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特許6997081農業用フッ素系樹脂フィルム及び農業用被覆資材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】農業用フッ素系樹脂フィルム及び農業用被覆資材
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/14 20060101AFI20220107BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20220107BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220107BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20220107BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220107BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A01G9/14 S
A01G13/02 B
C08L27/16
C08K9/00
B32B27/30 D
B32B27/20 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018519548
(86)(22)【出願日】2017-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2017019125
(87)【国際公開番号】W WO2017204191
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2016104073
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊介
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054702(JP,A)
【文献】特開平06-049388(JP,A)
【文献】特開2007-238645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14
A01G 13/02
C08L 27/16
C08K 9/00
B32B 27/30
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂及び酸化チタン粒子を含有するフッ素系樹脂フィルムを備え、
前記酸化チタン粒子は、平均アスペクト比が1.2以上、且つ長手方向の平均長さが550nm以下の粒子であり、
前記酸化チタン粒子は、酸化チタン上に多層被覆層を有し、
前記多層被覆層は、少なくとも酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層を含み、
前記多層被覆層の膜厚が2nm~7nmであり、
前記フッ素系樹脂100質量部に対し、前記酸化チタン粒子を0.03~0.5質量部含有することを特徴とする、農業用フッ素系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記多層被覆層は、内側から順に酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層が形成されている、請求項1に記載の農業用フッ素系樹脂フィルム。
【請求項3】
少なくとも一方の面に親水性能を有する流滴層を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の農業用フッ素系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記フッ素系樹脂が、フッ化ビニリデンに基づく単量体単位を80~90質量%、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位を10~20質量%の割合で含有するランダム共重合体よりなることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の農業用フッ素系樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の農業用フッ素系樹脂フィルムを用いてなる農業用被覆資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い透明性を維持しつつ、紫外線遮断持続性に優れたフッ素系樹脂フィルム及び農業用被覆資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素系樹脂フィルムは耐候性や防汚性に優れるためグリーンハウスの屋外用途に用いられている。しかし、フッ素系樹脂フィルムは光線透過率が高い為、紫外線によりハウス内の資材が劣化したり、作物の葉焼けが発生したりする場合があり、使用環境によっては紫外線領域の光線透過率を抑える技術が求められている。
【従来の技術】
【0003】
従来、フッ素系樹脂フィルムに紫外線遮断性能を付与する手法としては、例えば特許文献1には、平均粒子径が0.01~0.05μmのルチル型の酸化チタン粒子を含有するフッ素系樹脂フィルムであって、該粒子は酸化チタンの表面に酸化ケイ素、酸化アルミニウム、オルガノポリシロキサンが順次被覆されており、該粒子を0.05~2.0重量%含有していることを特徴とするフッ素系樹脂フィルムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、不定形―酸化セリウム複合体粒子中、粒径1~30μmの粒子を95重量%以上含む不定形シリカ-酸化セリウム複合体粒子がフッ素樹脂に分散されていることを特徴とするフッ素系樹脂フィルムが提案されている。
【0005】
特許文献3には、平均粒子径が0.01~0.05μmの酸化亜鉛粒子を含有するフッ素系樹脂フィルムであって、該粒子は酸化亜鉛の表面にケイ素酸化物からなる被覆層を有し、フッ素樹脂100質量部に対し該粒子を0.05~2.0質量部含有していることを特徴とするフッ素系樹脂フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-157492号公報
【文献】特開平10-287784号公報
【文献】特開2010-143948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているような平均粒子径を有する比較的粒径の小さい酸化チタンを用いた場合透明性は良好であるが、比表面積が大きく凝集が起こりやすいため、十分に被覆が行えないという問題がある。
【0008】
また、酸化セリウムを含む複合体粒子を用いた特許文献2の場合には、酸化チタンと比較して屈折率が低く透明性は高いが、一方で360nm以下を遮断するためには粒子添加量を多くする必要があり、その結果透明性が損なわれる。また、比較的コストが増大するという問題もある。
【0009】
そして、酸化亜鉛を用いた特許文献3の場合には、酸化チタンと比較して透明性は良好であるが、酸化亜鉛は微量のフッ素化合物と反応してフッ化亜鉛に変質しやすく、その結果紫外線遮断持続性が低い問題を生じる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来の無機系紫外線吸収剤を含有したフッ素系樹脂フィルムと比較して、高い透明性を有しつつも紫外線遮断持続性に優れた農業用被覆資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のいくつかの態様によれば、フッ素系樹脂及び酸化チタン粒子を含有するフッ素系樹脂フィルムを備え、前記酸化チタン粒子は、平均アスペクト比が1.2以上、且つ長手方向の平均長さが550nm以下の粒子であり、前記酸化チタン粒子は、酸化チタン上に多層被覆層を有し、前記多層被覆層は、少なくとも酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層を含み、前記多層被覆層の膜厚が2nm~7nmである、農業用フッ素系樹脂フィルムが提供される。
【0012】
本発明者等が、グリーンハウスでの使用において透明性を維持しつつ、紫外線遮断持続性に優れたフッ素系樹脂フィルムの開発を鋭意検討したところ、平均アスペクト比が特定の値以上であり、特定の被覆層を有する酸化チタン粒子を用いた場合に、透明性及び紫外線遮断持続性に優れることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0014】
好ましくは、前記多層被覆層は、内側から順に酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層が形成されている。
好ましくは、前記フッ素系樹脂100質量部に対し、前記酸化チタン粒子を0.03~1.0質量部含有する。
好ましくは、少なくとも一方の面に親水性能を有する流滴層を備える。
好ましくは、前記フッ素系樹脂が、フッ化ビニリデンに基づく単量体単位を80~90質量%、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位を10~20質量%の割合で含有するランダム共重合体よりなる。
【0015】
別に態様によれば、上記の農業用フッ素系樹脂フィルムを用いてなる農業用被覆資材が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムは、グリーンハウスの被覆材等に用いることができるフィルムであって、従来のフッ素系樹脂フィルムと比較して、透明性及び紫外線遮断持続性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムは、フッ素系樹脂及び酸化チタン粒子を含有するフッ素系樹脂フィルムを備え、前記酸化チタン粒子は、平均アスペクト比が1.2以上、且つ長手方向の平均長さが550nm以下の粒子であり、前記酸化チタン粒子は、酸化チタン上に多層被覆層を有し、前記多層被覆層は、少なくとも酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層を含み、前記多層被覆層の膜厚が2nm~7nmである。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
<酸化チタン粒子>
本発明の実施形態においては、酸化チタン粒子が特定の形状及び大きさを有することにより透明性及び紫外線遮断持続性に優れた農業用フッ素系樹脂フィルム及び農業用被覆資材が提供される。
【0019】
酸化チタン粒子の粒径を小さくした場合には透明性に優れるが、一方で酸化チタン粒子の凝集性が高く、凝集した酸化チタン粒子は十分に被覆することが難しい。十分に被覆することができない場合には、酸化チタンは活性種を生成しフィルムを変質させてしまう(光触媒作用)ため透明性が低下する。すなわち、耐候性に問題が生じる。また、大きくした場合には凝集性は低下するものの、酸化チタン粒子が光を散乱させてしまい高い透明性は望めない。
【0020】
一方、本発明においては、酸化チタン粒子の平均アスペクト比を特定の値以上としたため、酸化チタン粒子の粒径を透明性が確保できる程度に小さくしたとしても、凝集が起こり難く粒子表面の被覆性が良好である。すなわち、粒径(大きさ)の変更だけでは同時に満たすことが難しい透明性と耐候性を、粒径だけではなく形状(アスペクト比:幅に対する長さの比、長さ/幅)を変更することにより同時に満たすことに成功している。
【0021】
本発明の実施形態に用いられる酸化チタン粒子の平均アスペクト比は1.2以上、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2以上である。平均アスペクト比が1.2未満では凝集性が高く被覆性が良好でないため活性が抑制できず耐候性に劣る。また高い透明性を有するためには、幅もある程度必要であるため、平均アスペクト比は6以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0022】
酸化チタン粒子の長手方向の平均長さは550nm以下であり、好ましくは400nm以下であり、より好ましくは350nm以下である。酸化チタン粒子の長手方向の平均長さの下限について特に制限はないが、小さすぎると酸化チタン粒子の平均アスペクト比を制御することが難しいため、60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましい。
【0023】
酸化チタン粒子の形状(平均アスペクト比、平均長さ等)は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。具体的には、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、200kVの印加電圧により撮像した1以上の電子顕微鏡像から、無作為に100個以上の粒子を選択し、それぞれの粒子の長手及び短手方向の長さを測定する。そして、長手及び短手方向の長さの算術平均値を、長手及び短手方向の平均長さとする。また、長手方向の平均長さを短手方向の平均長さで除した値を平均アスペクト比とする。
【0024】
上記のような平均アスペクト比を有する酸化チタン粒子として、例えば、板状又はロッド状の粒子を用いることができる。板状とは、幅(短辺)に対して長さ(長辺)が大きければよく、必ずしも完全な平面である必要はない。また、ロッド状とは、幅(短辺)に対して長さ(長辺)が大きく、表面の大半が曲面である構造体である。ただし、表面が必ずしも完全な曲面である必要がなく、一部平面を含んでいてもよい。ただし、被覆が十分に行えないためチューブ状のものは好ましくない。
【0025】
酸化チタン粒子は、その製造方法を特に限定されるものではないが、例えば、硫酸チタニルをアルカリで中和する方法や、チタン塩化物を燃焼させる方法、アルコキシチタンをゾルゲル法によって酸化チタンに変換する方法等があげられる。
【0026】
酸化チタン粒子は、核(コア)となる酸化チタン上に被覆層を有し、該被覆層は多層構造を形成している多層被覆層である。多層被覆層は、少なくとも酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層を含む。
【0027】
酸化チタン粒子の被覆層として、酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、及びオルガノポリシロキサン被覆層を設けることにより、紫外線による酸化チタンの変色、分解及び光触媒作用が抑制され、フッ素系樹脂フィルムの変色、機械物性の低下が長期間安定して保たれる。
【0028】
酸化チタン粒子への酸化ジルコニウム被覆による被膜処理方法は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン粒子の水性懸濁液を調製し、これに硫酸ジルコニウム水溶液を加えアルカリで中和し被覆させる方法等が挙げられる。酸化ジルコニウムの被覆量としては、核である酸化チタン100質量部に対してZrOとして10~22質量部であり、好ましくは12~16質量部である。酸化ジルコニウムの被覆量の被覆量が22質量部以上であれば、吸着水分の量が増し、フィルム製造時に発泡する等の問題が生じる。また、10質量部未満の場合は、光触媒作用の抑制力が弱いため好ましくない。
【0029】
酸化チタン粒子への水酸化アルミニウム被覆による被膜処理方法は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン粒子の水性懸濁液を調製し、これに水酸化アルミニウムの水溶性化合物の水溶液を加え、酸又はアルカリを中和剤として加えて、アルミニウム化合物を中和して、水酸化アルミニウム被覆層を形成する方法等が挙げられる。アルミニウムの水溶性化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。中和剤である酸としては、硫酸等の無機酸や、酢酸、シュウ酸等の有機酸が好ましく用いられる。
【0030】
水酸化アルミニウム被覆層の被覆量としては、核である酸化チタン100質量部に対して水酸化アルミニウムとして15~30質量部であり、好ましくは15~20質量部である。水酸化アルミニウムの被覆量が15質量部未満であれば、光触媒作用の抑制が不十分であり樹脂の劣化を招くため好ましくない。また、30質量部よりも多い場合は、水酸化アルミニウム凝集物の増加や、フィラー同士の凝集力が高まり、フィルムの透明性が損なわれるため好ましくない。
【0031】
酸化チタン粒子へのオルガノポリシロキサン被覆による被膜処理方法は、特に限定されないが、例えば、アルカリを添加したオルガノポリシロキサンを含む液と酸化チタン粒子とを攪拌機等で混合し、酸化チタン粒子の表面をオルガノポリシロキサンにて被覆処理する方法が挙げられる。
【0032】
オルガノポリシロキサン被覆層の被覆量としては、核である酸化チタン100質量部に対して1~20質量部であり、好ましくは3~10質量部の範囲である。オルガノポリシロキサンとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチコン-ジメチコン共重合体等が好ましく用いられる。このようなオルガノポリシロキサンが酸化チタン100質量部に対して1質量部よりも少ない場合は、樹脂中の分散性の改善効果に乏しく、他方、20質量部より多い場合は、フィラーの凝集を招き、透明性が劣る問題が生じる場合がある。また、オルガノポリシロキサンを被覆する前にシランカップリング剤を被覆してもよく、これにより、オルガノポリシロキサンがより均一に被覆できる。
【0033】
上記多重被覆層において、各被覆層の形成の順序に特に制限はないが、製造の容易性の観点から、核となっている酸化チタンに近い内側から酸化ジルコニウム被覆層、水酸化アルミニウム被覆層、オルガノポリシロキサン被覆層の順となっていることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態においては、酸化チタン粒子の表面に酸化ジルコニウム被覆層を形成した後、酸化ジルコニウム被覆層を有する酸化チタン粒子の表面に水酸化アルミニウム被覆層を形成し、酸化ジルコニウム被覆層及び水酸化アルミニウム被覆層を有する酸化チタン粒子の表面にオルガノポリシロキサン被覆層を形成することが好ましい。また、オルガノポリシロキサン被覆層により最表面を被覆することにより粒子の安定性が向上する場合がある。
【0034】
なお、酸化チタンと被覆層の間、各被覆層の間、あるいは最表面に、透明性・耐候性を損なわない範囲で他の層を備えても良い。例えば、ステアリン酸等の高級脂肪酸、パルミチン酸オクチル等の高級脂肪酸エステル、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン化合物で表面処理することができる。
【0035】
多層被覆層の膜厚は、2nm~7nmであり、好ましくは3nm~6nmである。膜厚が2nm未満の場合には被覆が十分ではなく、光触媒作用の抑制力が弱いため好ましくない。膜厚が7nmを超える場合には、透明性が劣り好ましくない。
【0036】
なお、酸化チタン粒子の多層被覆層の膜厚は、酸化チタン粒子をエポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで切片を作製し、走査透過電子顕微鏡HD-2700(日立ハイテクノロジ―社製)を用いて撮影した画像に基づいて、多層被覆層の平均膜厚を測定したものである。
【0037】
本発明のフッ素系樹脂フィルムにおける酸化チタン粒子の含有量は、紫外線遮断性能を有していれば特に制限はないが、例えば、フッ素系樹脂100質量部に対し、酸化チタン粒子が0.03~1.0質量部含有されていることが好ましく、0.05~0.5質量部含有されていることがより好ましい。酸化チタン粒子の含有量が、1.0質量部より多い場合には、透明性が劣り、またフィルムを製造時にスジや異物が発生しハンドリング性が劣る。また、0.03質量部より少ない場合は、要求に達する紫外線遮断能を付与できないため好ましくない。
【0038】
農業用フッ素系樹脂フィルムは、紫外線遮断性能として波長300nmの紫外線の透過率の初期値が70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、55%以下であることがさらに好ましい。また、波長300nmの紫外線の透過率の耐候性試験後の値が60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
農業用フッ素系樹脂フィルムは、透明性として全光線透過率の初期値が90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。また、全光線透過率の耐候性試験後の値が90%以上であることが好ましく、93%以上であることはより好ましい。
【0040】
農業用フッ素系樹脂フィルムは、透明性としてHAZEの初期値が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、12%以下であることがさらに好ましい。また、HAZEの耐候性試験後の値が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、12%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
<フッ素系樹脂>
本発明の一実施形態による、農業用フッ素系樹脂フィルムに含まれるフッ素系樹脂は、フッ化ビニリデンに基づく単量体単位を80~90質量%、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位を10~20質量%の割合で含有するランダム共重合体よりなることが好ましい。
ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位の割合が10質量%より低くフッ化ビニリデンに基づく単量体単位の割合が90質量%より高いと得られるフッ素系樹脂フィルムの動的弾性率が高くなり、展張作業性が悪くフィルムもシワになりやすい。また、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位の割合が20質量%より高くフッ化ビニリデンに基づく単量体単位の割合が80質量%より低いと得られるフッ素系樹脂フィルムの引張強度が低く、台風等の自然災害時にフィルムが裂けるおそれがある。
より好ましくは、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位の割合は15質量%以上であり、フッ化ビニリデンに基づく単量体単位の割合が85質量%以下である。このような割合であれば、引張強度を保ったまま、展張作業性がより優れる。
【0042】
本明細書でいうランダム共重合体とは、共重合体の主な構成がブロック共重合により構成されていない共重合体であって、一部に同じ構成単位が連続した部分があってもよく、グラフト共重合や交互共重合を含んでもよいが、主にランダム共重合によって構成されてなる共重合体である。ブロック共重合体では、動的弾性率が高く、目的の柔軟性能が得られず、また、結晶化による物性低下が懸念される。
【0043】
使用する共重合体の重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等、従来公知の重合方法を行うことにより調製することができる。
【0044】
ランダム共重合体の単量体単位としては、柔軟性及び機械強度を満たせばフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレン以外にその他の単量体単位を含んでもよいが、フッ化ビニリデンに基づく単量体単位を80~90質量%、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単量体単位を10~20質量%の割合で含有することが好ましい。例えば、その他の単量体単位としてテトラフルオロエチレンを含んでもよいが、上記の割合を満たさない場合には引張強度が小さくなり耐自然災害性が低下する。より好ましくは、共重合体は単量体単位としてテトラフルオロエチレンを含まない。
【0045】
本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムの膜厚は30μm~400μmである事が好ましく、より好ましくは60~200μmである。30μm未満では十分な耐久性能が得られない事がある。200μmを超えると、原料費の増大等コスト的に不利になると共に、展張の張りやすさやフィルムの切断、接合等における二次加工性が低下する場合がある。
【0046】
本発明の一実施形態による農業用フッ素系樹脂フィルムの動的弾性率は、展張作業が可能であれば特に制限されないが、例えば、150~750MPaであることが好ましく、200~700MPaであることがより好ましく、220~550MPaであることがさらに好ましい。動的弾性率が150MPaより小さい場合、フィルムに適度な腰がなくなり、非常に展張しづらい。引張弾性率が750MPaより大きい場合、フィルムが固くハウスに展張する際にうまく施工できない場合がある。
【0047】
<流滴層>
本発明の一実施形態においては、農業用フッ素系樹脂フィルムは少なくとも一方の面に親水性能を有する流滴層を備えることが好ましい。流滴層は、コロイド状の層状珪酸塩と、高分子バインダー、光安定剤あるいは有機系紫外線吸収剤を含有する流滴剤が塗布されてなる。層状珪酸塩はコロイド状であり、且つコロイドがナノメートルサイズであることから、透明な塗膜を形成することができる。流滴層を形成するための流滴剤は、白濁することなく透明であることが好ましい。層状珪酸塩の粒径は、通常は10~1000nmであり、好ましくは10~100nmである。
【0048】
層状珪酸塩は、例えば、雲母及びスメクタイトから選ばれる少なくとも1種である。雲母としては、バーミキュライト等が挙げられる。スメクタイトとしては、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト及びソーコサイト等が挙げられる。層状珪酸塩は、好ましくは合成層状珪酸塩であり、特に好ましくは合成スメクタイトである。
【0049】
高分子バインダーとしては、上記層状珪酸塩と混合した場合に透明になり、流滴層をフィルム上安定して固定できるものであれば特に制限はないが、アルコール可溶性のナイロン樹脂、アクリル樹脂フェノール樹脂等を用いることが可能であり、好ましくはアルコール可溶性のナイロン樹脂である。これらの高分子バインダーを用いた場合には、透明性を確保した上で、展張作業による摩擦でも剥がれ難い流滴層を形成することができる。
【0050】
層状珪酸塩と高分子バインダーとの混合比は、透明性及び固定安定性が確保されていれば特に制限されるものではないが、高分子バインダー100質量部に対し層状珪酸塩を2~60質量部含有させることでき、好ましくは5~20質量部含有させることできる。2質量部未満の場合には水の接触角が高くなり流滴性が低く、60質量部を超える場合には透明性が低下する。
【0051】
流滴層には耐候性付与の為、光安定剤を配合することが好ましく、公知のものが使用できる。上記光安定剤としては、樹脂中の光劣化開始の活性種を捕捉し、光酸化を防止するものを用いることができる。具体的には、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードピペリジン系化合物、およびその他等から選択される1種類または2種類以上を組み合わせたものを使用することができる。中でもヒンダードアミン系化合物を用いることが好ましい。これらの光安定剤はエマルジョンになりにくく塗膜作業性に優れている。
【0052】
<農業用フッ素系樹脂フィルムの製造方法>
次に本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムの製造方法について説明する。
【0053】
先ず、農業用フッ素系樹脂フィルムを製造する方法としては押出成形法が好適に採用される。その際の具体的な方法として、T型ダイスを用い製膜する方法や、インフレーションダイスを用い製膜する方法で、押出条件としては特に限定されるものではなく、一般的にフッ素系樹脂フィルムを形成するのに用いられている条件が使用できる。T型ダイスを使用する場合、T型ダイス下に金属冷却ロールとゴムロールを配し、T型ダイスのリップ口より押出された溶融樹脂を、前記のロール間でピンチし冷却固化しながらフィルムを製膜する方法と、ピンチロールを用いず金属冷却ロールのみで冷却固化し製膜する方法の何れかが採用できる。
【0054】
こうして得られたフッ素系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、流滴剤を塗布し、乾燥することにより、流滴層を設けることができる。
【0055】
流滴層の塗工方法は公知の方法を用いることができる。例えば、かけ塗り、ローラー塗布、手塗り、回転塗布、各種印刷方式による塗布、バーコート、ダイコート、スプレーコート等が挙げられる。
【0056】
流滴層を形成するとき、前記農業用フッ素系樹脂フィルムの表面上に表面処理を施すことが、塗布性が良化するのみならず、流滴層の密着性が改良される点で好ましい。表面処理の方法としては各種の方法、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、高周波スパッタエッチング処理等が用いられる。
【0057】
乾燥後の流滴層の膜厚は0.2~0.8μmであることが好ましい。乾燥後の流滴層の膜厚が0.2μm未満であると、流滴性能が乏しく、0.8μmより厚い場合は、流滴性能自体に影響はない一方で生産性に劣るおそれがある。
【0058】
乾燥のための加熱温度及び時間は特に限定されない。加熱温度は、例えば、60~100℃とすることができる。時間は、例えば、1~60分とすることができる。この加熱温度及び時間は、被塗装物の耐熱温度を考慮して設定されることが好ましい。
【0059】
<農業用被覆資材>
本発明の農業用被覆資材は、本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムを用いてなる。本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムは透明性及び紫外線遮断持続性に優れので、それを用いてなる本発明の農業用被覆資材は、グリーンハウス等の被覆材に好適に使用することができる。また、本発明の農業用フッ素系樹脂フィルムに関する一実施形態においては、柔軟性、及び自然災害に対して強い耐久性に優れ、また長期にわたって流滴性能を維持することができるので、それを用いてなる本発明の農業用被覆資材は、グリーンハウス等の被覆材により好適に使用することができる。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において使用した原料と、作製したフィルムの評価方法は次の通りである。
【0061】
<使用原料>
「カイナ-フレックス2850-00」(アルケマ株式会社製)ヘキサフルオロプロピレン比率(HFP比率)5質量%、融点約157℃
「カイナ-フレックス2800-20」(アルケマ株式会社製)ヘキサフルオロプロピレン比率(HFP比率)10質量%、融点約142℃
「カイナ-フレックス2500-20」(アルケマ株式会社製)ヘキサフルオロプロピレン比率(HFP比率)20質量%、融点約121℃
(流滴剤)
「ラクレインB1」大和製罐株式会社製(コロイド状の層状珪酸塩として合成スメクタイト及び高分子バインダーとしてメトキシメチル化ナイロンを含み、高分子バインダー100質量部に対し層状珪酸塩を10質量部含有する)と、光安定剤(ヒンダードアミン系光安定剤)を含有する。
【0062】
<評価方法>
【0063】
(光学物性)
(全光線透過率)
全光線透過率測定は、得られた農業用フッ素含有多層フィルムを5cm角に切り出し、JIS K6783に準拠して、日本電色工業株式会社製の「NDH2000」を用いて測定した。
【0064】
(ヘーズ)
ヘーズ測定は、得られた農業用フッ素含有多層フィルムを5cm角に切り出し、JIS K7136に準拠して、日本電色工業株式会社製の「NDH2000」を用いて測定した。
【0065】
(紫外線領域の光線透過率測定)
紫外線領域の光線透過率測定は、島津製作所株式会社製の「UV-2600」を用いて、波長300nmにおける光線透過率を測定した。
【0066】
(動的弾性率)
柔軟性の指標である動的粘弾性率は、「動的粘弾性測定装置 RSA-G2」(TAインスツルメント株式会社製)を用い測定した25℃での値である。
【0067】
(耐候性試験後の光学物性)
UV照射試験を、「ダイプラ・メタルウェザー」(ダイプラ・ウェンテス株式会社製)を用いて下記条件で耐久試験を実施した。
UV照射強度:132mW/cm
1サイクル:12時間(10時間照射、2時間暗黒シャワー)
湿度:51%
ブラックパネル温度:62℃
時間:504時間
照射面:フッ素系樹脂層面
試験後、フィルムの光学物性評価を行ない、試験後の全光線透過率及びHAZE、波長300nmにおける光線透過率を測定した。
【0068】
<実施例1>
硫酸チタニル(ナカライテスク社製)を加水分解してメタチタン酸を得、これを焼成して、酸化チタンを得た。この酸化チタンを水に分散させて水スラリーとした。攪拌しながら、この水スラリーにジルコニアからなる表面被覆がなされるように硫酸ジルコニウム水溶液を加え、水酸化ナトリウムを加えて、pHを7.0に調整した。更に、上記水スラリーに水酸化アルミニウムからなる表面被覆がなされるように硝酸アルミニウムを加え、水酸化ナトリウムを加えて、pHを7.0に調整した。
次いで、このスラリーを真空濾過して、濾過ケーキを得、この濾過ケーキを水で洗浄し、水溶性の塩類を除去した後、濾過ケーキを130℃で乾燥した。この後、電気炉を用いて、800℃で焼成した。
得られた焼成物を水に分散させ、再度、水性スラリーとし、ビーズミルを用いて粉砕した。このスラリーを真空濾過して、濾過ケーキを得、この濾過ケーキを水で洗浄し、残存する水溶性塩類を除去した後、濾過ケーキを130℃で乾燥し、次いで、流体エネルギーミルを用いて粉砕し、オルガノポリシロキサンによる表面処理を行うことで表面処理層の膜厚が4nm、平均アスペクト比が3、長手方向の平均長さが350nmの酸化チタン粒子を得た。なお、酸化チタン粒子の多層被覆層の膜厚は、酸化チタン粒子をエポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで切片を作製し、走査透過電子顕微鏡HD-2700(日立ハイテクノロジ―社製)を用いて撮影した画像に基づいて、多層被覆層の平均膜厚を測定したものである。
次にフッ素系樹脂フィルムの原料として、前記のフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体「カイナ-フレックス2800-20」100質量部を上記酸化チタン0.5質量部と共にタンブラーにてブレンドして混合物とし、φ30mmの2軸押出機によって混練して、コンパウンドを得た。
上記コンパウンドを酸化チタン濃度が0.1質量部となるようにフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体と混合して、φ65mmの単軸押出機に投入し、フィードブロック法により押出、金属冷却ロールで引き取ることによりフィルムを得た。次に作製したフィルムの一方の面にコロナ処理を施した後、流滴層として前記の流滴剤を塗布してフィルムを作製した。作製したフッ素系樹脂フィルムの光学物性および動的弾性率を評価した結果を表1に示す。
【0069】
<実施例2、3>
酸化チタンの表面処理層の膜厚を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0070】
<実施例4,5>
酸化チタンの添加量を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
<実施例6>
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体種を「カイナ-フレックス2500-20」に変更した以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0071】
<実施例7,8>
酸化チタンの含有量を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0072】
<実施例9>
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体種を「カイナ-フレックス2850-20」に変更した以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0073】
<実施例10>
実施例10のフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体は以下の手順に従って製造した。すなわち、600rpmで作動するスターラーを備えた10Lの横型オートクレーブに、脱気後、5.6Lの脱塩水を入れた。その後、オートクレーブを85℃に加熱し、反応の全期間その温度を維持した。48モル%のフッ化ビニリデンと52モル%のヘキサフルオロプロピレンとのモノマー気相混合物を、圧力が19barになるようにオートクレーブ中に導入した。その後、40gの過硫酸ジ-アンモニウムを、重合開始時に12g、変換率70%の時に28g、の2段階で添加した。フッ化ビニリデン67.5モル%とヘキサフルオロプロピレン25.5モル%とからなる混合物を供給することによって、重合中19barの設定圧力を一定に保った。77分後、オートクレーブを冷却し、ラテックスを取り出した。VDF74.8質量%とHFP25.2質量%のモノマー組成を有するフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を作製した。その重合体を用いて実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0074】
<実施例11>
酸化チタンの平均アスペクト比を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0075】
<比較例1>
酸化チタンの平均アスペクト比を表2に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0076】
<比較例2~4>
酸化チタンの表面処理層を表2に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0077】
<比較例5,6>
酸化チタンの表面処理層の膜厚を表2に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0078】
<比較例7>
酸化チタンの長手方向平均長さを表2に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0079】
<比較例8>
酸化チタンを添加せずに実施例1と同様にフッ素系樹脂フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】