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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】赤外線放射装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20220107BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H05B3/10 B
H05B3/00 345
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018190005
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020061214
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良夫
【審査官】比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-149976(JP,A)
【文献】特開2010-157381(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部と、前記発熱部から熱エネルギーを入力すると非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射可能なメタマテリアル構造体と、を有する放射部と、
前記放射部から放射された赤外線を集光しつつ外部に向けて透過する集光レンズを1以上有する集光部と、
前記放射部から放射された赤外線を前記集光部に反射する反射体と、
を備え
前記反射体は、前記放射部から見て前記集光部とは反対側を覆い、且つ該反射体の端部が該放射部よりも前記集光部側まで延びていることで、該反射体の内側に該放射部が位置するように配置され、
前記集光レンズは、前記反射体の外側に位置し、
前記放射部と前記集光部との並び方向に沿って見たときに前記放射部は前記集光レンズの内側に含まれている、
赤外線放射装置。
【請求項2】
前記メタマテリアル構造体は、第1放射面から前記赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体と、第2放射面から前記赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体と、を有し、
前記反射体、前記第2メタマテリアル構造体,前記発熱部,前記第1メタマテリアル構造体,及び前記集光部はこの順に配置されている、
請求項に記載の赤外線放射装置。
【請求項3】
前記メタマテリアル構造体は、第1放射面から前記赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体と、第2放射面から前記赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体と、を有し、
前記第1メタマテリアル構造体,前記発熱部,及び前記第2メタマテリアル構造体は、前記放射部と前記集光部との並び方向に垂直な方向にこの順で配置されており、
前記反射体は、前記第1,第2メタマテリアル構造体を両側から挟むように配置されている、
請求項に記載の赤外線放射装置。
【請求項4】
前記1以上の集光レンズは、いずれも、前記放射部側から平行光が入射した場合の焦点距離が100mm以上である、
請求項1~のいずれか1項に記載の赤外線放射装置。
【請求項5】
前記メタマテリアル構造体は、前記発熱部側から順に、第1導体層と、該第1導体層に接合された誘電体層と、各々が前記誘電体層に接合され互いに離間して周期的に配置された複数の個別導体層を有する第2導体層と、を備える、
請求項1~のいずれか1項に記載の赤外線放射装置。
【請求項6】
前記メタマテリアル構造体は、少なくとも表面が導体からなり互いに離間して周期的に配置された複数のマイクロキャビティを備える、
請求項1~のいずれか1項に記載の赤外線放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタマテリアル構造体を用いた赤外線放射装置が知られている。例えば、特許文献1には、発熱源と、発熱源の表面側に配置されたメタマテリアル構造層と、発熱源の裏面側に配置された裏面金属層と、を備えた放射装置が記載されている。メタマテリアル構造層は、発熱源から入力される熱エネルギーを特定の波長領域の放射エネルギーとして放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/163986号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メタマテリアル構造体を用いた赤外線放射装置において、赤外線を集中させて対象物に効率よく放射したいという要望があった。しかし、特許文献1では、赤外線を集中させることについては考慮されていない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、赤外線を対象物に集中的に放射することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の赤外線放射装置は、
発熱部と、前記発熱部から熱エネルギーを入力すると非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射可能なメタマテリアル構造体と、を有する放射部と、
前記放射部から放射された赤外線を集光しつつ外部に向けて透過する集光レンズを1以上有する集光部と、
を備えたものである。
【0008】
この赤外線放射装置では、メタマテリアル構造体から、非プランク分布のピーク波長を有する赤外線が放射される。換言すると、メタマテリアル構造体から、特定の波長領域の赤外線が選択的に放射される。そして、放射された赤外線は集光部により集光されつつ外部に向かって放射される。したがって、この赤外線放射装置は、メタマテリアル構造体から放射される赤外線を、対象物に向けて集中的に放射できる。
【0009】
本発明の赤外線放射装置は、前記放射部から放射された赤外線を前記集光部に反射する反射体を備えていてもよい。こうすれば、放射部から直接集光部に向けて放射されない赤外線についても、少なくとも一部を反射により集光部に向けて放射することができる。したがって、この赤外線放射装置は対象物に効率よく赤外線を放射できる。この場合において、前記反射体は、反射面の断面形状が曲線形状であってもよい。曲線形状は、放物線,楕円の弧,円弧のいずれかの形状であってもよい。
【0010】
反射体を備える態様の本発明の赤外線放射装置において、前記メタマテリアル構造体は、第1放射面から前記赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体と、第2放射面から前記赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体と、を有し、前記反射体,前記第2メタマテリアル構造体,前記発熱部,前記第1メタマテリアル構造体,及び前記集光部はこの順に配置されていてもよい。こうすれば、放射部は第1放射面及び第2放射面から非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射できる。換言すると、放射部は、両側から特定の波長領域の赤外線を選択的に放射できる。そのため、例えば放射部が第1,第2メタマテリアル構造体のうちいずれかのみを有する場合と比較して、特定の波長領域以外の不要な波長の赤外線が放射部から放射されることを抑制できる。しかも、第1,第2メタマテリアル構造体を反射体と集光部とで挟むように配置しているから、第1,第2放射面から放射された赤外線はいずれも直接又は反射体を経由して集光部に到達しやすい。以上により、この赤外線放射装置は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0011】
反射体を備える態様の本発明の赤外線放射装置において、前記メタマテリアル構造体は、第1放射面から前記赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体と、第2放射面から前記赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体と、を有し、前記第1メタマテリアル構造体,前記発熱部,及び前記第2メタマテリアル構造体は、前記放射部と前記集光部との並び方向に垂直な方向にこの順で配置されており、前記反射体は、前記第1,第2メタマテリアル構造体を両側から挟むように配置されていてもよい。こうすれば、放射部は第1放射面及び第2放射面から非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射できる。換言すると、放射部は、両側から特定の波長領域の赤外線を選択的に放射できる。そのため、例えば放射部が第1,第2メタマテリアル構造体のうちいずれかのみを有する場合と比較して、特定の波長領域以外の不要な波長の赤外線が放射部から放射されることを抑制できる。しかも、第1,第2メタマテリアル構造体を挟むように反射体が配置されているから、第1,第2放射面から放射された赤外線はいずれも直接又は反射体を経由して集光部に到達しやすい。以上により、この赤外線放射装置は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0012】
反射体を備える態様の本発明の赤外線放射装置において、前記反射体は、前記放射部から見て前記集光部とは反対側を覆い、且つ該反射体の端部が該放射部よりも前記集光部側まで延びていることで、該反射体の内側に該放射部が位置するように配置されていてもよい。こうすれば、この赤外線放射装置は、集光部にも反射体にも向かわないことで対象物に到達しない赤外線を少なくすることができる。したがって、この赤外線放射装置は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0013】
本発明の赤外線放射装置において、前記1以上の集光レンズは、いずれも、前記放射部側から平行光が入射した場合の焦点距離が100mm以上であってもよい。集光レンズの焦点距離が100mm以上であれば、対象物を放射部から十分離すことで対流熱伝達などによる対象物の温度上昇を抑制しつつ、対象物に向けて集中的に赤外線を放射できる。そのため、例えばなるべく加熱させずに赤外線を用いた処理を行いたい対象物に対して、この赤外線放射装置は適切に赤外線を放射できる。
【0014】
本発明の赤外線放射装置において、前記メタマテリアル構造体は、前記発熱部側から順に、第1導体層と、該第1導体層に接合された誘電体層と、各々が前記誘電体層に接合され互いに離間して周期的に配置された複数の個別導体層を有する第2導体層と、を備えていてもよい。メタマテリアル構造体が上述した第1,第2メタマテリアル構造体を備える場合には、第1,第2メタマテリアル構造体の各々が第1導体層と誘電体層と第2導体層と、を備えていてもよい。
【0015】
本発明の赤外線放射装置において、前記メタマテリアル構造体は、少なくとも表面が導体からなり互いに離間して周期的に配置された複数のマイクロキャビティを備えていてもよい。メタマテリアル構造体が上述した第1,第2メタマテリアル構造体を備える場合には、第1,第2メタマテリアル構造体の各々が複数のマイクロキャビティを備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】赤外線放射装置10の概略断面図。
図2】第1メタマテリアル構造体30aの部分底面図。
図3】放射部11からの赤外線を対象物Pに向けて集光する様子を示す概念図。
図4】変形例の赤外線放射装置10の概略図。
図5】変形例の赤外線放射装置10の概略図。
図6】変形例の赤外線放射装置10の概略図。
図7】変形例の放射部11の部分断面図。
図8】変形例の第1メタマテリアル構造体30aの部分底面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態である赤外線放射装置10の概略断面図である。図2は、第1メタマテリアル構造体30aの部分底面図である。図3は、放射部11からの赤外線を集光する様子を示す概念図である。なお、本実施形態において、左右方向、前後方向及び上下方向は、図1,2に示した通りとする。赤外線放射装置10は、放射部11と、反射体40と、集光部45と、ケーシング50と、固定部70と、を備えている。放射部11,反射体40及び固定部70は、ケーシング50の内部空間53内に配置されている。この赤外線放射装置10は、下方に配置された対象物(例えば図3に示す対象物P)に向けて赤外線を放射する。
【0018】
放射部11は、ケーシング50の内部空間53内に配置されている。放射部11は、図1の拡大図に示すように、発熱部12と、第1,第2支持基板20a,20bと、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bと、を備えている。
【0019】
発熱部12は、いわゆる面状ヒーターとして構成されており、線状の部材をジグザグに湾曲させた発熱体13と、発熱体13に接触して発熱体13の周囲を覆う絶縁体である保護部材14とを備えている。発熱体13の材質としては、例えばW,Mo,Ta,Fe-Cr-Al合金及びNi-Cr合金などが挙げられる。保護部材14の材質としては、例えばポリイミドなどの絶縁性の樹脂やセラミックス等が挙げられる。発熱体13の両端には一対の電気配線15(図1では1本のみ図示)が取り付けられている。電気配線15は、反射体40を貫通しケーシング50の上部に取り付けられたシーリンググランド67内を貫通して赤外線放射装置10の外部に引き出されている。この電気配線15を介して、発熱体13に外部から電力を供給可能である。なお、発熱部12は、絶縁体にリボン状の発熱体を巻き付けた構成の面状ヒーターとしてもよい。なお、発熱部12は上面視で矩形状としたが、例えば円形であってもよい。
【0020】
第1,第2支持基板20a,20bは、それぞれ、平板状の部材である。第1支持基板20aは、発熱部12の第1面側(ここでは下面側)に配設されている。第2支持基板20bは、発熱部12の第2面側(ここでは上面側)に配設されている。第1支持基板20a及び第2支持基板20bを支持基板20と総称する。支持基板20は、発熱部12及び第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bを支持している。支持基板20の材質としては、例えばSiウェハ、ガラスなどのように、平滑面が維持しやすく、耐熱性が高く、熱反りが低い素材が挙げられる。本実施形態では、支持基板20はSiウェハとした。なお、第1,第2支持基板20a,20bの各々は、本実施形態のように発熱部12の下面及び上面に接触していてもよいし、接触せず空間を介して発熱部12と上下に離間して配設されていてもよい。支持基板20と発熱部12とが接触している場合には両者は接合されていてもよい。
【0021】
第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、それぞれ、板状の部材である。第1メタマテリアル構造体30aは、発熱部12の第1面側(ここでは下面側)に配設されており、第1支持基板20aよりも下方に位置する。第2メタマテリアル構造体30bは、発熱部12の第2面側(ここでは上面側)に配設されており、第2支持基板20bよりも上方に位置する。第1メタマテリアル構造体30a及び第2メタマテリアル構造体30bをメタマテリアル構造体30と総称する。第1メタマテリアル構造体30aは、第1支持基板20aの下面と直接接合されていてもよいし、図示しない接着層を介して接合されていてもよい。同様に、第2メタマテリアル構造体30bは、第2支持基板20bの上面と直接接合されていてもよいし、図示しない接着層を介して接合されていてもよい。第1メタマテリアル構造体30aは自身の下面(第1放射面の一例)から主に下方に赤外線を放射し、第2メタマテリアル構造体30bは自身の上面(第2放射面の一例)から主に上方に赤外線を放射する。第1メタマテリアル構造体30aは、下面が集光レンズ46と対向するように配置されている。第2メタマテリアル構造体30bは、上面が反射体40と対向するように配置されている。図1に示すように、第1メタマテリアル構造体30aと第2メタマテリアル構造体30bとは同じ構成要素を有しており、本実施形態では上下対称に構成されている。以下、第1メタマテリアル構造体30aについて説明し、第2メタマテリアル構造体30bについては図1で同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0022】
第1メタマテリアル構造体30aは、発熱体13側から下方に向かって、第1導体層31と、誘電体層33と、複数の個別導体層36を有する第2導体層35と、をこの順に備えている。このような構造はMIM(Metal-Insulator-Metal)構造ともいう。なお、第1メタマテリアル構造体30aが有する各層間は、直接接合されていてもよいし、接着層を介して接合されていてもよい。個別導体層36及び誘電体層33の下面の露出部は酸化防止層(図示せず、例えばアルミナで形成される)で被覆されていてもよい。
【0023】
第1導体層31は、第1支持基板20aから見て発熱体13とは反対側(下側)で接合された平板状の部材である。第1導体層31の材質は例えば金属などの導体(電気伝導体)である。金属の具体例としては、金,アルミニウム(Al),又はモリブデン(Mo)などが挙げられる。本実施形態では、第1導体層31の材質は金とした。第1導体層31は、図示しない接着層を介して第1支持基板20aに接合されている。接着層の材質としては、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)などが挙げられる。なお、第1導体層31と第1支持基板20aとが直接接合されていてもよい。
【0024】
誘電体層33は、第1導体層31から見て発熱体13とは反対側(下側)で接合された平板状の部材である。誘電体層33は、第1導体層31と第2導体層35との間に挟まれている。誘電体層33の材質としては、例えば、アルミナ(Al23),シリカ(SiO2)などが挙げられる。本実施形態では、誘電体層33の材質はアルミナとした。
【0025】
第2導体層35は、導体からなる層であり、誘電体層33の下面に沿った方向(前後左右方向)に周期構造を有する。具体的には、第2導体層35は複数の個別導体層36を備えており、この個別導体層36が誘電体層33の下面に沿った方向(前後左右方向)に互いに離間して配置されることで、周期構造を構成している(図2参照)。複数の個別導体層36は、左右方向(第1方向)に間隔D1ずつ離れて互いに等間隔に配設されている。また、複数の個別導体層36は、左右方向に直交する前後方向(第2方向)に間隔D2ずつ離れて互いに等間隔に配設されている。個別導体層36は、このように格子状に配列されている。なお、本実施形態では図2に示すように四方格子状に個別導体層36を配列したが、例えば個別導体層36の各々が正三角形の頂点に位置するように六方格子状に個別導体層36を配列してもよい。複数の個別導体層36の各々は、下面視で円形をしており、厚さh(上下高さ)が径Wよりも小さい円柱形状をしている。第2導体層35の周期構造の周期は、横方向の周期Λ1=D1+W、縦方向の周期Λ2=D2+Wである。本実施形態では、D1=D2とし、したがってΛ1=Λ2とした。第2導体層35(個別導体層36)の材質は、例えば金属などの導体であり、上述した第1導体層31と同様の材質を用いることができる。第1導体層31及び第2導体層35の少なくとも一方が金属であってもよい。本実施形態では、第2導体層35の材質は第1導体層31と同じ金とした。
【0026】
このように、第1メタマテリアル構造体30aは、第1導体層31と、周期構造を有する第2導体層35(個別導体層36)と、第1導体層31及び第2導体層35に挟まれた誘電体層33とを有している。これにより、第1メタマテリアル構造体30aは、発熱部12から熱エネルギーを入力すると非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射可能になっている。なお、プランク分布とは、横軸を右にいくほど長くなる波長とし、縦軸を輻射強度としたグラフ上において、特定のピークを有した山型の分布であり、ピークよりも左側の傾斜が急で、ピークよりも右側の傾斜がなだらかな形状を有する曲線である。通常の材料はこの曲線(プランク放射曲線)に従って放射をする。非プランク放射(非プランク分布のピーク波長を有する赤外線の放射)とは、その放射の最大ピークを中心とした山型の傾斜が、前記のプランク放射に比べて急峻であるような放射である。すなわち、第1メタマテリアル構造体30aは、最大ピークがプランク分布のピークよりも急峻な放射特性を有する。なお、「プランク分布のピークよりも急峻」は、「プランク分布のピークよりも半値幅(FWHM:full width at half maximum)が狭い」ことを意味する。これにより、第1メタマテリアル構造体30aは、赤外線の全波長領域(0.7μm~1000μm)のうち、特定の波長の赤外線を選択的に放射する特性を有するメタマテリアルエミッターとして機能する。この特性は、マグネティックポラリトン(Magnetic polariton)で説明される共鳴現象によるものと考えられている。なお、マグネティックポラリトンとは、上下2枚の導体(第1導体層31及び第2導体層35)に反平行電流が励起され,その間の誘電体(誘電体層33)内において強い磁場の閉じ込め効果が得られる共鳴現象のことである。これにより、第1メタマテリアル構造体30aでは、第1導体層31及び個別導体層36で局所的に強い電場の振動が励起されることからこれが赤外線の放射源となり、赤外線が周囲環境(ここでは特に下方)に放射される。また、この第1メタマテリアル構造体30aでは、第1導体層31,誘電体層33及び第2導体層35の材質や、個別導体層36の形状及び周期構造を調整することで、共鳴波長を調整することができる。これにより、第1メタマテリアル構造体30aの第1導体層31及び個別導体層36から放射される赤外線は、特定の波長の赤外線の放射率が高くなる特性を示す。すなわち、第1メタマテリアル構造体30aは、半値幅が比較的小さく放射率が比較的高い急峻な最大ピークを有する赤外線を放射する特性を有する。なお、本実施形態では、D1=D2としたが、間隔D1と間隔D2とが異なっていてもよい。周期Λ1及び周期Λ2についても同様である。なお半値幅は周期Λ1及び周期Λ2を変更することで制御できる。第1メタマテリアル構造体30aは、所定の放射特性における上述した最大ピークが波長6μm以上7μm以下の範囲内にあってもよいし、2.5μm以上3.5μm以下の範囲内にあってもよい。また、第1メタマテリアル構造体30aは、最大ピークの立ち上がりから立ち下がりまでの波長領域以外の波長領域における赤外線の放射率が値0.2以下であることが好ましい。第1メタマテリアル構造体30aは、最大ピークの半値幅が1.0μm以下であることが好ましい。第1メタマテリアル構造体30aの放射特性は、最大ピークを中心にして略左右対称形状を有していてもよい。また、第1メタマテリアル構造体30aの最大ピークの高さ(最大輻射強度)は、上述したプランク放射の曲線を上回ることはない。
【0027】
このような第1メタマテリアル構造体30aは、例えば以下のように形成することができる。まず、第1支持基板20aの表面(図1では下面)にスパッタリングにより接着層及び第1導体層31をこの順に形成する。次に、第1導体層31の表面(図1では下面)にALD法(atomic layer deposition:原子層堆積法)により誘電体層33を形成する。続いて、誘電体層33の表面(図1では下面)に所定のレジストパターンを形成してからヘリコンスパッタリング法により第2導体層35の材質からなる層を形成する。そして、レジストパターンを除去することにより、第2導体層35(複数の個別導体層36)を形成する。
【0028】
第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの上述した赤外線の放射特性は、互いに近いか又は同じであってもよい。例えば、第2メタマテリアル構造体30bが放射する赤外線の最大ピークは、第1メタマテリアル構造体30aが放射する赤外線の最大ピークと同じ又は近い値であってもよい。具体的には、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、各々が放射する赤外線の最大ピークのピーク波長の差が0.5μm以下であってもよい。また、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、最大ピークの半値幅の波長領域(半値幅領域)の少なくとも一部が重複していてもよく、半分以上が重複していてもよい。本実施形態では、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、D1,D2及びWが互いに同じ値であり、上述した赤外線の放射特性がほぼ同じであるものとした。
【0029】
反射体40は、放射部11から放射された赤外線を集光部45に向けて反射する部材である。反射体40は、放射部11から直接的に集光部45に向かう赤外線を妨げないようにしつつ、放射部11の周囲の一部を覆っている。具体的には、反射体40は、内部空間53内に配置され、放射部11から見て集光部45とは反対側(ここでは上側)を覆っている。反射体40は、放射部11の前後左右も覆っている。また、反射体40は、下端部が放射部11よりも集光部45側(ここでは下側)まで延びており、放射部11の斜め下方も覆っている。これらにより、反射体40の内側に放射部11が位置している。反射体40は、内側の面(放射部11側の面)の断面形状が放物線状をしており、この面が赤外線の反射面となっている。反射体40は、上面視で円形をしており、上下方向に平行な中心軸を軸として回転対称性を有している。そのため、反射体40は、中心軸を通るいずれの断面においても、断面形状が略同じになっている。反射体40の反射面の上面視での直径は、メタマテリアル構造体30の第1,第2放射面の前後左右の寸法よりも大きい。そのため、上面視では放射部11は反射体40の内側に含まれている。本実施形態では、反射体40の反射面の焦点に、第2メタマテリアル構造体30bの第2放射面の前後左右の中心が位置するものとした。ただし、第1メタマテリアル構造体30aの第1放射面の前後左右の中心、又は放射部11全体の前後左右上下の中心が、反射体40の反射面の焦点に位置していてもよい。また、反射体40の反射面の断面形状は、放物線に限らず、楕円の弧、円弧などの曲線形状としてもよい。
【0030】
反射体40は、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射される赤外線のうち各々の最大ピークを含む波長領域の赤外線を少なくとも反射可能である。反射体40は、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射される赤外線のうち各々の最大ピークの半値幅領域を含む波長領域の赤外線を少なくとも反射可能であることが好ましい。反射体40の材料としては、例えばSUS304やアルミニウムなどの金属が挙げられる。反射体40の反射面はバフ研磨などの研磨により反射率が高められていてもよい。また、反射体40の反射面には、金,白金,アルミニウムなどの赤外線反射材料からなる反射層が形成されていても良い。本実施形態では、反射体40は、本体部がガラス基材で構成され、反射面にはスパッタリングなどにより形成されたアルミニウムの反射層が形成されているものとした。
【0031】
集光部45は、放射部11から放射された赤外線(反射体40の反射を経由した赤外線も含む)を集光しつつ外部(ここでは下方)に向けて放射する。集光部45は、1以上(ここでは1個)の集光レンズ46を有しており、この集光レンズ46が赤外線を集光しつつ透過する。集光レンズ46は、上面が平面であり下面が凸曲面となっている、平凸レンズとして構成されている。集光レンズ46の直径は、メタマテリアル構造体30の第1,第2放射面の前後左右の寸法よりも大きい。そのため、上面視では放射部11は集光レンズ46の内側に含まれている。本実施形態では、集光レンズ46は直径が150mm,中心の厚みが40mmとした。集光部45は、放射部11及び反射体40の下方に位置する。そのため、反射体40,第2メタマテリアル構造体30b,発熱部12,第1メタマテリアル構造体30a,及び集光部45は、上から下に向かってこの順に配置されている。また、これらは上下方向に沿った中心軸が互いに一致するように配置されている。集光レンズ46は、ケーシング50の下端の開口に配置されており、メタマテリアル構造体30からの赤外線をケーシング50の外部に透過する窓の役割も果たす。
【0032】
集光レンズ46は、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射される赤外線のうち各々の最大ピークの立ち上がりから立ち下がりまでの波長領域の少なくとも一部の波長領域の赤外線を透過可能である。集光レンズ46は、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射される赤外線のうち最大ピークを含む波長領域を少なくとも透過可能であることが好ましく、最大ピークの半値幅領域を含む波長領域を少なくとも透過可能であることがより好ましい。集光レンズ46の材質としては、例えば石英ガラス(波長3.5μm以下の赤外線を透過)、透明アルミナ(波長5.5μm以下の赤外線を透過)、蛍石(フッ化カルシウム,CaF2,波長8μm以下の赤外線を透過)、フッ化マグネシウム(波長7μm以下の赤外線を透過),フッ化バリウム(波長12μm以下の赤外線を透過),及びセレン化亜鉛(ZnSe,波長18μm以下の赤外線を透過)などの赤外線透過材料が挙げられる。集光レンズ46の材質は、例えばメタマテリアル構造体30からの赤外線の最大ピークに応じて適宜選択してもよい。本実施形態では、集光レンズ46の材質はフッ化カルシウムとした。
【0033】
ケーシング50は、円筒部52と、レンズ支持部材54と、挟持部材55,56と、板状部材57,58と、を備えている。円筒部52は、軸方向が上下方向に沿った部材であり上端及び下端が開口している。レンズ支持部材54は、中央に孔を有する板状部材である。レンズ支持部材54のこの孔には集光レンズ46が挿入されており、レンズ支持部材54と集光レンズ46とは互いに隙間なく接着されている。このレンズ支持部材54及び集光レンズ46が、円筒部52の下端の開口を塞いでいる。ケーシング50は、円筒部52,レンズ支持部材54,集光レンズ46及び板状部材57で囲まれる内部空間53を有している。挟持部材55,56は、上面視で円形の開口を有する板状部材であり、レンズ支持部材54を円筒部52よりも外側で上下から挟持してレンズ支持部材54及び集光レンズ46を固定している。レンズ支持部材54と挟持部材55,56との間にはそれぞれ例えばOリングなどの封止部材63,64が配設されて、内部空間53内とケーシング50の外部との間を封止している。挟持部材55,56は、ボルトなどの複数の固定金具61(図1では2個のみ図示)によって上下方向に互いに接近するように押圧されて固定されている。板状部材57,58は上面視で円形の板状部材である。板状部材57は、円筒部52の上端の開口を塞ぐように配置されている。板状部材58は上面視で円形の開口を有し、この開口に円筒部52の上端が挿入されている。板状部材57,58の間には例えばOリングなどの封止部材65が配設されている。板状部材57,58は、複数の固定金具62(図1では2個のみ図示)によって互いに上下方向に接近するように押圧されて固定されている。固定金具62は、例えばボルト及びナットなどからなる。円筒部52、挟持部材55,56、及び板状部材57,58の材質としては、例えばステンレス鋼又はアルミニウムなどが挙げられる。
【0034】
このケーシング50は、上方に配管66及びシーリンググランド67が取り付けられている。配管66の内部は、板状部材57に形成された貫通孔を介して内部空間53と連通している。配管66には真空計81及び図示しない真空ポンプが接続されており、真空ポンプの動作によって内部空間53を減圧可能になっている。シーリンググランド67の内部を電気配線15が挿通されていることで、内部空間53内と外部空間との間を封止しつつ発熱体13の電気配線15が外部に引き出されている。
【0035】
固定部70は、放射部11及び反射体40を内部空間53内で支持する部材である。固定部70は、複数対のナット71,72と、複数のガイド軸73と、放射部支持部材74と、支持板75と、固定金具76と、を備えている。放射部支持部材74は、中央に孔を有する板状部材であり、この孔に放射部11が挿入及び接着されている。放射部11は、放射部支持部材74を介して支持されている。ナット71,72は、放射部支持部材74を上下から挟持する一対の部材であり、固定部70は複数対(例えば4対であり、図1では2対のみ図示)のナット71,72を備えている。ガイド軸73は、ナット71,72、放射部支持部材74及び反射体40を貫通してこれらを支持する棒状の部材である。ガイド軸73は、ナット71,72と同じ数(本実施形態では4本であり、図1では2本のみ図示)だけ設けられている。複数のガイド軸73は、支持板75及び支持板75を貫通する固定金具76を介して板状部材57に取り付けられて固定されている。これにより、固定部70は、放射部11及び反射体40をケーシング50から離間させた状態で支持している。また、ガイド軸73は雄ネジが形成されており、ナット71,72はガイド軸73に沿って上下位置を変更可能になっている。これにより、放射部11の上下方向の位置(例えば反射体40及び集光部45との距離)を変更可能になっている。
【0036】
こうした赤外線放射装置10の使用例を以下に説明する。まず、図示しない真空ポンプを用いて、内部空間53を所定の減圧雰囲気にする。内部空間53は空気雰囲気又は不活性ガス雰囲気(例えば窒素雰囲気)としてもよい。内部空間53の減圧後の圧力は、100Pa以下としてもよいし、真空状態(1Pa以下)としてもよい。内部空間53の減圧後の圧力は、0.01Pa以上としてもよい。また、図示しない電源から電気配線15を介して発熱体13に電力を供給する。電力の供給は、例えば発熱体13の温度が予め設定された温度(ここでは例えば400℃とする)になるように行う。所定の温度に達した発熱体13からは、伝導・対流・放射の伝熱3形態のうち主に伝導により周囲にエネルギーが伝達され、メタマテリアル構造体30が加熱される。その結果、メタマテリアル構造体30は所定温度(ここでは例えば390℃とする)に上昇し、放射体となって、赤外線を放射するようになる。このとき、メタマテリアル構造体30が上述したように第1導体層31,誘電体層33,及び第2導体層35を有することで、放射部11は、非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射する。より具体的には、放射部11は、メタマテリアル構造体30の第1導体層31及び個別導体層36から、すなわち第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの第1,第2放射面から、特定の波長領域の赤外線を選択的に放射する。
【0037】
メタマテリアル構造体30から放射された特定の波長領域の赤外線が対象物に到達するまでについて詳細に説明する。図3は、放射部11からの赤外線を対象物Pに向けて集光する様子を示す概念図である。図3の矢印は、赤外線の放射方向を表している。図3に示すように、第1メタマテリアル構造体30aの第1放射面(ここでは下面)から放射された赤外線は、直接下方の集光レンズ46に向かったり、一部が反射体40に反射されてから集光レンズ46に向かう。また、第2メタマテリアル構造体30bの第2放射面(ここでは上面)から放射された赤外線は、主に放射部11よりも上方で反射体40に反射されてから集光レンズ46に向かう。こうして第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射された赤外線のほとんどは集光レンズ46に向かい、集光レンズ46で集光されて、集光レンズ46の下方の対象物Pに到達する。これにより、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bから放射された赤外線を対象物Pに向けて集中的に放射でき、効率よく対象物Pに赤外線を放射できる。また、メタマテリアル構造体30は特定の波長領域の赤外線を選択的に放射しているから、例えばこの特定の波長領域の赤外線の吸収率が比較的高い対象物Pに対して、乾燥処理又は対象物を化学反応させる処理などの赤外線処理を効率よく行うことができる。なお、第2放射面の中心付近から放射された赤外線(図3の破線矢印参照)は、反射体40に反射されても集光レンズ46に到達せず放射部11に戻る場合がある。しかし、そのような赤外線は放射部11に吸収されて放射部11の加熱のためのエネルギーとして利用されるため、発熱体13に供給する電力をその分少なくできることになり、無駄にはならない。
【0038】
反射体40に反射された赤外線は、図3ではほぼ平行光として示しているが、実際には第1放射面,第2放射面は平面状である(線状や点状の放射源ではない)ため、反射された赤外線には平行光にならない赤外線も含まれる。これらの赤外線は集光レンズ46の焦点(平行光が集光レンズ46に入射した場合の焦点)に完全に収束はしない。しかし、これらの赤外線も、集光部45によって少なくとも集光はされるため、対象物Pがある程度の大きさを有していれば、対象物Pに十分到達可能である。また、対象物Pの大きさに応じて、集光レンズ46と対象物Pとの距離を適宜調整して、集光レンズ46を透過する赤外線がより多く対象物Pに到達するようにしてもよい。
【0039】
ここで、比較例として図3において集光レンズ46がない場合を考える。この場合、第1メタマテリアル構造体30aの第1放射面から放射される赤外線は、前後左右に広がってしまう。また、第2メタマテリアル構造体30bの第2放射面から放射される赤外線は、反射体40によって平行光にすることはできるが、集光することはできない。そのため、集光レンズ46がない場合には、本実施形態と比較して、ごく一部の赤外線しか対象物Pに放射されず、効率(発熱部12に供給した電力に対する、対象物Pに供給されるエネルギーの割合)が低下する。本実施形態では、集光レンズ46によって赤外線を集光しているため、効率よく対象物Pに赤外線を放射できる。
【0040】
また、集光レンズ46がない場合に、放射部11と対象物Pとの距離を近づければ、ある程度効率を高めることは可能だが、その場合には距離が近いことで赤外線放射装置10(特に放射部11やケーシング50など)からの対流熱伝達が増大する。したがって、対象物Pを加熱してしまいやすい。そのため、特に対象物Pを加熱せずに特定の波長領域の赤外線を対象物Pに放射したい場合には適さない。これに対し本実施形態では、集光レンズ46によって赤外線を集光しているため、赤外線放射装置10との距離を大きくして対象物Pの加熱を抑制しつつ、効率よく赤外線を対象物Pに放射できる。このように対象物Pをなるべく加熱させたくない場合、集光レンズ46の焦点距離(放射部11側から平行光が入射した場合の焦点距離)を大きくすることが好ましく、例えば100mm以上であることが好ましい。
【0041】
また、集光レンズ46がない場合に、例えば反射体40を上下に長くし下端の開口の直径を小さくするなど反射体40の形状を工夫して、なるべく狭い範囲に反射光を集中させることも考えられる。しかし、その場合も放射部11の第1,第2放射面の面積よりも狭い範囲に赤外線を集光することは困難である。これに対し本実施形態では、集光レンズ46を用いることで、第1,第2放射面の面積よりも狭い範囲に赤外線を集光することも可能である。そのため、例えば第1,第2放射面の面積と比べて赤外線を放射すべき対象物Pの面積(例えば対象物Pの上面の面積)が小さい場合にも、本実施形態の赤外線放射装置10は効率よく対象物Pに赤外線を放射できる。
【0042】
以上詳述した本実施形態の赤外線放射装置10では、メタマテリアル構造体30から、非プランク分布のピーク波長を有する赤外線が放射される。換言すると、メタマテリアル構造体30から、特定の波長領域の赤外線が選択的に放射される。そして、放射された赤外線は集光部45により集光されつつ外部に向かって放射される。したがって、赤外線放射装置10は、メタマテリアル構造体30から放射される赤外線を、対象物に向けて集中的に放射できる。
【0043】
また、赤外線放射装置10は、放射部11から放射された赤外線を集光部45に反射する反射体40を備えている。そのため、放射部11から直接集光部45に向けて放射されない赤外線についても、少なくとも一部を反射により集光部45に向けて放射することができる。したがって、赤外線放射装置10は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0044】
さらに、メタマテリアル構造体30は、第1放射面から赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体30aと、第2放射面から赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体30bと、を有している。そして反射体40,第2メタマテリアル構造体30b,発熱部12,第1メタマテリアル構造体30a,及び集光部45はこの順に配置されている。したがって、放射部11は両側(ここでは上側及び下側)から特定の波長領域の赤外線を選択的に放射できる。そのため、例えば放射部11が第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bのうちいずれかのみを有する場合と比較して、特定の波長領域以外の不要な波長の赤外線が放射部11から放射されることを抑制できる。例えば、第2メタマテリアル構造体30bを備えない場合には、放射部11の上面からは特定の波長領域以外の不要な波長の赤外線が放射されやすいが、そのようなことを抑制できる。しかも、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bを上下から反射体40と集光部45とで挟むように配置しているから、第1,第2放射面から放射された赤外線はいずれも直接又は反射体40を経由して集光部45に到達しやすい。以上により、赤外線放射装置10は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0045】
さらにまた、反射体40は、放射部11から見て集光部45とは反対側(ここでは上側)を覆い、且つ反射体40の端部(ここでは下端部)が放射部11よりも集光部45側(ここでは下側)まで延びていることで、反射体40の内側に放射部11が位置するように配置されている。これにより、赤外線放射装置10は、集光部45にも反射体40にも向かわないことで対象物に到達しない赤外線を少なくすることができる。したがって、赤外線放射装置10は対象物に効率よく赤外線を放射できる。
【0046】
そして、集光レンズ46の焦点距離が100mm以上であれば、例えば対象物を集光部45の焦点付近に配置することで、対象物を放射部11から十分離して対流熱伝達などによる対象物の温度上昇を抑制しつつ、対象物に向けて集中的に赤外線を放射できる。そのため、例えばなるべく加熱させずに赤外線を用いた処理を行いたい対象物に対して、赤外線放射装置10は適切に赤外線を放射できる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0048】
例えば、上述した実施形態では、反射体40,第2メタマテリアル構造体30b,発熱部12,第1メタマテリアル構造体30a,及び集光部45は上から下に向かってこの順に配置されていたが、これに限られない。例えば、図4に示す変形例の赤外線放射装置10のように、第1メタマテリアル構造体30a,発熱部12,及び第2メタマテリアル構造体30bは、放射部11と集光部45との並び方向(ここでは上下方向)に垂直な方向(ここでは左右方向)にこの順で配置されていてもよい。この場合も、図4に示すように反射体40が第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bを両側から挟むように配置されていれば、第1,第2放射面から放射された赤外線はいずれも直接又は反射体40を経由して集光部45に到達しやすい(図4の矢印参照)。そのため、図4の赤外線放射装置10においても対象物Pに効率よく赤外線を放射できる。また、図4の赤外線放射装置10では、図3の破線矢印で示した赤外線のような反射体40に反射された後に集光レンズ46に到達せず放射部11に戻る赤外線を減らすことができ、赤外線をより効率よく対象物Pに放射できる。なお、図4の場合に限らず、反射体40は第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bを両側から挟むように配置されていればよい。例えば、反射体40の代わりに、放射部11の左右それぞれに独立して配置された反射体を配置してもよい。あるいは、図4の反射体40のうち放射部11の直上部分が存在しないなど、反射体40が放射部11の上方は覆わずに左右のみ又は前後左右のみを覆っていてもよい。
【0049】
上述した実施形態では、集光部45は1つの集光レンズ46を備えていたが、図5に示すように複数の集光レンズ46aを備えていてもよい。図5に示す変形例の赤外線放射装置10では、複数の集光レンズ46aは上下方向に平行な中心軸から離れるほど傾斜し且つ下方に位置するように配置されて、全体として上に凸状に配置されている。また、複数の集光レンズ46aは、上下方向に平行な中心軸上に位置する集光レンズ46aを中心として、上面視で同心円状に配置されている。このように複数の集光レンズ46aを用いた場合でも、上述した実施形態と同様に集光部45により赤外線を集光できる。
【0050】
上述した実施形態では、赤外線放射装置10は反射体40を備えていたが、図6に示すように反射体40を省略してもよい。この場合、図6に示すように放射部11において第2メタマテリアル構造体30bも省略すればよい。この図6に示す変形例の赤外線放射装置10でも、第1メタマテリアル構造体30aからの赤外線を集光部45により集光して対象物Pに集中的に放射できる。
【0051】
上述した実施形態において、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの一方を省略してもよい。例えば、図3において第1メタマテリアル構造体30aを省略した場合でも、第2メタマテリアル構造体30bからの赤外線を反射体40により反射し、反射された赤外線を集光部45により集光して対象物Pに放射できる。
【0052】
上述した実施形態では、集光レンズ46は上面が平面であり下面が凸曲面となっている平凸レンズとしたが、これに限られない。例えば、集光レンズ46は上面が凸曲面となっている平凸レンズとしてもよいし、両側が曲面になっている両凸レンズとしてもよい。また、集光レンズ46は、凸レンズに限らず、屈折により赤外線を集光しつつ外部に向けて透過できるような曲面を有していればよい。
【0053】
上述した実施形態では、反射体40は下端部が放射部11よりも集光部45側まで延びていたが、これに限られない。例えば、反射体40は放射部11から見て集光部45とは反対側(図1では上側)を覆っているだけであってもよい。
【0054】
上述した実施形態では、ケーシング50の内部空間53は減圧状態としたが、これに限らず非減圧状態であってもよい。また、赤外線放射装置10がケーシング50を備えず、放射部11,反射体40,及び集光部45などが外部空間に露出していてもよい。この場合も、放射部11の周囲(外部空間)が大気雰囲気などの非減圧状態であってもよい。
【0055】
上述した実施形態では、ケーシング50に取り付けられた配管66を用いて、赤外線放射装置10の使用時に真空ポンプにより内部空間53を減圧雰囲気にしたが、これに限られない。例えば、赤外線放射装置10の製造時に、内部空間53を減圧雰囲気とした状態で内部空間53と外部空間との間を封止しておいてもよい。この場合、ケーシング50には配管66が取り付けられていなくてもよい。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、メタマテリアル構造体30は第1導体層31と誘電体層33と第2導体層35とを有していた、すなわちMIM構造を有していたが、これに限られない。メタマテリアル構造体30は、発熱部12から熱エネルギーを入力すると非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射可能な構造体であればよい。例えば、メタマテリアル構造体は、複数のマイクロキャビティを有するマイクロキャビティ形成体として構成されていてもよい。図7は、変形例の放射部11の部分断面図である。図8は、変形例の第1メタマテリアル構造体30aの部分底面斜視図である。変形例の放射部11の第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、それぞれ、少なくとも表面(ここでは側面42A及び底面44A)が導体層35Aからなり前後左右方向の周期構造を構成する複数のマイクロキャビティ41Aを有している。第1メタマテリアル構造体30aの下面である放射面38Aが第1放射面であり、第2メタマテリアル構造体30bの上面である放射面38Aが第2放射面である。第1メタマテリアル構造体30aと第2メタマテリアル構造体30bとは、同じ構成要素を有しており、上下対称に構成されている。そのため、第1メタマテリアル構造体30aについて詳細に説明し、第2メタマテリアル構造体30bについては図7で同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。第1メタマテリアル構造体30aは、放射部11の発熱部12側から下方に向かって、本体層31Aと、凹部形成層33Aと、導体層35Aと、をこの順に備えている。本体層31Aは、例えばガラス基板などからなる。凹部形成層33Aは、例えば樹脂や、セラミックス及びガラスなどの無機材料などからなり、本体層31Aの下面に形成されて円柱状の凹部を形成している。凹部形成層33Aは、第2導体層35と同じ材料であってもよい。導体層35Aは、第1メタマテリアル構造体30aの表面(下面)に配設されており、凹部形成層33Aの表面(下面及び側面)と、本体層31Aの下面(凹部形成層33Aが配設されていない部分)とを覆っている。導体層35Aは導体からなり、材質としては、例えば金,ニッケルなどの金属や導電性樹脂などが挙げられる。マイクロキャビティ41Aは、この導体層35Aの側面42A(凹部形成層33Aの側面を覆う部分)と、底面44A(本体層31Aの下面を覆う部分)とで囲まれ、下方に開口した略円柱形状の空間である。マイクロキャビティ41Aは、図8に示すように、前後左右に並べて複数配設されている。第1メタマテリアル構造体30aの下面が対象物に赤外線を放射する放射面38Aとなっている。具体的には、第1メタマテリアル構造体30aが発熱部12からのエネルギーを吸収すると、底面44Aと側面42Aとで形成される空間内での入射波と反射波との共振作用により、放射面38Aから下方の対象物に向けて特定の波長の赤外線が強く放射される。これにより、第1メタマテリアル構造体30aは、非プランク分布のピーク波長を有する赤外線を放射可能になっている。なお、複数のマイクロキャビティ41Aの各々の円柱の直径及び深さを調整することで、第1メタマテリアル構造体30aの放射特性を調整することができる。なお、マイクロキャビティ41Aは円柱に限らず多角柱形状でもよい。マイクロキャビティ41Aの深さは、例えば1.5μm以上10μm以下としてもよい。なお、図7,8に示したような第1メタマテリアル構造体30aは、例えば以下のように形成することができる。まず、本体層31Aの下面となる部分に周知のナノインプリントにより凹部形成層33Aを形成する。そして、凹部形成層33Aの表面及び本体層31Aの表面を覆うように、例えばスパッタリングにより導体層35Aを形成する。ここで、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの一方がMIM構造を有し、他方がマイクロキャビティを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、対象物の乾燥処理又は対象物を化学反応させる処理などの赤外線処理を行う必要のある産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 赤外線放射装置、11 放射部、12 発熱部、13 発熱体、14 保護部材、15 電気配線、20 支持基板、20a,20b 第1,第2支持基板、30 メタマテリアル構造体、30a,30b 第1,第2メタマテリアル構造体、31 第1導体層、33 誘電体層、35 第2導体層、36 個別導体層、40 反射体、45 集光部、46,46a 集光レンズ、50 ケーシング、52 円筒部、53 内部空間、54 レンズ支持部材、55,56 挟持部材、57,58 板状部材、61,62 固定金具、63~65 封止部材、66 配管、67 シーリンググランド、70 固定部、71,72 ナット、73 ガイド軸、74 放射部支持部材、75 支持板、76 固定金具、81 真空計、31A 本体層、33A 凹部形成層、35A 導体層、38A 放射面、41A マイクロキャビティ、42A 側面、44A 底面、P 対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8