(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】固体サーモクロミックデバイス及びそのデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20220128BHJP
C03C 17/36 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
G02B5/26
C03C17/36
(21)【出願番号】P 2019503933
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 FR2017052092
(87)【国際公開番号】W WO2018020160
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-05-20
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】500201613
【氏名又は名称】センタ・ナショナル・デチュード・スパティアレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】コリンヌ・マルセル
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・サバリ
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・ヴェルダレ・グアルディオラ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ルモーリ
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-137251(JP,A)
【文献】特開2008-045207(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0155154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
C03C 17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタックを備える固体サーモクロミックデバイスであって、前記スタックが、背面から太陽放射に晒される前面まで、
(a)550℃以下の温度に耐性のある無機材料からなる固体基板と、
(b)導電性材料で作られる赤外線反射層と、
(c)電子絶縁性界面層と、
(d)酸化セリウム(CeO
2)で作られ、400から900nmの厚さを有する、赤外線に対して透過的な電子絶縁性無機誘電体層と、
(e)電子絶縁性界面層と、
(f)nドープされたVO
2酸化バナジウムであり、単斜晶相又はルチル相に結晶化された、30から50nmの厚さを有する赤外活性サーモクロミック材料の層と、
(g)赤外線に対して透過的な、日射反射コーティングである日射防止コーティングと、
を連続的に備える、固体サーモクロミックデバイス。
【請求項2】
前記固体基板が、アルミニウム、シリコン及びホウケイ酸ガラスの中から選択される材料で作られる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記固体基板が、層の形態である、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記層が、0.3から1mmの厚さを有する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記赤外線反射層(b)の導電性材料が、金属、金属合金、及び可視範囲で透過可能な導電性金属酸化物から選択される、請求項1から4の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記赤外線反射層(b)の導電性材料が、貴金属、アルミニウム及びクロムから選択される、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記反射層(b)が、金、銀又は白金である、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記反射層(b)が、80から150nmの厚さを有する、請求項1から7の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記界面層(c)の数が2である、請求項1から8の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記界面層(c)が、10から30nmの総厚を有する、請求項1から9の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記界面層(c)が、前記反射層から出発して、Si
3N
4又はAlNからなる第1の層、次いで、SiO
2又はAl
2O
3からなる第2の層を含む、請求項1から10の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
Si
3N
4又はAlNからなる前記第1の層が、5から15nmの厚さを有し、SiO
2又はAl
2O
3からなる前記第2の層が、5から15nmの厚さを有する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記界面層(e)の数が2である、請求項1から12の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記界面層(e)が、105から155nmの総厚を有する、請求項1から13の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記界面層(e)が、前記反射層から出発して、SiO
2からなる第1の層、次いで、Si
3N
4からなる第2の層を備える、請求項1から14の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
SiO
2からなる前記第1の層が、5から15nmの厚さを有し、Si
3N
4からなる前記第2の層が、100から140nmの厚さを有する、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
V
4+カチオンを含む前記バナジウムIV酸化物(VO
2)が、酸素空孔でnドープされ、及び/又は、4より大きい価数nを有するZ
n+金属カチオンを用いた前記V
4+カチオンの置換によってnドープされる、請求項1から16の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記バナジウムIV酸化物(VO
2)が、酸素空孔によってのみnドープされており、式VO
2-xに対応し、xが、0超、0.25以下である、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記バナジウムIV酸化物(VO
2)が、4より大きい価数nを有するZ
n+金属カチオンを用いたV
4+カチオンの置換によってのみnドープされ、式V
1-yZ
yO
2に対応し、yが、0.01から0.03の範囲である、請求項17に記載のデバイス。
【請求項20】
nが5又は6に等しく、ZがNb、Ta、Mo又はWの中から選択される、請求項17又は19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記バナジウムIV酸化物(VO
2)が、酸素空孔と、4より大きい価数nを有するZ
n+金属カチオンを用いた前記V
4+カチオンの置換とによって同時にnドープされており
、式V
1-yZ
yO
2-xに対応する、請求項17に記載のデバイス。
【請求項22】
赤外線に対して透過的である前記日射反射コーティングである日射防止コーティング(g)が、ブラッグミラーからなる、請求項1から21の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
前記ブラッグミラーが、高屈折率(nが2から2.5)の金属酸化物の層と、低屈折率(nが1.3から1.8)の酸化物の層との交互層からなる、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
(a)550℃以下の温度に耐える、無機材料の固体基板に導電性材料からなる赤外線反射層を堆積する段階と、
(b)段階(a)の間に堆積された前記赤外線反射層に電子絶縁性界面層を堆積する段階と、
(c)段階(b)の間に堆積された前記界面層に、400から900nmの厚さを有する、酸化セリウム(CeO
2)で作られた、赤外線に対して透過的な電子絶縁性無機誘電体層を堆積する段階と、
(d)段階(c)の間に堆積され、酸化セリウム(CeO
2)から作られる、赤外線に対して透過的な前記電子絶縁性
無機誘電体層に電子絶縁性界面層を堆積する段階と、
(e)段階(d)の間に堆積された前記界面層に、ドープされていないバナジウム酸化物(VO
2)又は酸素空孔がドープされたバナジウム酸化物(VO
2-x)であり、単斜晶相である赤外活性サーモクロミック材料の層を堆積する段階であって、超微細層、すなわち、0.1から0.5nmの厚さの金属Zの層が、前記ドープされていないバナジウム酸化物VO
2の層に挿入され、又は、任意に、超微細層、すなわち、0.1から0.5nmの厚さの金属Zの層が、前記酸素空孔がドープされたバナジウム酸化物(VO
2-x)の層に挿入される、段階と、
(f)前記サーモクロミック材料を結晶化するために、450℃を超え550℃未満の温度で、前記基板、及び段階(a)から(e)の間に堆積された前記層をアニーリングする段階と、
(g)前記サーモクロミック材料の層に、赤外線を透過する、日射反射コーティングである日射防止コーティングを堆積する段階と、
が連続して行われる、請求項1から23の何れか一項に記載のデバイスを製造する方法。
【請求項25】
前記金属Zが、タングステン金属である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記基板、及び段階(a)から(e)の間に堆積された前記層のアニーリングが、少なくとも96体積%のアルゴンを含有するアルゴン及び酸素雰囲気下で行われる、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記層及び前記日射防止コーティングが、マグネトロンカソードスパッタリング、レーザーアブレーション及び蒸着の中から選択される物理気相堆積法(PVD)によって堆積される、請求項24から26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
全ての前記層及び前記日射防止コーティングが、同じ物理気相堆積法によって、真空下で堆積される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
段階(f)及び(g)を含む全ての前記段階が、
同一の真空チャンバ内で前記段階の各々の間に前記
真空チャンバを開くことな
く連続的に行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
物体の熱的保護のための、請求項1から23の何れか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項31】
前記物体が、衛星、建物、又は、乗り物の客室である、請求項30に記載のデバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体(全固体)サーモクロミックデバイスに関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、赤外線に活性である固体(全固体)サーモクロミックデバイスに関し、酸化バナジウムIV(VO2)に基づくサーモクロミック材料の層を有する薄層の無機スタックを含む任意の固体状態に関する。
【0003】
さらに正確には、本発明によるデバイスは、赤外線(IR)において変調することができる放射率と、低い日射吸収率とを有する固体サーモクロミックデバイスである。
【0004】
「固体デバイス」(「全固体デバイス」)という用語は、室温で固体の無機材料のみからなるデバイスを意味すると理解される。
【0005】
本発明は、さらに前記デバイスの製造方法に関する。
【0006】
本発明の技術分野は、一般に、赤外線に活性であり、赤外線で動作する、又は赤外線作動する、いわゆる「固体」(全固体)デバイスの技術分野として定義することができる。
【0007】
そのようなデバイスは、特に衛星の熱保護のための宇宙用途に使用することができる。
【背景技術】
【0008】
現在、赤外線に活性であり、赤外線で動作する2つのクラスのデバイス、システム、すなわち、第1にエレクトロクロミックデバイス、システム、及び、第2に、サーモクロミックデバイス、システムがある。
【0009】
第1に、赤外線で動作するエレクトロクロミックデバイス、システムに関して、現在赤外線に活性なエレクトロクロミックデバイス、システムの2つの主要なファミリー、すなわち、有機ポリマーのみに基づく「全有機」デバイスと呼ばれることがある有機デバイス、及び、無機又は鉱物層のスタックからなる「固体」(「全固体」)デバイスと呼ばれる無機デバイスがある。
【0010】
これらの大きなファミリーの他に、有機材料及び無機材料を組み合わせた、いわゆるハイブリッドデバイスもある。
【0011】
有機エレクトロクロミックデバイスの中には、多孔質でIRを反射する金膜上の可変吸収剤導電性ポリマーをベースにしたフレキシブルなシステムがある。そのようなデバイスは、複雑な準備及び活性化プロセスが実施されない限り、特に前面において、界面の層間剥離の危険をもたらす。
【0012】
有機エレクトロクロミックデバイスの中には、上記のフレキシブルデバイスよりも壊れにくい、すなわち「調整可能な放射率を有する相互貫入ポリマーネットワーク」のような層間剥離の危険性がない堅牢なシステムもある。
【0013】
しかしながら、有機エレクトロクロミックデバイスは、衛星の熱的保護のために空間条件に適合させることが依然として困難である。ポリマーが極端な温度及びUVに敏感であり、一方、液体電解質が、高(二次)真空下に置かれると、漏洩及び/又は不可逆変形の危険があるからである。
【0014】
無機エレクトロクロミックデバイスは、有機エレクトロクロミックデバイスよりも耐性があるが、放射率が、電気化学的活性化による酸化還元電位によって異なるため、それらの統合には依然として、電気接点及び電圧制御管理システムの実装が必要である。
【0015】
そのようなデバイスの例は、米国特許第7,265,890号明細書及び米国特許出願公開第2016/0018714号明細書に記載されている。
【0016】
赤外線で作動するサーモクロミックデバイス、システムに関して、これらのデバイスは、電気化学的に活性化される必要がなく、従って電極を必要としないという利点を有する。これは、サーモクロミック「タイル」(又は「パッチ」)が、衛星の壁、又は、建物若しくは自動車のガラスにおいて、統合の観点でエレクトロクロミックタイルよりも遥かに興味深い理由である。
【0017】
一方では、赤外線で動作するサーモクロミックデバイス、システムの中には、良好なエネルギー効率を得ることを目的としたデバイス、システム、より簡単には、エネルギー効率のためのシステムがあり、他方では、宇宙用途のための可変放射率を有するデバイス、システムがある。
【0018】
エネルギー効率のためデバイス、システムは、ガラスの分野での用途を意図しており、視覚的及び熱的快適性を組み合わせなければならない。
【0019】
これらのデバイスの活性材料は、一般に、高温(すなわち、VO2の場合68℃である、スイッチング温度Tcと呼ばれる温度より高い温度で)で赤外反射体となる銅色のバナジウム酸化物で作られる。
【0020】
特に、タングステンでVO2をドープすることによって、このスイッチング温度Tcは、S-Y Li、G.A.Niklasson、C.G.Granqvistによる文献(“Thermochromic fenestration with VO2-based materials: Three challenges and how they can be met”, Thin Solid Films 520 (2012) 3823-3828.)に記載されているように、約25℃に下げることができる。
【0021】
エネルギー効率のためのこれらのサーモクロミックデバイス、システムの例は、仏国特許出願公開第2809388号明細書、仏国特許出願公開第2856802号明細書、仏国特許出願公開第2015/0203398号明細書、仏国特許出願公開第2012/0064265号明細書及び仏国特許出願公開第2015/0362763号明細書に記載されている。
【0022】
可変放射率デバイス、システムは、宇宙用途では、同じ活性材料、すなわち、ドープされたVO2が使用される。これらの宇宙用途は、ガラス用途と比較して、より低い温度に向かって移った動作範囲、すなわち、-30℃から+100℃、例えば-20℃から+68℃の動作範囲を必要とする。この動作範囲は、衛星の種類によって異なる。
【0023】
したがって、これらのデバイスは、マグネトロンカソードスパッタリング技術によって達成され得る、非常に優れたドーピング品質を必要とする。これに関しては、米国特許第7,761,053号明細書を参照されたい。
【0024】
K.Wang, Y.Cao, Y.Zhang, L.Yan, Y.Liによる文献(“Manufacturing of VO2-based multilayer structure with variable emittance”, Applied Surface Science 344 (2015) 230-235)は、宇宙用途のための可変放射デバイス、システムの例を示しており、ここで、銀のバックグラウンド上に900nmのHfO2の層が堆積された、3%のWがドープされた50nmのVO2の層で5℃のスイッチング温度が達成された。このようにして、赤外光コントラストΔε=0.37が得られる。
【0025】
実際、熱いときにシステムに高い放射率を与えるために、非常に薄い層(一般的には10から80nmの厚さ)に堆積されたサーモクロミック材料は、赤外IR放射に対して透過的であり、非常に厚い(約1μm)誘電体層によって反射壁から隔離されなければならない。この点に関しては、米国特許出願公開第2014/0139904号明細書を参照することができる。
【0026】
さらに、これらのデバイスは、デバイスの前面に日射防止層を必要とし、それは、活性材料の作用を妨害しない。したがって、この層は、0.28から2.5μmの波長範囲にわたって太陽光スペクトルを反射しなければならず、2.5から25μmの波長の赤外線IR放射に対して透過的なままでなければならない。
【0027】
宇宙応用のための可変放射率を有するサーモクロミックデバイス、システムの例は、様々な文献に記載されている。
【0028】
米国特許第7,691,435号明細書において、10から96nmの厚さを有する層の形態のVO2である活性材料の日射反射特性は、アルミニウムバックグラウンド上の11から250nmの厚さを有する交互のシリコン層の導入によって強化され、ここで、主反射層は、MgF2/ZnSの多中心ブラッグミラーで構成される。
【0029】
E.Haddadらによる文献(“Tuneable emittance thin film coatings for thermal control”, in: society of automotive engineers, Inc.Proceedings (2009), 2009-01, 2575-2587)には、0.57から0.32までα(日射吸収率)を低下させることができるVO2/SiO2ベースのスタックが開示されている。
【0030】
赤外線で動作するサーモクロミック固体の、全固体のデバイス、システムを準備する方法に関して、これらの方法は、デバイスの固体無機スタックの各層を準備するために異なる技術を使用する。
【0031】
例えば、A.Hendaoui, N.Emond, M.Chaker及びE.Haddad(“Highly tunable-emittance radiator based on semiconductor-metal transition of VO2 thin films”, Applied Physics Letters 102, 061107 (2013))による文献には、SiO2誘電体層がPECVDによって堆積されるサーモクロミックデバイスの製造が記載されており、反射性バックグラウンドは、カソードスパッタリングによって堆積され、VO2層は、レーザーアブレーションによって堆積される。したがって、3つの異なる機械を使用してデバイスを準備する必要がある。
【0032】
K.Wang, Y.Cao, Y.Zhang, L.Yan, Y.Liによる文献(“Fabrication of VO2-based multilayer structure with variable emittance,” Applied Surface Science 344 (2015) 230-235)には、HfO2の誘電体層が蒸着によって堆積され、銀反射体のバックグラウンド及びタングステンがドープされたVO2で作られたサーモクロミック層が、カソードスパッタリングによって製造される、サーモクロミックデバイスの準備が記載されている。
【0033】
したがって、2台の異なる機械を使用してデバイスを準備する必要がある。
【0034】
上述した従来技術の固体サーモクロミックデバイスの本質的な欠点は、SiO2及びHfO2誘電体層が9から16μmの間のフォノンバンドを有し、これが強い吸収を発生させ、それがデバイスの性能を低下させることがあるという事実にある。
【0035】
したがって、前述の観点から、赤外線に活性である、特に赤外線で調節可能な放射率(IR)を有する、この欠点に悩まされないサーモクロミックデバイスが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【文献】米国特許第7,265,890号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0018714号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2809388号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2856802号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2015/0203398号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2012/0064265号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2015/0362763号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0139904号明細書
【文献】米国特許第7,691,435号明細書
【非特許文献】
【0037】
【文献】S-Y Li、G.A.Niklasson、C.G.Granqvist, “Thermochromic fenestration with VO2-based materials: Three challenges and how they can be met”, Thin Solid Films 520 (2012) 3823-3828.
【文献】K.Wang, Y.Cao, Y.Zhang, L.Yan, Y.Li, “Manufacturing of VO2-based multilayer structure with variable emittance”, Applied Surface Science 344 (2015) 230-235
【文献】E.Haddad et al, “Tuneable emittance thin film coatings for thermal control”, in: society of automotive engineers, Inc.Proceedings (2009), 2009-01, 2575-2587
【文献】A.Hendaoui, N.Emond, M.Chaker、E.Haddad, “Highly tunable-emittance radiator based on semiconductor-metal transition of VO2 thin films”, Applied Physics Letters 102, 061107 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
上記を考慮して、高い機械的強度を提供し、例えば100℃以上の高温に耐性があり、紫外線に耐性がある、赤外線に活性であり、真空が支配する環境、例えば宇宙に置かれるかもしれない、頑強なサーモクロミックデバイスが依然として必要とされている。
【0039】
限られた工程数及び短い期間で簡単な方法を用いて製造することができるデバイスに対する必要性もある。
【0040】
本発明の目的は、特に上に列挙した必要性を満たす、赤外線に活性なサーモクロミックデバイスを提供することである。
【0041】
最後に、本発明の目的は、従来技術のデバイスの不利益、制限、欠陥及び欠点を被らず、かつ従来技術のデバイスの問題を解決するデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0042】
この目的及び他の目的は、本発明によれば、
スタックを備える固体サーモクロミックデバイスであって、前記スタックが、背面から太陽放射に晒される前面まで、
(a)550℃以下の温度、特に540℃以下の温度、例えば500℃以下の温度に耐性のある無機材料からなる固体基板と、
(b)導電性材料で作られる赤外線反射層と、
(c)電子絶縁性界面層と、
(d)酸化セリウム(CeO2)で作られ、400から900nm、好ましくは700から900nmの厚さを有する、赤外線に対して透過的な電子絶縁性無機誘電体層と、
(e)電子絶縁性界面層と、
(f)nドープされたVO2酸化バナジウムであり、単斜晶相又はルチル相に結晶化された、30から50nm、好ましくは30から40nmの厚さを有する赤外活性サーモクロミック材料の層と、
(g)赤外線に対して透過的な、日射反射コーティングである日射防止コーティングと、
を連続的に備え、好ましくはこれらからなる、固体サーモクロミックデバイスによって達成される。
【0043】
一般に、固体基板は、少なくとも96体積%のアルゴンを含有するアルゴン及び酸素雰囲気中で、550℃の温度まで、特に540℃の温度まで、例えば500℃の温度まで耐性のある無機材料で作られる。
【0044】
「赤外線反射層(b)」という用語は、この層が中赤外(IR)の範囲、すなわち2.5から25μmの波長に対して常に反射性であることを意味すると理解され、好ましくは、場合によっては、これが日射吸収率の低減に寄与するので、0.78から2.5μmの近IRで反射性であり、それは、特に、厚さ100nmの銀の層の場合であるが、十分な導電性がないため、金属酸化物の場合ではない。
【0045】
「赤外線に対して透過的な電子絶縁性誘電体層(d)」という用語は、この層が、2.5から25μmの中赤外線に対して透過的であることを意味すると理解される。
【0046】
「赤外線に対して透過的な日射保護コーティング(g)」という用語は、このコーティングが、9μmに吸収ピークを有する2.5から25μmの中赤外線に対して透過的であることを意味する。
【0047】
「日射防止コーティング、日射反射コーティング」という用語は、このコーティングが、日射の全範囲、すなわち0.28から2.5μmまでの範囲にわたって日射を反射することを意味すると理解される。
【0048】
また、「全赤外線」という用語は、0.78から2.5μmの近赤外、2.5から25μmの中赤外、25μmから100μmの遠赤外を指す。
【0049】
有利には、前記固体基板は、アルミニウム、シリコン及びホウケイ酸ガラスの中から選択される材料で作られる。
【0050】
有利には、前記固体基板は、層の形態、好ましくは0.3から1mmの厚さ、例えば0.5mmの厚さを有する層の形態である。
【0051】
導電性材料(b)で作られた赤外線反射層は、おそらく反射性バックグラウンドとも呼ばれる。
【0052】
好ましくは、前記層(b)の導電性材料は、金、銀又は白金のような貴金属、アルミニウム及びクロム、金属合金のような金属、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)等の可視範囲で透過可能な導電性金属酸化物、又は、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)から選択され、好ましくは、前記反射層が銀で作られる。
【0053】
反射層は、赤外線の反射率が60から100%、好ましくは100%である。
【0054】
より正確には、反射層が金属及び金属合金の中から選択された材料で作られる場合、反射層は、100%の反射率を有する。これは、本発明によるデバイスが、透明である必要がない衛星の壁を備えることを意図している場合に、特に当て嵌る。
【0055】
反射層は、可視領域で透明な導電性金属酸化物の中から選択された材料で作られる場合、60%から80%の反射率を有する。これは、本発明によるデバイスが、例えば建物又は自動車用のガラスにおいて使用されることを意図されている場合に特に当て嵌る。なぜなら、これらの酸化物は、金属よりも導電性が低く、従ってIRの反射が少ないからである。
【0056】
有利には、前記反射層(b)は、80から150nm、好ましくは100nmの厚さを有する。
【0057】
界面層(c)は、反射層(b)上の誘電体層(d)の付着を確実にすることを可能にする。
【0058】
有利には、前記界面層(c)の数は2である。
【0059】
有利には、前記界面層(c)は、10から30nmの総厚を有する。
【0060】
これらの界面層のための材料の選択は、可能な限り低くなければならないターゲット材料のコストによって導かれる。
【0061】
有利には、前記界面層(c)は、前記反射層から出発して、Si3N4又はAlNからなる第1の層、次いで、SiO2又はAl2O3からなる第2の層を備える。
【0062】
実際、ターゲット材料Si及びAlのコストは、特に低い。
【0063】
窒化された第1の層は、それが容易に酸化する銀のような金属又は金属合金で作られるとき、反射層の不動態化を可能にする。したがって、この窒化された第1の層は、銀の場合には不可欠であると考えられる。
【0064】
この窒化された第1の層は、他の金属又は金属酸化物へのCeO2の付着にも役立つ。
【0065】
酸化された第2の層は、その一部では、酸化セリウムの凝集を確実にする。
【0066】
有利には、Si3N4又はAlNからなる前記第1の層は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有し、SiO2又はAl2O3からなる前記第2の層は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有する。
【0067】
界面層(e)は、サーモクロミック層(f)と赤外線に対して透過的である電子絶縁性誘電体層(d)との間の如何なる化学反応も防止することを可能にする。
【0068】
有利には、前記界面層(e)の数は2である。
【0069】
有利には、前記界面層(e)は、105から155nmの総厚を有する。
【0070】
これらの界面層の材料の選択は、可能な限り低くなければならないターゲット材料のコスト、及び、酸化バナジウムに対するこれらの界面層の材料の中性(反応性の欠如)によって導かれる。
【0071】
有利には、前記界面層(e)は、前記反射層から出発して、SiO2からなる第1の層、次いで、Si3N4からなる第2の層を備える。
【0072】
実際、ターゲット材料Siのコストは特に低く、これらの界面層の酸化された(SiO2)又は窒化された(Si3N4)金属(又は半金属)は、バナジウム酸化物に対して優れた中性を有する。
【0073】
Si3N4層をバッファ層と呼び、SiO2層を単に界面層と呼ぶことができる。
【0074】
有利には、SiO2からなる前記第1の層は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有し、Si3N4からなる前記第2の層は、100から140nm、例えば120nmの厚さを有する。
【0075】
有利には、界面層(c)及び(e)は、CeO2で作られる誘電体層の両側に対称的に配置される。
【0076】
赤外線活性サーモクロミック材料(f)は、nドープされたバナジウムIV酸化物(VO2)であり、結晶化されている。
【0077】
本発明によるデバイスの光学性能は、導電性金属/半導体転移によって、より正確には、ドープされて結晶化されたバナジウムIV酸化物(VO2)の導電性ルチル相と、ドープされて結晶化されたバナジウムIV酸化物(VO2)の単斜晶系の相との間の転移によって生じる。
【0078】
この転移は、スイッチング温度Tcと呼ばれる温度で発生する。ドープされて結晶化されたバナジウムIV酸化物(VO2)がTc以下の温度であるとき、それは、単斜晶系半導体相であり、ドープされて結晶化されたバナジウムIV酸化物(VO2)がTcより高い温度にあるとき、それは、ルチル金属導電相である。
【0079】
ドープされていないVO2バナジウム酸化物の場合、Tcは、68℃である。それは、68℃でのスイッチングとして記載される。
【0080】
バナジウムIV酸化物(VO2)は、nドープされている。
【0081】
事実、バナジウムIV酸化物のn型ドーピングは、そのスイッチング温度Tcを68℃以下に下げることを可能にする。
【0082】
前記バナジウムIV酸化物(VO2)は、酸素空孔でnドープされ、及び/又は、4より大きい価数nを有するZn+金属カチオンを用いた前記V4+カチオンの置換によってnドープされる。
【0083】
そのため、バナジウムIV酸化物(VO2)は、酸素空孔によってのみnドープされ得る。
【0084】
酸素空孔によってのみnドープされた前記バナジウム酸化物、従って酸素準化学量論的バナジウム酸化物は、式VO2-xを有し、xが、0超、0.25以下、好ましくは0.1から0.25である。
【0085】
酸素空孔によるnドーピングは、酸素準化学量論的なバナジウムIV酸化物の堆積条件を精密に制御することによって行うことができる。
【0086】
バナジウムIV酸化物(VO2)は、4より大きい価数nを有するZn+金属カチオンを使用してV4+カチオンを置換することによってのみnドープされ得る。
【0087】
4より大きい価数nを有するZn+金属カチオンを用いたV4+カチオンの置換によってのみnドープされた前記バナジウム酸化物は、式V1-yZyO2に対応し、yが、0.01から0.03の範囲であり、例えば0.02である。ここで、
-yは、VO2バナジウム酸化物の原子%で表した金属カチオンのドーピング率を表します。従って、例えば、ドーピング率が2原子%である場合、yは、0.02に等しくなる。
-nは、4より大きく、例えば5又は6であり得る。
-Zは、Nb、Ta、Mo又はWから選択することができ、好ましくは、ZはWである。
【0088】
好ましくは、Zn+金属カチオンは、W6+カチオンである。
【0089】
W6+金属カチオンによるV4+カチオンの置換の収率は、カソードスパッタリング技術を用いてWの-25℃/原子%である。
【0090】
言い換えれば、バナジウム原子100個に1個がタングステン原子で置換されるときはいつでも、得られる固溶体V1-yWyO2のスイッチング温度は、25℃低下する。従って、yが0.01(1%ドーピング)の場合、Tcは、68-25=43℃であり、yが0.02(2%ドーピング)の場合、Tcは、68-2×25=18℃である。68℃のTcは、ドープされていないVO2のTcである。
【0091】
yが0.03より大きい場合、固溶体が飽和しているため、ドーピング効率が低下し、zが1から2の間のWO2のクラスターのような欠陥が現れる。
【0092】
前記バナジウムIV酸化物(VO2)は、酸素空孔と、4より大きい価数nを有するZn+金属カチオンを用いた前記V4+カチオンの置換とによって同時にnドープされる。
【0093】
酸素空孔及び4より大きい価数nを有するZn+金属カチオンでのV4+カチオンの置換の両方によってnドープされた酸化バナジウムは、式V1-yZyO2-xに対応し、ここで、x及びyは、既に上で定義されている。
【0094】
ドープされていないVO2又は既に酸素空孔がドープされているVO2-xの、例えばW6+カチオンによるZn+カチオンのドーピングは、化合物V1-yZyO2、又は、化合物V1-yZyO2-x、例えば、V0.98W0.02O2-xを製造するために、ドープされていないバナジウムIV酸化物(VO2)の層間、又は、既に酸素空孔がドープされているVO2-xの層間に、例えば金属タングステンである、0.1から0.5nmの厚さの金属Zの超微細層を挿入し、次いで、例えば、500℃でアニーリングすることによってサーモクロミック材料を結晶化するために、少なくとも96%のアルゴンを含有するアルゴン/酸素雰囲気下で、例えば500℃で(方法の段階(f)を参照)、層VO2/Z又はVO2-x/Zのこれらの対の全てを加熱することによって行われる。
【0095】
赤外線に対して透過的である前記日射反射コーティングである日射防止コーティング(g)(中IR全体:9μmの吸収ピークを有して2.5から25μm)は、一般的に、ブラッグミラーからなる。
【0096】
好ましくは、前記ブラッグミラーは、高屈折率(nが2から2.5、例えば2.2)の金属酸化物の層と、低屈折率(nが1.3から1.8、例えば1.5)の酸化物の層との交互層からなる。
【0097】
ブラッグミラーは、825nmの近赤外領域と550nmの可視領域を中心としたダブルセンターブラッグミラーであり得る。
【0098】
本発明によるデバイスは、特に、上述の「固体」サーモクロミックデバイスに関する文献によって表されるように、従来技術において記載されたことのない特定の順序で、特定の厚さの特定の層の特定のスタックを備える。
【0099】
特に、本発明によるデバイスは、赤外線に活性なサーモクロミック材料の層を備え、それは、単斜晶相又はルチル相の特定の材料、すなわちドープされて結晶化された酸化バナジウム(VO2)から作られた層である。特定の材料で作られたこのサーモクロミック層はまた、特定の厚さ、すなわち30から50nm、好ましくは30から40nmの厚さを有する。したがって、このサーモクロミック層は、非常に薄い層又は非常に微細な層と呼ばれることがある。
【0100】
特定のサーモクロミック材料からなるこのサーモクロミック層は、赤外線に対して透過的であり、特定の材料、すなわち酸化セリウム(CeO2)からなる層である電子絶縁性無機誘電体層の上に配される。この無機誘電体層または、特定の厚さ、すなわち400から900nm、好ましくは700から900nmの厚さを有する。したがって、この誘電体層は、厚層と呼ばれることがある。
【0101】
したがって、本発明による固体サーモクロミックデバイスは、特定のサーモクロミック材料の非常に薄い層と、厚い特定の誘電材料の層との組み合わせを含むことを特に特徴とする。
【0102】
本発明によるデバイスは、特に、CeO2が赤外線に対して完全に透過的であるという点で、上述の米国特許出願公開第2014/0139904号明細書に記載されているデバイスとは異なり、これは、米国特許出願公開第2014/0139904号明細書に記載されている他の酸化物の場合ではない。さらに、CeO2は無毒の酸化物であるが、この文献に記載されている最も透明な化合物は毒性の高いフッ化物又は硫化物であり、その析出は、化学的危険性を含み、REACH規格のために、不可能ではないにしてもデバイスの工業的製造を非常に制限する。
【0103】
本発明によるデバイスのサーモクロミック層は、非常に薄く、IR反射性のバックグラウンド上で、CeO2の厚い絶縁層、及び同様に絶縁性である界面層の上にある。
【0104】
その結果、このサーモクロミック層がスイッチング温度Tc以上に加熱されて金属状態になると、残余のIR透明性を持ち、それによってデバイス全体のIR吸収又はIR放射特性を得ることができる。
【0105】
CeO2層と界面層とからなる、高い厚さにわたる全体的な誘電関数は、金属状態のサーモクロミック層でT>Tcのとき、赤外線を閉じ込めてから真空にするのに役立つ。サーモクロミック層が、絶縁性を有する半導電性であるため、T<Tcのときは、この現象は起こらない。T<Tcのとき、壁からのIR放射に対して誘電関数は不活性となり、導電性金属バックグラウンドは、客室の内部に熱を戻す。
【0106】
このサーモクロミック層がより厚く、例えば100nmを超える厚さであれば、それは、その金属特性のために、赤外線に対して非透過的であり、Tc以上の赤外線を反射するであろう。その場合、デバイス全体がIR反射性になり、熱を逃がすことができないだろう。
【0107】
デバイスがTc以上の温度に加熱されると、高いIR放射率を示す。
【0108】
本発明によるデバイスの基本的な新規かつ独創的な特徴は、赤外線(IR)に切り替え可能で、日射吸収率が低い固体反射デバイス内における、非常に薄い層の形態のバナジウムIV酸化物(VO2)をベースとする特定のサーモクロミック材料の製造及び一体化からなると考えられる。
【0109】
非常に薄いサーモクロミック材料の層の背後に位置する厚い層(400から900nm)の形態のセリウムIV酸化物からなる、赤外IRに対して透明な材料の存在のおかげで、デバイスは、高温、すなわち、Tc以上の温度で吸収性になり、デバイスに備えられた壁の外側に対して高い放射率を生み出す。
【0110】
低温、すなわち、Tc以下の温度では、デバイスは、反射性を保ち、熱を保持することができる。
【0111】
言い換えれば、本発明によるデバイスの新規かつ基本的な発明的特徴は、可変反射率/放射率を有し、日射保護膜で覆われているIR非透過性サーモクロミックデバイスの前面上に赤外線動作(IR、2.5から25μm)を有するサーモクロミック活性材料を一体化することからなる。
【0112】
高温に晒されると、デバイスは、ブラッグミラーソーラー反射体などの日射防止コーティングの適用のおかげで、2.5から25μmの中赤外線では強い吸収性になるが、近赤外線(0.78から1.1μm(太陽の熱の最大吸収領域))では強い吸収性にならない。
【0113】
したがって、本発明によるデバイスは、太陽光領域(0.78から2.5μmの近赤外線を含む)では吸収性が低く、中赤外領域では放射性が高いため、外部の太陽から来る熱(近赤外線範囲の直接的な太陽利得)の一部を排除し、デバイスが備えられた壁の外側に向かう赤外線(中赤外、2.5から25μm)を介して、内部要素(衛星電子機器、建物の部屋又は自動車の客室の中の物)によって蓄えられた熱を排出することが可能である。
【0114】
本発明によれば、サーモクロミック材料は、例えばタングステンがドープされ、結晶化バナジウム酸化物であり、非常に厚い酸化セリウム誘電体層(400から900nm)上に堆積された非常に薄い層(30から50nm)であり、それは、IRフィルタの準備に必要である。酸素空孔によるドーピングは、準化学量論的バナジウムIV酸化物の堆積条件を精密に制御することによって行われる。
【0115】
本発明によるデバイスは、赤外線(IR)、特に中赤外線(波長2.5から25μm)においてモジュール式の反射または放射率を有する固体サーモクロミックデバイスとして定義することができ、その活性部分が、赤外線に活性であるサーモクロミック材料の層であり、本発明によれば、デバイスの前面に位置する。
【0116】
サーモクロミックデバイスの活性部分、すなわち赤外線に活性であるサーモクロミック材料層を、デバイスの前面に、すなわち、太陽光線に直接晒されるデバイスの側に有するという事実は、本発明によるデバイスの多くの利点の起源である。
【0117】
本発明によるデバイスは、「固体」サーモクロミックデバイスに関する従来技術において記載も示唆もされていない最適化された設計に従って製造されてもよい。
【0118】
電解ゲルが排気を十分に支援せず、ポリマーが熱の影響を受けて変形し、紫外線に対する耐性がそれほど高くない既存のフレキシブルデバイスとは異なり、本発明によるサーモクロミック「固体」(「全固体」)デバイスは、宇宙での使用を支配するすべての要件に適合し、実際にそれを構成する完全に無機の材料がUV攻撃、真空、及び高温、例えば、100℃に近い温度に耐えることを可能にする。
【0119】
本発明によるデバイスは、単純化された設計を有する頑丈で耐久性のあるサーモクロミックデバイスとして説明することができる。
【0120】
さらに、本発明によるデバイスは、全ての層に対して同一の単一の堆積方法を使用して、限られた数の工程で非常に簡単に製造することができるという利点を有する。
【0121】
したがって、本発明によるデバイスは、短期間内に低コストで準備することができる。
【0122】
したがって、本発明によるデバイス(段階(f)及び(g)を含む(下記参照))は、同一の単一の堆積チャンバ内で、デバイスが得られる前にチャンバを開けることなく、例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、レーザーアブレーション又は蒸着から選択される同一の単一の物理気相堆積技術(PVD)を用いて真空下で全体的に連続的に行われ得る。
【0123】
技術的及び経済的理由から、反応モードでのマグネトロンカソードスパッタリングは、プラズマ中の酸素レベルの制御、高い堆積速度を可能にし、サーモクロミック活性材料の優れた光学的品質を保証するので好ましい。
【0124】
本発明はまた、上述のような本発明によるデバイスを製造する方法であって、
(a)550℃以下の温度、特に540℃以下の温度、例えば500℃以下の温度に耐える、無機材料の固体基板に導電性材料からなる赤外線反射層を堆積する段階と、
(b)段階(a)の間に堆積された前記赤外線反射層に電子絶縁性界面層を堆積する段階と、
(c)段階(b)の間に堆積された前記界面層に、400から900nm、好ましくは700から900nmの厚さを有する、酸化セリウム(CeO2)で作られた、赤外線に対して透過的な電子絶縁性無機誘電体層を堆積する段階と、
(d)段階(c)の間に堆積され、酸化セリウム(CeO2)から作られる、赤外線に対して透過的な前記電子絶縁性誘電体層に電子絶縁性界面層を堆積する段階と、
(e)段階(d)の間に堆積された前記界面層に、ドープされていないバナジウム酸化物(VO2)又は酸素空孔がドープされたバナジウム酸化物(VO2-x)であり、単斜晶相である赤外活性サーモクロミック材料の層を堆積する段階であって、超微細層、すなわち、0.1から0.5nmの厚さの、例えばタングステン金属である金属Zの層が、前記ドープされていないバナジウム酸化物VO2の層に挿入され、又は、任意に、超微細層、すなわち、0.1から0.5nmの厚さの、例えばタングステン金属である金属Zの層が、前記酸素空孔がドープされたバナジウム酸化物(VO2-x)の層に挿入される、段階と、
(f)前記サーモクロミック材料を結晶化するために、450℃を超え550℃未満(すなわち、450℃から550℃の温度であり、ここで、450℃及び550℃の限界値は除外される)、好ましくは460℃から540℃、より好ましくは500℃の温度で、前記基板、及び段階(a)から(e)の間に堆積された前記層をアニーリングする段階と、
(g)前記サーモクロミック材料の層に、赤外線を透過する、日射反射コーティングである日射防止コーティングを堆積する段階と、
が連続して行われる、デバイスを製造する方法に関する。
【0125】
450℃では結晶化は完了しないが、550℃では基板、例えばガラス又はシリコンの基板が劣化し始めるので、段階(f)におけるアニーリング温度は、450℃を超え550℃未満である。
【0126】
450℃を超え、550℃未満、例えば500℃のアニーリング温度は、VO2の結晶学的ネットワーク(これは固溶体と呼ばれる)内にドーピング原子、例えばW6+を拡散させながら、物質の粒子を成長させるのに役立つことに留意されたい。しかし、この温度は、凍結、結晶相を固定せず、それは、Tcに関して周囲環境の温度と共に変化する。
【0127】
実際には、例えば、サーモクロミック材料は、Tc=15℃なので、Wの2原子%のトーピングにおいて22℃でルチル相になっており、サーモクロミック材料は、Tc=35℃なので、Wの1原子%のドーピングにおいて、22℃で単斜晶相になっている。
【0128】
VO2、低温の半導電性(Tc未満の温度)及び熱い導電性(Tc以上の温度)をベースにしたサーモクロミック相を結晶化するために、基板全体及び段階(a)から(e)の間に堆積された薄層のスタックの、450℃を超え550℃未満の温度、例えば500℃でのアニーリングが必要である。
【0129】
有利には、前記基板、及び段階(a)から(e)の間に堆積された前記層のアニーリングは、少なくとも96体積%のアルゴンを含有するアルゴン及び酸素雰囲気下で行われる。
【0130】
本発明による方法は、上で引用した文献に記載されているもののような従来技術の方法よりも信頼性があり、遥かに簡単である。
【0131】
有利には、前記層及び前記日射防止コーティングが、マグネトロンカソードスパッタリング、レーザーアブレーション及び蒸着の中から選択される物理気相堆積法(PVD)によって堆積される。
【0132】
有利には、全ての前記層及び前記日射防止コーティングが、同じ物理気相堆積法によって、好ましくはマグネトロンカソードスパッタリングによって、例えば反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、真空下で堆積される。
【0133】
実際には、工業化の文脈では、界面の汚染のリスクを回避するために、スタックのすべての層(ブラッグネットワークなどの日射保護膜を含む)に同じ堆積技術を使用することは興味深い。
【0134】
技術的及び経済的な理由から、既に示したように、反応モードでのマグネトロンカソードスパッタリングは、特に、プラズマ中の酸素レベルの良好な制御、高い堆積速度、例えば約60nm/分の堆積速度、及び、サーモクロミック活性材料の良好な光学特性を保証するので好ましい。
【0135】
酸化物ターゲットからCeO2のみが非反応モードで堆積される。
【0136】
事実、例えばタングステンがドープされたサーモクロミック材料VO2の層の最良の性能は、マグネトロンカソードスパッタリングによって得られる。
【0137】
したがって、スタックのすべての薄層は、一般にアルゴンを含むプラズマ生成ガスを使用して、マグネトロンカソードスパッタリング技術によって有利に堆積される。
【0138】
サーモクロミック材料の場合、酸素空孔が任意にドープされたVO2の堆積は、アルゴン雰囲気下でバナジウムターゲットからの反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、堆積チャンバ内の正確かつ制御された酸素レベルで行われ得る。
【0139】
例えば金属タングステンを用いて、特にVO2に組み込まれたWの超微細層の形態でVO2をドーピングすることにより、活性温度範囲(Tc)を約15℃下げることが可能になる。
【0140】
有利には、段階(f)及び(g)を含む全ての前記段階は、前記段階の各々の間に前記チャンバを開くことなく、同一の真空チャンバ内で連続的に行われ、それによって、かなりの時間を節約し、コスト削減しながら、この方法の大幅な簡略化をもたらす。
【0141】
実際には、この方法を流動化し、全体的なコストを削減するために、真空下で、装置を開ける必要なしに、デバイスを連続的に製造することが有利である。
【0142】
本発明はまた、物体、特に衛星、建物、又は、乗り物(自動車、航空機、列車若しくは船舶など)の客室の熱的保護のための、上記のようなデバイスの使用に関する。
【0143】
本発明の他の利点は、添付の図面と関連して以下の詳細な説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【
図2】実施例の段階1において製造された、本発明によるデバイスの反射性金属バックグラウンドの赤外線反射率を示すグラフを示す。縦軸は反射率であり、横軸は波長(μm)である。
【
図3】活性厚さ40nmで、2.5×2.5cm
2の表面積を有する、2%タングステンドーピングを有する実施例の段階5の終わりに得られたデバイスによって生成される、2.5から25μmまで積算した放射率の変動を温度の関数として表すグラフであり、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。縦軸は放射率ε、横軸は温度T(℃)である。5から25℃のスイッチング範囲でTc=15℃のとき、Δε=0.3となる。
【
図4A】シリコン上に堆積した厚さ200nmのCeO
2及びSiO
2のモデル層の反射及び透過スペクトルから得られた、実施例の段階6で作製したソーラーミラーの構成要素、すなわちCeO
2酸化物(
図4A)及びSiO
2酸化物(
図4B)の光学指数(赤外における屈折率x及び消衰係数k)を示すグラフを示す。縦軸は光学指数n及びk、横軸は波長(nm)である。CeO
2材料は、2.5から16μm(k=0)のIR放射に対して完全に透過的である。一方、SiO
2材料は、9μm(フォノンバンド)に吸収ピークを有し、それが、IRの透過度を低下させる。
【
図4B】シリコン上に堆積した厚さ200nmのCeO
2及びSiO
2のモデル層の反射及び透過スペクトルから得られた、実施例の段階6で作製したソーラーミラーの構成要素、すなわちCeO
2酸化物(
図4A)及びSiO
2酸化物(
図4B)の光学指数(赤外における屈折率x及び消衰係数k)を示すグラフを示す。縦軸は光学指数n及びk、横軸は波長(nm)である。CeO
2材料は、2.5から16μm(k=0)のIR放射に対して完全に透過的である。一方、SiO
2材料は、9μm(フォノンバンド)に吸収ピークを有し、それが、IRの透過度を低下させる。
【
図5】活性厚さ50nmで、5×5cm
2の表面積を有する、1%のタングステンドーピングを有する実施例の段階5の終わりに得られたデバイスによって生成される、2.5から25μmまで積算した放射率の変動を温度の関数として表すグラフであり、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。このデバイスは、日射保護膜で覆われていない。縦軸は放射率、横軸は温度T(℃)である。20から50℃のスイッチング範囲でTc=35℃のとき、Δε=0.4である。
【
図6】活性厚さ50nmで、5×5cm
2の表面積を有する、1%のタングステンドーピングを有する実施例の段階5の終わりに得られたデバイスによって生成される、2.5から25μmまで積算した放射率の変動を温度の関数として表すグラフであり、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。本発明によるこのデバイスは、さらに段階6のように調製された日射保護膜で覆われる。縦軸は放射率、横軸は温度T(℃)である。20から50℃のスイッチング範囲でTc=35℃のとき、Δε=0.3となる。
【
図7】以下の波長(nm)の関数として22℃での太陽放射R(これは、ここでは1.1μmに切り捨てられた、0.28から2.5μmの太陽放射範囲で測定された反射係数R)の変化を表すグラフである:-厚さ40nmのサーモクロミック活性材料(2%のタングステンがドープされたVO
2)の層を備える、実施例の段階5の終わりに得られたデバイス(曲線A)、-厚さ40nmのサーモクロミック活性材料(タングステンでドープされたVO
2)の層を備え、さらに、実施例の段階6のように準備された二重中心ブラッグミラー[λ
0(1)=550nm及びλ
0(2)=825nm]によって構成される日射保護膜で覆われた、実施例の段階5の終わりに得られたデバイス(曲線B)。太陽光スペクトルも示す(曲線C)。日焼け止めを適用すると、日射吸収係数αが0.49から0.34に減少するようである。
【
図8】以下の波長(nm)の関数として22℃での太陽放射R(これは、ここでは1.1μmに切り捨てられた、0.28から2.5μmの太陽放射範囲で測定された反射係数R)の変化を表すグラフである:-厚さ50nmのサーモクロミック活性材料(2%のタングステンがドープされたVO
2)の層を備える、実施例の段階5の終わりに得られたデバイス(曲線A)、-厚さ50nmのサーモクロミック活性材料(2%のタングステンでドープされたVO
2)の層を備え、さらに、実施例の段階6のように準備された二重中心ブラッグミラー[λ
0(1)=550nm及びλ
0(2)=825nm]からなる日射保護膜で覆われた、実施例の段階5の終わりに得られたデバイス(曲線B)。
図8は、太陽スペクトルも示す(曲線C)。日焼け止めを適用すると、日射吸収係数αが0.59から0.38に減少するようである。
【発明を実施するための形態】
【0145】
図1は、本発明による赤外線において活性な固体サーモクロミックデバイスを示し、それは、ドープされたVO
2を有する、バナジウムIV酸化物をベースとするサーモクロミック材料で作られる層を有する無機層のスタックを備える。
【0146】
なお、
図1に示される表示は、特に各層を構成する材料、及び保護コーティングに関しては、例、例示としてのみ示されており、決して何らかの限定を構成するものとして見なされる必要はない。
【0147】
のデバイスは、太陽放射(2)に直接晒される前面(1)と、デバイスの温度T(従って、特にサーモクロミック材料の温度TがTcよりも高い。実際、デバイスが薄層のスタックからなる場合、壁のT=デバイスのT=サーモクロミック材料のTと考えられる。)が、高温相におけるTcより大きいとき、赤外放射によってその衛星(又は建物若しくは車両)の側にそれを再放射するために前面に熱を伝導し、又は、デバイスの温度Tが、低放射率(衛星の場合は日射なしで、建物又は自動車等の車両の客室の場合は冬の日差しがあって)を有して、低温相におけるTcより小さいとき、衛星(又は建物若しくは車両)の内側に熱を保持する壁(又はガラス)に接着された背面と、を備える。
【0148】
本発明によるデバイスは、最初に、デバイスの機械的支持の役割を基本的に果たす基板又は支持体(4)を備える。
【0149】
基板又は支持体(4)は、一般に、赤外線に対する透過性を有しない。
【0150】
固体基板又は支持体(4)は、特に少なくとも96体積%のアルゴンを含有するアルゴン及び酸素雰囲気中で、550℃以下の温度、特に540℃以下の温度、例えば500℃以下の温度に耐える無機材料で作られる。
【0151】
「550℃以下の温度、特に540℃以下の温度、例えば500℃以下の温度に耐える無機材料」という用語は、一般に、この材料が、そのような温度に晒されたときに機械的、物理的又は化学的に劣化しないことを意味すると理解される。
【0152】
固体基板の材料として特に適している材料は、アルミニウム、シリコン及びホウケイ酸ガラスである。
【0153】
有利には、基板(4)は、層又はシート、好ましくは0.3から1mmの厚さ、例えば0.5mmの厚さを有する層又はシートの形態である。例えば、その面が後続の層を受ける、厚さ0.5mmのシリコン基板が研磨される。
【0154】
基板又は支持体(4)上に、反射性バックグラウンドとも呼ばれる反射層(5)が配置される。この層は、導電性材料で作られる。
【0155】
好ましくは、この導電性材料は、金属、金属合金、及び錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、ルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などの導電性金属酸化物から選択され、さらに好ましくは、この反射層は、銀である。
【0156】
反射層は、一般的に、中赤外域で60%から100%、好ましくは100%の反射率を有する。
【0157】
反射層(5)は、一般に、80から150nm、好ましくは100nmの厚さを有する。
【0158】
反射層(5)を構成し得る金属は、例えば、金、銀又は白金のような貴金属、アルミニウム、クロム及びそれらの合金から選択され得る。
【0159】
好ましい金属は、銀であり、この場合、反射層(5)の厚さは、好ましくは100nmである。
【0160】
導電性金属酸化物は、当業者にはよく知られている。
【0161】
このような導電性酸化物の例は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、又はアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)であり、これらは、空孔(ラクナー)化合物(スピネル構造の空孔サイト)AlSiO4の形成を避けるために、アルミニウムベースの界面層と組み合わせるのが好ましい。反射性アルミニウムのバックグラウンドでも同様である。
【0162】
反射層(5)の導電性材料は、特に、それが導電性金属酸化物である場合、一般に、PVD法、例えば、カソードスパッタリング、レーザーアブレーション又は蒸着によって薄層に堆積させることができる材料から選択され、好ましくは、カソードスパッタリングによって薄層に堆積され得る材料から選択される。
【0163】
図1において、反射層(5)は、厚さ100nmの銀層である。
【0164】
界面層(6)は、反射層(5)に配置される。
【0165】
これらの界面層(6)は、反射層(5)上の誘電体層(9)の付着を確実にすることを可能にする。
【0166】
界面層の数は、2が望ましい。
【0167】
これらの界面層の性質は、反射層(5)上の誘電体層(9)の最良の付着を確実にするために選択される。
【0168】
従って、
図1において、このデバイスは、銀を不動態化するための第1の窒化層(7)と、酸化セリウムを結合するための第2の酸化層(8)とを備える。
【0169】
界面層(6)の総厚は、10から30nmであり、各層の厚さは、5から15nmであり得る。
【0170】
通常、両方の層の厚さは、同じである。
【0171】
界面層(6)の材料は、反射層(5)への誘電体層(9)の最良の付着を確実にするために選択される。
【0172】
界面層(6)の材料もまた、一般に、カソードスパッタリング、レーザーアブレーション又は蒸着等のPVDプロセスによって薄層に堆積させることができる材料から選択され、好ましくは、カソードスパッタリングによって薄層に堆積させることができる材料から選択される。
【0173】
適切な材料は、例えば、SiO2及びSi3N4であり、その場合、界面層は、Si3N4層(7)及びSiO2層(8)を備えることができる。
【0174】
図1に示される実施形態では、界面層(6)は、反射層から出発して、Si
3N
4又はAlN(7)からなる第1の層、次いでSiO
2又はAl
2O
3(8)からなる第2の層を備える。
【0175】
窒化層は、CeO2の堆積中に導入された酸素から銀を保護し、Si-Si又はAl-Al結合によって窒化層に結合される酸化層は、それとCeO2の層との間にO-Oブリッジを生成する。
【0176】
Si3N4(7)からなる第1の層は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有し、SiO2(8)からなる第2の層は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有することができる。
【0177】
図1において、Si
3N
4(7)からなる第1の層の厚さは、10nmであり、SiO
2(8)からなる第2の層の厚さは、10nmである。
【0178】
界面層(6)上に、あるいはむしろ、例えば、厚さ10nmのSiO
2層であり、
図1に示される実施形態におけるものである、反射層上に最後に堆積される界面層(8)上に、2.5から25μm(中IR)の波長範囲で赤外線を透過させる電子絶縁性誘電体層(9)が配置される。
【0179】
赤外線を透過するこの電子絶縁性誘電体層は、400から900nm、好ましくは700から900nmの厚さを有する。
【0180】
赤外線を透過するこの電子絶縁誘電体層(9)は、酸化セリウム(CeO2)で作られる。
【0181】
赤外線を透過する電子絶縁性誘電体層(9)に界面層(10)が配置される。
【0182】
これらの界面層(10)は、9から13μmのIR吸収を有するCeVO4化合物の形成を避けることによって、赤外線を透過する電子絶縁性誘電体層(9)に堆積されたサーモクロミック層(13)の付着性及び完全性を確実にすることを可能にする。
【0183】
界面層(10)は、数が2でなければならず、一般に、シリコンベースで、CeO2及びVO2と反応しないものである。
【0184】
従って、
図1において、デバイスは、2つの界面層(11、12)を備える。
【0185】
O-Oブリッジを介して第1のSiO2層(11)をCeO2と結合した後、バッファ層と呼ばれる、Si3N4の第2の層(12)は、遥かに厚く、Si-Si結合を用いてSiO2に付着し、VO2とCeO2の反応性は避ける。
【0186】
界面層(10)の性質は、赤外線(9)に対して透過的な電子絶縁性誘電体層上のサーモクロミック層(13)の最良の付着性及び最良の完全性を保証するために選択される。
【0187】
界面層(10)の総厚は、105から155nmである。2つの連続した界面層は、一般的に材料が異なる。
【0188】
界面層(10)の材料はまた、赤外線(9)に対して透過的な電子絶縁性誘電体層上のサーモクロミック層(13)の最良の付着性及び完全性を確実にするように選択される。
【0189】
界面層(10)の材料もまた、一般に、カソードスパッタリング、レーザーアブレーション又は蒸着などのPVD法によって薄層に堆積させることができる材料から選択され、好ましくは、カソードスパッタリングによって薄層に堆積させることができる材料の中から選択される。
【0190】
図1に示される実施形態において、界面層(10)は、赤外線に対して透過的な電子絶縁性誘電体層(9)から、SiO
2からなる第1の層(11)と、Si
3N
4からなる第2のバッファ層(12)とを備える。
【0191】
SiO2からなる第1の層(11)は、5から15nm、例えば10nmの厚さを有し、Si3N4からなる第2の層(12)は、100から140nm、例えば120nmの厚さを有することができる。
【0192】
図1において、SiO
2からなる第1の層(11)は、10nmの厚さを有し、Si
3N
4からなる第2の層(12)は、120nmの厚さを有する。
【0193】
図1は、層(11)、(12)及び(7)、(8)が、層(9)の両側に対称的に配置されている有利な実施形態を示し、ここで、SiO
2層は、層(9)の面の各々と接触して配置される。
【0194】
界面層(10)上に、あるいはむしろ、例えば、厚さ120nmのSi
3N
4層のバッファ層(12)であり、
図1に示される実施形態におけるものである、反射層上に最後に堆積される界面層(12)上に、30から50nm、好ましくは30から40nmの厚さを有する、単斜晶相又はルチル相の、ドープされて結晶化された酸化物バナジウム(VO
2)であり、赤外に活性であるサーモクロミック材料の層(13)が配置される。
【0195】
その非常に小さい厚さのために、サーモクロミック材料のこの層(13)は、非常に薄い層として説明され得る。この非常に薄いサーモクロミック材料の層の厚さは、本発明によるデバイスの本質的な特徴の一つである。
【0196】
バナジウム酸化物は、カソードスパッタリング、レーザーアブレーション又は蒸着などのPVDプロセスによって、好ましくはスパッタリングによって、非常に薄い、非常に微細な層に堆積させることができる。
【0197】
図1において、サーモクロミック材料の層(13)は、厚さ30から50nmのV
0.98W
0.02O
2-xの層である。
【0198】
赤外に活性であり、結晶化されドープされた酸化バナジウム(VO2)であるサーモクロミック材料の層(13)上に、太陽放射(2)を反射し、赤外線(14)(9μmに吸収ピークを有して2.5μmから25μmまでの中間IR全体)を透過する日射保護コーティング(15)が配置される。
【0199】
「赤外線に対して透過的」という用語は、一般的に、このコーティング(15)が2.5μmから25μm、好ましくは2.5から16μmの波長の赤外線に対して透過的であることを意味すると理解される。
【0200】
このコーティング(15)は、一般に無毒の無機材料で作られる。
【0201】
好ましくは、このコーティング(15)は、金属酸化物及び半金属酸化物、並びにこれらの金属酸化物及び半金属酸化物のうちの2つ以上の混合物から選択される材料から作られる。
【0202】
これ又はこれらの金属又は半金属、好ましくは非晶質の酸化物は、PVDによって、特にマグネトロンカソードスパッタリングによって、酸化セリウム(CeO2)、イットリウム酸化物(Y2O3)又はSiO2などの酸化物又は金属ターゲットから容易に堆積させることができる酸化物から好ましくは選択される。
【0203】
コーティング(15)の厚さは、通常、0.5から1.25μm、好ましくは1μmから1.25μm、さらに好ましくは1.25μmである。
【0204】
このコーティング(15)は、一般的にブラッグミラーで構成される。
【0205】
好ましくは、このブラッグミラーは、CeO2のような高屈折率(nが2から2.5、例えば2.2)の金属酸化物の層と、SiO2のような低屈折率(nが1.3から1.8、例えば1.5)の金属酸化物の層との交互層を含む。
【0206】
図1において、コーティング(15)は、CeO
2層とSiO
2層とを交互に含み、総厚0.5から1.25μm、好ましくは1μmから1.25μm、より好ましくは1.25μmを有し得る。しかし、例として、この図に示されるコーティング(15)が1μmの厚さを有することが
図1に示されている。それは、それぞれ55及び95nmの厚さの550nmを中心とする3対のCeO
2及びSiO
2層、次にそれぞれ80及び150nmの厚さの825nmを中心とする3対のCeO
2及びSiO
2層、並びに80nmのCeO
2の終端層から構成される。
【0207】
図1のデバイスの動作は、例えば、衛星を装備するために使用されるとき、以下のように記述され得る。
【0208】
太陽に曝される段階では、衛星の内部電子機器は、壁が100℃に達する高温から保護する必要がある。第1に、デバイスの前面に設置されたブラッグミラーは、反射による太陽放射を0.28から2.5μmの範囲にわたって70%超まで遮断することを可能にする。
【0209】
その結果、日射防止膜の設置後にα係数がそれぞれ0.49から0.34(
図7)及び0.59から0.36(
図8)に減少する2%ドープIR活性サーモクロミック材料を40及び50nm含むデバイスの日射吸収率が減少する。
【0210】
一方、2原子%のタングステンがドープされたVO
2(y=0.02)からなるIR活性サーモクロミック材料は、Tc=15℃においてT>Tcで得られる金属特性(ルチル相)を有する(
図3)。高温での高い放射率(ε
HT=0.75)は、このように2.5から25μmの範囲にわたって、赤外線放射によって衛星内部に蓄えられた熱を外側に向かって排出するだろう。
【0211】
そのため、前面に配置された日射防止膜は、赤外線の全範囲にわたって透過性である必要がある。
図1のデバイスが建物又は自動車のガラスに使用されるときも同様である。サーモクロミック材料のドーピング速度が低下すると(y=0.01)、Tcは35℃まで上昇し(
図5)、ブラッグミラーの並置は、ε
HTの値を0.85に増加させる効果がある。しかしながら、このε
HTの改善は、0.35から0.55へと上昇するε
BT放射率の低い値を損なうことに影響を与える。日射がない場合は、衛星内部の熱を節約する効果は、あまり無い。従って、太陽利得の最良の排除(ブラッグミラーの最も厚い厚さ、すなわち1.25μmで得られる)と低温での最良のエネルギー効率(最も低いドーピング速度、すなわちy=0.01で太陽保護なしで得られる)との間に妥協がある。
【0212】
本発明によるデバイスは、上記の方法によって製造される。
【0213】
本発明によるデバイスを製造するための本発明による方法を実施するために使用される装置は、例えば、以下を含む物理気相成長(PVD)フレームであり得る:
-例えば初期圧力が優勢であり、例えば約5×10-7mbarであり、最初に窒素で満たされたチャンバを用いて、チャンバ内に真空を生成するための最大ポンピング速度が900L/sである、例えば0.1m3の容積の真空チャンバ;
-3インチ(又は76mm)の直径を有する、最大で6個のカソード、又は、6インチ(又は152mm)の直径を有する2個のカソード及び3インチ(又は76mm)の直径を有する2個のカソード;
-堆積する材料及びターゲットの脆さの関数として遅い又は高い堆積速度、例えばそれぞれCeO2及びAgに対して3から120nm/分の速度を得るために、各堆積物は、例えばAg、Si、CeO2、V又はWで作られる金属又は金属酸化物ターゲットから、高周波数RFモードで、ターゲットの1から10W/cm2の印加電力を用いて、又は、DCモードで、0.6から2W/cm2の印加電力で、マグネトロンカソードスパッタリングによって生成される。
【0214】
そのような堆積条件は、ターゲットが同じ組成の酸化セラミックであるCeO2(脆いターゲット)を除いて、金属ターゲットから薄層酸化物を製造するための、反応性として記載されたプロセスの工業化を可能にする。
【0215】
堆積物が生成されるプラズマ形成ガス雰囲気は、堆積層を構成する材料に応じて選択される。
【0216】
従って、この雰囲気は、次のもので構成され得る:
-例えば銀で作られる金属からなる反射層を堆積させるための、例えば9×10-3mbarの圧力を有するアルゴン;
-例えば、全圧2.1から2.3×10-2mbarで、それぞれ70から75体積%及び25から30体積%の割合のアルゴン及び窒素の混合物、例えばSi3N4で作られる界面層の堆積用としては2.2×10-2mbarのアルゴン及び窒素の混合物;
-例えばそれぞれ83から96堆積%と4から17体積%の割合で、界面層、又はSiO2日射防止コーティングの層の堆積、誘電層、又はCeO2日射防止コーティングの層の堆積、又は、赤外線で活性なVO2サーモクロミック層の堆積において、総圧1.7から3.3、例えば3.2×10-2mbar又は1.2×10-2mbar、又は1.75×10-2mbarのアルゴン及び酸素の混合物。
【0217】
段階(e)の終わりに得られたスタックのアニーリングは、堆積が行われるのと同じ真空チャンバ内で行われる。
【0218】
一般に、このアニーリングは、VO2の堆積が行われた条件と同じ条件下(VO2の堆積に使用されたものと同様の雰囲気中)で、すなわち、少なくとも1時間、500℃のアルゴン/酸素の同じ分圧下で行われる。
【0219】
本発明によるデバイスは、無機で、頑丈で、工業化のための単純化された設計であり、特に、中赤外線で作動することができ、特に衛星の熱保護においてその用途を見出す。
【0220】
例えば、本発明によるいくつかの「固体」サーモクロミックデバイスで構成される衛星に「タイル」(「パッチ」)を使用して、エネルギー消費の高い機械的シャッターを置き換えることが可能である。
【0221】
本発明は、非限定的な説明として与えられる以下の実施例を参照して説明され、それは、
図1に表されるもののような、本発明によるサーモクロミックデバイスの製造を説明し、それは、マグネトロンカソードスパッタリング技術を実施して全ての層を準備する、本発明による方法によって、
図1に示すようなものである。
【0222】
(実施例)
本発明によるデバイスのすべての層、及び本発明によるデバイスによって製造されるものは、デバイスの最後の層が堆積される前にチャンバを開けることなく2つの連続層の堆積の間に真空を維持しながら、真空下(すなわち、10-6mbar未満(高真空、二次真空)の残留圧力で、一次真空(粗真空)下で行われる薄層の材料の堆積段階中に使用されるプラズマ生成ガスの導入前に)、反応性モードでのアルゴン、又は、アルゴン及び窒素の混合物、又は、アルゴン及び酸素の混合物の圧力下で、同じマグネトロンスパッタリングチャンバ内で同じ技術、すなわちマグネトロンカソードスパッタリング技術を実施することによって製造される。
【0223】
しかしながら、異なる金属を含む各層の堆積には、異なるターゲットを使用する必要がある。このように、界面層は、同じターゲット(Si)を使用し、日射保護層(又はブラッグミラー)もこの同じターゲット(Si)と同様に、誘電体層(CeO2)に使用されるターゲットを使用する。従って、本発明による方法、すなわち、マグネトロンカソードスパッタリング技術によって本発明によるデバイスを製造するためには5つのターゲットが必要である:
-反射性バックグラウンドを製造するための銀ターゲット、
-界面層及びブラッグミラーの低屈折率層を製造するためのシリコンターゲット、
-誘電体層及びブラッグミラーの高屈折率層を製造するための酸化セリウムターゲット、
-サーモクロミック材料を製造するためのバナジウムターゲット、
-サーモクロミック材料をドーピングするためのタングステンターゲット。
【0224】
(1.基板上の反射性バックグラウンドの製造)
反射性バックグラウンドとして機能する金属層は、マグネトロンカソードスパッタリングによって堆積された厚さ100nmの銀の層である。
【0225】
この銀の層は、0.5mmの厚さで、2.5×2.5cm2又は5×5cm2の表面を有するシリコン基板の研磨面に堆積される。
【0226】
DCモード(V=380V、I=0.24A)での蒸着電力は、90Wであり、銀ターゲットの直径は、75mmである。
【0227】
チャンバ内のアルゴン圧は、10-3mbarであり、ターゲット基板距離は、8cmである。
【0228】
堆積期間は、50秒である。
【0229】
この銀層は、
図2に示すように、赤外域で100%の反射率を示し、これは、本発明による方法によって準備される、本発明によるデバイスの金属(バックグラウンド)基材の赤外線反射率を表す。
【0230】
(2.反射性バックグラウンド(ベース)上に主誘電体層を確実に付着させるための、反射性バックグラウンド(ベース)と主誘電体層との間の界面層の精巧)
第1の界面層は、Si3N4で構成され、厚さは、10nmである。
【0231】
それは、それぞれ60及び20sccmで注入されたアルゴン及び窒素雰囲気下で直径75mmのシリコンターゲットに250Wの電力をそれぞれ印加して、RFラジオ周波数モードでの反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、反射性バックグラウンドとして作用する銀層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、2.2×10-2mbarである。
【0232】
堆積時間は、60秒である。
【0233】
第2の界面層は、SiO2で構成され、厚さは、10nmである。
【0234】
それは、それぞれ100及び20sccmで注入されたアルゴン及び酸素雰囲気下で直径75mmのシリコンターゲットに印加された250Wの電力を用いて、高周波RF反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、Si3N4で構成される第1の界面層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、3.2×10-2mbarである。
【0235】
堆積時間は、60秒である。
【0236】
(3.主誘電体層の製造)
この層は、CeO2で構成され、厚さは、400nmである。
【0237】
それは、それぞれ40及び3sccmで注入されたアルゴン及び酸素雰囲気下で、直径175mmのCeO2ターゲットに250Wの電力を印加して、高周波RF反応性マグネトロンカソードスパッタリングによってSiO2で構成される第2の界面層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、1.2×10-2mbarである。
【0238】
堆積時間は、120分である。
【0239】
(4.主誘電体層とサーモクロミック層との間の界面層の製造)
主誘電体層とサーモクロミック層との間の第1の界面層は、SiO2で構成され、厚さは、10nmである。
【0240】
それは、それぞれ100及び20sccmで注入されたアルゴン及び酸素雰囲気下で、直径75mmのシリコンターゲットに250Wの電力を印加して、RFラジオ周波数モードで反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、CeO2で構成される主誘電体層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、3.2×10-2mbarである。
【0241】
堆積時間は、60秒である。
【0242】
主誘電体層とサーモクロミック層との間の第2の界面層は、Si3N4で構成され、CeO2材料とVO2材料との間の反応性を回避し、従ってバッファ層として作用するために、120nmの厚さを有する。
【0243】
それは、それぞれ60及び20sccmで注入されたアルゴン及び窒素雰囲気下で、直径75mmのシリコンターゲットに250Wの電力を印加して、高周波周波数RFモードで反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、SiO2で構成される、主誘電体層とサーモクロミックとの間の第1の界面層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、2.2×10-2mbarである。
【0244】
堆積時間は、12分である。
【0245】
(5.赤外線に活性なサーモクロミック層の製造)
この層は、主にVO2で構成され、厚さは、40から50nmである。
【0246】
それは、それぞれ60及び2.6sccmで注入されたアルゴン及び酸素雰囲気下で、直径75mmのシリコンターゲットに450Wの電力を印加して、高周波周波数RFモードで反応性マグネトロンカソードスパッタリングによって、Si3N4で構成される、主誘電体層とサーモクロミックとの間の第2の界面層上に堆積され、チャンバ内の全圧は、1.75×10-2mbarである。
【0247】
堆積の合計時間は、40nmの層に対する45秒から50nmの層に対する60秒までである。
【0248】
この層は、直径150nmのタングステンのターゲットに100Wの電力を印加しながら、パルスDCモード(50kHz、2μs)でマグネトロンスパッタリングによって堆積された3又は4層のタングステン金属の超微細層でドープされる。
【0249】
VO2層の堆積中に、15秒ごとに、20sccmのアルゴン下で15rpmの基板回転速度でタングステンターゲットの前を掃引することによって、タングステン層をVO2層が挿入される。
【0250】
より正確には、15秒ごとにVO2の堆積が停止され、サンプルは、Wのターゲットの前を非常に急速に通過して、十分の数ナノメートルのWの超微細層が堆積される。
【0251】
赤外線に活性なサーモクロミック層を準備するこの段階の最後に得られたスタック全体を、次に、VO2堆積に使用したのと同じアルゴン/酸素分圧下、すなわち、約2.9×10-2mbarで1時間、500℃でアニールする。
【0252】
従って、アニーリングを受けたスタックは、基板から出発して、銀反射性バックグラウンド、反射性バックグラウンドへの誘電体層の付着を確実にすることを可能にする界面層、主誘電体層、主誘電体層とサーモクロミック層との間の界面層、及び、最後に赤外線に活性なサーモクロミック層を連続して備える。
【0253】
日射防止膜がアニーリングされていないことに注意して頂きたい。それは、アニール後に堆積され、そうでなければ、それが含むCeO2は、VO2と反応する。
【0254】
厚さ40nmのサーモクロミック活性材料の層を含み、その表面が2.5×2.5cm
2である、上記のように準備されたデバイスの赤外線におけるサーモクロミック挙動を
図3に示す。
【0255】
より正確には、
図3は、2.5から25μmまで積算した、活性厚さ40nm及び表面積2.5×2.5cm
2のデバイスによって製造された放射率の変動を温度の関数として表しており、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。
【0256】
最低放射率状態と最高放射率状態との間の加熱/冷却のヒステリシスは、ほとんどゼロであり(Δε=0.3、ここで、εBT=0.45及びεHT=0.75)、スイッチング温度は、2.5から25℃の範囲で15℃である。
【0257】
(6.日射防止又はブラッグミラーの製造)
上記の段階1から5で使用されたものと同じマグネトロンカソードスパッタリング堆積技術もまた、日射防止膜を実現するために使用され、すなわち上記の段階1から5の最後に得られたスタック上の、反射率78%であるガラス上の反射体であるブラッグミラー又はソーラーミラーを実現するために使用される。
【0258】
より正確には、この日射防止膜、ブラッグミラー又はソーラーミラーは、サーモクロミック材料の層の上に堆積され、これは、基板から始めて、上記の段階1から5の最後に得られるスタックの最後の層である。
【0259】
この日射防止膜、ブラッグミラー又はソーラーミラーは、550及び825nmで測定される高屈折率及び低屈折率を有するCeO2(n=2.5)とSiO2(n=1.48)との交互の層を含み、平均値はそれぞれ、0.28から2.5μmの範囲で2.2から1.5である。
【0260】
可視範囲を中心とした、550nmの3対のCeO2(厚さが55nm)/SiO2(厚さが95nm)層の最初の組は、赤外線に活性なサーモクロミック層の上に最初に堆積される。
【0261】
次に、3対の層のこの第1の組の上に、825nmの近赤外領域を中心とする3対の第2の組のCeO2(80nmの厚さ)/SiO2(150nmの厚さ)層が堆積される。
【0262】
次に、3対の層のこの第2の組の上に、厚さが80nmのCeO2の終端層が堆積される。
【0263】
同一の堆積条件が、ソーラーミラーのCeO2及びSiO2堆積、CeO2誘電体層、及び、シリカ界面層に使用される。
【0264】
堆積期間(時間)は、以下の通り、各材料の堆積速度に従って調整されている。
【0265】
550nmを中心とする3対の層の第1の組では、CeO2の堆積速度が3.3mm/分であり、CeO2の堆積時間は、17分間であり、SiO2の堆積速度は、10nm/分であり、堆積時間は、9.5分間である。
【0266】
825nmを中心とした3対の層の第2の組では、CeO2の堆積速度は、3.3nm/分であり、CeO2の堆積時間は、24分間であり、SiO2の堆積速度は、10nm/分であり、SiO2の堆積時間は、15分間である。
【0267】
最後に、CeO2の終端層は、24分間で堆積される。
【0268】
図4A及び
図4Bは、シリコン上に堆積された200nmの厚さを有するCeO
2及びSiO
2のモデル層の反射及び透過スペクトルから得られるような、ソーラーミラーの構成要素、すなわちCeO
2酸化物(
図4A)及びSiO
2酸化物(
図4B)の赤外における光学指数(屈折率n及び吸収率k)を示す。
【0269】
図4A及び
図4Bから、CeO
2層の選択が、いったん日射防止膜で覆われたデバイスの放射率の変動ができるだけ小さくなるように変えるために、赤外線(k=0)におけるその高い透明性によって活性化されることが明らかである。さらに、この層は、活性材料に対して優れた保護を与える。
【0270】
しかしながら、SiO2層は、低い値の放射率を上方に移す追加の平均吸収の原因となる、9μmを中心とするフォノンバンドを有する。
【0271】
1%でドープされた50nmの厚さのサーモクロミック活性材料の層を含み、その表面積が2.5×2.5cm
2である、上記のようにして(段階1から5)製造されたデバイスの赤外線におけるサーモクロミック挙動は、
図5に示される。このデバイスは、日射防止膜で覆われない。
【0272】
より正確には、
図5は、2.5から25μmまで積算した、活性厚さ50nm及び表面積5×5cm
2のデバイスによって製造された放射率の変動を温度の関数として表しており、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。このデバイスは、日射防止膜で覆われない。
【0273】
1%でドープされた50nmの厚さのサーモクロミック活性材料の層を含み、その表面積が2.5×2.5cm
2である、上記のようにして(段階1から5)製造されたデバイスの赤外線におけるサーモクロミック挙動は、
図6に示される。このデバイスは、段階6のように製造された日射防止膜で覆われる。
【0274】
より正確には、
図6は、2.5から25μmまで積算した、活性厚さ50nm及び表面積5×5cm
2のデバイスによって製造された放射率の変動を温度の関数として表しており、同じ温度に加熱された黒体の放射率と比較したものである。このデバイスは、日射防止膜で覆われる。
【0275】
図5及び
図6は、約35℃のスイッチング温度で、20から50℃の範囲にわたる日射防止膜(εBT=0.55及びεHT=0.85)を固定した後、1%でドープされた50nmの活性材料を含むデバイスについて、赤外光学コントラストΔεが、0.4(ε
BT=0.35及びε
HT=0.75)から0.3に減少することを示す。放熱に有利な放射率の高い値が増加することに注意する必要がある。
【0276】
図7及び
図8において、二重センタリングブラッグミラー(λ
0(1)=550nm及びλ
0(2)=825nm)からなる日射防止膜の減少の有利な効果が、本発明による2つのサーモクロミックデバイスの22℃での日射吸収率の減少であることが理解できる。
【0277】
第1のデバイスは、高赤外線放射率の状態で2%ドープされた厚さ40nmの活性材料(タングステンがドープされたVO
2)の層を含み、ここで、αは、0.49から0.34まで減少する(
図7)。
【0278】
2%ドープされた第2のデバイスは、赤外線放射率が低い状態(タングステンがドープされたVO
2)の厚さ50nmの活性材料の層を含み、ここで、αは、0.59から0.38に減少する(
図8)。
【符号の説明】
【0279】
1 前面
2 太陽放射
3 背面
4 支持体
5 反射層
6 界面層
7 窒化層
8 酸化層
9 誘電体層
10 界面層
11 酸化層
12 窒化層
13 サーモクロミック層
14 赤外線
15 日射防止コーティング