(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20220127BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20220127BHJP
B65G 47/91 20060101ALI20220127BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220127BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01L21/68 A
H01L21/68 C
B65G47/91 Z
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018567722
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(86)【国際出願番号】 GB2017051866
(87)【国際公開番号】W WO2018002598
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-28
(32)【優先日】2016-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベティー, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】カンリッフ, リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ハクスリー, スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】スィートランド, リー アラン
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-183182(JP,A)
【文献】特開2001-236971(JP,A)
【文献】特開平01-146626(JP,A)
【文献】特開2008-166842(JP,A)
【文献】特開2013-251253(JP,A)
【文献】特開2008-258097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
H01L 21/677
B65G 47/91
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持プラットフォームを有する、第1のトラックに沿って横断可能な第1のキャリッジ;
支持プラットフォームを有する、第2のトラックに沿って横断可能な第2のキャリッジ;
前記第1及び第2のキャリッジの
前記支持プラットフォーム上にガス拡散層を含むシートを供給するためのシート供給手段;及び
前記第1のトラックの少なくとも一部と
前記第2のトラックの少なくとも一部の間にイオン伝導性膜を含む連続ウェブを供給するための供給手段
を備えた膜電極接合体の製造のためのシステムであって、
前記システムが、連続ウェブのそれぞれの側の
前記第1及び第2のキャリッジを、
前記連続ウェブに面する
前記第1及び第2のキャリッジの
前記支持プラットフォームと位置合わせするように構成されており、
それにより、
前記システムが、前記第1及び第2のキャリッジによって輸送されるシートを位置合わせされた構成で
前記連続ウェブの両側に接着さ
せるためのものであり、
前記第1及び第2のトラックが、前記第1及び第2の
キャリッジを推進するためのリニアモーターを含む駆動手段を含む、
システム。
【請求項2】
前記駆動手段が
前記トラックに沿って可変速度で
前記第1及び第2のキャリッジを推進する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1及び第2のキャリッジによって輸送されるシート上に接着剤を分配するための一又は複数の接着剤ディスペンサをさらに備える、請求項1
又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記一又は複数の接着剤ディスペンサが、
前記第1のキャリッジによって輸送されるシート上に接着剤を付着させるための、
前記第1のトラックの上方に配置された第1の接着剤ディスペンサと、
前記第2のキャリッジによって輸送されるシート上に接着剤を付着させるための、
前記第2のトラックの上方に配置された第2の接着剤ディスペンサとを含む、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のキャリッジの
前記支持プラットフォームが、
前記第1のトラックに向かって及び
前記第1のトラックから離れるように可動であり;
前記第2のキャリッジの
前記支持プラットフォームが、
前記第2のトラックに向かって及び
前記第2のトラックから離れるように可動であり;
それにより
、前記システムが、
前記連続ウェブのそれぞれの側において位置合わせされた
前記支持プラットフォーム間に圧力を加えてシートを
前記連続ウェブの両側に押し付けるように構成されている、
請求項1から
4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のトラックが第1の平面内にループを形成し;
前記第2のトラックが第2の平面内にループを形成し;
前記第1及び第2の平面とは平行でない、
請求項1から
5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
シート供給手段が、
前記第1のトラックの上方に配置される
前記シートを供給するための第1のシート供給手段と、
前記第2のトラックの上方に配置されるシートを供給するための第2のシート供給手段とを含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記シート供給手段が:
ガス拡散層を含む材料のロールを巻き出して、ガス拡散層を含む材料のストリップを形成するためのスプール;及び
前記ストリップを分離シートへと切断するための切断ツール
を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記シート供給手段がピックアンドプレースロボットを含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記シート供給手段が、
前記シートを
前記ピックアンドプレースロボットへと運搬するための運搬手段をさらに含む、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
膜電極接合体の製造方法であって:
支持プラットフォームを有する第1のキャリッジを第1のトラックに沿って駆動する工程;
支持プラットフォームを有する第2のキャリッジを第2のトラックに沿って駆動する工程;
ガス拡散層を含む第1のシートを、
前記第1のキャリッジの
前記支持プラットフォーム上に配置する工程;
ガス拡散層を含む第2のシートを、
前記第2のキャリッジの
前記支持プラットフォーム上に配置する工程;
任意選択的に、
前記第1及び第2のシート上に接着剤を分配する工程;
前記第1のトラックの少なくとも一部と
前記第2のトラックの少なくとも一部の間にイオン伝導性膜を含む連続ウェブを供給する工程;
前記連続ウェブのそれぞれの側の
前記第1及び第2のキャリッジを、
前記連続ウェブに面する
前記第1及び第2のキャリッジの支持プラットフォームと位置合わせし、それにより
前記第1及び第2のシートを
前記連続ウェブの両側に接着させる工程
を含
み、
前記第1及び第2のトラックが、前記第1及び第2のキャリッジを推進するためのリニアモーターを含む駆動手段を含む、方法。
【請求項12】
前記第1のキャリッジを
前記第1のトラックに沿って駆動する
前記工程が、
前記第1のキャリッジを
前記第1のトラックに沿って可変速度で駆動することを含み;
前記第2のキャリッジを
前記第2のトラックに沿って駆動する
前記工程が、
前記第2のキャリッジを
前記第2のトラックに沿って可変速度で駆動することを含む、
請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1及び第2のシートがガス拡散層を含み、
前記連続ウェブが触媒でコーティングされた膜を含む、請求項
11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び第2のシートが触媒でコーティングされたガス拡散層を含み、
前記連続ウェブがイオン伝導性膜を含む、請求項
11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体(MEA)、特に燃料電池用のMEAの製造のためのシステム及び方法に関する。特に、本発明は、触媒コーティング膜(CCM)に対してガス拡散層(GDL)を取り付けることなどにより、完全に組み立てられたMEAの高速形成を可能にするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質により分離されている二つの電極を含む電気化学電池である。水素、又はアルコール、例えばメタノール又はエタノールといった燃料はアノードに供給され、酸素又は空気などの酸化剤はカソードに供給される。電気化学反応は電極で起こり、燃料及び酸化剤の化学エネルギーは、電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化とカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
水素を燃料とした又はアルコールを燃料としたプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では、電解質は、電子的に絶縁し、且つプロトンを伝導する固体高分子膜である。アノードで発生したプロトンは、膜を横切ってカソードへと輸送され、そこで酸素と結合して水を形成する。最も幅広く使用されるアルコール燃料はメタノールであり、このPEMFCの変形はしばしば直接メタノール燃料電池(DMFC)と称される。
【0004】
PEMFCの主要なコンポーネントは膜電極接合体(MEA)として知られており、本質的に5層からなる。中心層は、高分子イオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のどちらかの面には、特定の電極触媒反応のために設計された電極触媒を含む電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接してガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に達することを可能にし、且つ電気化学反応により発生する電流を伝導しなければならない。従って、ガス拡散層は、多孔性かつ導電性でなければならない。
【0005】
典型的には、MEAは、以下二つの一般的方式のうちの一つにより作製される:
(i)電極触媒層をGDLに塗布し、ガス拡散電極(GDE)を形成する。二つのGDEをイオン伝導性膜のいずれかの側に配置し、一緒に積層してMEAを形成することができる;
(ii)電極触媒層をイオン伝導性膜の両面に塗布し、CCMを形成する。その後、GDLをCCMの両面に塗布する。
【0006】
典型的には、さらにシールコンポーネントをMEAの周縁に配置して、多孔層の縁をシールし、反応ガスが侵入して混合することを防止し、且つMEAの縁を補強及び強化して、曝露された膜の縁があればそれを保護し、MEAが完全な燃料電池へと組み立てられるときにガスケットコンポーネントとのその後のインターフェースのために頑強な表面を提供する。シールコンポーネントは、MEAの作製の一又は複数の段階で、例えばCCMの作製の間に導入することができるか、又はGDLに組み込むことができるか、又は作製後に完全なMEAに適用することができる。CCM又はGDLに適用されるとき、シールコンポーネントは、MEAのサブコンポーネントの結合を容易にして完全に統合されたMEAを生成するというさらなる機能も提供できる。
【0007】
GDLをMEAに統合するための殆どのMEA作製方法は、高温及び高圧でコンポーネントを接合し、それらコンポーネント間に耐久性及び持続性の結合が生じるために十分な特定の期間にわたって保持することすることを含む方法により、サブコンポーネントをまとめて結合することに依存している。このような高温結合又は熱圧縮方法は、結合促進剤の存在、即ち接着剤が存在することにも依存している。接着剤は、典型的には、シールコンポーネントの表面上でホットメルト接着剤の薄層の形態のシールコンポーネントに組み込まれる。製造コストを削減し、製造スピードを上げようとする努力のなかで、CCM及びMEAのための連続リール・トー・リール製造プロセスの高速化の開発に、最近大きな進歩があった。しかしながら、例えば高温ニップローラーを使用して、適切な結合をもたらす十分な時間にわたり必要な圧力と熱の両方を適用することによりGDLが連続式に適用される場合も、熱圧縮工程によるMEA上へのGDLの結合は、依然として低速の方法である。
【0008】
したがって、もっと速い速度で完全に統合されたMEAを製造すると同時にコンポーネントを極めて正確に位置合わせすることのできる改善されたシステムを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、膜電極接合体の製造のためのシステムを提供し、このシステムは:
支持プラットフォームを有する、第1のトラックに沿って横断可能な第1のキャリッジ;
支持プラットフォームを有する、第2のトラックに沿って横断可能な第2のキャリッジ;
キャリッジの支持プラットフォーム上にガス拡散層を含むシートを供給するためのシート供給手段;及び
第1のトラックの少なくとも一部と第2のトラックの少なくとも一部の間にイオン伝導性膜を含む連続ウェブを供給するための供給手段
を備え、連続ウェブのそれぞれの側の第1及び第2のキャリッジを、連続ウェブに面する第1及び第2のキャリッジの支持プラットフォームと位置合わせするように構成されており、
キャリッジによって輸送されるシートを、位置合わせされた構成で連続ウェブの両側に接着させるために適している。
【0010】
任意選択的に、システムは、第1及び第2のキャリッジによって輸送されるシート上に接着剤を分配するための一又は複数の接着剤ディスペンサをさらに備える。
【0011】
本発明について、以下でさらに説明する。以下の文脈において、本発明の異なる態様がより詳細に規定される。そのように規定される各態様は、反することが明らかに示されていない限り、任意の他の態様(複数可)と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であるとされる任意の特徴は、好ましい又は有利であるとされる他の任意の特徴(複数可)と組み合わせてもよい。
【0012】
本システム及び方法の利点は、完全に統合されたMEAの生産率が大きく高まることにより評価されうる。上述の従来の連続製造方法の場合の典型的にわずか約1-5リニアm/分と比較して、MEAにGDLを統合する本発明のシステムを用いると、30リニアm/分のライン速度を達成することができる。この利点は、このような成果を達成するための機器のコスト、並びにその作業に必要な労力及び設置面積によっても評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
次に、以下の非限定的な図面に関して本発明を説明する。
【0014】
【
図1】本明細書に記載されるシステムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本システムは、支持プラットフォーム106を有する、第1のトラック100に沿って横断可能な第1のキャリッジ105を備える。システムは、支持プラットフォーム206を有する、第2のトラック200に沿って横断可能な第2のキャリッジ205も備える。第1及び第2のキャリッジ105、205は、好ましくは実質的に同じ設計のものである。各々が支持プラットフォーム106、206を有する複数のキャリッジ105、205は、各トラック100、200上に提供される。第1のキャリッジと第2のキャリッジの数は、適切には等しい。第1及び第2のキャリッジの正確な数は、システムのサイズ、作製されるMEAのサイズなどを含む複数の要因に依存し、キャリッジの最適な数を決定することは当業者の能力の範囲内である。
【0016】
システムは、キャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206上にGDLを含むシート124、224を供給するためのシート供給手段120、220を備える。好ましくは、シート供給手段120、220は、第1のトラック100の上方に配置されたシート124を供給するための第1の手段120と、第2のトラックの上方に配置されたシート224を供給するための第2の手段220とを備える。シート供給手段120、220は:GDLを含む材料のロールを巻き出して、GDLを含む材料122、222のストリップを形成するためのスプール121、221;ストリップをGDLを含む分離シート124、224へと切断するための切断手段123、223;キャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206上へのシート124、224の正確な配置のためのピックアンドプレースロボット126、226へとシート124、224を運搬するための運搬手段125、225を備える。
【0017】
ピックアンドプレースロボット126、226は、最小の物理的接触で又は物理的接触なしでシート124、224を持ち上げ、そのようにしてシート124、224に損傷を与える可能性を回避するデバイスを有する。このようなデバイスは、非接触グリッパー、例えばベルヌーイ型デバイスとすることができる。このロボット126、226は、正確性のためにコンピュータビジョン検出システムを使用し、シート124、224を、トラックシステムの静止した/低速で移動するキャリッジ105、205の上の支持プラットフォーム106、206上に配置することができる。次いでキャリッジは加速してピックアンドプレースロボットから離れ、次いで任意選択的にGDLの表面上の必要な位置に接着剤を分配してもよい。
【0018】
任意選択的に、システムは、第1及び第2のキャリッジ105、205によって輸送されるシート124、224上に接着剤を分配するための一又は複数の接着剤ディスペンサ110、210を備える。好ましくは、接着剤を第1及び第2のトラック100、200の各々に塗布するように構成された少なくとも一つの接着剤ディスペンサ110、210が存在する。好ましくは、一又は複数の接着剤ディスペンサ110、210は、第1のキャリッジ105によって輸送されるシート124上に接着剤を付着させるための、第1のトラック100の上方に配置された第1の接着剤ディスペンサ110と、第2のキャリッジによって輸送されるシート224上に接着剤を付着させるための、第2のトラック200の上方に配置された第2の接着剤ディスペンサ210とを含む。
【0019】
システムの一の代替的な実施態様では、接着剤ディスペンサ110、210は存在せず、シート124、224が事前塗布された適切な接着剤を有し、この接着剤は、別々の分離シート124、224へと切断される前の、GDLを含む材料のロールに事前塗布される。
【0020】
システムは、第1のトラック100の少なくとも一部と第2のトラック200の少なくとも一部の間にイオン伝導性膜を含む連続ウェブ55を供給するための供給手段50を備える。供給手段50は、正常動作の間に、X方向に連続ウェブ55の実質的に連続するフィードを供給しうる。X方向は、第1及び第2のトラック100、200の各々の一部と平行である。連続ウェブ55は、ロールハンドリング機器を用いて、正確なウェブ操作でフィードされうる。
【0021】
システムは、連続ウェブ55のそれぞれの側の第1及び第2のキャリッジ105、205を、連続ウェブ55に面する第1及び第2のキャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206と位置合わせするように構成され、それにより、システムは、キャリッジによって輸送されるシート124、224を、位置合わせされた構成で連続ウェブ55の両側に接着させるために適している。キャリッジ105、205は、連続ウェブ55の速度と一致するように、且つ、シート124、224を、レジストレーションセンサー(図示しない)を用いて高い位置精度で、移動する連続ウェブ55と接触させるようにタイミングを取るように駆動される。システムは、+/-250μmの各GDLの取り付けに関する側方位置精度を達成しながら、継続的に高速で移動するウェブへの取り付けを実施することができる。
【0022】
好ましくは、第1及び第2のトラック100、200は、キャリッジを推進するためのリニアモーターを含む駆動手段を含む。好ましくは、キャリッジ105、205をトラック100、200に沿って駆動するシステムの駆動手段は、キャリッジの各々を可変速度で推進することができる。好ましくは、駆動手段は、キャリッジ105、205を、接着剤ディスペンサ110、210(存在する場合)に隣接するトラック100、200に沿って、シート供給手段120、220から接着剤ディスペンサ110、210へと移動するときより低い速度で駆動するように構成される。
【0023】
マルチキャリッジトラック式システムの内部にリニアモーターを使用することで、キャリッジが互いに独立して停止、スタート、及び異なる速度で移動することを要する複雑な動作を組み合わせることができる。このような効果は、より確立されたロボット駆動式のピックアンドプレース技術を用いた場合には同じように効果的には達成できなかった。
【0024】
本発明のシステムの使用により、GDLを取り付けてMEAを形成する高速連続移動式リール・トー・リール製造方法が、他の方法では必ずしも可能でない高い位置精度で可能になる。
【0025】
本明細書に記載されるシステムは、これまでよりはるかに高い完全に統合されたMEAの製造速度を達成することができる。このシステムは、トラック式キャリッジシステムの形態であり、GDLの、イオン伝導性膜を含む連続ウェブへの配置及び結合を、約30リニアm/分という高速で達成する。
【0026】
好ましくは、第1及び第2のキャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206は、カム機構を介して、連続ウェブ55に向かって及び連続ウェブ55から遠ざかるように可動であり、それによりシステムは、連続ウェブ55のそれぞれの側で位置合わせされた支持プラットフォーム106、206間に圧力を掛けて、シート124、224を連続ウェブ55の両側に押し付けるように構成される。キャリッジ105、205は、連続ウェブ55と共に移動し、結合が達成されるまで十分な時間にわたり、シート124、224を連続ウェブ55と接触したままにするために圧力を掛ける。
【0027】
好ましくは、第1のトラック100は、第1の平面内にループを形成し、第2のトラック200は、第2の平面内にループを形成し、第1の平面と第2の平面は平行でない。好ましくは、第1の平面と第2の平面は直交する。特に、第1及び第2のトラック100、200は、第2のトラック200上のキャリッジ205が、第1のトラック100上のキャリッジ105と実質的に同じ配向のままである支持プラットフォーム206の上側表面を有し、重力を使用して、支持プラットフォーム106上のシート124及び支持プラットフォーム206上のシート224の両方に接着剤を塗布することができるように、構成することができる。第1のトラック100上のキャリッジは、連続ウェブ55の上側を向く表面上に下降させることができるように、接着剤がシート124に塗布された後で反転される支持プラットフォーム106の上側表面を有する。
【0028】
一実施態様では、連続ウェブ55は、その両側に触媒層を有する(即ちCCMである)。触媒層は、イオン伝導性膜のいずれかの側に連続コーティングとして形成することができるか、又はイオン伝導性膜のいずれかの側に触媒層の別々のパッチとして提供することができる。
【0029】
代替的な一実施態様では、シート124、224の各々は、その上にGDLに塗布された触媒層を有する(即ちガス拡散電極(GDE)である)。
【0030】
任意選択的に、連続ウェブ(触媒層を含むか、又は触媒層を有さない)は、シールコンポーネントを含むことができる。これについて以下で詳細に記載する。
【0031】
さらなる態様によれば、膜電極接合体の製造方法が提供され、この方法は:
支持プラットフォーム106を有する第1のキャリッジ105を、第1のトラック100に沿って駆動する工程;
支持プラットフォーム206を有する第2のキャリッジ205を、第2のトラック200に沿って駆動する工程;
ガス拡散層を含む第1のシート124を、第1のキャリッジ105の支持プラットフォーム106上に配置する工程;
ガス拡散層を含む第2のシート224を、第2のキャリッジ205の支持プラットフォーム206上に配置する工程;
任意選択的に、第1及び第2のシート124、224上に接着剤を分配する工程;
第1のトラック100の少なくとも一部及び第2のトラック200の少なくとも一部の間にイオン伝導性膜を含む連続ウェブ55を供給する工程;
連続ウェブ55のそれぞれの側の第1及び第2のキャリッジ105、205を、連続ウェブ55に面する第1及び第2のキャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206と位置合わせし、それにより第1及び第2のシート124、224を連続ウェブ55の両側に接着させる工程
を含む。
【0032】
好ましくは、上記方法は、本明細書に記載されるシステムと組み合わせて使用することができる。したがって、システムのすべての態様は、本方法と組み合わせて開示され、逆も同じである。
【0033】
さらに詳細には、例示的な一方法は以下の工程を含みうる。
【0034】
1)GDLの切断
GDLは、通常ロール形式で供給される。GDLは、切断手段123、223により切断されて、GDLを含む単一のシート124、224を提供し、このシートは、運搬手段125、225を用いてピックアンドプレースロボット126、226に搬送される。GDLのロールは、回転切断、レーザー切断などを用いてシート124、224へと切断することができる。運搬手段125、225は、適切には真空コンベヤである。
【0035】
2)GDL片のピックアップ
まず、GDLの位置が、センサによって検出される。ピックアンドプレースロボット126、226は、非接触グリッパーを用いてGDLをピックアップする。このようなグリッパーの一例は、グリッパーのための既存のベルヌーイ技術に基づいているが、固有の設計に適合される。これにより、表面とまったく物理的接触させることなくGDLシート124、224を保持することができる。これにより、ハンドリングの間に、炭素繊維ベースのGDL材料の表面が損傷を受ける危険が有意に減少する。次いでGDLシート124、224が、好ましくはリニアモーターシステムによって駆動されるキャリッジ105、205の支持プラットフォーム106、206上に配置される。
【0036】
3)GDL片の搬送及び接着剤の塗布
次いでキャリッジ105、205がGDLのシート124、224を搬送する。リニアモーターの利点は、配置作業のために速度を落とし、次いで距離をカバーするために速度を上げることができることである。次いでこの時点で、GDLの最上面への接着剤の分配が行われる。UV活性化などの接着剤の活性化が必要である場合、これはこの段階で実行されうる。シート124、224へと切断される前の、GDLを含む材料122、222のストリップに接着剤が事前塗布されている場合、この工程は省略することができる。
【0037】
4)GDLの接合によるMEAの形成
GDLを含むシート124、224を、トラック100、200の周りに移動させ、イオン伝導性膜を含む連続ウェブ55と接触させる。設計の意図は、一方のリニアモータートラックを垂直に位置合わせし、他方を水平な平面内に置くことである。これにより、GDLの両シート124、224は、重力による接着剤分配方法のために、上側を向くことができる。キャリッジ105、205内でCAMが移動することにより、ウェブとの接触が可能になるであろう。この設計により、適量の力が加わることになるであろう。
【0038】
5)結合期間
キャリッジ105、205は、GDLを含むシート124、224を、結合が生じるために必要な期間にわたり、イオン伝導性膜を含む連続ウェブ55と接触したままに保つ。必要な期間は、使用される接着剤によって変化するが、典型的には5秒未満である。最終的なMEA製品は、個別の部品へと切断されて方法の最後に積み重ねられるか、又は後での処理のために連続ロールグッド製品として貯蔵される。別個の部品として貯蔵するために、組み立てられたウェブは、最終切断ステーション60で処理され、切断に先立って寸法チェックを完了させる。ロール上に包装するために、この段階でMEAを支持するためにライナーフィルム(図示しない)が導入される。この段階でもまだ切断方法を使用することができるが、切断は、ライナーを無傷に残すキスカットであり、これにより次いで、統合されたMEAのウェブをスプールに巻き付けることができる。
【0039】
本発明の製造システムは、複数の重要な特徴を有する:
・小さな設置面積のマシン
・一方が垂直で、他方が水平なトラックに基づくリニアモーターシステム
・キャリッジが異なる速度で移動することを可能にするリニアモーターシステムの使用
・広範なサイズのMEAに対する適性、それにより一つのマシンで広範なMEA製品が製造可能であること。
【0040】
材料
シート124、224はガス拡散層(GDL)を含む。典型的なGDLは、適切には、従来の不織炭素繊維ガス拡散基材、例えば剛性シート炭素繊維紙(例えば日本の東レ株式会社から入手可能な炭素繊維紙のTGP-Hシリーズ)又はロールグッド炭素繊維紙(例えばドイツのFreudenberg FCCT KGから入手可能なH2315ベースシリーズ;ドイツのSGL Technologies GmbHから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ;又は米国のAvCarb Material Solutionsから入手可能なAvCarb(登録商標)シリーズ)、或いは織物炭素繊維布基材(例えばイタリアのSAATI Group、S.p.A.から入手可能な炭素布のSCCGシリーズ)に基づく。多くのPEMFC(直接メタノール燃料電池(DMFC)を含む。)用途では、不織炭素繊維紙又は織物炭素繊維布基材は、典型的には疎水性ポリマー処理及び/又は基材内に埋め込まれるか又は平坦な面にコーティングされた粒子材料を含む微孔性層の適用、又は両方の組み合わせにより変性されて、ガス拡散層が形成される。粒子材料は、典型的にはカーボンブラックとポリテトラフロオロエチレン(PTFE)のようなポリマーの混合物である。適切には、GDLは100から400μmの厚さである。好ましくは、触媒層と接触するGDLの面上にカーボンブラックとPTFEのような粒子材料の層が存在する。
【0041】
連続ウェブ55は、任意選択的に片側に電極触媒材料を備えるイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜は、PEMFCにおける使用に適した任意の膜であってよく、例えばNafionTM(Chemours Company)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymers)、FlemionTM(旭硝子グループ)及びAciplexTM(旭化成ケミカルズ株式会社)などの過フッ素化スルホン酸材料をベースとしてもよい。或いは膜は、Fumapem(登録商標)P、E又はKシリーズ製品としてFuMA-Tech GmbHから入手可能なもの、JSR社、東洋紡社その他から入手可能なものなど、スルホン化炭化水素膜をベースとしてもよい。代替的に、膜は、120℃から180℃の範囲で動作する、リン酸をドープしたポリベンゾイミダゾールをベースとしてもよい。
【0042】
イオン伝導性膜は、イオン伝導性膜に機械的強度を付与する一又は複数の材料を含むことができる。例えば、イオン伝導性膜は、延伸PTFE材料又はナノ繊維網状物などの多孔質補強材を含有してもよい。
【0043】
イオン伝導性膜は、膜の片面又は両面上の層として、又は膜内に埋め込まれた層として、一又は複数の過酸化水素分解触媒を含むことができる。使用に適した過酸化水素分解触媒の例は、当業者に既知であり、セリウム酸化物、マンガン酸化物、チタン酸化物、ベリリウム酸化物、ビスマス酸化物、タンタル酸化物、ニオブ酸化物、ハフニウム酸化物、バナジウム酸化物及びランタン酸化物などの金属酸化物;好適にはセリウム酸化物、マンガン酸化物又はチタン酸化物;好ましくは二酸化セリウム(セリア)を含む。
【0044】
イオン伝導性膜成分は、任意選択的に、再結合触媒、特にそれぞれアノード及びカソードから膜へ拡散して水を生成することのできる未反応H2とO2の再結合のための触媒を含んでもよい。適切な再結合触媒は、高表面積の酸化物担体材料(シリカ、チタニア、ジルコニアなど)の上に金属(白金など)を含む。再結合触媒のさらなる例は、EP0631337及び国際公開第00/24074号に開示されている。
【0045】
イオン伝導性膜は、膜の縁をシール及び/又は強化するために片側又は両側に適用されるシールコンポーネントをさらに含みうる。シールコンポーネントは、片側又は両側に膜の各縁に沿ったストリップとして適用することができるか、片側又は両側のラダー構成として適用することができる。
【0046】
本製造方法と、GDLを含むシートへの接着剤の塗布を組み合わせることが好ましく、これにより極めて速い結合時間が達成されうる。このような即効性接着剤は、5秒未満、又はさらに好ましくは2秒未満での結合を達成することができる。好ましくは、接着剤は、既に粘着性であるか又は特殊なシアノアクリレート系、エポキシ系などの速硬性接着剤である感圧性接着剤である。これら接着剤は、結合の前に作用して、接着剤の感圧形態を生成するか又はGDLを膜ウェブと接触させると接着剤の結合特性を促進するように設計された、UV硬化特性を有してもよい。
【0047】
現在従来技術の多くは、より確立されているが、必要な結合時間に関して十分に迅速な処理ができないホットメルト又は同様の接着剤に依存しているため、即効性接着剤の使用は前進である。また、燃料電池の環境に耐えうる即効性接着剤を見つけることは、それらが通常耐久性でないために、さらに困難である。
【0048】
本発明者らは、特定の感圧性接着剤、典型的にはシリコーン又はアクリルに基づくポリマー接着剤と、シアノアクリレート及びエポキシが適切であることを発見した。エポキシに関し、これは、UVを使用して迅速に硬化過程を開始する種類と、材料をまとめて保持するために直ちに高いグリーン強度を有する一方、硬化にはより長い時間がかかる種類とを含む。これらは、必要な結合時間を達成することができ、その耐用期間中に燃料電池の性能に悪影響を有さない。
【0049】
代替的に、従来のホットメルト接着剤を使用してもよく、この場合、本発明のシステム及び方法は、結合過程の間に加熱工程を伴うであろう。本質的により長時間を要する熱結合過程を伴うが、ホットメルト接着剤を使用しながらも、本発明の製造システムを用いて、キャリッジを運ぶトラックを延長し、その延長トラックにキャリッジを追加することにより、それでも30リニアm/分という高い全体の製造速度を達成することが可能であろう。
【0050】
接着剤成分は、GDL上に付着させる又は塗布することのできる流体又は粘性ペーストとすることができる。付着技術には、限定されないが、グラビア印刷、スロットダイ、ドロップ堆積、インクジェット、及び噴霧が含まれる。接着剤成分は、ビーズ若しくはドロップレット、狭い個別ストリップ、又は連続コーティング層の形態で、GDLの周縁に付着させることができる。付着させ、任意選択的に乾燥させ、及び/又は硬化させ、結合させるとき、接着剤成分は、適切には1-20μmの厚さ、好ましくは1-6μmの厚さである。
【0051】
代替的に、個々のシートへと切断する前に、適切な接着剤をGDL上に提供することができ、その場合接着剤は、個別の個々のシート124、224へと切断される前に、GDLを含む材料のロールに事前塗布される。この実施態様では、本発明のシステムの、任意選択的な接着剤ディスペンサ110、210は不要である。この場合、好ましい接着剤は、従来のホットメルト接着剤であるか、又は特定の感圧性接着剤である。シアノアクリレート及びエポキシといった、分配されると急速に最終的な状態へと硬化する接着剤は、GDL材料のロールへの事前塗布には適さない。感圧性接着剤の場合、粘性となる状態へのいくらかの硬化が起こることができ、剥離可能なライナー材料の適切なロールが接着剤の分配に先立ってGDLロールと交互に配置される場合、これらは依然として事前塗布に適している。
【0052】
触媒材料は、一又は複数の電極触媒を含む。一又は複数の電極触媒は、独立して、微細な非担持金属粉末であるか、又は導電性の粒子状炭素支持体上に小さなナノ粒子が分散されている担持触媒である。電極触媒金属は、適切には:
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、
(ii)金又は銀、
(iii)卑金属、
又はこれら金属又はその酸化物のうちの一又は複数を含む合金又は混合物
から選択される。
【0053】
好ましい電極触媒金属は白金であり、これは、他の貴金属又は卑金属と合金化されてもよい。電極触媒が担持触媒である場合、炭素支持材料上における金属粒子の負荷は、適切には10-90wt%の範囲、好ましくは、結果として得られる電極触媒の重量の15-75wt%である。
【0054】
使用される具体的な触媒材料は、それが触媒する反応に応じて変わり、その選択は当業者の能力の範囲内である。
【0055】
本発明の好ましい実施態様が本明細書で詳細に説明されているが、当業者には、本発明の範囲又は特許請求の範囲から逸脱することなく変更が可能であることが理解されるであろう。