである、請求項1~6のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の転がり軸受の状態監視方法を用いて、前記転がり軸受の状態を監視する、状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の状態監視方法および状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の状態監視方法が知られている。たとえば特開2004-347401号公報(特許文献1)には、周波数スペクトルにおいて回転速度比例成分等のピークを持たないバックグラウンドノイズ成分を用いることにより、簡素な構成で効率的に精度良く転がり軸受の異常の有無を判断することができる転がり軸受の診断方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2004-347401号公報(特許文献1)には、転がり軸受の振動データの周波数スペクトルが閾値を超えたときに転がり軸受に封入されたグリースが劣化したと判断するとともに、周波数スペクトルに周期的なピークが生じているときに軸受損傷が発生したと判断する構成が開示されている。
【0005】
特開2004-347401号公報(特許文献1)には、グリース劣化と判定するための閾値を転がり軸受のグリースが正常な場合に得られるスペクトル波形の平均値と、グリースが劣化した場合に得られるスペクトル波形の平均値との間に設定することが開示されている。また、周波数スペクトルに周期的なピークが生じているときに軸受損傷が発生したと判断する構成が開示されている。
【0006】
しかし、グリースが正常な場合に得られるスペクトル波形および、グリースが劣化した場合に得られるスペクトル波形には、さまざまな波形が想定される。そのため、単に両者の平均値の間に設定された閾値によっては、グリースが劣化したことを精度よく判定することが困難になり得る。また、周波数スペクトルに生じているピークが周期的か否かを具体的にどのような方法で判定するかについては開示されていない。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、転がり軸受に発生した異常の原因判別の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る転がり軸受の状態監視方法は、機械学習によって分類器を作成するステップと、転がり軸受の状態を監視するステップとを含む。第1~第3振動データの各特徴量セットを算出するステップと、第1~第3分類器を作成するステップとを含む。第1振動データは、第1油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データである。第2振動データは、第1油分離率より小さい第2油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データである。第3振動データは、正常なグリースが封入された転がり軸受の振動データである。第1分類器は、第3振動データの特徴量セットが機械学習されることによって作成される。第2分類器は、第1および第2振動データの各特徴量セットが機械学習されることによって作成される。第3分類器は、第1~第3振動データの各特徴量セットが機械学習されることによって作成される。状態を監視するステップは、第4振動データの特徴量セットを算出するステップと、第1~第3外れ値を算出するステップと、転がり軸受の異常原因を判別するステップとを含む。第4振動データは、監視中に測定された転がり軸受の振動データである。第1外れ値は、第1分類器を用いて算出された、第4振動データの特徴量セットの第3振動データの特徴量セットからの外れ値である。第2外れ値は、第2分類器を用いて算出された、第4振動データの特徴量セットの第1および第2振動データの各特徴量セットからの外れ値である。第3外れ値は、第3分類器を用いて算出された、第4振動データの特徴量セットの第1~第3振動データの各特徴量セットからの外れ値である。異常原因は、第1~第3外れ値を用いて判別される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る転がり軸受の状態監視方法によれば、振動データの特徴量セットの機械学習によって作成された分類器を用いることにより、転がり軸受に発生した異常の原因判別の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る状態監視装置および状態監視装置によって監視される転がり軸受10の断面図を併せて示す図である。
【
図2】
図1の状態監視装置の機能ブロック図である。
【
図3】制御部によって算出される特徴量セットを示す図である。
【
図4】制御部によって行なわれる転がり軸受の異常原因の判別処理の概要を示すフローチャートである。
【
図5】学習期間に行なわれる処理の流れを具体的に示すフローチャートである。
【
図6】監視期間に行なわれる処理の流れを具体的に示すフローチャートである。
【
図7】
図6の異常原因の判別処理の具体的な処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図8】実験終了後に潤滑不良が生じていたが確認された場合の各外れ値の各タイムチャートを併せて示す図である。
【
図9】実験終了後に軸受損傷が発生していたことが確認された場合の各外れ値の各タイムチャートを併せて示す図である。
【
図10】実施の形態2において学習期間に行なわれる処理の流れを具体的に示すフローチャートである。
【
図11】油分離レベル2(油分離率70%)の(a)振動データ(加速度データ)、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
【
図12】実施の形態2における異常原因の判別処理の具体的な処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る状態監視装置1および状態監視装置1によって監視される転がり軸受10の断面図を併せて示す図である。
図1に示されるように、転がり軸受10は、内輪12と、外輪14と、保持器16と、複数の転動体18とを含む。転がり軸受10は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、および玉軸受などを含む。転がり軸受10は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0013】
内輪12は、主軸11にはめ込まれて固定され、主軸11と一体となって矢印Dの方向に回転する回転輪である。外輪14は、内輪12の外周側に配置されている静止輪である。
【0014】
保持器16には、複数の転動体18を保持するための複数のポケットが等間隔に設けられている。保持器16は、複数の転動体18を保持した状態で内輪12の外周面と外輪14の内周面との間に配置される。内輪12の回転に伴って複数の転動体18が外輪14の内周面(軌道面)に沿って回転すると、保持器16は複数の転動体18とともに内輪12の外周面と外輪14の内周面との間を回転する。
【0015】
転がり軸受10の内部には、金属である構成要素(たとえば内輪12、外輪14、保持器16、および転動体18)の周囲に油膜を形成して、金属同士の接触を抑制するために、グリースGrcが封入されている。
【0016】
状態監視装置1は、振動センサによって転がり軸受10の物理量を測定して、転がり軸受の状態を監視する。振動センサによって測定される転がり軸受10の物理量としては、たとえば、加速度、速度、変位、音、AE(Acoustic Emission)、および電力を挙げることができる。
【0017】
転がり軸受10の運転時間の増加に伴い、グリースGrcが劣化してグリースGrcの油分離率が増加する。グリースGrcの油分離率が増加すると、転動体18等の周囲に十分な油膜を形成することが困難になり、転がり軸受10の内部で金属同士の接触が生じ易くなる。金属同士の接触による摩擦熱によって金属同士が溶着すると、転がり軸受10の回転が困難になる。
【0018】
また、複数の転動体18によって軌道面に損傷が形成される場合がある。軌道面に生じた損傷の進展に応じて、外輪14の振動が大きくなり得る。その結果、たとえば転がり軸受10が支持している部品とそれに隣接する部品との異常接触等の弊害が生じ得る。
【0019】
このように、転がり軸受10に生じる異常には、様々な原因の異常が想定される。このような異常原因の判別を高精度に行なうことで、異常の解消を迅速に行なうことができる。
【0020】
そこで、実施の形態1においては、異なる油分離率のグリースが封入された転がり軸受の振動データの特徴量セットを機械学習することにより、或る特徴量セットと、機械学習した特徴量セットとの外れ値を算出する分類器を作成する。当該分類器を用いることにより、転がり軸受10に発生した異常原因の判別の精度を向上させることができる。なお、外れ値とは、或るデータが機械学習された基準データからどの程度乖離しているかを示す指標値である。
【0021】
図2は、
図1の状態監視装置1の機能ブロック図である。
図2に示されるように、状態監視装置1は、振動センサ20と、制御部40と、記憶部50とを含む。振動センサ20は、転がり軸受10の振動データを測定し、制御部40に出力する。
【0022】
制御部40は、学習期間において、異なる油分離率のグリースが封入された転がり軸受10の振動データの特徴量セットを機械学習し、分類器を作成する。分類器としては、たとえばサポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ、および決定木を挙げることができる。実施の形態1においては、1クラスサポートベクターマシンを分類器として用いる。
【0023】
制御部40は、監視期間において、サンプリング時刻において測定された振動データの特徴量セットを算出し、分類器を用いて当該特徴量セットの外れ値を算出する。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)のようなコンピュータを含む。
【0024】
記憶部50には、たとえば、振動データ、当該振動データから算出される特徴量、および機械学習によって作成される分類器が保存される。
【0025】
図3は、制御部40によって算出される特徴量セットを示す図である。実施の形態1において特徴量セットには、
図3に示される特徴量F1~F15が含まれる。
図2および
図3を参照しながら、制御部40は、振動センサ20からの振動データから、時間領域(F1~F5)、周波数領域(F6~F10)、およびケフレンシ領域(F11~F15)の各領域において、実効値、最大値、波高率、尖度、および歪度を特徴量として算出する。
【0026】
図4は、制御部40によって行なわれる転がり軸受の異常原因の判別処理の概要を示すフローチャートである。以下ではステップを単にSと記載する。
【0027】
図4に示されるように、制御部40は、S1において分類器を作成する。S1は、学習期間において行なわれる処理である。制御部40は、S2において分類器を用いて異常原因の判別を行なう。S2は、監視期間において行なわれる処理である。機械学習によって作成された分類器が監視期間の開始時に作成されていればよく、学習期間と監視期間とは連続していなくてもよい。
【0028】
図5は、学習期間に行なわれる処理(
図4のS1)の流れを具体的に示すフローチャートである。
図5のS111~S113において各油分離レベルのグリースが封入される転がり軸受には、軸受損傷が生じていないとする。
【0029】
なお、転がり軸受10が運転を開始してからしばらくの間は、転がり軸受10の挙動が安定しない。そのため、学習期間においては、転がり軸受10の運転を開始してから慣らし運転期間(たとえば5日間)を経過し、転がり軸受10の挙動が安定した状態で一定期間(たとえば1ヶ月間)測定された振動データが用いられることが望ましい。
【0030】
図5に示されるように、制御部40は、S111において油分離率が油分離レベル2のグリースが封入された転がり軸受の振動データの特徴量セットを算出し、処理をS112へ進める。油分離レベル2の油分離率は、潤滑寿命がほとんど尽きており交換の必要性が高いグリースの油分離率として設定される。油分離レベル2の油分離率は、たとえば50%以上80%以下の値であり、実施の形態1では70%とする。
【0031】
制御部40は、S112において、油分離率が油分離レベル1であるグリースが封入された転がり軸受の振動データの特徴量セットを算出し、処理をS113へ進める。油分離レベル1の油分離率は、グリースの劣化は生じているが潤滑寿命がある程度残されているため交換の必要性は低いグリースの油分離率として設定される。油分離レベル2の油分離率に対する油分離レベル1の油分離率の割合はたとえば40%以上60%以下の値である。実施の形態1において油分離レベル1の油分離率は、30%である。
【0032】
制御部40は、S113において、油分離レベル0のグリースが封入された転がり軸受の振動データの特徴量セットを算出し、処理をS114に進める。油分離レベル0のグリースとは、正常なグリースである。正常なグリースとは、劣化がほとんど生じていないグリースであり、たとえば未使用のグリース、油分離率が基準値以下のグリース、あるいは未使用のグリースが封入された転がり軸受の運転が開始されてから閾値時間以内のグリースである。
【0033】
制御部40は、S114において、油分離レベル0の特徴量セットを機械学習して第1分類器を作成し、処理をS115に進める。第1分類器は、或る特徴量セットの、油分離レベル0の特徴量セットからの第1外れ値Anを算出する。第1外れ値Anが大きいほど、或る特徴量セットが油分離レベル0の特徴量セットから乖離していることになる。そのため、当該特徴量セットに対応する振動データが測定されたグリースの状態は、正常な状態から乖離していると推定される。すなわち、第1外れ値Anが大きい程、転がり軸受の状態は、正常な状態から乖離していると推定される。
【0034】
制御部40は、S115において、油分離レベル1,2の特徴量セットを機械学習して第2分類器を作成し、処理をS116に進める。第2分類器は、或る特徴量セットの、油分離レベル1および2の各特徴量セットからの第2外れ値Aoを算出する。第2外れ値Aoが小さいほど、或る特徴量セットが油分離レベル1および2の各特徴量セットに近接していることになる。そのため、当該特徴量セットに対応する振動データが測定された時点でのグリースは、油分離が進行し、異常な状態に近いと推定される。
【0035】
制御部40は、S116において、油分離レベル0~2の特徴量セットを機械学習して第3分類器を作成し処理を終了する。第3分類器は、或る特徴量セットの、油分離レベル0~2の各特徴量セットからの第3外れ値Anoを算出する。第3外れ値Anoが大きいほど、或る特徴量セットが油分離レベル0から乖離しているとともに、油分離レベル1および2の各特徴量セットから乖離していることになる。転がり軸受の状態は、正常な状態から乖離しているが、グリースが劣化している状態からも乖離していることになる。すなわち、転がり軸受に発生している異常の原因は、潤滑不良以外の原因であると推定される。実施の形態1において潤滑不良以外の異常原因は、軸受損傷とする。
【0036】
S111~S113は、S114~S116より前に実行されていればよく、
図5に示される順序で行なわれる必要はない。また、S111~S113は、遂次的ではなく同時並行的に行なわれても良い。
【0037】
S114~S116は、
図5に示される順序で行なわれる必要はない。また、S114~S116は、遂次的ではなく同時並行的に行なわれても良い。
【0038】
油分離レベル1および2の各グリースは、監視対象の転がり軸受を実際に運転することによって得られたグリースでもよいし、人工的に油分離率OSが調整されたグリースでもよい。グリースの油分離率OSを人工的に調整する方法としては、たとえば以下の式(1)を用いて、遠心分離器で分離した油をグリースから除去する方法、あるいは恒温槽などでグリースを加熱して油を蒸発あるいは油を分離させる方法を挙げることができる。式(1)において、T0は未使用グリースの増ちょう剤量(%)であり、T1は調整対象のグリースの増ちょう剤量(%)である。
【0039】
OS=(1-T0/T1)×100 …(1)
増ちょう剤量の測定方法としては、重量を測定したグリースを石油ベンジンで希釈し、それを遠心分離器で分離させ、上澄みの油と石油ベンジンとを除去するという作業を数回繰り返して、残存した増ちょう剤の重量を測定し、増ちょう剤重量のグリース重量に占める割合を求めるという方法を挙げることができる。
【0040】
図5のS111およびS112においては、設定された油分離率で油が分離することによる重量変化を想定した封入量G1のグリースが封入さえた転がり軸受の振動データが参照される。封入量G1は、たとえば以下の式(2)から求めることができる。式(2)において、G0は転がり軸受の運転開始時に封入されるグリースの封入量(初期封入量)である。式(2)における封入量G0およびG1は、グリースが封入される転がり軸受内部の全容積に対する封入されるグリースの容積の比である。実施の形態1においては、初期封入量G0を27%とする。
【0041】
G1=G0×(100-OS)/100 …(2)
図6は、監視期間に行なわれる処理(
図4のS2)の流れを具体的に示すフローチャートである。
図6に示される処理は、不図示のメインルーチンによって各サンプリング時刻に実行される。
【0042】
図6に示されるように、制御部40は、S211においてサンプリング時刻に測定された振動データ(測定データ)の特徴量セットを算出し、処理をS212に進める。制御部40は、S212において、第1分類器を用いて測定データの第1外れ値Anを算出し、処理をS213に進める。制御部40は、S213において、第2分類器を用いて測定データの第2外れ値Aoを算出し、処理をS214に進める。制御部40は、S214において、第3分類器を用いて測定データの第3外れ値Anoを算出し、処理をS220に進める。制御部40は、S220において異常原因を判別し、処理をメインルーチンに返す。
【0043】
図7は、
図6の異常原因の判別処理(S220)の具体的な処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図7に示されるように、制御部40は、S221において、第1外れ値が第1閾値より大きく、かつ第2外れ値が第2閾値より小さいという条件が成立するか否かを判定する。当該条件が成立する場合(S221においてYES)、制御部40は、S222において異常原因を潤滑不良であると判定し、処理をS223に進める。制御部40は、S222において異常原因が潤滑不良であることをユーザに報知してもよい。当該条件が成立しない場合(S221においてNO)、制御部40は、処理をS223に進める。
【0044】
制御部40は、S223において第3外れ値Anoが第3閾値より大きいか否かを判定する。第3外れ値Anoが第3閾値より大きい場合(S223においてYES)、制御部40は、処理をS224において軸受損傷と判定し、処理をメインルーチンに返す。制御部40は、S224において異常原因が軸受損傷であることをユーザに報知してもよい。第3外れ値Anoが第3閾値以下である場合(S223においてNO)、制御部40は、処理をメインルーチンに返す。
【0045】
第1~第3閾値は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。第1~第3閾値は、同じ値としてもよい。
【0046】
以下では、実施の形態1に係る状態監視装置を用いて、転がり軸受の異常原因の判別を行なった実験の結果を示す。当該実験においては、NTN社製のアンギュラ玉軸受7216を回転速度1500min
-1で運転させ、2時間毎に20秒間、サンプリング速度50kHzでアンギュラ玉軸受7216の振動加速度を測定した。ラジアル負荷およびアキシアル負荷は共に1.3kNとした。
図7の第1~第3閾値の各々は、10とした。
【0047】
第1分類器の作成にあたっては、油分離レベル0のグリースが封入されたアンギュラ玉軸受7216を上述の条件で運転させて測定した1ヶ月分の測定データの特徴量セットを機械学習の基準データとした。
【0048】
第2分類器の作成にあたっては、油分離レベル1のグリース封入されたアンギュラ玉軸受7216を上述の条件で運転させて測定した1日分の測定データの特徴量セット、油分離レベル2のグリースが封入されたアンギュラ玉軸受7216を上述の条件で運転させて測定した1日分の測定データの特徴量セットを機械学習の基準データとした。
【0049】
第3分類器の作成にあたっては、第2分類器の作成に用いた基準データ、および油分離レベル0のグリースが封入されたアンギュラ玉軸受7216を上述の条件で運転させて測定した1日分の測定データの特徴量セットを機械学習の基準データとした。
【0050】
図8は、潤滑不良が発生していたことが実験終了後に確認された場合の第1外れ値An、第2外れ値Ao、および第3外れ値Anoの各タイムチャートを併せて示す図である。
図7および
図8を参照しながら、運転時間M1以降は、第1外れ値Anが10より大きく、かつ第2外れ値Aoが10より小さい。
図7のS221がYESと判定されるため、運転時間M1以降は、転がり軸受に発生している異常の原因が潤滑不良と判定される。
【0051】
図9は、軸受損傷が発生していたことが実験終了後に確認された場合の第1外れ値An、第2外れ値Ao、および第3外れ値Anoの各タイムチャートを併せて示す図である。
図7および
図9を参照しながら、運転時間M2以降は、第1外れ値An、第2外れ値Ao、および第3外れ値の全てが10より大きい。
図7のS221がNOと判定されるとともに、S223がYESと判定されるため、運転時間M2以降は、転がり軸受に発生している異常の原因が軸受損傷と判定される。
【0052】
以上、実施の形態1に係る状態監視装置によれば、振動データの特徴量セットの機械学習によって作成された分類器を用いることにより、転がり軸受に発生した異常原因の判別の精度を向上させることができる。
【0053】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、振動データの短時間フーリエ変換(STFT:Short Time Fourier Transform)データを機械学習することによって作成された分類器を用いることによって、異常原因の判定精度をさらに向上させる場合について説明する。
【0054】
実施の形態2と実施の形態1との違いは、学習期間および監視期間に行なわれる各処理である。実施の形態2においては、実施の形態1の
図5および
図7が、
図10および
図12にそれぞれ置き換えられる。それら以外の構成は同様であるため、説明を繰り返さない。
【0055】
図10は、実施の形態2において学習期間に行なわれる処理(
図4のS1)の流れを具体的に示すフローチャートである。
図10に示されるように、制御部は、実施の形態1と同様にS111~S116を行なって第1~第3分類器を作成し、処理をS121に進める。
【0056】
制御部は、S121において油分離レベル2のグリースが封入された転がり軸受の振動データのSTFT画像を算出し、処理をS122に進める。制御部は、S122において油分離レベル2のSTFT画像を機械学習して第4分類器を作成して処理を終了する。第4分類器は、或るSTFT画像と油分離レベル2のSTFT画像との適合率を算出する。実施の形態2においては、第4分類器としてニューラルネットワークを用いる。
【0057】
図11は、油分離レベル2(油分離率70%)の(a)振動データ(加速度データ)、および(b)STFT画像を併せて示す図である。
図5に示される振動データは、回転速度1500min
-1で運転しているNTN社製のアンギュラ玉軸受7216の振動加速度がサンプリング速度50kHzで測定されたデータである。
図5に示される振動データの測定において、ラジアル負荷およびアキシアル負荷は共に1.3kNである。
【0058】
【0059】
図12は、実施の形態2における異常原因の判別処理の具体的な処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図12に示されるように、制御部は、S221の条件が成立した場合、処理をS231に進める。制御部は、S231において測定データのSTFT画像を算出し、処理をS232に進める。制御部は、S233において、第4分類器を用いて、測定データのSTFT画像と油分離レベル2のSTFT画像との適合率を算出し、処理をS233に進める。
【0060】
制御部は、S233において適合率が基準値よりも大きいか否かを判定する。適合率が基準値よりも大きい場合(S233においてYES)、制御部はS222において潤滑不良と判定し、処理をS223に進める。適合率が基準値以下である場合(S233においてNO)、制御部は、処理をS223に進める。制御部は、S223の条件が成立している場合、軸受損傷と判定して処理をメインルーチンに返す。基準値は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。
【0061】
実施の形態2においては、S221の条件が成立した場合に潤滑不良と判定するのではなく、S221の条件が成立した場合にさらにS231~S233を行なって、グリースの状態が油分離レベル2に或る程度近い場合に潤滑不良と判定する。そのため、転がり軸受の異常原因の判別の精度を実施の形態1よりも向上させることができる。
【0062】
以上、実施の形態2に係る状態監視装置によれば、振動データの特徴量セットの機械学習によって作成された分類器を用いることにより、転がり軸受に発生した異常原因の判別の精度を向上させることができる。また、実施の形態2に係る状態監視装置によれば、グリースが劣化した状態のSTFT画像を機械学習することによって作成した分類器を用いることにより、転がり軸受に発生した異常原因の判別の精度をさらに向上させることができる。
【0063】
実施の形態1,2においては、内輪が回転輪であり、外輪が静止輪である場合について説明した。実施の形態に係る状態監視装置の監視対象となる転がり軸受は、内輪が静止輪であり、外輪が回転輪であってもよい。
【0064】
実施の形態1,2においては油分離率を3レベルに分けて、学習期間において各レベルの特徴量セットを機械学習する場合について説明した。油分離率は、4レベル以上に分けられてもよい。また、振動データの特徴量セットは、実効値、最大値、波高率、尖度、および歪度以外の特徴量を含んでいてもよい。
【0065】
今回開示された各実施の形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わされて実施されることも予定されている。今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 状態監視装置、10 転がり軸受、11 主軸、12 内輪、14 外輪、16 保持器、18 転動体、20 振動センサ、40 制御部、50 記憶部、Grc グリース。