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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ステント及びステントグラフト
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20220107BHJP
   A61F 2/89 20130101ALI20220107BHJP
   A61F 2/966 20130101ALI20220107BHJP
【FI】
A61F2/07
A61F2/89
A61F2/966
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020208687
(22)【出願日】2020-12-16
(62)【分割の表示】P 2017524706の分割
【原出願日】2016-04-26
(65)【公開番号】P2021041259
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2015120337
(32)【優先日】2015-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015227168
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】吉森 崇志
(72)【発明者】
【氏名】秋田 和巳
(72)【発明者】
【氏名】柚場 俊康
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特許第4773341(JP,B2)
【文献】特許第5230616(JP,B2)
【文献】特許第5260964(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
A61F 2/89
A61F 2/966
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮径されてシース内に格納され血管内の留置部にて当該シースより開放され拡径して留置されるステントにおいて、
長手方向に延びるとともに、周方向に拡縮可能な管状体を有し、
前記管状体の末端の一端部に、フックを配置し、
前記フックは
両端が前記管状体の周方向の異なる位置に固定されてループを形成し、前記管状体の中心軸方向に鋭角の角度で傾斜するように配置され、
前記ステントが縮径する時は、前記フックの両端の間隔が狭くなることによって前記円周方向に圧縮されて前記中心軸方向に傾斜する角度が小さくなるとともに前記管状体の末端部より突出する一方で、
前記ステントが拡径する時は、前記フックの両端の間隔が広がることによって前記圧縮から解放され、前記管状体の末端部の位置において、前記鋭角の角度で傾斜する
ことを特徴とするステント。
【請求項2】
前記フックは
前記ステントが縮径されて前記シースに格納される時は、前記管状体の末端部より突出し、前記シースの末端に接続した先端チップの溝に係止され、
前記ステントが前記シースから開放される時は、前記先端チップの溝から離脱し、前記ステントが拡径することにより前記管状体の末端部の位置で前記鋭角の角度で前記シースへの格納時よりも傾斜してなる、ことを特徴とする請求項1に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステント及びステントグラフトの改良に関する。
より詳しくは、本発明は、動脈の拡張性疾患(動脈瘤等)及び狭窄性疾患或いはその他の疾患を治療するために、患部の部位に血管壁等を損傷することなく安全に留置し、当該動脈瘤等の治療に用いるステント及びステントグラフトに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に提出した特許文献1において、湾曲した血管内に好適に留置できる屈曲した形態を有するステント及びステントグラフトの基本発明を開示した。(このように本出願人の提案にかかる予め血管の湾曲に合わせて曲がりを形成した新規なステントを”Pre-Curved Stent”(屈曲型ステント)と称する。)
また引き続く特許文献2、特許文献3において提案した、ステントグラフト留置装置により、このようなステントグラフトを、湾曲した患部(血管壁)に留置固定する基本的な発明を開示した。これら本出願人の提案にかかる基本的なステントグラフトの内容を添付図10-13として示した。
【0003】
特許文献1から3に記載の基本的なステント101(ステントを合成樹脂製管状部材(グラフトともいう)で被覆したものを、ステントグラフトというが、以下、本願の説明では、単にステントと記載することがある。)においては、これをシースに格納して血管内を患部まで輸送して留置する。そのため、図10図11(A)に示したように、ステント101の末端側の環状ユニット104DEの末端DE側で、円周CR(側部S)方向の一端部にいわゆる略U字状のフック106を、長手L方向の延長線LELと略平行となるように延設している。
当該フック106は、図11(C)、図12に記載のように、シース110内でステント101を折り畳んで(縮径し)格納している時は、本出願人の提案した特定の形状の先端チップ102の溝102Mに係止し、(この状態で縮径されシース内に格納されたステントはステント牽引用の先端チップにより先導されて所望の位置に誘導され、ここで)シース110を基端PE側に引いて、シース110からステント101を開放(展開)して、拡張する。この際に、拡張した(又は拡張しつつある)ステントは、図13のように先端チップ102の溝102Mから離脱し、所望の部位(患部)において血管壁を支えるような拡張した形態をとって安定的に留置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4064724号(特許請求の範囲、図1から図4
【文献】特許第4773341号(特許請求の範囲、図1、9、10から14、15から18)
【文献】特許第5230616号(特許請求の範囲、図1、4、7から8、10から13、14から22)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、本出願人の提案にかかるステント及びステントグラフト留置装置においては、ステント牽引用の先端チップ(Steering Chip)にフックを係止させて、血管内を患部まで誘導することにより、ステントを血管内の所望の位置(病変部)に正確に輸送、留置することができる。しかしながら、実際の臨床的な立場からのさらなる検討によると、ステント101を目的の留置部位で拡張させて固定した後は、図13のようにフック106が、ステント101の末端側環状ユニット104DEの末端DE側から依然として外側に突出した状態にあり、このような状態では、フック106が患部の血管壁Wに接触しやすく、血管壁Wを傷つける懸念があることが見いだされた。
このため、ステント101を目的の留置部位で拡張させ、固定した後は、係止の役割を終えたフック106が、ステント101の末端側環状ユニット104DEの外に突出しないようにするか、または突出した状態でも患部の血管壁Wに接触しないように配置して、血管壁を傷つけないようにするという重要な課題があることが認識された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の発明に
到達した。
[1]本発明は、縮径されてシース内に格納され血管内の留置部にて、当該シースより開放され拡径して留置されるステントにおいて、
長手方向に延びるとともに、周方向に拡縮可能な管状体を有し、
前記管状体の末端の一端部に、フックを配置し、
前記フックは
両端が前記管状体の周方向の異なる位置に固定されてループを形成し、前記管状体の中心軸方向に鋭角の角度で傾斜するように配置され、
前記ステントが縮径する時は、前記フックの両端の間隔が狭くなることによって前記円周方向に圧縮されて前記中心軸方向に傾斜する角度が小さくなるとともに前記管状体の末端部より突出する一方で、
前記ステントが拡径する時は、前記フックの両端の間隔が広がることによって前記圧縮から解放され、前記管状体の末端部の位置において、前記鋭角の角度で傾斜するステントを提供する。
【発明の効果】
【0013】
発明のステントは、患部(血管壁)に留置する際に、シースから解放(展開)すると、管状体の末端部から突出したフックはステントの心方向(血管壁と逆方向)に傾斜した姿勢となり、血管壁を傷つけることはない
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明のステント1の全体図(正面図/概略図)である。
図2図2(A)はステントの末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図(組立時または患部留置時)でフックの末端部がストラットの山部(M)より先に突出しない状態を示し、図2(B)は同一部拡大図(縮径してシース10内に格納時)、図2(C)は同一部拡大図(シース10内に縮径して格納時、先端チップ2の溝2Mに係止した様子)である。
図3図3(A)はステント11の末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図(組立時/患部留置時)、図3(B)は図3(A)の一部拡大図、図3(C)はフック16の拡大図である。
図4図4(A)はステント21の末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図(組立時/患部留置時)、図4(B)は図4(A)の一部拡大図、図4(C)はフック26の拡大図である。
図5図5(A)はステント31の末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図(組立時/患部留置時)、図5(B)は図5(A)の一部拡大図、図5(C)はフック36の拡大図、図5(D)はフック36の第1側部S1方向から見た側面図である。
図6図6(A)はステント41の末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図(組立時/患部留置時)、図6(B)は図6(A)の一部拡大図、図6(C)はフック46の第1側部S1方向から見た側面図である。
図7図7(A)はステント51の末端側環状ユニット4DE近傍の一部拡大図、図7(B)はフック56の第1側部S1方向から見た側面図である。
図8図8(a)、(d)は、フック56の図7(A)の一部拡大図、図8(b)、(c)は、フック56の第1側部S1方向から見た側面図、図8(e)、(f)は、フック56を曲げる前後の第1側部S1方向から見た側面図である。
図9図9は本発明のステント1を患部に留置した後、シース10から開放(展開)する時の概略図である。
図10図10は、本出願人の提案した基本的なステント(屈曲型ステント)101の全体図(正面図/概略図)である。
図11図11は、本出願人の提案した基本的なステント101を示すもので、図11(A)はステント101の末端側環状ユニット104DE近傍の一部拡大図(組立時/患部留置時)、図11(B)は同一部拡大図(シース格納時)、図11(C)は同一部拡大図(シース10内に格納時、先端チップの溝に係止した様子)である。
図12図12は、本出願人の提案した基本的なステント101を患部に留置する直前、シース10内に格納時の概略図である。
図13図13は、本出願人の提案した基本的なステント101を患部に留置した後、シース10から開放(展開)する時の概略図(一部拡大した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
(定義)
以下、本発明を明確に説明するため、図1の配置を基準にして次の定義1-11をおく。なお図1は各線記載の複雑化を避けるために、正面方向から背面方向に見て、各ストラット4ST、5STは重なるように記載している。(図9図10も同じ。)
(定義1)「第1側部S1側」とは、図1に示すように、紙面の表側、ステントの正面方向を意味する。以下「・・・側」は「・・・方向」と記載する場合がある。
(定義2)「第2側部S2側」とは、図1に示すように、紙面の裏側、ステントの背面方向を意味する。
(定義3)「末端DE側」とは、図1に示すように、紙面の左側を意味する。
(定義4)「基端PE側」とは、図1に示すように、紙面の右側を意味する。
(定義5)「第3側部S3側」とは、図1に示すように、紙面の上部側を意味する。
(定義6)「第4側部S4側」とは、図1に示すように、紙面の下部側を意味する。
【0016】
(定義7)「長手L方向」とは、図1に示すようにステントの長尺方向を意味する。
(定義8)「円周CR方向」とは、ステントの長手L方向の中心Cから、「側部S側」に延びる方向を意味し、「側部S方向」ともいう。
側部S方向は、第1側部S1側、第2側部S2側、第3側部S3側、第4側部S4側、これらの間の全ての方向を含む。
(定義9)
以上の円周CR(側部S)方向の一部を、「側部の一方向」、当該「側部の一方向」と反対側または異なる側を「他の側部の一方向」と記載する場合がある。
例えば第3側部S3側を側部の一方向、(途中の第1側部S1または第2側部S2方向を経由して)反対側の第4側部S4側を他の側部の一方向と記載する場合がある。
例えば第1側部S1側(または第2側部S2側)を側部の一方向、これと異なる側の第4側部S4側(または第3側部S3側)を他の側部の一方向と記載する場合がある。
(定義10)
また各部の符号の次にS3等の方向を意味する符号を記載する場合がある。
例えば、4STS3は、第3側部側のストラット4STを意味し、MS3は、第3側部側の山部Mを意味する。
【0017】
(定義11)
「ストラット」(strut)とは、支柱ともいい、「環状ユニット4 」及び「連結ユニット5」を形成する部材である。
「環状ユニット4 」を構成する「ストラット」を「環状ストラット4ST」という(または単に「ストラット4ST」と記載する場合がある)。
「連結ユニット5」を構成する部材を「連結ストラット5ST」という(または単に「ストラット5ST」と記載する場合がある)。
【0018】
[環状ユニット4]
本発明のステント1は、図1に示すように、あらかじめ屈曲させたいわゆる略管状の形態を有する。そして以下に詳述するように、環状ユニット4とは、これを長手方向に、連結ユニット5を介して接続することにより、当該略管状のステントを構成するための部材である。
例えば図1図2(A)を参照すると、環状ユニット4は、末端DE側と、基端PE側に屈曲部4Cを有する。以下、末端DE側の屈曲部4Cを「山部M」、基端PE側の屈曲部を「谷部V」と記載する。
円周CR方向の「山部M」と「谷部V」とは、いわゆる「略直線状のストラット4ST」で接続している。
山部Mと山部Mとの間、谷部Vと谷部Vとの間には、所定の空間SPが存在する。
環状ユニット4は、いわゆる略直線状の複数のストラット4STを、円周CR方向に連続して、いわゆる「略ジグザク状」に接続して形成(配置)した部材である。このような折れ線からなるジグザグ形状を「略ジグザクパターン」または「略波形状パターン」ともいう。
【0019】
[連結ユニット5]
「連結ユニット5」とは、隣り合う環状ユニット4を接続する略直線状の部材であって、例えば第n列の環状ユニット(4n)と第n+1列の環状ユニット(4n+1)の二つの「環状ユニット4」を接続する部材である。
連結ユニット5は、具体的には、いわゆる略直線状の複数個(図1の例示では二個)の連結ストラット5STで構成され、例えば当該二個の連結ストラッによる接続の場合、隣り合う環状ユニットにおいて接続する部位を徐々にずらしながら離隔して配置して接続することにより、図1図9-10に示したように、(予め)屈曲させた略管状のステントが形成される。なお、詳しくは、前述した本出願人の提案した基本発明に関する特許文献1に詳しく説明されているので、その記載を参照により本発明の内容に取り入れること(herein incorporated by reference)ができる。
【0020】
ステント1は、ステント1の末端側の環状ユニット4DEの末端DE側で、円周CR(側部S)方向の一端部にフック6を、配置している。
フック6(図1図2)は基端PE側を、ステント1を第3側部S3方向から見た長手L方向の中心LCから所定の角度(各ステント骨格のスペックにより変動する)で、第1側部S1/紙面の下側にずらして配置している。
なお後述するフック16(図3)は中心LC位置に配置している。またフック26、36、46、56(図4図5図6図7)は、基端PE側を、中心LCから所定の角度(各ステント骨格のスペックにより変動する)で、第1側部S1/紙面の左側にずらして配置している。
なお、前記フック6等、合成樹脂製管状部材(グラフト)の開口の配置位置を確認しやすいように、通常造影マーカーMKを、山部Mと谷部Vの所定の位置に配置している(特許第4298244号参照)。
また血管壁に対する密着性を向上させるため、通常フィンFN(延出部材ともいう)を、末端側環状ユニット4DEの谷部Vに装着し、隣りの基端部PE側の環状ユニット4n+1方向に、長手L方向に沿って延設している(特開2008-99995、国際公開WO2009/118912参照)。
【0021】
以下、各フック(6、16、26、36、46、56、36´、46´、56´)について順次説明する。
飛び出し型のフック](A型(Type A))
まず、いわゆる「飛び出し型のフック」("Push-Pull” type hook, “Type A”ともいう。)について説明する。この型のフックは、ステントが縮径してシース中に格納され患部に輸送されるまでは、ステントの前端部から突出して先端チップに係止されているが、留置位置においてステントが拡径されシースから放出されたあとは、当該拡張したステント中に取り込まれることにより、突出部を無くすメカニズムを有するものである。典型的には略U字状のフック6(図2)、略台形状のフック16(図3)、さらに変形した略台形状のフック26(図4)を包含する。
【0022】
(A(I)型)(フック6(図2))
図2(A)に示すように、フック6(A(I)型と称する)はいわゆる略U字状(ループ状ともいう)の形態を有する。
フック6は、より具体的には末端部6DEと基端部6PEを有する。
フック6の末端部6DEは、末端DE側の略湾曲状の部分で、当該部分が先端チップ2の溝2Mに係止する。
また基端部6PEは、当該略湾曲状の末端部6DEの基端PE側のそれぞれの終点6DEEDから基端PE側に向けて延設した二本の略直線部6STからなる(当該フック6の湾曲状の末端部6DEが上記したように先端チップに係止される部位であり、また、これに連なる二本の略直線部6ST、6STは、当該フック6をステントのストラットに固定する二本の謂わば「脚部」となる部位である。)。
図2(A)以下の説明で、末端DE側を紙面の上にして見て、側部Sの一方向の第3側部S3側に下るように傾斜しているストラット4STは「4STS3」、(途中の第1側部S1方向を経由して)他の側部Sの一方向の第4側部S4側に下るように傾斜しているストラット4STは「4STS4」とする。
以下の説明で前記( )書きは省略して、単に「第4側部S4側」と記載する。
フック6の二本の略直線部6ST,6STは、基端PE側を固定手段3により、ステントを構成するジグザグ状のストラットに固定される。その場合、特徴的なことは、ストラットの二個の山部Mを跨いで(置いて)、側部Sの一方向(第3側部S3方向)の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中(より詳しくは谷部VS3近傍)と、(途中の第1側部S1方向を経由して)他の側部Sの一方向(第4側部S4方向)の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中(より詳しくは谷部VS4近傍)に固定されていることである。
換言すれば、固定手段3は、二個の山部Mを跨いで(置いて)、側部Sの一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、側部Sの一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に固定している点に特徴を有する。
(なお、本発明の説明では、符号の煩雑さを回避するために、フック6のストラット4STへの固定位置は、山部M、谷部V、ストラット4STも含めて、第3側部S3と第4側部S4のみで記載する。以下各フック(16、26、36、46、56)の説明も同様とする。)
【0023】
さらに詳述すれば、図2(A)に詳細に示したように、フック6の二本の略直線部6STの基端PE側は、二個のストラット4ST(4STS3及び4STS4)の間に形成される一個の谷部V(以下説明の便宜上、「中央谷部VC」と記載する)を跨いで(置いて)、当該中央谷部VCの隣りの側部Sの一方向の第3側部S3側の谷部VS3と繋がる側部Sの一方向のストラット4STS3の途中(「谷部VS3」の近傍)と、他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部VS4に繋がる他の側部Sの一方向のストラット4STS4の途中(「谷部VS4」の近傍)に、例えば熱溶着、金属パイプによるかしめ等による固定手段3により固定する。)(このように、フック6の二本の略直線部6ST,6STを、ストラットの「中央谷部VC」を跨いで、その両側のストラットの谷部近傍において固定することにより、ステントを拡張(拡径)したとき、フックの二本の略直線部6ST,6ST(二本の脚部)も拡張されるため、フックの頂部(略湾曲状の末端部6DE)が、拡張したステント内に引き込まれ、保護されるのである。)
略湾曲状のフック6の末端部6DEは、末端側環状ユニット4DEの山部Mを結んだ末端DE側の延長線DELよりも末端DE側に突出しないように配置する。
【0024】
上記の点についてさらに詳細に説明する。図2(B)(シース10内に格納時)に示すように、ステント1を、折り畳んでシース10内に縮径して格納(装填)する時は、円周CR(側部S)方向に所定の空間SPを開けて配置した各ストラット4ST間の距離が狭くなり、他方、(図2(A)の状態にあった)フック6は、円周CR(側部S)方向に圧縮されるので、少なくとも末端部6DEは、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側の延長線DELから末端DE側に突出する。
本発明におけるフック6は、このようなメカニズムにより、縮径してシース10内に格納した際に突出するので「飛び出し型フック」と称する。
このようにして突出した末端部6DEは、図2(C)に示すように先端チップ2の溝2M内に係止することができる。
【0025】
一方、また、ステント1を、患部(血管壁W)に留置する際に、縮径されて格納された状態にあるシース10から開放(展開)すると、開放されたステントは拡径(拡張)される。すなわち、末端側環状ユニット4DEの各ストラット4STが円周CR(側部S)方向に開き、各ストラット4ST間の距離が広がる。
これにより、フック6は、図2(A)に示したように、ストラット4ST間の距離が広がることにより、これに固定されているフックの二本の略直線部6ST,6ST間も拡張されるため、略湾曲状のフックの末端部6DEは、円周CR方向に拡大して基の形状(基本形状)に戻る。
このようにして、ステントが拡張して留置される状態においては、フック6は、後述する図9に示すように、先端チップ2の溝2Mから外れるとともに、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側の延長線DELから基端PE側内に引き込まれる。
以上のように、本発明においては、ステント1が、血管壁に留置、固定される時は、フック6は、先端の環状ユニット4DE内に引き込まれた状態にあるので、患部の血管壁に接触することがなく、血管壁を傷つけることがない。
【0026】
以上述べた最も基本的なフック6の、ストラットへの配置、固定の様式においては、図2(A)のフック6は、二本の略直線部6ST,6STの基端PE側は、谷部VS3、VS4の近傍で固定し、末端部6DEは、末端側環状ユニット4DEの山部Mを結んだ末端DE側の延長線DELよりも末端DE側に突出しないように延長線DEL上に配置している。しかしながら、そのバリエーションとして、後述するように、二本の略直線部6STを、跨ぐ(置く)谷部VCの数を、さらに2個ないし3個と増やして、二箇所の固定手段3の間隔をより大きくすることも可能である。このように、より大きな間隔の配置をとる場合は、容易に理解されるように、ストラットへの固定位置をより上方とすることができ、たとえばトラット4STS3、4STS4の中間部に固定することができる。また、さらに、フック6の末端部6DEは、延長線DELよりも基端PE側に配置することができる。
【0027】
(フック6の末端部の曲率)
略U字状(略湾曲状)のフック6の末端部6DEの曲率はできるだけ大きい(略直線状に近い)ほうが好ましい。これは、通常、先端チップ2の溝2Mの形態が図13に示したように、曲率の小さい略U字状(図の先端チップ102の溝102M参照)なので、同様に曲率を小さくしてしまうと、係止、離脱する際に、溝(2M、102M)に引っ掛って、操作が困難となるので、好ましくないからである。
【0028】
(A(II)型)(フック16(図3))
次に略台形状のフック(図3)(A(II型と称する。)について説明する。
図3(A)、(B)、(C)に示すように、A(II)型のフック16は末端部16DEと基端部16PEを有する点でフック6と大略的には共通するが、その具体的な形状が異なっている。
当該末端部16DEは、末端DE側のいわゆる略台形状の形態からなる部分であり、この部位が図2(C)に示すステント牽引用の先端チップ2の溝2Mに係止する部位となる。
基端部16PEは、略台形状の末端部16DEの基端PE側の終点16DEEDから末端DE側の略屈曲部16CVDEを介して基端PE側に向けて、鋭角の角度θで延設した二本の略直線部16ST,16STから形成される。さらに二本の略直線部16ST、16STは基端PE側のもう一つの略屈曲部16CVPEを介して、固定手段3によりストラット4STの途中に固定されている。
固定手段3は、三個の山部Mを跨いで(置いて)、側部Sの一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部Sの一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に、当該二本の略直線部をそれぞれ固定している。
図3以下の図を参照して説明すれば、第3側部S3から側部Sの一方向の第2側部S2側に下るように傾斜しているストラット4STは「4STS3」、他の側部Sの一方向の第4側部S4側に下るように傾斜しているストラット4STは「4STS4」とする。(図4から図7についての説明も同様である。)
3個の山部Mで中央の山部を「M´」、山部M´から見て側部Sの一方向の第2側部S2側の山部を「MS3」、他の側部Sの一方向の第4側部S4側の山部を「MS4」とする。
換言すれば、フック16の二本の略直線部16ST、16STは、基端PE側を固定手段3により、三個の山部M(MS3,M’,MS4)を跨いで(置いて)、側部Sの一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部Sの一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に、固定されている。
【0029】
さらに詳述すれば、フック16の二本の略直線部16ST,16STの基端PE側は、二個のストラット4ST,4STに次のようにして固定する。すなわち16ST、16STの一方を、4ST,4ST間に形成される二個の谷部V(以下、説明の便宜上、中央の山部M´の両側の二つの谷部V、Vをこの二個の谷部VCS3、VCS4とし、さらにこれに関連して、側部Sの一方向の第2側部S2側の谷部をVS3、他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部をVS4とする。)を跨いで(置いて)、中央谷部VCS3の隣りの側部Sの一方向の第3側部S3側の谷部VS3と繋がるストラット4STS3の途中(ストラット4STS3の略中間位置)に固定する。またもう一方の16STを、さらに中央谷部VCS4の隣りの他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部VS4に繋がるストラット4STS4の途中(ストラット4STS4の略中間位置)に固定する。当該固定は、熱溶着、金属パイプによるかしめ等による固定手段3により行われる。
末端部16DEは、末端側環状ユニット4DEの山部Mを結んだ末端DE側の延長線DELよりも末端DE側に突出しないように配置する。
【0030】
フック16は、フック6よりも、さらに二個の固定手段3の間隔が大きいので、その末端部16DEは、ステントが縮径したときに、延長線DELよりも末端DE側により長く突出することができ、先端チップ2の溝に好適に係止される。
フック16(後述するフック26、36も同じ)は末端部16DE(後述する末端部26DE、36DEも同じ)が平ら、すなわち延長線DELと略平行になるようにいわゆる「略水平」に形成している。(このためフック16(後述するフック26、36も同じ)は、いわゆる「ヒラタ型フック」ともいう。)当該略水平状のフック16(後述するフック26、36も同じ)は、先端チップ2の曲率の小さな略U字状の溝2Mに引っ掛ることがなく、係止、離脱するのが容易で操作性がよい。
【0031】
(A(III)型)(フック26(図4))
次に同じく略台形状のフック(図4)(A(III)型と称する。)について説明する。
図4(A)、(B)、(C)に示すように、A(III)型のフック26は、末端部26DEと基端部26PEを有する点でフック6と大略的には共通するが、それぞれの具体的な形状が異なっている。
当該末端部26DEは、末端DE側の略台形状の形態からなる部分で、図2(C)に示す先端チップ2の溝2Mに係止する部位である。
基端部26PEは、略台形状の末端部26DEの基端PE側の終点26DEEDから略屈曲部26CVDEを介して基端PE側に向けて、鋭角の角度θで延設した二本の略直線部26ST,26STである。
さらに二本の略直線部26ST,26STは、基端PE側の略屈曲部26CVPEを介して固定手段3によりストラット4STS4の途中に固定されている。
固定手段3は四個の山部Mを跨いで(置いて)、側部Sの一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部Sの一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に固定している。
これを図4(B)について説明すれば、4個の山部Mで二個の中央の山部を「M´」、「M´´」、山部M´から見て側部Sの一方向の第2側部S2側の山部を「MS3」、山部M´´から見て側部Sの一方向の第4側部S4側の山部を「MS4」とする。
換言すれば、フック26の二本の略直線部26ST,26STは、基端PE側を固定手段3を介して、四個の山部M(MS3,M’,M”,MS4)を跨いで(置いて)、側部Sの一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部Sの一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に、固定している。
【0032】
さらに詳述すれば、フック26の二本の略直線部26ST,26STの基端PE側は、二個のストラット4ST,4STに次のように固定する。すなわち、26ST,26STの一方を、4ST,4STの間に形成される三個の谷部V(以下説明の便宜上、二個の中央の山部M´と山部M´´の両側の谷部V、VをVC、VCS3、VCS4とし、この三個の谷部に関連して、側部Sの一方向の第2側部S2側の谷部をVS3、他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部をVS4とする。)を跨いで(置いて)、中央谷部VCS3の隣りの側部Sの一方向の第3側部S3側の谷部VS3と繋がるストラット4STS3の途中(ストラット4STS3の略中間位置)に固定する。またもう一方の26STをさらに中央谷部VCS4の隣りの他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部VS4に繋がるストラット4STS4の途中(ストラット4STS4の略中間位置)に固定する。当該固定は、特に限定するものではないが、例えば熱溶着、金属パイプによるかしめ等による固定手段3により行われる。
フック26の末端部26DEは、末端側環状ユニット4DEの山部Mを結んだ末端DE側の延長線DELよりも末端DE側に突出しないように配置する。
フック26は、フック6、16よりも、二個の固定手段3の間隔が大きいので、末端部26DEは、縮径したときに延長線DELよりも末端DE側より長く突出することができ、先端チップの溝に好適に係止される。また末端DE側よりも基端PE寄りに配置することができる。
【0033】
[折り曲げ型フック](B型(Type B))
次に、いわゆる「折り曲げ型のフック」("Bending” type hook, “Type B”ともいう。)について説明する。この型のフックは、ステント1が縮径してシース中に格納され患部に輸送されるまでは、ステントの前端部から突出して先端チップに係止されているが、留置位置においてステントが拡径されシースから放出されたあとは、当該拡張した管状ステント1の中心C側に傾斜する(角度θにて折れ曲がる)ことにより、実質的に血管壁と接触する怖れを無くしたものである。典型的には折り曲げ型フックはフック36(図5)、フック46(図6)、フック56(図7図8)を包含する。以下それぞれについて説明する。
【0034】
(B(I)型)(フック36(図5))
図5(A)、(B)、(C)、(D)に示すように、フック36はいわゆる略台形状の形態を有するものである。すなわち末端(先端)の略直線部分とその両端から斜め下方に伸びる二本の略直線部分よりなる。
具体的には、末端DE側の略直線部分が末端部36DEであり、所定の角度で傾斜した二本の略直線部分(36ST,36ST)が基端部36PEである。
B型(Type B)フック36(図5)が、前記A型(Type A)のフック6(図2)、フック16(図3)、フック26(図4)と、主として形態的に異なる点は、次の二点である。
【0035】
第一に、固定手段3は、フック36の二本の略直線部36ST,36STを、二個の隣同士の山部M(MS3,MS4)の側部S(S3)の一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部S(S4)の一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS4の途中に固定していることである。
換言すれば、二本の略直線部36ST,36STは、基端PE側を固定手段3により、二個の隣同士の山部Mの側部S(S3)の一方向の山部MS3に繋がるストラット4STS3の途中と、他の側部S(S4)の一方向の山部MS4に繋がるストラット4STS3の途中に固定している。
さらに詳述すれば二本の略直線部36STS3、36STS4の基端PE側は、二個のストラット4STS3、4STS4の間に形成される谷部V(中央谷部VCとする)と、当該中央谷部VCの隣りの側部Sの一方向の第3側部S3側の谷部VS3と繋がるストラット4STS3の途中(側部S(S3)の一方向の山部MS3近傍)と、他の側部Sの一方向の第4側部S4側の谷部VS4に繋がるストラット4STS4の途中(他の側部S(S4)の一方向の山部MS4近傍)に、熱溶着、金属パイプによるかしめ等による固定手段3により固定する(図5(B)参照)。
【0036】
第二に、フック36の基端PE側から末端DE側は、略管状のステント1の中心軸C方向に向けて、長手L方向の延長線ELに対して、鋭角の角度θで傾斜して配置していることである。
傾斜角度θは、症例データからフック36が接触する可能性のある場所でもっとも血管壁Wの湾曲が大きい箇所を想定して、好ましい角度θを測定して決定する。少なくともθは、20°~80°であり、好ましくは35°~65°であり、さらに好ましくは45°~60°、最も好ましくは50°に形成するのが良い。
θが20°未満では、拡径し管状になったステントを患部(血管壁W)に留置する際に、フック36が基の傾斜姿勢(基本形状)にもどった際に、その末端部36DEが十分にステント1の中心軸C方向に傾斜しないので、患部(血管壁W)に接近しすぎる(血管壁部より十分に離れない)ので好ましくない。
一方、θが80°を超えると、シース10内に格納する際に、フック36が先端部から十分に突出しないため先端チップ2の溝2Mに係止しにくくなるので好ましくない。
【0037】
ここで「折り曲げ型フック」の機構(メカニズム)について説明する。
(縮径格納時)
ステント31を、折り畳んでシース10内に縮径して格納(装填)する時は、環状ユニットからなる管状ステント(図1,9)の円周CR方向に所定の空間SPを開けて配置した各ストラット4ST間の距離が狭くなる。他方、フック36は円周R方向に圧縮されるので(折れ曲がり角度θが小さくなる)、その末端部36DEは、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側からさらに末端DE側に突出する。
これにより折れ曲がり角度θがほとんど無くなるため、突出した末端部36DEは、図2(B)、(C)と同様に先端チップ2の溝2M内に係止することができる。
【0038】
またステント31は、患部(血管壁W)に留置する際に、シース10(図2(C)参照。)から開放(展開)すると、拡径して末端側環状ユニット4DE(図1参照)の各ストラット4STが円周方向に開き、各ストラット4ST間の距離が広がる(θが大きくなる)。
他方、フック36は、円周CR方向に拡大して図5-7に示した基の傾斜角度θの形状(基本形状)に戻る。
これによりフック36は先端チップ2の溝2Mから外れるとともに、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側の位置で、傾斜角度θの基の傾斜姿勢(基本形状)にもどる。(図5(D)参照)
以上のようにステント31が、血管壁に固定される時は、フック36は、略管状のステント31の中心軸C方向に傾斜し、患部(血管壁W)と反対方向に向いて(配向して)いるので、患部(血管壁W)を傷つけることがない。
【0039】
(B(II)型)(フック46(図6))
フック46(図6)は、フック36(図5)の形状(略台形)を、略U字形状(曲率は十分大であることが好ましい)に変更したものである。
その他は、フック36(図5)と実質的に同じであるから詳細な説明は省略する。
【0040】
(B(III)型)(フック56(図7図8))
フック56(図7)は、フック46(図6)と同様に、略U字形状(曲率は十分大きいことが好ましい)に形成しているが、途中から折り曲げている点で異なる。
すなわち、二本の略直線状の基端部56PEは、長手L方向の延長線ELと略平行となるように延設し、略湾曲状の末端部56DEは、基端部PE側の終点56DEEDからステント1の中心軸C方向に向けて、鋭角の角度θで傾斜するように、フック56の途中から折り曲げている。
「フック56の途中から末端部56DEを折り曲げる」とは、図7(B)のように、基端部PE側の終点56DEEDからステント1の中心軸C方向に向けて、鋭角に末端部56DEのみを折り曲げる。なお、その他に、図8(c)、(f)のように二本の略直線状の基端部56PEの途中(前記終点56DEEDに近い位置)から緩やかに湾曲するように鋭角に折り曲げても良い。
また図8(b)、(e)のように略湾曲状の末端部56DE(前記終点56DEEDないし終点56DEEDに近い位置)から緩やかに湾曲するように鋭角に折り曲げてもよい。
要するに末端部56DEの一部ないし全部が折り曲げられておればよい。
このようにフック56全体ではなく、少なくとも末端部56DEないし末端部56DEの一部を鋭角の角度θで傾斜するように折り曲げることにより、フック36(図5)、フック46(図6)(途中から折り曲げないで、全体を鋭角の角度θで傾斜して配置)と同様の効果がある。
その他は、フック36(図5)、フック46(図6)と実質的に同じであるから詳細な説明は省略する。
【0041】
[形状記憶合金による折り曲げ型フック](B´型(Type B’))
上記した[折り曲げ型フック](B型(Type B))すなわち、フック36(図5)、フック46(図6)、フック56(図7図8)において、当該フックを形状記憶合金で形成することにより、実質的に同等の折り曲げ機能を奏するフックを形成することができる。これらを「形状記憶特性系折り曲げ型フック」と称する。("Shape-Memory” type hook, “Type SM”とも称す。)
このようにして、フック36(図5)を形状記憶合金で形成したものをフック36´(B´(I)型)、フック46(図6)を同様に形成したものをフック46´(B´(II)型)、フック56(図7図8)を同様に形成したものをフック56´(B´(III)型)と称する。
以下、これらをまとめて説明する。
【0042】
[形状記憶特性系折り曲げ型フック36´、46´、56´]
形状記憶特性系折り曲げ型フックは、上記したように、フック36(図5)、フック46(図6)、フック56(図7図8)を、形状記憶合金により形成したものであるが、具体的には、常温では、側部Sの一方向の端部に、延長線ELと略平行となるように延設した形状を保持し、患部と同等の体温(36~38°C)で、ステント31、41、51の中心軸C方向にむけて、前記のように鋭角の角度θ:20°~80°で傾斜した姿勢となるようするものである。なお図7に示したフック56は、末端部56DEのみが傾斜した姿勢となる。
(以下、B型のフック36(図5)、フック46(図6)、フック56(図7図8)と区別するために、形状記憶合金製フックは、「フック36´、46´、56´」と記載する。なお、このように、フック36´、46´、56´を装着したステント自体も通常の金属で形成したフックを備えたステント31(図5)、41(図6)、51(図7図8)と区別するために、「ステント31´、41´、51´」と記載することにする。)
【0043】
(機能)
形状記憶合金により形成したB´型フック(フック36´、46´、56´)は、シース格納時は、フックの末端部36DE、46DE、56DEは、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側からさらに末端DE側に突出するようにしている。これにより当該末端部36DE、46DE、56DEは、先端チップ2の溝2M内に係止することができる。(この点は形状記憶合金でない普通の金属で形成したフックと同じである。)
【0044】
ステント31´、41´、51´は、患部(血管壁W)に留置する際に、シース10から開放すると、シース内で縮径されていた末端側環状ユニット4DEの各ストラット4STが円周方向に開き、各ストラット4ST間の距離が広がる。またシースから開放、放出されたステントは患者の温かい体液(血液)に接触することによりフックの形状記憶機能が発現する(なお、縮径してシース内に保持されている間は、当該シースによりステントの患者の血液との接触は実質的に遮断される。)フック36´、46´、56´は、患部の体温(36~38°C)により、ステント31´、41´、51´の中心軸C方向にむけて、所定の角度θで傾斜した姿勢となる。なおフック56´は、末端部56DEのみが傾斜した姿勢となる。
これによりフック36´、46´、56´は先端チップ2の溝2Mから外れるとともに、末端DE側の環状ユニット4DEの末端DE側の位置で、図5(D)に示されたような基の傾斜姿勢(基本形状)に戻る(20°<θ<80°)。
以上のようにステント31´、41´、51´が、血管壁に留置、固定される時は、フック31´、41´、51´は、ステント31´、41´、51´の中心軸C方向に角度θで傾斜し、患部(血管壁W)と反対方向に向いているので、患部(血管壁W)をつけることがない。
【0045】
(ステント1、11、21、31、41、51の材質)
以下、A型フック、B型フック、B´フックを含む本発明のステントを形成する材質(金属材料)についてまとめて説明する。
本発明のステント1、11、21、31、41、51のストラット4ST、環状ユニット4、連結ストラット5ST、連結ユニット5、フック6、16、26、36、46、56、フィンFNは、SUS316L等のステンレス鋼;Ti-Ni系合金等の超弾性合金;Ti系合金;Co-Cr系合金;Ta、Ti、W、Au等の金属等からなる金属ワイヤにより形成するが、これは好ましいものの例示でありこれに限られるものではない。(なお、ステント(31´、41´、51´)についても(後記する形状記憶合金で形成する)フック(36´、46´、56´)を除いて、上記した金属ワイヤにより形成する点は同じである。)
フック6、46、56は、上記した金属からなる金属ワイヤをいわゆる略U字状に折り曲げたものである。
また、フック36は、同様に金属ワイヤをいわゆる略台形状に折り曲げたものである。
さらにフック16、26は、いわゆる曲げばね(金属ワイヤ製)で形成したものである。
【0046】
(抗血栓薬剤等)
また上記したこれらの金属より形成されたステントにおいて、ウレタン等の高分子材料やヘパリン、ウロキナーゼ等の生理活性物質、アルガトロバン等の抗血栓薬剤の薄膜により、ステント(環状ユニット、ストラット、連結ストラット、フック)の表面を被覆するのも、当該ステントの表面に血栓が生成するのを防止する機能を付与できるので好ましい。
【0047】
形状記憶合金で形成する、ステント(31´、41´、51´)のフック(36´、46´、56´)は、公知の形状記憶特性を有するものであれば何でもよく、これに限定するものではないが、例えばTi-Ni(チタン-ニッケル)系合金;Cu-Al-Ni(銅-アルミニウム-ニッケル)系合金、Cu-Al-Zn(銅-アルミニウム-亜鉛)系合金と、Ni-Ti-X(X=V、Cr、Co、Nb、Cu、Fe)系合金等が好適に使用される。
【0048】
(合成樹脂製管状部材(グラフト))
また管状ステント1、11、21、31、41、51、31´、41´、51´を骨格としてその外表面を合成樹脂製管状部材(グラフト)で被覆した人工血管等として適当なステントグラフトを形成することができる。例えば、フッ素樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、PFA:テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体)製フィルム(単層ないし二層以上積層)や、ダクロンやマイラー(登録商標、ポリエチレンテレフタレート)繊維等からなる合成樹脂製管状部材(図示せず、グラフトともいう)で被覆するものが代表例として挙げられるがこれに限られない。
例えば、一実施例として、無負荷時に直径が40mmであったステント(図1に示したように5個の管状ユニットからなる屈曲ステント)を直径30mm(75%)に縮径し、直径が31mmのフッ素樹脂(PTFE)製管状部材の端部及び任意の箇所を縫合糸で縫い固定して、当該ステント(1、11、21、31、41、51)のそれぞれを被覆し、対応するステントグラフトを形成した。このステントグラフトは、当該ステント1、11、21、31、41、51のそれぞれが、血管の曲がりに対応するように、あらかじめ屈曲させた形状のものであり、またそれ自体のばね作用を有するものを骨格としこれを柔軟な合成樹脂製管状部材で被覆してなるものであるから、血管の3次元的な屈曲に対し好適に追随できる。
【0049】
(本発明のステントグラフトの特性)
一般的に、ステントグラフト(上記したようにステントを合成樹脂製管状部材を被覆したもの)には、次の特性が要求される。すなわち(a)装填性(図2(C)に示したように、ステント1を縮径してシース10内に格納する際に、フック6が先端チップ2の溝2Mに係止しやすいこと)、(b)展開性(患部(血管壁W)に留置する際にシース10内から外に展開しやすいこと)、(c)離脱性(先端チップ2の溝2Mからのフック6が離脱しやすいこと)、(d)回収性(患部(血管壁W)から容易に患部(血管壁W)外へ回収できること)等が要求される。
本発明のステントグラフト(ステント1、11、21、31、41、51)を合成樹脂製管状部材を被覆したもの)を、図9のWに相当する血管モデル(図示せず、空気中)を使用して前記(a)~(d)について確認したところ、全て良好であった。
【0050】
(ストラット及びフックを構成する金属ワイヤの径)
本発明のステント1、11、21、31、41、51及び本出願人が提案した図10のステント101においては、ストラット4ST、104STとフック6、16、26、36、46、56、106を構成する金属ワイヤの径は、特に限定するものではないが、通常、ストラット4STには0.45mmのものが、フック6、16、26、36、46、56、106には、0.40mmのものが使用される。(また、通常、連結ストラット5STは0.50mm、フィンFNは0.40mmのものが使用される。)
【0051】
[極細径型のフック](C型(Type C))
ところが本出願人は、本発明の目標を達成するための更に他のアプローチとして、あえてフックの径を、従来ほとんど使用されたことのない極細のものとすることを試みた。
すなわち、ステント41(図6)、ステント101(図10)のフック46、106を、極細径(0.2mm)に形成して、前記(a)~(d)について確認したところ、予想外のことに、全て良好な結果が得られた。特にこのような極細径型のフックの技術的意義は、図10のような本出願人が提案している基本的なステント101及びフック106において、そのフック部分を極細径のものとすることにより、その形状を(A型、B型、B´型のように)実質的に変更することなく、当該フックによる血管壁の損傷を防止することができることである。
また前記[折り曲げ型フック](B型(Type B))、(B(I)型)(フック36(図5))、(B(II)型)(フック46(図6))及び(B(III)型)(フック56(図7図8))を有するステント31、41、51のフック36、46、56にも、前記極細径型を採用することができる。
【0052】
(C型(Type(C))フック106(図10,11))
(以下の説明において、本出願人が先に提案したステント101と区別するために、フック106のみを極細径に形成した本発明のステントを、ステント101´、極細径にしたフックを106´と記載することにする。なおフック36、46、56のみを極細径に形成した本発明のステント31、41、51の符号はそのまま記載する。
このようにフック106´(46)は、本発明が規定する特定の極細径にすることにより、予想以上にその剛性が低くなり、前記(a)~(d)について、全て良好な結果が得られるともに、仮に当該フックが患部(血管壁W)へ接触しても、患部(血管壁W)の損傷はほとんど生じないことが確認された。C型の極細径フック106´は、すでに述べたA型、B型、B´型のフックと異なり、ステントの留置状態において、敢えてフックを管状ステント内に引き込んだり、管状ステントの中心C方向に折れ曲がらせる等の手段により、血管内壁との接触を避ける等の手段を採用する必要が無いため、フックを係止が解除された後も、そのまま放置して(たとえフックが血管内壁と接触しても)なんらかまわない、という特徴を有する。(このような極細径フックを「極細型フック」と称する。)(“Thin-Wire” type hook, “Type TW”とも称す。)
フック36、46、56を極細径型にしたステント31、41、51も後述するように、患部(血管壁W)に接触した場合でも血管壁に対して、何らの損傷を与えることがない、という特徴を有する。
極細型フックにおいて、ストラット104ST(4ST)の径を、0.45mmとすると、フックの径は、少なくとも0.10~0.30mm、好ましくは0.15~0.25mm、さらに好ましくは0.20mmに形成するのがよい。
すなわち、本出願人の先に提案したストラット104ST(4ST)の径を100とすると、フックを106´(36、46、56)の径は、少なくとも20から70、好ましくは22から67、さらに好ましくは30~50、最も好ましくは40に形成するのが良い。
70を超えると、患部(血管壁W)に接触した際、患部(血管壁W)に損傷を与える懸念があるので好ましくない。
20未満では、細すぎて前記(a)、(c)が困難となるので好ましくない。
このように、極細径型フック106´においては、図10図11(A)に示すように、ステントの留置時(拡径時)において、ストラットの山部(M)より先に突出していても、血管壁に対して、何らの損傷を与えることがない、という特徴を有する。
またフック36、46、56を極細径型にしたステント31、41、51は、拡径し管状になったステント31、41、51を患部(血管壁W)に留置する際に、フック36、46、56が基の傾斜姿勢(基本形状)に戻ろうとした際に、不測の事態としてその末端部36DE、46DE、56DEが十分にステント31、41、51の中心軸C方向に傾斜せず、患部(血管壁W)に接触した場合でも血管壁に対して、何らの損傷を与えることがない、という特徴を有する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の環状ユニットを接続した管状ステント(ステントグラフト)は、末端側環状ユニットの特定の位置に特定の形状、材料を有する、フック及び形状記憶処理したフックを配置したので、ステントを折り畳んでシース内に縮径して格納(装填)する時は、その末端部が、末端側の環状ユニットより末端(先端)側に突出するため、牽引用の先端チップの溝内に好適に係止することができる。このため、動脈内の患部へ容易に輸送することができる。
また、本発明の管状ステントを患部(血管壁)に留置する際に、当該シースから開放(展開)する時は、フックの末端部は、末端側環状ユニットに引き込まれるか、または、管状ステントの中心方向(血管壁と逆方向)に傾斜した姿勢となるので、血管壁を傷つけることはないという安全性の高いものである。このように、本発明のステント(ステントグラフト)は、動脈の拡張性疾患(動脈瘤等)等の疾患を治療するための医療の現場において好適に使用される医療器具として、その産業上の利用可能性は極めた大きい。
【符号の説明】
【0054】
1、11、21、31、41、51、101 ステント
2 先端チップ
2M 溝
2C 栓体
3 固定手段
4 環状ユニット
4DE 末端側環状ユニット
4ST 環状ストラット
4C 屈曲部
M 谷部
V 山部
5 連結部
5ST 連結ストラット
6、16、26、36、46、56 フック
6DE、16DE、26DE、36DE、46DE、56DE フックの末端部
6PE、16PE、26PE、36PE、46PE、56PE フックの基端部
10 シース
MK マーカー
FN フィン
C ステントの中心軸
LC ステントを第3側部S3方向から見た長手L方向の中心
θ 折れ曲がり角度
DEL 末端側環状ユニット4DEの山部Mを結んだ末端DE側の延長線
GW ガイドワイヤー
W 血管壁

図1
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