(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/06 20120101AFI20220107BHJP
【FI】
G06Q40/06
(21)【出願番号】P 2020162793
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】399037405
【氏名又は名称】楽天グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【氏名又は名称】畑添 隆人
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100216367
【氏名又は名称】水谷 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】梅田 卓志
【審査官】石川 正二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064446(JP,A)
【文献】特開2019-021320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する予測部と、
前記予測部による第一のモデルの使用可否を、前記商品価格の過去の変動に基づいて判断する判断部と、
前記判断部によって前記第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、前記予測部によって用いられる前記モデルとして、該第一のモデルを設定する設定部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記判断部によって前記第一のモデルが使用不可能であると判断された場合、前記予測部による、前記第一のモデルを用いた前記商品価格の将来の変動の予測を中止させる、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記判断部によって前記第一のモデルが使用不可能であると判断された場合、前記予測部による、前記第一のモデルを用いた前記商品価格の将来の変動の予測を中止させ、前記予測部によって用いられる前記モデルとして、前記第一のモデルとは異なる第二のモデルを設定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記判断部は、前記予測部による予測対象である前記商品価格が、該商品価格に対応する移動平均から正側及び負側に「標準偏差(シグマ)*第一の係数」の範囲である第一のバンド内に位置するか否かに基づいて、前記第一のモデルの使用可否を判断する、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第一のモデルは、前記第一の係数よりも小さい第二の係数を用い、前記商品価格と、該商品価格に対応する移動平均から正側及び負側に「標準偏差(シグマ)*第二の係数」の範囲である第二のバンドとの位置関係、または前記商品価格と前記移動平均との位置関係に基づいて、取引サインを出力するモデルであり、
前記第二のモデルは、前記商品価格と前記第一のバンドとの位置関係に基づいて、取引サインを出力するモデルである、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第一のモデルを用いる前記予測部は、
前記商品価格が、前記第二のバンドの正側の境界線をクロスした場合、「売り」の前記取引サインを出力し、
前記商品価格が、前記第二のバンドの負側の境界線をクロスした場合、「買い」の前記取引サインを出力し、
前記商品価格が前記移動平均の線をクロスした場合、保有ポジションの「リリース」の前記取引サインを出力する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記第二のモデルを用いる前記予測部は、
前記商品価格が、前記第一のバンドの正側の境界線より高くなった場合、「買い」の前記取引サインを出力し、
前記商品価格が、前記第一のバンドの負側の境界線より低くなった場合、「売り」の前記取引サインを出力する、
請求項5または6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記第一の係数および前記第二の係数は、過去の所定期間のデータを用いたバックテストにおいて、第一の基準以上の利益が得られる係数である、
請求項5から7の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記第一のモデル又は前記第二のモデルを用いる前記予測部は、現時点で保有ポジションをリリースした場合の損益が第二の基準を満たす場合に、該保有ポジションの「リリース」の前記取引サインを出力する、
請求項5から8の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記判断部によって前記第一のモデルが使用不可能であると判断された場合に、ユーザに対して該判断結果に応じた通知を出力する通知部を更に備える、
請求項1から9の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
コンピュータが、
設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する予測ステップと、
前記予測ステップにおける第一のモデルの使用可否を、前記商品価格の過去の変動に基づいて判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおいて前記第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、前記予測ステップにおいて用いられる前記モデルとして、該第一のモデルを設定する設定ステップと、
を実行する方法。
【請求項12】
コンピュータを、
設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する予測部と、
前記予測部による第一のモデルの使用可否を、前記商品価格の過去の変動に基づいて判断する判断部と、
前記判断部によって前記第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、前記予測部によって用いられる前記モデルとして、該第一のモデルを設定する設定部と、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、商品価格の将来の変動を予測するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、商品の過去の価格情報および価格に影響を及ぼす関連情報に基づいて、商品の将来価格を予測する複数の予測モデルを生成するため予測モデル生成部を備え、予測モデル生成部は、価格情報および関連情報のうち将来価格の予測に利用する期間を全期間範囲とし、この全期間範囲の中から1つの予測モデルを生成するための単位期間と、予測モデルを生成する生成周期と、将来価格を予測する将来時点とに基づいて、複数の予測モデルを生成する取引支援システムが提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、金融商品を含む様々な商品の価格に対するモデルの予測結果に基づいて、取引を行う方法が知られている。しかし、あらゆる状況において高い予測精度を実現するモデルを作成することは困難である。即ち、モデルは、過去データに基づいて(例えば、過去データをバックテストすること等によって)作成されるため、コロナウイルス禍のような予測不可能で異常なイベントの発生に伴う、商品の価格の異常な変動等があった場合には、高い予測精度を維持することが困難になる。このような場合に、適切でないモデルが無理に使用され続けると、予想外の事態に対応しきれず、想定外の損害を生む虞がある。
【0005】
本開示は、上記した問題に鑑み、商品の価格の変動に応じた適切な処理を実行する情報処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例は、設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する予測部と、前記予測部による第一のモデルの使用可否を、前記商品価格の過去の変動に基づいて判断する判断部と、前記判断部によって前記第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、前記予測部によって用いられる前記モデルとして、該第一のモデルを設定する設定部と、を備える情報処理装置である。
【0007】
本開示は、情報処理装置、システム、コンピュータによって実行される方法又はコンピュータに実行させるプログラムとして把握することが可能である。また、本開示は、そのようなプログラムをコンピュータその他の装置、機械等が読み取り可能な記録媒体に記録したものとしても把握できる。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、商品の価格の変動に応じた適切な処理を実行する情報処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る情報処理システムの構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る情報処理システムのハードウェア構成の概略を示す図である。
【
図3】実施形態に係る情報処理システムの機能構成の概略を示す図である。
【
図4】実施形態に係る第一のバンド及び第二のバンドの時間の経過に伴う変化を示すグラフの例示である。
【
図5】実施形態に係る判断処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る第一の予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る第二の予測処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る情報処理装置、方法及びプログラムの実施の形態を、図面に基づいて説明する。但し、以下に説明する実施の形態は、実施形態を例示するものであって、本開示に係る情報処理装置、方法及びプログラムを以下に説明する具体的構成に限定するものではない。実施にあたっては、実施の態様に応じた具体的構成が適宜採用され、また、種々の改良や変形が行われてよい。
【0011】
本実施形態では、本開示に係る技術を、有価証券や通貨等の金融商品の取引(より具体的には、FX取引、株取引、商品取引等)のためのシステムにおいて実施した場合の実施の形態について説明する。但し、本開示に係る「商品」は、所謂金融商品に限定されない。本開示に係る技術は、需給に基づいて価格が変動する様々な商品(例えば、石油や先物等を含む)の価格変動を予測するための技術について広く用いることが可能であり、本開示の適用対象は、実施形態において示した例に限定されない。
【0012】
<システムの構成>
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を示す概略図である。本実施形態に係るシステムは、ネットワークに接続されることで互いに通信可能な予測サーバ1と、1又は複数のユーザ端末9とを備える。
【0013】
図2は、本実施形態に係るシステムのハードウェア構成の概略を示す図である。予測サーバ1は、ユーザに対して商品価格の変動予測サービスを提供するためのサーバである。予測サーバ1は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置14、NIC(Network Interface Card)等の通信ユニット15、等を備えるコンピュータである。但し、予測サーバ1の具体的なハードウェア構成に関しては、実施の態様に応じて適宜省略や置換、追加が可能である。また、予測サーバ1は、単一の筐体からなる装置に限定されない。予測サーバ1は、所謂クラウドや分散コンピューティングの技術等を用いた、複数の装置によって実現されてよい。
【0014】
ユーザ端末9は、ユーザによって使用される端末装置である。ユーザ端末9は、CPU、ROM、RAM、記憶装置、通信ユニット、入力装置、出力装置等(図示は省略する)を備えるコンピュータである。また、ユーザ端末9は、単一の筐体からなる装置に限定されない。ユーザ端末9は、所謂クラウドや分散コンピューティングの技術等を用いた、複数の装置によって実現されてよい。ユーザは、これらのユーザ端末9を介して予測サーバ1によって提供される各種サービスを利用する。
【0015】
図3は、本実施形態に係る情報処理システムの機能構成の概略を示す図である。予測サーバ1は、記憶装置14に記録されているプログラムが、RAM13に読み出され、CPU11によって実行されて、予測サーバ1に備えられた各ハードウェアが制御されることで、判断部21、設定部22、予測部23及び通知部24を備える情報処理装置として機能する。なお、本実施形態及び後述する他の実施形態では、予測サーバ1の備える各機能は、汎用プロセッサであるCPU11によって実行されるが、これらの機能の一部又は全部は、1又は複数の専用プロセッサによって実行されてもよい。
【0016】
判断部21は、予測部23による第一のモデルの使用可否を、商品価格の過去の変動に基づいて判断する。より具体的には、判断部21は、予測部23による予測対象である商品価格が、当該商品価格に対応する移動平均から正側及び負側に「標準偏差(シグマ)*第一の係数L」の範囲である第一のバンド内に位置するか否かに基づいて、第一のモデルの使用可否を判断する。
【0017】
図4は、本実施形態に係る第一のバンド及び第二のバンドの時間の経過に伴う変化を例示するグラフである。本グラフの縦軸は価格、横軸は時間であり、グラフには、対象商品の現在の価格CP、N日移動平均MV、正側LシグマpLσ、負側LシグマmLσ、正側SシグマpSσ、及び負側SシグマmSσ、が示されている。ここで、N日移動平均MVは、直近のN日分の価格の平均であり、例えば、直近の25日間の終値の平均や、直近の10日間の終値の平均が用いられてよい。そして、正側LシグマpLσは、N日移動平均MVに「商品価格の標準偏差(シグマ)*第一の係数L」を加算した値であり、負側LシグマmLσは、N日移動平均MVから「商品価格の標準偏差(シグマ)*第一の係数L」を減算した値である。本実施形態では、正側LシグマpLσ及び負側LシグマmLσに挟まれた範囲を、「第一のバンド」と称する。
【0018】
第一のバンドは、対象商品の市場がレンジ市場であるかトレンド市場であるかを判断するためのバンドであり、本実施形態において、判断部21は、対象商品の価格CPがT日間連続して第一のバンド(正側LシグマpLσ及び負側LシグマmLσに挟まれた範囲)の外側にある場合、現在の市場がトレンド市場であり、後述する第一のモデルが使用不可能であると判断する。一方、対象商品の価格CPがR日間連続して第一のバンド(正側LシグマpLσ及び負側LシグマmLσに挟まれた範囲)の内側にある場合、現在の市場がレンジ市場であり、後述する第一のモデルが使用可能であると判断する。
【0019】
設定部22は、判断部21によって第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、予測部23によって用いられるモデルとして、レンジ市場の予測用のモデルである第一のモデルを設定する。また、設定部22は、判断部21によって第一のモデルが使用不可能であると判断された場合、予測部23による、第一のモデルを用いた商品価格の将来の変動の予測を中止させ、予測部23によって用いられるモデルとして、第一のモデルとは異なる、トレンド市場の予測用のモデルである第二のモデルを設定する。
【0020】
予測部23は、設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する。本実施形態において、予測部23は、判断部21によって第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、当該第一のモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する。一方、予測部23は、判断部21によって第一のモデルが使用不可能であると判断された場合、第一のモデルを用いた商品価格の将来の変動の予測を行わず、第一のモデルとは異なる第二のモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する。
【0021】
はじめに、第一のモデルを用いた予測について説明する。本実施形態において、第一のモデルは、第一の係数Lよりも小さい第二の係数Sを用い、商品価格と、当該商品価格に対応する移動平均から正側及び負側に「標準偏差(シグマ)*第二の係数S」の範囲である第二のバンドとの位置関係、または商品価格と移動平均との位置関係に基づいて、取引サインを出力するモデルである。
【0022】
図4に示されたグラフを参照して、第一のモデルによって参照される第二のバンドを説明する。本実施形態において、「第二のバンド」は、正側SシグマpSσ及び負側SシグマmSσに挟まれた範囲である。ここで、正側SシグマpSσは、N日移動平均MVに「商品価格の標準偏差(シグマ)*第二の係数S」を加算した値であり、負側SシグマmSσは、N日移動平均MVから「商品価格の標準偏差(シグマ)*第二の係数S」を減算した値である。
【0023】
そして、第一のモデルを用いる予測部23は、商品価格CPが、第二のバンドの正側の境界線である正側SシグマpSσの線をクロスした場合、「売り」の取引サインをユーザ端末9に対して出力し、商品価格CPが、第二のバンドの負側の境界線である負側SシグマmSσの線をクロスした場合、「買い」の取引サインをユーザ端末9に対して出力し、商品価格CPがN日移動平均MVの線をクロスした場合、保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する。なお、ここで商品価格CPが線をクロスする方向は、下から上方向へのクロスであってもよいし、上から下方向へのクロスであってもよい。
【0024】
更に、第一のモデルを用いる予測部23は、現時点で保有ポジションをリリースした場合の損益が所定の基準(第二の基準)を満たす場合に、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する。具体的には、予測部23は、ユーザのある保有ポジションについて、「損益率PL<=q%」である場合(例えば、q=-2.5)、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(損失確定)。また、予測部23は、ユーザのある保有ポジションについて、「損益率PL>=p%」である場合(例えば、p=5.0)、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(利益確定)。なお、判断基準となるp及びqの値は、バックテストの結果、ユーザの属性やリスク許容度等に基づいて決定されてよい。
【0025】
ここで、損益率PLの算出方法は商品の売買形態やシステムに応じて異なるが、損益率PLは、例えば「(売値-買値-手数料)/買値」等の方法で算出される。但し、損益が所定の基準(第二の基準)を満たすか否かは、その他の方法で判断されてもよい。例えば、所謂シャープ・レシオを損益判断の基準としてもよいし、取引の種類によっては、レバレッジや配当、金利等を併せて考慮して判断されることとしてもよい。
【0026】
次に、第二のモデルを用いた予測について説明する。本実施形態において、第二のモデルは、商品価格と第一のバンドとの位置関係に基づいて、取引サインを出力するモデルである。そして、第二のモデルを用いる予測部23は、商品価格CPが、第一のバンドの正側の境界線である正側LシグマpLσの線より高くなった場合、「買い」の取引サインをユーザ端末9に対して出力し、商品価格CPが、第一のバンドの負側の境界線である負側LシグマmLσの線より低くなった場合、「売り」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する。
【0027】
更に、第二のモデルを用いる予測部23は、現時点で保有ポジションをリリースした場合の損益が所定の基準(第二の基準)を満たす場合に、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する。具体的な判断処理の内容は、上記第一のモデルにおいて損益率PLに基づいて「リリース」の取引サインを出力する際の判断処理について説明した内容と概略同様であるため、説明を省略する。
【0028】
また、本実施形態において、第一の係数Lおよび第二の係数Sには、過去の所定期間のデータを用いたバックテストにおいて、所定の基準(第一の基準)以上の利益が得られる係数が設定される。但し、第一の係数Lおよび第二の係数Sには、経験的に得られて管理者等によって設定された固定値が用いられてもよい。あくまでも一例であるが、第一の係数Lを2.0、第二の係数Sを1.8とすることが出来る。
【0029】
通知部24は、判断部21によって第一のモデルが使用不可能であると判断された場合に、ユーザ端末9に対して当該判断結果に応じた通知を出力する。通知の内容は、例えば、レンジ市場の予測用である第一のモデルが適さなくなり、市場がトレンド市場(本実施形態では、第二のモデルが用いられる市場)に移行したことをユーザに知らせるための警告等であってよい。
【0030】
<処理の流れ>
次に、本実施形態に係る情報処理システムによって実行される処理の流れを説明する。なお、以下に説明する処理の具体的な内容及び処理順序は、本開示を実施するための一例である。具体的な処理内容及び処理順序は、本開示の実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0031】
図5は、本実施形態に係る判断処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示された処理は、定期的に実行される。例えば、本フローチャートに示された処理は、その日の取引が終了した後、翌日の取引が開始されるまでに(換言すれば、取引時間外において)、各日の終値に基づいて実行されてよい。但し、本フローチャートに示された処理の実行タイミングは、本開示における例示に限定されない。処理の実行タイミングは、取引が可能な時間帯や取引が発生する頻度、取引される商品の種類、ユーザの都合等、様々な要因に基づいて設定されてよい。
【0032】
ステップS101では、予測部23に設定されているモデルが判定される。判断部21は、はじめに、現在予測部23に設定されているモデルが第一のモデルであるか否かを判定する。予測部23に設定されているモデルが第一のモデルである場合(ステップS101のYES)、処理はステップS102へ進む。一方、予測部23に設定されているモデルが第一のモデルでなく、第二のモデルである場合(ステップS101のNO)、処理はステップS110へ進む。
【0033】
ステップS102では、第一のモデル及び第二のモデルの使用可能性が判断される。判断部21は、対象商品の価格CPがT日間連続して第一のバンドの外側にあるか否かを判定する。価格CPがT日間連続して第一のバンドの外側にある場合(ステップS102のYES)、第一のモデルが使用不可能であると判断され、処理はステップS103へ進む。一方、ステップS102における判定結果がNOであった場合、予測部23に設定されているモデルは第一のモデルのまま維持され、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0034】
ステップS103及びステップS104では、予測部23に設定されているモデルが第一のモデルから第二のモデルへ変更される。ステップS102で第一のモデルが使用不可能であると判断された場合(ステップS102のYES)、設定部22は、予測部23による、第一のモデルを用いた商品価格の将来の変動の予測を中止させ(ステップS103)、予測部23によって用いられるモデルとして、第一のモデルとは異なる、トレンド市場の予測用のモデルである第二のモデルを設定する(ステップS104)。その後、処理はステップS105へ進む。
【0035】
ステップS105では、ユーザ端末9に対する通知が行われる。ステップS102で第一のモデルが使用不可能であると判断された場合(ステップS102のYES)、通知部24は、ユーザ端末9に対して通知(例えば、レンジ市場からトレンド市場へ移行したことをユーザに知らせるための警告等)を出力する。その後、処理はステップS106へ進む。
【0036】
ステップS106では、ポジションのリリースサインが出力される。予測サーバ1は、市場が切り替わったと判断された場合、保有ポジションの「リリース」サインをユーザ端末9に対して出力する。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。なお、ステップS106は省略されてもよい。
【0037】
ステップS110では、第一のモデル及び第二のモデルの使用可能性が判断される。判断部21は、対象商品の価格CPがR日間連続して第一のバンドの内側にあるか否かを判定する。価格CPがR日間連続して第一のバンドの内側にある場合(ステップS110のYES)、第一のモデルが使用可能である(第二のモデルが使用不可能である)と判断され、処理はステップS111へ進む。一方、ステップS110における判定結果がNOであった場合、予測部23に設定されているモデルは第二のモデルのまま維持され、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0038】
ステップS111及びステップS112では、予測部23に設定されているモデルが第二のモデルから第一のモデルへ変更される。ステップS110で第一のモデルが使用可能であると判断された場合(ステップS110のYES)、設定部22は、予測部23による、第二のモデルを用いた商品価格の将来の変動の予測を中止させ(ステップS111)、予測部23によって用いられるモデルとして、レンジ市場の予測用のモデルである第一のモデルを設定する(ステップS112)。その後、処理はステップS113へ進む。
【0039】
ステップS113では、ユーザ端末9に対する通知が行われる。ステップS110で第一のモデルが使用可能であると判断された場合(ステップS110のYES)、通知部24は、ユーザ端末9に対して通知(例えば、トレンド市場からレンジ市場へ移行したことをユーザに知らせるための警告等)を出力する。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。なお、ステップS113の後、処理を終了する前に、ステップ106と同様に、ポジションのリリースサインが出力されてもよい。
【0040】
図6は、本実施形態に係る第一の予測処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示された処理は、予測部23によって用いられるモデルとして第一のモデルが設定されている間、定期的に実行される。例えば、本フローチャートに示された処理は、
図5を用いて説明した判断処理の直後に実行されてよい。但し、本フローチャートに示された処理の実行タイミングは、本開示における例示に限定されない。処理の実行タイミングは、取引が可能な時間帯や取引が発生する頻度、取引される商品の種類、ユーザの都合等、様々な要因に基づいて設定されてよく、
図5を用いて説明した判断処理とは異なる頻度で実行されてもよい。
【0041】
第一の予測処理において、予測部23は、第一のモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する。商品価格CPが、正側SシグマpSσの線をクロスしたと判定された場合(ステップS201のYES)、予測部23は、「売り」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS202)。商品価格CPが、負側SシグマmSσの線をクロスしたと判定された場合(ステップS203のYES)、予測部23は、「買い」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS204)。商品価格CPがN日移動平均MVの線をクロスしたと判定された場合(ステップS205のYES)、予測部23は、保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS206)。
【0042】
また、ユーザのある保有ポジションについて、「損益率PL<=q%」又は「損益率PL>=p%」であると判定された場合(ステップS207のYES)、予測部23は、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS208)。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0043】
図7は、本実施形態に係る第二の予測処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示された処理は、予測部23によって用いられるモデルとして第二のモデルが設定されている間、定期的に実行される。例えば、本フローチャートに示された処理は、
図5を用いて説明した判断処理の直後に実行されてよい。但し、本フローチャートに示された処理の実行タイミングは、本開示における例示に限定されない。処理の実行タイミングは、取引が可能な時間帯や取引が発生する頻度、取引される商品の種類、ユーザの都合等、様々な要因に基づいて設定されてよく、
図5を用いて説明した判断処理とは異なる頻度で実行されてもよい。
【0044】
第二の予測処理において、予測部23は、第二のモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する。商品価格CPが、正側LシグマpLσの線より高くなったと判定された場合(ステップS301のYES)、予測部23は、「買い」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS302)。商品価格CPが、負側LシグマmLσの線より低くなったと判定された場合(ステップS303のYES)、予測部23は、「売り」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS304)。
【0045】
また、ユーザのある保有ポジションについて、「損益率PL<=q%」又は「損益率PL>=p%」であると判定された場合(ステップS305のYES)、予測部23は、当該保有ポジションの「リリース」の取引サインをユーザ端末9に対して出力する(ステップS306)。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0046】
<効果>
本実施形態によれば、現在の市場がレンジ市場であるか否かを判断する判断部が、レンジ市場のための第一のモデルの使用可否を判断し、判断結果に応じて、予測に用いられるモデルをレンジ市場のための第一のモデルとトレンド市場のための第二のモデルとの間で切り替えることによって、市場の変化に応じた商品価格の適切な予測を提供することが可能となる。
【0047】
<バリエーション>
上記説明した実施形態では、判断部21が、第一のモデルの使用可否を、第一のバンド内に位置するか否かに基づいて判断する例について説明したが、第一のモデルの使用可否判断は、その他の基準を用いて判断されてもよい。例えば、判断部21は、価格の標準偏差、分散及び/又はボラティリティが所定の基準よりも大きい場合に、第一のモデルが使用不可能であると判断してもよい。ここで、ボラティリティの算出方法には、既知のものを含む種々の算出方法が採用可能であり、具体的な算出方法は限定されない。あるいは、判断部21は、所謂VIX指数が所定の閾値よりも大きい場合に、第一のモデルが使用不可能であると判断してもよい。
【0048】
また、上記説明した実施形態では、第一のモデルが使用不可能であると判断された場合、予測部23に設定されているモデルが第一のモデルから第二のモデルへ直ちに変更される例について説明したが、第一のモデルが使用不可能であると判断された後、第二のモデルが使用可能であると判断される前に、空白期間を設けることとしてもよい。例えば、判断部21は、過去T1日間の価格に基づいて、第一のモデルが使用不可能であると判断し、過去T2(T1とは異なる)日間の価格に基づいて、第二のモデルが使用可能であると判断してもよく、この際、第一のモデルが使用不可能であるとの判断と、第二のモデルが使用可能であるとの判断との間には、何れのモデルも用いられない空白期間があってもよい。同様に、第二のモデルが使用不可能であると判断された後、第一のモデルが使用可能であると判断される前に、空白期間を設けることとしてもよい。
【0049】
また、上記説明した実施形態では、予測部23はユーザ端末9に対して取引サインを出力するのみであり、実際に出力されたサインに応じた取引を行うか否かについてはユーザによる判断に任されているが、取引サインに基づいた取引が自動的に行われることとしてもよい。例えば、予測サーバ1によって出力された取引サインを受信したユーザ端末9の取引用アプリケーションが、取引サーバ(図示は省略する)に対して取引を指示し、指示を受けた取引サーバが取引を実行する方法や、予測サーバ1によって出力された取引サインを受信した取引サーバが取引を実行する方法等を採用することで、取引サインに基づく自動取引を実現することが出来る。
【0050】
ここで、取引サーバは、ユーザに対して金融商品の取引サービスを提供するためのサーバであり、予測サーバ1同様、CPU、ROM、RAM、記憶装置、通信ユニット等を備えるコンピュータである。但し、取引サーバの具体的なハードウェア構成に関しては、実施の態様に応じて適宜省略や置換、追加が可能である。また、取引サーバは、単一の筐体からなる装置に限定されない。取引サーバは、所謂クラウドや分散コンピューティングの技術等を用いた、複数の装置によって実現されてよい。
【符号の説明】
【0051】
1 予測サーバ
9 ユーザ端末
【要約】
【課題】商品の価格の変動に応じた適切な処理を実行する情報処理装置を提供することを課題とする。
【解決手段】情報処理装置に、設定されたモデルを用いて商品価格の将来の変動を予測する予測部と、予測部による第一のモデルの使用可否を、商品価格の過去の変動に基づいて判断する判断部と、判断部によって第一のモデルが使用可能であると判断された場合に、予測部によって用いられるモデルとして、当該第一のモデルを設定する設定部と、を備えた。
【選択図】
図3