(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】送信機
(51)【国際特許分類】
B60C 23/04 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B60C23/04 120A
(21)【出願番号】P 2019569989
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047842
(87)【国際公開番号】W WO2020136757
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】桃瀬 彰
(72)【発明者】
【氏名】辻田 泰久
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154649(JP,A)
【文献】特開2010-113831(JP,A)
【文献】特開2006-015884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールに装着されたタイヤ内に配置され、受信機に向けてデータを送信するように構成された送信機であって、
前記送信機は、
センサと、
前記センサの検出結果を取得するように構成された取得部と、
前記センサの検出結果を含む前記データを生成するように構成された生成部と、
前記生成部により生成された前記データを送信するように構成された送信部と、
前記送信機の電力源である有機発電素子と、を備え、
前記有機発電素子は、前記タイヤ内に収容された燃料液に含まれる有機物との化学反応によって発電を行うように構成された送信機。
【請求項2】
前記有機物は還元糖を含む請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記タイヤは、接地面と、その接地面とは反対側の裏面とを有するトレッド部を備え、前記送信機は前記トレッド部の前記裏面に設置される請求項1又は請求項2に記載の送信機。
【請求項4】
前記タイヤは、前記燃料液の通過する燃料通過路を備え、前記有機発電素子は、前記燃料通過路を通過する前記燃料液に接するように配置されている請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の送信機。
【請求項5】
前記タイヤ内には前記燃料液を保持する保持部が設けられ、前記有機発電素子は前記保持部に沿うように配置されている請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の送信機。
【請求項6】
前記生成部は、前記有機発電素子の発電量に関する情報を含んだ前記データを生成するように構成された請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の送信機。
【請求項7】
前記送信機は、前記有機発電素子の発電量が閾値を下回ったか否かを判定する判定部を備え、
前記生成部は、前記判定部により前記有機発電素子の発電量が閾値を下回ったと判定された場合、前記発電量が前記閾値を下回ったと判定された旨を示す情報を含んだ前記データを生成する請求項6に記載の送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの状態を監視するため、車両にはタイヤ状態監視装置が設けられている。タイヤ状態監視装置は、車輪に装着された送信機と、受信機と、を備える。送信機は、タイヤの圧力を検出する圧力センサと、送信部と、を備える。送信部は、圧力センサの検出結果を受信機に送信する。これにより、受信機は、タイヤの圧力を監視することができる。
【0003】
送信機の電力源として、発電素子を用いたものとしては、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の送信機は、発電素子として磁歪素子を用いた発電装置を備える。磁歪素子は、衝撃により外形を変化させることにより磁界が変化する逆磁歪効果を利用して発電を行う。発電装置は、磁歪素子に衝撃を加える衝突部材を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発電素子として磁歪素子を用いる場合、磁歪素子に衝撃を加えるために衝突部材を移動可能に設ける必要がある。従って、衝突部材が移動を繰り返すことを原因として、発電装置に故障が生じやすいという課題がある。そして、発電装置に故障が生じると、送信機は動作することができない。このように、可動部材を備えた送信機は耐久性に劣る。
【0006】
本発明の目的は、耐久性の低下を抑制できる送信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第一の態様によれば、ホイールに装着されたタイヤ内に配置され、受信機に向けてデータを送信するように構成された送信機が提供される。前記送信機は、センサと、前記センサの検出結果を取得するように構成された取得部と、前記センサの検出結果を含む前記データを生成するように構成された生成部と、前記生成部により生成された前記データを送信するように構成された送信部と、前記送信機の電力源である有機発電素子と、を備える。前記有機発電素子は、前記タイヤ内に収容された燃料液に含まれる有機物との化学反応によって発電を行うように構成される。
【0008】
送信機は、有機発電素子の発電により生じた電力で動作する。ホイールに装着されたタイヤ内は、気体を充填するための内部空間となっている。この内部空間を燃料液の貯留空間として利用することで、有機発電素子に発電を行わせることができる。有機発電素子は、燃料液に含まれる有機物との化学反応によって発電を行うため、磁歪素子を用いる場合のように可動部材を設けることなく発電を行うことができる。従って、発電を行うために可動部材を設ける必要がなく、送信機の耐久性が下がることを抑制することができる。
【0009】
上記送信機について、前記有機物は還元糖を含んでいてもよい。
上記送信機について、前記タイヤは、接地面と、その接地面とは反対側の裏面とを有するトレッド部を備え、前記送信機は前記トレッド部の前記裏面に設置されていてもよい。
【0010】
車両の走行に伴いタイヤが回転すると、燃料液は遠心力によって流動する。燃料液は、タイヤのトレッド部の裏面に沿って流動する。従って、送信機をタイヤのトレッド部の裏面に設けると、燃料液が有機発電素子に供給されやすい。
【0011】
上記送信機について、前記タイヤは、前記燃料液の通過する燃料通過路を備え、前記有機発電素子は、前記燃料通過路を通過する前記燃料液に接するように配置されていてもよい。
【0012】
燃料通過路を通過する燃料液に接するように有機発電素子を配置することで、燃料液を有機発電素子に供給しやすくなる。
上記送信機について、前記タイヤ内には前記燃料液を保持する保持部が設けられるとともに、前記有機発電素子は前記保持部に沿うように配置されていてもよい。
【0013】
保持部によって燃料液を保持することで、有機発電素子に燃料液を供給しやすくなる。
上記送信機について、前記生成部は、前記有機発電素子の発電量に関する情報を含んだ前記データを生成するように構成されていてもよい。
【0014】
データには発電素子の発電量の関する情報が含まれているため、受信機に発電素子の発電量に関する情報を認識させることができる。
上記送信機は、前記有機発電素子の発電量が閾値を下回ったか否かを判定する判定部を備えてもよい。前記生成部は、前記判定部により前記有機発電素子の発電量が閾値を下回ったと判定された場合、前記発電量が前記閾値を下回ったと判定された旨を示す情報を含んだ前記データを生成してもよい。
【0015】
受信機に、発電量が閾値を下回ったことを認識させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐久性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図7】車両が停止している場合と車両が走行している場合との燃料液の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、送信機の一実施形態について説明する。
図1に示すように、タイヤ状態監視装置20は、車両10の4つの車輪11にそれぞれ装着されるように構成された送信機21と、車両10に設置される受信機40とを備える。各車輪11は、ホイール12と、ホイール12に装着されたタイヤ13とを備える。
【0019】
図2に示すように、タイヤ13のビード17がホイール12のリム18に嵌められることで、タイヤ13はホイール12に装着されている。ホイール12に装着されたタイヤ13内は、気体が充填される内部空間S1となっている。内部空間S1は、タイヤ13及びホイール12に囲まれる領域である。タイヤ13のトレッド部14の外面は、路面に接触する接地面15である。接地面15は、トレッド部14のうち内部空間S1を区画している面とは反対の面ともいえる。ホイール12には、タイヤ13外からタイヤ13内に気体を充填するためのタイヤバルブ19が装着されている。
【0020】
送信機21は、対応するタイヤ13の状態、例えば、タイヤ13の空気圧やタイヤ13内の温度を検出して、検出結果を含む信号を受信機40に無線送信する。タイヤ状態監視装置20は、送信機21から送信される信号を受信機40で受信して、タイヤ13の状態を監視する。
【0021】
図3に示すように、送信機21は、圧力センサ22、温度センサ23、加速度センサ24、送信機用制御部25、送信回路26、送信アンテナ27、蓄電装置28及び発電素子29を備える。
【0022】
圧力センサ22は、対応するタイヤ13の圧力を検出する。圧力センサ22は、検出結果を送信機用制御部25に出力する。温度センサ23は、対応するタイヤ13内の温度を検出する。温度センサ23は、検出結果を送信機用制御部25に出力する。
【0023】
本実施形態では、加速度センサ24として3つの検出軸を備える3軸の加速度センサ24が用いられている。加速度センサ24は、3つの検出軸の向く方向に対する加速度を個別に検出する。3つの検出軸のそれぞれをX軸、Y軸、Z軸とすると、加速度センサ24がタイヤ13の鉛直方向での最下位置に位置している状態で、X軸は車両10の前後方向、Y軸はタイヤ13の回転軸方向、Z軸は鉛直方向下方を向く。X軸は、タイヤ13の回転に伴いX軸に作用する重力加速度の分力を検出する。Y軸は、車幅方向に対する加速度である横加速度を検出する。Z軸は、遠心加速度を検出する。本実施形態では、圧力センサ22、温度センサ23及び加速度センサ24がセンサとして機能する。
【0024】
発電素子29は、有機発電素子である。発電素子29は、化学反応によって発電を行う素子であり、バイオ燃料電池ともいえる。発電素子29は、燃料として、グルコースなどの還元糖、アルデヒド基を有する物質またはアルコール類などの有機物を用いて発電を行うことができる。本実施形態では、燃料として、還元糖の一種であるグルコースを用いる。発電素子29は、グルコース発電素子といえる。
【0025】
蓄電装置28は、二次電池やキャパシタなど、発電素子29によって発電された電力を蓄えることができる装置である。蓄電装置28は、発電素子29の発電によって充電される。蓄電装置28は、送信機21の動作によって放電される。送信機21は、蓄電装置28を介して発電素子29の発電した電力によって動作する。発電素子29は、送信機21の電力源といえる。
【0026】
なお、発電素子29によって発電した電力の蓄電態様としては、種々の態様が挙げられる。例えば、発電素子29によって発電した電力によって送信機21を動作させ、余剰電力によって蓄電装置28を充電してもよい。この場合、発電素子29による発電で送信機21を動作できない場合には蓄電装置28の電力で送信機21を動作させる。また、送信機21を蓄電装置28の電力で動作させ、発電素子29は蓄電装置28の充電を行う専用の素子としてもよい。
【0027】
送信機用制御部25は、CPU25a、記憶部25b(RAMやROM等)、入出力制御回路、A/Dコンバータ等を含むマイクロコンピュータ等の回路(circuitry)よりなる。送信機用制御部25は、各種のソフトウェアを実行することにより、送信機21の動作を制御する。記憶部25bには、各送信機21の固有の識別情報であるIDコードが登録されている。また、記憶部25bには、送信機21を制御するための種々のプログラムが記憶されている。
【0028】
送信機用制御部25は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、送信機用制御部25は、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは3)それらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU、並びに、RAM及びROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0029】
送信機用制御部25は、圧力センサ22、温度センサ23及び加速度センサ24の検出結果を取得する。送信機用制御部25は、取得部として機能する。送信機用制御部25は、加速度センサ24の検出結果から車両10が走行している路面の状態である路面状態を検出する。本実施形態では、一例として、路面の亀裂や段差を検出する場合について説明する。加速度センサ24のX軸では、理論上、タイヤ13の回転に伴う重力加速度の変化のみが検出される。X軸によって検出される加速度は、タイヤ13が1回転する間に+1G~-1Gの間で変化する。加速度センサ24のY軸では、理論上、車両10が直進している場合には加速度が検出されない。なお、実際には、加速度センサ24の取付精度などに起因してX軸によって検出される加速度には、遠心加速度や車幅方向への成分が含まれ、Y軸によって検出される加速度には遠心加速度や重力加速度による成分が含まれる。
【0030】
亀裂や、段差などを車両10が通過する場合、車輪11の亀裂への進入や段差からの落下によって下方に向けた加速度が作用する。また、亀裂からの脱出や、段差への乗り上げによって上方に向けた加速度が作用する。亀裂や段差の通過に伴う車両10の上下動は、X軸の加速度として検出される。X軸の加速度は、短時間の間に急激に変化する。従って、単位時間当たりのX軸の加速度の変化量に閾値を設定し、閾値を超えるか否かを判断することで路面に亀裂や段差が存在しているか否かを判断できる。また、亀裂や、段差などによって車両10が左右方向に移動したり、運転者が亀裂や段差などを回避しようとして車両10を左右方向に移動させたりすると、Y軸の加速度が急激に変化する。従って、X軸の場合と同様に、Y軸の加速度を用いても路面状態を検出することができる。
【0031】
なお、送信機用制御部25は、車両10の進行方向に対する加速度と、横加速度から路面の摩擦係数を算出することもできる。このように、加速度センサ24の検出結果を用いることで、路面状態を検出することができる。
【0032】
なお、Z軸の加速度は、車両10が走行しているか否かを判断するために用いられる。Z軸の加速度は、車両10の速度に比例して大きくなるため、送信機用制御部25は、Z軸の加速度から車両10が走行しているか否かを判定することができる。
【0033】
送信機用制御部25は、発電素子29の発電量を算出することができる。発電素子29の発電量は、種々の態様で算出することができる。例えば、発電素子29の発電により生じる電圧を分圧させて送信機用制御部25のA/Dコンバータに入力したり、発電素子29により生じる電流を電流センサでセンシングしたりすることで発電量を算出することができる。
【0034】
送信機用制御部25は、データを生成し、送信回路26に出力する。送信機用制御部25は、生成部として機能している。送信部としての送信回路26は、送信機用制御部25からのデータを変調して信号(RF(Radio Frequency)信号)を生成し、送信アンテナ27から送信する。
【0035】
図4に示すように、本実施形態のデータには、圧力データ、温度データ及びフラグが含まれる。また、データには、IDコードや、路面状態を示す情報も含まれる。圧力データとは、圧力センサ22によって検出された圧力値を示すデータであり、温度データは、温度センサ23によって検出された温度を示すデータである。フラグは、発電素子29の発電量に関する情報を示すデータである。フラグは、例えば、発電素子29の発電量が閾値を下回った場合に値が反転する1ビットのデータである。閾値としては、送信機21を動作させるのに必要となる電力量よりも大きい値に設定される。即ち、発電素子29の発電量が、送信機21を動作させるのに必要となる電力量を下回る前に、発電量が不足していることを示す情報を送信できるように閾値は設定されている。
【0036】
送信機用制御部25は、発電素子29の発電量が閾値を下回った場合、発電量が閾値を下回っていない場合の値からフラグの値を反転させる。送信機用制御部25は、判定部として機能している。
【0037】
図5及び
図6に示すように、本実施形態の送信機21は、タイヤ13のトレッド部14のうち接地面15とは反対側の裏面16に取り付けられている。詳細にいえば、タイヤ13は、送信機21を取り付けるための中空状の取付部31を備えており、この取付部31に送信機21は収容されている。取付部31は、トレッド部14の裏面16からタイヤ13の中心軸に向けて突出している。なお、取付部31は、タイヤ13のトレッド部14と一体に設けられていてもよいし、タイヤ13のトレッド部14とは別体のものをトレッド部14に取り付けたものであってもよい。
【0038】
取付部31は、取付部31内に送信機21を挿入するための挿入孔32を備える。挿入孔32は、取付部31の内外を繋いでいる。取付部31は、タイヤ13の周方向に並んで設けられた2つの開口33を備える。2つの開口33のそれぞれは、2つの開口33の並ぶ方向に延びている。なお、「2つの開口33の並ぶ方向」とは、開口33をタイヤ13の径方向から見たときに、開口33がタイヤ13の周方向に対して平行に延びている態様だけではなく、開口33がタイヤ13の周方向に対して傾いている態様も含む。例えば、開口33をタイヤ13の径方向から見たときに、開口33は、タイヤ13の周方向に対して45°未満の範囲で傾いていてもよい。
【0039】
開口33は、取付部31において、周方向に向かい合う部位を貫通する2つの孔である。開口33の形状は、どのような形状であってもよく、例えば、一定の断面積の孔であってもよいし、取付部31の外部から内部に向けて断面積の小さくなる孔であってもよい。開口33は、取付部31のうちトレッド部14の裏面16に極力近い位置に設けることが好ましく、本実施形態ではトレッド部14の裏面16に面するように設けられている。
【0040】
取付部31内には、保持部34が配置されている。保持部34は、スポンジなどの多孔性材料や、高分子吸収体などの吸水性を有する材料で構成された部材である。保持部34は、取付部31内で、トレッド部14の裏面16に沿って配置されている。保持部34は、開口33同士の間で延びている。即ち、保持部34は、一方の開口33から他方の開口33に至るまでタイヤ13の周方向に延びている。
【0041】
ここで、発電素子29は、内部空間S1に収容された燃料液Fとの化学反応によって発電を行う。燃料液Fとは、発電素子29の燃料を溶媒に溶解させた溶液である。内部空間S1から気体が漏れないようにホイール12とタイヤ13とはシールされている。従って、内部空間S1は、燃料液Fを貯留するための貯留空間として用いることが可能である。
【0042】
発電素子29は、燃料液Fによる発電を可能とするため、燃料液Fと接触可能な態様で設けられている。例えば、送信機21を構成する部材の多くはケース内に収容され、樹脂によりモールドされることで、タイヤ13内の気体に触れないようにされている。これに対して、発電素子29は少なくとも一部がケース外に露出するように構成される。そして、発電素子29は、発電素子29とトレッド部14の裏面16とで保持部34を間に挟むように位置している。発電素子29は、保持部34に沿って配置されているといえる。
【0043】
取付部31内において、保持部34の設けられている領域を収容領域S2とすると、燃料液Fは保持部34を介して収容領域S2を通過可能である。2つの開口33は、収容領域S2と取付部31の外部を連通させており、2つの開口33及び収容領域S2によって燃料液Fの通過する燃料通過路Rが形成されている。
【0044】
図7に示すように、車両10が停止している状態、即ち、タイヤ13が回転していない状態では燃料液Fはタイヤ13の内部空間S1の鉛直方向下部に貯留される。車両10が走行している状態、即ち、タイヤ13が回転している状態では遠心力によって燃料液Fがタイヤ13の内周面に押し付けられる。これにより、燃料液Fはタイヤ13の内周面の全周に亘って膜を張るように流動する。
【0045】
次に、タイヤ13内に燃料液Fを充填する燃料液充填方法について説明する。
図8に示すように、燃料液Fの充填には、気体充填装置60を用いる。気体充填装置60は、エアインフレーターや、エアキャリーなど、タイヤ13内に気体を充填することに用いる装置である。気体充填装置60は、コンプレッサ61と、ベンチュリ管62と、貯留部63、圧力調整弁64と、エアチャック65と、を備える。
【0046】
コンプレッサ61は、気体を圧縮して吐出する。気体としては、例えば、空気が挙げられる。ベンチュリ管62は、流入口66と、流出口67と、絞り部68と、を備える。流入口66は、コンプレッサ61に接続されている。流出口67は、圧力調整弁64に接続されている。絞り部68は、流入口66と流出口67との間に設けられており、管路断面積が絞られた部分である。絞り部68は、流入口66から流出口67に向けて管路断面積を徐々に小さくする第1部分68aと、この第1部分68aから流出口67に向けて管路断面積を徐々に大きくする第2部分68bとを含む。絞り部68は、貯留部63に接続されている。貯留部63は、燃料液Fを貯留している。
【0047】
圧力調整弁64は、供給された流体の圧力を所定値にして排出するレギュレータである。圧力調整弁64は、エアチャック65に接続されている。エアチャック65は、タイヤバルブ19に装着される。
【0048】
気体充填装置60を用いてタイヤ13内に気体を充填する際には、エアチャック65をタイヤバルブ19に装着する。この状態でコンプレッサ61が駆動すると、コンプレッサ61から吐出された気体はベンチュリ管62に流入する。
【0049】
コンプレッサ61からベンチュリ管62に流入した気体の流速は、絞り部68で増加される。流速の増加に伴う圧力低下により発生した負圧により、貯留部63内の燃料液Fはベンチュリ管62に吸引される。ベンチュリ管62に吸引された燃料液Fは、気体と混合される。ベンチュリ管62の流出口67からは、コンプレッサ61から供給された気体と燃料液Fとが混合した流体が流出する。
【0050】
気体充填装置60から供給される流体はエアチャック65を介してタイヤバルブ19に供給され、タイヤバルブ19からタイヤ13内に供給される。これにより、タイヤ13内への気体の充填とともに、タイヤ13内への燃料液Fの充填を行うことが出来る。
【0051】
図1に示すように、受信機40は、受信機用制御部41と、受信機用受信回路42と、受信アンテナ43とを備える。受信機用制御部41には、警報器44が接続されている。受信機用制御部41は、受信機用CPU41a及び受信機用記憶部41b(ROMやRAM等)を含むマイクロコンピュータ等よりなる。受信機用受信回路42は、各送信機21から受信アンテナ43を介して受信された信号を復調して、受信機用制御部41にデータを出力する。
【0052】
受信機用制御部41は、送信機21より送信されたデータから、タイヤ13の状態を把握する。受信機用制御部41は、タイヤ13に異常が生じている場合、警報器(報知器)44にて報知を行う。警報器44としては、例えば、異常を光の点灯や点滅によって報知する装置や、異常を音によって報知する装置が用いられる。また、受信機用制御部41は、車両10の搭乗者が視認可能な表示器に、タイヤ13の状態を表示してもよい。
【0053】
受信機用制御部41は、データに含まれるフラグから、発電素子29の発電量が閾値を下回っていることを認識する。受信機用制御部41は、発電素子29の発電量が閾値を下回っている場合、車両10の搭乗者に対して、その旨の報知を行う。例えば、警報器44による報知を行ってもよいし、車両10の搭乗者が視認可能な表示器に表示を行ってもよい。警報器44による報知を行う場合、タイヤ13に異常が生じた場合と同一の警報器44を用いてもよいし、異なる警報器を用いてもよい。即ち、車両10の搭乗者にタイヤ13の異常を報知するための警報器44と、発電素子29の発電量が不足していることを報知する警報器とは同一であってもよいし、別々のものであってもよい。
【0054】
また、受信機用制御部41は、受信したデータのうち路面状態に関するデータを電子制御ユニット51に送信する。電子制御ユニット51は、車両10に搭載され、車載部品に関する制御を行う。電子制御ユニット51は、例えば、車両10の自動走行に関する制御を行う。車両10の自動走行では、車両10の走行状態や、車両10が走行している路面の路面状態を取得することが要求される。電子制御ユニット51は、送信機21によって検出された路面状態を用いて自動走行に関する制御を行う。
【0055】
本実施形態の作用について説明する。
車両10の走行に伴いタイヤ13が回転すると、燃料液Fは遠心力によって流動する。燃料液Fは、タイヤ13のトレッド部14のうち接地面15とは反対側の裏面16を流動する。開口33を介して収容領域S2への燃料液Fの流入と、収容領域S2からの燃料液Fの流出とが行われる。燃料液Fは、燃料通過路Rを通過することになる。
【0056】
取付部31内に流入した燃料液Fは、保持部34に吸収されることで、その場に一時的に保持される。発電素子29と保持部34とは接触しているため、発電素子29には保持部34から燃料液Fが供給されることになる。発電素子29は、燃料通過路Rを通過する燃料液Fに接するように配置されているといえる。
【0057】
発電素子29は、燃料液Fに含まれる有機物との化学反応によって発電する。送信機21は、発電素子29によって発電された電力で動作する。燃料液Fとの化学反応によって気体が生じる。この気体は、二酸化炭素である。
【0058】
発電素子29を電力源とすることで、バッテリのみを電力源とする場合に比べて、送信機21の寿命を長くしやすい。バッテリのみを電力源とした場合、送信機21がタイヤ13内に配置されることや、バッテリが樹脂によりモールドされることを原因として、バッテリの交換を行いにくい。従って、送信機21の寿命は、バッテリの寿命、即ち、バッテリの容量に依存することになる。
【0059】
発電素子29を電力源とする場合、燃料液Fによって発電を行うことができる。燃料液Fは、タイヤ13内の空間である内部空間S1を利用して貯留することができる。更に、気体充填装置60を用いた燃料液充填方法によって、燃料液Fを補充することが可能である。従って、バッテリのみを電力源とする場合に比べて、送信機21の長寿命可を図ることができる。
【0060】
特に、本実施形態のように、送信機21を用いて路面状態を検出しようとする場合、電力の消費が大きくなることで送信機21の寿命が短くなりやすい。詳細にいえば、送信機21で路面状態の検出を行わない場合、即ち、タイヤ13の圧力異常や温度異常のみを検出する場合には加速度センサ24の検出結果を間欠的に取得すればよい。これに対して、送信機21で路面状態を検出する場合、加速度センサ24の検出結果を連続、あるいは、路面の検出を行わないよりも短い間隔で取得する必要がある。加速度センサ24から検出結果を取得する回数が増加することで、消費電力が大きくなり、バッテリのみを電力源とすると送信機21の寿命が短くなりやすい。発電素子29を用いることで、送信機21を用いて路面状態の検出を行う場合であっても、送信機21の長寿命可を図ることができる。
【0061】
実施形態の効果について説明する。
(1)送信機21は、発電素子29の発電により生じた電力で動作する。発電素子29は、燃料液Fに含まれる有機物との化学反応によって発電を行うため、磁歪素子を用いる場合のように可動部材を設けることなく発電を行うことができる。従って、発電を行うために可動部材を設ける必要がなく、発電素子29を設けることで、送信機21の耐久性が下がることを抑制することができる。
【0062】
(2)送信機21をタイヤ13のトレッド部14の裏面16に設けている。タイヤ13が回転すると、燃料液Fはトレッド部14の裏面16を流動するため、燃料液Fが発電素子29に供給されやすい。
【0063】
(3)発電素子29は、燃料通過路Rを通過する燃料液Fと接するように配置されている。従って、燃料液Fを発電素子29に供給しやすい。
(4)発電素子29は、保持部34に沿って配置されている。保持部34によって燃料液Fを保持することで、発電素子29に燃料液Fを供給しやすくなる。
【0064】
(5)送信機21の送信するデータには発電素子29の発電量の関する情報が含まれているため、受信機40に発電素子29の発電量に関する情報を認識させることができる。本実施形態では、発電素子29の発電量が閾値を下回ったことを受信機40に認識させることができる。
【0065】
(6)発電素子29の発電によって二酸化炭素が生じる。発電素子29の発電によって、タイヤ13内の気体を補充することができるため、タイヤ13の圧力が低下しにくい。
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0066】
・データに含まれる発電素子29の発電量に関する情報は、発電量[Wh]そのものを示す情報であってもよい。
・送信機用制御部25は、発電素子29の発電量に関する情報をデータに含めなくてもよい。この場合、受信機用制御部41は、所定時間が経過する毎に燃料液Fの補充を促すなど、別の方法で燃料液Fの充填を促してもよい。
【0067】
・保持部34は設けられていなくてもよい。
・保持部34は、発電素子29とトレッド部14に挟まれていなくてもよく、発電素子29の周囲を覆うように設けられていてもよい。この場合であっても、発電素子29に燃料液Fを供給しやすい。
【0068】
・開口33は、取付部31内への燃料液Fの流入と、取付部31外への燃料液Fの流出を行うことができればよく、どのような形状であってもよい。
・取付部31は、開口33を備えていなくてもよい。この場合、発電素子29は、例えば、挿入孔32を向くように設けられるなど、内部空間S1に露出する態様で配置される。
【0069】
・送信機21は、タイヤ13内に配置されていればよく、トレッド部14の裏面16以外に配置されていればよい。例えば、送信機21は、タイヤバルブ19と一体に設けられていてもよい。この場合、送信機21に燃料通過路を設けてもよい。燃料通過路は、例えば、燃料液Fを受ける受け部と、この受け部で受けた燃料液Fを発電素子29に誘導する誘導部で構成される。誘導部によって発電素子29に誘導された燃料液Fは、内部空間S1に戻され、循環することになる。受け部としては、例えば、送信機21がタイヤ13の鉛直方向下方に位置している場合に、送信機21よりも鉛直方向上方から落下する燃料液Fを受けることができるように設けられる。車両10が走行と停止とを繰り返し行うような走行状況の場合、車両10の停止時に送信機21がタイヤ13の鉛直方向下方に位置し得る。従って、発電素子29に燃料液Fを供給しやすくなる。
【0070】
・送信機21は、蓄電装置28を備えず、発電素子29によって発電された電力によって直接動作するようにしてもよい。
・発電素子29は、グルコース以外の燃料によって発電するものであってもよい。例えば、発電素子29は、グルコース以外の還元糖、アルデヒド基を有する物質、又はアルコール類を燃料として発電するものであってもよい。還元糖としては、例えば、グルコース以外のアルドース、ケトース、二糖などが挙げられる。アルデヒド基を有する物質としては、例えば、アクリルアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトアルデヒド=エチレンアセタール、アセトアルデヒド=オキシム、アセトアルデヒド=ジメチルアセタール、テレフタルアルデヒド酸、ピルビンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フタルアルデヒドなどが挙げられる。アルコール類としては、例えば、エタノール、ピペロニルアルコール、フェナシルアルコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0071】
・気体充填装置60は、コンプレッサ61とは異なる気体供給源を備えたものであってもよい。例えば、コンプレッサ61に代えて、ポンプを設けてもよいし、圧縮された気体を貯蔵した耐圧容器を設けてもよい。
【0072】
・燃料液充填方法は、実施形態に限られず、どのような方法で実施してもよい。例えば、
図9に示すように、タイヤ13をホイール12に装着する際に用いる潤滑剤Lとして、燃料液を用いてもよい。
【0073】
タイヤ13にホイール12を装着する際には、タイヤ13のビード17が損傷しないようにすることや、タイヤ13のビード17をホイール12のリム18に円滑に嵌めることを目的として、タイヤ13のビード17に潤滑剤Lが塗布される。潤滑剤Lは、液状の潤滑剤である。この潤滑剤Lに燃料を溶解させたり、実施形態の燃料液Fを配合したりすることで潤滑剤Lを燃料液として兼用できるようにする。そして、この潤滑剤Lを用いてタイヤ13をホイール12に装着する。
【0074】
タイヤ13がホイール12に装着されると、潤滑剤Lの一部はタイヤ13内に貯留される。従って、潤滑剤Lとして燃料液を用いることで、タイヤ13内に燃料液を充填することができる。
【0075】
・加速度センサ24の検出軸の数は、適宜変更してもよい。例えば、加速度センサ24を用いて車両10の走行を検出する場合であれば、加速度センサ24を用いて遠心加速度のみが検出できればよい。
【0076】
・送信機21は、路面状態の検出を行わなくてもよい。
・送信機用制御部25は、圧力センサ22によって検出されるタイヤ13の圧力が単位時間当たりに所定値以上上昇したことを契機としてデータの送信を行ってもよい。所定値としては、例えば、車両10の走行による温度上昇を原因とするタイヤ13の圧力上昇値よりも大きな値に設定される。また、所定値としては、タイヤ13に気体を充填するときのタイヤ13の圧力上昇値や、ホイール12にタイヤ13を装着したときのタイヤ13の圧力上昇値よりも小さな値に設定される。これにより、タイヤ13への気体の充填時及びタイヤ13をホイール12に装着した時に送信機21から受信機40にデータが送信される。タイヤ13内に燃料液Fが充填されるのは、タイヤ13への気体の充填時や、タイヤ13をホイール12に装着した時である。従って、燃料液Fが充填されたことを契機として、送信機21から受信機40にデータが送信されることになる。データには、発電素子29の発電量に関する情報を示すデータであるフラグが含まれている。燃料液Fが正常に充填された場合には、発電素子29の発電量が閾値以上になる。一方で、燃料液Fが正常に充填されなかった場合には、発電素子29の発電量は閾値を下回るおそれがある。受信機40は、発電素子29の発電量が閾値を下回っていた場合には、警報器44などによる報知を行う。従って、燃料液Fが充填されたことを契機として、送信機21から受信機40にデータを送信することで、車両10の搭乗者は、燃料液Fが正常に充填されたか否かを確認することができる。
【0077】
・送信機21は、タイヤ13の状態を検出するためのセンサである圧力センサ22や温度センサ23、路面状態や車両10の走行を検出するためのセンサである加速度センサ24のうちいずれか1つを備えていればよい。また、送信機21は、圧力センサ22、温度センサ23及び加速度センサ24以外のセンサを備えるものでもよい。
【0078】
・車両10は、二輪車や、5つ以上の車輪11を備える車両10であってもよい。
・受信機は、車両10の搭乗者が所持する携帯端末であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
F…燃料液、R…燃料通過路、12…ホイール、13…タイヤ、14…トレッド部、15…接地面、16…裏面、17…ビード、21…送信機、22…圧力センサ(センサ)、23…温度センサ(センサ)、24…加速度センサ(センサ)、25…送信機用制御部(取得部及び生成部)、26…送信回路(送信部)、29…発電素子(有機発電素子)、34…保持部、40…受信機。