(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸及びこれの製造方法{Thermoplastic elastomer yarn with improved unwinding、weaving and yarn shrinking property,and manufacturing method thereof}
(51)【国際特許分類】
D01F 6/86 20060101AFI20220107BHJP
A43B 1/028 20220101ALI20220107BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20220107BHJP
D01F 11/14 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
D01F6/86
A43B1/028
A43B23/02 101A
D01F11/14
(21)【出願番号】P 2019222147
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2019-12-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0001892
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518184351
【氏名又は名称】ジョンサン インターナショナル カンパニーリミテッド
【氏名又は名称原語表記】JEONGSAN INTERNATIONAL Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】11, Noksansandan 382-ro 49beon-gil, Gangseo-gu, Busan, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【氏名又は名称】来代 哲男
(72)【発明者】
【氏名】キム,グ ファン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ヨン イン
(72)【発明者】
【氏名】リ,チャン ウォン
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0119804(US,A1)
【文献】特開平08-209458(JP,A)
【文献】特開平05-078937(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102851780(CN,A)
【文献】特開昭60-209039(JP,A)
【文献】特開2012-031551(JP,A)
【文献】特開2018-118504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B1/00-23/30
A43C1/00-19/00
A43D1/00-999/00
B29D35/00-35/14
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
11/00-13/04
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性弾性体材質のモノフィラメント原糸を放糸する段階(S10);
前記放糸された原糸を冷却後延伸する段階(S20);
前記延伸された原糸を170℃~190℃の熱処理温度で熱風乾燥する段階(S30);及び
前記熱風乾燥された原糸に油剤処理をする段階(S40);
を含み、
前記油剤はミネラル系オイルであることを特徴とする、解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性弾性体は、
ポリエステル-エーテル共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法。
【請求項3】
前記油剤は、
OPU(Oil Pick Up)が0.2%~3%であることを特徴とする、請求項1に記載の解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法。
【請求項4】
前記S10段階は、
前記熱可塑性弾性体の固有粘度が1.0~4.0dl/gであることを特徴とする、請求項1に記載の解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法。
【請求項5】
前記S20段階は、
前記放糸された原糸は、10~50℃温度の水中で冷却させる段階;
前記冷却された原糸を70~100℃温度の水中で1次延伸を進める段階;及び
前記1次延伸後120~200℃温度の熱風を利用して2次延伸を進める段階;
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項によって製造された解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項によって製造された解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸で製織された織物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5の何れか一項によって製造された解糸性
及び製織性
を有する熱可塑性弾性体原糸で製織された履き物製靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸及びこれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代は産業が急速に発展して生活水準の向上、生活のパターンが変化することによってレジャー、趣味、運動などの様々な余暇活動が多くなり、このような傾向に合わせて差別化された機能及びデザインを備えた新素材を組み合わせた製品の需要が急増している。特に履き物用甲革材の場合、このような特徴が目立ち、快適な着用感、通気性、軽量感、高強度、伸縮性、差別化された機能性製品と差別化デザインのファッション性が備え付けられた製品の需要が急増している。
【0003】
従来、履き物などの製造に適した素材として熱可塑性共重合体材質のモノフィラメント原糸を製造する工程が開発されている。モノフィラメントは半透明性を実現することができ、共重合体は、伸縮性に優れ屈曲性、摩耗強度などの物性が優秀で、ソフト(Soft)な触感をもって軽量化ができるので履き物などの製造に適した素材である。特に近年製造工程の傾向は人件費を節約できるノーソー(no sew)無縫製方式を多く用いるが、この方式はホットメルトを利用して接着する方式である。従って、工程過程で素材が熱と圧力を受けるようになるが、これによって素材に収縮が起きると、製品のサイズが変形されて製品生産に困難が生じる。このために素材の収縮率制御の必要性が生じて、同時に解糸性及び製織性も同時に満足できる熱可塑性弾性体原糸の開発が必要となる。
【0004】
従来の先行技術として、大韓民国公告特許第1996-0010623号は、伸縮性・編物の製造方法を開示しているが、解糸性、製織性及び原糸収縮率特性をともに満足させる熱可塑性弾性体原糸の製造方法については開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公告特許第1996-0010623号(1996.08.06)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、解糸性、製織性及び原糸収縮率特性をともに満足させる熱可塑性弾性体原糸及びこれの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の実施例に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法は、熱可塑性弾性体材質のモノフィラメント原糸を放糸する段階(S10);前記放糸された原糸を冷却後延伸する段階(S20);前記延伸された原糸を170℃~190℃の熱処理温度で熱風乾燥する段階(S30);及び前記熱風乾燥された原糸に油剤処理をする段階(S40)を含む。
【0008】
さらに、本発明に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法において、前記熱可塑性弾性体は、TPE共重合体またはポリエステル-エーテル共重合体であることを特微とする。
【0009】
さらに、本発明に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法において、前記油剤は、ミネラル系オイルまたはシリコン系オイルであることを特微とする。
【0010】
さらに、本発明に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法において、前記油剤は、OPU(Oil Pick Up)が0.2%~3%であることを特微とする。
【0011】
さらに、本発明に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法において、前記S10段階は前記熱可塑性弾性体の固有粘度が1.0~4.0であることを特微とする。
【0012】
さらに、本発明に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸の製造方法において、前記S20段階は、前記放糸された原糸は10~50℃温度の水中で冷却させる段階;前記冷却された原糸を70~100℃温度の水中で1次延伸を進める段階;及び前記1次延伸後120~200℃温度の熱風を利用して2次延伸を進める段階を含むことを特微とする。
【0013】
本発明の実施例に係る優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を有する熱可塑性弾性体原糸は前記製造方法によって製造されることを特微とする。
【0014】
本発明の実施例に係る織物は前記製造方法によって製造された熱可塑性弾性体原糸で製織されることを特微とする。織物は縦糸(経糸)と横糸(緯糸)が直角で交差しながら編まれて作られる布であって、交差点が多い組織が丈夫な生地を作って構成される方法により平織、綾織、朱子織がある。
【0015】
本発明の実施例に係る履き物製靴は、前記製造方法によって製造された熱可塑性弾性体原糸で製織されることを特微とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、本発明に係る熱可塑性弾性体原糸は優秀な解糸性、製織性及び原糸収縮率特性を持つ。
【0017】
さらに、原糸収縮率、解糸性、製織性、引張強度、伸率が優秀で織物及び履き物製靴に適した特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る熱可塑性弾性体原糸を製造するための放糸工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図を参照して本明細書に開示された実施例を詳細に説明するが、図面符号に関係なく同一か類似の構成要素は同じ参照番号を与えてこれに対する重複する説明は省略する。以下の説明で使われる構成要素に対する接尾辞“モジュール”及び“部”とは、明細書作成のし易さだけが考慮されて与えたり混用されて、それ自体が互いに区別される意味または役割を持つのではない。さらに、本明細書に開示された実施例を説明するにあたり関連した公示技術に対する具体的な説明が本明細書に開示された実施例の要旨を曖昧にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。さらに、添付図は、本明細書に開示された実施例を簡単に理解できるようにするためのもので、添付図によって本明細書に開示された技術的思想が制限されず、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むことで理解されなければならない。
【0020】
第1、第2などのように序数を含む用語は、様々な構成要素を説明するのに使われるが、前記構成要素は、前記用語によって限定されない。前記用語は、一つの構成要素を別の構成要素から区別する目的にだけ使われる。
【0021】
ある構成要素が別の構成要素に“連結されて”あるか“接続されて”いると言及された時には、その別の構成要素に直接的に連結されるかまたは接続されていてもよいが、中間に他の構成要素が存在することもできると理解されなければならない。一方、ある構成要素が別の構成要素に“直接連結されて”いるか“直接接続されて”いると言及された時には、中間に他の構成要素が存在しないと理解されなければならない。
【0022】
単数の表現は文脈上明らかに異なるように意味しない限り、複数の表現を含む。
【0023】
本出願で、“含む”または“持つ”等の用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の別の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性をあらかじめ排除しないものと理解されなければならない。
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。本発明は、本発明の精神及び必須特徴を逸脱しない範囲で別の特定の形態で具体化されるは当業者に自明である。
【0025】
<実施例>
本発明に係る熱可塑性弾性体原糸の製造方法は、熱可塑性弾性体材質のモノフィラメント原糸を放糸する段階;前記放糸された原糸を冷却後延伸する段階;前記延伸された原糸を170℃~190℃の熱処理温度で熱風乾燥する段階;及び前記熱風乾燥された原糸に油剤処理をする段階を含む。各段階別に細部的な工程を説明すれば次の通りである。
【0026】
1.原料放糸
TPE共重合体を用いたモノフィラメント原糸を放糸する工程に関するものである。前記原糸のポリマー原料の水分率は0.08%以下であることが好ましい。原料を圧出機10に投入する前に原料を乾燥させる。乾燥条件は、80~150℃温度で4~12時間であり、熱風乾燥または除湿乾燥機により乾燥させる。
【0027】
原料を圧出機10に投入して170~260℃放糸温度で所望の太さで製糸する。この時均一な太さの糸を抜き取るためには放糸された原料の固有粘度(IV)が1.0~4.0(単位:dl/g)であることが好ましい。固有粘度が下限値より低いと放糸の流れ性が高くなり放糸糸形性が悪くなり、固有粘度が上限値より高いと放糸性が低下して均一な太さの糸を抜き取るのが難しくなる。
【0028】
2.冷却及び1、2次延伸
放糸された原糸は、10~50℃温度の冷却水槽(20)の水中で冷却させて、その後70~100℃温度の水中で延伸ローラ(30)にて1次延伸を進める。1次延伸後120~200℃温度の熱風器(40)の熱風を利用して延伸ローラ(50)にて2次延伸を進めて、1、2次延伸後最終延伸比は2~8倍である。
【0029】
3.原糸熱処理工程
延伸された原糸を170~190℃温度で熱風乾燥してリラックス加工する。この工程では前の延伸工程より5~20%程度ロール速度を減少させることによって原糸をリラックス加工して安定化させる。履き物製靴では1%未満の収縮率を要求して、これを満足させるためには原糸の収縮率が5~10%の間にならなければならない。前記原糸熱処理工程を経て既存30%である原糸収縮率が5~10%に調節される。
【0030】
4.油剤処理
製織性向上及び整経時張力均一化のために原糸に放糸油剤処理をする。オイリング処理器を利用してOPU(Oil Pick Up)が0.2%~3.0重量%(油剤固形分含有量基準)になるように油剤処理をする。油剤固形分含有量はエマルジョン形態になっている油剤をローラで原糸に塗った後乾燥させるが、乾燥後原糸に付いている油剤固形分の量である。
【0031】
用いられる放糸油剤としては、解糸性及び製織性を満足させるためにシリコン系またはミネラル系オイル(Liquid paraffin oil)を用いる。一般に用いられる放糸油剤のうちFatty acid ester、Fatty acid polyol ester、POE alkyl alkylate、Polyether、Wax(paraffin)は解糸性及び製織性を満足させることができないので適しない。
【0032】
追加で静電気防止剤、変色防止剤、酸化防止剤など機能を与えるための添加剤を同時に用いてもよい。
【0033】
この時、放糸油剤処理された原糸は整経、製織時作業性に問題がないべきであり、染色前に洗練処理で用いられた油剤を除去すべきである。除去されなかった油剤は染色不均一と完成品で接着力低下などの原因になる。油剤を除去する方法は、染色前にアルカリ条件下の温水70~100℃で界面活性剤0.1~5%を用いて除去する。
【0034】
前記原糸は伸縮性が多く表面にタック(TACKY)性が多く前記で提示した成分の及び処理量が処理されない時、整経及び製織時の種々のロールを通過しながら作業が進行されるが、この際用いられるロールの材質が多くはメタルであり、メタルとの摩擦力が高まり不均一になり、特に経糸整経時過多張力による糸切、整経ビーム原糸食い込み、原糸コーン間の不均一な張力偏差による製織時経糸条発生、原反シワが発生して、緯糸作業時にも表面摩擦力過多で原糸粉汚染発生、緯段、シワが発生することになる。
【0035】
油剤処理の成分が前記で提示した成分が正しいとしても、油剤処理量が過多に処理される場合(OPU 3%以上)スリップ(SLIP)性が過多になって整経時にガイドロールに油剤のかたまりによる汚染、過度なスリップ性で不均一の整経張力による製織後経糸列、シワが発生して、製織時経糸ビームの原糸が解けるのを一定の張力で維持するゴムのストッパーが過度なスリップ性により均一な張力を維持できないことによって緯段、シワが発生するようになる。
【0036】
尚、前記原糸に前記で提示した成分及び処理量と異なる時巻き取りされたボビンで原糸が解糸される時原糸間タック(TACKY)性により解糸性が悪くなるので整経または製織時張力過多及び不均一を招くようになる。
【0037】
前記原糸は、提示した放糸、延伸、熱処理条件に合うとしても油剤処理の条件が合わなかった時張力不均一、過多張力などで経糸条、緯段、原糸粉汚染など製品表面品質に直接的な影響を与えるようになる。
【0038】
<熱処理温度に係る原糸物性比較>
前記3.原糸熱処理工程での熱処理温度に応じて原糸の収縮率に影響を及ぼすので最適な熱処理温度設定のために熱処理温度を170℃(実施例1)、190℃(実施例2)にして原糸収縮率、解糸性、製織性、引張強度、伸率を測定した。
【0039】
比較のために熱処理工程をしなかった場合(比較例1)、熱処理温度を100℃(比較例2)、150℃(比較例3)、200℃(比較例4)にして各々原糸収縮率、解糸性、製織性、引張強度、伸率を測定した。
【0040】
前記物性を測定した結果を表1に示した。表1によると、本発明に係る実施例1及び2が収縮率、解糸性、製織性、引張強度、伸率において比較例1~4に比べて非常に優秀で履き物製靴に適した特性を有している。
【0041】
【0042】
<放糸油剤種類によった原糸物性比較>
放糸油剤種類に応じた原糸の物性を測定した結果を表2に示した。熱処理温度170℃及び190℃で解糸性及び製織性を満足させる放糸油剤はシリコン系とミネラル系オイル(Liquid paraffin oil)であることを確認することができる。
【0043】
放糸油剤のうちFatty acid ester、Fatty acid polyol ester、POE alkyl alkylate、Polyether、Wax(paraffin)は解糸性及び製織性を満足させられないので放糸油剤として適していない。
【0044】
【0045】
一方、以上の詳細な説明はすべての面で制限的に解釈されてはならず例示的であると考慮されなければならない。本発明の範囲は添付された請求項の合理的解釈によって決定されなければならず、本発明の等価的範囲内でのすべての変更は本発明の範囲に含まれる。