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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220107BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220107BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220107BHJP
   B23K 9/14 20060101ALI20220107BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y80/00
B23K9/14 Z
B23K9/032 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018200280
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020066028
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-026249(JP,A)
【文献】特開平07-241683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 10/00
B33Y 80/00
B23K 9/14
B23K 9/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一トーチ及び第二トーチを備えた積層造形装置を用いる積層造形物の製造方法であって、
第一溶加材を溶融及び凝固させた第一溶着ビードを積層させて積層体を造形する積層造形工程と、
前記第一溶着ビードの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した前記積層体に対して、硬化肉盛り用の第二溶加材を溶融及び凝固させた第二溶着ビードを積層させ、前記積層体よりも硬い硬化層を前記積層体の表面に形成する硬化層形成工程と、
を含み、
前記積層造形工程において、前記第一トーチで前記第一溶着ビードを積層させて前記積層体を造形し、
前記硬化層形成工程において、前記第二トーチで前記第二溶着ビードを前記積層体の表面に積層させて前記硬化層を形成する、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記硬化層形成工程において、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させ、前記設定温度以上の前記第一溶着ビードに前記第二溶着ビードを積層させる
請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記硬化層形成工程において、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させ、前記第一トーチで形成する前記第一溶着ビードに前記第二トーチで形成する前記第二溶着ビードが溶融した希釈層を形成する
請求項または請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記硬化層形成工程、前記希釈層の形成後に、前記第一トーチに供給する溶加材を前記第一溶加材から前記第二溶加材に切り替えた前記第一トーチで前記第二溶着ビードを形成する工程を更に含み
当該工程により、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させて前記溶加材を前記第二溶加材に切り替えた前記第一トーチで形成する前記第二溶着ビードに前記第二トーチで形成する前記第二溶着ビードを重ねて形成して前記硬化層を形成する、
請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記積層造形工程において、前記第二トーチに前記第一溶加材を供給して前記第二トーチで前記第一溶着ビードを形成する工程を更に含み、
当該工程により前記第一溶加材が供給される前記第二トーチで形成する前記第一溶着ビードと、前記第一トーチにより形成する前記第一溶着ビードとから、前記積層体を造形する
請求項のいずれか一項に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このような造形物を製造する技術として、複数のトーチを有するヘッドを備え、これらのヘッドのそれぞれのトーチで溶着ビードを形成し、造形物を造形する溶接技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、タービンの軸受を構成するシャフトなどの製品の耐摩耗性を得るために、製品表面に硬化肉盛を実施して硬化層を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5966107号公報
【文献】特開昭57-165603号公報
【文献】特開平2-161104号公報
【文献】特開2015-135099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、造形物の表面に硬化肉盛を実施して硬化層を形成する場合、この造形物と硬化層との線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違い、さらには大気中や溶接材料中の水分が溶解・浸入し拡散・集積する水素の作用による水素脆化により、肉盛りした硬化層に割れが発生するおそれがある。このため、硬化層を形成する際には、下層となる造形物の予熱、硬化層の形成後の製品の後熱、及び硬化層の形成後の製品に対する徐冷などを厳格に温度管理して行う必要がある。したがって、製品の表面に硬化層を形成するための設備にコストが嵩むとともに、作業工数の増加を招いてしまう。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストを抑えつつ容易に硬化層を形成して表面強度を向上させることが可能な積層造形物の製造方法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 第一トーチ及び第二トーチを備えた積層造形装置を用いる積層造形物の製造方法であって、
第一溶加材を溶融及び凝固させた第一溶着ビードを積層させて積層体を造形する積層造形工程と、
前記第一溶着ビードの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した前記積層体に対して、硬化肉盛り用の第二溶加材を溶融及び凝固させた第二溶着ビードを積層させ、前記積層体よりも硬い硬化層を前記積層体の表面に形成する硬化層形成工程と、
を含み、
前記積層造形工程において、前記第一トーチで前記第一溶着ビードを積層させて前記積層体を造形し、
前記硬化層形成工程において、前記第二トーチで前記第二溶着ビードを前記積層体の表面に積層させて前記硬化層を形成する、
積層造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストを抑えつつ容易に硬化層を形成して表面強度を向上させることが可能な積層造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】積層造形物の製造に用いる製造装置の構成図である。
図2】積層造形物の構造を示す積層造形物の断面図である。
図3A】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図3B】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図3C】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図4】変形例1に係る製造方法による積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図5A】変形例2に係る製造方法による積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図5B】変形例2に係る製造方法による積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
図6】変形例3に係る製造方法による積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造方法が適用される製造システムの模式的な概略構成図である。
【0012】
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0013】
積層造形装置11は、先端軸に第一トーチ17A及び第二トーチ17Bを有する溶接ロボット19と、第一トーチ17Aに第一溶加材MAを供給する第一溶加材供給部21Aと、第二トーチ17Bに第二溶加材MBを供給する第二溶加材供給部21Bとを有する。第一トーチ17Aは、第一溶加材MAを先端から突出した状態に保持し、第二トーチ17Bは、第二溶加材MBを先端から突出した状態に保持する。
【0014】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0015】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けた第一トーチ17A及び第二トーチ17Bは、第一溶加材MA及び第二溶加材MBが連続供給可能に支持される。第一トーチ17A及び第二トーチ17Bの位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0016】
第一トーチ17A及び第二トーチ17Bは、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物Wに応じて適宜選定される。
【0017】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される第一溶加材MA及び第二溶加材MBがコンタクトチップに保持される。第一トーチ17Aは、第一溶加材MAを保持しつつ、シールドガス雰囲気で第一溶加材MAの先端からアークを発生し、第二トーチ17Bは、第二溶加材MBを保持しつつ、シールドガス雰囲気で第二溶加材MBの先端からアークを発生する。第一溶加材MA及び第二溶加材MBは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、第一溶加材供給部21A及び第二溶加材供給部21Bから第一トーチ17A及び第二トーチ17Bに送給される。そして、第一トーチ17A及び第二トーチ17Bを移動しつつ、連続送給される第一溶加材MA及び第二溶加材MBを溶融及び凝固させると、第一溶加材MAの溶融凝固体である線状の第一溶着ビード25A及び第二溶加材MBの溶融凝固体である線状の第二溶着ビード25Bが形成される。
【0018】
なお、第一溶加材MA及び第二溶加材MBを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0019】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物Wの形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいて第一トーチ17A及び第二トーチ17Bの移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データや第一トーチ17A及び第二トーチ17Bの移動軌跡等のデータを記憶する。
【0020】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データや第一トーチ17A及び第二トーチ17Bの移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成した第一トーチ17A及び第二トーチ17Bの移動軌跡に基づき、第一溶加材MA及び第二溶加材MBをアークで溶融させながら第一トーチ17A及び第二トーチ17Bを移動する。
【0021】
上記構成の製造システム100では、第二トーチ17Bへ供給する第二溶加材MBは、硬化肉盛り用の溶加材であり、第二トーチ17Bによって第二溶着ビード25Bが形成される。第二溶加材MBは、例えば、炭素、クロム、モリブデン等の添加物を添加することにより、硬さを上昇させたものである。なお、炭化物系の添加物としては、例えば、クロム炭化物、ニオブ炭化物、モリブデン炭化物、バナジウム炭化物、タングステン炭化物などがある。
【0022】
次に、本例で製造する積層造形物Wについて説明する。
図2は積層造形物の構造を示す断面図である。
【0023】
図2に示すように、積層造形物Wは、積層体W1と、硬化層HLとを有している。積層体W1は、複数の第一溶着ビード25Aを積層させた造形体であり、この積層体W1の表面が、硬化肉盛り用の第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLによって覆われている。硬化層HLは、積層体W1に対して高い硬度を有している。
【0024】
次に、本構成の製造システム100により積層造形物Wを造形する手順について詳述する。
図3A図3Cは、積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
【0025】
(積層造形工程)
図3Aに示すように、第一溶加材供給部21Aから第一トーチ17Aへ第一溶加材MAを供給し、第一トーチ17Aによってベース20上に第一溶着ビード25Aを形成する。そして、図3Bに示すように、第一トーチ17Aによって形成される第一溶着ビード25Aを積層させ、第一溶着ビード25Aの積層体W1を造形する。このように、第一溶着ビード25Aを積層させて積層体W1を造形すると、この積層体W1には、第一溶着ビード25Aの熱が蓄積される。
【0026】
(硬化層形成工程)
図3Cに示すように、第二溶加材供給部21Bから第二トーチ17Bへ硬化肉盛り用の第二溶加材MBを供給し、積層体W1に対して、第二溶加材MBを溶融及び凝固させた第二溶着ビード25Bを積層させる。この第二溶着ビード25Bの積層は、積層体W1の表面温度が、第一溶着ビード25Aの積層による蓄熱によって予め定めた設定温度に達した状態で行う。この設定温度は、積層体W1の表面に形成した第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLが、積層体W1との線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによって割れが発生することのない温度であり、例えば、150℃~400℃等に設定される。また、この設定温度は、溶接施工の管理指針などで常用されている炭素当量(%)×350℃といった予熱温度の推定式を用いて設定される。
【0027】
その後、徐冷することで、積層体W1の表面に、この積層体W1よりも高い硬度を有する硬化層HLが形成された積層造形物Wが得られる。
【0028】
以上、説明したように、本発明の積層造形物の製造方法によれば、第一溶着ビード25Aの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した積層体W1に対して、硬化肉盛り用の第二溶加材MBを溶融及び凝固させた第二溶着ビード25Bを積層させて硬化層HLを積層体W1の表面に形成する。つまり、第一溶着ビード25Aを積層させることで蓄熱させてから硬化層HLを形成するための第二溶着ビード25Bを形成する。したがって、第一溶着ビード25Aを積層してなる積層体W1と第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLとの線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによる割れなどの発生を、設備費や作業工数を抑えつつ抑制することができる。したがって、コストを抑えつつ容易に硬化層HLを形成して表面強度を向上させた積層造形物Wを製造することができる。
【0029】
次に、変形例について説明する。
(変形例1)
図4は変形例1における積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
【0030】
図4に示すように、変形例1では、硬化層形成工程において、第二トーチ17Bを第一トーチ17Aに追従させ、第一トーチ17Aで形成した第一溶着ビード25Aに第二トーチ17Bで形成する第二溶着ビード25Bを重ねる。このとき、硬化した下層の第一溶着ビード25Aが設定温度以上である状態で第二溶着ビード25Bを重ねる。つまり、変形例1では、第二トーチ17Bを第一トーチ17Aに追従させることで、硬化した下層の第一溶着ビード25Aが冷却されて設定温度を下回る前に、第二溶着ビード25Bを積層させる。
【0031】
ここで、造形する積層造形物の大きさが小さい場合や、溶着ビードの積層数が少ない場合、第一溶着ビード25Aを積層して積層体W1を造形しても、蓄熱量が少ないために第二溶着ビード25Bを積層させる前に積層体W1が冷却されて設定温度を下回る場合がある。この場合、第一溶着ビード25Aからなる積層体W1と第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLとの線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによる割れなどの発生の抑制効果が低下するおそれがある。
【0032】
変形例1では、第二トーチ17Bを第一トーチ17Aに追従させ、硬化した下層の第一溶着ビード25Aが設定温度以上である状態で第二溶着ビード25Bを重ねる。したがって、造形する積層造形物の大きさが小さい場合や、溶着ビードの積層数が少ない場合などの蓄熱量が少ない場合であっても、線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによる割れなどの発生を抑えつつ、積層体W1の表面に硬化層HLを形成することができる。
【0033】
(変形例2)
図5A及び図5Bは変形例2における積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
【0034】
変形例2では、積層造形装置11において、第一トーチ17A及び第二トーチ17Bに供給される第一溶加材MA及び第二溶加材MBが切り替え可能とされている。図5Aに示すように、変形例2では、硬化層形成工程において、第二トーチ17Bを第一トーチ17Aに追従させ、第一トーチ17Aで形成する第一溶着ビード25Aに第二トーチ17Bで形成する第二溶着ビード25Bを重ねる。このとき、第一溶着ビード25Aが硬化する前に第二溶着ビード25Bを重ねる。これにより、第二トーチ17Bで形成する第二溶着ビード25Bと、その下層の第一溶着ビード25Aとが互いに溶融した希釈層DLを形成する。この希釈層DLは、第一溶着ビード25Aと第二溶着ビード25Bとが互いに溶融することで、第二溶着ビード25Bの成分組成が第一溶着ビード25Aの組成によって希釈される。その結果、希釈層DLの硬度は、第一溶着ビード25Aよりも高く、第二溶着ビード25Bよりも低くなる。なお、希釈層DLの成分組成は例えば蛍光X線分析によって第二溶着ビード25Bの成分組成を分析して第二溶加材MBの成分組成と比較することで、希釈の有無や希釈率を判定できる。
【0035】
その後、この希釈層DLに第二溶着ビード25Bを積層させて硬化層HLを形成する。このとき、図5Bに示すように、第一トーチ17Aに対して第一溶加材供給部21Aから第二溶加材MBを供給して第一トーチ17Aで第二溶着ビード25Bを形成するとともに、第二トーチ17Bを第一トーチ17Aに追従させて第一トーチ17Aで形成する第二溶着ビード25Bに第二トーチ17Bで形成する第二溶着ビード25Bを重ねて形成する。
【0036】
ところで、第一溶着ビード25Aに第二溶着ビード25Bを直接積層させると、第二溶着ビード25Bは、第一溶着ビード25Aによって希釈されて硬度が低下する。したがって、第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLは、要求される硬度が得られないおそれがある。
【0037】
これに対して、変形例2に係る積層造形物の製造方法によれば、第一溶着ビード25Aに第二溶着ビード25Bが溶融した希釈層DLを形成し、この希釈層DLに第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLを形成する。したがって、第一溶着ビード25Aからなる積層体W1に第二溶着ビード25Bからなる硬化層HLを直接積層することによる硬化層HLの硬度低下を抑制できる。また、第一トーチ17A及び第二トーチ17Bで多層の硬化層HLを形成することにより、表面側の硬化層HLの硬度をより確実に確保できる。
【0038】
(変形例3)
図6は変形例3における積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の断面図である。
【0039】
変形例3では、積層造形装置11においても、第一トーチ17A及び第二トーチ17Bに供給される第一溶加材MA及び第二溶加材MBが切り替え可能とされている。図6に示すように、変形例3では、積層造形工程において、第二トーチ17Bに対して第二溶加材供給部21Bから第一溶加材MAを供給することで、第一トーチ17A及び第二トーチ17Bで第一溶着ビード25Aを交互に形成して積層体W1を造形する。
【0040】
この変形例3に係る積層造形物の製造方法によれば、硬化層HLを形成するための第二トーチ17Bを積層造形工程において第一溶着ビード25Aの形成に用いることで、積層造形物Wの製造効率を高めることができる。
【0041】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0042】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 第一溶加材を溶融及び凝固させた第一溶着ビードを積層させて積層体を造形する積層造形工程と、
前記第一溶着ビードの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した前記積層体に対して、硬化肉盛り用の第二溶加材を溶融及び凝固させた第二溶着ビードを積層させ、前記積層体よりも硬い硬化層を前記積層体の表面に形成する硬化層形成工程と、
を含む
積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、第一溶着ビードの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した積層体に対して、硬化肉盛り用の第二溶加材を溶融及び凝固させた第二溶着ビードを積層させて硬化層を積層体の表面に形成する。つまり、第一溶着ビードを積層させることで蓄熱させてから硬化層を形成するための第二溶着ビードを形成する。したがって、第一溶着ビードを積層してなる積層体と第二溶着ビードからなる硬化層との線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによる割れなどの発生を、設備費や作業工数を抑えつつ抑制することができる。したがって、コストを抑えつつ容易に硬化層を形成して表面強度を向上させた積層造形物を製造することができる。
【0043】
(2) 第一トーチ及び第二トーチを備えた積層造形装置を用い、
前記積層造形工程において、前記第一トーチで前記第一溶着ビードを積層させて前記積層体を造形し、
前記硬化層形成工程において、前記第二トーチで前記第二溶着ビードを前記積層体の表面に積層させて前記硬化層を形成する
(1)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、第一トーチで第一溶着ビードを積層させて積層体を造形し、第二トーチで第二溶着ビードを積層体の表面に積層させて硬化層を形成することで、表面に硬化層が形成された積層体を容易に製造することができる。
【0044】
(3) 前記硬化層形成工程において、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させ、前記設定温度以上の前記第一溶着ビードに前記第二溶着ビードを積層させる
(2)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、第二トーチを第一トーチに追従させ、第一溶着ビードが設定温度以上である状態で第二溶着ビードを重ねる。したがって、造形する積層造形物の大きさが小さい場合や、溶着ビードの積層数が少ない場合などの蓄熱量が少ない場合であっても、線膨張係数、伸びあるいは靭性等の物性値の違いによる割れなどの発生を抑えつつ、積層体の表面に硬化層を形成することができる。
【0045】
(4) 前記硬化層形成工程において、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させ、前記第一トーチで形成する前記第一溶着ビードに前記第二トーチで形成する前記第二溶着ビードが溶融した希釈層を形成する
(2)または(3)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、第一トーチで形成する第一溶着ビードに第二トーチで形成する第二溶着ビードが溶融した希釈層を形成する。これにより、この希釈層に第二トーチで硬化層を形成することで、積層体に硬化層を直接形成することによる硬化層の硬度低下を抑制できる。
【0046】
(5) 前記硬化層形成工程において、前記希釈層の形成後に、前記第一トーチへ前記第二溶加材を供給して前記第二溶着ビードを形成するとともに、前記第二トーチを前記第一トーチに追従させて前記第一トーチで形成する前記第二溶着ビードに前記第二トーチで形成する前記第二溶着ビードを重ねて形成する
(4)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、多層の硬化層を形成することで、表面側の硬化層の硬度をより確実に確保できる。
【0047】
(6) 前記積層造形工程において、前記第一トーチ及び前記第二トーチで前記第一溶着ビードを形成して前記積層体を造形する
(2)~(5)のいずれか一つに記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、硬化層を形成するための第二トーチを積層造形工程において第一溶着ビードの形成に用いることで、積層造形物の製造効率を高めることができる。
【0048】
(7) 第一溶加材を溶融及び凝固させた第一溶着ビードが積層された積層体と、
前記積層体の表面に設けられ、硬化肉盛り用の第二溶加材を溶融及び凝固させた第二溶着ビードからなる、前記積層体よりも硬い硬化層と、
を有し、
前記硬化層を構成する前記第二溶着ビードは、前記第一溶着ビードの積層による蓄熱によって表面温度が予め定めた設定温度に達した前記積層体の表面に積層された
積層造形物。
この積層造形物によれば、第一溶着ビードを積層させた積層体の表面に第二溶着ビードからなる硬化層が形成された耐摩耗性に優れた積層造形物を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
11 積層造形装置
17A 第一トーチ
17B 第二トーチ
25A 第一溶着ビード
25B 第二溶着ビード
DL 希釈層
HL 硬化層
MA 第一溶加材
MB 第二溶加材
W1 積層体
W 積層造形物
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6