(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ブレーキディスクおよびブレーキディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20220107BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20220107BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 U
C23C4/10
(21)【出願番号】P 2020503995
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2018068912
(87)【国際公開番号】W WO2019020390
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-01-24
(31)【優先権主張番号】102017212706.6
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン クッカート
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ ポタペンコ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス プファイファー
(72)【発明者】
【氏名】カンジャン ウー
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505940(JP,A)
【文献】特開2011-031247(JP,A)
【文献】特開2008-144281(JP,A)
【文献】Giovanni Bolelli, Lutz-Michael Berger, Matteo Bonetti, Luca Lusvarghi,Comparative study of the dry sliding wear behaviour of HVOF-sprayed WC-(W,Cr)2C-Ni and WC-CoCr hardmetal coatings,Wear,NL,Elsevier,2014年01月15日,Vol. 309,96
【文献】G L HOU, Y L AN, X Q ZHAO, J CHEN, J M CHEN, H D ZHOU, G LIU,Effect of heat treatment on wear behaviour of WC-(W,Cr)2C-Ni coating,Surface Engineering,英国,Institute of Metals and the Wolfson Institute for Surface Engineering,2012年11月,Vol. 28,786
【文献】Guo-Liang Hou, Hui-Di Zhou, Yu-Long An, Guang Liu, Jian-Min Chen, Jie Chen,Microstructure and high-temperature friction and wear behavior of WC-(W,Cr)2C-Nicoating prepared by high velocity oxy-fuel spraying,Surface & Coatings Technology,NL,Elsevier,2011年10月15日,Vol. 206,82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-6/00
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・基体(201)からなる少なくとも1つの摩擦面(4)と、
・前記摩擦面(4)の少なくとも一部に施与された少なくとも1つのコーティング(203)と
を備えた、ブレーキディスク(1)において、
・前記コーティング(203)が、少なくとも
炭化タングステン(WC)30~50質量パーセント、炭化タングステン-クロム((W、Cr)
2C)
20~40質量パーセント、およびニッケルクロム(NiCr)
10~35質量パーセント、を含有することを特徴とする、ブレーキディスク(1)。
【請求項2】
前記コーティング(203)において、前記炭化タングステン-クロム((W、Cr)
2C)およびニッケルクロム(NiCr)から構成される母材相中に、前記炭化タングステン(WC)が実質的に均一に埋め込まれていることを特徴とする、請求項
1記載のブレーキディスク(1)。
【請求項3】
前記コーティング(203)が、酸化物を含有する表面層を有することを特徴とする、請求項
1記載のブレーキディスク(1)。
【請求項4】
前記表面層が、少なくとも酸化ニッケルタングステン(NiWO
4)および/または酸化クロムタングステン(CrWO
4)および/または酸化クロム(Cr
2O
3)および/または酸化タングステン(WO
3)を含有することを特徴とする、請求項
3記載のブレーキディスク(1)。
【請求項5】
請求項1記載の前記コーティングから出発する前記表面層が、ある程度のブレーキ操作後にはじめて存在することを特徴とする、請求項
3または
4記載のブレーキディスク(1)。
【請求項6】
前記コーティング(203)が、前記基体(201)に直接施与されていることを特徴とする、請求項1記載のブレーキディスク(1)。
【請求項7】
前記コーティング(203)が、少なくとも1つの中間層(202)を用いて前記基体(201)に施与されていることを特徴とする、請求項1記載のブレーキディスク(1)。
【請求項8】
前記中間層(202)が、ニッケル(Ni)を含有し、かつ/または前記基体(201)の表面の加工により実現されていることを特徴とする、請求項
7記載のブレーキディスク(1)。
【請求項9】
基体(201)からなる少なくとも1つの摩擦面と、前記摩擦面の少なくとも一部に施与された少なくとも1つのコーティング(203)とを備えたブレーキディスク(1)の製造方法において、
前記摩擦面の少なくとも一部を、少なくとも
炭化タングステン(WC)、炭化タングステン-クロム((W、Cr)
2C)およびニッケルクロム(NiCr)でコーティング
し、前記コーティング(203)が、少なくとも炭化タングステン(WC)30~50質量パーセント、炭化タングステン-クロム((W、Cr)
2
C)20~40質量パーセント、およびニッケルクロム(NiCr)10~35質量パーセント、を含有する、工程(804)を特徴とする、方法。
【請求項10】
前記コーティング(203)において、炭化タングステン-クロム((W、Cr)
2C)およびニッケルクロム(NiCr)から構成される母材相中に、前記炭化タングステン(WC)が実質的に均一に埋め込まれていることを特徴とする、請求項
9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の特徴を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクの製造方法に関する。
【0002】
ブレーキディスクは、ブレーキトルクを車両の減速時に車軸に伝達、かつブレーキ時に発生する運動エネルギーを短時間で熱の形態で蓄え(zwischenspeichern)、次に伝導、放射および対流によって再び放出する役割を担っている。
【0003】
慣例のブレーキディスクは、耐熱性のねずみ鋳鉄から製造されることが多い。耐摩耗性のブレーキディスクは、非常に高価なオールセラミックブレーキディスクを使用するか、またはねずみ鋳鉄(GG)ディスクに向かって熱溶射法、例えばHVOF法を用いて、摩耗保護層を噴射することにより製造される。そのために、高い耐摩耗性をもたらすWCベースの粉末が使用されることが多い。そのようなブレーキディスクは、独国特許出願公開第102011087136号明細書に記載されている。
【0004】
すでに述べたように、ブレーキ時には熱が発生し、熱はブレーキディスク中に蓄えられる。極端な場合、すなわちフル走行からのブレーキ時には、温度は上昇し、最大800℃まで上昇する。したがって、鋳鉄ブレーキディスクの摩耗保護層は、800℃までの高温で十分な耐摩耗性を有さなければならない。
【0005】
発明の開示
本発明は、基体からなる少なくとも1つの摩擦面を備えたブレーキディスクから出発する。その際、基体は、ねずみ鋳鉄から製造されていてもよい。摩擦面の少なくとも一部に、少なくとも1つのコーティングが施与されている。
【0006】
本発明の本質は、該コーティングが、少なくとも炭化タングステン-クロム(W、Cr)2CおよびニッケルクロムNiCrを含有することにある。
【0007】
本発明の特に有利な態様では、該コーティングが、さらに炭化タングステンWCを含有することが提供されている。
【0008】
炭化タングステン-クロム(W、Cr)2Cは、クロムが異なる量で組み込まれている炭化二タングステンW2Cである。したがって、この炭化混合物は、(W、Cr)2Cと呼称される。この相は、800℃までの高温でも、優れた耐酸化性および良好な耐摩耗性を有する。さらに、ニッケルの高温強度および高温耐酸化性は、クロムを有する合金により、大幅に上昇する。
【0009】
該コーティングにおいて、有利には、炭化タングステン-クロム(W、Cr)2CおよびニッケルクロムNiCrから構成される母材相中に、炭化タングステンWCが実質的に均一に埋め込まれている。
【0010】
約600℃のブレーキ温度から、有利には層表面に、とりわけ少なくとも酸化ニッケルタングステンNiWO4および/または酸化クロムタングステンCrWO4および/または酸化クロムCr2O3および/または酸化タングステンWO3を含有し得る、非常に薄く、緻密な酸化物層が形成される。この酸化物層の形成により、摩耗保護層のさらなる酸化プロセスは著しく減速され、これによって、高温でのコーティングの酸化および機能性の損失が非常に効果的に回避される。
【0011】
本発明によるコーティングは、基体に直接施与されていてよい。この場合、コーティングが基体の加工または改質された表面に施与されていることがとりわけ提供されている。
【0012】
しかしながら、本発明によるコーティングは、少なくとも中間層を用いて基体に施与されていてもよく、ここで、中間層は、例えばニッケルNiを含有する金属中間層であってよい。しかしながら、中間層は、基体の表面の加工により、例えば再溶融プロセスにより実現することもできる。
【0013】
本発明は、基体、とりわけねずみ鋳鉄から製造された基体からなる少なくとも1つの摩擦面と、摩擦面の少なくとも一部に施与された少なくとも1つのコーティングとを備えた、ブレーキディスクの製造にも関する。
【0014】
本発明の本質は、摩擦面の少なくとも一部を、少なくとも炭化タングステン-クロム(W、Cr)2CおよびニッケルクロムNiCrでコーティングする工程に関する。
【0015】
本発明のさらなる有利な態様は、従属請求項および実施例から読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面に基づいて説明する。
【
図1】従来技術による穿孔およびコーティングが施されたブレーキディスクを示す図。
【
図2】強度のブレーキ操作後の、本発明によりコーティングが施されたブレーキディスク断面の顕微切片を示す図。
【0017】
実施例の説明
図1に示されるブレーキディスク1は、円環状ディスク形状のブレーキリング2および該ブレーキリング2と一体化して同軸の鉢形状(napffoermig)のハブ3を有する。摩擦リング2は、実際のブレーキディスクを形成する。ブレーキディスク1は、内部通気され、そのブレーキリング2は、二重壁になっている。ブレーキリング2の外側の端面は、ブレーキディスク1の円環状ディスク形状の摩擦面4を形成する。摩擦面4は、ブレーキディスク1を摩擦により制止させるため、ブレーキ時に図示されていない摩擦ブレーキパッドが押し付けられるブレーキディスク1の表面である。ブレーキディスク1は穿孔されており、すなわち、ブレーキディスクは、ブレーキリング2を貫通する穴5を有する。ブレーキディスク1は、ねずみ鋳鉄または鋼合金からなる。
【0018】
ブレーキディスク1の摩擦面4は、耐摩耗性および耐腐食性を高める表面コーティングを備えている。表面コーティングは、例えば火炎溶射またはアーク溶射により施与されている熱粉体コーティングであってよい。摩擦面4の表面コーティングは、炭化物、とりわけ炭化金属、例えば炭化クロムまたは炭化タングステンを有することができ、これらは、母材へ、とりわけ、例えばニッケルまたはコバルトから構成される金属母材へ埋め込まれている。耐摩耗性および耐腐食性を高める摩擦面4の表面コーティングは、1つの層であっても複数の層であってもよい。
【0019】
既に述べたように、図示された実施形態による本発明の本質は、鋳鉄ブレーキディスクにおける、炭化タングステンWC、炭化タングステン-クロム(W、Cr)2Cおよびニッケル-クロムNiCrからなる摩耗保護層の使用である。(W、Cr)2Cは、クロムが異なる量で組み込まれている公知の炭化二タングステンW2Cである。したがって、この炭化混合物は、(W、Cr)2Cと呼称される。この相は、800℃までの高温でも、優れた耐酸化性および良好な耐摩耗性を有する。さらに、ニッケルの高温強度および耐酸化性は、クロムを有する合金により大幅に上昇する。
【0020】
コーティングにおいて、WCは、(W、Cr)2CおよびNiCrから構成される母材相に均一に埋め込まれている。約600℃のブレーキ温度から、層の表面では、NiWO4、CrWO4、Cr2O3またはWO3を含有し得る、非常に薄く、緻密な酸化物層が形成される。この酸化物層の形成により、摩耗保護層のさらなる酸化プロセスは著しく減速され、これによって、高温でのコーティングの酸化および機能性の損失が有意に回避される。
【0021】
図2は、800℃を超えるブレーキフェーディング試験(Bremsfadingtest)後の、WC-(W、Cr)
2C-NiCrでコーティングされた鋳鉄ブレーキディスク断面の顕微切片を示す。
【0022】
符号201は鋳鉄基体(エッチングして相変態させたもの)、符号202はニッケル中間層、符号203はWC-(W、Cr)2C-NiCr層を示す。
【0023】
摩耗保護層203の表面に形成された酸化物層は、顕微切片の写真からは観察できないほど非常に薄い。フェーディング試験後、摩耗保護層203の表面はなお滑らかで、層厚は新品の状態とほぼ同じであり、このことは、800℃を超える試験後の層がほとんど摩耗しなかったことを意味する。
【0024】
WC-(W、Cr)2C-NiCrでコーティングされた鋳鉄ブレーキディスクの一実施形態は、鋳鉄基体へ高速フレーム溶射(HVOF)を用いて摩耗保護層を直接コーティングすることである。鋳鉄基体への良好な層密着性を確保するために、鋳鉄基体の表面を、HVOFコーティング前に、例えばサンドブラストにより粗面化することができる。
【0025】
更なる実施形態は、摩耗保護層のHVOFコーティングの前に金属中間層を接着促進材として鋳鉄基体へ施与することである。このために、好ましくは、ニッケルまたはニッケル基合金を、金属中間層として使用する。
【0026】
WC-(W、Cr)2C-NiCr摩耗保護層の好ましい組成は、以下の通りである:
・WC 30~50質量パーセント、
・(W、Cr)2C 20~40質量パーセント、
・NiCr 10~35質量パーセント、
・および不純物。
【0027】
図に基づいて、本発明によるブレーキディスクの製造方法を説明する。
【0028】
(任意の)工程801では、この実施形態でねずみ鋳鉄として構成される基体を提供する。引き続き、工程802では、上述のように基体の摩擦面を加工する。
【0029】
(任意の)工程803では、基体の摩擦面を上述した中間層で覆う。
【0030】
その後、工程804では、本発明によるコーティングを施与する。