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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】自動車車体の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20220107BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B05D1/36 A
B05D7/14 L
B05D7/24 301R
B05D1/36 B
B05D1/36 Z
B05D7/24 303J
B05D7/24 303B
B05D3/00 F
B05D5/06 C
B05D5/06 101A
B05D5/06 101Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019167333
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021041376
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 朗
(72)【発明者】
【氏名】井原 知邦
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-042891(JP,A)
【文献】特開2007-106925(JP,A)
【文献】特開2016-083631(JP,A)
【文献】特開2012-170909(JP,A)
【文献】特開2018-188660(JP,A)
【文献】特開2018-123248(JP,A)
【文献】特開2003-093966(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0110803(KR,A)
【文献】国際公開第2016/063614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/36
B05D 7/14
B05D 7/24
B05D 3/00
B05D 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車車体の外板部に電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC1)を形成した後、前記外板部に第1複層塗膜を形成する工程を含む、自動車車体の塗装方法であって、
前記第1複層塗膜を形成する工程が、
(1a)前記電着塗膜(EC1)上に、熱硬化性の中塗り塗料(PP)を塗装して、中塗り塗膜(PCo)を形成する中塗り塗膜(PCo)形成工程、
(1b)前記中塗り塗膜(PCo)上に、熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)を形成する第1ベース塗膜(BC1o)形成工程、
(1c)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)上に、熱硬化性の第2ベース塗料(BP2)を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)を形成する第2ベース塗膜(BC2o)形成工程、
(1d)前記未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)上に、熱硬化性のクリア塗料を塗装して未硬化のクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程、及び
(1e)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)、前記未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)及び前記未硬化のクリア塗膜を加熱し、これらの塗膜を同時に硬化させる焼付工程を含み、
かつ以下の条件(A)~(F)を満たす、自動車車体の塗装方法。
(A)前記中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))と、前記第1ベース塗膜(BC1o)のL値(L(BC1o))との差の絶対値|L(PCo)-L(BC1o)|が35以下である。
(B)前記第1ベース塗料(BP1)及び前記第2ベース塗料(BP2)が、鱗片状アルミニウム顔料を含有しない。
(C)前記第1ベース塗膜(BC1o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC1o))と、前記第2ベース塗膜(BC2o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC2o))との差の絶対値|h(BC1o)-h(BC2o)|が16以下である。
(D)前記第2ベース塗料(BP2)が、鱗片状雲母顔料(P1)及び着色顔料(P2)を含有し、かつ前記鱗片状雲母顔料(P1)の含有量が、前記第2ベース塗料(BP2)の固形分を基準として0.1質量%以上3質量%未満である。
(E)前記第2ベース塗膜(BC2o)の、波長400~700nmにおける光線透過率が40%以上60%未満である。
(F)前記第2ベース塗膜(BC2o)の硬化膜厚が4~12μmである。
【請求項2】
さらに、前記自動車車体の内板部に前記電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC2)を形成した後、前記内板部に第2塗膜を形成する工程を含み、
前記第2塗膜を形成する工程が、
(2a)前記電着塗膜(EC2)上に、前記第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を形成する第1ベース塗膜(BC1i)形成工程、及び
(2b)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を加熱し硬化させる焼付工程を含み、
かつ以下の条件(G)を満たす、請求項1に記載の自動車車体の塗装方法。
(G)前記電着塗膜(EC2)のL値(L(EC2))と、前記第1ベース塗膜(BC1i)のL値(L(BC1i))との差の絶対値|L(EC2)-L(BC1i)|が30以下である。
【請求項3】
さらに、以下の条件(H)を満たす、請求項1又は2に記載の自動車車体の塗装方法。
(H)前記第1ベース塗料(BP1)が、前記第1ベース塗料(BP1)中の全樹脂固形分100質量部に対して、5~25質量部の着色顔料を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装の主な目的は、車体保護と美観付与である。車体保護の具体例としては、例えば、紫外線、水、熱等の自然環境からの保護(耐候性)、錆の発生抑制(耐食性)、傷防止(耐擦り傷性)等がある。
【0003】
一方、美観は、人間の感性及び感覚に訴えるものであり、自動車を選択する上での重要な因子となっている。このため、自動車車体に良好な美観を付与する、高意匠性の塗膜に対するニーズが年々高まっている。
【0004】
このような高意匠性の塗膜を得る方法として、例えば特許文献1には、被塗装物表面に対して、着色顔料および光輝材を含有するメタリックベース塗料を塗布してメタリックベース塗膜を得る工程(1)、前記工程(1)で得られたメタリックベース塗膜上に着色顔料を含有し、光輝材を含有しない着色ベース塗料を塗布して着色ベース塗膜を形成する工程(2)、前記工程(2)で得られた着色ベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布してクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、前記工程(1)、(2)および(3)で得られたメタリックベース塗膜、着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を、加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む複層塗膜形成方法であって、前記工程(1)で得られるメタリックベース塗膜を単独膜として加熱硬化して得られる単独メタリックベース塗膜の光線反射率が、波長650~700nmにおいて45~50%、かつ、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて20%以下であり、および前記工程(2)で得られる着色ベース塗膜を単独膜として加熱硬化して得られる単独着色ベース塗膜の光線透過率が、波長400~700nmにおいて50~70%、波長650~700nmにおいて88~92%、かつ、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて20~60%である、高意匠複層塗膜形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-42891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の方法では、十分な意匠性が得られなかったり、膜厚変動による色変動が発生したりする場合があった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、彩度が高く、光輝性及び深み感に優れ、かつ膜厚変動による色変動が抑制された高意匠性の塗膜が得られる塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の塗装方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
〔1〕自動車車体の外板部に電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC1)を形成した後、前記外板部に第1複層塗膜を形成する工程を含む、自動車車体の塗装方法であって、
前記第1複層塗膜を形成する工程が、
(1a)前記電着塗膜(EC1)上に、熱硬化性の中塗り塗料(PP)を塗装して、中塗り塗膜(PCo)を形成する中塗り塗膜(PCo)形成工程、
(1b)前記中塗り塗膜(PCo)上に、熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)を形成する第1ベース塗膜(BC1o)形成工程、
(1c)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)上に、熱硬化性の第2ベース塗料(BP2)を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)を形成する第2ベース塗膜(BC2o)形成工程、
(1d)前記未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)上に、熱硬化性のクリア塗料を塗装して未硬化のクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程、及び
(1e)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)、前記未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)及び前記未硬化のクリア塗膜を加熱し、これらの塗膜を同時に硬化させる焼付工程を含み、
かつ以下の条件(A)~(F)を満たす、自動車車体の塗装方法。
(A)前記中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))と、前記第1ベース塗膜(BC1o)のL値(L(BC1o))との差の絶対値|L(PCo)-L(BC1o)|が35以下である。
(B)前記第1ベース塗料(BP1)及び前記第2ベース塗料(BP2)が、鱗片状アルミニウム顔料を含有しない。
(C)前記第1ベース塗膜(BC1o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC1o))と、前記第2ベース塗膜(BC2o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC2o))との差の絶対値|h(BC1o)-h(BC2o)|が16以下である。
(D)前記第2ベース塗料(BP2)が、鱗片状雲母顔料(P1)及び着色顔料(P2)を含有し、かつ前記鱗片状雲母顔料(P1)の含有量が、前記第2ベース塗料(BP2)の固形分を基準として0.1質量%以上3質量%未満である。
(E)前記第2ベース塗膜(BC2o)の、波長400~700nmにおける光線透過率が40%以上60%未満である。
(F)前記第2ベース塗膜(BC2o)の硬化膜厚が4~12μmである。
〔2〕さらに、前記自動車車体の内板部に前記電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC2)を形成した後、前記内板部に第2塗膜を形成する工程を含み、
前記第2塗膜を形成する工程が、
(2a)前記電着塗膜(EC2)上に、前記第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を形成する第1ベース塗膜(BC1i)形成工程、及び
(2b)前記未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を加熱し硬化させる焼付工程を含み、
かつ以下の条件(G)を満たす、〔1〕に記載の自動車車体の塗装方法。
(G)前記電着塗膜(EC2)のL値(L(EC2))と、前記第1ベース塗膜(BC1i)のL値(L(BC1i))との差の絶対値|L(EC2)-L(BC1i)|が30以下である。
〔3〕さらに、以下の条件(H)を満たす、〔1〕又は〔2〕に記載の自動車車体の塗装方法。
(H)前記第1ベース塗料(BP1)が、前記第1ベース塗料(BP1)中の全樹脂固形分100質量部に対して、5~25質量部の着色顔料を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗装方法によれば、彩度が高く、光輝性及び深み感に優れ、かつ膜厚変動による色変動が抑制された高意匠性の塗膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0011】
<自動車車体の外板部への塗装>
本発明の塗装方法は、自動車車体の外板部(以下、単に「外板部」と称することがある。)に電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC1)を形成した後、前記外板部に第1複層塗膜を形成する工程を含む。
【0012】
外板部とは、艤装工程を終了した完成車の外側から視認可能な部分である。
外板部は、通常、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、錫メッキ鋼板等の鋼板から形成される。
【0013】
また、上記鋼板は電着塗料(EP)の塗装の前に化成処理がされていてもよい。該化成処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理やリン酸鉄処理などのリン酸塩処理、複合酸化膜処理、リン酸クロム処理、クロメート処理等を挙げることができる。
【0014】
[自動車車体の外板部に電着塗膜(EC1)を形成する工程]
本発明においては、まず自動車車体の外板部に、電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC1)を形成する。
電着塗膜(EC1)は、主に耐食性を付与することを目的として形成される。
【0015】
上記電着塗料(EP)としては、カチオン電着塗料を使用することが好ましい。
カチオン電着塗料による電着塗膜(EC1)の形成は、例えば、脱イオン水等で希釈して固形分濃度を5~40質量%とし、さらにpHを5.5~9.0の範囲内に調整したカチオン電着塗料からなる電着浴を、浴温15~35℃に調整し、負荷電圧100~400Vの条件で外板部を陰極として通電することによって行うことができる。
【0016】
カチオン電着塗料としては、例えば、カチオン性高分子化合物の水溶液又は分散液に、必要に応じて、架橋剤、各種顔料、その他の添加剤を配合してなる既知のものを使用することができる。
【0017】
カチオン性高分子化合物としては、例えば、水酸基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂やエポキシ樹脂にアミノ基を導入したものが挙げられる。これを有機酸や無機酸などで中和して水溶化又は水分散化せしめることによって、カチオン性高分子化合物の水溶液又は分散液が得られる。
架橋剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物や脂環式エポキシ化合物を使用することができる。
【0018】
電着塗装後、外板部に余分に付着したカチオン電着塗料を落とすために、限外濾過液(UF濾液)、逆浸透透過水(RO水)、工業用水、純水等で水洗してもよい。
【0019】
電着塗装による塗膜の加熱硬化は、電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機などの乾燥設備を用いて、塗装物表面の温度を110~200℃、好ましくは140~180℃にて、10~180分間、好ましくは20~50分間、塗膜を加熱して行うことができる。
【0020】
カチオン電着塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚として、例えば10~30μm、好ましくは15~25μmである。
【0021】
[第1複層塗膜を形成する工程]
第1複層塗膜を形成する工程は、以下に記す工程(1a)~(1e)を含む。
【0022】
〔工程(1a)〕
本発明の工程(1a)においては、電着塗膜(EC1)上に、熱硬化性の中塗り塗料(PP)を塗装して、中塗り塗膜(PCo)を形成する。
中塗り塗膜(PCo)は、電着塗膜(EC1)を隠蔽したり、外板部に付着性や耐チッピング性等を付与したりするために形成される。
【0023】
中塗り塗料(PP)は、樹脂成分、硬化剤等を含有する。中塗り塗料(PP)は、例えば、樹脂成分、硬化剤等を水又は有機溶剤に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0024】
樹脂成分としては、例えば、硬化剤と反応する官能基(例えば、水酸基、カルボキシシル基等)を有する樹脂が挙げられる。具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。
【0025】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物及びカルボジイミド基含有化合物等が挙げられる。
【0026】
中塗り塗料(PP)にはさらに必要に応じて、上記成分に加えて、例えば、硬化触媒、着色顔料、体質顔料、その他塗料用添加剤等の公知の成分を適宜の割合で添加することができる。
【0027】
中塗り塗料(PP)を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が挙げられる。
中塗り塗膜(PCo)の膜厚は、硬化膜厚として、例えば10~50μm、好ましくは13~40μmである。
【0028】
中塗り塗膜(PCo)は、後記の熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装する前に加熱硬化させてもよく、未硬化の状態で熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装してもよい。
【0029】
中塗り塗膜(PCo)を加熱硬化させる場合、加熱温度は、80~160℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また加熱時間は、10~60分間が好ましく、15~40分間がより好ましい。
【0030】
また、中塗り塗膜(PCo)が未硬化の状態で後記の熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装する場合、中塗り塗料(PP)の塗装後に、静置したり、公知の手段によりプレヒートを行ったりすることができる。プレヒートは、例えば40~90℃、好ましくは50~85℃で、例えば1~10分間、好ましくは2~7分間行うことができる。
【0031】
中塗り塗膜(PCo)は、得られる塗膜の意匠性の観点から、L表色系における明度であるL値(L(PCo))が40~65の範囲内であることが好ましく、45~60の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
上記L表色系とは、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS Z 8781-4(2013)に規定される表色系であり、明度をL、色相と彩度を示す色度をa及びbで表すものである。
【0033】
本明細書におけるL値は、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した数値として定義するものとする。
【0034】
また、中塗り塗膜(PCo)が未硬化の状態で後記の熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装する場合、中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))は、中塗り塗料(PP)を、同一条件で別途塗装し、加熱硬化して得られる中塗り塗膜(PCo)について測定したL値(L(PCo))を用いるものとする。
【0035】
中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))は、例えば、中塗り塗料(PP)中に配合される、黒色顔料、白色顔料その他の着色顔料、体質顔料等の顔料の配合量、配合割合を調節することによって、適宜調整することができる。
【0036】
〔工程(1b)〕
本発明の工程(1b)においては、中塗り塗膜(PCo)上に、熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)を形成する。
第1ベース塗料(BP1)は、通常、着色顔料を含有する。
【0037】
着色顔料としては、塗料用として公知の着色顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、カーボンブラック、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等を挙げることができる。
【0038】
第1ベース塗料(BP1)中の着色顔料の含有量は、得られる塗膜の着色力や仕上がり外観の観点から、第1ベース塗料(BP1)中の全樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは5~25質量部であり、より好ましくは10~20質量部であり、さらに好ましくは13~18質量部である。
【0039】
第1ベース塗料(BP1)は、着色顔料の他に、上述の樹脂成分、上述の硬化剤等を含有することができる。
【0040】
第1ベース塗料(BP1)にはさらに必要に応じて、上記成分に加えて、例えば、有機溶剤、硬化触媒、体質顔料、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、その他塗料用添加剤等の公知の成分を適宜の割合で添加することができる。
【0041】
また、第1ベース塗料(BP1)は、鱗片状アルミニウム顔料を含有しない。鱗片状アルミニウム顔料を含有しないことによって、彩度が高く、膜厚変動による色変動が抑制された塗膜が形成できる。
【0042】
第1ベース塗料(BP1)は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。
【0043】
第1ベース塗料(BP1)を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が挙げられる。
第1ベース塗膜(BC1o)の膜厚は、硬化膜厚として、例えば5~15μm、好ましくは6~13μmである。
【0044】
また、本発明においては、中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))と、第1ベース塗膜(BC1o)のL値(L(BC1o))との差の絶対値|L(PCo)-L(BC1o)|が35以下である。
|L(PCo)-L(BC1o)|が35以下であると、複層塗膜の膜厚変動による色変動を抑制することができる。
【0045】
|L(PCo)-L(BC1o)|は、複層塗膜の色変動抑制の観点から、好ましくは34以下であり、より好ましくは33以下である。
【0046】
なお、本発明において第1ベース塗膜(BC1o)のL値(L(BC1o))は、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が10μmとなるように第1ベース塗料(BP1)を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算されたJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値を意味する。
【0047】
|L(PCo)-L(BC1o)|を上記範囲とするためには、中塗り塗料(PP)及び第1ベース塗料(BP1)それぞれの含有成分及び含有量を適宜調整すればよい。より具体的には、該塗料中の顔料の種類及び含有量を適宜調整すればよい。
【0048】
〔工程(1c)〕
本発明の工程(1c)においては、未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)上に、熱硬化性の第2ベース塗料(BP2)を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)を形成する。
第2ベース塗料(BP2)は、鱗片状雲母顔料(P1)を含有する。鱗片状雲母顔料(P1)によって、複層塗膜の光輝性を向上させ、かつ複層塗膜の彩度を高めることができる。
【0049】
鱗片状雲母顔料(P1)としては、例えば、鱗片状の天然雲母、鱗片状の人工雲母を挙げることができる。
天然雲母とは、鉱石の雲母を粉砕したものである。人工雲母とは、SiO、MgO、Al、KSiF、NaSiF等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものである。
【0050】
人工雲母としては、具体的には、フッ素金雲母(KMgAlSi10)、カリウム四ケイ素雲母(KMg25AlSi10)、ナトリウム四ケイ素雲母(NaMg25AlSi10)、Naテニオライト(NaMgLiSi10)、LiNaテニオライト(LiMgLiSi10)等が知られている。
【0051】
なお、人工雲母は表面処理されていてもよい。表面処理された人工雲母としては、例えば、表面を二酸化チタン等で被覆した干渉雲母、表面に着色顔料を化学吸着させた、又は表面を酸化鉄で被覆した着色雲母等が挙げられる。
【0052】
第2ベース塗料(BP2)中の鱗片状雲母顔料(P1)の含有量は、第2ベース塗料(BP2)の固形分を基準として、0.1質量%以上3質量%未満である。当該含有量が0.1質量%以上であると、得られる塗膜に十分な光輝性を与えることができる。当該含有量が3質量%未満であると、第2ベース塗膜(BC2o)の膜厚が厚くなっても鱗片状雲母顔料(P1)の影響で第1ベース塗膜(BC1o)の色が隠れてしまうことを抑制できるので、複層塗膜の膜厚変動による色変動を抑制することができる。
【0053】
当該含有量は、得られる塗膜の光輝性の観点から、第2ベース塗料(BP2)の固形分を基準として、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。また、当該含有量は、複層塗膜の膜厚変動による色変動を抑制する観点から、好ましくは2.8質量%以下であり、より好ましくは2.7質量%以下である。
【0054】
また、第2ベース塗料(BP2)は、着色顔料(P2)を含有する。着色顔料(P2)によって、第1ベース塗膜(BC1o)の色の深みを向上させることができる。
着色顔料(P2)としては、第1ベース塗料(BP1)に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0055】
第2ベース塗料(BP2)中の着色顔料(P2)の含有量は、得られる塗膜の着色力や仕上がり外観の観点から、第2ベース塗料(BP2)の固形分を基準として、好ましくは0.1~3.0質量%であり、より好ましくは0.5~2.5質量%であり、さらに好ましくは1.0~2.0質量%である。
【0056】
第2ベース塗料(BP2)は、鱗片状雲母顔料(P1)及び着色顔料(P2)の他に、上述の樹脂成分、上述の硬化剤等を含有することができる。
【0057】
第2ベース塗料(BP2)中の硬化剤の含有量は、塗膜の耐久性、硬化時間短縮の観点から、第2ベース塗料(BP2)中の全樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは10~70質量部であり、より好ましくは15~50質量部であり、さらに好ましくは20~40質量部である。
【0058】
第2ベース塗料(BP2)にはさらに必要に応じて、上記成分に加えて、例えば、有機溶剤、硬化触媒、体質顔料、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、その他塗料用添加剤等の公知の成分を適宜の割合で添加することができる。
【0059】
また、第2ベース塗料(BP2)は、鱗片状アルミニウム顔料を含有しない。鱗片状アルミニウム顔料を含有しないことによって、彩度及び深み感に優れ、膜厚変動による色変動が抑制された塗膜が形成できる。
【0060】
第2ベース塗料(BP2)は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。
【0061】
第2ベース塗料(BP2)を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が挙げられる。
【0062】
第2ベース塗膜(BC2o)の膜厚は、硬化膜厚として、4~12μmである。膜厚が4μm以上であると、第1ベース塗膜(BC1o)の色の深みを十分に向上させることができる。膜厚が12μm以下であると、複層塗膜の膜厚の幅が大きくなりすぎず、膜厚変動による色変動を抑制することができる。
【0063】
第2ベース塗膜(BC2o)の膜厚は、第1ベース塗膜(BC1o)の色の深み向上の観点から、硬化膜厚として、好ましくは5μm以上である。また、当該膜厚は、複層塗膜の膜厚変動を抑制する観点から、好ましくは7μm以下である。
【0064】
また、本発明においては、第1ベース塗膜(BC1o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC1o))と、第2ベース塗膜(BC2o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC2o))との差の絶対値|h(BC1o)-h(BC2o)|が16以下である。
【0065】
|h(BC1o)-h(BC2o)|が16以下であると、第1ベース塗膜(BC1o)と第2ベース塗膜(BC2o)の色相の違いが小さいので、複層塗膜の膜厚変動による色変動を抑制することができる。
【0066】
|h(BC1o)-h(BC2o)|は、複層塗膜の色変動抑制の観点から、好ましくは14以下であり、より好ましくは12以下である。
【0067】
なお、Lh表色系色度図の色相角度は、例えば、多角度分光光度計によって測定することができる。
h表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z8781-4(2013年)にも採用されているL表色系をベースに考案された表色系である。Lh表色系色度図の色相角度は、色度図において赤方向の軸を0°として、反時計方向に移動した角度である。
【0068】
本発明において第1ベース塗膜(BC1o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC1o))は、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が10μmとなるように第1ベース塗料(BP1)を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算されるLh表色系における色相角度habを意味する。
【0069】
また、本発明において第2ベース塗膜(BC2o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC2o))は、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が6μmとなるように第2ベース塗料(BP2)を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算されるLh表色系における色相角度habを意味する。
【0070】
|h(BC1o)-h(BC2o)|を上記範囲とするためには、第1ベース塗料(BP1)及び第2ベース塗料(BP2)それぞれの含有成分及び含有量を適宜調整すればよい。より具体的には、該塗料中の顔料の種類及び含有量を適宜調整すればよい。
【0071】
また、本発明においては、第2ベース塗膜(BC2o)の、波長400~700nmにおける光線透過率が40%以上60%未満である。当該光線透過率が40%以上であると、深み感及び光輝性に優れた複層塗膜を得ることができる。当該光線透過率が60%未満であると、深み感に優れ、膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を得ることができる。
【0072】
当該光線透過率は、第1ベース塗膜(BC1o)の色の深み向上の観点から、好ましくは43%以上であり、より好ましくは45%以上である。当該光線透過率は、複層塗膜の光による劣化抑制の観点から、好ましくは57%以下であり、より好ましくは53%以下である。
【0073】
なお、当該光線透過率は、以下のように測定することができる。
すなわち、第2ベース塗料(BP2)を、ポリプロピレン板上に硬化塗膜の膜厚が6μmとなるように塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得る。次に、該硬化塗膜をポリプロピレン板から剥離し、該硬化塗膜について分光光度計を用いて波長400~700nmの範囲における平均光線透過率を測定する。
【0074】
当該光線透過率を上記範囲とするためには、第2ベース塗料(BP2)の含有成分及び含有量を適宜調整すればよい。より具体的には、該塗料中の顔料の種類及び含有量を適宜調整すればよい。
【0075】
〔工程(1d)〕
本発明の工程(1d)においては、未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)上に、熱硬化性のクリア塗料を塗装して未硬化のクリア塗膜を形成する。
クリア塗料は、複層塗膜の平滑性及び鮮映性を向上させることができる。
【0076】
クリア塗料としては、自動車車体の塗装用として公知の溶剤系かつ2液型の熱硬化性クリア塗料組成物を使用できる。
溶剤系とは、水性と対比される用語であって、溶媒として実質的に水を含有しないものであることを意味する用語である。
2液型の熱硬化性クリア塗料組成物としては、例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂(主剤)及び架橋剤の2液を含有する有機溶剤型熱硬化性塗料組成物等を挙げることができ、塗装の直前に上記の2液を混合して用いられる。
【0077】
基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基及びシラノール基等を挙げることができる。
【0078】
基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフッ素樹脂等を挙げることができる。
【0079】
架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシル基含有化合物、カルボキシル基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びエポキシ基含有化合物等を挙げることができる。
【0080】
基体樹脂と架橋剤の使用割合には特に制限はないが、一般に、架橋剤は、基体樹脂固形分総量に対して、10~100質量%、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~60質量%の範囲内で使用することができる。
【0081】
クリア塗料には、必要に応じて、透明性を阻害しない程度に、着色顔料、光輝性顔料及び染料等を含有させることができ、さらに、体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤及び表面調整剤等を適宜含有させることができる。
【0082】
クリア塗料を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が挙げられる。
【0083】
クリア塗膜の膜厚は、硬化膜厚として、例えば10~60μm、好ましくは25~50μmである。
【0084】
〔工程(1e)〕
本発明の工程(1e)においては、未硬化の第1ベース塗膜(BC1o)、前記未硬化の第2ベース塗膜(BC2o)及び前記未硬化のクリア塗膜を加熱し、これらの塗膜を同時に硬化させる。
【0085】
加熱温度は、優れた硬度を持つ複層塗膜を得る観点から、好ましくは80~170℃であり、より好ましくは120~160℃である。
加熱時間は、優れた硬度を持つ複層塗膜を得る観点から、好ましくは10~60分間であり、より好ましくは20~40分間である。
【0086】
加熱方法は、通常の塗膜の焼付け手段、例えば、熱風加熱、赤外線加熱及び高周波加熱等を採用することができる。
【0087】
第1複層塗膜の膜厚は、硬化膜厚として、例えば60~110μm、好ましくは70~100μmである。
【0088】
<自動車車体の内板部への塗装>
本発明の塗装方法は、さらに、自動車車体の内板部(以下、単に「内板部」と称することがある。)に電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC2)を形成した後、前記内板部に後述の第2塗膜を形成する工程を含むことが好ましい。
【0089】
本発明の塗装方法が後述の第2塗膜を形成する工程を含むと、内板部において、外板部の塗装に使用するベース塗料を用いる場合でも、膜厚変動による色変動が抑制された塗膜が得られる。
【0090】
内板部とは、艤装工程を終了した完成車の外側から視認できない部分である。
内板部は、外板部と同様の鋼板から形成される。
【0091】
[自動車車体の内板部に電着塗膜(EC2)を形成する工程]
第2塗膜の形成においては、まず自動車車体の内板部に、電着塗料(EP)を塗装して、電着塗膜(EC2)を形成する。
電着塗膜(EC2)は、主に耐食性を付与することを目的として形成される。
【0092】
上記電着塗料(EP)としては、カチオン電着塗料を使用することが好ましい。
カチオン電着塗料による電着塗膜(EC2)の形成は、例えば、脱イオン水等で希釈して固形分濃度を5~40質量%とし、さらにpHを5.5~9.0の範囲内に調整したカチオン電着塗料からなる電着浴を、浴温15~35℃に調整し、負荷電圧100~400Vの条件で内板部を陰極として通電することによって行うことができる。
【0093】
カチオン電着塗料としては、例えば、カチオン性高分子化合物の水溶液又は分散液に、必要に応じて、架橋剤、各種顔料、その他の添加剤を配合してなる既知のものを使用することができる。
【0094】
カチオン性高分子化合物としては、例えば、水酸基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂やエポキシ樹脂にアミノ基を導入したものが挙げられる。これを有機酸や無機酸などで中和して水溶化又は水分散化せしめることによって、カチオン性高分子化合物の水溶液又は分散液が得られる。
架橋剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物や脂環式エポキシ化合物を使用することができる。
【0095】
電着塗装後、内板部に余分に付着したカチオン電着塗料を落とすために、限外濾過液(UF濾液)、逆浸透透過水(RO水)、工業用水、純水等で水洗してもよい。
【0096】
電着塗装による塗膜の加熱硬化は、電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機などの乾燥設備を用いて、塗装物表面の温度を110~200℃、好ましくは140~180℃にて、10~180分間、好ましくは20~50分間、塗膜を加熱して行うことができる。
【0097】
カチオン電着塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚として、例えば10~30μm、好ましくは15~25μmである。
【0098】
なお、塗装工程数削減の観点から、電着塗膜(EC2)を形成する工程は、電着塗膜(EC1)を形成する工程と同時に行うことが好ましい。
【0099】
[第2塗膜を形成する工程]
第2塗膜を形成する工程は、以下に記す工程(2a)~(2b)を含む。
【0100】
〔工程(2a)〕
本発明の工程(2a)においては、電着塗膜(EC2)上に、熱硬化性の第1ベース塗料(BP1)を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を形成する。
【0101】
本発明において、内板部に第2塗膜を形成するにあたっては、中塗り塗料(PP)、第2ベース塗料(BP2)及びクリア塗料の塗装を省略し、電着塗膜(EC2)形成後に第1ベース塗料(BP1)を塗装する方式が採用される。
この方式を採用することによって、内板部塗装工程のコストを削減することができる。
【0102】
また、第1ベース塗料(BP1)は、上述のものを用いることができる。
内板部に、外板部で用いるものと同一の第1ベース塗料を用いることによって、使用する塗料の品種を減らし、内板部塗装工程のコストを削減することができる。
【0103】
第1ベース塗料(BP1)を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法等が挙げられる。
第1ベース塗膜(BC1i)の膜厚は、硬化膜厚として、例えば5~20μm、好ましくは8~15μmである。
【0104】
また、本発明においては、電着塗膜(EC2)のL値(L(EC2))と、第1ベース塗膜(BC1i)のL値(L(BC1i))との差の絶対値|L(EC2)-L(BC1i)|が30以下である。
【0105】
|L(EC2)-L(BC1i)|が30以下であると、電着塗膜(EC2)と第1ベース塗膜(BC1i)の明度の差が小さいので、複層塗膜の膜厚変動による色変動を抑制することができる。
【0106】
|L(EC2)-L(BC1i)|は、複層塗膜の色変動抑制の観点から、好ましくは28以下であり、より好ましくは25以下である。
【0107】
なお、本発明において第1ベース塗膜(BC1i)のL値(L(BC1i))は、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が10μmとなるように第1ベース塗料(BP1)を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算されたJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値を意味する。
【0108】
|L(EC2)-L(BC1i)|を上記範囲とするためには、電着塗膜(EC2)及び第1ベース塗料(BP1)それぞれの含有成分及び含有量を適宜調整すればよい。より具体的には、該塗料中の顔料の種類及び含有量を適宜調整すればよい。
【0109】
〔工程(2b)〕
本発明の工程(2b)においては、未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)を加熱し硬化させる。該工程(2b)における焼付工程は、省エネルギー等の観点から、前記工程(1e)の焼付工程と同時に行うことが好ましい。
【0110】
未硬化の第1ベース塗膜(BC1i)の加熱温度は、優れた硬度を持つ複層塗膜を得る観点から、好ましくは80~170℃であり、より好ましくは120~160℃である。
加熱時間は、優れた硬度を持つ複層塗膜を得る観点から、好ましくは10~60分間であり、より好ましくは20~40分間である。
【0111】
加熱方法は、通常の塗膜の焼付け手段、例えば、熱風加熱、赤外線加熱及び高周波加熱等を採用することができる。
【実施例
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0113】
[試験板]
リン酸亜鉛処理された鋼板(450mm×300mm×0.8mm)にカチオン電着塗料EP(商品名「エレクロン9900」、関西ペイント社製)を塗装した。電着塗装後の鋼板を170℃及び30分間の条件で焼き付け乾燥を行い、厚さ20μmの電着塗膜(EC)を形成した鋼板を用意した。
かくして、電着塗装後の外板部及び内板部を想定した試験板を得た。
【0114】
この電着塗膜(EC)のJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値(L(EC))を、分光光度計(商品名「CM-512m3」、コニカミノルタ社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算したところ、52であった。
【0115】
[中塗り塗料]
樹脂成分として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びメラミン樹脂を含む有機溶剤型中塗り塗料PP(商品名「HS30 D60」、関西ペイント社製)を用意した。
【0116】
[第1ベース塗料]
(第1ベース塗料(BP1-1))
樹脂成分として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びメラミン樹脂を含む有機溶剤型ベース塗料(商品名「DN60」、関西ペイント社製)を用意した。
上記ベース塗料を用いて、上記ベース塗料中の全樹脂固形分100部に対して、「RED L3661HD」(ジケトピロロピロール系赤顔料、商品名、BASF社製)11部、「トダカラー KN-O」(酸化鉄顔料、商品名、戸田工業社製)4部、「TRONOX CR-826」(酸化チタン顔料、商品名、TRONOX社製)0.6部及び「カーボン MA-100」(カーボンブラック顔料、商品名、三菱ケミカル社製)0.01部を含有する有機溶剤型第1ベース塗料(BP1-1)を調製した。
【0117】
(第1ベース塗料(BP1-2))~(第1ベース塗料(BP1-8))
有機溶剤型ベース塗料(商品名「DN60」、関西ペイント社製)を用意した。
上記ベース塗料を用いて、上記ベース塗料中の全樹脂固形分100部に対して、各顔料の含有量が表1~4に記載された量である有機溶剤型第1ベース塗料(BP1-2)~(BP1-8)を調製した。
なお、アルミニウム顔料としては、「GX180A」(商品名、旭化成メタルズ社製)を用いた。
【0118】
[第2ベース塗料]
(第2ベース塗料(BP2-1))
有機溶剤型ベース塗料(商品名「DN60」、関西ペイント社製)を用意した。
上記ベース塗料を用いて、上記ベース塗料中の全樹脂固形分100部に対して、「M.E.CFS FINE RED 4303V」(鱗片状雲母顔料、商品名、BASF社製)0.7部、「M.E.SUPER GOLD 239Z」(鱗片状雲母顔料、商品名、BASF社製)1.6部、及び「R6436」(ペリレン系赤顔料、商品名、Sun Chemical Corporation社製)1.5部を含有する有機溶剤型第2ベース塗料(BP2-1)を調製した。
【0119】
(第2ベース塗料(BP2-2)~(BP2-9))
有機溶剤型ベース塗料(商品名「DN60」、関西ペイント社製)を用意した。
上記ベース塗料を用いて、上記ベース塗料中の全樹脂固形分100部に対して、各顔料の含有量が表1~4に記載された量である有機溶剤型第2ベース塗料(BP2-2)~(BP2-9)を調製した。
なお、アルミニウム顔料としては、「GX180A」(商品名、旭化成メタルズ社製)を用いた。
【0120】
[実施例1]
(外板部塗装工程)
上記で得られた試験板に、中塗り塗料PPを、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚で35μmとなるように塗布し、140℃で30分間加熱して硬化させ、中塗り塗膜(PCo)を得た。
この中塗り塗膜(PCo)のL値(L(PCo))を、分光光度計(商品名「CM-512m3」、コニカミノルタ社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算したところ、64であった。
【0121】
第1ベース塗料BP1-1を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚で10μmとなるように中塗り塗膜(PCo)上に塗布し、90秒間静置し、第1ベース塗膜(BC1o)を得た。
【0122】
第1ベース塗膜(BC1o)のJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値(L(BC1o))及びLh表色系色度図の色相角度(h(BC1o))は、以下のようにして別途測定した。すなわち、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が10μmとなるように第1ベース塗料BP1-1を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した。結果を表1に示す。
【0123】
その後、第2ベース塗料BP2-1を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚で6μmとなるように第1ベース塗膜(BC1o)上に塗布し、8分間静置し、第2ベース塗膜(BC2o)を得た。
【0124】
第2ベース塗膜(BC2o)のLh表色系色度図の色相角度(h(BC2o))は、以下のようにして別途測定した。すなわち、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が6μmとなるように第2ベース塗料BP2-1を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した。結果を表1に示す。
【0125】
また、第2ベース塗膜(BC2o)の、波長400~700nmにおける光線透過率を、以下のように測定した。
第2ベース塗料BP2-1をポリプロピレン板に塗装し、硬化させて膜厚6μmとし、得られた塗膜を剥離した。当該塗膜を試料として、分光光度計(商品名「UV3700」、株式会社島津製作所社製)を用いて400~700nmの波長の範囲で当該光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
その後、酸エポキシ系クリア塗料(商品名「DKC-K12-1」、関西ペイント社製)を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、硬化膜厚で35μmとなるように第2ベース塗膜(BC2o)上に塗布し、10分間静置し、クリア塗膜を得た。
【0127】
その後、塗装後の試験板を、140℃で30分間加熱した。
【0128】
(内板部塗装工程)
上記で得られた試験板に、第1ベース塗料BP1-1を、エアスプレーを用いて、硬化膜厚で10μmとなるように塗布し、18分間静置し、第1ベース塗膜(BC1i)を得た。
【0129】
第1ベース塗膜(BC1i)のJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値(L(BC1i))と、上記電着塗膜のL値(L(EC))との差を算出した。結果を表1に示す。
【0130】
なお、第1ベース塗膜(BC1i)のJIS Z8781-4(2013年)に規定されるL表色系における明度としてのL値(L(BC1i))は、以下のようにして別途測定した。すなわち、グレー(L値=64)の硬化塗膜が形成された塗板上に、硬化塗膜の膜厚が10μmとなるように第1ベース塗料BP1-1を塗装し、140℃で30分間加熱して硬化塗膜を得た後、該硬化塗膜について、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した。
【0131】
その後、塗装後の試験板を、140℃で30分間加熱した。
【0132】
[実施例2~10、比較例1~9]
第1ベース塗料BP1-1及び第2ベース塗料BP2-1を表1~4に示す第1ベース塗料又は第2ベース塗料とし、第2ベース塗料を表1~4に示す硬化膜厚となるように塗装した以外は、実施例1と同様にして外板部塗装及び内板部塗装を行い、同様の測定を実施した。結果を表1~4に示す。
【0133】
[塗膜評価]
(彩度)
上記実施例及び比較例で得られた外板部上の複層塗膜の彩度を、試験板に人工太陽灯を照射し、目視で観察し、下記基準で評価した。結果を表1~4に示す。
【0134】
◎:優れた彩度を示す。
○:やや彩度がある。
△:ほとんど彩度が無い。
×:まったく彩度が無い。
【0135】
(光輝性)
上記実施例及び比較例で得られた外板部上の複層塗膜の光輝性を、試験板に人工太陽灯を照射し、目視で観察し、下記基準で評価した。結果を表1~4に示す。
【0136】
◎:優れた光輝性を示す。
○:やや光輝性がある。
△:ほとんど光輝性が無い。
×:まったく光輝性が無い。
【0137】
(深み感)
上記実施例及び比較例で得られた外板部上の複層塗膜の色の深みを、試験板に人工太陽灯を照射し、目視で観察した。奥行き感、立体感の強い光り方を感じた場合に深み感に優れることとし、下記基準で評価した。結果を表1~4に示す。
【0138】
◎:優れた深み感を示す。
○:やや深み感がある。
△:ほとんど深み感が無い。
×:まったく深み感が無い。
【0139】
(色変動)
上記実施例及び比較例で得られた外板部上の複層塗膜及び内板部上の塗膜の色変動を、試験板を目視で観察することによって下記基準で評価した。結果を表1~4に示す。
【0140】
◎:色ムラがほとんど認められず、極めて優れた塗膜外観を有する。
○:色ムラがわずかに認められるが、優れた塗膜外観を有する。
△:色ムラが認められ、塗膜外観がやや劣る。
×:色ムラが多く認められ、塗膜外観が劣る。
【0141】
なお、塗膜の硬化膜厚は、測定場所によって±15%程度の誤差(膜厚変動)が生じるが、上記色ムラは、当該誤差が原因で生じると考えられる。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
表1~4の結果より、本発明の塗装方法では、彩度が高く、光輝性及び深み感に優れ、かつ膜厚変動による色変動が抑制された高意匠性の塗膜が得られることが分かった。